マジ恋〜直江大和は夢を見る〜   作:葛城 大河

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なんか、一気にお気に入り件数が増えた。
そして今回の話は、やり過ぎた。もう一度、言おう。少し大和とヒュームでやり過ぎた。



第三拳 最強の邂逅、覆面Xの不運

彼は戦闘狂ではない。しかし、もしも目の前で困っている人が居て、それを解決出来る力があれば躊躇せずに少年は使う事だろう。あの日から持ち続けた覆面を被って。だが、それが必ずしも良い方向に進むとは限らない。

 

 

今回の話が、その最もな例だろう。別に少年は悪い事をしてはいない。むしろ世間一般的には良い事をしていた。人助けなのだから当たり前である。ただ、少しばかり周りを注意してやれば良かったのだ。そうすれば、奴に眼を付けられる事はなかったのに。未来の彼は、その時の事をこう語っていた。

 

 

────『不良執事、怖い』と。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直江大和は日課である鍛錬を終わらせて、タオルで汗を拭いていた。もう、そこに眷属である小雪は居ない。小雪を病院に連れてった後、恐らくこれから少女の周りが忙しくなるだろうと予想して行かなかったのだ。それに、少し様子を見た時に小雪が、自分の同じぐらいの年齢の者達と仲良さそうにしていた。それに、彼は笑みを浮かべて『俺はもう必要はないな』とカッコつけて帰ったのは良い思い出である。

 

 

もう、その時から小雪に会っていない。噂では小雪に新しい家族が出来たらしく、そこで楽しく過ごしているらしい。ソレを聞いただけで大和は満足だった。やっと、少女は家族の温もりを味わえるのだから。後、友達も出来たのだ。マスターとして嬉しくない訳がない。そんなこんなで、少年はまた一人になっていた。一人に戻って、数日後ぐらいに彼は後悔したのは内緒である。久しぶりの一人に、少し孤独感が増していた。

 

 

だが、それを振り切って少年は修行を続けたのだ。まるで、時間を取り戻すかのように。その成果の結果、また一段と彼の武に磨きがかかっていた。今まで出来なかった技とかが出来るようになったのだ。出来なかったものが、出来るようになって興奮してしまい少しハッチャケてしまったが、それは別に如何でもいい話である。

 

 

「おっと、もうこんな時間か。熱中しすぎたな」

 

 

汗を拭き終わった大和は、自身の時計に眼を移して、今の時間に驚いた。夜の十時を回っていたのだ。修行の開始時刻が朝の七時だと思えば、どれだけ経過したかが分かるだろう。

 

 

「ヤバイな。母に怒られるなコレは」

 

 

自分の母親が怒った姿を思い浮かべて、少年は顔を青くする。あの母が繰り出す頭突きだけは味わいたくないと、急いで大和は帰る事にした。足に力を込めて跳躍する。たったそれだけで、大和の姿が掻き消えて、建物の屋根に飛び移る。そこから、屋根から屋根にへと跳んで行く。と、そんな時だった。

 

 

「……………ん?」

 

 

跳躍している大和が、とある家のベランダに不審な影を発見する。気になった彼は動きを止めて、視線を向ける事にした。夜になっていて、暗闇になっていたとしても、大和の視線はベランダの影を容易に捉えた。影は、ベランダに干されている女物の下着に手を掛けて、気持ち悪い笑みを浮かべていた。つまるところ、アレは…………。

 

 

「ただの下着泥棒かよ」

 

 

思わず素の声で呆れた言葉を漏らす。全く、いい大人がなにをやってるんだと大和は首を振った。しかし、見てしまったのは仕方がない。このまま時間が進めば、あの泥棒は下着を盗み終えて、逃げる事だろう。気付いたのは自分一人だけ。なら、やる事は決まっている。大和は自分のポケットから、ある物を取り出した。

 

 

「さて、と。これの出番だな」

 

 

ソレは覆面だ。だが、あの時とは少し違っており、覆面の額の部分に『X』の文字が付けられていた。その覆面を躊躇なく被ると、大和は右拳を腰に添え、左手を右の方に伸ばすポーズをする。

 

 

「ふっ、覆面X参上っ‼︎」

 

 

誰も周りに居ないのに名乗りを上げて、大和は下着泥棒の元に跳躍するのだった。

 

 

 

 

「ふ、ふふふふふ。今日は大量大量。これも俺が良い事をしてる証拠だぜ」

 

 

男は荒い息と共に、一心不乱に下着を掴み取ってはリュックに詰め込んでいた。下着に夢中だったからだろうか。男は気付かなかった。自分の背後に一人の少年が実に冷めた視線を向けている事に。

 

 

「よし、これで終わりにするか。ふふっ、帰ってからの楽しみだぜ」

 

「────ほぉ、なにが楽しみなんだ?」

 

「……………ッ⁉︎」

 

 

だから、突然に後ろから響いた声に男が驚くのは当然と言えた。それでも声を上げなかったのは、下着泥棒としてのプライド故か。バッと男は声のした方向に顔を向ける。そこには、覆面を被った子供が居た。その覆面の額には『X』の文字が、存在を主張している。まさか、見付かったかと慌てた男であったが、少年の姿を視界に収めてホッと息を吐く。それに、なんで安堵したんだと疑問を浮かべる彼だったが、次の一言でブチ切れた。

 

 

「なんだ、同業者か」

 

「────違うわッ‼︎」

 

 

つい、大きな声を出して男の頭を弾いた彼は悪くない筈だ。突如、訪れた頭の衝撃に男の意識は一瞬にして暗転する。崩れ落ちた男に、大和は怒りを露わにしていた。

 

 

「全く、俺の何処が同業者に見えたんだ。心外だ。覆面Xの格好良さも分からないとはなっ‼︎」

 

 

怒りの言葉を撒き散らし、盗まれた下着をリュックから出して丁寧に返していく少年。そこで彼は見てしまった。窓に映った自分の姿を。覆面を被り下着を持つ自分。一瞬だけ硬直した少年だったが、下着を全部返し終えると、男を片手で担ぐ。

 

 

「さ、さぁて早くこいつを警察署に届けるかなぁ」

 

 

さっき見た光景など覚えてないというふうに、震えた声で大和は男を警察署に届けたのだった。少し覆面のデザインを変えようかなと考えながら。

 

 

 

その翌日。新聞で小さく載っている昨日の下着泥棒の事件を流し読みしながら、大和は今日は如何しようかなぁと考えていた。今日は日曜日であり、まだ小学校は休みなのだ。とりあえず、修行はしないつもりだ。休む事も修行で大事だと大和は知っていた。だから、今日は修行をせずにぶらぶらしようかと予定を組む。あまり予定とは言えなかったが。

 

 

そして、朝食を食べ終えて大和は家を出る事にした。

 

 

「今日は何処に行くとするか?」

 

 

行き先を考えて、大和はぶらぶらと取り敢えず進んでいく。因みに覆面は、結局の所、変える事はしなかった。もう、これで突き進むと覚悟を決めたのは寝る前の事だ。と、気付かない内に大和は公園に来ていた。

 

 

「ほぉ、公園か。そういえば、ここに来た事はあまり無かったな」

 

 

近くにあったにも関わらず、来た事なかった公園に大和は眼を向ける。

 

 

「ふん。今日は初の公園を楽しむとするか」

 

 

そう言って大和は公園内に足を踏み入れた。そして中に進んで行くと、公園の中に先客が居る事に気付いた。先客が居るなら、ここを使うのは辞めるかと思った大和だったが、そこで行われていた光景に嫌悪感を覚える。

 

 

一人の少女が居た。何処か大人しそうな雰囲気を持つ少女だ。しかし、問題はそこじゃない。少女の周りに居る少年たちが、その少女に向かって悪口にして酷い暴言を放っていた。

 

 

「やーい、椎名菌」

 

「おい、椎名菌。なんで公園に居るんだよ」

 

「そうだぞ。椎名菌が触ったら、汚くて遊べないだろ」

 

「……………」

 

 

なんだこれは? 大和は目の前の光景にそう思った。少女の周りを囲むように三人の少年が立ち、言葉を放っている。中心に居る少女は、なんの反応もしないが、その胸中が一体どれほど傷付いている事か。自分には関係ない事だ。しかし、目の前で見せられたら黙っていられる筈がない。大和は懐から覆面を取り出して被ると、未だに暴言を口にする少年の方に歩いて行った。

 

 

「なに黙ってんだよ椎名菌」

 

「椎名菌、なんか喋れよ」

 

「……………」

 

 

少女は彼らの言葉に耐え続けていた。分かっているのだ。耐えていれば何時もと同じように終わると。ただ、ジッとして耐え続ける。ソレが少女が、このイジメに対して身に付けた事である。黙っていれば、いずれ飽きて辞める事を知ってたから故の行動だ。誰も助けなんて来てくれない。幼いながらも、少女はその事を理解した。だからだろうか。

 

 

「おい、そこでなにをしている」

 

「ん? なんだよおま────ぶっ⁉︎」

 

 

暴言を放つ少年の一人が、そんな声と共に横に弾かれた事に驚いたのは。ソレはなんの変哲もない平手だった。しかし、その平手を受けた少年は面白いように転がる。突然の出来事に呆然とする少女だったが、近付いてくる足音に、ハッと我に返ってそちらに視線を向けた。

 

 

「……………え?」

 

 

そこで見た光景に、いよいよ理解出来ずに素っ頓狂な声を漏らす。そこには覆面を被った少年が立っていた。

 

 

「…………大丈夫か?」

 

「え? う、うん」

 

 

覆面が喋る。それが自分に向けられたモノだと遅れて気付き、少女は慌てて頷いた。

 

 

「それは良かった。立てるか少女よ」

 

 

返事を返した少女に、覆面はニヒルな笑みを浮かべて手を差し伸ばす。ソレが自分を立たせる為の行為だと理解して、躊躇いながらも手を取った。

 

 

(……………あ)

 

 

覆面の手は暖かった。何故かソレに涙腺が弱くなるのを自覚して、泣きそうになるが少女は泣くのを我慢した。泣いてはいけない。ここで泣いてしまったら、イジメが激しくなる。故に、泣く訳にはいかなかった。しかし、そこで少女の額にバチンッという音と共に痛みが広がった。

 

 

「い、痛ッ⁉︎」

 

 

額を抑えて、恐らくはデコピンをしたであろう覆面を見る。すると、覆面は呆れたようにため息を吐いて言葉を紡いだ。

 

 

「なに泣くのを我慢している。お前はまだ子供だ。存分に泣くがいい。泣いても誰も咎めはしない」

 

 

まるで上から目線の発言に、少女はむくれて口を開いた。

 

 

「貴方も………子供」

 

「ふっ、俺は良いのだ俺はな。何故なら俺は…………覆面Xなのだからッ‼︎」

 

「…………覆面X?」

 

 

覆面の名乗りに首を傾げる少女。それに彼は笑みを浮かべて、少女の頭を撫でた後に背中を向きながら言い放った。

 

 

「だが、少女よ。お前の涙を咎める者が居るなら、この俺が叩いてやろう」

 

「………………」

 

 

彼女は眼を大きく見開く。こちらに背中を向ける少年。その背中が余りにも大きく映った。対して覆面X────大和は、相対する形でイジメていた三人と視線を合わせる。先程に平手で叩いた少年も起き上がっていたのか、こちらに視線を向けていた。

 

 

「なんだよお前。変な格好して」

 

「そうだそうだ。椎名菌の味方をするなんて、お前も椎名菌が感染してるんだろ」

 

「やーい、やーい椎名菌二号」

 

「────黙れ」

 

 

口々に悪口を告げる三人に、たった一言を放った。それだけで、三人は口を閉ざす。いや、閉ざすしかなかった。大和の全身から放たれる異常な威圧がそうさせたのだ。ただ立っているだけなのに、三人の少年は恐怖に顔が歪む。そんな中、大和は一歩足を踏み出すと口を開く。

 

 

「もう、この少女には手を出すな」

 

「な、なんだよ」

 

「いいな?」

 

「「「……………ヒッ⁉︎」」」

 

 

有無を言わさない声と共に上がっていく威圧感。少年たちは余りの恐怖に小さな悲鳴を上げて尻餅を付きながら勢い良く首を縦に振った。

 

 

「俺が居ないからといって、イジメを再開しようと思うなよ。俺は何処にでも居るし、何処からでもお前たちを見ているんだからな」

 

 

本来ならそんな馬鹿なと笑う事だが、大和から放たれるその威圧によって彼らにとっては本当にありそうだと思ってしまう。涙を流しながら、歯をガチガチと鳴らす少年たちに、少しやり過ぎたなと思いながら威圧を消すと、手を振って居なくなるように言う。

 

 

「もう、帰るがいい。お前たちが、この少女をもうイジメなければ俺と会う事はない。ただし、またやれば分かってるよな?」

 

「「「は、はい‼︎ 分かりましたぁ‼︎」」」

 

 

余程、怖かったのか少年たちは脱兎の如く公園内から走り去っていく。走り去る少年たちを見送った後、大和は後ろに居る少女に振り向く。

 

 

「これで、イジメをする者は居なくなった」

 

 

恐らくはもうイジメは起きなくなるだろうと、大和は予想する。それだけ、恐ろしい威圧感を与えたのだ。あの子供たちがこの事を広めれば、イジメは無くなる筈だ。もしも、それでもイジメが無くならなければ、手を出した責任は取らなければ行けない。故に、また覆面を被りイジメを撲滅する事だろうと内心で笑みを浮かべる彼である。と、そこで少女が視線を向けて疑問の声を漏らした。

 

 

「…………なんで?」

 

「ん? なにがだ?」

 

「なんで、私を助けてくれたの?」

 

「…………ふっ、そんな事か。それは俺が覆面Xだからな」

 

 

助けた理由が分からないと尋ねる少女に、彼は自身満々に告げてみせた。覆面Xだから、と。それに意味が分からないと少女は首を傾げる。だから大和は言った。自身が作り上げた覆面Xの設定を。

 

 

「俺は人を救う活動をしている。故に、お前を助けた理由は、俺が覆面Xだっからだ」

 

「…………覆面Xだったから」

 

「そうだ。それに、助けるのに理由は要らないだろう?」

 

 

そう言って少女に笑みを浮かべる。その笑みにドグンッと少女は胸が高鳴った。ソレがなんなのかは、まだ少女には分からない。しかし、初めて助けてくれた顔が分からない人に、胸が熱くなる。

 

 

「それと少女よ。もう、イジメられたくないなら友を作れ」

 

「友達を…………?」

 

「そうだ。一緒に苦難を背負ってくれる友だ」

 

「そんな事を言われても」

 

 

友達を作れと言われても、出来たらとっくに作っている。そこまで話すのが得意ではないのだ。そんな自分が友達など出来る筈もないと、少女は俯き出した。だが、彼はそこで一つのグループの名を少女に告げる。

 

 

「風間ファミリーだ」

 

「……………え?」

 

 

風間ファミリー。少女もそのグループの事を知っていた。別のクラスの数人で結成された集団の名前である。いきなりの自分の学校でも有名なグループ名を言う彼に、少女は視線を向ける。

 

 

「風間ファミリーに入れ。奴らは甘い。特に風間翔一に仲間に入れてと頼めば、容易く入る事が出来るだろう」

 

 

彼は続けて言葉を紡いだ。風間ファミリーには簡単に入れる。ソレが噂を聞き続けた大和が思った事だった。特にそのファミリーのリーダーである風間翔一は、来る者は拒まない性格の筈だ。だからこそ、大和はそのファミリーを勧めたのだ。

 

 

「で、でも大丈夫かな。私なんかが入っても」

 

「そう自分を卑下にするな。心配する事はない。お前は自分が知っている以上に、強く気高い少女だ」

 

 

あのイジメの現場を見るだけで分かる。彼女がどれだけ強いのかを。だから安心しろと、彼は少女の肩に手を置いた。真っ直ぐに自分を認めてくれたような発言に、少女は顔が赤くなる。そして、これならもう大丈夫だろうと思った彼は、ゆっくりと踵を返す。と、顔を赤く染めた彼女がソレに気付いて、慌てたように口を開いた。

 

 

「ま、待って‼︎ 私の名前は椎名────椎名 京(しいなみやこ)‼︎ 覆面X、また会えるっ」

 

 

自分が出せる大きな声で、名前を叫び、また会えるかどうかの言葉を口にする。それに対して、彼は背中を向けたまま歩みを止めず、右腕を上げるだけだった。椎名 京にとって、その背中が未だに大きく感じた。

 

 

 

 

 

「ふぅ、ここまで来れば良いだろう」

 

 

直江大和は、人が居ない山に居た。街中で覆面を外す訳にはいかない。今の自分は正体を隠すヒーローなのだ。脳内設定でだが。だからこそ、人が居ない山の中に入り、そこで覆面を脱ぐ事にした。今思えば、何故そんな所に入ったんだと嘆く。しかし、もう過去を変える事は出来ない。故に、彼は会ってしまう。一人の最強に。

 

 

「─────ッ⁉︎」

 

 

覆面を外そうとした彼が最初に感じたのは、全身が痺れる程の殺気だった。まるで、質量をもったような殺気に、なかば条件反射で背後に視線を向ける。しかし、背後に体を向けた彼は全身から警戒音が鳴り響いたのに気付いて、逆らう事はせずに横に跳ぶ。次の瞬間────大和が立っていた場所が勢い良く爆ぜた。爆音を鳴らし、砂塵を巻き上がらせる。

 

 

一瞬の出来事に、少し息を乱しながら大和は警戒を緩めずに、砂塵の奥に視線を飛ばす。すると、全方位に突風が突如として発生して砂塵を吹き飛ばす。そしてその中心地に居たのは、

 

 

「ほぉ、アレを躱すか。やはり、面白い赤子だな」

 

 

金色の髪をして、執事服を身に纏う一人の男が、獰猛な笑みを浮かべて立っていた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

その男は強かった。その男の敵となり得る者が、数人ぐらいしか居ない程に。その男は余りにも強かった。最強と呼べる程に。前まではライバルと呼べる者たちは居た。しかし、時が経つに連れて、ライバルたちは武の道を引退してしまう。残ったのはその男だけだ。だからこそ、彼は探した。強者を、自分の足元並みの武術家を。だが、ソレは現れる事はなく、男にとっては赤子と呼べる程の実力者ばかりだった。

 

 

そんな世界を回っている最中に、ある面白い男と出会い、執事の職業に就くが、それでも男は強者を探す事を忘れなかった。自分は最強だ。故に、探すのだ。最強だからこそ、とある責務が存在する。それは新たな者に最強の座を渡すこと。まだ探すのは早いかも知れない。それでも男は求めた。強者を、最強の座に居る事が許される者を。だが、男の眼に止まった者は現れなかった。

 

 

そして月日だけが過ぎていき、男は強者を探さなくなっていた。俺こそが最強。俺にとって全ては赤子。月日が経てば経つ程、その思いが強くなっていく。だが、男はそこで面白い赤子を見付けた。ソレはとある公園での出来事だ。全身から達人すらも寒気がする程の威圧感を放つ子供。年齢は、つい最近に弟子にとった娘より少し下ぐらいだろうか。

 

 

そんな子供にしては、余りにも強大な威圧感に、男は知らずの内に笑みを浮かべていた。そうしていると、子供が公園から出て行き山の方に向かっていく。その事にちょうど良いと、気配を消して男は着いて行く事にする。

 

 

山の中に入り、立ち止まった子供に男はすぐに行動を起こした。地面を蹴り、背後から奇襲を仕掛ける。これは男にとっては遊びにしか過ぎない。この程度で終われば、拍子抜けだと冷めた言葉を吐く事だろう。だが、その赤子に背後から迫る男に気付いたのか、こちらに勢い良く体を向けてきたのだ。それに益々、面白くなった男は途中で方向を転換。異常な速度を醸し出して、子供の側面に移動すると脚を振り上げた。

 

 

普通の達人ならこれで終わるだろう。自分の今の弟子でもこれは避けられない。しかし、子供は振り下ろす直前に、その一撃を察知して横に避けて見せたのだ。その事に男────ヒューム・ヘルシングの期待度が高まっていった。そうして、こちらに鋭い視線を飛ばしてくる少年に、ヒュームは全身から氣を一瞬だけ放出して砂塵を吹き飛ばすと、口を開くのだった。

 

 

「ほぉ、アレを躱すか。やはり、面白い赤子だな」

 

 

その口に獰猛な笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

直江大和は全身から警報が鳴っていた。その理由は、目の前の男だ。執事服を着て両ポケットに手を入れる男。しかし、全身から放たれる威圧感が尋常じゃない。大和にとって、初めて出会った強者だった。いきなり、攻撃した事に疑問は尽きないが、ソレを口に出す雰囲気ではない。何故なら、あの男が戦闘態勢をとっている事を大和は理解しているから。

 

 

いきなり、攻撃してきて、有無も言わさずに戦闘態勢を取る男に少し理不尽を感じるが、今はしょうがない。気を引き締めなければやられる。あの男は、所謂、大和の夢に出てくる特Aクラスの達人なのだから。すぐに男と同様に、戦闘態勢に移行する。それに男は眼を細める。

 

 

「いきなりの奇襲に対して焦る事はせずに、戦闘態勢を取るか。やはり面白い赤子だ」

 

「こっちとしては、なんでいきなり攻撃したのかを知りたいんだがな」

 

 

何処か感心の声を乗せた男に、大和はここで警戒を解く事はせずに尋ねる事にした。それに男は『なに』と言ってから答える。

 

 

「ただの遊びだ」

 

「────ッ」

 

 

その言葉と共に男は、一瞬で肉薄していた。しかし、大和の眼には男の姿をしっかりと捉えている。次いで激突する蹴りと拳。瞬間────辺りに響く轟音。衝撃波が木々を揺らす。

 

 

「はぁっ‼︎」

 

 

大和は拳に力を込めて、男の蹴りを弾くと、一歩前に踏み込んだ。そして大地を力強く踏み込み、男の体を背面部で一撃を叩き込む。

 

 

────鉄山極波靠(てつざんきょくはこう)

 

 

「……………ッ」

 

 

子供が出せるとは思えない、尋常じゃない衝撃に男は吹き飛ぶ。後ろにあった木をバキバキッと倒しながら、突き進む。たただの一般人ならこれで、決着が付いていた一撃。しかし、この程度では終わらないという予想が大和にはあった。そして、それは的中する。吹き飛んだ場所から、男がまるで無傷で戻ってきていた。

 

 

「赤子にしてはやるな。油断をしていたとはいえ、俺をこうも見事に吹き飛ばすとは」

 

「チッ、やっぱりダメージなしか」

 

 

コキコキと首を鳴らし男は言う。舌打ちしながら分かっていた事に、大和は言葉を吐く。

 

 

「さて、今度は俺から行かせてもらうぞ」

 

 

男がそう言った瞬間には、大和の眼前に立っていた。常人なら、いや達人すらも捉える事が出来ない速度での移動。だが、それでも大和は見えており、防御の態勢をとっていた。この程度で、最早、大和は驚かない。何故なら夢の中で見続けてきたのだから。彼等の戦いを。そして両腕の防御越しからでも伝わる衝撃。ソレを、全身から逃がしダメージをゼロにすると、お返しと言わんばかりに、拳を振るう。

 

 

「…………ここだ赤子」

 

「しまっ……………」

 

 

しかし、眼前に男の姿はなく、自身の背後に移動していた。己のミスに大和はすぐに、防御をしようとするが、もう拳を振るっている最中だ。すぐに引き戻す事が出来ずに、男の蹴りが腹部を突き抜ける。響く轟音。次いで発生する木々を倒す音。さっきとは真逆で、大和は先程の男と同じように吹き飛んだのだ。岩に激突して、漸く止まった大和は、なにもなかったかのように岩から出て着地する。

 

 

彼は気付いていないが、今の大和の実力は最早、夢の中の彼等とも変わらなくなっていた。故に、先程の一撃でも無事で居られたのだ。普通の達人クラスならあの男の蹴り一つで終わっているのだから。大分、吹き飛んできたが、今なら逃げれるのではと思った大和だったが、奥から放たれる殺気に逃げる事は出来ないと悟り、彼は瞬時に息を整えて全身に薄皮一枚分の濃い氣を張った。

 

 

「……………ふぅ、流水制空圏(りゅうすいせいくうけん)

 

 

そうする事で、どんな攻撃も回避する事が出来る技。それを張った瞬間だった。奥から男が飛び出してきた。しかし、大和は男の眼に視線を合わせて冷静に対処する。頭上から振り下ろされた鋭い蹴りを、ゆっくりとした動作で、右拳をトンッと当てて逸らす。次いで横から迫る拳撃を、手で外に弾き、逸らし、躱していく。

 

 

徐々に激しさを増していく連打は、しかし、その悉くが軽い動作と共に逸らされていく。

 

 

「…………これは? 成る程、俺の動きの流れに合わせている、いや、一つになる事で俺の動きを読み取っているのか」

 

 

少年が使う技を男は、数分も経たずに看破してみせる。ニヤリと口元に男は笑みを作った。その技の特性は分かった。このままでは、自身の技を逸らされてしまうだろう。しかし────

 

 

「だが、逸らしようがない一撃は如何する」

 

「─────ッッッ」

 

 

男の発した言葉と同時に膨れ上がる氣に、大和はヤバイと危機感を覚えた。右手に氣が込められて行く。そして、ソレを解き放った。

 

 

「────覇王咆哮拳」

 

「くそっ⁉︎」

 

 

手から放たれるのはピンク色のエネルギー弾だ。そこに込められている膨大な氣に、逸らすのも危険だと判断した大和は攻撃にうって出た。右手を開き、掌を突き出す。

 

 

「風林寺押し一手っ‼︎」

 

 

ピンク色のエネルギー弾に対抗して、少年が放ったのは同じく膨大な氣を発して作られた数メートル大の手形の衝撃波である。激突するエネルギー弾と、手形の衝撃波。二つが鬩ぎ合い拮抗する。その拮抗している光景に、男は口を歪めるが、そこで鬩ぎ合う二つの一撃の奥に見た。少年が左手を開いてこちらに、掌を向けていたのを。そして二つ目の技がダメ押しと言わんばかりに放たれる。

 

 

────風林寺押し一手、と。

 

 

轟ッ‼︎ と大気が震える。前方で拮抗していたモノを巻き込む形で消して、手形の衝撃波が男に衝突した。咄嗟に足に力を込めるが、それでも耐える事が出来ずに、ズザザザザザザザッと後方に下がっていく。

 

 

「ふん────ッ‼︎」

 

 

全身の氣を練り、手形の衝撃波を吹き飛ばす。だが、その先に男が視界に入った光景は、こちらに迫る拳の嵐だった。猛羅総拳突き(もうらそうけんづき)。視界を埋め尽くす程の拳の嵐に、男はこれらは先程の一撃とは違い、自身に傷を負わす事が可能だと察知した。しかし、それでも避けようなどとは考えない。何故なら、自分が最強であるが故に。そして男はここで初めて構えた。避ける事はしない、ならば迎え打つしかない。

 

 

だからこそ、連打には連打で男は答えた。

 

 

「百式羅漢殺ッ‼︎」

 

 

放たれるのは眼前にあるソレと変わらない拳の嵐。拳の嵐と拳の嵐が接触する。次いで発生するのは、ここで一番の轟音だ。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼︎」

 

「ふん────ッ‼︎」

 

 

轟音。爆音。破砕音。それでも止まぬ連打の嵐。少年は全力で拳を振るい、男もまた全力(・・)で応じた。全力でやらねば、やられると確信したからだ。故に、笑う。男は笑い声を上げた。

 

 

「ククククッ、面白いぞ‼︎ あかご────いや、小僧っ‼︎」

 

 

男が赤子呼びを止める。それがどれだけ珍しい事か、少年は知らない。ただ、一心不乱に両拳を振り下ろすのみだ。拳の応酬は続くが、永遠と続く訳がない。必ず終わりがくるのは必定。

 

 

「この、化け物めっ⁉︎」

 

「お前も人の事は言えんぞ小僧」

 

 

彼が毒吐けば、男は指摘する。そして、男はこの連打の応酬を終わらせるべく行動に移した。手の平にエネルギーを集中させて、ソレを放つ技。エネルギーウェイブを解き放つ。別にダメージを負わす為に放った技ではない。一瞬の目くらましに使っただけ。だが、彼等クラスの達人ならその一瞬で充分だった。

 

 

エネルギー弾を拳の嵐で掻き消すが、眼前には男の姿がなかった。と、同時に背筋が凍る程の悪寒が駆け巡る。直感に従い、振り返るとそこで、男が足を構えていた。

 

 

「耐えてみろ、小僧」

 

 

まるで、やってみろという風に男は己が一番使う技を解き放った。容易に達人すら一撃で屠る蹴りを。

 

 

「─────ジェノサイド・チェーンソー」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ────⁉︎」

 

 

その余りに鋭い蹴りは防御越しでも、意味を成さずに衝撃が全身を駆け巡る。激痛が奔り、血が滲む。それでも、彼は耐えて見せた。

 

 

「耐えたか俺の一撃をっ‼︎」

 

 

瞬間。蹴りを振り抜かれ、上空に大和は吹き飛ぶ。高く高く飛んだ彼は、徐々に落下していく。拳を突き出し、男めがけてまるで隕石の如く落下をする。

 

 

────風林寺天降流陣(ふうりんじてんこうりゅうじん)

 

 

隕石のような軌道から拳を突き出す技。ソレが男一人に、牙を剥く。対して男は、その技に一人のライバルの姿を思い出した。

 

 

「ほぉ、面白い。自分自身が隕石の如く落下するか。まるで、鉄心の技だな」

 

 

まぁ、奴は本物の隕石を落とすがと口にして、迎え打つ為に蹴りの体勢を取る。あの技の威力は、恐らく強力だろう。ならば、ここで一番使い、信用する技をぶつけるのが最善だ。そして─────

 

 

「ジェノサイド・チェーンソーッッッ‼︎」

 

 

フルパワーでその蹴りを繰り出した。隕石の如く落下する拳と、鋭い蹴りが衝突した瞬間────山全体が激しく揺れ動き、それに伴い周辺の街に震度四を超える地震が発生する。再度、鬩ぎ合う拳と蹴り。だが、威力は互角だったのかお互いの一撃は弾かれ、見合う形で離れる。

 

 

「────小僧。名を教えろ」

 

「…………覆面Xだ」

 

「ッ、成る程。貴様が噂の覆面Xか」

 

 

突然の男の誰何に、本名を言う訳がなく今の名前を答えると、眼を見開いたと共に、男は愉快そうに笑う。まるで心当たりがあるかのように。少し上機嫌な男に、少年は言葉を紡いだ。

 

 

「ここいらで、戦いを止めるのは如何だ?」

 

「なにを言っている。俺は今、久方ぶりに高揚している」

 

 

つまり、戦いは止めずに続行という事だ。それに内心でウンザリする彼である。最早、彼の胸中は逃げたい思いで一杯だった。なんだよあの化け物。というか、あの執事服はなんだよ。俺がなにをしたってんだ、などなどと大和は胸中で悲鳴を上げる。そんな弱音を吐きながら、少年は逃げる方法を考える。そうこうしている内に、目の前の男が口を開いた。

 

 

「さて、そろそろ戦いを再開するとしようか」

 

 

そう言い、構えを取ろうとした男に、第二ラウンドなんてやってられるかという風に大和が先に動いた。右拳を地面に叩き付ける。そして舞う砂塵。だが、

 

 

「俺が逃すと思うか?」

 

 

その砂塵を蹴り一つで吹き飛ばしてしまう。しかし、大和の目的は別にあった。この程度で逃げれるとは思っていない。

 

 

「いや、逃げさせてもらうぞ。はッ────‼︎」

 

 

刹那。少年から異常なまでの気当たりが放たれ、次の瞬間には男は投げられていた。

 

 

────真・呼吸投げ(しん・こきゅうなげ)

 

 

真の達人のみしか使う事が出来ない究極奥義。気当たりによって、相手の体を崩し、手を使わずに相手を投げるように見せる。その正体は、気当たりにより危機回避能力を刺激させて、自分から叩き付けられるように誘導する技だ。男を地面に叩き付けたと同時に、新たな技を仕掛ける。

 

 

腕全体を使う締め技に、急速な回転を加える事により、強いGでブラックアウト状態にしてからコンマ一秒で絞めを行う。

 

 

────暗外旋風締め(あんがいせんぷうじめ)

 

 

一瞬だけで良いのだ。一瞬だけ、ブラックアウトさえすれば逃げる時間は稼げる。コレははっきり言って運の要素が強かった。しかし、大和はソレに成功した。男は一秒にも満たない時間を視界を失いすぐに目覚めた。だが、そこにはもう覆面Xの姿はなかった。

 

 

「俺から完全に逃げれるとはな」

 

 

男────ヒューム・ヘルシングは覆面Xが居た場所を見据えて呟く。後に残ったのは一人の不良執事と、爆撃地の跡のような周辺だった。

 

 

 

(不良執事怖い、不良執事怖い、不良執事怖いッ‼︎)

 

 

山の中を走り抜け、完全に気配を消す大和は、心の中で叫びながら帰路についていた。一つのトラウマを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 




椎名 京の場合

京「ふんふん〜♪」
キャップ「あれ? なにやってんだ?」
京「覆面Xのフィギュアを揃えてた」
キャップ「覆面X? それってアレだろ。今、子供や大人でも大人気っていう」
京「そう‼︎ その覆面X。子供向けのアニメにも関わらず、大人でも楽しめるように制作されている素晴らしい作品だよ」
キャップ「好きなんだなぁ。覆面X」
京「まぁね。それに私、本物と会った事あるし」



気配を完全に消す大和「は、はははは。如何なってんだこの学校。なんで、俺の黒歴史を知ってるやつがこんなに…………」



ヒューム・ヘルシングの場合。

ヒューム「…………ククッ」
揚羽「ヒュームよ如何した? 随分と楽しそうだが」
ヒューム「揚羽様。ふっ、今日は面白いあかご────小僧に出会ったもので」
揚羽「ッ⁉︎ ヒュームが赤子呼びではないとは。その者は強いのか?」
ヒューム「はい。あの小僧は、俺が認めた力量を持っています」
揚羽「なんとっ⁉︎ して、その者の名はなんと言う」
ヒューム「本名は聞けなかったのですが、奴は覆面Xと名乗っていました」
揚羽「覆面X⁉︎ まさか、あの英雄を助けた覆面Xか⁉︎」
ヒューム「恐らくは」
揚羽「成る程、あの覆面Xがこの近くに居るのか」


こうして未来の彼は自分の首を絞める。


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