ソードアート・オンライン パラダイス・ロスト   作:hirotani

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第21話 同志には歓迎を

 人通りの少ない路地の馬車に隠れたところで、セツナはかつての普段着だった黒のコートに着替えた。

「大変だナ。堂々と街を歩けないのハ」

「自分で決めたことだ。仕方ない」

 はじまりの街の大通りに出ると、さっきまで向けられていた視線はぴたりと止んだ。まるで通り雨が過ぎたように。今やギルド活動以外でしか着る機会のないこのコートは隠蔽ボーナスが高い。これが主街区内でも適用されてよかったと思う。

「こんな場所で話をするのか」

 セツナがそう言った理由は、アルゴに案内されたのがカフェ風のNPCレストランだったからだ。いつも話すときは外で立ち話かベンチに座る程度で、長話をする際はセツナの殺風景なホームだというのに。

 街中でプレイヤーとすれ違う時間は1秒もない。過ぎ行くプレイヤー達はアルゴとセツナに気付くこともなく、会話に耳を傾けることもない。だがこうしてカフェで話すとなるとそうはいかない。ずっと席に居座る客に気付かれるリスクが高いのだ。

「ちっと待ち合わせてナ」

 挙手で挨拶するアルゴの視線の先で、1人テーブルにつくプレイヤーが同じジェスチャーで応じ立ち上がる。

「待たせたネ」

「いえ、ありがとうございます」

 薄手の黒いポンチョを羽織りフードで顔を隠しているため容姿を把握し辛いが、声からして女のようだ。女はセツナに顔を向けるとフードを脱いだ。肩まで伸びた髪が揺れる。

「お久しぶりです、セツナ団長」

 良く言えば凛々しい、悪く言えば無愛想に彼女はブラウンの瞳をセツナに向ける。

「俺のことを覚えているのか」

「忘れろという方が無理よ」

「そうか。久しぶりだ、レブロ」

 全く表情を変えないセツナにレブロは少し不満そうだが、文句を言うことなく椅子に座った。予期していた再会ではない。でもだからといってセツナにとって驚くほどの出来事でないだけだ。かつての仕事で不確定要素は常に付きまとっていたし、そうしたものから発生する予想不可能の事態に何度も振り回された。つまり、セツナはいちいち驚くことに疲れたのだ。

「鼠のアルゴを使い走りにするとは。あんたの図々しさは変わらないな」

「あなたに配慮して、アルゴさんに仲介を頼んだつもりよ。私とあなたのギルドは仲良くないし」

「どこのギルドだ」

 ポンチョの裾から覗く青い服で大体見当はつくが、一応聞いてみることにする。

「聖竜連合よ」

「最近はこちらの団員と交流を深めていると聞いたが」

「今日はそのことを話したいの」

「オレっちはその情報を仕入れに、こうしてお2人さんの話を盗み聞きしようってワケ」

 アルゴはいたずらな笑みを浮かべると、いつ注文したのか運ばれてきたランチセットの黒パンをかじった。

「お金になるかは分かりませんけど」

 レブロはそう前置きした。

「KoBのギルバートさんが聖竜連合に同盟を持ちかけてきたのは本当よ。こちらの上層部も最初は拒否してた。団長のあなたには無断だと本人が言っていたから。まず確認したいのだけれど、ギルバートさんが同盟を組みに来ることをあなたは知らなかったの?」

「ああ、知らなかった」

 顔色ひとつ変えず答えるセツナにレブロは呆れ気味にため息を吐く。

「あなたリーダーシップないのね。ギルメンの管理くらいできないの?」

「自覚はしている。続けてくれ」

 「はあ……」とレブロは吐息と共に肩の力を抜いた。

「最初は受け入れなかったけど、話し合いの結果リーダーのリンドは彼と同盟を組んだ。それからは積極的にKoBとの共同攻略に参加するようになったわ。あなたもそれは感じていたでしょ?」

「ああ。確かに先月の上旬からそちらのメンバーも大人しくこちらの作戦に従うようになった。おかげでボス攻略は犠牲者ゼロで達成できた」

「呑気なものね。同盟には条件があったのよ。ギルバートさんは私達が協力する代わりとして、KoBからメンバーの引き抜きを提案してきたのよ。ご存知の通りうちのギルドはKoBへの対抗意識があるから、リーダーは喜んでその提案を呑んだわ」

「引き抜かれるメンバーの中にギルバートも含まれているのか」

「ええ。彼は近いうちにこちらへ移ると言ってた。彼はKoBじゃ顔が利くとも言ってたから、沢山のメンバーがうちのギルドに移ると思う」

「メンバーの引き抜きか。あまり規模が大きくないこちらとしては痛いな」

 ヒースクリフと同じ髪型にするあたりから妄信的な聖騎士至上主義者かと思っていたが、中々したたかな男だ。

「呑気なこと言ってる場合? KoBは攻略組から脱落するわよ」

「聖竜連合と血盟騎士団が共同戦線を張ることは悪いことじゃない。あんたの話を聞いて、俺はむしろ血盟騎士団がそちらと合併してもいいと思っている」

「あなた何のために団長になったのよ。かなり強引なやり方って聞いたけど」

「ゲームをクリアするためだ。ただ名声や権力欲しさに団長なんてやっているわけじゃない」

 「それよりも」とセツナが言うと、レブロは上体を少し引いた。無意識のうちに彼女を睨んでしまったらしい。

「あんたは何故それを俺に教える。聖竜連合にいるあんたに都合の良いことだろう」

「怪しいのよ」

「自分のギルドがギルバートに乗っ取られると思っているのか。攻略に繋がるなら好きに泳がせておけばいい」

 「そうじゃないわ」とレブロは声色を強くした。何やら勘違いをしていたらしく、大人しく続きを聞く。

「ギルバートさんがうちの本部に来るとき、いつも付き人みたいな男がいるのよ。KoBメンバーじゃないみたいだし、交渉の場にただの友達を連れてくるなんて不自然でしょ?」

「確かに。そのプレイヤーの名前は」

「その人はポールと名乗ってる。中層で強化支援の商売をしているらしいわ」

「ポール」

 セツナはその味気ない名前を反芻(はんすう)する。英語の教科書に出てきそうな名前だ。とはいえSAOでも偽名を名乗ることは可能だ。パーティやギルドといったシステム上の関係を築かずメンバーリストに並ばない限り、名前というものは隠すことができる。セツナも仕事上ジョンだのフライデーだの多くの偽名を名乗ってきた。

「アルゴ、そのポールを知っているか」

 丁度スープを飲み干したアルゴは首を横に振る。

「いいヤ、そんなヤツ聞いたことなイ。イマドキ強化支援なんて成り立つのカ?」

「ええ、だから怪しいの」

 強化支援。

 レベルやスキル上げに効率の良い狩場の情報提供。ジョブや使用する武器に適した強化プランを立案するコンサルティング。それを生業とする者の多くはβテスタ―であり、MMORPG全般に精通した筋金入りのコアゲーマーだ。

 一見情報屋に近いものだが、強化支援の場合はプレイヤーの強化に重点を置いている。情報屋を食品だけでなく日用品や服まで取り扱う百貨店に例えるなら、強化コンサルタントは強化手段のみを売る専門店といったところだ。扱う情報が断然少ないから、商売としては楽だ。

 その商売はデスゲーム開始当初こそ珍しくなかったのだが、今となってはそんな事業に手を出す商人プレイヤーは皆無に等しい。生き残りをかけて必死なプレイヤーを獲物に強化詐欺が横行したせいで、同業界隈の信頼が転落の一途を辿り自然消滅したのだ。

 現時点で似たことをしているプレイヤーはエギルとアルゴだけだろう。エギルは私財を投げ打っている分かなり善良だし、アルゴも情報屋としては信頼に足る。もっとも、2人に強化支援を要請したのはセツナではあるが。

「アルゴの情報にない商人か」

「今のご時世にそんな商売してる奴なら、それなりに知られているはずダ」

 モンスターやアイテム入手のみに関わらずお勧めのレストラン、お勧めの鍛冶屋なんて情報も扱っているアルゴが知らないのは不自然だ。

「あんたはポールと話したことはあるのか」

「本部でリーダーのもとに案内したとき、1度だけ」

「どんな男だった」

 レブロは逡巡の後に答える。

「何ていうか、不思議な人だった」

「抽象的だな」

「悪かったわね」

 ポール。セツナは再びその名前を思い浮かべる。

 これ以上レブロから彼について聞いても収穫は無いなとセツナは思った。レブロとの会話で出てきた彼の人物像は判然としない。彼女は実際にポールの顔を見て話をしたはずなのに、全く彼について浮かび上がってこない。少なくとも、ポールという男が留意するべき人物であることは確かだ。

「なら俺とフレンド登録して、随時そのポールのことをメッセージで知らせてほしい」

 フレンドの招待メッセージを送ろうとウィンドウを呼び出したとき、「もし……」とレブロは不安げな瞳を向けてきた。

「ポールが危険な人だって分かったら殺すの?」

 セツナは窓を操作する手を一旦止める。

「俺はもう死神じゃない。もし彼が攻略の害になるとしても、処遇はあんた達に任せる。それに危険とも限らない」

「だとしても、野放しにしてたらKoBの戦力が減るのは変わらないじゃない」

「言っただろう。血盟騎士団がそちらと合併しても構わない。もうギルド同士で下らない争いを続ける余裕はなくなった。俺達が現実に還るには、プレイヤー全員が統率されなければならない」

 

 ♦

 

 第80層主街区に戻ってきた血盟騎士団の面々を、街に滞在しているプレイヤー達がざわめきと共に迎える。層を重ねるごとに面積が狭くなっていくアインクラッドの構造上、80層目となると迷宮区の塔は主街区の目と鼻の先にあると言っていい。

 主街区でありながら村と呼ぶべきメルモンドの大通りを歩くギルドの面々は、疲労を顔に出しながらセツナの後ろを歩く。セツナはいつものポーカーフェイスを保っているが、それは途中参加で他の面々より疲労が少ないからだと言う声が武器屋のほうから聞こえてくる。

 確かに疲労は少ないが、ギルドと合流するためにたった1人で最前線の迷宮を入口から進み、モンスターとのエンカウントを乗り越えたのだ。合流した後も先頭に立ちモンスターと戦ったのだから、どちらかといえば疲労が一番大きいのはセツナだろう。

 団員達はそれを分かっているのか、意外なことに途中参加に関して文句を言う者はいなかった。合流した際、団長であるセツナに殺意とも取れる冷たい視線を向けてくる者はいたが。

「どうにか今日も生き残ったな」

 転移門広場に着くなり、クラインが誰に向けてなのか労いを漏らす。

「まだボスの間に辿り着いただけだ」

 セツナが嗜めるとクラインは伸びをしながら「分かってるさ」とぼやいた。

「んで、明日はボス攻略か?」

「いや、エギルから紹介された4人の入団試験をする」

「おいおい、ボス戦の前に戦力を増強しようってか。いくらレベルが十分でも、いきなりボス戦に駆り出すにゃあひよっ子だぜ」

「ボスを相手に上手く戦えるかを見るために試験する。戦力は多い方がいい」

 エギルがプレイヤー育成支援の目的を「生き残る」から「攻略組になる」へと方向転換して2ヶ月が過ぎようとしている。メッセージで送られてきた4人のプレイヤーは、エギルが面倒を見ている者の中ではトップクラスらしい。試験を行うことはエギルを通じて既に伝わっているはずだ。

「明日、参謀職は9時本部に集合。それ以下は休暇とする。以上で解散」

 団員達にそう言うと、セツナは一足先に転移ゲートの揺れる空間へと歩いた。

「転移、セルムブルグ」

 視界を光が覆い尽くし、数瞬で消えると寂れたメルモンドとは打って変わり華やかなセルムブルグの街が現れた。もう夕刻で、湖面に太陽が映り込んでいる。毎日見るこの景色は飽きることがない美しさだ。

 毎日この時間、この場所で。

「日曜日のこの時間、この公園で」

 溶解した琥珀のような湖面を見て、ふと波絵と初めて会った日を思い出した。セツナはすぐアスナのメゾネットには行かず、沿岸で層全域に広がる湖を眺める。湖面に映る丸いオレンジ色の太陽はまるで眼球のようで、あるはずのないナミエの視線を感じている。

「セツナさん?」

 声が聞こえた背後へ振り向くと、水色の羽をはためかせた子竜がセツナの顔へと飛んできた。セツナが右手を差し出すと子竜はそこにとまる。

「もうピナ、セツナさんびっくりしちゃうでしょ」

 紙袋を両手で抱えたシリカがぱたぱたと靴音を立てて近付き、あどけない笑みを向けて来る。

「今日の攻略は終わったんですか?」

「ああ、アスナの部屋に行こうとしてたところだ」

「あたしもリズさんからおつかい頼まれて、いま帰りなんです」

 「一緒に行こう」という言葉もないまま、2人は並んで街を歩いた。

「持ってやる」

 無造作にシリカから紙袋を取り上げる。シリカはくすりと笑った。

「やっぱり、セツナさんは優しいですね」

「勘違いだ」

「ううん、セツナさんは良い人です。あたしを助けてくれたもん」

「あれは任務だ」

 「いつもそればっかり」とシリカはむくれた。シリカの頭に乗っているピナも、何か言いたげな視線を送ってくる。

「あのときのセツナさんの任務って、本当は何だったんですか?」

「タイタンズハンド残党を全滅させることだ。シリカは連中をおびき寄せるための囮だった。場合によっては、お前を殺すことも視野に入れていた」

「でも、結局あたしを助けてくれましたよね。あたしだけ転移させて」

「殺さずに済むなら、それに越したことはない」

「ほら、やっぱり」

 シリカは含みのある笑みをこぼす。何がおかしいのかセツナには分からない。隣で殺される可能性があったと言われているのに。でも今のシリカには無垢さが消えている。笑っているのか、困っているのか判断が難しい。

「それって、できることならあたしを助けようとしたってことじゃないですか」

「面倒事を増やしたくなかっただけだ」

「もう、どうしてそうやって悪者ぶるんですか?」

「実際悪者だ」

 苦しまぎれの反論も虚しくなってくる。シリカは殺人がどういう罪なのか理解しているのだろうか。

「シリカ、お前は俺を信じられるのか」

「はい、信じられます」

「何故だ」

「セツナさんが、キリトさんに似てるからです」

 なんて曖昧な理由だ。シリカの返答に呆然とせずにいられない。

「理由になっていないぞ」

「そうですよね。でも、初めて会ったときセツナさんを信じられたのも、キリトさんに似ていたからなんです。だからセツナさんなら、キリトさんみたいにたくさんの人達を助けてくれるって、そう思うんです」

 シリカの言葉は迷いがない。でも憂いのある表情から、ただ妄信しているわけではなさそうだ。多分、悩んだ末に自分で答えを出したのだろう。

「リズさんが言ってました。セツナさんが死神だったとしても、あたし達のために戦おうとしてくれてるのは本当だって。セツナさんは怖いけど、それでも、あたしはセツナさんのこと信じてますから」

 シリカが向けてくる視線に顔を背けたくなる。これまで憎悪や疑念ばかりを向けられてきたせいか、セツナはその行為が困惑だと認識する。まさか自分が誰かに希望めいた感情を持たれるとは思ってもみなかった。

 以前はそんな感情を向けられても偽物と無視してきた。場合によっては殺すことにもなったし、期待を裏切って全員を死なせてしまうこともあった。それに伴う感傷も誤魔化して、ただ復讐することに思考を割いてきた。

 結局、俺は自分のことしか見ていなかった。セツナはそう自覚する。

 復讐もナミエのためとしておきながら、それは単なる自己満足だったと既に証明された。だとしたら、ゲームをクリアするという目標も自己満足に過ぎない。

「信じてくれるなら、期待に応えないとな」

 セツナにはそれしか言うことができなかった。

 いま、この少女の期待を裏切ってしまう恐怖が確かにセツナの中で存在している。誰に何と言われようと目的遂行を最優先してきた。全て自分が納得するために。何らかの結末を得るために。

 これまで迷いがなかったのは、納得も結末も被るのは全て自分だったからだ。しかし今は違う。セツナの行動すべてに生き残った全プレイヤーの命運が懸かっている。ゲームクリアが万人の望む結末であっても、それまでの過程で納得するのは何人いるだろう。

 理解はしていたが、こうして自分のものとして実感するのは初めてだ。あの本物の二刀流使いは、こんな重責を背負いながら前線で戦ってきたのか。

 自分はあの二刀流使いのように、プレイヤー達の希望にはなれない。

 そんな無責任なことを思うと、ピナが乗っているわけでもないのに両肩が重く感じた。

 

 ♦

 

 ノックの後に開いたドアから、栗色の髪を揺らしたアスナが笑顔で迎え入れてくれた。

「お帰りシリカちゃん。セツナさんもいらっしゃい」

 セツナから紙袋を受け取ったアスナは彼の服を足元からゆっくりと見上げていく。

「セツナさん、血盟騎士団なんですか?」

 彼女の言葉で、セツナは自分が団服のままであることに気付いた。

「ああ」

「わたしも早く前線に戻らないといけないんですけど、リズに止められちゃって」

 キッチンで調理器具を出していたリズベットが口を挟んでくる。

「まだ本調子じゃないんだから、アスナは休んでなきゃ駄目よ」

「もう、分かってるわよ。でもやっぱり心配じゃない。ダンジョンだとキリト君にメッセージ届かないんだし。本当、今日もいつまで籠ってるんだか」

 アスナはまんざらでもなさそうに笑った。その顔を覗き込む自分の図々しさに今更ながら気付かされる。

「あいつのことは俺とギルドに任せてほしい。無茶しないように見張っておく」

 なんて無責任な言葉だと自嘲するが、その罪悪感が真似事のように思える。オレンジギルドに潜入していた頃も、今のように他人につけ込み、騙し、最後には殺してきた。

 それでもアスナは美しい笑顔を見せてくれる。

「これからもキリト君のこと、よろしくお願いしますね」

 紙袋を抱えてキッチンに戻るアスナを見ながら、セツナは全てを告白してしまいたい衝動が湧き上がるのを感じている。

 アスナ、キリトは死んだんだ。あんたはそれを見ているはずだ。

 あんたの見ているものは現実じゃない。儚い夢だ。俺達はあんたが目を覚まさないよう嘘をつき続けているんだ。

 もしアスナが、はじまりの街での葬儀に参列していたら目を覚ましたのだろうか。アスナと部屋にいるようリズベットに頼んだのはセツナ自身だが、そんな悪戯めいた企みを考えてしまう。

「セツナさんも食べていってください」

 そんなものは求めていないと、アスナの笑顔に吐き捨てたくなる。リズベットとシリカがいる前で言えるはずは当然なく、シリカと一緒にダイニングの椅子に座る。

 彼女には俺が見えているのか。

 リズベットと料理を楽しむアスナを見て、そんな疑問を抱かずにはいられなかった。

 

 ♦

 

「戻ったぜ」

 少し疲労を感じる声色で、クラインは4人のプレイヤーを引き連れて会議室に入ってきた。彼に続く4人は団服を着ておらず、それぞれが自分の趣味に合わせた装備を纏っている。重厚な鎧で全身を固める者もいれば、金属製の防具は胸当てだけという者もいる。鎧の下に来ている服も色彩がばらばらだ。

 幹部席の中央――団長の席でセツナは彼等を迎える。4人を机の前へと促したクラインは、彼等が横1列に整列すると壁際へと離れた。

「あんたから見てどうだ」

「問題はねえと思う。上層のモンスターにビビってたが、すぐに慣れたみてえだ」

「そうか、ご苦労だった」

「へいへい」

 不貞腐れた様子でクラインは腕を組む。この任務を言い渡した際、彼はあまり乗り気ではなかったようだ。4人を上層、それも最前線の迷宮区に連れ出すことに反対していた。だからこそ同伴してほしいと説得した。説得というより、半ば団長命令に近かったが。疲れを浮かべる表情から、おそらく何度か危ない目に遭ったのだろう。

 セツナは並んだ4人を右から見ていく。全員男。年はセツナと同年代と、やや年上といった面々だ。彼等もセツナに視線を送る。最強ギルドの団長を前にした緊張、それ以上に疑念を感じる視線を送り返してくる。

 成人した幹部達の中央に明らか未成年の少年が腰掛けているのだ。この世界での強さが見た目ではなくレベルとパラメータという数値であることは誰もが承知だが、それでも外見というものが重要であることは変わりない。

 4人の視線は全てセツナに集中している。セツナが血盟騎士団の新団長として知られているのもあるが、一番はセツナが横にいる幹部達よりも目立つ装いをしているからだろう。

「リーダーたるものそれに相応しいものを着なきゃいけねえ」

 そのクラインの提案で、セツナは新しい団服を作った。提案といっても、クラインら元《風林火山》メンバーの団服を作るついでだったのだが。

 血盟騎士団の団服は白を基調とし、ギルドのエンブレムと赤のラインを入れたものに統一されている。ただ前団長のヒースクリフはそれを反転させたように、赤を基調としたローブと鎧を着ていた。それが団長であることの証らしく、現団長のセツナもそれと同じ色調の服を職人プレイヤーに見繕ってもらった。

 本来の目的であるクライン達の団服は、ただ鎧に血盟騎士団のエンブレムを入れるだけで終わった。装備の色合いも近かったため、それで問題なしとした。

 団長であることを示す赤いコートに袖を通してこの日からギルド運営にあたるわけだが、卸したてのせいかぎこちない。

「君達に攻略へ挑む覚悟はあるか」

 セツナは4人に問う。

「はい、あります」

 右から2番目に立っている青年が声高に答える。続けて「はい」、「私もです」、「勿論です」と残りも3人も。

「これからは過酷な戦いになる。それを承知の上でギルドの門を叩いてくれた勇気に感謝する」

 こんなものは形だけだ。クラインが同伴したとはいえ、模擬攻略から無事帰還した時点で彼等の入団試験合格は決まっている。エギルから今後も入団候補にあがるプレイヤーが紹介されるだろうが、毎回こんな入団式を執り行うのは面倒だ。

 セツナは憂鬱を隠しながら立つ。新しく仲間に迎える4人を見据えた。

「血盟騎士団にようこそ」




 忘れているかもしれませんが、レブロは第2話に登場したオリキャラです。
 今回登場させるために生かしました。
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