「ドラコ・マルフォイだったよな。ドラコでいいか?」
ニヤニヤと笑うドラコだったが、ハウルのフレンドリーな態度に驚き目を見開いた。そして意外そうな顔で口を開いた。
「君とは仲良く出来ないと思ってたんだが...。」
先ほどの一件でハウルとは上手くやっていけないと判断したドラコはいかに自分がハウルの上に立てる関係を築こうかと部屋の中でじっくりと考えていたのである。
だがハウルの予想外の言葉につい本音を漏らしてしまった。その様子から容易く彼の思惑を理解したハウルは口を開いた。
「確かにさっきは嫌味には突っかかったが、人間は誰にでも良い所と悪い所がある。確かにドラコの短所は人を見下すことだが、それだけでドラコのすべてを知ってる訳じゃない。それにルームメイトなら仲良くしたいと思うのは当然だ。違うか?」
「フフッ、あの美少女二人が君の事を気に入っている理由を理解できた気がする。僕もハウルと呼ばせてもらうよ。」
ハウルの価値観と意思を耳にするとドラコは笑みを浮かべながら握手を交わした。少なくとも価値観は合わぬかもしれないが、譲り合うことも多少なりとできると理解したからだ
「話は変わるが、ドラコは純血主義か?」
マルフォイ家はグレンスト家には及ばぬがかなり由緒ある家柄であり、純血主義として有名だったからだ。
ハウルは純血主義などに全く興味を持っておらず、間違ったモノであるという認識で迷信であるのは明白だった。
だが未だにその意識は魔法界に根強く残っており、ハウルの所属したスリザリンはその考えを持つ家柄の子が最も多い寮である。
「もちろん、魔法界からマグル出身は一人残らず追放すべきだと考えるよ。君はどうだい?」
ドラコもその例外ではなく、幼い頃からマグルを排斥、見下す思想を植え付けられてきたため彼は本気でそう考えていた。
だが一括りに純血主義と言ってもかなり差がある。『魔法界とマグルは付き合うべきで無い』という穏健派から『マグルを殺戮し純血や反純血のみで世界を支配すべき』だと考える過激派もいる。
世間体から穏健派を装う家柄も存在するが、少なくとも彼は過激派ではない。
「俺は魔法界からマグル出身者は奨励すべきだと考える。マグル出身者の中には優秀な奴も多くいるからな。」
ハウルの返事にドラコの顔色が変わり、呆れつつも理解できないという様な顔をした。
「じゃあ君はなんかい?マグルと仲良くお手てを繋ぐべきだと考えてるのかい?」
ドラコが大きな声をあげて、嘲笑する様に皮肉をぶつけた。
やはり彼とは馬が合わないと思い直したが、その考えはすぐに覆される事となる。目の前にいる少年はそこら辺にいる様な少年ではない。
ハウル・グレンストである。問題を提起されればすぐさま本質を理解し、相手を諭すことなど彼にとって実に容易いことである。
「いや、そうではない。魔女狩りの歴史や環境破壊の観点からみると、マグルとは関わらせない方がいい。だが現実問題、戦争が始まると負けるのは俺たちだ。」
ハウルはドラコの言う事を軽く否定し、自論を述べた。
確かにマグルの発展は目覚しい事は魔法使いにとって周知であり、脅威でもある。
だがその功績は環境を破壊を伴って成し得た結果である。そのことでマグルを否定する者も多く、かつて純血主義の究極の過激派とも言える
「あんな魔法を使えない劣等種なんかに僕達が負ける?どうかしてるよ。」
ハウルの考えを真っ向から否定したが、そこには全く説得力のなかった。ハウルはドラコ自身の考えでなく親の教育による賜であると見抜く。
つまり純血思想における知識と動機が薄いのだ。その様な相手は真っ向から議論し、捻り潰せばいい。彼はマグルで出版された本にそう書いてあった事を忘れてなどいなかった。
「確かに一対一の勝負なら魔法使いは負ける訳はない。だが戦力はどうだ?そもそも魔法使いの人口はマグルの十分の一。魔法使いの中にはマグル擁護派も少なくはないし、魔力は無限でない。それに比べてマグルは魔法と比べて効率は遥かに劣るが、作った分だけ武器はある。短期戦ならまだしも長期戦なら負けるのは必然だ。」
ハウルは淡々とドラコの逃げ道を塞いで行く。客観的にも主観的にもハウルの意見が正しいと判断できただろう。
何も言い返せなくなったドラコをよそにハウルは会話を止めなかった。
「つまり俺の意見は魔法界とマグルとはできる限り関わせるべきでない。だが魔力のあるマグルはできる限り率いれ味方にすべきだ。よりよい魔法界の未来のために...。」
ドラコは何かを悟った様な顔をして静かに口を開いた。共感はできぬが確かに納得できなくもない内容だったからである。
「君の意見は僕だけじゃ到底考えつけないものだった。僕の考えは変わらないけど、君とならよりよい魔法界を作ってゆけるかもしれない。改めて僕と友人になって欲しい。」
かつて幼きドラコ・マルフォイは心の奥底にある違和感を感じていた。
『なぜマグル劣等種で穢れているのに魔法使いは高貴で優れているの?』
父親の教えに子供ながらに疑問を覚え尋ねたら、彼は顔を歪めいかにマグルの者が下賤で姑息かを何時間も息子に語った。なぜなら彼自身も父親にそうされたからである。
ドラコは悟った。“父親の機嫌を損ねてはいけない”と...。それは子供ながらに当然であり芽生え始めた自我の賜でもあった。
大好きな父親の大好きな息子であらねばならないと良き息子を無意識の演じたのだ。
父親から怒られれば己が悪い子であると認識し、褒められれば良い子だと感じた。
その事は父親を喜ばせ、彼の思想をドラコは受け継ぐ事となる。
だがそれは永遠に同じ環境で父親の元にいる場合であった。もはや幼い少年ではなく十一歳になり彼自身の価値観も少しずつ芽生えてくる年頃である。
幼き頃よりの洗脳とも言える教育の影響は根強く残るが、100%正しいとは思ってはいない。だが何が間違っているかがわからなかった。己を取り巻く環境がマグルを排斥すると発言したら周囲は喜び彼を讃えたからである
この場にその周囲はおらずハウル・グレンストという聡明な少年が一人だけ。
そしてドラコ・マルフォイの稚拙な主張を軽く論破したからである。
「もちろんだ。7年間よろしく頼む。」
(ドラコのような親の教えのみで形成された価値観は問題点を提議し、解決策を与えれば脆く崩れる。気に入らぬのならこのまま引導をくれてやればいい。だがその価値が果たしてこいつにあるものか...。)
ハウルは真意とは裏腹に微笑みを浮かべながら彼と硬い握手を交わした。ドラコはその表面が彼の本質であり、心の底から生まれて初めての友と呼べる存在に彼がなってくれるのではないかと感じていた。
だがハウル・グレンストは誰にでも優しい人間などではない。時に聡明で慈愛の面を見せ、時に狡猾で残忍な表情を見せる
どんな人間でも生半可な意志や油断であれば彼の巧みな言葉に騙され唆され、彼の思い通りのコマとして利用される。
これが人格者とも言われる少年の裏の顔である。だが一概にもそうとは言い切れない。
彼は以前ロンへ向けて放ったドラコの発言には純粋に不快に感じ、彼のメンツを潰した。
そして
どちらも彼の無意識かつ自然な行動なのだ。
どちらも表であり、裏にもなり得る
ハウル・グレンストはそういう男であった。
人格者という皮を被り
中身では善意と悪意に満ちている矛盾した男
そこが彼の魅力であり、危険でもある
後に長考したアルバス・ダンブルドアは彼をそう評したという...
別に厨二チックな文章でもいいですよね?