新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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SSに限らず、執筆系は書き続けるのが大変ですね(´・ω・`)


第四十話:試練

 現在:黒の駅【第八エリア】

 

 次のフロアも今までと同じ光景。

――だったのだが、美鶴達は……否、女子メンバーは目の前の光景に絶句し、白目を向いていた。

 辛い現実はと言ったが、流石にこんなのはありなのかと誰もが思う。

 なぜならば、目の前にいるのは……。

 

『覚悟を示せ……!』

 

 立派な“マーラ様”だからだ。

 あまりにも衝撃的過ぎる姿。それには順平すら口を抑え、どうにか言葉を探そうとするほど。

 

「あ、あ、あれって……おいあれって何? ナニか! ナニじゃないか!? 良いのかあれ!?」

 

「落ち着け……気持ちは分かるが落ち着け」

 

 明彦が冷静になるように呼び掛けるが、流石の明彦も美鶴達に言葉は掛けられない。

 あんな形の存在を見たのだ。我に返れば即処刑を行おうとするだろう。

 少なくとも、第一声は予想できていた。

 

『きゃあぁぁぁぁ!!』

 

 女性特有の叫び声がフロアに木霊する。

 我に返った者達の叫びであり、悠と明彦達は何とも言えない感情に包まれていると美鶴達はそれぞれの叫びを響かせた。

 

「しょ、処刑……処刑だ……処刑する!!!」

 

「何なのよぉ!! あのシャドウ!!?」

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「……興味深いです」

 

「……焼いてみない?」

 

 美鶴とゆかりは羞恥全開で怒り、風花が両手で顔を塞いで直視も出来ず、アイギスはどこか興味深そうに観察し、チドリはペルソナで今にも焼きそうだ。

 だがマーラ様はそんな反応に対し、特に動きもなかった。それどころか最初通りの言葉を言い続ける。

 

『覚悟を示せ……!』

 

「なあ、さっきからアレってどうなんだ?」

 

 マーラ様の言葉の意図が分からず、順平は隣にいた悠へ声を掛けると悠はマーラ様はジッと見つめた。 

 巨大な姿、特徴的な頭部。しばらく見た後、悠は……。

 

「フッ……」

 

 勝ち誇った様に笑った。

 

「いやいや!? 何に勝ち誇ったんだ!? えっ! そう事なの!?」

 

「流石はセンセイクマ……!」

 

 そんな態度に順平は困惑しクマは尊敬の眼差しを向けていると、それを見ていた美鶴達が悠達に迫った。

 

「ええい! 何をしてる! さっさとあれを倒すぞ!」

 

「あれを女の敵よ!」

 

「……どうしよう。凄かった」

 

「……興味深いです」

 

「今すぐ燃やすわ」

 

 既にやる気満々の女性陣に悠達は気押されながらも顔を見合わせると、まずは冷静になろうと宥めることにした。

 

「ま、まずは皆さん落ち着きましょう!」

 

 宥める大役を受けたのは乾だ。この中で年下の乾ならば話が通じると思ったのだが、彼女等の感情は既に燃え上がっていた。

 

「天田……あれはシャドウだ。ならば敵だ!」

 

「天田くん……あれは倒すべき敵よ!」

 

「す、凄い……」

 

「……撃って様子を見てみましょうか?」

 

「乾……あれは燃やすべき」

 

「えぇ……」

 

 有無を言わさない怒涛の押しに乾もたじたじ。

 風花だけは様子がおかしいが、既に女性陣はペルソナすら無意識に召喚しており、完全に修羅に入っていた。

 しかし相手の出方が分からない以上、美鶴達には冷静になってほしいのが皆の本音。

 だが明彦ですら本気で怒らせた美鶴の恐ろしさを知っており、シャドウよりも先に処刑にされない様に言葉を選んでいた時だった。

 

「ここのシャドウ達は大センセイの影響を受けている筈だから、あれって大センセイの“アレ”って事クマかねえ?」

 

 クマがとんでもない爆弾を落とす。

 皆、多少は思っても口にはしなかった事を平然と言い放ち、言った瞬間に空気が凍った様に固まった。

 同時に美鶴の動きも一緒に。

 

――マズい!

 

 その様子に明彦達男性陣は一斉に美鶴から距離を取った。――いや、明彦達だけではない。アイギスとゆかりとチドリの三人も身の危険を感じた様に距離を取っている。

 

「センセイ、見た感じどうクマか?」

 

「どうだったかな……一緒にお風呂に入ったのは随分と昔だから」

 

 だが悠とクマは美鶴からの異様な気配に気付いていないのか、彼女をバックにして呑気にそんな会話をしていた。

 知らぬは愚者の特権か。美鶴から溢れ出る蒼白い光に気付かず、二人はあれやこれやと会話を続ける事に明彦達は恐ろしくて動けない。

 

「間違いない……洸夜の弟だ」

 

「洸夜さんも、よく美鶴さんと風花さんにちょっかいをかけてましたからね」

 

「知らねえって凄いな……」

 

「怖いの間違い……」

 

「クゥ~ン」

 

「撃って先制するの手ですね」

 

 明彦達が何とも言えない空気に見守る事しか出来ない中、ゆかりは恐る恐ると美鶴に近づいて顔色を伺っていた。

 

「え、えっと……美鶴先輩?」

 

 完全に敬語になってしまうが、ゆかりは静かに顔を覗き込んだ。

 するとそこには……

 

「こ、洸夜ぁ~!」

 

 美鶴は羞恥と怒り全開で顔を真っ赤にしており、もう意識もしてしまってマーラ様を直視も出来ていなかった。

 

「も、もう無理ぃ……!」

 

 そんな中で風花だけが手で顔を覆っているが、その指の隙間からマーラ様をジッと見ている。

 何だかんだで風花は意識したから見ており、中々にそれぞれの潜在的な性格が出ていた。

 だがいつまでもこんな事をしている場合ではない。ゆかりはそんな二人へ声をかけてどうするか相談しようとした。

 

「えっと……先輩も風花も落ち着いてどうするか相談しよう?」

 

「か、勝手にしてくれ! あ、あ、あんなシャドウ……!――こ、洸夜めぇ……この件が終わったら処刑は免れないと思え……!」

 

「う、うん……ちょっと待って……あぁ、やっぱり凄い……!」

 

 ここに入って来た時の重いシリアスな雰囲気はどこへやら。

 真実を知る前に洸夜の処刑が決まってしまい、明彦達は哀れと思うと同時に自業自得だと判断した。

 二年前から美鶴と風花をいじっていたツケが、今になって返ってきただけだからだ。

 

 だがそんな混沌な空気の中でも当の元凶は、ずっと同じ言葉を繰り返していた。

 

『覚悟を示せ……!』

 

 もう何度も同じ事を言いながらも、全く攻撃を仕掛けてくる様子のないマーラ様を見て流石に明彦達も普通じゃないと感じ始めた。

 

「さっきからあのシャドウは何を言っているんだ? 覚悟を示せと言っておきながら、攻撃してこない所を見ると戦うと言う訳じゃないのか?」

 

「いえ、掛かってこいって意味かも知れませんよ?」

 

「どっちだって良い……」

 

 明彦と乾の考えにチドリは一蹴するが、意図が分からない限り先制してカウンターを喰らえでもすれば相手の思うつぼだ。

 しかし、そんな時にこそ動く男がいた。――悠だ。

 悠はマーラ様へ向かってこう叫んだ。

 

「覚悟を示せってどう意味だぁー?」

 

「悠くん……グイグイ行くわね」

 

 怖い者知らずの悠にゆかりは、驚き通り越して関心してしまう。

 見た目はあれだが相手は大型シャドウ。威圧感も半端ないが、悠の勇気は『豪傑』の域に至っており、来るなら来いの心構えだ。

 すると、そんな悠の勇気を察したのかマーラ様はビクッと大きく動くと、ゆっくりと顔?を横へチラッと向けた。

 

『何を見ている……?』

 

 美鶴達は何があるんだと息を呑み、マーラ様の視線の先を釣られるように向くと、そこには6体のマネキン人形が佇んでいた。

 

「マネキン……?」

 

「何か着ているな……」

 

 悠の呟きに美鶴もマネキンが何かを着ている事に気付き、明彦達も『なんだ一体……?』と目を凝らすと、その正体に気付く。

 

『ア、アレは……!』

 

 マネキンが身に纏っている服。

 それは脚刳りの位置が通常の服よりもラインが深く、ウエストラインとヒップラインの中間点まで切り込まれて鋭角ライン。

 一部、金属製の防具が複合的に組み合わせられ、だが露出が多く、特に足は長く見えそうな程なのも特徴だろう。

 しかし、そんな異常な服を美鶴達――正確に言えば元S.E.E.Sメンバーの者達には見覚えと、その名称を知っていた。

 

――『ハイレグアーマー』……その防具を人はそう呼ぶ。

 

『何故あれがここに……!』

 

 美鶴達の疑問は一致していた。

 覚えている限り、あの装備は『タルタロス』に存在していた。桐条の負の遺産が転がっているタルタロスにあった以上、あれも桐条の遺産なのだろう。

 しかも当時、これを美鶴とゆかりは身に纏っている。――と言うよりも美鶴に関しては今の服にハイレグアーマーの面影があるのは気のせいだと思いたい。

 しかし話を戻せば、重要なのはマーラ様とハイレグアーマーの関係だ。

 

――まさか……!

 

 女性陣に嫌な予感を抱いた。

 考えすぎだとあってくれと願いながら美鶴達はマーラ様を見ると、マーラ様も同じように顔を動かして両者の視線が合う。

 そして――

 

『覚悟を示せ……!』

 

――結論『通りたければハイレグアーマーを着ろ』

 

「出来る訳ないでしょぉぉぉぉ!!」

 

 先陣を切ったのはゆかりだ。

 当時ですら『彼』と洸夜に言い包められたとはいえ恥ずかしかったのに、今はモデルでもあるのだ。

 断固として拒否する姿勢でゆかりはマーラ様へ食ってかかった。

 

「美鶴先輩はともかくとしてあんなの絶対に着ないわよ!!」

 

「待てゆかり! 何故、私はともかくなんだ!?」

 

「自分の格好を見てから言ってください!」

 

 やはり思っていた者はいた。美鶴の格好を指差して言い放ったゆかりに美鶴は衝撃を受けた。

 

「い、いや! ちがっ――こ、これは防具としては優秀だ! 色々と仕事もある以上、これはあんな物とは全く違う!」

 

「だが外見で見れば変な服だろ?」

 

「真田さん!私達も同類です!」

 

 まるで他人事も様に呟く明彦だが、彼も前に着ていたのはマントの様な布切れだけなのだから同類だとアイギスからツッコミを受けていた。

 しかし、そんなやり取りの裏で絶句していたのは風花とチドリだ。

 

「あの数って事は……間違いなく私も!?」

 

「冗談でしょ……」

 

 痴女じゃあるまいし、そして勇気も足りない。

 風花とチドリは困惑しながら顔色を青くしていると、絶対拒否の姿勢を構えていた美鶴とゆかりが動いた。

 

「アルテミシア!」

 

「イシス!」

 

 二人は顔を真っ赤にし、羞恥による怒りを力に変えてペルソナを召喚。

 そのまま勢いに任せ、それぞれの氷・風の属性技をマーラ様へと放った瞬間――

 

『――!』

 

 マーラ様の頭部は()()()()動き、その迫っていた美鶴とゆかりの攻撃は接触するもかき消されてしまった。

 

「なんだと!?」

 

「どういう事よ!」

 

 本気で放った攻撃を、あんな気味の悪い動きだけで防がれた事に二人は納得できず、悠達もマーラ様の力に警戒を強めた時だ。

 すぐに探知を始めた風花は、ユノから送られてきた情報を知り、思わず絶句する。

 

「あ、あの……あのシャドウなんですが、耐性が()()()()()です」

 

「ハァッ!!?」

 

 風花の言葉を聞き、絶句する美鶴の隣にいたゆかりが叫び声をあげた。

 また、そう思ったのはゆかりだけではなく、悠を始めとしたメンバー達もだ。

 

「冗談でしょ!? あんな存在自体が年齢制限みたいなシャドウが、なんでそんなに強いのよ!?」

 

「……実際、どうなんだクマ?」

 

「フーカちゃんの言う通りクマよ……あのシャドウ、この世界にものすっごい影響されて、ハッキリ言ってめっちゃ強くされているクマ。今まで出て来たシャドウとは別格クマよ!」

 

――なんであのシャドウだけ?

 

 クマの言葉を聞いた美鶴達は、嫌なものを見た様な、気まずそうな表情を浮かべながらそう思ってしまった。 

 外見もそうだが、最早、精神攻撃を目的としているとしか思えず、単純に嫌がらせとしか思えない。

 特にハイレグアーマーを着せようとしている点には他の思惑も感じて止まず、けれど着たくない美鶴達は明彦達も巻き込み、どうやってマーラ様シャドウを突破しようかと作戦会議を始めようとしていた。

 

「どうしたものか……このままでは洸夜以前に我々がマズイ」

 

「山岸、本当に何か弱点は無いのか?」

 

「……ありません。物理・4属性は勿論、光・闇、万物属性すら無効にできるみたいです」

 

 美鶴と明彦からどう聞かれ様が、風花も嘘を言う訳にはいかずユノで感じたとおりの情報を言うしかなく、現実の厳しさに歴戦のペルソナ使い達も迷った時だ。

 

「ガードキルのスキルは?」

 

 思い出した様に、ここでチドリが状況打破を可能としたアイデアを口にすると、順平やゆかり達もその手があったかと目に光を取り戻す。

 

「そうだぜ! 無効だろうが吸収だろうが、耐性そのものを消せばこっちもんだ! 流石チドリだ!」

 

「なら早速行動開始よ! これでもモデルなんだから誰が着るもんですか!」

 

 セクハラ死すべし、モデルにハイレグアーマー不要。

 そんな怒りを顔に宿し、そして燃やしながらゆかりは再度、マーラ様へ攻撃の意思を見せていると、そんな彼女の姿を見て悠は何となく感じるものがあった。

 

「……ゆかりさんの場合、いるだけで年齢制限が掛かりそうだ」

 

 それは何の根拠もない悠の勘だった。

 しかし、ただの勘だと侮る勿れ。その勘は『豪傑の勇気』『タフガイな根気』『オカン級の寛容さ』『言霊使いの伝達力』『行き字引の知識』を持つ鳴上 悠の勘だ。

 恐らく彼女の持つ、過剰なエロにより困った人達が必ずいると悠が思っていた時だ。

 

「聞こえてるから!? ちょっと君とは、この一件が終わったら話し合わないといけないみたいね!」

 

 バッと悠の方に顔を向けたゆかりが、鋭い眼光を放った。

 伊達にゆかりも、影時間を巡る戦いで弄られたりしていた訳でなし。

 相手が誰だろうが関係なしであり、眼鏡を片手で掛け直しながら誤魔化す悠に、後で説教の一つでもしようと考えた時だ。

 

「ワン!」

 

 ここで動いたのはコロマルだった。

 ケルベロスを召喚し、赤い光――火炎ガードキルをマーラ様へと放ち、それはマーラ様へ直撃する。

 

『!?――フンッ!』

 

 しかし、直撃して頭部がしなったマーラ様だが立ち直り、再び力を集める様に身体に黒いオーラを纏い始める。

 それを見て風花も急いでユノの力を借りるが、映るのは何とも言えない情報だった。

 

「……火炎無効が消えた瞬間、すぐに耐性を復活させています」

 

「うそでしょ……!」

 

 無茶苦茶な強さに、ゆかりはもう叫ぶ気力もなかった。

 こうなれば完全に世界が消えない限り、マーラ様を倒すのは不可能だとクマの助言を受け、美鶴達は集まって作戦会議を始める。

 

「……どうやってあのシャドウを突破するかだが――」

 

「いや普通に桐条先輩達が、アレ着れば良いだけの話じゃないっすか?」

 

 深刻な感じで話し合おうとした矢先、美鶴の出鼻を挫いて順平が身も蓋もない解決案を出してしまった。

 

「ふ、ふざけるな!! あ、あんなもの二度と着ないと私は誓ったんだ!」

 

「あんたは男だから着る必要ないと思ってるけど、こうなったら順平! あんたぐらい着なさいよ!」

 

「はぁぁ!? 普通に無理だろ! 俺っち着たところで需要も無ければ、あのシャドウが認めるかっつうの!?」

 

 他人事な順平にゆかりが怒り、順平とああでもないこうでもないと、苛烈言い争いを始めてしまう。

 周りはまたかと思い、止める者、ハイレグアーマーを見て悩む者、興味深そうにマーラ様をガン見する者に分かれる中、風花は二人を止めようとしていた時だ。

 

「二人共、今はそれどころじゃ――あれ? 悠くんとクマさんは?」

 

 悠とクマがいない事に気付き、周囲を見渡し始めた時だ。今度は乾が何かに気付いた様に指を差した。

 

「あ、あの……皆さん、ちょっと見てください」

 

 若干、声を震わせながら白目を向いている乾の言葉に気付き、美鶴達もその方角へ顔を向ける。

 すると、その指の先はハイレグアーマーを着たマネキンがあり、その前でとある二人が何やら話し合っている。

 

「クマ、俺は何色が似合うと思う?」

 

「う~ん、意外に赤とかはどうクマか? 派手に行くのも悪くはないクマよ。逆にセンセイはクマは何色が良いと思う?」

 

「クマの場合は……ギャップを利用するなら、清楚系で責めたらどうだ? 緑とか、意外にイケるんじゃないか?」

 

 マネキンの前で、悠とクマが何やら相談しているが、その内容を聞く限りは美鶴達は嫌な予感しかしない。

 少なくとも、男が着る様な装備ではない中、今にもお買い上げしそうな勢いで話す二人に、まさかと思いながら美鶴達が白目で見守っていると、その予感は的中する。

 

「良し! じゃあ俺は赤を選らぶ」

 

「ならクマは緑色を選ぶクマ」

 

 そう言って二人は迷いなくマネキンからハイレグアーマーを取ると、マーラ様へと問いかける。

 

「どこで着れば良い!」

 

『――進め、強き覚悟を持つ者よ』

 

 悠達を見てそう言うと、マーラ様の顔の先に壁にめり込んだ様に更衣室が現れる。

 扉ではなく、何処にでもありそうなカーテン式の更衣室であり、悠達はまるで新しい服を持ってワクワクする乙女の様に、軽い足取りで走りだした。

 

「行くぞクマ!」

 

「おうクマ!」

 

「待て待て待て!!」

 

 一切迷いがなく、何の疑いも持たずに更衣室へ走る二人を美鶴が間一髪で呼び止めた。

 そして悠達は足を止めると、一体何事かと美鶴達へ逆に聞き返す。

 

「何事ですか?」

 

「何かあったクマ!?」

 

「いや、それは俺っち達の台詞!?」

 

「お前達は何をしているんだ……?」

 

 何とも言えず、若干引き気味に順平と明彦は二人へそう言う。

 明らかに持っているだけでも男ならば危険なハイレグアーマーを、明らかに悠達は着ようとしているのは明彦達でも分かった。

 けれど、何故に着ようするのか理解は出来なかった。

 

「着る為です!」

 

「当たり前クマ! クマとセンセイを馬鹿にしないで欲しいクマ!」

 

「い、いや……そうじゃなくてね」

 

「ほ、本当に着るつもりなんだね……」

 

 謎の気迫で言い返す悠達に、ゆかりと風花は感情を半殺しにして精神的ダメージを減らすが、内心ではやはりダメージがデカく、目の光は失っていた。

 そんな中で美鶴も何とか感情を呑み込み、悠達へハイレグアーマーに付いて問い掛ける。

 

「き、君達は本気で着るつもりなのか……?」

 

「兄さんの為ですから」

 

「大センセイの為クマ!」

 

――うっ!

 

 悠とクマの眼を見た美鶴達は、その眼力に押されて思わず後退ってしまった。

 目が本気だ。洸夜の為に本気でハイレグアーマーを着ようとしている。

 だがそれだけではない。覚悟を決めた瞳からは、逆に何故着ないという美鶴達の良心を刺激する様な圧も感じられた。

 

「兄さんの為ですから!」

 

「大センセイの為クマ!」

 

 何故か悠達は美鶴達へジリジリと近付いて行く。

 声の張りも大きくなり、徐々に崖へと追い詰めるかのように。

 

――美鶴さん達は着ないんですね。

 

――大センセイへの覚悟はそんなものだったクマか。

 

 実際には言っていないが、まるでそんな事を言われている様に美鶴達は感じていた。

 自分達のは覚悟は嘘っぱちだったか。あぁ酷い、なんて酷いんだ。

 その偶然なのか、わざとなのか分からない精神攻撃は段々と美鶴達の良心の限界値に迫った時だった。

 

「兄さんの――」

 

「大センセイの――」

 

「ええい! 分かった!!」

 

 根を上げた様に美鶴は怒鳴る様に叫ぶと、悠からひったくる様に赤いハイレグアーマーを奪った。

 

「着てやる! 着てやろうじゃないか!!――洸夜め……覚えていろよ」

 

 顔を真っ赤にし羞恥心全開の美鶴は最後に、小さな声でこの世界の生みの親である洸夜へ恨み言を呟くと、そのままゆかり達へ視線を向ける。

 そして、自身と同じ羞恥の覚悟を味合わせようと彼女達へも自身の持つハイレグアーマーを見せつける様に前に出すのだった。

 

「さぁ君達も着るんだ!」

 

「えぇぇ!! なんでですか!? 絶対に嫌ですって!!」

 

「無理です無理です絶対!」

 

「興味深いです」

 

「……普通に嫌」

 

 美鶴に突き付けられるハイレグアーマーを見て断固拒否するゆかり達だが、美鶴もなら仕方ないとは言えなかった。

 

「し、仕方ないだろ! ほ、他に方法はなく、それに我々が着ないと……」

 

「こっちはいつでもいけます」

 

「クマと先生でアイツを悩殺クマよ!」

 

 複雑な表情を浮かべる美鶴達の隣で、肩を温めている様にやる気満々の悠とクマがいた。

 自分達が着ないと確実にこの二人が着るのが嫌でも分かり、そう思うと女としても複雑だし、なんか負けた感じすらもある。

 

「うぅ……あぁ! もう! 分かったわよ! 着るわよ! 着てやるわよ!」

 

 顔を真っ赤にしたゆかりが最初に諦めると、もう自棄の感じで風花とチドリの腕を掴むと、着替え用の個室へと走りだす。

 

「えぇ!? 無理だよゆかりちゃん! 私なんかじゃ――」

 

「むりむりむり」

 

「仕方ないでしょ!! 私達が着ないと間違いなくあの二人が着る気なんだから!!」

 

 顔を真っ赤にしながら拒否する風花とチドリだったが、ゆかりの必死の強行で個室へと最後は放り込まれる。

 美鶴も歯を食い縛りながらも重い足取りで入って行き、アイギスだけは興味深そうに入って行く。

 

「哀れだな」

 

 そんな美鶴達を明彦は同情の眼差しで見ていくが、順平は少し表情が明るかった。

 

「いやでも、あの面子でハイレグアーマー姿が見れるなんて男としてありだぜ!」

 

「ちょっ、順平さん! 不純ですよ! それにバレたら美鶴さん達に処刑――」

 

「乾もなに真面目っ子してんだよ! 俺っちには分かるぜ! 男は誰でもスケベ――」

 

「その辺にしておけ。美鶴達が出て来るぞ」

 

 無駄にテンションが上がる順平を制止し、明彦達は動きがあった更衣室へ視線を向け直した。

 

「こ、こんな感じだったか……?! こんなに生地の面積が――!」

 

「本当だったら撮影料高いからねぇ……!」

 

「無理無理無理! 本当に無理ですって! わ、私じゃこんな……」

 

「うぅ……!」

 

「これで良いのでしょうか?」

 

 布の擦れ合う音を出しながら着替え終える美鶴達。

 やがてカーテンが開き、一人、また一人と出て来ると、悠達は思わず声を上げた。

 

「おぉぉ……!」

 

「ブゥリリアントクマ!」

 

 それは目の抱擁この上なかった。

 それぞれに合ったカラー。太もも、へそを出し、確かに分かる彼女達の美しき肉体を確かに魅せる装備――ハイレグアーマーに悠は拍手を送る。

 

「ブリリアント!」

 

「わ、わかったから……そ、そんな見ないでよ悠君!」

 

 恥ずかしく身体をねじり、腕とか身体を隠すゆかりへ対し悠はそっと携帯の写メを鳴らす。

 

――パシャ!

 

「えっ……あぁ! ちょっ、今撮ったでしょ!」

 

「大丈夫です、この世界だと機械とか機能しないんで」

 

「気にしないで良いクマよ」

 

「するわよ!? じゃあ何で撮ったの! 本当に撮れてないか見せないさい!!」

 

「ちょっ、ゆかりさん……そ、そんな激しく動くと……!」

 

「えっ……あっ! う、おのれぇ……!!」

 

 乾の言葉にゆかりは自身の置かれた状況を理解し、逃げ出す悠達を追いかけるのを諦めて拳を握る。

 今の格好。防具として肉体にフィットしているが、激しく動けば際どい部分が出てしまう。

 ゆかりはそれ故に追撃を諦めると、悠達は戻って来て今度は風花達の下へ向かう。

 

「あっ……そ、その……見ちゃダメだからね」

 

 見られるのもそうだが、自信がない風花は羞恥と共に変なものを見せてしまうという申し訳なさがあった。

 両腕を使い、何とか全身を隠そうとするが悠達はしっかり見て風花の魅力を理解できた。

 清楚、気弱……しかし、脱いで分かる気痩せの実態に悠とクマはありがたみを感じた。

 

「ありがたやありがたや」

 

「拝まずが恥クマ!」

 

「えぇっ!? どうして拝むの!?」

 

 目の前で膝を付く二人に風花は困惑と羞恥で顔を真っ赤に染め、慌てて二人を止めようと動く。

 だがそうなると、やはり際どい部分が顔を出す。

 

「「おおぉ……!!」」

 

 それを逃すまいと二人が喰い付く様に前に出る。

 

「えっ、あっ! だ、だめぇ! み、皆に比べて私なんて……!」

 

「何を言ってるんです! 風花さんは凄いですよ!」 

 

「自信を持つクマ!! 何なら今からセンセイとクマが風花ちゃんのファンクマよ!」

 

「そ、それも恥ずかしい……」

 

 苦笑しながらも嬉恥ずかしな風花を慰めると、悠とクマはそのまま隣にいるチドリとアイギスの方へ視線を向ける。

――瞬間、二人は強烈な衝撃を受けた。

 

「す、すごい……!!」

 

「逸材クマァ……!!」

 

 目の前にいるのはギャップ、新時代の姿であった。

 ミステリーゴスロリ系、ロボッ娘系の姿のチドリとアイギスだ。

  

「あ、あまり見ないで……」

 

「見た目よりも防御性能は高いと思われます」

 

 食いつく様に見ている悠とクマにチドリは恥ずかしそうに、アイギスは冷静にハイレグアーマーの性能をチェックしていた。

 

 しかし悠とクマの受けた衝撃は凄かった。

 

「新たなる自分に目覚めた……!」

 

「覚醒したクマよぉ……!」

 

 二人は拳を握りながら高らかに手をかざしていた。

 それを見てアイギスは首を傾げる。

 

「お二人の心拍数が急激に増加……これは一体……?」

 

「無視! 無視で良いの!!」

 

 冷静に判断していたアイギスへ、ゆかりがストップをかけた。

 これ以上、見世物になるつもりもない。

 

 ゆかり達はとっとと終わらせようと、マーラへ向かい合った。

 

「ほら! これで良いんでしょ! とっとと道を開けなさいよ!」

 

「これ以上、何かあるなら処刑も覚悟してもらうぞ……!」

 

 二人から感じる怒気のオーラと共にペルソナも現れると、マーラは僅かにビクッと動いた。

――そして。

 

『進め……覚悟ある者達よ』

 

 マーラはそう言うと、まるで天に召されるかの様に光に包まれて消えてしまった。

 そして同時に扉が開くと、明彦達も思わず拳を握った。

 

「おぉ! 開いたぞ!」

 

「これで先に進めるな!」

 

「良し! じゃあ皆さん、早く行きま――」

 

「それよりも着替えさせろ!!!」

 

 悠が先導しようとした矢先、美鶴の雷がついに落ちた。

 それを聞いた悠とクマは残念そうに肩を落とすが、美鶴の怒気によって黙るしかなかった。

 

 余談だが、風花だけでもハイレグのままにしようと悠とクマが画策しようとしたが、ゆかりに見つかって敢え無く失敗した。

 

 そんなこんなで、美鶴たちは着替え終えるの待ってから、ようやくメンバーは次のフロアへと進むのであった。

 

 

「全く、なんて場所なんだ……!」

 

「本当に最低な世界……!」

 

 次のフロアへの階段を上りながらも、美鶴とゆかりの怒りを収まっていなかった。

 女として辱めを受けたのだ。当然でもあったが、悠たちに彼女達を静かにさせる勇気はなかった。

 

「まぁ先に進めたんだから良いだろ? ほらみろ、次のフロアが見えてきたぞ」

 

 仕方ないように明彦が先導し、怒る二人へそう言うと二人は武器を構えてフロアを睨んだ。

 

「また同じ事態になるならば処刑してくれる!」

 

「先手必勝よ!」

 

「うわぁ……二人共、こえぇ」

 

「そこが魅力ですよ」

 

「じゅんぺーもまだまだクマね」

 

 なんでそんな余裕なんだと、順平は悠とクマを見るが、二人の輝く瞳を見て目を反らすのだった。

 叶わない気がする。そう彼の本能が告げたからだ。

 

「現在、次のフロアのシャドウ反応はありません」

 

 アイギスもそう言って警戒をするが、美鶴とゆかりはズカズカと明彦を通り越して先へと進んで行く。

 

「どうなるか分からん! とっとと洸夜を探して帰還するぞ!」

 

 そう言って美鶴とゆかりがフロアへと入って行くと、流石に危険だと明彦達、悠とクマも急いで跡を追った。

 

 しかし、フロアの中へ入ると悠とクマ以外は思わず立ち尽くしてしまう。

 

「ここは……?」

 

「どっかの建物みたいクマねぇ?」

 

 フロアの中は、まるで洋風の様な屋敷の様な内装。そんな場所だった。

 当然ながら悠とクマに見覚えもなく、首を傾げていると美鶴達が口を開いた。

 

「何故……ここが?」

 

「洸夜の記憶か……?」

 

 美鶴と明彦が警戒、そして困惑しながら周囲を見渡す。

 悠がよく見れば、ゆかり達も同じ反応であった。

 

「ここはどこなんですか?」

  

 だから悠は聞いてみた。まるで場所を知っている様に言う彼女等へ。

 すると、代表する様に口を開いたのは美鶴だった。

 

「ここは……嘗て、私達が使っていた対シャドウ用の拠点。――学生寮だ」

 

 ここはSEES時代の拠点――学生寮であった。

 洸夜の記憶ならば別に不思議ではないが、何か嫌な予感を美鶴達は抱いていた。

――時だった。

 

「あっ!」

 

 風花が突然、声をあげた。

 それを聞いて全員が視線を、風花の先に合わせると、そこには一人の少年が立っていた。

 

 それは美鶴達には忘れる筈がない人物だった。

 

「洸夜……?」

 

 そこに立っていたのは、月光館学園の制服を着た洸夜の姿だった。

 

 

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