ルイズが使い魔として、東方不敗を召喚してしまったら!
なるべく多くの要素をつめこんだ、短編です。
どうぞご賞味下さいませ、

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さて皆さん、貴族という存在をご存じでしょうか?
引き裂く爪、嚙み砕く牙はおろか、身を守る最低限の膂力すら持たなかった人類が魔法という力を得て幾星霜。
開花させた稀有なその力で弱きを助け、悪を挫いた歴史も今や昔。
その才能のみが強調される、悲しい時代を迎えることとなりました。

しかぁし!
今、ここに!新たな才能が目覚めの明滅を繰り広げております!
彼女はこの世界に何を呼び出し、そして何をもたらすのか!
それでは、新貴族武闘伝・使い魔ファイト!
レディー…ゴー‼


使い魔ゼロのルイズ

 

 

 

「ミス、ヴァリエール。。それ以上は。、」

 

何度となく掛けられたその声は、ことここに至っては確固たる、鋭いものとなっていた。

これ以上の失敗は、いや魔力の費消は、危険ですらあることが彼にはわかっているからだ。

 

「ミスタ、コルベール。私はルイズです。この魔法を成功させるまで、私は家名を名乗るつもりはありません。」

 

「しかし…」

 

「放っておきましょう?ミスタ。今のヴァリエールには、何を言っても聞きませんよ。」

 

ともすれば冷たく響く筈のその言葉は、字面に反して温かなものだった。しかし当事者たる桃髪の少女にとって、どうもそれは触れてはいけないものであった様だ。

彼女は激昂した。

 

「その名で呼ぶなと言ってんのよ、ツェルプストー!」

 

ヴァリエールと呼ばれたその少女の声帯は、潰れる寸前であった。

魂の叫びにも近い声で詠唱を繰り返し、その度に周囲の空気に炸裂をもたらしていたその喉は、少女の声から若々しさと、高域を奪い去っていたのだ。

 

失敗とされるその魔力行使は長閑な昼から続けられ、天上に月を戴く現在まで続けられている。

コルベールと呼ばれた教師が以前から注目していたことは、彼の中で既に確信に変わりつつあった。

――この少女の潜在的な魔力は、常識を遥かに上回っている。

何故正しく行使されないのか、その理こそ謎のままである。それにしたってスクエアクラスのメイジですらここまで魔法をぶっ続けで使い続けることはできないだろう。

それは、隣に立つ隣国からの留学生も薄々感じとっていることの筈だった。

 

「アンタにわかる?ツェルプストーの才女様。魅力もあって、背丈もある美女に魔法が使えて、召喚魔法一つ出来ない貴族の女がいる…これは何なの?。一体、私は何を間違えているというの?存在そのものが間違いだとでも? 」

 

「ルイズ…」

 

「君が自分を何と思っていようともだ、ミス。貴女のその向上心と気概は正しく、私が今まで見てきた生徒の中で一番です。そんな逸材がこれ以上の無茶で潰れてしまうのを、見過ごすわけにはいかない。貴女は必ず魔法が使えるようになる。だからどうか今日は、もう杖を収めてください。」

 

優しく掛けられた教師の声は、その場に静寂をもたらした。

昼間でこそその周囲で囃し立て、就寝時間になっても響く爆音に苦情を言いに来たクラスメイト達は、もう居ない。

 

この場に居るのは、頭頂部のさみしくなった一人の教師と、犬猿の仲の留学生、そして一言も漏らさずに見守り続ける青髪の少女のみであった。

三者はその瞳に何を見て、何を思っているのか。

そんな一瞬の静けさに、いよいよ終焉がもたらされた。

 

「ミス、ヴァリエ、、、いえ、ルイズ様。お水と毛布をお持ちしました。どうかご自愛下さい。」

 

ひっそりと、しかし確たる意思を持って言葉を放ったその存在に、先の3名は救いを見いだしたかのように振り返った。

そこには、珍しい黒髪をしたメイドが立っていた。もうとっくの前に就業時間は終えたであろうに。

彼女はルイズと呼ばれた少女が、ひと知れず深夜に血を流す様な努力をこの一年間続けているのを、知っていたのだ。だからこそ、これ以上の努力がその身を危険に晒すことを、本能的に悟ったのだ。

 

「アハハハハハ!」

 

ハスキー、と称するには痛々しすぎる笑い声を上げたルイズを振り返り、コルベールは遂にその少女の精神が限界を迎えたと思った。

事実、彼の目に飛び込んで来た少女の目は、異様なまでに爛々と輝いていたのだから。

 

「聞いた!?ツェルプストー?恐るべき貴族を気にかける程に、この国の平民は気高いのよ!あんたのお里の様に成り上りがひしめく国体に、この快挙は絶対にもたらされない!…そしてコルベール先生、教えてください。未だかつてここまで惨めな貴族がいたでしょうか?歴史の浅い隣国の貴族に劣り、そしてあろう事か守るべき平民にすら心配される!いつか使えるようになると言うその日までに私は一体、いくたび祖霊に泥を塗れば良いのですか!」

 

「もう良い、やめて。」

 

今の今まで沈黙を保っていた、自らをタバサと称する少女が前に進み出る。

 

「今の貴女は、貴女自身を裏切っている。もう、今日はこれまでにして。明日は必ず、違う朝が訪れる。」

 

貶しているとも褒めているとも取れるその言葉は、正しくこの場の全員の代弁であった。

そう、ただ一人を除いて。

 

「フっ。タバサ、だったかしら、アンタ。いつも何を考えているかわかんない女だったけど…。そんなんだから、アンタは本名一つ名乗れないのよ。そして今ね、私にはハッキリわかったことがあるの。だから邪魔をしないでちょうだい。」

 

そしてルイズは一拍の呼吸を置くと、絶望を声に載せてその場を走らせた。

 

「明日なんて来ない。今この瞬間、魔法が使えなかったら、私には一生出来ない。だからもう、躊躇わない。」

 

そして遂に、その残り少ない体力と精神力を絞り出し、彼女は誰もが望まぬその詠唱を、高らかに詠みあげたのだった。

 

 

 

 

「喝ぁぁぁつ!!!」

 

突如として、その場の空気そのものを震わせる大声が響き渡った。

しわがれ声に耳が慣れてしまった教師一人と生徒二人にメイドを加えた4人は、ルイズがついに狂ったのかと錯覚した程である。

しかしよく聞くと、それは男性の声である。

 

「その意気や良し!しかし周囲の好意に感謝すら無いとは、このどタワケめが!」

 

時間を考えろ、と怒鳴り返したくなるほどに活き活きとしたその声の主は、予想だにしない遥かな上空からその場に舞い降りた。

ズウゥん、と凄まじい次響きを立ててその場に砂埃を舞い散らせたその存在は、異様の一言に尽きる。

 

「な、な、な!」

 

シエスタというメイドなどは、あまりの事に普段の落ち着きを無くし、壊れた蓄音機のように一言を繰り返してしまっている。

それもそうだろう。

見慣れない衣服に身を包んでいることを除けば、白髪の老人が砂埃の中から姿を現したのだから。

 

「誰よ、アンタ。」

 

ルイズは、甲高さを失った声に心からの疲労を乗せた。

流石の彼女も、今目の前で起きた事態に、ついていけないようである。

 

「自分で蒔いた種にすら気づけぬのか、この未熟者!」

 

「キャッ!痛いじゃないの、何すんのよこのジジイ!」

 

頭を抑えて蹲るルイズを見て、周囲はようやく彼女の頭に拳骨なり何なりの打撃が加えられたことに思い至る。

その老人の動きはそれ程までに速く、常人の目には止まらぬものであった。

 

「な、何と…」

「速過ぎる。一体何者。」

 

修羅場に身を晒したことのある教師と青髪の少女がそう呟く。

 

「いつまでボッとしておる!シャキッとせんかぁ!」

 

息つく間も無い、とは正しくこの事であろう。

一体全体、何がどうなっているのか。妙に姿勢良く、そして堂々と大声を張り上げ続けるその老人に、誰もが言葉を失う。

 

「ま、まさかアンタ…」

 

だがルイズは、流石に何か思うところがあったようだ。

 

「そのマサカよ。お主の魂の叫び、しかとワシの元にも届いたぞ。誇るが良い、小娘よ。お主は確かに、最強たるこのワシを呼び寄せたのだ!

 

次々と飛び出すその仰天の一言一言に、思わぬところから歓声が上がるのだった。

 

「お…」

「おおおおお!」

 

その老人を除く全員が振り返ったその先には、期待していた何かを正しく目にしたかの様な男子生徒が屯していた。

 

「ゼ、ゼロのルイズが…」

「痴呆老人を呼び出したぞぉぉぉぉ!」

「こ、これは歴史的快挙だぁぁあ!」

「い、イヒヒヒヒッ。やめて、笑わせないで、呼吸出来ないぃぃ!」

 

爆笑の渦に包まれている彼等を見て、青髪の少女は密かにため息を吐いた。

鬼気迫る表情で詠唱と爆破を繰り返すルイズを目にするや、苦情すら吐くことなくそそくさと踵を返し彼等の背中は、記憶に新しい。

大人しく隠れていれば良かったものを。と思わずにはいられない。

 

何せ目の前の老人は、そんな彼等を目にするなりいきり立ったからだ。

 

「嗤うな!」

 

先ほどまでルイズに浴びせていた怒声とは明らさまに異なる、正しく覇気そのものといった声がその場を支配する。

決して大きく無い筈のその声は、その言葉通りに静けさをもたらした。

 

「さ、さささっきからワケわかんないのよ、アンタ!私はルイズ!私の声に応えたというなら、まずはその名を名乗りなさい!」

 

――何か、ようやくいつものヴァリエールらしくなって来たわね。

無い胸を張り、精一杯背伸びしてみせる彼女の姿を目の前にしながら、赤髪の少女はそんな感想を抱いた。

 

「ほう、ワシの気迫に呑まれてはおらぬか。良い、とくと聴け!ワシの名は東方不敗!二つ名をマスターアジア、至高の格闘家であるぞ!」

 

「お…」

「おおおおおおお!」

 

「ジ、ジジイが…」

「格闘家!」

「しかも最強の!」

「ほ、骨折れちゃうんじゃないの、お爺ちゃん!」

 

今度は、一睨みで大人しくなる男子4人組。

懲りないヤツらである。

 

「して、小娘よ。如何な故あって、このワシを呼び出した。」

 

さて、ここは出番かな、とコルベールは踏み出した。

異例も異例。まさか人を呼び出すとは思えなかったが、これは授業の一環とはいえ神聖な使い魔召喚の儀式である。

熱心な生徒がやっとの思いで成功させた、初めての魔法でもある。

出来る限りの手助けは、してあげたかった。

 

そんな気配を感じ取ったのか、白髪の老人は振り返りもせずにこう告げた。

 

「そこな薄毛よ、甘やかすでないぞ。先ほどから見ていたがお主、少し手をかけ過ぎじゃ。この小娘には、自分の力でワシを説得する必要がある。」

 

「…さっきからってアンタ、一体いつからここにいたのよ。」

 

「昼からだ。」

 

「えっ?」

「はっ?」

 

東方不敗の放ったひとことに、その場の誰もが呆気にとられた。

今、この老人は何と言った?

 

「あ、アンタいいい今なんて…」

 

「だから既に10時間前にはこの地に足をつけておったと言っておるじゃろうが!」

 

「だったら今まで何やってたのよー!」

 

「何、新天地祝いにと、身体を慣らして来たとこじゃよ。そろそろ、土産が届く筈じゃ。礼はいらぬぞ、心して受け取れい。」

 

ちょっとどころでなく、何を言っているのか全くわからない。

ルイズをはじめとしたトリステイン学院の個性的な面々は、ことここに至って思いを一つにしようとしていた。

曰く、ついていけない。

 

すると、突如として強烈な地響きと轟音が彼等を襲った。

そして数秒遅れて、ヒューん、と何かが風を切る音が響く。上空から。

コルベールは背筋を凍らせた。

音に速度があることを知る彼には、それがどれだけ異常なことかが良くわかったからだ。

 

「うお、、お…」

「おおおおおー!!」

 

その場に響く歓声も含めて、既視感のある光景が広がっていた、

もくもくと立ち込める煙。

 

しかしその中から姿を現したのは何と、巨大な岩石をその身にまとったゴーレムであった。

 

「ななな、何が一体…」

 

「フン!妙な女がコソコソしておったから、少し締め上げてやったまでのことよ。抵抗の挙句に置き土産を残して行ったのでな、頂戴してきてやったぞ!さぁ、己のファイターとするなり、好きにするが良い!」

 

もう一体、何が何なのやら。

 

「あんなデカいゴーレムってさあ…」

 

「土くれのフーケとか、じゃね?」

 

「パネーな。」

 

「ひょっとしなくても、あのジイさん、メイジなんじゃね?」

 

呑気な推論に盛り上がっているのは、言わずもながな男子4人組である。

 

「ここここんなの、私に一体どーしろっていうのよ!」

 

「ムッ?乗り込んでファイターとして使うなり何なり、好きにしろと言うたではないか。そんなことはどうでも良い!それよりもワシの質問に答えておらんぞ、話が進まんではないか!」

 

――誰の所為だよ!

全員の心が一つになったところで、ルイズはようやく冒頭の彼女の心境に舞い戻った。

その様を見て、後に雪風の魔女と呼ばれた至高の存在はいみじくも語るのだった。

上げて落とす、その妙技を見たと。

 

「アンタを使い魔として呼び出したのよ。使い魔は主人に尽くし、生涯をかけて護り通す存在よ。」

 

「このタワケがー!」

 

――だから何が!

これも全員が思ったところである。

始終怒鳴り散らしの東方不敗は、口を開けば一括し出す有様である。周囲には彼が何をそんなに激昂させているのかが、全く伝わってこなかった。

 

「痛い!さっきから人の頭を何だと思って…」

 

「何たる他力本願!何たる情けなさ!これが我が主たらんとする者の姿か!そんなことだからオマエは、いつまでたってもゼロなのだ‼」

 

「何ですって!?」

 

さすがにその一言は、捨て置くわけにはいかない。

ルイズには先ほどから続く動揺を、沈める必要すらなかった。この使い魔として召喚した老人は、言ってはならない事を言った。

底知れぬ実力を秘めていることは嫌と言うほど分かっているが、その言葉だけは頂けない。

 

「マスターアジア、東方不敗と言ったわね。アンタに私の、何が分かるというのよ。」

 

「フン、お主の葛藤なぞ、ワシの知ったことでは無いわ!それよりも、とくと見せて貰ったぞ!先ほどまでの滲みったれた姿、あれは一体何だ!」

 

「お…」

「おおおお!」

 

再び上がる歓声に、さすがに許容量を超えかけたコルベールが激を飛ばそうとしたが、その必要は無かった。

この老人の言葉も度し難いが、横槍をこれ以上入れさせまい、という彼の思いは予想外の形で裏切られることになる。

 

「確かに、凄まじく惨めだったよな…」

「ああ。」

「でもさ。」

「ポッと出の人に言われる程、安くは無いだろ。」

 

思わぬ所から援護射撃が来たものだが、それこそこれしきで絆されるほどルイズの自尊心は安くは無い。

 

「私は、さっきの魔法が成功しなければその場で力尽きることも厭わなかった。覚悟を決めたつもりだった。それが貴方の目には、惨めに映ったの?」

 

「そうとも。ようやく理解したか、小娘?」

 

仰天の連続にどこか浮足立っていた雰囲気は、完全に霧消していた。

 

「アンタこそわからないでしょうね、魔法を使えずして貴族として生まれた私の苦しみは。魔法を使えなければ、背に庇う民を守れない。私は、貴族としてそうした不退転の覚悟で臨み、アンタをを呼び出すことかできた。何ら恥じることはしていないつもりよ。」

 

「ここまで問うても、まだわからぬのか!魔法なんざはどうでも良い!お主の成し遂げた行為は、見も知らぬ他人のワシに助力を求めたのみ!貴賎を語るその口で、物乞いにも等しい言葉を吐いたことにすら気がつかぬのか、このアホウめが!」

 

この一言は、さすがにルイズの心を打ちのめした。

何も、召喚魔法だけを必死に練習してきたわけでは無いのだから。

 

これまでに学んだ魔法の数は、ざっと数えても百を超えている。

その尽くに失敗し、涙に枕を濡らした夜の数は千ではきかない。それ程までの道程を経て、ようやくたどり着けたのが今日なのだ。

努力が尽く無に還る事態の終着点に、召喚魔法があったまでのことなのだから。

召喚の儀式は、進級の見定めとなる神聖なものである。最後の土壇場で、これまで成功していなかった魔法を初めて成功させたルイズに、それはあんまりな言葉だった。

 

「ミスタ、東方不敗!今すぐ、その言葉を取り消して頂きたい‼ 何てことだ、よりによってそんな言葉を彼女に対して吐き捨てるとは…。ミス・ルイズへの侮辱は、許すわけにはいきませんぞ。」

 

青髪の少女は、底冷えのする教師の言葉に、少しばかり背筋を寒くした。

本気で怒気を放つその姿に周囲が気おされる中で、東方不敗は堂々としたものだった。

 

「ふん、思えばお主は甘やかす云々以前に、教師としての覚悟が足りなかったのではないか?お主の中途半端な指導が、この小娘をここまで追い詰めたのではないのか?」

 

「…ミス・ルイズの指導者として至らなかった事実は、甘んじて受け止めましょう…。」

 

「ワシを舐めるなよ?小僧。そんな表面的なことでは無い、目を見ればわかる。お主、かつて振るった力に負い目を感じておろう?…否定の言葉すら無いか。力を畏れるあまり、そこな小娘の振るう力を警戒し、凡庸な指導に終始したな?自身の過去すら拭えぬ男が、どの面下げて後進に道を解いていたのだ!この半端者めが!」

 

「止めなさい!!」

 

ルイズは叫んだ。

もうこれは、使い魔が召喚に混乱しているとか、そういうレベルの話では無い。ルイズは、今、自分の呼び出した使い魔によって一人の男の尊厳が踏みにじられていることを、敏感に察したのだ。

 

「あ、アンタ一体何様のつもりなの!私だけじゃなくこんなに親身になってくれたコ…コッパゲール先生まで蔑めるなんて、アンタこそ最低よ!恥を知りなさい!」

 

いや、名前間違えてる。

その場の雰囲気から指摘は控えたが、赤髪の少女は妙に冷静だった。

 

「恥!?恥と言ったか小娘!ならばせめて、その卑しい身がワシの上に立てる存在であることを証明してみせよ!この口先娘が!魔法とやらがそこなまでに尊いのならば、この周囲の穴掘り以外にも役立つことをワシに示してみせろ!この、"ゼロ"め‼」

 

「ふっざけんじゃないわよこのジジイー!」

 

マズイ!

とっさに身をかばった赤髪の少女は、明日の新聞の一面を思い浮かべて真っ青になった。これまで、あの強力な力が人に向けて放たれたことは無い。

口さがの無いクラスメイトですら、その一線だけは超えてほしくないと軽口に留めていたからだ。

それがどんな凄惨な結果をもたらすかは、想像に難くないからである。

 

その筈なのだが…。

 

「ヌウゥウン!」

 

目の前で、あり得ない光景が展開されていた。

老人がその腰に巻いた布を信じられない速度で回転させ始めると、その渦に巻き込まれるかのようにルイズの爆発が、掻き消されたのだ。

 

「フハハ、どうした.その程度のものか!口だけは立派なガキが、中途半端な指導者に甘やかされていては、所詮この程度か!この老骨一つ傷つけられずに、何が魔法か!何が民を守る貴族か!笑わせるでないわぁ‼」

 

「バカな。あり得ない…。ジャベリン!」

 

「何なのあのお爺ちゃん…。って、アンタまで何やってんのよ、タバサぁ!」

 

黙りを貫いていた青髪の少女は、何をトチ狂ったのか、氷で槍を象り、その渦の中心に投げつけたのだ。

常こそ表面化する機会が無いが、元より彼女は、結構短気なのである。ここまで威勢良くポンポンと罵詈雑言を吐かれては、自身のことでは無いといえども平静ではいられないのだろう。

 

「フン、小賢しい手品の類か? 威力は小娘以下ではないか、陰気なメガネ小僧よ!どうした、それで終いかぁ!」

 

「…もう怒った。」

 

そう言うと、今度はその二つ名に恥じない氷の旋風が立ち上り、老人の姿を覆いかくさんばかりに迫る。

しかし。

 

「喝ぁぁぁぁつ!」

 

東方不敗が一声を発すると、その魔法は一瞬で掻き消された。

 

「喧しい!外野は引っ込んでおれ!」

 

――挑発したのは、あんただろーが。

ここでまた周囲の思いが一つとなる。

ある意味、魔法よりスゴイ現象をこの東方不敗という存在はもたらしていた。

 

「わかるか、ルイズよ?今のお主では。ワシが主として仰ぐにはまるで足らんのだ。」

 

「…も、もう嫌よ。何なのよ、私の何がそんな気に喰わないのよ!呼び出したのが嫌だったなら、サッサと帰ればいいじゃ無い!何で、初めて成功した魔法でこんなに悲しい思いをしなければならないの?こんな、こんな思いをするために今まで努力してきたなんて、あんまりよ!」

 

「このタワケがぁ!主たらんとする者が、この程度でメソメソして何とする!」

 

「そりゃ貴方が悪いわよ、ちっちゃい子泣かしちゃって…」

 

ひょっとすると、この赤髪の少女は結構な人物なのかもしれない。

東方不敗は、取り乱してばかりの周囲の中で落ち着いた言葉を放つキュルケを一瞥すると、そんな感想を抱くのだった。

 

そしてツカツカと歩み寄ると、ビクッと身体を飛び上がらせた桃色頭にソッと手を添えるのであった。

 

「ワシはな、ルイズ。お主に感謝しておるのだよ。」

 

突如として怒鳴り声を潜め、何とも深みのある声で語り出した老人に、周囲の目が再び集まる。

ルイズもおっかなビックリ、涙でグジュグジュになった顔を上げて、己の呼び出した存在と正対するのであった。

 

「ワシは…お主の声が届くまで、とある世界で故郷の星を救わんと戦っておった。その最中に病を患ってからは、見当違いな手段をとってしまってな。この新天地でやり直す機会を与えてくれたお主には、言葉もない。」

 

ゆっくりとそう語ると、彼は背後を振り返るのであった。

 

「コルベールと言ったか。お主にも、心無いことを言った。ワシとて過ぎたる力に溺れ、己を見失った卑しき身よ。だからせめて…お主たちの目の前で、己の過ちを正そう。」

 

周囲がクエッションマークを浮かべる中、東方不敗はポンとルイズの頭を撫で、ゴーレムの残骸へと僅かに歩み寄る。

 

「出でよ!マスターガンダム‼︎風雲再起ぃぃ‼︎

 

突如として叫び始めたその姿を見て、痴呆だとかボケだとかの単語を思い浮かべる者は、最早この場には存在しなかった。

余りの仰天の連続に、どこかヤサグレた気分になっていたのだ。

 

しかし‼︎

 

音もなくその場にゴテゴテとした漆黒のフレームの巨人が姿を現し、それが館ほどの巨大さを誇る白馬の上に突っ立つ現実を前にしては、驚き疲れたとも言っていられなかった!

特に年頃の男子生徒4名の狂乱ぶりは、筆舌に尽くしがたいものがある。

 

「お…」

「おおおおぉおお!」

 

「な、ななんああ!」

「何だあれ、巨人の騎士か!?」

「マジかよ、おいマジかよ!」

「マジかっけー!」

 

小躍りしそうな、というレベルではなく実際に手を叩きあって大はしゃぎである。

まるで騎士の甲冑の様な装甲に身を包んだ巨人が堂々たる腕組みをして、馬上から周囲を睥睨しているのだ。これを見て興奮しない奴は、男じゃねえ!とばかりに彼等は大声でハシャギ倒した。

 

だがそんな中で、ことにこの事態を引き起こした東方不敗はゆっくりと目を閉じ、何やら集中し始めるのであった。

その左手をルイズの頭に載せたまま、そしてゆっくりと語り続けるのである。

 

「ルイズよ…。わかるか?こやつらは、お前の言うところのワシの使い魔じゃったやつらよ。そしてワシの誤った心が呼び出してしまった、不幸な存在でもある…」

 

ルイズは、乱暴な老人の声がこれまでになく優しく…そして悲しさを秘めているものであると気づいた。

 

「道を違えたワシにすらよく尽くしてくれた、こ奴らは…自慢の相棒どもじゃ。だからこそ、お主に道を説くための存在として相応しい。刮目せよ!これが‼ 」

 

東方不敗が最終奥義、石破天驚拳‼

 

とてつもない大音声と共に、周囲を烈風が走り抜けた。

東方不敗の背に位置するルイズ達ですら、両手で顔をかばわずにはいられない程の衝撃が見るものを襲う。

余波ですらそんな有様である。

 

ましてその圧倒的な力を向けられた先は…言わずもがなであった。

つい先刻、圧倒的な迫力をもってその場に現れた存在は、もうそこには無い。

粉々になっているとかそういう次元の話では無く、跡形もなく消し飛んでいた。

 

唯一その名残を残すのは、確かな重量物の跡としての足跡と、それが引きずられ、共に消滅した森林跡のみである。

 

 

――ヒェェェエェェ!

 

――あばばばば、巨人の騎士がああああぁぁぁぁ!

 

――も、森が‼ いや、大地が削り取られているううぅっぅぅぅ!?

 

――な、何てことを!あれほどの技術の集大成を!ああ、これは間違いなく人類の損失だ!

 

――あの力、私も欲しい。…だが小僧と呼んだことは許せない!

 

――あんな無理して大丈夫なのかしら、おじいちゃん。それにしても最早これ、スクエアとかそういうレベルじゃないわよね。ペンタゴンとかヘキサとか、ひょっとするともっと上の…。

 

ようやく事態に頭が追いつき悲鳴を上げるギャラリーも、思い思いの言葉を脳裏に浮かべこそすれ最早声を失っている。

それ程までに超常の、神話級事態が繰り広げられていた。

 

 

当事者たる東方不敗はその凄惨な破壊の跡をしばし目を見開いたまま見つめていたが、やがて深々と頭を下げた。

その様はまるで臣下の礼をとる騎士の様に堂々としたものだったが、神々しさの欠片も無かった。

そこにあるのは一人の寂しい男の背中である。

 

「…。これで、良かったの?」

 

「ああ。」

 

ルイズは暫くした後、ようやく口を開いて疑問を声にすることが出来た。

わからないこと尽くしであるが、東方不敗が確たる信念をもって惜別を遂げたことだけは、なんとなく察することができたからだ。

揺ぎ無く答えたことからも、東方不敗の中では迷いが無かったことを示している。

 

「あの…、マスターガンとか風雲斎とかは、あんたに逆らったりとか、何か許されないことをしたの?」

 

「いいや、まさしく奴らこそ忠臣の範たる存在であった。」

 

「だったら何でよ!あんなスゴイのに忠節を示されておきながら、何でこんなヒドイことするのよ‼ こんなのあんまりじゃない‼」

 

ルイズは悲しかった。

自分の存在の矮小さを思い知らされたからではない。

東方不敗の凄まじさに圧倒され、恐怖したからではない。

その使い魔…と思わしきゴーレムを消し飛ばしてしまったからではない。

彼等に真の忠誠を感じながらも容赦なく切り捨てるその姿に、主君としての残酷さと悲壮を垣間見たからである。

 

「そうじゃ。ワシは武闘家として過ぎたる力を求め、それに応えてくれたのがあの二人じゃった。その過ちを正し、過ぎたる力の存在を是正するには…こうするしかなかった。…じゃからな。」

 

東方不敗はルイズの両手を取ると、そっとその五指を曲げさせて拳を模らせた。

 

「人間は、過ぎたる力を他人に求めてはならんのだ。それは双方を不幸にする。人が真に求めて良いのは、ひたすらに己の力を研ぎ澄ます、この道しかないのだ。」

 

ルイズは自身の両手に優しく添えられる東方不敗の手を見つめ、そして首を振った。

 

「アンタの言っていることは、チンプンカンプンよ。何を言っているかわからないわ。私にアンタみたいなことが出来るわけ…」

 

無い、と言おうとしたルイズ。

そんな彼女に対して、再び雷鳴が突き刺さるのであった。

 

「このドアホウが‼ 試しもせずに諦めるとは、何たる負け犬根性だ!お主はつい先ほど何と言った!今この瞬間出来なければという不退転の気概は、一体どうしたのだ‼」

 

「で、でも。でもやっぱり私は魔法ができなくて…」

 

ルイズはこんらんした!

元よりこれほどの罵声を浴びせられる経験には乏しい彼女である。おまけに時は深夜。

体力も限界に近付いている。

 

「このドたわけがぁ‼ ワシに魔法のうんちくがわかるはずもなかろう!ワシが言っておるのは、お主の格闘家としての才能よ‼」

 

「えっ!?」

「ハッ!?」

 

「いや、そりゃメイジとしては…」

「どこか変だと思ってたけどさ。」

「格闘家?」

「さっきみたいな魔法を使う、新手の魔法使いのこと?」

 

突如として語られた衝撃の言葉に、誰もが置いてけぼりを食らっている。

そんな中で怒声を張り上げてられるのは、当然その混乱をもたらしている東方不敗その人に他ならない。

 

「ワシには、先ほど青髪小僧が放ったような不可思議な力は無い。しかし、これだけはわかるぞ!お主には、あのようなチンケな力に頼らずとも良い、格闘家としての立派な才能があると。」

 

――やはりこの老体、生かしてはおけない。

青髪の少女は一人、殺意を募らせるのであった。

 

これに対して桃髪の少女ルイズは、やはりまだ混乱していた。

 

「格闘家って…殴ったり蹴ったりする人でしょ?嫌よ、そんなの。それに魔法の方がスゴイに決まって…」

 

「このタワケがぁ!そのご立派な魔法とやらに頼ろうとして、ここまで負け犬根性をこじらせたその身でなお、縋ろうとするか‼ 」

 

「仕方ないでしょう!?私は、貴族として、魔法を使う身としてこの世に生まれたのよ!しかもようやく今日、貴方を呼び出す魔法を人生で初めて、成功させたのよ!まだまだこれからだと思って、何が悪いの!?」

 

時間は有限だからだ。

病を患ったこの身では、お前をこれからどこまで導いてやれるかわからない。

だからせめてこの命尽きる前に、人生で出会った最高の才能に今日まで磨き上げた技術の全てを授けたい。

使い魔を呼び出す?そんなつまらない魔法に一喜一憂しないで欲しい。

果て無き頂点を目指せる才能を、埋もれさせないで欲しい。

 

静かに、そして真摯に語る東方不敗の姿を見て、ようやく周囲も事態が飲み込めてくるのであった。

 

「まさか…ルイズは…、おじいちゃんがさっきしてみたことすら、出来るようになってしまうの?」

 

「お主、なかなかに見どころがあるではないか。しかしまだ青いな。あの程度、こ奴の潜在的な実力の前では児戯にすら等しいわ。」

 

――どんなバケモノよ、それ!?

いい加減にキュルケはバカバカしくなり、どうにでもなれという思いでルイズを見やった。

彼女には依然、迷いが見て取れる。

 

「い、いきなりそんなこと言われても困るわよ!まだ私、メイジとして何も成し遂げていないのよ!こんな中途半端な、というよりも入口で、他の道を踏み出したところで、半端者にしかなれないんじゃ…」

 

「お主も大概に頑固じゃのう、ルイズ。じゃがその姿勢、嫌いではないぞ。…フム、ではお主には、その未練をさっぱり断ち切ってもらうことから始めるとしよう。」

 

東方不敗はニヤリとし、再び覇気をその身にまとい始めた。

そして何か忌々しいものでも睨みつけるようにして、天上を仰ぎ見るのであった。

 

「ルイズよ、何人たりとも否定できぬ功績を遺せれば、魔法とやらを諦めると誓えるか?」

 

「そうね…。背に負う民を守る力を得られるのであれば、それが魔法でなくても良いのかもしれないわね。でも魔法の道で何ひとつ遺せない身で、それを成し遂げるのは難しいと思う。だからこそ…あなたの言うことは、一つの道標になるでしょう…」

 

ここに来てようやく、ルイズと東方不敗の思いは重なりつつあった。

 

「うん、誓うわ。魔法で一つの功績を遺せたら、貴方の教えに従いましょう。」

 

「…良い目をするようになったな。」

 

コルベールはそんな二人のやり取りを見てどこか悔しく、そしてうらやましく思った。

東方不敗の言う通り、なのであるから。教師としてここまで堂々と誰かと相対するルイズを見ることは、今まで無かったのである。

 

しかしそんなほっこりした気分は、次の瞬間にぶち壊された。

 

「ではあの目障りな月の片割れを消し去ることは、前人未踏の功績になるかの、コルベールとやら。」

 

「それはもちろん歴史に名を遺すでしょうが…って、え?何を言っているのですか?」

 

一体これで何度目だろうか。

もう嫌になるほどであるが、コルベールも含めたその場の全員が頭を抱えた。

――何を言っているのだ、この人は?

 

「フン。そう謙遜せんでも良いぞ。門外漢であるワシにすら、ルイズの魔力が桁外れなことはわかる。じゃがワシがその力をうまく誘導してみせれば…」

 

と、まるで世間話でもするかのような気楽さで。

ルイズの右手を天に翳させて。

何かを語りかけた。

 

ルイズは少し嫌そうな顔をし、そして肩をすくめてこんなことを呟いた。

 

「は?何言って…ま、いっか。やってみれば良いんでしょ?爆ぜよ!」

 

それは、はじめのうちはわかりづらかった。

しかし次第に、異様な変化が彼らの頭上で展開されることになり…、やがては失神する者まで出始める有様となった。

 

そんな惨状の中、東方不敗の声だけがしんしんと響くのであった。

 

「良いか、ルイズよ。頂点は常にただ一つ、そこにあるのみだ。お主も、そのような存在となるのだぞ。」

 

 

 

それから数か月の後のことである。

 

とある戦場の一画に、徒手の少女がその姿を現したのだった。

 

その腰に巻かれた布の色から、彼女は”ピンクの悪魔”の異名をとることになる。

 

 

 

 

 




ド派手に話を広げる練習をしようと思い、クロスオーバーの聖地であるハルキゲニアにマスターアジアに参上願いました。
話を広げる、という概念を間違えているかもしれません…。
ご意見ご感想、お待ちしております!

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