時間が巻き戻ったっぽいので今度は妹と仲良くしてみようと思う。   作:筆休め!

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前回のあらすじ!

・妹のスペックが急上昇。
・妖精王にロックオンされた。


田舎は田舎で良いものだと思う。

 二年目の高校生活も四か月程経って夏休みに突入。前回の人生で既に社会に出て働くという経験をしている俺から言わせてもらえば、こんなに長期の休みが黙っていても与えられるというのはかなり幸せな事だと言える。多くの学生はその事に気付くことなく怠惰な毎日を送っているがそれも無理の無い事だ。当たり前の事として享受しているものの有難さなど分かるはずもないのだから。

 

 そんな難しい話は一旦何処かに置いておいて。今日から世間はお盆と呼ばれる時期に入る。今日から数日の間は学生のみならず大半の大人も仕事をせずに疲れ切った心身を休める期間をもらえるのだ。帰省して実家の墓参りに行く者、友人や家族と旅行に行く者。お盆における休暇の過ごし方は様々だろう。

 

 俺の家はどうかと言えば、実家に帰省してのんびりと過ごすのが毎年の恒例行事となっていた。母方の実家は田舎という表現がぴったりと当てはまる、宮城の良く言えばのどかな、悪く言えば寂れた農村にある。前回の時は何もなくて退屈な場所ぐらいにしか思わず、正直あまり好きではなかった。そんな俺とは反対に明日奈は祖父母の家が気に入っていたようで二人が亡くなるまで毎年欠かさず訪れていた。

 

 確かに父方の実家である京都に行ってもする事と言えば親戚一同やらお偉いさんへの挨拶回りに追われるだけなので、そういった面倒な事が無いと考えると宮城の実家も悪くない。ついでに言えばじいちゃん達が作っている農作物を使ったばあちゃんの料理が美味いのは俺的にポイントが高い。ばあちゃんお手製の野菜の漬物は絶品なのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 というわけでやって参りました宮城の実家。新幹線やら電車やらバスを乗り継ぐこと数時間、ようやくたどり着いた場所で待っていたのは白色の軽自動車に乗ったじいちゃんだった。

 

「二人だけでよく来たなぁ」

 

 じいちゃんは俺達を車に乗せてからそう笑った。

 

 今回の宮城入りは俺と明日奈の二人だけ。父方の遠い親戚の訃報が届き、父さん達はこちらに来ることが出来なくなってしまい、明日奈を一人で行かせるわけにはいかないという事で俺もこちらに同行することになった。母さんも最初は明日奈が宮城の実家に行く事を渋っていたが、「浩一郎がちゃんと面倒を見てくれるのなら」という条件で許してくれた。

 

「じいちゃん、元気だった?」

 

「おう。今のところはな」

 

 今のところはーーその通りだ。じいちゃんもばあちゃんもまだ元気だが、数年後にはーーそこまで考えて俺は軽く首を振った。こればかりは俺がどうこうして変えられる、いや、変えて良い問題ではない。

 

 俺と明日奈を乗せて走る事、十分。じいちゃん達の家に着いた。着くと同時に明日奈は車から飛び出すと「おばあちゃーん!」と家の中に駆け込んでいってしまった。それを見たじいちゃんは、

 

「明日奈はおばあちゃんが大好きだもんなぁ」

 

 如何にも悲しいといった口調だったが、それでも嬉しそうに笑っている。普段会えない可愛い孫に会えて嬉しくない者などいないと思う。特に明日奈は女の子だし、年齢的にも可愛い盛りだから。

 

 俺が家に上がるとばあちゃんが出迎えてくれた。毎年変わらず笑顔で俺を迎えてくれる。俺は客間に入って部屋の真ん中に置かれたテーブルの前に腰を下ろした。

 

「遠くからよく来たね。何もないけどゆっくりしてね」

 

 この言葉も毎年変わらない。そう言いながら俺に冷たい麦茶を出してくれるのだ。それを飲むと暑さで参っていた身体が少しだけ冷たくなるのを感じる。

 

「ばあちゃん、元気だった?」

 

「今のところはねぇ。だけど何時まで元気でいられるかどうか」

 

「ずっと元気じゃなきゃダメ!」

 

 明日奈の抗議にばあちゃんだけでなく、隣にいたじいちゃんも笑った。「二人が遊びに来てくれるうちは元気でいなくちゃね」とばあちゃんは明日奈の頭を撫でた。去年は俺の膝の上に座っていた明日奈だが、今年からばあちゃんの膝の上が定位置になったようだ。別に悲しくなんてないからな本当だぞ。

 

 この家で俺がしなくてはならない事などない。両親から小言を言われる事もない。夏休みの課題もとっくに終わらせている。本当にのんびりと何もせずに過ごす。俺は部屋にあった二人掛けのソファに腰かけ、持って来た荷物から一冊の本を取り出した。

 

 それは先日、ノブさんが家に遊びに来た時に俺に手渡してくれたものだった。『プログラミングのキソのキソ~これで貴方も天才プログラマー~』と表紙に大きく書かれたその本はこれからの俺のやりたい事を助けてくれるお助けアイテムである。しかし基礎の基礎と銘打っているのに天才になれるとは如何なものなのだろうか。

 

「お兄ちゃん、こっちに来てまで何の本を読んでいるの?」

 

 本を眺めていた俺の横に座った明日奈は呆れた様子だった。

 

「ちょっと学校とは違う勉強をしようと思ってノブさんから借りたんだ」

 

「うぇ、また須郷さん」

 

「……そこまで嫌なのかよ。全く」

 

 許嫁の男の名前を聞いて露骨に嫌そうな顔をした。どうしてそこまで嫌ってるのか分からない。本人の前では猫被ろうとしているだけ最初よりマシになったのだが、ノブさんがいない場所ではこの通りである。

 

「だってあの人が来るとお兄ちゃん構ってくれないんだもん。二人でずっとお喋りしながらゲームばっかりしてさ」

 

「仕方がないだろ。俺とノブさんの話なんて難しくて明日奈が聞いてもつまらないだろうし」

 

 最近になって、ノブさんが我が家に遊びに来てくれた時に俺に対して勉強を教えてくれている。受験勉強から専門的なプログラミングの事まで。少しナルシストっぽい所が欠点と言えば欠点だけど、やっぱりあの人は間違いなく天才だ。教え方も非常に上手いし俺としては非常に助かっている。

 

「……私だってもう少し大きくなったらお兄ちゃんや須郷さんに負けないんだから」

 

 不貞腐れる明日奈の頭を少しだけ強め力で撫で回してやった。最近になってやたらと背伸びしたがるが、こういった時はまだまだ子供だなと思う。実際まだ子供なんだけどさ、小二だし。不機嫌そうにしていてもこうやって撫でてやれば、あら不思議。あっという間に気持ちよさそうに目を細めてくれます。ウチの妹、猫みたいだな……

 

 最近、明日奈をなでなでしていなかったので久しぶりのこの感じを堪能していると、生温かい視線に気がついた。

 

「ふふ、明日奈ちゃんは相変わらずお兄ちゃんが大好きなのねぇ」

 

「なっ」

 

「俺達ほど仲良しな兄妹はそういないよ」

 

「ちがっ、違うからねおばあちゃん。これは、その、お兄ちゃんが無理矢理」

 

 その言い方は盛大に誤解を招きそうだから止めなさい。通報されたらどうするんだ。ばあちゃんに必死に説明しようとしている明日奈を俺は微笑ましく思った。恥ずかしいのか、余りに必死な様子なので仕方なくなでなでから解放してやると、素早く俺の元を離れていった。そしてばあちゃんと、少し離れた所で新聞を広げていたじいちゃん相手に説明し始める。二人は、何もかも分かっていますよ、と言わんばかりの笑顔でうんうんと頷いていた。

 

 俺はそんな光景をソファに座って見ていた。前回の時では考えられない穏やかな時間が流れている。こんな気持ちで、明日奈と祖父母の会話を眺める事になるなんて。

 

「お兄ちゃんもいつまでもニヤニヤしないで」

 

 おっと、自分でも気づかないうちに頬が緩んでいたようだ。そんな俺が気に入らないのか、明日奈は再び不機嫌そうにこちらを見ている。所謂、ジト目という奴だ。軽い謝罪を入れて、俺は再び手に持っていた本に視線を戻す。

 

 俺の表情が変わった事を認めた明日奈はじいちゃんの手元にあった新聞を覗き込んでいた。何かあの子の興味を惹く記事でも書いてあれば良いんだが。あの子の年齢的にまだ新聞は早い気がしたが、新聞を読み、世間の情勢を知るのは良い事なので何も口を出さない。明日奈はハイスペックだしな、新聞くらいもう既に読めるのかもしれない。

 

 俺は明日奈の面倒をじいちゃんに任せ、夕食の時間までのんびり勉強でもしていようと読書に集中する事にした。

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

「そろそろ晩ご飯でも作ろうかね」

 

 よっこいしょ、と立ち上がったおばあちゃんを見て私は新聞から顔を上げた。最近、家族の真似をして読み始めた新聞。大人はどうしてこんな読みづらいものを読んでいるのか、今の私にはまだ理解しきれていない。ただ難しい漢字を覚えるという意味では役に立っていると思う。逆に言えばその程度の役にしか立っていないのだけど。私には新聞に書かれている『しゃかいじょーせー』というものがイマイチ理解しきれないのだ。

 

 おばあちゃんが台所に入っていたのを見届け、私は椅子に座って本を読んでいるお兄ちゃんへと目を向けた。読んでいる本は少し前に私の(甚だ遺憾ではあるけれど)婚約者である須郷さんから渡されていたものらしい。私は須郷さんの事がどうしても好きになれないのだが、お兄ちゃんは彼と良好な関係を築いているようだった。まるで私と須郷さんの仲を取り持つように。

 

 お兄ちゃんは成績優秀、容姿端麗、普段は物静かだし、加えて人懐っこい性格をしているので親戚からの評価も上々、文字通り完璧な長男として結城家の期待を一身に集めている。でもお父さん達はゲームに熱中し過ぎている事に少し頭を抱えているみたい。ゲームくらい好きにさせてあげたらいいのに。

 

 ゲーム好きの延長なのか、最近は自分でゲームを創り上げる事に興味を持ち始めたらしく、学校や受験の勉強と並行してゲーム制作の知識も学んでいるらしい。だからお兄ちゃんと須郷さんとの会話の内容は私には少し難しい。専門用語ばかりが飛び交う会話でも二人は非常に楽しいようで、よく盛り上がっている。ちなみにあの瞬間は私は疎外感に苛まれるので面白くない。率直に言ってしまえば、お兄ちゃんと須郷さんが楽しそうに話をしているのが気に食わない。

 

 そんな私にも分かる事と言えば、どうやらお兄ちゃん外国の神話をベースとした新たなゲームを創り出したいという事だ。てっきり私は昔よく聞かせてくれていた、『鋼鉄の城での剣士達の冒険』のゲームを創ろうとしていると思ったのだが、違った。

 

 何でも、須郷さん曰く、「実際に空を飛ぶ感覚を味わう事のできるVRゲーム」らしい。そのゲームの世界観はお兄ちゃんの物語ではなく、世界の神話とか物語をベースとしたものにするらしい。お兄ちゃんの物語が大好きな私としては少しだけショックだった。普段はゲームという娯楽にさほど興味がない私でも、是非ともやってみたいと思えるくらいにはその物語が好きだった。

 

 私はその物語に登場する『閃光』と呼ばれる女の子に憧れた。

 

 心身共に強く、決して退かず戦い続け、冒険の最後には真っ黒な英雄と結ばれる彼女に私は憧れたのだ。そしてその様になりたいと心から思った。

 

 そういった意味でも私は兄という人間に憧れているのかもしれない。勿論、『閃光』と性別は違うけど。お兄ちゃんは何でもできるし、いつも私達家族や他人の事を思いやって行動してくれている。どんな事も決して投げ出そうとしない。それは心身共に強く、決して逃げないと言えるのではないか。須郷さんと私の関係を懸命に繋ぎ止めようとしているのがその最たる例だろう。

 

 おかげで私は最初の頃よりは須郷さんが苦手ではなくなった。いや、最初の頃よりも須郷さんの雰囲気が変わった気がするのだ。何というか、柔らかくなったって言うのかな。未だにお兄さんを独り占めしようとするのは気に食わないけれどね。

 

 いつか私にも好きな人ができたりするのかな? 親が決めた婚約者がいても、私にはまだ他人を好きになるっていうのは良く分からない。前はお兄ちゃんと結婚したいって思ってたけど、お父さんに「兄妹で結婚はできない」って言われちゃったし……別に悲しくなんてないから。ほんとよ?

 

「? どうした明日奈。そんな難しい顔をして」

 

 そんな事を考えていたからか、お兄ちゃんが不意に本から顔を上げた時に目が合ってしまった。

 

「べ、別に何でもないよ!」

 

 咄嗟にそう答えると、そうか? と言って再び視線を本に戻してしまった。こういう時に、もう少しだけ構ってくれてもいいのに、と思う私はまだまだ子供なんだろうな。

 

 でも今日くらいは良いよね。邪魔者(須郷さん)もいないし、少しくらいはお兄ちゃんを一人占めしたっていいはず。

 

 この後、ご飯を食べて沢山お喋りして、おばあちゃんと一緒にお風呂に入ってのんびりしよう。

 

 ああ、そうだ。久しぶりにお兄ちゃんと一緒に寝たいなぁ。最近、どうしてかは分からないけどお兄ちゃんからは誘ってくれなくなった。もしかして、私と一緒に寝るのが嫌なのかな……?

 

 その事を聞こうと思ったらおばあちゃんに、ご飯が出来たから机に並べて欲しいって言われた。言われた通りに並べて、四人でご飯を食べ始めた。

 

「ばあちゃんの飯は良いな。なんて言うか、落ち着く」

 

 お味噌汁を飲みながらお兄ちゃんがそう言った。私もそれには同意見だった。

 

「そうかい? そう言ってもらえたら作った甲斐もあるってものだねぇ」

 

「明日奈も、美味しいかい?」

 

 おじいちゃんに聞かれて、私は頷く。

 

「うん。すっごく美味しいよ。ほんと、あったかい」

 

「ふふ、それは良かったわ……そうだ、明日奈ちゃんのお布団はお兄ちゃんと一緒でいいのかしら」

 

 私が答えるよりも早く「え」と声を出したのは勿論、お兄ちゃん。

 

「いや、流石にそろそろ別にーー」

 

「一緒で良いよ」

 

「え?」

 

「なに? 問題でもあるの?」

 

「問題と言うかな、明日奈。お兄ちゃんとしては嬉しいんだが」

 

「だったら良いじゃない。それともお兄ちゃん、本当は私と一緒になるのが嫌なの?」

 

「……明日奈が良いんだったら良いんだけどさ」

 

 と、言う事で無事にお兄ちゃんと一緒に寝る権利を得た。おじいちゃんに「明日奈は将来、男を尻に敷いてそうだな」と言って笑われたのが気になったけど。どういう意味なんだろう?

 

 そうだ! 今日はいつもより少しだけ夜更かししちゃおうかな。せっかく一緒に寝るんだし、沢山お話したいし。こういう時は、えっと何て言うんだっけ?

 

 お父さんの書斎にあった本の……そうそう、確か。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ん、どうした?」

 

「えっと、今夜は寝かせないから!」

 

 言った瞬間、おじいちゃんとお兄さんがほとんど同時に、ぶっ! と噴き出した。おばあちゃんも驚いているようで目を大きく開けていた。けど、おじいちゃんとおばあちゃんはすぐに笑いだして、お兄ちゃんは困ったように額に手を当てていた……あれ、何か間違ったかな?

 

 皆の反応の意味が分からなかったので、私は首を傾げるだけだった。

 

 

 

 




人物紹介

浩一郎…今回は何もない田舎でのんびりライフを堪能。そろそろ妹と一緒に寝るのを止めなければと思っているが行動に移せていない。なお、彼は妹と一緒に寝る時は彼女を抱き枕にしている模様。圧倒的ギルティ。

明日奈…相変わらずお兄ちゃん大好きだが、その事を他人に指摘されると恥ずかしがる。愛とか恋とかに興味津々なお年頃。

須郷…愛すべき婚約者に目の敵にされている悲劇の妖精王。しかし主人公を独り占めしようとしてるから仕方ないね。

結城父…今回の戦犯。娘に兄妹で結婚できないという現実を突きつけた。明日奈に余計な知識を植え付けているのは大体この人の持っている本か妖精王である。
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