海鳴市に身長2メートルを越す男がいた。その男の夢は世界一のラグビー選手になる事だった。しかし、ある出来事により彼にはある使命を果たす為に存在している事を思い出したのだった。
 この物語は牙なき者の剣として世界に現れた正義を行う者の物語。

1 / 1
 この物語の発端は作者が手に取ったある漫画、この人物を突っ込んだらどうなるのだろうと思った事が書き始めた理由です。
 読者の思う眼鏡に適うかどうかは未知数だと思いますが、この作品を読んでみようと思った方に感謝の言葉を送りたいと思います。

 それでは、短編の始まり始まり……。


    ハジマリノウタ

 海鳴市に身長2メートルを越す男がいた。その人物の名前は動地憐(どうちれん)、小学3年生だ。彼の夢はその体格を活かして、世界一のラグビー選手になる事だった。

 そんな彼の毎日の日課は朝5時から始まる。起床時、すぐにロードに出かけアップを開始する。ある程度汗を流し始めたら、かなり激しい筋力トレーニングが始まるのだ。一般人がこなそうならば、確実に途中で倒れてしまう程の厳しさだ。小学3年生にして体が出来上がっている憐にとっても例外ではない。だが彼は屈強な精神力で耐え、一度も地に伏せる事はなかった。

 激しいトレーニングが終わると休むことなく自宅に走って戻る。今日は特に用事もないので急ぐ必要はないのだが、それが憐の日課で平日でも休日でも変わる事はない。

 自宅まで憐が帰るといつも自宅の前には掃き掃除をしている母がいる。彼女の日課もこうして憐が帰ってくる事を待つのだ。やはり体格が子供離れしているとは言え、まだ小学3年生だ。母として心配なのだろう。

 

「母さん、ただいま」

「お帰り、憐。それと田中君から電話があったわよ。後でかけ直しておきなさい」

「わかったよ」

 

 憐は頷くと家に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

「くっ…………ディフェンスが抜かれた。頼む憐!!」

 

 とあるグランドに憐は立っていた。理由は朝、田中から連絡が原因だった。連絡の内容は『今日、サッカーの試合があるんだ。でもキーパーの奴が病気で休むんだよ。頼むキーパーをやってくれないか』と言うわけだ。故にこうして憐はゴール前で構えている。

 

「今度こそ決めるぞ、甲!」

「任せろ、乙!」

「いくぜ、丙!!」

 

 相手チームはそれぞれ合図を出し攻撃に移った。甲は軽くボールを上げて乙にパスを出し、乙はダイビングヘッドで丙にパスを出した。それにより加速されたボールは丙に向う。

 

「これが俺達三位一体攻撃、ボレーダイビングトルネードアローだぁ!!」

 

 丙は高速回転をしながら、利き足を利き手で固定。渡されたパスがインパクトポイントに来た瞬間、それを手放す事によって、回転力と弓の原理による力が加わり重く鋭いシュートが放たれた。

 

「甘い」

 

 恐らく、かなり威力のあるシュートだったのだろう。しかし、憐は右手で軽々しくそのシュートを受け止めてしまった。

 

「こっ……このシュートでも抜けないのか!?」

「何者何だ。このキーパーは!?」

「まさに『黄金の右腕』……コイツを抜かさない限り、俺達は勝てない……!!」

 

 驚きを隠せない相手のFW、その表情は聳え立つ巨大な壁に対して恐れを隠せていない。

 動地憐はそんな事お構い無しに右手にあるボールを味方に渡すといつものポジションに戻り、溜息を吐いた。そうつまらないのだ。憐は生まれてこの方、恵まれた体格とセンスを持ち合わせていたのかどんな競技でも彼に敵う小学生はいないのだ。

 

「何なのよ。あのキーパー!! 抜けるはずないじゃないの!! ほんとに小学生!?」

 

 土手で試合を観戦していた少女3人組の1人が叫んでいるが全くその通りだ。

 今回は親しい友達の頼みとあって引き受けたが、彼がいるだけでゲームバランスが著しく崩れてしまう。そのせいで彼は今まで本気でスポーツに取り組んだ事がない。本気でできる事と言えば自主練の時ぐらいだ。本来ならへこたれてもおかしくない状況であるが、彼が毎日自主練を辞めないのは彼には世界一のラグビー選手になると言う夢があったからだろう。

 再び、憐は大きく溜息を吐くがそれ以降ゴールにボールは飛んでくることはなかった。結果だけ言えば、0-0の引き分けで試合は終了したのだった。

 

 

 

 

 

 時刻は、夕方。憐は海鳴市を歩いていた。サッカーの試合が終わった後、その足で病院に向かっていた。別に彼が怪我や病気になっているわけではなく、病院には彼の妹、動地澪(どうちみよ)が入院しているのだ。生まれつき足が悪い澪は入退院を繰り返しており、憐はその度に足を運んでいた。

 

(まずいな、今日は遅くなってしまった。このままでは面会できない)

 

 憐は足を速める。今は腕時計を持っていないため正確な時間はわからないが、面会時間が刻一刻と終わりに近付いているのは間違いないだろう。

 このまま歩けば、間に合わない。そう思った憐は走る為、大きく足を1歩踏み出す。その時だった。

 

「ぐぅ……!? な、なんなんだ!!」

 

 天に伸びる蒼い閃光が視界いっぱいに広がった後、強烈な衝撃波が周りを破壊し地面を揺らす。流石の憐も耐え切れず、10メートル程吹き飛ばされた。全身にかつて受けたことのない痛みが走り、思考を鈍らせるが現状把握を優先させようと痛む体に鞭を打つ憐であったが、次なる脅威が彼に襲い掛かっていた。

 

「う、うわぁぁぁあああ!?」

 

 目の前からは巨大な樹木の根とおもわれるものが道路やビルを突き破り迫ってきていた。

 いくら大人顔負けの肉体とセンスを持つ憐でも、かなりの速度で伸びて来ている根を避ける事ができない。それほどまでに近くまで迫ってきていたのだ。

 死。その言葉で憐の思考は埋め尽くされた。1分1秒が永遠に感じさせるほどゆっくりと迫る恐怖、確実な死。少しでもそれを和らげようと目を瞑って身構える。だが、何時まで経っても痛みはこない。不思議に思った憐はゆっくりと目を開けた先にはあるものがあった。

 

「これは……バイク!? 誰かが守ってくれたのか」

 

 憐を守るように鎮座していたのは、漆黒のバイクだった。伸びて来る樹木の根をタイヤから生えているブレードのようなもので切り裂いたように見える。憐は操縦者を探すが、どれだけ探してもその影すら捉えることができない。

 

「まさか……お前が守ってくれたのか」

 

 憐がバイクに尋ねるとそれを肯定するかのようにエンジン音が辺りに鳴り響いた。

 信じられない。自動走行可能で、さらに人の言葉まで理解する事ができるAI。そんなものが世界にあるのならば、ニュースの1つや2つ聞いていてもおかしくはない。だがそれが目の前にある。信じられない事だ。そして、憐はバイクの後部座席には鎖で厳重に固定された大きなトランクに目がいく。

 何が入っているのかは不明だがかなり大きなトランクだ。何を詰めればここまで厳重に固定されるものなのだろうか、かなり重要なものが入っているに違いなかった。

 

(何だこれは……? いや、俺はこれを見たことがある)

 

 憐の記憶の片隅に引っかかるものがあった。なぜかあのトランクの中身を知っている、そんな気がした。しばらく凝視しているとバイクに巻かれていた鎖が突然外れ、トランクは大きな地響きを立て地面に落ちる。それを憐は無意識に手を伸ばす、中身が知りたかったのだろう。いや、手を伸ばさなくてはならない、本能的に感じたのだ。そして、トランクに触れた瞬間、強い閃光に憐は包まれた。

 

「な!? 何だ!!」

 

 閃光の中でトランクに収められていた鋼鉄の装甲群と高分子筋繊維が憐に次々に装着され、今ここに最強の鎧が具現したのだ。

 巨人を思わす黒鉄の装甲、それを初めて見た者は己の心臓を掴まれた様な感覚に、恐怖に陥るだろう。まさに巨大な壁。誰もが目の当たりにしたその時、余程の精神力の持ち主でなければ戦意を失うだろう。そして、襟首にはその鎧に秘める圧倒的力を示すように『撃神』と言う二文字が刻まれていた。

 

「こ、これは……震電!? ぐっ!?」

 

 装着された鎧の名を呼んだ瞬間、憐に眠っていた記憶が蘇るのであった。

 

 

 

 

 

 帝都湾、そこには超重高層都市が存在し、徳川財団が保有する研究所がある。そこに動地憐の姿があった。

 

「憐、もう一度ゆうてみ?」

「はい、俺には助けを呼ぶ声が聞こえたんです。だから衛府の剣として……いや、正義を行う者として俺を行かせてください」

 

 憐の隣にいた男、宇田宙(うだひろし)が頭を抱える。先ほど超常震域が発生しその元凶、地底怪獣を撃退した後、憐が言う第一声がそれだ。だが、その原因をはっきりわかっている。ならばそれを伝えなければならない。

 

「憐、気持ちはわかるで。でもなその声の持ち主はこの世界にはおらんかもしれんのや」

「どう言うことですか」

「今回、超常震域が発生した場所は徳川財団が保有する研究所なんや」

「なっ!? まさか今回の件は我々、衛府が…………」

「言いにくい事やけど、その通りや。今回の超常震域はある実験に失敗した時の産物に過ぎん」

「なんて事だ。民草を守らなければならない我々が、民草を脅かしたのですか」

 

 本来、衛府とは帝直属の近衛兵であるが新たな時代を迎えた事により、その力で牙なき下々の明日を守る特務機関となる。だが今回の件では守るべき立場の者が、起こした不祥事に過ぎない。憐の心境は計り知れないだろう。

 

「…………そうゆうことになんな。けど、本題はここからや。徳川財団はあの研究所で何を研究していたと思う?」

「――――正直、想像がつきません。超常震域は地底怪獣によって起こされる災害。それを実験に失敗したとは言え、そんな事が起こるとは到底思えません。ただ1つ言える事はその実験により地底怪獣が引き寄せられた……でしょうか」

「流石やな、憐。いいとこついてるで。あの研究施設ではワープホールを研究をしていたんや」

「空間移動を研究していた?」

「そうや、移動距離を限りなくゼロに出来れば、救出できる人が増える。その考えがあったからこそ、この研究は極秘に進められていた。勿論憐が言ったと通り地底怪獣を引き寄せてしまう可能性もあるもんやから、細心の注意を払ってな。そして、一度は実験に成功したんや」

「実験に成功したんですか、じゃあなぜあのような事故が……」

「声や」

「声? …………まさか」

「そう憐が聞いた事ある声と全く同じ内容…………助けを求める声や。お前が言った時にはまさかと思うたんやけど……この調書見てみ」

 

 憐は宇田から渡された調書を目に通す。そこに書かれていたのはワープホールの実験が成功した事。そして、一時的にこの世界とは別の世界に繋がった可能性に伴い帝都に異物が紛れ込み、それが今回の超常震域の原因の可能性があると言う事だ。

 これを見た憐は開いた口が閉じられないぐらい衝撃を受けた。

 

「正直、ワイもこれを見て笑いそうになったわ。でもな憐、お前までもその声を聞いたのらな話は別や。慎重にかつ迅速に対策をうたなぁあかん。すまんけど出撃は――――」

「待ってください。宇田さん! 別世界が存在する事はわかりました。ワープホールを繋げたことにより異世界から異物が流れ込んできた可能性がある事も理解しました。故にそれの対策をするのはわかります。しかし、そんな危険なものが存在する世界の民草はどうなるのでしょう」

 

 憐が懸念したのは別世界に住んでいる牙なき者の事だ。こちらの世界には憐が操る鎧『震電』以外にも、強力な鎧は数多くある。だがあちらの世界にはそれは存在するのか? もし存在しないのであれば、誰が牙なき者を守る。誰が牙なき下々の明日を守れると言うのだ。

 

「宇田さんは衛府になるための質問を忘れたんですか『汝 名を知らぬ民草の為 (おの)が一命を 捧ぐること能うるや』今こそそれを実行すべきではないのか!!」

「憐…………わかった上層部に掛け合ってみたる。ちょっと待っとき」

 

 そう言って宇田は、今いる部屋を後にした。待っている間、ガラス張りの向こう側を見る憐。そこには先の戦いで傷を負いつつも、牙なき下々の明日を守り続けている神武(しんむ)超鋼(ちょうこう)『震電』が静かに戦いの時を待っていた。

 

 

 

 

 

「憐、許可は下りたで」

 

 どれだけ経ったのだろうか、じっと震電を見ていた憐は宇田が声をかけるまで気がつかなかった。

 

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、勿論や。…………けど簡単に許可が下りたのが気になるとこやけど、この際どうでもいいやろ。震電の修復はどうなっている!!」

「はっ、先の戦いで受けたダメージは既に修復済みです。いつでも出撃できます」

「よっしゃ、じゃあ憐。八咫烏で研究施設跡地に向かうんや」

「了解!!」

 

 宇田の指示に従い『震電』を収納した攻城重鉄騎『八咫烏』に乗り込んだ憐は飛翔して研究施設跡地に向かう。攻城兵器でありながら『震電』とその着装者を運ぶための輸送機でもある『八咫烏』はスピードを最速にして向かっていたおかげか半刻もしないうちに研究施設跡まで辿り着く事ができた。憐はすぐさま通信機を取り出すと宇田に回線を繋げるのだった。

 

「宇田さん、研究施設跡に到着しました」

『そうか、よく聞け憐。そこの跡地のどこかにまだワープホールが存在するはずや、それをくぐれば別世界に行ける可能性がある。ただ何処に繋がっているは未知数、運がよければ異世界に辿り着けるはずや』

「了解した。これより作戦に――――」

『まだや憐、お前が行く前に個人的にゆうておかなぁあかん事がある』

「どうしたんですか宇田さん?」

『単刀直入でゆうと、もう二度とここには戻ってこれんかもしれん。今の我々の技術では恐らく一方通行で限界、それに今回の事件でワープホール自体研究されんようになるはずや。もう二度と家族とも会えへんやろ……今なら間に合う、行けるかどうかわからない賭けなんかやめ――――』

「宇田さん、俺は正義を行う者です。衛府の剣になったあの日から、『震電』の着装者になったあの日から牙なき者の剣として、どんなに分が悪い賭けでも俺は行かなければならない。明日を守る為に」

『憐……』

 

 引き止めても無駄だと悟った宇田は黙ってしまう。宇田が思っている以上に憐の覚悟は堅かったのだ。最早、何人たりとも侵す事のできない壁が出来上がっていた。

 今思えば、憐が助けを呼ぶ声を聞いた時点で既に決まっていた事なのかもしれない。あまねく全ての者を救おうとする。それが憐だった。

 

「ワープホール発見、これより潜入する。宇田さん、今までありがとうございました」

『憐、向こうに行っても達者でな』

「…………八咫烏、いくぞ!!」

 

 憐は『八咫烏』に乗り込むとワープホールに落ちていく。そして、こちらの世界の動地憐としての記憶はここで途切れた。

 

 

 

 

 

「そうだ。俺は牙なき者の剣、『神造歩兵 震電』の着装者、エクゾスカルの戦士……動地憐だ!!」

 

 走馬灯のように思い出されたかつての記憶。何故己がこの大地に立っているのか、今すべき事はなんなのか。神武の超鋼を着装している今、するべき事は唯一つだった。

 

「この災害を止める!!」

 

 憐は大地を力強く蹴り上げ、元凶なる根源を探し始めた。行く先々でコンクリートを突き抜ける極太の根。今なお伸び続けているそれは放って置けば、被害が更に拡大するであろう。瓦礫や木の根を利用して高く跳躍し、倒壊を免れているビルの屋上まで上り詰めるとそこで辺りを見渡した。

 

「元凶は何処にある……む!? あれか!!」

 

 震電の持つ瞳、魔震眼(ましんがん)が元凶の本体を捉えた。それは高エネルギー反応を示し、巨大な樹木となりて今なお成長し続けているのだ。

 まさに御神体、あまねく全ての生物は神が宿りし樹木に見下ろされ信仰と言う畏怖の感情を心に刻まれるのだろう。しかし、成長しすぎた樹木は牙なき者を襲う悪魔宿る悪鬼となりて、今人類に牙を突きつけて来たのだ。

 憐は走る、その元凶となる元へ。しかし、悪鬼となった樹木はそれを阻むかの如く根を大地に張り、正義を行う者の侵攻を阻害する。だが神造歩兵 震電を着装した憐の前では無意味に等しかった。振り下ろされる拳はあらゆるものを砕き破壊して道を切り開いた。

 

「高エネルギー反応…………そこが核か」

 

 元凶の本体の下に辿り着いた憐は見上げる。魔震眼は遥かに高い場所の一部に強い反応を見せているが、他にも反応を示していたことに気付いた。

 

「生体反応……!! 誰かが飲み込まれたのか!?」

 

 そう魔震眼は取り込まれた市民の存在を捉えていた。最早一刻の猶予も無い、憐は幹から生えている枝を足場に次々に跳躍し、高エネルギー反応を見せている場所まで辿り着いた。

 

「うぉぉぉおおおおお!!」

 

 空中に舞いながらも雄叫びとあげ鉄拳を突き立てるが、樹木には一切の傷は付かず、憐の拳は樹木には通用してないと思われた。しかし!

 

「終わりだ」

 

 憐の突き立てた鉄拳の内部には元凶となった青き宝石のような核が握り締められていたのだ。一体あの鉄拳はなんだったのだろうか?

 それは『神造歩兵 震電』の力によるものであった。全ての物質は分子によって構成されており、それぞれ固有の波型が一瞬たりとも静止せず振動して形を成している。震電は己の拳を高周波で振動させる事によって甲と乙の波型を共鳴し、分子と分子の間隙を透過貫通する事が出来るのだ。

 これぞ震電が持つ兵器の1つ、神造兵器分子振動貫通拳である。

 憐は握られた元凶をそのまま握り潰し粉々に破壊した。するとどうだろうか、御神体だった樹木は見る見るうちに小さくなり災害が集結に向かった事を牙なき者達に知らせたのだ。

 しかし、海鳴市には大きく爪痕を残していた。栄えていた町は瓦礫と化し、それの因果で多くの笑顔が失われたのだろう。

 救ったのに救いきれなかった複雑な心境を抱きながらをゆっくりと大地に着地する憐は上を見上げる。空には取り込まれていたと思われる男女の子供が落下して来ていた。大地を蹴り上げると落下している子供達を捕まえ、静かに地面に着地した。

 

「貴方は何者なんですか」

 

 気付けば、近くに少女が後方の方で立っていた。少女の格好は以前憐の妹、澪が見ていたアニメのキャラクターが着ているような服だったのでコスプレイヤーかと思うのだが、先ほどまで悪鬼が宿りし樹木があったのだ。

 一般人の感性から言えば、危険から離れようとするはず、この少女は何者何だ。

 憐は子供達を地面に降ろしながら自然に警戒を強める。

 

「………………お前こそ、何者何だ」

「わ、私は高町なのは。こっちはフェレットのユーノ君。貴方の名前を教えてください」

 

 高町なのはと名乗った少女の肩に小動物、イタチのような動物がいた。憐は先ほどと違う声だったので少し戸惑うが顔を青くしてまで尋ねてくる少女を無碍には出来ない。

 

「俺はエクゾスカル震電、正義を行う者だ」

「えくぞすかるしんでん? せいぎをおこなうもの? ふぇえ?? それってどっちも名前じゃないと――――」

「エクゾスカル震電さん、貴方は一体ジュエルシードの暴走体に何をしたんですか」

 

 ジュエルシード、聞きなれない言葉が出てきた。どうやら先の災害の原因の核の事を示しているのか。

 憐は周りを見る。少しずつだが、人が集まり始めている。衛府であったあちらの世界では問題は無かったが、こちらの世界では憐の着装する震電は悪目立ちし過ぎる。

 早急に立ち去らねば。

 憐は少女とイタチに背を向け、最後に質問の答えを言った。

 

「俺は正義を行う者として牙なき者の明日を守っただけだ。少女よ、ごっこ遊びは家だけにしておけ。覚悟がなければ何時の日か、お前は儚い灯火を消すことになるぞ」

「えっ……? それってどう言う」

「さらばだ!」

 

 憐は大地を蹴り上げ、遥か彼方へと去っていく。その後姿はまさに正義を行う者と名乗るに相応しい存在感であった。

 

 

 

 

 

「ま、待って!!」

 

 離れていくエクゾスカル震電と名乗った者を追うようにまた彼女も動き出そうとするが、彼女の肩にいた小動物、フェレットのユーノは彼女を制止させた。

 

「なのは、もう間に合わない。残念だけど諦めよう」

「う、うん…………私、本当はお礼を言わなくちゃいけないのに言えなかった」

「そうだね。でも彼も本名は名乗っていない。今は信用したら駄目だ」

「そう言うユーノ君はすぐに私を信用したよね」

「…………そう言えば、ジュエルシードの回収はまだだったね。早く回収しないと――――」

「話をそらさない…………少しお話しようか」

「え? それは、出来れば勘弁して欲しいなぁ……なんてぇ―――――あ゛ぁぁぁああああああ!!」

 

 話をそらす事に失敗したユーノは次の日、ものさし竿にぶら下がり洗濯ばさみで止められていたのを発見され、高町家が動物愛護団体に訴えられたのは別の話だろう。

 

 

 

 

 

 後日、憐はまた田中の呼び出しをくらい臨時でキーパーを守っていた。

 

「いくぜ丙」

「任せろ乙」

「今度こそ打ち破るぞ甲」

 

 何故またこいつ等と試合を組んだんだ。憐の疑問は尽きなかった。

 理由の背景には甲乙丙が大きく関係しており、その背後では甲乙丙の所属するチームの監督T・Sが裏を取っているなんて憐が知るはずもない。

 要するに憐は嵌められているのだった。

 

「甘い。もう一度出直して来い」

「ぐぉぉぉおおおお!! また阻まれるか」

「まだ抜けねぇ!! もう一度だ! もう一度攻めるぞ」

「最早俺の『邪悪なる左足(デーモン・ストライカー)』を解放しなければ、あの『黄金の右腕』は攻略できないのか!?」

 

 まったく小学生と言うのは元気でいいな。憐はそう思いながら、自身が気している謎について模索し始めた。

 まず1つ目は、自分がなぜ小学校低学年としてここに存在しているのか。それについてはある程度予測は立てていた。

 憐が来た世界は所謂パラレルワールドである。そうであればある程度説明が付くのだ。全く同じがたいの人間、つまりこちらで言う憐が世界の枠を超えて来たあちらの憐と融合してしまったと言う事だ。

 その事実を肯定するように今の憐には、あちらとこちらの世界で過ごした記憶が脳に刻まれており、どちらもはっきりと思い出せるという事だ。現状ではかなり有力だろう。

 2つ目は、震電を運んでいたバイクについてだ。

 あれは本来、震電とは別の鎧『強化外骨格 零』の装備、機械化軍用犬『月狼(モーントヴォルフ)』と呼ばれる走行音無音のアーマーサイクルである。本来、月狼が後部座席に搭載しているトランクの中身は『強化外骨格 零』であるはずなのに、『神造歩兵 震電』が入っていた。果たして零は何処にいったのだろう。

 もし邪まな考えを持つ者に渡っていたのなら、早急に奪還する必要性が出てくる。しかし、現状では調べる術が無いので後々はっきりさせる必要があるだろう。

 そして、3つ目は言うまでもない。憐がこの世界に来た時乗っていた攻城重鉄騎『八咫烏』は何処にいったのか。

 最初に挙げたあちらとこちらの世界の憐が融合したのならば、八咫烏は(大き過ぎて、まず入りきらないと思うが)動地家の庭、倉庫に収まっていてもおかしくはない(もしくは、動地家を押し潰しているだろう)。だがどれだけ記憶を辿っても、どれだけ探してもその形跡だけは全く存在していなかった。はっきり言わなくても由々しき事態である事は間違いない。攻城兵器が失われたのだ。心配にならないはずもない。本当なら学校さえすっぽかし、捜しに行きたいところなのだが現在の憐は小学3年生だ。非行行動をして親を心配させるわけにいかないし、何より憐がいなくなれば妹の澪が寂しがるだろう。

 つまり、早い話これも後回しになってしまうのだ。

 思わず溜息を吐きそうになる憐であるが、とにかく手に持っているボールを田中にパスしようとモーションに入った。

 

「憐! ナイスキャッチ!! 流石は俺たちの守護神だぜ」

 

 田中に向けてパスを送った後、憐に声をかけるチームメイト。その表情は過去から現在に至るまで、憐が命を賭けて守りたかったモノそのものだ。

 

(まぁ問題は山積みであるが、ここにも守るべきものがあるならしっかりと守らないとな)

 

 例え小さい事でも、憐は全ての牙なき者を守護(まも)ろうとする強欲な男だった。

 

 

 

 

 

 その頃、別の場所では――――。

 

「計画は順調…………経過が良すぎて逆に恐ろしくなるわ」

 

 1人の女性が書類に目を通しごちる。長年計画を練っていたのであろう。顔色は悪く、今にも倒れそうな病人だ。それを隠すために化粧を濃くして誤魔化しているようだが、彼女の瞳は何かに囚われた目。そう言うなれば、悪しき者に取り付かれた人間の瞳なのだ。

 

「もうすぐ、もうすぐ会えるわ。そうしたら3人(・・)で行きましょう。あの日見た世界に……きっと楽しいでしょうね、そう思うでしょアリシア。ふふふふ…………あは、あははははは!」

 

 狂気となりし笑いをあげながら女性は静かに両手を伸ばす。そこにあるのは1人少女を格納する生体ポットと静かに目覚めを待つ神武の超鋼が鎮座されているのであった。

 

 

 

 

 

  ,,,,,,,,,,To Be Next Time?




 あとがき

 と言うわけで衛府の剣でした。
 作者個人でこの作品を評価させてもらうと小3で2メートル越えとか我ながら凄い設定をぶっこんだなと思います。
 それに動地憐はともかくその相方だった宇田宙なんて完全にキャラ変わっていると思いますしね。

 それとこの作品は一応短編なので続きません。強い要望場あれば再び筆を取る可能性はありますが、連載ではなくまた短編で投稿すると思います。

 ながながとありがとうございました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。