新西暦と呼ばれる時代―――


幾多の戦いを経験した地球、しかしその戦いの火は未だ各地に点在していた。

異星人による襲来から傷の癒えない世界では、一人の男の撒いた種が業火へと変化し新たな脅威の前に人々は戦いを止めなかった。

それを止める者たち。
それはかつて劣等と蔑まれた、世界最強の弟の一人だった




懲りずの作品です…(汗
思い立ったので昔の作品を短編でリメイクさせていただきました。
が、中身がかなり変わっていますので、その点には注意してください。

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久しぶりに書いてみたいと思った作品です、ハイ…(汗

で、それにあたって色々と設定変更を行いました。
取りあえず必要事項として書くのですが「アレ、前こんな感じじゃなかった?」って言うところがあれば言って下さい。一応読み返して変更した設定はここに列挙しておきます。

・メンバーを一夏、束そしてその他のサブメンバーをなのは系から簪に変更しました。
 元々無理があったので、という完全な妥協ですがご了承を…
 まぁそれに一人になったので話にも無理が出来たのですがね(遠い目)

・時系列は最初辺りがインスペクター事件直後。その後が封印戦争後になっています。
 ちなみにゼンガーはまだ跳んでません(PXZの世界へ)

・ヒリュウ改の奪取事件をナシにして新しい艦をオリジナルで作りました。そのため、以前書いた作品であるGSの時には改造した輸送機を使っていたという解釈でお願いします。

・アクシオについての設定の追加。それについてはここでは書きません。一応本編に出ますので、お確かめを…としか。

・PTやAMといった兵器が秘密裏にという設定を撤廃しました。なんでOGと同じくPTとISがハイローミックスのように軍では運用されています。

とまぁこんな感じです。残りは概ね、以前に書いたISGSと設定を共有しています。
今回の短編はそのパラレルと思って下さい。

それではまた趣味全開の作品ですが、お楽しみください。


IS×SRW = Re: The Gaia Sabers =

 

 

 

 

 

新西暦と呼ばれる時代―――

 

人類が地球というゆりかごから飛び出し、宇宙にまで活動範囲を広げて既に二世紀近くが経っていた。

だが、突如として飛来した三つの隕石によって人類の進化は停滞。人の営みは二十一世紀となんら変わりはなかった。

しかし。南アメリカ付近のアイドネウス島に飛来した三番目の隕石「メテオ3」。それが人工物であり未知の技術の結晶体であることにより科学は再び進化をした。

その代価として地球は異星人に狙われているという、まだおとぎ話になったかもしれない可能性が浮かび上がり、それを危惧した一人の科学者によって人類は機動兵器「パーソナルトルーパー」を開発。

 

 

そして。六年前の新西暦182年。

日本に対し約五千発のミサイル弾頭が飛来。一時は軍のスクランブルが掛けられるもシステムトラブルによって出撃不可能となり、日本は消滅の危機となった。

しかしそこへ彗星の如く現れた一体の人型。それはとある一人の若き科学者によって開発されたものだった。

マルチフォーム・スーツ「インフィニット・ストラトス」。

そして「白騎士事件」と呼ばれたこの事件を切欠に、ISは世界に認知される。

―――最小の人型機動兵器として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人は、なんでも隠したがるんだ。なんでだと思う?」

 

「なんでって…なんで?」

 

「取り合えずなんでも。例えばこんなのーみたいな」

 

唐突に振られた話に、ええ、と戸惑う。なんの脈絡も無く、しかもいきなり前触れもなく言われたことに対してもあるが、質問の内容があまりにも不明瞭で答えが分からないことに、問いを投げたほうのいい加減さが見えている。

そのお陰で答えという答えが決まっていない質問されてしまった青年も答えようがない。

遊びで質問されているのは分かっているが、だからといっていい加減な答えを返すと質問した側である少女は不服な顔をしたりそっぽ向いたりをする。最悪はシカト。無視もザラだ。

そんなわけで、そんないい加減な質問でさえも真面目に答えなくてはならないという青年は、少女の後ろで唸り声を上げつつも答えを探す。

歩きながらというハンデもあり、イマイチ答えが分からず、しかも考えも纏まらないなかでの回答。時間はかかったが、取り合えずこれしかないと思った青年は迷いながらも口を開く。

 

 

「………他人を驚かせたい…じゃないんですか?」

 

「うん。そうだね。他人をビックリさせたい。いわゆるサービス精神だったりサプライズってやつだ。当然間違っちゃいないよ、その答えは」

 

しかし、求めていた答えではない。まるでそういうかのような興味がない、落胆したような感じが声に乗っていたので、青年は相変わらずの態度と様子にため息をつく。

もともと質問をしたのはそっちじゃないか。期待外れの答えになるとは思ってなかったのか。

苛立ちが混じったせいで足音が少し大きくなる。地面を蹴るのではなく叩くといった八つ当たりにも似たような足音はコンクリートの清掃された地面に傷をつける。

 

「けどね。もう一つ…何か隠し事をするってことには意味があるんだよ」

 

「………。」

 

歩いていた道の先に下に続く階段が見える。

そこを下る二人の音は不規則で、一括性はない。それぞれの気持ち気分であるかのように青年の足音は強く、そしてしっかりと。少女の足音は優しく、だが寂しげに。

この先に何があるのか。それを知らなかった青年の足は次第に赤い憤怒の音を足音から外していく。

 

「………えっ?」

 

「さて。着いたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ。コロラド州にある科学者たちの城。テスラ・ライヒ研究所。

その地下にはいくつかの隠された区画が存在していた。かつてダブルGと呼ばれた特機が眠っていた区画。そしてもう一つ。

 

「これって…」

 

「………さっきの質問。私が欲しかった答えを教えてあげるよ。隠し事をする人間。何故そうするのかって言えば答えは一つだよ」

 

 

 

隠し事。それは人には表立って言えないことも入っている。

自分からはとても話せない。これだけは秘密にしたい。

あるいは誰かとの約束。あるいは誰かからの戒めと鎖。あるいは―――

 

 

 

「隠し事。隠された事とは。時としてその者に大いなる存在を与える。逆転。好機。勝機。

 傲慢。そして欲望と野心。

 あいつはそれに取りつかれた権化だ。だから私は嫌いだ」

 

「………ッ」

 

 

 

テスラ研の地下深く。そこには、今まで日の光を浴びる事がなかった箱舟が一隻、長い眠りから覚めようとしていた。

 

「元はスペースノア級のような大型の輸送艦だったんだけど、結局運用目的やスペースノア級の運用性から建造は途中で中止されたんだ。

 けど勿体ないからってここで引き取られたの。私たちが使う母艦として」

 

「母艦…」

 

地下深くに眠っていた一隻の戦艦。いや、戦艦の名を冠しているがその船には武装がなかった。ただ単純な輸送目的として建造されたことで武装は最低限ないし必要なしとして搭載されなかったのだ。

だが、そのお陰で輸送艦としては破格の防御力とシールド発生装置。そして新型の大型テスラ・ドライブによる機動性を確保された。

 

「これが私たちの新しい家。箱舟「アヴァロン」だよ」

 

 

 

これが、後に『インスペクター事件』と呼ばれる戦いの後日にあった出来事。

その日、眠りについていた戦艦と共に世間の表舞台から姿を消した二人

篠ノ之束と織斑一夏の二人は再び、地球圏での活動を再開した。

後の戦い、そして「封印戦争」の後に繋がるクロスゲート争奪戦のために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人というのは何にでも優劣をつけたがる。動物、食べ物、乗り物。

それによってどれが優れているのか、誰が劣っているのか。そうして人類は今まで進化と発展を続けて来た。

だが、だからといって全てが優劣を決めるだけでいいとは限らない。

それによって、劣っているとされたものには謂れのない罵倒と軽蔑が待っているのだ。

―――故に織斑一夏は軽蔑された。姉や()よりも劣る失敗作(・・・)の烙印を押されて。

 

 

彼は世界を憎んだ。だが地球を、自然までを憎まなかった。

人がどれだけ罵倒しようと、蔑もうと、自然だけは等しい目で見てくれていた。

それが辛うじて彼が悪に染まり切らなかった救いだ。

そしてそのお陰で、彼は救いの手を差し伸べた人と出会う事が出来た。

失敗作。それは実際、この世には存在しないんだ。居るのは不完全な人間だけ。

誰が成功であるわけでも最高傑作でもない。人は作品()ではないのだ。

 

 

そして。兄は世界を甘く見た。世界を扱い(・・)、自然を見もしなかった。

失敗作だと、自分は人類最高の傑作。全ての結晶だと息巻いていた。

それだけに、彼は完璧なものを求めた。無論、それは人の言う完璧とは似て非なるもの。

全てはただ自分の思い通りに。全てが自分の願った通りに。

年を重ねるごとに増していった野望は支配欲になり、いつしか子どものようなものを願ってしまった。

―――出来損ない()に死を。最高傑作(自分)に栄誉を。

極め付けの考えはまさに、子どもが描いた勧善懲悪だ。

 

 

相反した二人の思想。弟は世界を憎むが、自然は憎まず。

兄は世界を受け入れ、自然は否定した。

その結果は言うまでもない。兄は最後は世界の上に成り立った自然という意識のシステムに負けた。自分の思い通りになっている世界だと思っていたが、世界も、ましてや自然でさえも結局、彼一人では変えることなどできない。

だから、一夏の兄である織斑秋龍は、最後は手に入れようとしたもの全てに裏切られた。

世界という人のシステム。自然という意思のシステム。どちらも自分の思い通りになるという無意味でできもしない野望と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑家には三人の逸材と呼ばれた者たちが居た。

一人は織斑千冬。

世に「ブリュンヒルデ」の名で知られるISの世界では知らない人間は居ないほどの女性だ。

一人は織斑一夏。

千冬の弟であり、「出来損ない」の烙印を世間に押されていた。しかし、その陰では世界を救った者たちと共に戦った戦士だ。

 

そして。三人目にして一夏の兄。千冬の弟である織斑秋龍。

表立ってはかつて「世界で唯一のIS操縦者」そして数多の活躍からブリュンヒルデになぞられて北欧の大英雄「ジークフリード」の名で呼ばれていた。

しかし、それも束の間。秋龍は世界最大の犯罪者として名誉と共に地へと失墜した。

自己の才能に溺れるあまり、自分であるから何をしてもいいという傲慢さ。

そして、彼は当時誰も成し遂げなかったあることを犯してしまう。それは後の現在にとっては最悪でしかないことだった。

『ゲスト』と呼ばれた星間連合、『ゾヴォーク』と呼ばれた者たちや彼らと通じていた『ゴライクンル』と呼ばれる武器商人たち、つまり異星人と通じていた。

彼は自分のISである「白式」をゴライクンルたちに差し出し、あることを行っていた。

それはISコアの複製。つまり量産であった。

 

 

 

「秋龍の最大の罪。それは、束さんしかできなかったコアを強引に作り出して、それを世界にばら撒いたことだ」

 

 

コアの複製には成功したものの、内部構造の大半が解析不可で再現できなかったことから、複製され大量生産されそのコアは「疑似ISコア」と呼ばれ世界中にばら撒かれた。

キャパシティ、ハイパーセンサー、CPUなど基本性能は劣り、中には現代技術などで補われてはいるが、複製可能な品。量産が可能なものとして、裏社会では大いに喜ばれた。

 

 

「そして、そのお陰で私たちは疑似コアの破壊に勤しむことになったのだー…」

 

「…笑えないですよ。束さん」

 

そう。笑えない話だ。聞けば、秋龍が作り出した疑似コアの数は相当数らしく、束の見解では約四百七十(あとで幾つか束が作ったので)はあるオリジナルコアの倍以上はあり、それも疑似コアの解析のしやすさから今も裏社会では生産と流通が続いてるのだという。

 

「全くだよ、いっくん。折角私があのクソッたれな政治家たちのために生産を止めたっていうのに、阿保の秋龍が変な偽物っていうか贋作にもならないものを作り出してばら撒いたせいで、とんだ尻拭いだよ」

 

「ええ。とんでない尻拭いですよ…お陰で今週で何度、地球一周したんだか…」

 

その後。秋龍は大罪人の汚名を受け、最後には見下していた自分の弟に討たれる形でリクセントで遂に果てた。しかし、実際彼はまだしぶとく生きていたので、一夏たちはその後、クロスゲートの軌道上で今度こそ引導を渡したのだった。

それが今から二か月前のことである。

 

 

「で。束さん、改めて訊いてもいいですか?」

 

「質問によっては答えないけど、何?」

 

「…いや。なんでこの舟を使おうって思ったのかなって…」

 

世辞にもスペースノア級より内装は小さいが、彼女たちが使うということでレイアウトは最新式のものに変えられていた。

斯くして現在、絶賛雲隠れ兼尻拭いの最中である一夏と束は、テスラ研の地下に眠っていたアヴァロンのブリッジで最終調整を行っていた。

手馴れたというような速さではないキー操作で流れるように入力されていく設定データを弄りながら一夏の話を聞く束。彼女はカラカラと笑うと「いやだなぁ」と知ってて当然のような態度で返した。

 

「だってカッコいいでしょ? 影の組織には影で動くための母艦が必要で―――」

 

「あ。そっすか」

 

このように子どものような理由で本気でやる、などというのは束と付き合ってから何度も経験していた一夏は、今回もそれだと分かると直ぐに話を打ち切って配線コードの接続を行う。

そして基盤にコードを繋げると、これでよしと呟き元の場所に基盤を戻した。

 

「まぁ、そういうのは冗談で。そろそろマトモに移動できて色々と出来る場所が欲しいなーって」

 

「束さんのことですから、てっきりスペースノア級を盗んでくるとか言い出しそうだと思ってましたよ。現実的なところもあるんですね」

 

「いっくん。私を何だと思ってるのさ」

 

「馬鹿と天災はなんとやらで、更に地球一周してきた人」

 

どうやら一夏は彼女を常識人とは見てなかったらしい。いや、そもそも束を常識人として見ること自体が至難の業であり、一夏からすれば見えない空気を捕まえるようなレベルでの掴みにくさなのだ。

子どもの様。唯我独尊。千冬と妹ラブ(意味深)。世界が滅んでもいいじゃない。

さて。どれを正論で言い返すだろうか。むしろそこが一夏の変に楽しみにしているところでもある。

 

「いっくん。私にも一般常識っていうのは持ち歩いているよ?」

 

「それは鏡に言って下さい。少なくとも俺にはそうは見えません」

 

その言葉が決定打となったのか。作業を放り出した束はその場で体育座りをしていじけていた。地面に指でぐるぐると何かを書いているのはもはやお約束だ。

ぶつぶつと何か恨み言の様にも言っているが、正直一夏は一々そんなことに構っていられるほどでもなく、そろそろ飽きてきていた。

 

「へーんだ。いいもん、いっくんにそうは思われてなくてもかんちゃん(・・・・・)にはそうは思われてるってだけでも…」

 

「あいつをそんなことに巻き込まないでください。つか、多分十人聞けば全員同じ回答だと思いますよ」

 

「いっくんの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!」

 

「のごぉっ?!」

 

直後。束のスパナが一夏の頭部にクリティカルヒット。しかもダメ押しでドライバーなども飛んできて、一夏の頭には計三回ほど直撃した。

 

「殺す気ですか!?」

 

「どうせいっくん、そんなことで死なないでしょー」

 

しゃくれた顔でいじける束の姿は完全に子どものそれだった。

欲しいものが貰えなかった子どものよう。これがISの母である束の正体だと言われれば一体どれだけの人間が卒倒せずにいられるだろう。

 

「いつつ…ったく…」

 

 

 

 

 

「すみません。遅れました!」

 

するとブリッジの自動ドアが開き、奥から一人の少女が慌てた様子で入ってくる。水色のショートヘアを揺らし、いかにもインドア系な眼鏡をかけるのは一夏たちの数少ない仲間の一人。

 

「かんちゃん、おかえりー」

 

「おー簪―…」

 

「って織斑君が死んでいる!?」

 

更識簪。日本の暗部に属する更識家の人間ではあるが、彼女もまたある理由から裏の世界に飛び込んだ少女である。

最初こそ束に嫌われていたが、次第にその意志を認められた彼女は、今では一夏たちの仲間として束からは認められている。一夏は最初からその気はなかったが、最初の一方的なギスギスとした空気が無くなった事を偶に思い出しては安堵している。

 

(しかも本人は謙遜しているが、かなりの秀才持ちでその才能から機械工学では多岐にわたる活躍をする。が、矢張り束が居るということから自ら陰に隠れてしまう事が多い)←別の場所で使用

 

「あーいっくんは大丈夫。直ぐに起きるから」

 

「………あ、ハイ」

 

「クソッ、先越された…」

 

倒れる一夏に対し驚く簪だが、束の言葉にすぐに信用と納得をしてしまい、地面で不貞腐れて胡坐をかく一夏に対し申し訳なく思っていた。

 

「で。かんちゃん、準備はできたの?」

 

「はい。物資詰め込みと機体の申請、当分の機体パーツは受領しました。あとはテスラ・ドライブの方ですが…」

 

「別にそっちはいいよ。取りあえず、今は飛べれば。あとはお宇宙(そら)でどうにかするって」

 

「えー…」

 

「またそんな無茶を…」

 

「いっくんに言われたくないなぁ、いっくんには」

 

 

過去何度、無茶や無謀をして死にかけたか。そして生き残って帰って来たか。一般人からすればゾンビと言われても変ではない一夏に、束は白い目を細くして返す。

宇宙空間での戦いで機体が大破し、しばらく宇宙を漂い。地上では大量出血のまま倒れた場所から数キロ先に逃げ隠れていた。しかもほぼ意識はなく命も風前の灯火に自分からしていたのだ。

実際、それを行った当人は事実であることから返す言葉もなく、への字に曲げた口で唸り声をあげていた。

 

「…で、話は変わるけど、簪。機体の方はどうだ?」

 

「どうって…修理に出されたヴァイサーガとアシュセイヴァー。あとは試作のゲシュペンストと予備機の扱いでエグゼクスバインが」

 

「エグゼクスって…アレ一応ブラックホールエンジン搭載の機体だろ。ISであっても」

 

「なんだけど、使い手も居ないから貰ってくれって、カザハラ博士が」

 

簪が口にした四機の中で予備機として呼ばれていたエグゼクスバインという機体のことを聞いた一夏は、マジかよ、と呆れよりも驚愕で言葉がでなかった。というのも、そのエグゼクスバインは他の機体と違い、様々な機能が搭載されたISだからだ。

ヒュッケバインと呼ばれる機体のシリーズで一つの到達点であるエグゼクスはEOT技術であるブラックホールエンジンと未知のエネルギー体であるトロニウム・エンジンを搭載した機体で、まさにEOT技術の結晶体と言える機体だ。

念動力という力を利用したT-LINKと呼ばれる武器を多数持ち、重力を利用したグラビトンライフルを使う。その他、T-LINKスライダーというビット兵器など射撃重視だが距離を選ばないもので、高性能機として完成した。

 

「ほう。つまりトロニウムも束さんが―――」

 

「あ。それは流石に無いようです」

 

「………ぶー」

 

ただし、トロニウム・エンジンの核であるエネルギー体「トロニウム」は米粒程度のものではあるが、実際僅か数個しか存在しない貴重な物で、その殆どは現在、連邦軍が管理している。なので、流石にホイホイと渡すこともできなかったらしいのか代用品として小型化された専用のプラズマ・ジェネレーターを搭載している。

 

「そりゃトロニウムほどのものを簡単に渡したら事だしな…」

 

「仮にも私たちテロリストまがいの扱い受けてるしね…」

 

「でも束さんたち協力したじゃん」

 

「非公式にですよ。扱いはクロガネの人たちと変化ないと思いますし」

 

その他、ヴァイサーガはISとしてダウンサイズされた機体で、特機と呼ばれるスーパーロボットだ。一夏が搭乗する機体で騎士のような姿をしており、「五大剣」と呼ばれる剣を装備しており、剣撃戦を得意にしている。

アシュセイヴァーは対して遠距離系の機体で、ハルバートランチャーと呼ばれる射撃武器や誘導兵器である「ソードブレイカー」を装備。一応、共通規格の武器を装備できることから拡張性もそこそこにある機体だ。

 

「むぅ…こうなったら伊豆にでも行って…」

 

「やめてくださいよ。トロニウム強奪なんて」

 

「私たち、早々に犯罪者になりたくないですから…」

 

後ろ姿だが言い出しそうだった束に対し、釘を刺す二人。多数決でも三人でなら必ずどちらかに向いてしまう。今回は一夏と簪が強奪拒否を選んだことで事なきを得たが。

 

「―――ま。エグゼクスのエンジンについては追々考えるとして…先にいっくんとかんちゃんにこの舟、アヴァロンについてざっと説明しておくね」

 

 

正式名、スペースノア級専用補給艦。対異星人用に元々は脱出艇として建造されていた万能母艦に対し、迅速に補給することから建造された艦でペイロードに関してはスペースノア級という括りや母艦の中でも最大だ。格納庫はPT数十機。特機でも十数機は入る。しかも、それだけのスペースがあるのにかかわらず、その他の補給物資や生活機能などにも機能にも割ける余裕もある。当然、それだけの巨体とペイロードなら鈍足なのが基本だが、メインの大型テスラ・ドライブとサブの大型スラスターによって機動性は十分に確保されている。

だが、その分の一隻建造するだけのコストと、そもそもの建造コンセプトへの反論から結局は試作の一隻のみを残し建造計画は中止された。

しかし性能は当時からもかなりの高性能として纏められたもので、戦闘は不可能だがその分の防御、機動力に関してはトップクラス。更に艤装が防御系であることからペイロードに余裕があり、それを利用して様々な機能が搭載されている。

 

「格納庫とか整備機能はそのままにして、PT用の格納区画をISのものに変更したの。それと、一応その舟で最低限の生活ができる設備だね。それを束さんの一存で勝手に付けさせて貰いました」

 

「束さんの…」

 

「スミマセン…なんかロクでもないことに割いた気がするんですが…」

 

遊び心のある束のことなので、真面目に機能を割り振った反面、自分へのご褒美という名目で必要かどうかわからないものを加えているに違いない。

これに対し束は

 

「むぅ、そんなワケないじゃん。作ったのは束さんのラボとかラブホとか『自主規制』とか…」

 

「束さん。今すぐ戻してください」

 

「できれば比較的マトモなものにしてください!!」

 

「ぶー…なにさ、なにさ。折角束さんがいっくんの為に用意したっていうのに」

 

「俺はそんなのは望んでもいません」

 

そう言いながらも赤面になっていた一夏に「ウブだねぇ」と小悪魔のような笑い方で呟く束は、簪から見ても頭と背中に怪しい悪魔の角と尻尾が生えているように見えてしまう。

実際、一夏の反応を見たいから、そういったのか。本当に作ったのかの二択になるが、恐らく彼女の場合は後者だろうと、意地の悪い顔で見ていた束に簪は深いため息をついた。

 

 

「随分と楽しそうだな、三人とも」

 

「あ。カザハラ博士」

 

ブリッジの自動ドアが開き、奥から姿を現したのは白衣の中にラフな服装をしている東洋人系の顔つきをした男性が入ってくる。青い髪をした博士は、テスラ研に所属するカザハラ博士だ。連邦軍には息子であるイルムガルト・カザハラが居て見た目もかなりそっくりだという。そして、二人そろっての女好きである。

しかし、科学者としての技量は確かで、息子のために特機であるグルンガストを開発したりなどその方面では極めて優秀な人物でもある。

 

「いや…束さんがロクでもない設備を付けたからって」

 

「なんだ。ラブホ駄目だったのか」

 

「だったらしいよ? カザくん」

 

「アンタらか主犯は!!!」

 

完全趣味全開の爆弾発言にキレた一夏に、簪はすかさず彼を制止させようとカザハラ博士たちの間に割って入る。

 

「ま。そこは製作者たちの遊び心って奴で勘弁してくれ。なにせ、今から設備変更すれば、一か月はかかるだろうからな」

 

「マジですか…」

 

「マジマジ。ま、その代わりと言っちゃ難だが。君らに渡したい物がある」

 

白衣のポケットから取り出したメモリを艦の端末に差し込んだカザハラに、三人の視線は直ぐにメインモニターへと集中する。最初から渡す気だったのか、手馴れたキーの操作に僅かだが目線を落としていた一夏は、目の前に現れたいくつかのデータと画像を見て束たちと共に考えるような態度を取った。

 

「カザハラ博士、これは…?」

 

「テスラ研と伊豆基地にあったモスボールされた試作パーツのコンテナだ。中身は画像にある通り。高出力ブースター、大型分裂ミサイル弾頭のパーツ、可動式シールドの未完成品。その他…まぁ使えそうな物はコッチで選んで手あたり次第に放り込んでおいた。中身のパーツやら武器やらは君たちにあげるよ」

 

表示されたパーツや武器などは何十個と言えるほどの量で、それが表示された画面のリストに延々と記述されていた。中には物騒な名前の物も見え隠れしているが、それは後で確認しなければわからないものだ。取りあえず、今はパーツが貰えたという事実とその事情を聞き、真っ先に思ったことを束が先に口にした。

 

「…要するに束さんたちを廃品のアテ(・・)にしたってことだよね?」

 

「失礼な。一応使えるかどうかを調べて選んだんだぞ。流石にお前に押し付けはしないって」

 

悪い冗談はやめてくれとばかりに反論するカザハラの言葉に嘘はない。実は過去にそういった廃品を押し付けられて、テスラ研のシステムを全て掌握された挙句、SLBMを叩き込まれかけたことがあるので、それ以来、束に対してのジョークは色々と選ばなくてはいけないとカザハラは身に染みて理解していた。

しかもそれが、自分ひとりの所為であれば尚の事だ。

 

「ま。機械関係に関しては簪ちゃんも詳しいだろ。あとでコンテナの中身を確認するといい。リストのメモリにはコンテナの番号も入れてあるから、ちゃんと確認しておきなよ」

 

「ありがとうございます、カザハラ博士」

 

「カーザくーん…束さんにプレゼントはないのかなー?」

 

「昨日、肉おごっただろうが…」

 

 

 

 

 

―――刹那。舟のけたたましい警告音が突如として鳴り響いた。

 

「ッ…!?」

 

「警告音!? 何かが近づいているのか?」

 

いきなりの大音量に驚きはしたが、警告音が鳴り響いたことで冷静になり敵が近づいてきていると見たカザハラはポケットに入れていた携帯端末で地上と連絡を取る。

もう何度も襲撃をされて、慣れてしまっていた彼らの対応は迅速で、一応のシステム構築は完了していたことから、簪がブリッジの端末でレーダーを表示。事態の把握を急いだ。

まだ完全に調整が完了していないアヴァロンは今、テスラ研とシステムを同調させているのでテスラ研のレーダーからのデータは艦内でも受け取れるのだ。

 

「レーダー、レンジ3に敵機反応。数は6。こちらに近づいてきています」

 

「種別は分かるかい?」

 

「えっと…あっ! 疑似コア搭載機のIS「アクシオ」タイプです!」

 

レーダーに映る機体、アクシオは疑似ISコアを搭載した量産機で企業などが流通させている機体よりも基本性能は劣るが、量産性と拡張性の高さ。そして最大の長所として男性でも使用可能という今までの女性優位を崩す能力を持っている。しかも、アクシオ使用時は、男性は機体とコアの方で強制的に女性になり、ほぼ完全に性転換してしまう。これは束が解析し、元々ISが女性専用であることからの『調整』であることが判明した。つまり、男で動かしにくいのであれば女になればいいという安直かつ無理やりな回答なのだ。

 

「あの劣化ゴミがね…ってことは乗ってるのは男か」

 

「俺以外は正規品のコアは受け付けませんからね」

 

現在、ただ一人の男性IS操縦者は一夏だ。元々は兄である秋龍も正規品のコアに受け入れられた人物だが、彼の場合は強引に受け入れさせたというのが正しい言い方だ。

なので、疑似コア搭載機に乗っているのは正規品から弾かれた男であるというのが大抵だ。

 

「しかし、マズいな…このタイミングとは」

 

「何か…問題が?」

 

「ああ。実は今、PTとかのパイロットは全員で払っていてね。プロジェクトTDメンバーも今は宇宙だ」

 

プロジェクトTDはテスラ研で行われているAM開発計画の一つで、恒星間航行を目的とした機体である「アルテリオン」や「ベガリオン」そして完成形である「ハイペリオン」などがこの計画の機体だ。計画存続のために武装化する必要があったので、戦闘は可能でテスラ研の貴重な戦力ともいえる。

 

「つまり…今のこのテスラ研の戦力って…」

 

「残念ながら、君ら以外は居ないんだ。リシュウ先生も今は伊豆だし」

 

リシュウ先生ことリシュウ・トウゴウ。テスラ研に所属する老人だが、示現流という剣術の流派を今に伝える人物であり、剣撃モーションなども彼があってこそ完成していると言っても過言ではない。

生身の戦闘だけでなく、機動兵器である特機「グルンガスト零式」を駆り自ら前線にも立つ、まさに現代の武人だ。

が、そのリシュウもカザハラ曰く機体共々、伊豆に出向しているとのこと。なんでも向こうに居る面々と直接会いたいかららしい。

 

「マジで戦力空っぽ!? クスハたちは!?」

 

「クスハはブリットと一緒に出張。キョウスケ中尉たちとは別だけど、帰ってくるのは一週間後だ」

 

結果。一夏たちのを除けば、テスラ研に居る戦力という戦力は全くいないことになる。

どうして空にしたのかと睨みつけて問いただす二人に、続けてカザハラが当然かのように言い訳をする。

 

「まぁ、タイミング…なんて態の良い言葉もあるが、もっとな理由は君たちが来るからだ」

 

「…俺たちが来ること…つまり。戦力としてアテにしていたと」

 

「そうだ。虫のいい話かもしれないが、正直ウチはそうでもしないと守ることができない。残念ながらこれだけは変わらないし、曲げることもできない」

 

「ですが、せめて誰か残しておくとか…」

 

「理不尽な理由とお願いだってことは分かってる。けど、我々は他に頼る相手もいない。軍に頼んだにしても、今からだと時間が掛かる。その場合、たかが小規模のテロリストでもこの研究所は蹂躙されてしまうだろう」

 

事実の一つとしてインスペクター事件時、インスペクターことウォルガからの攻撃に、プロジェクトTDのメンバーやクスハは積み荷である当時の新型機をもって脱出。当時リシュウも居たが、グルンガスト零式がオーバーホール中ということで戦えず、結果丸腰も同然ということから素直に降伏した。

この時はインスペクターが地球での拠点確保と戦力の拡張を目的としていたので、大した被害はなかった。

 

「それに。本当に今日は偶然でこうなってしまったからね…」

 

「………。」

 

嘘をついている顔ではないのだが、だからといって平静であることも正直虫のいい話と腹が立ってしまう。しかし、激怒までの怒りがこみ上げてこなかった一夏は、軽くため息をつくと束に訊ねた。

 

「―――束さん。ヴァイサーガは行けますよね?」

 

「モチだよ。パーツも新しいのに変えてるから、大抵の挙動は大丈夫だし」

 

小声でよし、と呟く一夏は頭を掻きつつも了解したという顔でカザハラと目を合わせる。当人も悪気があるわけではないが、迷惑をさせていると思ったのか少々気にしているという顔で、すまないね。と返す。

 

「織斑君……」

 

「やるしかないだろ。どうせ、ここが無くなれば本当に困るのは俺たちだ。だったら、最低限守るぐらいのことはしないと」

 

一宿一飯の恩もある。

自分の手を見て、握りしめて体の状態を簡潔にだが確認する。全身に力が入る。なら大丈夫だ、と。それが果たして体調の確認なのかどうかでさえも怪しいが、そうして彼は出撃することを決める。

簪も一夏の言葉には納得するが、やはり虫のいい話だということから不服もあった。だが、それは彼も同じだと思って諦めると、目線をずらし頭の中を整理し考えをつけた簪は彼と同じように仕方ないと諦めて割り切った。

 

「篠ノ之博士。アシュセイヴァーもいけますか?」

 

「うん。武装はそのままだから問題ないよー」

 

やや投げやりな言い方で答える束の言葉に、彼女やカザハラではなく一夏へと顔を向ける。彼の顔を見て「こっちは大丈夫だよ」と言いたい顔をしていたが、一夏の方は仕方ないだろと面倒そうな顔をしていた。

 

「…行くしかないよね」

 

「ああ。不本意ながら」

 

「ま、騙されたと思って頼む。あとで何か奢ってあげるから」

 

「束さんじゃないんですから…」

 

とカザハラに返した言葉に、束は子どものように剥れた顔で、それはどういう意味か、と腕を振り回しながら一夏に子どものような怒り方で食い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスラ研はコロラド州の荒野と渓谷の中に置かれている。天然の要害といっても過言ではないが、転移戦法を持つ多くの異星人や敵勢力にはその要害すら無意味だ。

しかも、テロリストであってもその組織と勢力によっては同じ意味を成し、かつて所属していたビアン・ゾルダーク博士が開発したAMの航空能力で易々と突破されてしまうだろう。

 

「今回は、ワリと運が良かったのかもね」

 

「ま、そうかもしれんな。テロリストといっても左翼過激派組織も居れば、DCの残党だっている。今回は前者という訳だが…」

 

そのテロリストでもアクシオという劣化版のISを六機所持している。ISというカテゴリーだけでも売買される物やパーツの値段は馬鹿にならないので、今回襲撃してきたテロリストもそれなりの資金力を持っている者たちなのだろう。

 

「たかがアクシオ六機でしょ? 大丈夫、大丈夫。いっくんとかんちゃんの二人でお茶の子さいさいだって」

 

「…だといいんだけどな。どうにも、この手の連中は何かを隠したがるからな」

 

幸いなことに、アクシオはその安価さと量産性、拡張性の高さを引き換えにして飛行能力を一切持ち合わせていない。専用のユニットがあればできない話ではないが、それがないところを見ると、武器と機体を購入するだけでも精一杯の組織というのが今回襲って来たテロリストたちの懐事情だろう。

ただしISということで機動性は正規の量産型であるラファールなどよりも劣るが、戦車や装甲車、戦闘機以上の能力を持つのも確かだ。

 

「連中は西から真っ直ぐ、こっちに向かってきている。後続がないところを見るとあれで全部らしいな」

 

「みたいだね。いっくん、かんちゃん。用意は?」

 

アヴァロンのブリッジでインカムを耳につける束は、地上で出撃の用意をしている一夏と簪に準備完了の有無を確かめる。メインモニターにはそれぞれ機体に搭乗した二人の顔が表示され、問題ないと順に応えた。

 

『こちら一夏。問題なしです』

 

『こちらも同じく。いつでもいけます』

 

「敵はアクシオ六機。けど、この手の連中は何をしでかすか分からない。二人とも十分注意してくれ」

 

モニターの前でオペレーターのようにサポートをするカザハラの言葉に、二人は「了解」と声を張り上げた。出撃の用意はできたということで二人との通信は一旦切断され、代わりに彼らの乗る機体のステータス情報が表示される。

機体の被弾やダメージ、残弾といったものを映す画面には二機の機体の情報も表示されている。

 

「…さて。たかがテロリストで済めばいいんだけどな」

 

「カザくん心配しすぎだって。後続やら伏兵なんてのが居れば、束さんが開発したこのレーダーが一発感知するよ」

 

「分かってる。レーダーは頼むよ」

 

束にレーダーを任せ、とりあえずは戦いを見守ることにするカザハラ。研究所を襲うテロリストたちの目的が一体何なのかと、既にこの事件の黒幕について考えだしていた。

 

(ただのゲリラであってほしいけどな)

 

 

 

 

 

その頃。テスラ研を襲撃しようとしているテロリストたちは地上をアクシオでホバー移動し、目的地へと向かい直進する。

装備はバラバラではあるが、いずれも規格共通のものでそれをいいことに装備だけはかなり充実している。アサルトライフルを始め、ロケットランチャー。そしてミサイルランチャーやM13ショットガン、M950マシンガンといったものと、いかにもテロリストが持っていそうなものを持ち合わせている。

 

『ゲイル1より各機。準備はいいな?』

 

おうっ、と豪語して返す五人の操縦者たち。アクシオを駆るのは全員見た目は女性だが、疑似コアによって性転換された女性。つまり型に合わせられた者たちだ。ISは女性しか動かせないという条件、規制を掻い潜ったかのようなやり方で使っているが、これが通用するのはあくまで疑似コア搭載機のみ。正規の束が作ったコアはそんな都合のいい機能は搭載されておらず、当然反応すらもしない。

しかし、疑似コアの行う性転換はかなり性能がいいのか一目で本当に男性なのかと気付けないほど。スタイルや身の丈だけでなく、女性の特徴である胸も中には張っている操縦者も居るので、正体が女ではなく男であることは、疑似コアの機能を知っていない限り見破りにくいだろう。

 

(都合のいい物が手に入ったな…まさか疑似とはいえ、ISを俺たちが使えるとは)

 

疑似ISコアの特徴はそこだろう。ISは女性しか使えないというアドバンテージを実質なしにしてしまった。束が作った正規品のコアは女性と男性では現在一夏だけが使えるが男性は使用できない。しかし疑似コアは仮に使用者が男性の場合はコアの方で性転換を行う事が出来るので無理やりにでもISに乗ることができるのだ。

 

(散々女どもに馬鹿にされて来たんだ。謂れのない侮辱、差別、無差別な虐殺攻撃。

だがこれを手に入れた今、俺たちはアイツらへと復讐する手立てを見つけた。女どもを頂点から引きずり落とす手をなぁ…!!)

 

性能で言えば戦力比は正規ISを1として疑似コア搭載機で8ないし9。単機であれば赤子を捻るようなものだ。が、疑似コアの特徴は生産性が高い事。正規のコアと違い、必要な物さえあれば簡単に作り出せる代物だ。それによる生産力と物量。これが疑似コアの十八番だろう。

 

『ゲイル2よりゲイル1。少し確認してぇんだけど』

 

「なんだ。今更」

 

『いや。なんであんなヘンテコな研究所を襲うのかって…未だにさ』

 

「…あの研究所は科学者どもの根城で、しかもあそこは特機とかも新型機を開発できる設備もあるって聞く。研究所で作られる新型機は今の連邦軍の精鋭も使う高性能機で、そのための整備機能も持っている」

 

グルンガストやプロジェクトTD系はテスラ研で作られた機体だ。更に特機である「ダブルG」と呼ばれる機体「ダイゼンガー」や「アウセンザイター」も組み上げはここで行われ、整備も完全なものが出来る。

殆どがワンオフ機で、リーダー格であるゲイル1の言う通り、連邦軍の精鋭、アイドル部隊と言われている「鋼龍戦隊」もここで作られた機体を多く保有し、使用している。

 

「つまり。あの研究所を手に入れるってことは、俺たちはそんじょそこらの奴らや連邦軍よりも強い力と兵器を手に入れられるってことだ」

 

至極単純な理由ではあるが、確かにテスラ研の開発設備を使えば強力な機動兵器を作り出すことができる。しかしだからといって、カザハラたちが黙ってそれに従うとは思えない。相手が科学者だから。科学者だということに彼らは気付けていない。

たかがと侮っていた彼らだが、伊達に何度も戦いの渦に巻き込まれていないのだから。

 

『なるほど…!』

 

「しかも、あの研究所には今。ロクな戦力と呼べる奴らが居ねぇ。攻めるなら今だ!」

 

リーダーの男…いや女ことゲイル1は五人の仲間たちと共に断崖の崖から飛び出す。正面には目標であるテスラ研があり、赤銅一色の景色の中で白い棟は綺麗に浮かび上がっていた。そろそろ向こうも反応しているというのに、気づいた様子はない。恐らく気づいてはいるが戦う術がないのだと、ゲイル1ことアヒージョは予想した。

 

(レーダー圏内のハズなのに迎撃してこないってことは…予想は大当たりだな!)

 

迎撃の機体が出てこないことにニヤリと口を三日月のように釣り上げさせるアヒージョは、無線を通して五機の仲間に対し指示を飛ばす。

 

「全機、武器を構えろ! 蹂躙するぞッ!!」

 

勝った。迎撃が来ない時点で、自分たちの勝ちを確信する。

迎撃機の一機も姿がない研究所はもはや丸裸同然。あとはどうするかは自分たちの自由だ。こみ上げる一方的な勝利への高揚感に彼女の笑いは止まらなかった。

迎撃の攻撃が飛んでくる直前までは

 

 

「なっ!?」

 

『あ、なんだ―――』

 

『げ、ゲイル4…チーノ!?』

 

研究所から真っ直ぐ飛んできた虹色の一閃は、外すことなくアヒージョの右隣を走行していたゲイル4ことチーノへと直撃する。狙いは正確で、ほぼど真ん中を撃ち抜かれた彼女のアクシオは爆発の業火と共に四散した。

幸い、パイロットは最低限の脱出機能のお陰で爆発の後ろへと放り出される。進んでいたハズの自分が後ろへと放り出されたことに、脱出できた男は一瞬何が起こったのか分からなかった。

 

『なっ…何が起こってる!?』

 

『オイ、迎撃はされないって話だぞ!?』

 

「莫迦な…敵…いや迎撃が来るハズ―――」

 

 

だが。迎撃はされたのだ。目標のテスラ研へと目を向け直したアヒージョの機体レーダーと劣化品のハイパーセンサーに反応があり、その反応と拡大された映像に彼女は目を大きく見開いて絶句した。

 

『っ……!?』

 

 

居ないと思っていたハズの迎撃機。それが二機、彼女たちの前に立ち塞がっていた。たった二機だが機体の姿形から流通している量産型でないワンオフかカスタムされた機体であるのは確かで、彼女の予想が正しければ機体は恐らくテスラ研で作られた高性能機だ。

答えは当たらずも遠からずだが、彼女たちからすれば高性能な機体であることに変わりはないだろう。

黒い騎士の姿を模した剣撃戦型の機体「ヴァイサーガ」と、青と白のカラーリングが施された強襲型の「アシュセイヴァー」。二機とも並行世界から来た機体を元に作られたという機体で、その性能は第三世代機以上とも言われている。

 

『迎撃機!?』

 

『しかも…あのISは…!』

 

そんな機体が二機現れたのだ。彼女たちにとっては最悪でしかない。

 

 

「一機…けど、この距離だと次の攻撃はかわされるかな」

 

『だろうな。簪、狙撃はやめて普通に迎撃するぞ。アクシオの装備なら大した無茶も出来るはずない』

 

「うん。フォワードはお願いね」

 

向かってくるアクシオに一夏と簪は正面から応戦することにして、それぞれ手持ちの武器を構えてスラスターを吹かせる。

前衛であるフォワードを任された一夏はヴァイサーガの主武装である「五大剣」を抜刀し、量子変換させた鞘を持っていた手には三本の苦無を持つ。テスラ・ドライブといった飛行機関を持っていないので彼の機体はまるで浮いているかのように、ゆらりゆらりと動くが子どもたちが憧れるヒーローのようにマントをなびかせて飛行する。

 

『お任せってな』

 

後衛として数歩後ろに下がった簪は、アシュセイヴァーの装備で先ほど狙撃に使用した「ハルバートランチャー」を量子変換させて新たに黒いライフルを手にする。「ガンレイピア」と呼ばれるこの射撃武装は複数の銃口から射撃することで弾幕を展開するのが特徴だ。

 

 

『迎撃のIS…! しかも二機いるぞ!』

 

『どうするんだ! 話じゃヤツらは反撃できないって…!』

 

予想外の事態に戸惑う仲間たちの声に、アヒージョは釣り上げていた口元を曲げて屈辱の意を見せる。彼女も迎撃は出てこない筈だと思っていたのに、その迎撃が行われたこと、二機のISが居たことに焦りはしていたが、だからといって今ここで逃げるという気にはなれなかった。

 

「ッ……各機、散開しろ! こうなったら倒すしかない!」

 

『ほ、本気かよ!?』

 

『相手は正規コアのISなんだぞ!?』

 

「当初の目的に変更はない! それに今ここで逃げれば俺たちは確実に全滅だ!!」

 

威厳、権威もあるが、アヒージョはそれ以上にここで逃げれば生き残れないという死への恐怖から、逃亡を考えずに戦うことに決めた。敵に背を向けるということは逃げるということだが、この場合は絶好の的になることは明らかだ。

ならば、せめて戦って活路を見出すしかない。逃げるのであればその時に。と最悪、仲間を裏切ることを脳裏に過らせて。

 

『そんな…』

 

『……クソッ…それしかないか!』

 

今更、逃げることはできないと覚悟した四人は意を決して彼女の指示に従い四方にバラバラになって広がる。単純な奴らだな、と冷静さを持っていたアヒージョは汗を滲ませながらも小さく笑っていた。

 

 

「散らばったか。簪、右の二機頼む。俺は左の三機をやる」

 

『無理しないでね』

 

鶴翼の陣のように広がった五機を見て、一夏と簪もそれぞれ左右に広がった彼女たちを倒そうと分かれて応戦する。一機ずつ確実にもあるが、アクシオ相手にそこまでする必要はないという一夏の考えだ。

左側に散開した三機に狙いをつけた一夏は、苦無の「烈火刃」を投擲。三機の内の一機の手前に当たるように投げて、狙われたアクシオを態と避けさせる。

 

「まずはっ…!」

 

「ッ…!!」

 

敵を視界に捉えつつ移動するというやり方は、相手も慣れていない。投擲した苦無を囮に態と当てないようにしたのは、ホバー移動の時に避ける動作を集中させるためで、その間に一夏は間合いを詰めて五大剣を横なぎにして振るった。

 

「ひとぉっ!!」

 

すれ違いざまに大剣で切り裂き、残る二機の後ろを取る。彼に斬られたアクシオはその場ですぐに爆散。絶命まではしなかったが、搭乗していた男は爆発で飛ばされ地面に叩きつけられる。

機体から放り出されたことで性転換されていた性別も元通りだ。

 

『カルボ!?』

 

「ッ……!?」

 

後ろを取られたことに焦りつつ、やられた仲間の名前を叫ぶ。こうもあっさりと一機目を落とされたことに、対峙していたアヒージョも顔にはあまり見せていなかったが動揺を隠せない。赤子を捻るかのように簡単に倒されたのだ。

 

「クッ…弾幕を張れッ!!」

 

直ぐに相手との接近戦が不利であることを理解した彼女は仲間に指示してアサルトライフルとM950マシンガンで弾幕を形成する。仲間のアクシオも四連式のミサイルポットを使い弾幕を更に避けにくいようにさせるが、マシンガンの弾幕を大して気にしていない一夏は、多少の被弾を覚悟して二機へと向かい突進した。

 

「なにっ…!?」

 

「この程度なら…!」

 

マシンガン程度の弾幕では一夏の接近を止めることはできない。だからといってミサイルはどうかと言われるが、ミサイルは全て軽々と回避されてしまう。ミサイルで誘導があるといっても、四発程度では弾幕も殆ど意味もない。

接近はできないだろうと思われていた弾幕の中を、まるで雨の中を傘もなくずんずんと進んで行くかのように弾幕の中を進む一夏に、アヒージョたち二機はものともしないその突進に戦慄して逃げ出したくなる。しかし、手に持っていた武器による中毒性がギリギリ彼女らをその場に踏みとどまらせ、引き金を引き続けさせていた。

 

「くっ…ううう…?!」

 

「二機目ッ!!」

 

十分に詰められた間合いから、五大剣の攻撃が時折を掠めつつも低く風を切っていく。止まらない速さの攻撃に引金を引くことしかできない彼女たちは、刻が止まったかのように動くことができず、間合いを詰めて来た鋼の剣に敗北と死を覚悟した。

そして。突風のように大剣は空へと舞い上がり、二機目のアクシオを切り裂いた。

 

「なんだと…ッ!?」

 

「残るは一機ッ!」

 

こうもアッサリと二機落とされたことに焦りを隠せないアヒージョ。対して一夏は残り一機だけという焦りから次第に頭の回転に停滞と減速が見え始め、白く塗りつぶされかけていた。

 

「ぬうっ…! ゲイル2、3、援護を―――」

 

頭が回らないアヒージョは分断された仲間たちに助けを請う。しかしハイパーセンサーから投影されたモニターには頼みの綱である二人が既に撃墜されたと表示されていた。

彼女の後ろでは気付かぬ間に簪一人に二機が撃破されていたのだ。しかも、それが手に持っていた銃とミサイルだけでとなると、いよいよ嫌でも自分と相手との実力の差を思い知らされることになる。

今まで目の前の戦闘に集中するので精一杯だった彼女は、何時の間にか仲間たちが全員撃破されて、残るは自分だけという状況に思考がほぼ停止していた。

 

「そん…な……」

 

 

「簪、そっちは終わったか?」

 

『うん。けど、反応的に多分その残った人がリーダーだと思うよ』

 

少し離れた場所で黒煙を上げるアクシオの残骸を見ながら無線で通信する簪は、相手にした二機の動きと反応から残った一人がリーダーではないかという推論を立てる。直接の交戦を始めて直ぐ、彼らの動きに無駄や不慣れさがあり時折なにか話しているようにも見えたことから、まずは相手に連携能力は低いと考える。そしてそこから互いに言い合っていたところから普段から言い合っていると考えると、組織的にもそこまで上下関係があるものではないと考えた。

事実、残った一人が彼らのリーダーで、動きも他の四機に比べると幾分か良さがある。その動きの良さは少し見ればわかる若干の差だが、一夏も間合いを取って観察し簪の意見に同意した。

 

「だ、ろうな。簪、残り一機。片づけるぞ」

 

『そこまでの相手?』

 

「それほどじゃない。けど、念には念をってな。最悪の場合は俺が囮になるから、挟み撃ちしてくれ」

 

『分かった』

 

用心深いのか慎重に敵を倒すという一夏に、徹底さも感じる簪はスラスターを吹かせるとともに残弾を確認して挟撃を行う。目の前に敵はいるが、その向こう側に一夏が居るのであくまでプレッシャーを与えることに徹する彼女は出来るだけ足元を狙ってガンレイピアの引金を引く。

 

「ッ……!?」

 

銃撃と音に後ろからの殺気と恐怖にアヒージョが気付く。レーダーも接近警報をけたたましく響かせていたが、それよりも先に敏感になっていた神経が彼女に危険を知らせ防衛反応を起こさせる。

後ろからの銃撃に応戦しようと振り向くが、手に持っていたライフルがガンレイピアの弾幕に被弾してしまい、弾薬に引火してしまう。引火したライフルからの僅かな焦げたニオイに気付いたアヒージョは直ぐにライフルを手放すと、それを待っていたかのように爆発した。

 

「っ…あっ!」

 

爆発に対してライフルを持っていた腕で顔の付近を防ぐ。幸い飛び散るものが小さかったお陰で大したダメージはなかったが、その一瞬の隙をついて一夏が後ろから襲い掛かる。

怯んでしまったアヒージョは後ろからの攻撃に気付いてはいたが、爆発に体が止められてしまったかのように動かなくなっていた。

 

「しまっ―――」

 

「これで、ラストッ!!」

 

五大剣の周りに風が纏われ始め、ボールか何かの様に固まっていく。まるで剣の周りだけに巻き起こる風は目に見えるほどの勢いと強さを保ち、それを本当にボールとして投げるかのように一夏は風の塊をアヒージョとアクシオに向かい投げ飛ばした。

 

「風ッ!?」

 

「この風は逃げられないぜ!」

 

危機感を感じたアヒージョは腕だけでもと動かして、持っていたロケットランチャーを放つが、狙いが定まっていない弾頭は風と向き合うどころか一夏にすら当たらない方角へと飛んでいく。しかも、一夏の放った風の塊がさらに弾頭の方向を狂わせ、あらぬ方へと飛んでいき爆散してしまう。

最後の希望すらも無くなったアヒージョの体温は急激に低下して、まるで自分の体内だけが凍り付いたかのように冷たくなってしまう。なのに、頭の中だけは異様に鮮明で、そこには「敗北」と「死」の単語が並んでいた。

風に捕まり、動きを止められてかまいたちのように機体共々、切り裂かれるアヒージョはもはや声すらも出す事ができず、あとは風のように流れるまま敗北を受け入れるだけだった。

 

 

「風刃閃ッ!!!」

 

音速を超えた一撃である風刃閃が、アクシオを背中から突き刺す。風を纏い相手の動きを止めた隙に突き刺す一撃は、奥義の技を除けば高い威力を持つ。単純な攻撃だが、この一撃を受けてアクシオが耐えられるわけはない。

 

「がっ………」

 

アヒージョのすらりとした脇腹に向かい五大剣を突き刺した一夏。機体を拘束していた風は剣が突き刺されるのと共に霧散して、本来の風として何処かへと消えていく。

確実に五大剣を突き刺した一夏は、その感触を手と握った剣からの感覚で確かめると、直ぐに脇腹から引きはがす。

脇から抜かれた剣を持ち、アクシオの装甲を足場代わりにして蹴った一夏はヴァイサーガの飛行能力によって空へと退避する。水泳の壁蹴りのように飛んだ彼と機体は、アクシオから離れていくと爆散する機体を見届けて、数メートルほど地上から離れたところで止まった。

 

「…ふうっ」

 

最後の一機が爆発したのを見て全員倒せたと安堵した一夏は軽い息を吐く。黒煙を上げて燃える機体の残骸は一機として動く様子はなく、その近くには倒れた男たちの姿があった。性転換されていたのが元に戻り、爆発のせいでそれぞれが怪我を負っていた。

完全に沈黙したと確認するまで気が抜けなかったが、倒れてうめき声を出す彼らを見て一夏は五大剣を納刀する。

 

「終わった…の、かな?」

 

『だろうな。束さん、レーダーは?』

 

『んー? 特には居ないよー。多分いっくんの言う通り、そいつ等で全部だと思う…かな』

 

「………?」

 

ふと、束の言葉に引っかかった簪は無線が聞こえる耳の方に目を向けて口をへの字に曲げる。いつもならハッキリと言い切る束が、歯切れの悪い言い方をしたことに違和感をもっていた。好きなら好き。嫌いなら嫌いと断言する、もしくは誤魔化す場合でもそれが分からないほどの言い方で欺くハズの彼女が、言うことはないだろう言い方をしていたのだ。

 

「…束さん?」

 

『んー…? んー…カザくーん、ちょっと手伝ってー』

 

一夏も疑問に思って声をかけるが、何か気になることでもあるのか無線越しにカザハラに何かを頼んでいる。

 

「束さん。一体どうしたっていうんですか?」

 

『なんかねー…レーダーに変な断続が…』

 

『断続…ですか?』

 

『んー…まだレーダーを調整してないし、束さん専用のに設定もインプットもしてないからねー…ちょっちまって…』

 

そう言って、スピーカーからは束が高速のような速さでキーを操作する音が聞こえ、レーダーを彼女が扱いやすいように設定し直す。どうやらレーダーに何か異常があるようで、それを束が弄って受け付けないようにするらしい。

そんなことで簡単にできるのかと思いたくなるが、一夏は束の言葉を信じて一旦地面へと着地し無線からの返事を待つ。

 

「一体なにが…?」

 

「レーダーに異常があるんだし、警戒したほうがいいかもしれないね」

 

ホバーでゆっくりと近づいてきた簪が未だ警戒を解いていない険しい顔をしていた。一夏も束の言葉とレーダーの静けさが今になって感じて来たのか、頷いて警戒を強める。

レーダーは自身と仲間である簪以外、反応はないがそれがかえって一夏に余計な不安を感じさせていた。たかがテロリストと戦力はこれだけと決めつけていたが、何処かアッサリとし過ぎていたことに、広がる残骸と倒れているテロリストたちを見て考える。

 

「…カザハラ博士。こいつ等、どうします?」

 

『そのままにしておいていいぞ。あとはコッチで回収して軍に引き渡す。ま、最低限の拘束と応急手当はするがな』

 

「………。」

 

本当に今更なことだが、一夏は改めて今回の襲撃が本当にこれだけなのかと疑問に思ってしまう。テロリストが疑似コア搭載機をここまで揃えられていた。しかし資金的にこれ以上の余裕はない。だから六機だけで襲って来た。

最初はそれ位に思っていたが、逆にそれが違和感の素になっていた。

何故六機だけなのか。どうして彼らだけで襲って来たのか。後続や伏兵が居ないのはどうして。

そもそも。どうやって疑似コア搭載機を六機も集められた?

 

 

「―――なぁ、簪」

 

「なに…?」

 

「こいつら、本当にテロリストか?」

 

「えっ…? それって…この人たちがテロリストじゃないってこと?」

 

一夏の唐突な発言に驚く簪は、倒れるテロリストたちを見てそれが違うのかと自分の目を疑う。

 

「かもしれないって話だ。けど、疑似コア搭載機とはいえ、テロリストがISを六機も持っているのはそもそも変な話だ」

 

「…確かに」

 

偽物、まがい物とはいえ機体はISと銘打っているのだ。しかも高性能の塊と言える機体を、テロリストが六機も揃えているのはそもそもおかしな話だ。高価な品を買えるだけの資金力。そしてそれを手に入れられるルートを持っていること。

仮に資金があって、それを手に入れられるルートを持っているとしても継続的な収入源のない彼らにそこまでの数と武器弾薬を買えるだろうか。

テロリストとして立ち上がったはいいが、常にそういった継続的なものがない彼らにとってはそれが一番の敵であり、問題点でもある。

 

「推測だけど、俺はテロリストでもここまでの装備なら一機か二機で精一杯だと思う。なのに、こいつ等はそれを六機も集めていた。こいつらの資金源…いや、そもそも金自体はどこにある?」

 

「…強盗…なわけないよね」

 

「その場合は大抵が逮捕されるか、逃げられたとしても弾薬で赤字のどっちかだ。それに、それだけの金ならISじゃなくても他の兵器を手に入れればいいし、場合によっては強奪だってできたハズだ」

 

「でも…ISが一機あれば強盗とかも楽じゃない?」

 

「その場合は軍が出てくるだろうし正規のコア相手に擬似コアじゃ歯が立たない」

 

つまり。一夏が言いたいことはどうしてテロリストが六機も疑似コア搭載機のISを持っているのか。その資金源は何処からか。

どうして六機だけで攻めて来たのか、だ。

そして。どうして研究所を襲ったのか。これもまた疑問点だ。

 

『確かに、おかしな話だ。金の出所もそうだが、ISの装備がテロリストにしては整い過ぎている。それに、どうしてテスラ研の戦力が空だってことを知っていたのか』

 

「それだけでも…かなりの情報収集能力と資金力を持っている…けど、それだけのならテロリストというよりはマフィアとかじゃ…」

 

『まぁ、資金力があってルートも持っている。そして情報能力があるって意味でならそうだが…その場合、どうしてここを襲ったかだ。実際、こんな辺鄙なところにある変な研究所を手に入れたところで彼らには何も得はないし、虎の尾を踏むような行為だ』

 

「そうですよね…」

 

では彼らは一体何者か。三人の間で議論をしつつ考えていると、束の明るい声が彼らの間に割って入って来た。

 

『おっけー! これでレーダーは正常かつどんなジャミングも受けなーい♪』

 

「んじゃ俺たちのと同期、お願いします」

 

『はいはーい、まっかせてー♪ これでASRSなんつーふざけたのも加えて大抵のは受け付けないのだー♪』

 

 

 

 

 

その時だ。一夏の頭の中で、なにかピースが当てはまるような音が聞こえたのは。

全ての話と疑問に合点がいった。撒かれていた物が全て、一つに繋がった彼は今までどうしてそれに気づけなかったと失念し、自身を責めたくなった。

それが全ての答えだ。繋がったことで導き出された真実を一夏は口にしようとした

 

 

『ッ!! って言ってる傍から敵機警報ッ!! レンジ2!!』

 

「ッ―――!?」

 

「なっ…」

 

レンジ2。最初のIS六機よりも近い位置で補足されたことに、どうして今まで気づけなかったのかと思ってしまうが、現れた敵がそれ以上の考える暇を与えてくれなかった。

ブースターによる爆発的な加速を終えた数機のAMが彼らの上空に姿を現し、更に後続として巨大な大砲頭のAMも姿を現した。

 

「リオンとバレリオンッ!」

 

「ここでAMが…!?」

 

戦闘機から派生したアーマードモジュールことAM。その代表的な機体であるリオンと、砲撃戦による火力と防御力を持った巨大なレッドレールガンが特徴のバレリオン。

それぞれ三機ずつの計六機が現れ、一夏と簪をまるで人形か何かを見るように見下していた。

 

『なーるほど…どうやら、どっかのおバカが新しいジャミングのテストとしてけしかけたって所だね』

 

『だろうな。しかし、AM六機。しかもバレリオンとはな…マズイぞ』

 

「ッ……!」

 

ISとPT、AM。戦力比で言えば実はかなり拮抗はしているがISの方が劣勢だ。戦力比はAMが1に対してISは2。PTに対しては3になる。

これはワンオフ機でも似たような結果で、PTの場合はどうにか1:2に持ち込めるので精一杯というのが一夏たちの経験から出ていた。

 

「逃げられる…かな」

 

「その前に俺たちを動かせてくれるかだ…」

 

リオンの装備であるレールガンとミサイルは装填され、バレリオンもメインのヘッドレールガンを一夏たちに向けている。微動でもすればすぐに彼らの全火力の集中砲火が飛んでくるだろう。

逃げられる自信がないわけではないが、その場合は研究所全体に被害が及ぶどころか下手を踏めばタコ殴りに逢う可能性だってある。

 

(…これ、詰んだか?)

 

最悪の事態に今度は一夏が敗北を予感した。

仲間たちを撃たれた報復。パイロットたちはそれぞれ引金に指を引いた

 

 

 

 

 

「―――その役目は、私に任せてもらおう」

 

空を舞っていたリオンたちに突如爆発が起こる。

発砲音が先に出てくると思っていた二人は、その前に響く轟音と黒煙の焦げ臭さに思わず自分の目を疑った。暴発やオーバーヒートではない、外部からの攻撃に推進系が被弾したのだ。

バレリオンも同じで、推進系のみを撃たれて飛んでいた六機は空から地面へと落ちていった。強固な機体と言えど推進系は流石に露出しなければ飛ぶこともできない。だが、だからといってピンポイントで狙うのは至難の業だ。

 

「―――今の攻撃…この狙い…」

 

「あの声…もしかして…!」

 

被弾したリオンとバレリオンが黒煙を上げてふらふらと紙のような不規則な動きで地面へと落ちていく。その中でバレリオンは地上での戦闘も想定していたので足がしっかりとしていたお陰で着地に成功した機体もあった。だが、大半は奇襲で推進系を撃たれたことで円形の鉛筆のようにゴロゴロと音を立てて転がっていく。

リオンは空中戦が主体なので足も着地のためのスタンド程度しか使わないので、駒のように回転して転がったりする機体もあれば、なんとか背を地面に向けて着地した機体もあった。

だが、推進系を狙い撃たれたことで全機とも飛ぶ事はできなくなった。これだけ正確なピンポイントでの射撃(・・)を行う人物は二人が知る中では一人しか居ない。

 

 

「アウセンザイター…!」

 

黒い人型の姿をした機体は、肩に円形の盾のようなものを着けている。盾であり投擲武器であるその中心部には搭乗者の家紋があり、それに隠れるように人の顔が見えていた。赤いマントを纏い、二挺のライフルを構えるという西部ガンマンのような機体は正式名として「穴馬」英訳として「部外者」の名を冠していた。

特機機体「ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン」の二号機アウセンザイター。

また名を「トロンべ」。パイロットはレーツェル・ファインシュメッカー(謎の食通)だ。

 

「レーツェルさん…!」

 

『二人とも、よく耐えたな。あとは我々に任せてくれ』

 

「えっ…我々ってことは…」

 

『うむ。今し方、彼らの母艦をわが友が沈めたのでな』

 

レーツェルの親友。いや、恐らく親友でも足りないだろう絶対的信頼を置く人物。その『友』が現れ、たった一機で母艦を沈めたのだろうと容易に想像できた一夏たちは苦い顔で想像できてしまったことと、それを成し遂げた人物の当然ともいえる反応に改めて彼らが化け物じみた実力を持っているのだなと呆れつつも感服した。

 

「斬艦刀一本あれば、本当に充分だな…」

 

「流石は武人…」

 

しかしそのお陰で一夏たちは危機を脱することができたのだ。レーツェルたちの実力が強いというのは何時も見ていたようなものなので、助けられた瞬間と彼の『友』の行動に驚く以外は苦い顔をするだけだ。

無線越しからは更に代弁するような束の声が聞こえ、明るい声は挑発でもするかのような言い方で無線のスピーカーを雑音交じりにする。

 

『へいへーいエルくーん。流石にその登場はかっこよ過ぎじゃないのかーい?』

 

『ん。篠ノ之博士。今どこに?』

 

『研究所の地下だよーん。カザくんも一緒で、束さん押し倒されちゃってるのだー♪』

 

「嘘だ…」

 

「流石にカザハラ博士も、篠ノ之博士には手を出さないよね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残敵の確認を束が終え、追加や後続、伏兵の類がないと分かると地上に居た一夏と簪はようやく終わったとホッと息をつく。

レーダーの範囲は広く、精度も束が弄ったことでかなり良くなったらしく大抵のジャミングは問題ないと豪語するが、その大抵の言葉の違いに一夏たちもそれが大抵と言えるのかと呆れていた。

恐らく敵の残り戦力も全て母艦であるストーク級の空中母艦に居たのだろうが、それはレーツェルと分担して担当した斬艦刀の男、彼の『友』であるゼンガー・ゾンボルトが鉄くずに変えた。斬艦刀の名に恥じず、文字通りの一刀両断で切られた母艦は、その後連邦軍に後処理を依頼するらしい。

斯くして戦力全てを失った襲撃者たちはその後、一夏やレーツェルたちによって拘束されて一か所に集められた。一応、重傷者などのけが人が居たので、最低限応急処置をしたうえでの隔離だが、束曰く「逃げるのならブチ○す」と本気の声質とトーンで脅されたので、彼らは誰一人としてその言葉に背こうとせず、激しく首を縦に振って従った。

 

 

「でさ。束さんからも一つ聞いていいかな?」

 

「なんでしょう」

 

「エルくんたち、なんで二人でテスラ研に来たの? クロガネは? ドリル戦艦は? 轟天号は?」

 

「束さん、最後のは違う。似てるけど違う」

 

地上での後始末が行われている中、アヴァロンのブリッジには一夏と簪の二人が戻り、二人を助けたレーツェルとゼンガーの二人がその後ろからついて入る。ブリッジに集まった一同だが、その中で最初に口を開いたのは束で、即座に思った事を口に出した。

クロガネことスペースノア級三番艦は、元はDCで使用されていた艦で今では表に出にくいお尋ね者たちが集まる部隊となっている。レーツェルとゼンガーも類にもれず、片やコロニー統合軍の元総司令官の息子。そしてゼンガーに至っては明確な離反者だ。

 

「クロガネは後で来る。先に我らが先行して、このテスラ研に来た」

 

「先行って…ここでの戦闘を?」

 

「ああ。未確認の母艦がこの地域を根城にしているという情報があったのでな。もしやと思い、レーツェルと先に出たが、予想は正しかった」

 

ゼンガー曰く、その襲撃者たちが裏から何かの取引を行っていたらしく、その取引先をクロガネ隊が追っていた事から動いていた彼ら襲撃者を追跡していたところで、偶然にも今回の襲撃に遭遇したらしい。

 

「今回の襲撃。そして取引相手はノイエDCの残党だった。しかもかなり潤沢した資金を持っていたようだ」

 

「疑似コア搭載機とは言え、ISを六機も持ってましたからね。あの装備も加えるとかなりの資金ぶりだ」

 

 

DC戦争後、インスペクター事件当時に発足したDC残党を再編した組織「ノイエDC」は一時的とは言え巨大な戦力を持つ組織だった。しかし指導者であるバン・バ・チュンが戦死して組織は再び瓦解。残党組織として再び世界各地に息をひそめてはテロなどを起こしていた。

元々DCはAMを主力として運用していたので、彼らがAMを持っていたことは頷ける。

 

「だが、いくらDCの残党とはいえ、あそこまでの資金力は普通に考えて可笑しい」

 

「確かに、残党組織といっても装備やパーツが整い過ぎていたし、中には最新式のも混じっていた」

 

一夏の矛盾にカザハラも同意して、ブリッジのメインモニターを操作して何かデータを表示させる。

 

「カザハラ博士、それは?」

 

「さっき回収したリオンの解析結果。パーツをひとしきり調べてみたが、粗悪品の中に新型のも混じってた。しかもまだ市場には出回っていないものもだ」

 

拡大された画像や取り外されたパーツ、その残骸のデータなどに興味深いといった様子で見るレーツェル。コロニー統合軍でAMを駆っていた彼にとっては無視できないものなのか、黒いサングラスの奥では目を細くして映し出されるデータに食らいついていた。

 

「傍から見れば旧式機。しかし中身は新品と中古品の混じった機体。それは、あの疑似コア搭載のISも同じだった」

 

「旧式の機体とパーツに混じって新型のが入っていた…ということですか」

 

アクシオも開発されたのは最近のことだが、性能や世代などから旧式扱いされている。しかも、スペックも第二世代にさえ劣るところもあることから実質上1.5世代と呼ばれる始末だ。

拡張性、量産性は確かに群を抜くが軍事兵器であるなら当然、性能も評価の対象となる。

そこまでの考えが秋龍にあったのかは、今やもう聞くこともできない。

 

「新型っていっても性能はどっこいだけど」

 

「いずれにしても少佐たちの言う通り、あのノイエDCの裏には誰かが手引きをしていたってことになるな」

 

ロートル、欠陥機と呼ばれる機体の性能を底上げした者たちが居る。更に残党と化したノイエDCに対してその機体を提供した者もいる。資金提供だけではない、武器や兵器を提供し彼らに戦う力を与えている者がいる。

それが一体誰なのかという話題に切り替わった時に、沈黙しかけていた簪がまさかという顔で可能性の一つを出す。

 

「まさかとは思うんですが…またイスルギが?」

 

「可能性としてはあり得るだろう。だが、彼らが資金ぶりの思わしくない残党に資金と軍事力を提供するとも考えにくい。戦力もそもそも充実していたし、何より彼らの狙いがここであるなら何の得にもならない」

 

戦争による利益を手に入れようと常に様々な所に商品や技術、施設などを提供し利益獲得に動くイスルギ重工。その相手は敵対している組織であっても同じで、全ては利益が優先される。

レーツェルが簪に返した通り、今回の襲撃者であるノイエDC残党の戦力はAMとストーク級を中心としたやや大規模な部隊だ。AMと母艦だけは彼らの持ち物だと言える。

しかし当然残党組織であるなら資金が問題になる。そして、何より彼らの狙いが今回のようなテスラ研であること。これが一体どう利益につながるかと言われると可能性として言い出した簪も答えることはできない。無論、それはレーツェルたちもその場では同じだ。

 

「加えて、下手に軍と関係を持つ施設を攻撃したのなら、企業としての存続そのものにも影響する。イスルギが関与したのなら、狙いを誘導して変更させるハズだ」

 

「自分たちの得するもの…ですか。けど、戦争をふっかけて影で支援の名目で残党から絞るだけ金を絞れば―――」

 

「ない話でもないけど、そうなればそこでの戦争が無くなって全体的な利益が減る。利益に対して並々ならない執着のある彼らなら、それ位の予測は出来るだろうさ」

 

カザハラも加わり、更に押された簪は仏頂面のような剥れた顔で反論したカザハラに対し睨みつける。自分だけが悪いのではないのだけどと、簪の怒りの矛先に対して理不尽さを感じるが、それを遮るように一夏が話題を戻す。

 

「イスルギの線が無くなるとして…なら一体どこが? テスラ研に仕掛けるなんて、そもそも理由が分からない」

 

「それに一応、研究所自体は連邦に手を貸している。下手をすれば連邦軍の軍事力そのものを相手にすることになる。虎の尾を踏むことなんて誰もしたくないさ」

 

となれば、相手の目的は自然と利益ではなく何か別のものであることが考えられるが、だからといってそれが何であるのか、一夏たちにも分からない。

 

「博士。テスラ研では現在機体は?」

 

「一夏たちの使う機体を修理した程度。グルンガストシリーズも今は全機日本だし、壱式は設計図を引き直している最中だ。それに、今はプロジェクトTDメンバーは宇宙での訓練中だし戻るのもまだ先だ」

 

「では、機体などの実物ではないか…」

 

「だろうな。であれば向こうを襲うハズだ」

 

 

ならば裏で手引きした者たちの狙いはなんなのか。迷宮化を極める中で、沈黙していた声が再び声を出す。

 

「んじゃラインなんじゃない?」

 

と、明るい声で「ならそれでしょ」と断言した言い方をする束に全員の目線が一気に彼女に集められる。

何を言ってるんだという顔の束は、全員の目が集まったのを見て言い放った言葉を紡ぐ。

 

「だってテスラ研だよ? EOT技術の粋が集まった施設。そこに備えられた生産ライン。そして生まれた特機たち。今回やって来た馬鹿たちが言ってたじゃん。「俺たちは研究所を手に入れて、そこで最強の特機を作るんだ」って」

 

テスラ研には確かに特機などを作るための生産設備が整っている。そして、それが狙いで今回襲撃したのも一夏たちは話を聞いていた。

理由としては不思議でもないだろう。しかしそれが目的であると言われても、素直に納得はできない。仮に生産ラインと技術が目的だとしてもだからといって軍の施設に手を出すなどということを果たして彼らは行うだろうか。

 

「けど、仮にテスラ研を占拠して、生産設備と技術を手に入れて特機を作ったところで、結局は連邦軍を相手にするんですから、残党と言えどやるだけ無駄だって分かる筈ですよ」

 

「うん。まぁ少し考えれば自分たちの立場からそうなるっていうのは分かってたハズ。けどさ、もし後ろ盾があればどうよ?」

 

残党がテスラ研に仕掛けること自体、後のことを考えると無謀としか言えないだろう。仮に占拠してもその後に連邦軍からの攻撃をうけていくら作られた特機と言えど物量と戦力差に押されていつかは壊滅する。単調な考えしかないテロリストでないのなら、それぐらい彼らも考え着くハズだ。しかし彼らはそれを実行した。

束の言う通り、そうしても自分たちが直ぐに潰されないという絶対的な自信と根拠、そして理由があるからだ。となれば、その根拠と理由が行きつくのは孤立状態の中で唯一接触を図って来た取引相手だけ。

 

「多分、あの残党どもは取引相手にも、仮に成功したとしてもその後の結末がどうなるかは言うハズ。けど、残党がそれを知っててココを襲ったとすれば、理由は何か保険がかけられていたから。残党組織にそんなものがあるとすれば、数少ないカードの中から自ずと答えは絞られて来る。

大方取引相手が「その時は私たちが連邦軍に干渉する」とかなんとか言ったんじゃない?」

 

「なるほど。取引相手が連邦軍に干渉できるだけの組織力を持っている、もしくはそう見せたことでノイエDC残党に後ろ盾の絶対性を信じ込ませたか」

 

「加えて台所事情の苦しい残党なら、すぐにでも戦力は欲しいハズ。それにその為のお金だって貸してくれるんだから、相手の意図を読むようなビア君(ビアン)みたいな人じゃない限りは信用すると思うよ」

 

「つまり。彼らの目的のために、ノイエDC残党を生贄にして目的のために襲撃をけしかけた…」

 

「だろうね。でなけりゃ、こんなバカ丸出しのことなんてするハズないモン。あの連中はうまく使われたってことだね」

 

「では、博士はその『奴ら』が何を狙ってテスラ研を襲撃したとお思いか」

 

残党たちが襲撃した理由、そしてその意図を知ったレーツェルたちは納得するが問題はその後ろ盾を演じた者たちの考え、目的だ。それをどう予想しているかとゼンガーは束に問うが、これもまた単純と束は即答で返した。

 

「データ…というか技術データだね。多分、向こうはテスラ研が持つEOT絡みのデータが欲しくって、それを手に入れるために連中をけしかけた。もっともらしい理由と保険、そして餞別を与えてね」

 

「だが、それなら―――」

 

「スパイすればいいんじゃないんですか?」

 

今回の襲撃がそれだとすれば、あまりに後ろ盾をした者たちが不利益になる。金と装備、それを無駄にしたのだ。しかも結局は失敗したのだから、赤字は確定だ。

技術を奪うために襲撃したというのは作戦自体そもそも矛盾している。そんなことをするのなら、スパイをすればいいのではないかと、当然のことながら簪は言うが、束はそれに対し舌を鳴らして人差し指をメトロノームのように左右に振る。

 

「そんなことは誰でも分かること。かんちゃん予想が甘々だよ?」

 

「えっ…?」

 

「…ノイエDC残党が生贄。つまりは」

 

「そ。つまり言葉通りだよ。アレを生贄にして研究所でドサクサに紛れてデータをくすねたか。ソレが逃げるまでの時間稼ぎか。もしくは戦わせていっくんたちの機体を解析するつもりだったか」

 

最後の一つである戦闘によるデータ解析はないだろうと誰もが思い否定した。そんなことをするのなら束が先に話した二つのほうが効率的だからだ。戦闘中にデータをくすねるのは、研究所自体が戦闘に巻き込まれているということでその混乱に乗じて行う、ある種の上等手段だ。そして、それ自体が既に終わっていたのなら、混乱の中で逃げればいい。

極単純な考えだが、だからこそ一番考えられる可能性だ。

 

「けど、ウチのセキュリティは当然強固だ。それにお前が前に弄ってるから、そこらのデータベースのファイヤーウォールよりも簡単に突破はできんだろ」

 

しかしそこは学問の城。当然、セキュリティについてはカザハラの言う通り抜かりはなく、束自身が関わっていることから絶対の自信だってある。が。それでも盗まれる可能性がゼロではないと言い切れない。

 

「けど、誰も技術データが電子化されたものだけでもないでしょ?」

 

「…なるほど。紙媒体か」

 

「一応、テスラ研だってデータにするまでの過程で紙は使うし、走り書きのヤツだってあるでしょ」

 

「…盲点だったな。確かにそれならやり方次第でできないこともない。相手がジェームズ・ボンド張りのスパイでない限りはな」

 

と、出した例えに首をかしげる若者二人。どうやら旧西暦の映画俳優までは分からなかったらしい。

 

「…まぁ、その人は別として、カザハラ博士。紙の資料って普段はどうしてるんですか?」

 

「大層な重要物以外は全部個人管理だな。私の部屋みたいに」

 

カザハラの部屋と言われ思い浮かべる一夏と簪、そして束。一夏と束は何度かカザハラの部屋に入ったことがあり、簪も初めてテスラ研に来た時に一度入ったことがあるが。一夏の姉である千冬とはまた別の意味で汚いというのが彼らの率直な感想だった。

千冬の部屋がゴミ屋敷だとすれば、カザハラの部屋はこれぞ科学者の部屋というほどの本と紙の山。そしてそれを片づけるのであれば、姉の部屋のほうがまだマシだというのがまた驚くべき話だ。

 

「―――個人管理のものであれば、場所さえ分かれば盗むのは簡単ですね」

 

「まぁな。けど、一応パスワード設定をしているところが多いから、その点をクリアすればの話だ。しかも中には個人が管理していて私たちでさえも知らないパスワードもある」

 

「そこはスパイなんだし、解析してるだろうね。スパイだし」

 

「問題は。それを一体どこの連中が行ったか…だな。仮にそれが正しいとして」

 

まだ実際にデータが盗まれたとは分かっていないので、どうともいえないが仮に盗まれたのであれば大事になるのは確実だ。それを考えると頭痛でも起きたのかカザハラがこめかみに手を付けて曇った顔をする。

そして、そんなことをする組織がイスルギ以外に居るのか。どんな組織が行ったのかということになると、それが更に他の面々にも伝染する。

沈黙する者。正直に困ったような顔をする者。逆にそれが一体何ものがしたことかを真剣に考える者。それぞれがそれぞれの顔を見せる中で、ただ一人だけが表情を変えることなく答えた。

 

「それが次の目的だね」

 

「…束さん?」

 

ブリッジの艦長の席に座り言い出した束の言葉に首をかしげる一夏。それが次の目的とは、と純粋に言葉の意味がわからないのだ。

 

「あの…それってどういう…」

 

「まぁ盗まれたデータとかは二の字。というか盗まれてたらの話でいいんだけどね」

 

随分と他人事だな、とぶっちゃけた束の言葉に眉を少し寄せたカザハラ。彼女が元職員ということもあって少し心が傷ついたらしい。

 

「エル君。そっちで追ってるその取引相手…だっけ? 束さんたちも探すの手伝ってもいいかな。っていうか探させて?」

 

「唐突にどうしたのですか? 協力は喜んで引き受けますが…」

 

イキナリの話に戸惑いがあったのか、レーツェルも束の言葉に説明を求める。だが、ゼンガーはその表情から何かを感じ取ったのか親友であるレーツェルとは違い、彼女に問い返した。

 

「…何か思い当たるものが?」

 

「まぁね。エル君たちの話を聞いて、なんとなく心当たりがあってね。もしかすれば、お探しの取引相手かもしれないし、それがこっちの目的と一緒かもしれないってだけだけど。疑似コアをそいつ等が作ってるってことは確かだし」

 

「その根拠は」

 

「さて。なんででしょう」

 

はぐらかす言い方で誤魔化すが、つまり束にはその取引相手である組織について思い当たるフシがあるということ。そして疑似コアを製造しているのが同じ組織であるという確証があるということだ。

しかし今は話したくないのか、それともそのタイミングではないのか束の言い方から、この場では一夏でさえも聞くことはできないと見て、ゼンガーは無言のままレーツェルと目を合わせた。

 

「…分かりました。ただしこちらも引き続き彼らの取引相手について調査を続行しますが、よろしいですね?」

 

「いいよ。情報は出来るだけ共有するべきだし」

 

(といって…)

 

(過去に織斑先生をも騙した人が言うセリフとは…ね)

 

(前科多いぞ、アイツ)

 

嘘くさい言葉にと白い目で見る外野三人に気づいたのか束の笑みは一層あかるいものになる。が、実際に事実を知っている三人にとって流石にそれだけは曲げられないのか、疑い目で見続けていた。

一夏は答えることはないだろうと諦めて、一拍を置くと頭を掻きつつも今後どうするかと問いを投げた。

 

「…取りあえず、目下の目的は変わらないってことですね」

 

「うん。アヴァロンはあと少しで動かせるし、その後はのらりくらりとだけど尻尾探しの続きだね。今回ので、少しは連中の尻尾が見え隠れをし始めてるし」

 

「今回の襲撃で…ですか?」

 

「そ。疑似コアを製造できるだけの資金と技術、そして施設を持つ連中」

 

必然的に分かっていた事。つまり相手は大組織だ。

 

「それだけでも大規模な組織だ。が、既にそういった施設は連邦軍が大半を管理している」

 

「であれば、それだけのを作れる設備を持つ企業体組織…か」

 

「といっても、その組織だって現在じゃ指折り数えるぐらいある。探すのだけでも大変だぞ、束」

 

各面々からの言葉に椅子を回して遊んでいた束は、カザハラの言葉でぴたりと止める。止めた顔はいつになく真剣だが、笑みが崩れる様子はない。

 

「ま。そこら辺は束さんなのですよ。既に目ぼしは付けてるし、あとは虱潰しという名で潰していくだけ」

 

つまり手当たり次第に潰していくというのが本音だ。しかも、疑似コアを製造しているというだけで束にとって潰す理由に足り得ていた。自分が作ったISコア、それを劣化模倣して売り出しているのだ。本家大元である自分の許可なく、偽物が売りに出されれば誰だって怒りを持つ。しかし、束の場合は怒りだけで済むかさえも怪しい。

前科前例のある彼女が本気で怒ればどうなるか。その結果は一夏たちでさえも分からず、怒らせたくもないと思ってしまう。

 

「ふむ。こちらも幾つかの候補があるので調べはしますが、博士は出立後は何処に?」

 

「まずはヨーロッパ。イギリスとドイツ、フランスとノルウェーって順番かな」

 

「では、私たちは逆に東回りに。カナダからアラスカへと向かい、その後は太平洋を横断します」

 

「極東にはいくの?」

 

太平洋を渡るだけで日本に行くとは言い切っていないが、レーツェルはその気があったらしく、ええ、と小さく頷いて答える。

 

「浅草の方へ。その後は豪州を回りもう一度テスラ研に戻るつもりです」

 

「ダイゼンガーもアウセンザイターも修理が必要で、直ぐとは言えんのが心残りだがな」

 

ダブルGことダイゼンガーとアウセンザイターはクロガネでも修理は出来るが、より精密な修理などとなるとテスラ研でしかできないらしい。その為、ゼンガーたちは何度もそういった修理や再調整のためにテスラ研に足を運んでいた。

 

「なら、俺たちが東回り。レーツェルさんたちは西回りってことか」

 

「ああ。こちらもそれらしい情報を手にしている。下手な戦火の拡大と混乱は早急に終わらせるべきだ」

 

「………一体、誰が、何の目的でこのタイミングでこんなことをしたんでしょう」

 

「―――無差別な戦火の拡大。それによる大量の疑似コアの製造と流通、そして配備」

 

「これを企業体組織でもやれと言われればそう簡単な話でもない。大方、あの(秋龍)と影で手を組んでたってところだね」

 

「世界を影で操ろうとした組織って奴か。さしずめ、そんな連中のことは―――」

 

 

 

 

 

「………謎の財団、とでもいうのかもしれないね」

 

 

 

 

 

 

―――どこかで誰かが笑った。その瞬間、束の言葉に一夏は誰かが反応したと感じて後ろに振り返ったが、窓の外には誰もいなかった


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