魔法薬学の授業は地下牢で行われた。地下のため肌寒く、ガラス瓶にアルコール漬けにされた動物達を見て生徒達は気味悪がったがハウルはさほど興味は唆られなかった。
大きな鷲鼻で黒くねっとりとした髪をしている魔法薬学の講師セブルス・スネイプはこれまでの授業同様出席を取っていたが、ハウルの名前を呼ぶ前を止まった。
「我輩はお前の両親を知っておる。父親のみが焦点を浴びているが、母親もかなりの大物だ。我輩の後輩の首席だったマリア・レイブンクロー。」
レイブンクローの名前を生徒達が耳にすると、スリザリン生もグリフィンドール生も騒ぎ始める。組分けの儀式から一部の生徒達は知っていたものの、初耳だった者も多かったようだ。
スネイプはニヤッと意地悪しく笑うと、嫌味っぽく言い放った。
「我輩は騒がしくしていいと許可した覚えはないがな。グリフィンドールを五点減点。」
スネイプの言葉にスリザリンの生徒達はニヤニヤした。同じ寮の先輩から彼がそういう性格である事を耳にしていたからだ。
そしてハウルの母親の名を話したのは彼の狙い通りであった。
「先生。スリザリンの生徒も騒がくありませんでしたか?」
一人のグリフィンドール生の女の子が不服そうに口を出した。同じ寮の生徒達は同調するような表情だったが、ハウルとレイナは悪手だと悟った。
「我輩には聞こえなかったがな。先ほど同様許可した覚えはない。グリフィンドールの傲慢な態度に五点減点。」
あかるさまな贔屓にグリフィンドールの生徒は不満そうな顔をしたが口にさ出さない。スネイプに抗議すればする程減点されるという事を理解したようだ。
「グレンスト、お前が優秀である事を祈っている。」
スネイプは先ほどと同じねっとりした笑みを浮かべる。
ハウルはまだ何か企んでいるという事を察したが、彼の意図はまだ見抜けなかった。
スネイプは出席を続けると、ハウル同様にハリーの名前で止まり口を開いた。
「あぁ、さよう。ハリー・ポッター。われらが新しいスターだね」
スネイプの猫なで声にドラコや取り巻き二人とパンジーがクスクス笑う。
出席を取り終えるとスネイプは淡々と語り出した。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ。杖を振り回すようなバカげだことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力...。諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶づめにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。...ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君が優秀であればの話だが...」
「ポッター!」
スネイプは短い演説を終え、突然ハリーを指名すると、彼はピクッと身体を反応させる
「アスフォデルの球根とニカヨモギを煎じたものを加えると何になるかな?」
「わかりません」
ハリーは答えられない様子からハーマイオニーが手を挙げた。だがスネイプは彼女に目もくれない。
「チッチッチ。有名なだけではどうにもならんらしい。ならばスターのポッターと並び最近話題の天才君はどうかな?グレンスト。」
ハウルはハリーをコケにした事を不快に思うが、彼が手を抜く理由は無く口を開いた
「教科書には“生ける屍の水薬”と呼ばれる強力な眠り薬と書かれている。だが加熱の段階が難しいため失敗が多い。」
ハウルは教科書だけで無く屋敷の本で得た知識も付け加えた。この事から教科書の丸暗記でなく、純粋な知識である事をスネイプに見せつけるためである。
「同じく話題の人物でもここまでの格差があるらしい。スリザリンに十点。」
だがスネイプは何の反応もせず、ハリーへの皮肉と共に減点をするとスリザリン生が声をあげて笑い出した。むろんスネイプがスリザリンを減点するわけもなく、愉快そうに笑うと続けて質問をハリーへ続けた。
「ならばもう一つ聞こう。ペゾアール石を見つけてこいと言われたらどこを探すかね?」
「わかりません。」
再びハーマイオニーが手をあげるが、スネイプは無視をする。彼は意気揚々と皮肉を並べ様と口を開く。
「クラスに来る前に教科書を開こ...『くだらないな。』
我慢の限界だったハウルがわざと聞こえる様に彼の皮肉に口を挟んだ。
スネイプに逆らってはいけないと感じていたからかスリザリン生もグリフィンドール生も突然、大人しくなり閑静な雰囲気が地下室を漂った。
「何か我輩に言いたい事でもあるのかな?グレンスト。」
ハウルの言葉にスネイプはニヤニヤしているが、目だけは笑っておらず彼を軽く睨みつけている。邪魔をされたのが気に食わなかったのだろう。
「申し訳ありません。出過ぎた真似かと思いましたが、初めての授業なのですしポッターが答えられないのが当然かと思いまして...」
スネイプの明る様な不快感に悪びれる様子もなく、己の意見を言い放つハウルを見て、グリフィンドール生は興味を持った。
またスリザリン生は今すぐスネイプに謝罪をする様に目で訴えるがハウルは無視をする。
「確かに出過ぎた真似だ。我輩の貴重な授業時間を奪ったのだ。当然答えは分かっておるのだろうな。」
スネイプは薄ら笑いをやめハウルを睨みつける。激怒寸前の様子だったが彼にとって容易な回答であった。
「教科書にはヤギの胃の中に存在し、あらゆる毒を無効化すると書かれている。だが成長した大人のヤギは胃酸が強く解毒の効果が僅かに弱まるため、大人と子供の中間のヤギから採取するのが望ましい。」
ハウルが間髪入れずに答えた様子からスネイプは眉を潜め、唇を噛み締めながらも問題を与えた。
「ならばマルフリート薬に水魔のD型の血液を混ぜると何色に変化する?」
ハウルはスネイプの人の悪さを軽く感じとった。この問題には専門知識が必要であり、引っ掛けでもあるからだ。だが先ほど同様、現物は確認したわけでないにせよ、知識としては身につけてある。
「おおよそ北半球と南半球の水魔は血液の色が異なるため、北半球は薄い青色に、また南半球は紫色になるが三十分かけてどちらも透明に変化する。出来た液体は“接着魔法”の効果を半永久的に保護するため、レンガとレンガの間に塗るのが一般的。」
ハウルの模範的な回答にスネイプは驚きを隠せない様子であったが、すぐさま無表情に戻り、冷たく言い放った。
「グレンストの無礼な態度に十点減点。」
スリザリン生はこの程度の減点で済んだ事に胸を撫で下ろすが、グリフィンドール生の一部がほんの少しすっとした表情をする。
「だが魔法薬に詳しい者でも間違う事の多い問題を答えたグレンストには眼を見張るモノがある。スリザリンに十一点追加。」
スネイプの言葉にスリザリンだけで無く、一部のグリフィンドール生も拍手をする。
「スネイプ教諭。先ほどの身の程知らずで無礼な振る舞い。申し訳ありませんでした。」
ハウルは椅子から立ち上がり、グレンスト家で叩き込まれたお辞儀で頭を下げた。所作の一つで育ちの良さを周囲に露見させるが、スネイプはそれを無視して黒板に本日の授業内容を書き始める。
だが先ほどのねっとりした様な笑みで無く、ほんの少し清々しい顔をしていた事に気づいた生徒は誰ひとりいなかった。
この事件をきっかけにスネイプに逆らったスリザリン生として、レイブンクローやハッフルパフの寮生からも一目置かれるようになる
だがグリフィンドール生の反スリザリン過激派はハウルが知識をひけらかしているだけだとして反発する事となる。