時間が巻き戻ったっぽいので今度は妹と仲良くしてみようと思う。   作:筆休め!

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本当にお久しぶりです。
前回は修正前のものを間違って投稿して皆さんを混乱させて申し訳ありませんでした。
ハスター様に誓ってエンドレスエイトでは無いです。

今回はちょっと、というかかなり難産でした。内容が内容だけに専門用語やら何やらを調べるのに疲れました。間違っていたらごめんなさい。他にも色々ありましたが、言い訳はこれぐらいにしておきます。


前回のおさらい!


・作者のミスで誤投稿
・妹がモテモテ
・妹と許嫁がちょっとだけ仲良くなった(作者比)






無知を恥じず、未知を恐れず

 結果から言って、俺は東都工業大学に合格した。担任から聞いた話によれば、ウチの高校から現役で東都工業大学に合格したのは歴代で三人目らしい。ここ何年も現役合格は出ていなかったと熱く語っていたので余程、自身の受け持っていた生徒が難関校に合格した事が誇らしかったのだろう。父もそんな俺を褒めてくれたし、母も珍しく喜んでくれていた。

 

 しばらくの間、俺の合格の為に勉強を教えてくれたノブさんや神代さんには頭が上がりそうにない。自分達の研究で忙しいだろうに進んで俺の勉強を見てくれていた。二人に合格の報告をした時には凄く喜んでくれた。

 

『是非ウチの研究室へ』

 

 二人はそう言ってくれたし、俺としてもそれはありがたい話ではあるのだがそんな事可能なのだろうか? 俺はまだまだ知識不足であるし、何より二人の所属している研究室……重村ゼミは東都工業大学でもハイレベルな人間が集まる場所であり、それに比例して人気も高い。毎年の募集人員に対して応募人数は異常な程に多く、この研究室目当てでこの大学を目指す人間もいるくらいなのだ。

 

 そんな所に俺の様な人間が入ってもいいのか、その疑問にノブさんは呆れた様子で答えた。

 

「他の有象無象などどうでもいい。僕には君が必要だし、逆もまた然り。そうだろう?」

 

 確かに俺の目的の為には手段を選んでなどいられない。そんな事は分かっているがノブさんの他人を見下すような言い方はどうにも気に食わなかった。

 

 しかし俺の目的、茅場晶彦に近づく為にこれ以上の手段が思いつかない俺はその提案を断る事などできなかった。俺は渋々と頷いたのだった。

 

 それからは入学式、講義のオリエンテーション等々あったが特別な事はなかったので割愛する。これらを終えた感想はと言えば、思ったよりも自由に講義を取れないんだなぁ、ぐらいだった。

 

 閑話休題。

 

 研究室に所属できるようになるのは後期からだったのでしばらくは退屈だろう。普通の大学生らしく過ごすのだ。今まで勉強尽くしで脳が疲れていたから丁度良い休憩になるだろう。

 

……そんな風に考えていた時期が俺にもありました。

 

「どうだい、浩一郎君。我が研究室は」

 

「……は、はは。良いんですかね。俺なんかがこんな場所にいても」

 

「今の時間は講義も特別な用事もなかったんだろう? なら、何の問題もないよ」

 

 まさか入学して一か月弱で目的の研究室に連れ込まれるとは予想していなかった。ついでに言わせてもらうと、ここはアンタの研究室じゃないでしょうに。

 

「須郷君、ここは貴方の研究室じゃないでしょう? そんな言い方をしていたらまた重村教授が怒るわよ」

 

 ノブさんを窘めているのは当然だが神代さん。この人も俺をこの場所に連れ込んだ元凶の一人であるから、彼女の素敵な微笑みでは誤魔化されてはいけない。

 

 研究室を見回すと、よく分からない機材やら本やらが山積みされている。研究室にいる学生達はそれらを使って理解不能なディスカッションを行っている。

 

 ――この研究室は率直に言って魔窟だった。

 

 現在、俺の笑顔が引き攣ってしまっているのも無理はないだろう。いきなりラスボスの御膝元と言っても良い場所に連れてこられてしまったのだから。

 

 学生諸君(魔王の手下)、幹部(ノブさん+神代さん+重村教授)、そしてここにはいないが言わずもがなラスボスである魔王、茅場晶彦。全部含めて怪物だった。率直に言って貴方達、頭良すぎです。凡人の俺にはとてもついていけません。

 

「……なーんて、弱音吐いてる場合じゃないよな」

 

 せっかくショートカットしてラスボスの城まで辿り着いたのだ。弱腰になっている場合じゃない。ここまでは俺の計画通り、順調に進んでいる事を喜ぶべきなのだ。

 

 茅場に取り入る為に俺はこの魔窟で存在価値を示さなければならない。

 

 無知は恥ではない。知ろうとしない事が恥なのだ。知らない事はこれから学んでいけばいいだけの話。

 

「これから忙しくなりますね。ここで学べる事は多そうだ」

 

「僕らの目的の為にも休んでいる暇はないって事さ」

 

「目的? 何の話?」

 

「男同士の内緒の話です。なぁ、浩一郎君?」

 

「男の子って分からないわ……」

 

ノブさんはいつも簡単に言ってくれるよな。俺は彼の言葉に短く、そうですね、と苦笑を返す事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 入学してからしばらく経ち、高校生の時と比べて変化した生活リズムにかなり慣れてきた。そんな時に俺は倉橋先生に呼び出されて、彼が務めている横浜港北総合病院を訪れていた。

 

 この病院は現在唯一、ウチの大学と共同でメディキュボイドの研究と実験が行われている場所でもある。

 

「あら、結城君。今日もお勉強? 若いのに熱心ね~」

 

「ええ、まあそんな所です。ここで学べることは多いですから」

 

「やぁ結城君。今日もご苦労様」

 

「こんにちは。先生もお疲れ様です」

 

「おい坊主! この前の借りを返してやるからちょっと面貸せや!」

 

「おじさん、そんなに大声出してたらまた花札の時みたいに婦長さんに怒られちゃいますよ」

 

「頑張れよ未来のブラックジャック!」

 

「その人の様になったら俺の未来は闇医者ですけどね」

 

 道行く看護師、医者、果ては患者までも俺に挨拶をしてくれる。勿論、俺も笑顔でそれに対応する。俺もそれなり、というか、最近はかなりの頻度でここに足を運んでいるので病院にいる人達とすっかり顔馴染みになっている。少なくない人数が俺の事を医者の卵だと思っているが、俺の将来は大企業のサラリーマン(予定)だ。生憎、俺には医者になれる程の頭脳はない。

 

「そんな事はないと思いますよ。浩一郎君なら立派な医師になれる。大事なのは知識ではなく気持ちですから。もっとも、難関と呼ばれる大学に現役合格してしまうのですから勉強の心配もいらないでしょう」

 

 私なんて医学部に合格するのに浪人生活を送ってしまいましたから、と言って優しく笑っているのが俺を呼び出した倉橋先生である。

 

 この人も俺に医学の道を勧めてくるが、彼の場合はVR技術を用いた治療法に理解のある同業者が欲しい故のものだろう。俺にそんな気概も熱意もないというのに。自分の周りの事だけで精一杯の俺には向いていない職業であるのは確定的に明らか。

 

「そんなに俺を持ち上げても何も出せませんよ。そもそも、先生も神代さんも俺を何だと思っているんですか。ただのしがない大学生ですよ?」

 

「ただのしがない大学生があれほどに洗練されたメディキュボイドの理論設計はできないと思うんですけどね」

 

 それを持ち出してしまわれれば何も言い返せない。

 

 まさか馬鹿正直に「前回の人生で得た知識と記憶をフル活用しました」なんて言えるはずもなく。言った所で荒唐無稽な与太話だと一蹴されるだけだろうが。違う意味でこの病院のお世話になってしまうまである。俺は笑って誤魔化す事しかできなかった。

 

「それはそうとですね。今日は一体何の話でしょうか。メディキュボイドに関しての相談でしたら俺よりも神代さんに相談した方が早いんじゃ?」

 

「そうなんですが、今回に関しては神代さんにお願いするよりも結城君の方が適任だと思ったんです」

 

 そう言って倉橋先生は姿勢を正した。神代さんではなく俺に対してのお願いという事は、知識や技術といった専門的なものではないと推測できた。

 

「メディキュボイドの臨床試験を実地していく上で、被験者となる本人やご家族からの許可も頂かないといけないのですが、それよりも大きな問題は試験期間中及び治療期間中の患者の生活の質の確保……QOLの確保が問題なのです」

 

 QOL、とはquality of life の略で簡単に言えば人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、幸福を感じられているのか、という事を尺度として捉える概念である。

 

「VR技術は研究に携わっている私でも驚いてしまう様なスピードで進化しています。近い将来、現実と遜色ない仮想空間も完成するでしょう。しかしです。現在の仮想空間の完成度では治療を受けている患者が自分らしい生活を送る事は到底できない。こんな状態では臨床試験に協力してくださいとお願いする事もできないのが現状です」

 

 そうなのだ。まだ仮想空間は前回の俺が生きていた時代の様な完成度ではない。重力を始めとした現実の物理法則を再現できていないのだ。ノブさん達研究者の苦労話は聞いているだけでもこちらが参ってしまうくらいには大変そうである。

 

 実は俺も一度だけ仮想空間にダイブさせてもらった事があるのだが……あれは酷いものだった。とてもじゃないが人間が過ごして耐えられる様な環境ではない。ちなみに既に前回の人生でフルダイブ経験がある俺からすれば、最初の仮想空間というのはこういうものだったのか、という何の生産性もない謎の感動が生まれたわけだが。

 

「医療器具へのVR技術の応用はまだまだですからね。今のメディキュボイドは使用している患者の意識を遮断し、意識だけしか抽出できませんし」

 

「以前までと比較すれば充分過ぎるほどに進化してはいるのです。ただ今のままでは麻酔等を用いた手術と大差ないと言いますか……薬品をそれほど使わない分、患者の負担は少なく済むのは間違いない。しかしもっと重症の患者の治療を想定したものがコードネーム、メディキュボイド……結城君と神代さんが考案したものにはまだまだ追いついていない」

 

「メディキュボイドの最終的なゴールは患者の治療ではなくて終末医療、ターミナルケアの充実。仮想空間が完成しない事にはどうしようもないですもんね」

 

「辛い治療で傷ついた患者の心のケアはカウンセラーだけでは足りないのです。特に幼い患者は好奇心の強い子も多く、話を聞くだけでは……」

 

 確かに言われてみたら患者が話をするだけで満足するとは思えない。如何にプロのカウンセラーだとしても話だけでは効果が薄そうだな、と素人なりに考えていた。

 

「そうです、結城君。そこで提案なのですが」

 

「提案、ですか?」

 

 なるほど、これが本題というわけか。随分遠回りしたように思えるが一体何の話なのだろうか?

 

「結城君、私が担当している患者さんのカウンセリングをやってみませんか?」

 

「……はい?」

 

 俺の聞き間違いだろうか。何故、俺が患者のカウンセリングをするという話になっているんだ? 俺は前回の時を含めてもカウンセリングをやった経験なんてないぞ?

 

 俺の困惑を読み取ったのか、倉橋先生は表情を柔らかくして言った。

 

「カウンセリング、と言うのは名目だけですよ。君にやって欲しいのは患者との他愛無い会話……雑談です。神代さんから聞いた話なのですが、君達が所属している研究室ではVR、AR技術だけでなくメンタルヘルスケア用のAIプログラムの研究もしているそうですね」

 

 実は俺まだその研究室には所属してないんです。神代さんが勝手に言っているだけです、とか言ったら話が進まなそうなのでいつも通り笑顔で誤魔化しておく。笑って言葉を濁しておけば意外とこの辺りは何とかなってしまうものだ。

 

「将来、メディキュボイドが完成した折には必ずメンタルヘルスプログラムが必要になる。神代さんもそう言っていましたし、その意見には私も同意です。患者の数よりもカウンセラーの数が足りなくなることが容易に想定できます。勿論、プログラムにばかり任せておいていい問題でないのは分かっていますが、実現できれば終末医療の発展に貢献できる存在であるとも考えています」

 

「それは理解できますけど……それと俺がカウンセリングをやる事と何の関係があるんですか?」

 

「何でも神代さんの後輩で名前は確か……須郷君、だったかな? 彼が少し前に来て話をしてくれまして。患者がメディキュボイドを使った状態で会話をしている時のデータを収集したいので協力して欲しいとお願いされたんです」

 

「……ちょっとその須郷先輩に確認を取りたいので電話してきても良いですか?」

 

「構いませんよ。改めて須郷君によろしくお願いします」

 

 倉橋先生の許可を頂いたので一旦席を立つ。通話しても問題にならない場所に移動してから、俺に無断で話を進めていた事に文句を言う為に携帯電話を取り出した。

 

 ――閑話休題(会話のドッジボール中)

 

 電話を終えて倉橋先生のいる部屋へと戻って来た。

 

「すみません。お待たせしました」

 

 ちなみに電話をかけた相手であるノブさんの第一声は『驚いただろう?』だった。何の反省もしていないようなので次に会う時にはお仕置きの一つでもくれてやらねばなるまい。

 

「しかし神代さんといい、須郷君といい、そして結城君もですが君達が所属している研究室には真面目で熱意のある有望な若者が沢山集まっているみたいですね」

 

 笑顔でそう言ってくれる先生には悪いが、騙されている。神代さんはともかく、ノブさんに関しては真面目でも何でもない。熱意ではなく野心と言い換えた方がしっくりくる気がする。

 

「それで、どうでしょう。結城君にも自身の研究や用事もあるでしょうから無理をしない範囲で構いません。私達の研究を手伝ってもらえないでしょうか」

 

 ふむ、と。自分の中で結論は既に出ているが少しだけ思考する。正直に言って、あまり自信がない。カウンセリングどころか俺は他人と話すのがそれほど得意ではないのだ。そういった意味で、この話は俺に向いているとは言えないだろう。

 

「カウンセリングとかメンタルヘルスプログラムだとか難しく言ってしまっていますが、言ってしまえば私の担当している患者さんの話し相手になって欲しいのです。その患者さんは少々特別な事情がありまして……私も医者の端くれとして特定の患者さんへの感情移入は褒められたものでないことは自覚しているのですが、少しでも彼女達(・・・)の力になってあげたいと思っているんです」

 

 少しだけ表情を暗くして先生はそう言った。まるで自分の無力を呪っている様な。そんな顔をしていた。

 

 それを見て、俺は先生の提案に乗ることを決めた。

 

「分かりました」

 

「本当ですか!」

 

「はい。俺がお喋りする事で先生達の研究が進むと言うのでしたらいくらでも協力しますよ」

 

 いつも通りの笑顔で俺は先生に応える。

 

 時間が巻き戻ってから、些細な事で悩むようになってしまった気がする。下手に未来を知ってしまっているからだろうか。未知に挑む事を恐れてしまっている。悩んでいる時間など俺にはないというのに。

 

 最悪の未来(SAO事件)を回避する為に、俺には立ち止まっている暇も、悩んでいる時間もないのだから。

 

「ありがとうございます……最近、その患者さんは辛い事が続いていまして。結城君との会話で少しでもリフレッシュできるといいのですが」

 

「先生、ちなみにどういった病気、もしくは怪我をされている方なんですか?」

 

 それを知らない事には患者と会話などできないだろう。症状が重い場合は言葉や話題も慎重に選ばなければならないしな。最も、医学に関して全くの素人である俺にそんな重症の患者が割り当てられるとは思わないが、一応聞いておくことにしたのだ。

 

 ――そんな風に思っていた俺に、先生が告げたものは予想の斜め上どころではないもので。

 

「……実は、その患者さん達の病気は後天性免疫不全症候群、所謂AIDSです」

 

 正確にはまだ潜伏期間ですのでHIVキャリアですね、と先生は補足したが、その病名を聞いた俺が絶句して間抜けにも口を大きく開けてしまったのも悪くないと思う。

 

 AIDSと言えば、前回の時に明日奈の友人の命を奪った病気である。その友人をどうにか出来たらいいな、とは考えてはいたがまさか俺がその病気と直接関わる事になるとは想像もしていなかった……今更ではあるが、いよいよ俺の巻き戻り人生に神様か何かの意図を感じてきたな、なんて思いながら俺は内心で頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

 

 少し前にボク達のお父さんとお母さんが死んだ。

 

 いつかやってくる事だとは分かっていたけれど。まさかこんなにも突然に、しかも二人同時になんてあんまりじゃないだろうか。

 

 家族全員が抱えていた爆弾が、二人の分がまとめて爆発してしまった。それだけの話だ。突然過ぎて、学校で二人が倒れたと聞いたボクは呆然としてしまった。しばらくは泣くこともなかった。大好きなお父さんとお母さんがいなくなってしまったいうのに。

 

 この爆弾を抱えて生まれてからこうして大事に育ててもらったはずなのに、いつの間にか随分と冷たい人間になってしまっていたみたいだ。

 

 二人が死んで、残されたのはボクとねーちゃんのたった二人。お金は二人が遺してくれたものがそれなりにあるけれど、まだ九歳になったばかりのボク達に生活能力が足りない事は明らかだった。

 

 親戚の大人達は同情しているフリをして、二人の遺産を狙って近づいて来た。勿論、ボクもねーちゃんもそれを良しとせず全て突っぱねたけれど。

 

 今は親戚の一人がボクらが住んでいる家を譲れと言ってきている。何やら家を潰してコンビニにしたいらしい。『この家を取り上げられたらボクらは何処に住めばいいんですか』と言ったらそれきり煩くは言ってこなくなった。

 

 施設に入れてもらおうにもこんな爆弾を抱えているボクとねーちゃんを受け入れてくれる場所なんてあるはずがない。親戚にも頼れる人など存在しない。

 

 更に悪い事は続いた。学校を含めた周囲の人間にボク達がHIVキャリアだと知られてしまったのだ。両親が二人共ほとんど同時に倒れて、そのまま死んでしまったのだ。そこから知られてしまうのも無理もない。

 

 そこから辛い時間が続いた。友達だった人から心無い言葉をぶつけられ、それを以前は親切だった先生達は知らないフリをする。ボクはねーちゃんとお世話になっているお医者さんの倉橋先生と相談して学校に行くのをやめた。学校でもボク達の扱いに困り果てていたようだし潮時だった。

 

 倉橋先生は周りの態度の急変に怒ってくれたけど、ボクは無理も無い事だと思った。誰だって自分が感染するのは怖いだろうし、どんな親だって他人の子供より自分の子供の方が大切に決まっている。それが理解できたからボクはその人達を恨んだりはしなかった。

 

 ひょっとしたら怒りよりも悲しさ、そして寂しさの方が大きかったからかもしれない。

 

 もうボクと関わってくれるのはねーちゃんと、倉橋先生を含めた病院の親切な人達しかいない。死ぬ為に生まれてきたボクと家族以外の人が関わってくれる。力になってくれる。

 

 それはとても嬉しい事だけど、とても寂しい事でもあった。

 

 現在は定期的に病院に通い検査を受けて薬を貰って、家では通信で学校の授業を受け、ねーちゃんと協力して家事をこなしていく日々を送っている。

 

 今はまだ、ねーちゃんが傍にいてくれている。だからこうして依然と同じく元気に振舞えている。だけど、もしねーちゃんがボクより先に逝ってしまったら? ボクはこのままでいられるだろうか? 正直、あまり自信がなかった。

 

 だから、二人が死んでしまったあの日から、ボクはいつも願っている。

 

 ――どうか、ねーちゃんより先にボクが死んでしまいますようにーー

 

 最低過ぎる願いだとは理解している。残されるねーちゃんの気持ちなんて何一つ考えていない。余りにも最低な祈りだ。言ったらねーちゃんが本気で怒るし泣くだろうから絶対に言わないけどね。それでもボクは、ねーちゃんには一秒でも長く生きていて欲しいのだ。

 

 変わらない、いつの間にか色褪せてしまった日々を過ごしていたある日。いつも通り検査と薬を貰いに病院に行った時。倉橋先生がボク達に実験に協力して欲しいと頼んできた。

 

 何でも、新しい医療器具の開発の為にデータが欲しいとのこと。実験と言ってもしばらくの間、ボク達はその機械を使ってお喋りをしていればそれで良いらしい。そんなことで新しいものが作れるのかと不思議に思ったけど、先生がそう言うんだからそうなのだろう。

 

 それぐらいの事なら出来そうだったので実験を受ける事にした。これで少しでもお世話になっている倉橋先生達に恩返しできればと思ったし、何より久しぶりにいつもと違う人と話がしてみたいと思ったから。

 

 案内された部屋にはカプセルの様な機械が置かれていて、そこに横になって頭にヘルメットの様なものを被らされた。何でも意識だけを抽出して、仮想空間? とかで会話した時の脳波のデータが欲しいと先生は言っていたけど、話が難しすぎて詳しい事は理解できなかった。ねーちゃんにこっそりと聞いたら同じく分かっていなかったみたいで少しだけ安心した。

 

 準備が完了して少しして先生から合図が出た。仮想空間というものがどんなものなのか、久し振りに少しだけドキドキするのが分かった。

 

 ――気づいたら真っ暗な空間にボクはいた。

 

 立っているのかも浮いているのかも分からない。視覚もまるで目隠しされているかのようで役に立ちそうにない。

 

 ここが仮想空間というものなのだろうか? 不安になったボクはねーちゃんを呼んだ。少し離れた辺りから声が聞こえたのでとりあえずは安心した。どうやら音は聞こえるらしい。

 

 辺りを見回して何とか少しでも情報を得ようとしたボクの耳に知らない人の声が聞こえた。

 

『何度来ても酷い場所だ。早くノブさん達もっとマシなものにしてくれないかなぁ……』

 

 若そうな男の人の声だった。声の感じから落ち着きのある優しい男の人をイメージした。

 

『えっと、あの』

 

『ああ、待たせちゃったかな? ごめんね、こんな場所に来てもらっちゃって』

 

 やっぱりこの人がボク達とお喋りしてくれる人なんだ。お父さんと倉橋先生以外の男の人とお喋りなんてしたことがないので少しだけ緊張したけど、ねーちゃんが挨拶したのが聞こえて我に返って、頑張っていつも通り明るい声で挨拶した。

 

『初めまして、紺野木綿季です! 今日はよろしくお願いします!』

 

『お、キミは元気一杯だね。やっぱり子供はこうでなくっちゃ。こちらこそ今日からしばらくの間、よろしくお願いします……なんて、固い挨拶はこの辺りにしておいて、そうだね。まずはキミ達の事を簡単に教えてもらえないかな』

 

『それは良いんだけどさ。ボク達、お兄さんの名前まだ聞いてないよ?』

 

 横からねーちゃんが、敬語を使いなさい、と言ってきたけどボクは敬語が苦手だし、無理に使おうとすると変になっちゃうから嫌なんだよね。でも確かに言われてみたら年上の人だろうし敬語使わないといけないよね……

 

『おっと、ごめんよ。俺とした事が少しだけ緊張しているみたいだ。それから別に敬語じゃなくてもいいからね。二人共、俺の事は友達だと思ってくれると嬉しいかな』

 

 ボクはこの時、この研究が少しでも誰かの役に立つものになればいいなって、そう思っていた。思い返せば生きる事に疲れていたと言えるのかもしれない。死ぬ為に生まれたボクが、生まれた意味なんてないんだと思っていたんだ。

 

『俺の名前は結城浩一郎』

 

 それは近い将来、ボクの親友になってくれる人のお兄さんで。

 

『これから一緒に色んなことを勉強していこうね』

 

 死ぬ為に生まれてきたなんて思っていたどうしようもないボクに、生まれてきた意味を教えてくれて、生きることの価値も与えてくれた人の名前だった。

 

 

 

 

 

 




人物紹介

・浩一郎…無事に念願の大学に合格し、一人暮らしを開始する予定だったが最愛の妹の泣き落としに負けて実家から通う事にしたシスコン系主人公。コミュ障と言う程ではないが自分からあまり話を振ったりすることがない(妹、妖精王は除く)所謂聞き上手的なサムシング。この話の後、妖精王とたっぷりOHANASIした。作者が我慢できずにこんな早い段階で絶剣のあの子と出会う事に。

・須郷…魔王さんがアーガスでお仕事をしていて研究室に不在なことが多いのを良い事に、自分の城だと言い張る小物な妖精王。だがそこがみんなに愛される理由。

・木綿季…ついに出番が来た絶剣のあの子。作者の思い付きで出番が早まったので両親の退場も早まってしまった悲劇のヒロイン。

・藍子…この世界線ではまだ生きている。優しい世界。このまま成長すれば圧倒的バブみを備えたお姉ちゃんになる。

・紺野家の父母…同時に退場とか無理があるって? 言わないでくれ、その攻撃は俺に効く(こちらの世界の言葉ですみませんの意)

・「一緒に色んなことを勉強していこうね(意味深)」…当然だが深い意味はない。本当です。サクシャウソツカナイ。

※感想、ご指摘ありがとうございます。なかなかお返事はできませんが全てに目を通しているつもりです。こんな不定期すぎる作品を楽しんでくださる方が多くてとても嬉しいです。
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