〜ホグワーツ ホール〜
「ドラコ、今日は気分でもいいのか?」
ハウルは朝食のフレンチトーストを食べながら、いつもとは違う様子のドラコにハウルは気付き声をかけた。
「あぁ、待ち望んだ飛行訓練がやっと始まるんだ。いつか君と一緒に寮のクディッチの選手になりたいよ。」
ドラコがいつもより目をキラキラさせながら饒舌に語り出す。彼はかねてより箒に乗ることを長けていると自ら語り、クディッチを大層好んでいた。
それに対しハウルは飛行訓練を受けてはいるが、クディッチという存在は知らなかった。正確には興味がなく、必要ないと判断したために知ろうとしなかったのだ。
「クディッチの件になると元気になるドラコって素敵よ...。」
文面だけでみれば年上のお姉さんが色香で惑わすようにしか思えないが時に世界は残酷だ。
ハウルらと共に行動する三人の女子の中でパグ姫の呼び声高く、スリザリンの三姫(笑)とも呼ばれているのを聞いた事がある。
パグ犬の発情的求愛行動にハウルは何とか堪えてるがクラップとゴイルが耐え切れず汚物を口から撒き散らす為にトイレに駆け込むのも珍しい事では無い。
普段のドラコなら『なっ、何を言ってるんだパーキンソン!』という返事をするはずだ。
だがかつてない程のスーパーハイテンションドラコなのだ。飛行訓練を心の底より渇望する彼はまともな思考回路すら働いていない。
「あぁ、早く僕の勇姿を見せてあげたいよ!」
ドラコはいつもより自慢気に語ってしまう。勿論、彼はパンジー個人でなく皆に向けての言葉のつもりだった。
様子を察せる人間であれば見抜く事が可能である。だがそうでない者もいた。
(ドッ、ドラコって...。やっぱり私にもチャンスがあるってことなのね。)
積極的にアタックするもののことごとく玉砕してきた少女(笑)は勘違いを加速させる。
ハウルとハウルに絶賛アタック中の二人はなんとなくパンジーの心の声に勘づき素直にドラコのご冥福をお祈りした。
***
同日 午後
ドラコの待ち望んだ飛行訓練の授業のはずなのに、嫌そうな顔をしている。理由はその授業がグリフィンドールとの共同授業であるからだ。新入生と言えども上級生同士の争いと互いの悪態から既に嫌悪し合っていた。
ここまでの期間をホグワーツで過ごした事を踏まえ、長年続く嫌悪意識はやむを得ないと割り切る事にしていた。
そのまま訓練場へ向かっているとハウル達の少し前にハリーとロンがおり、ロンがハリーに一方的に何かを話しかけていた。
「だからハリー、ハウルの奴は君を騙してるんだ。狡猾なスリザリンのいい奴なんていやしない。“例のあの人”もスリザリンだったんだぞ!」
当初ロンはドラコとの一件からハウルの事を良い奴だと思っていた。彼なら自分と同じグリフィンドールに入る気がし、仲良くやっていけそうだと胸を踊らせていた。
だがハウルの寮は自分の最も嫌悪するスリザリンだった。グリフィンドールの出身の兄達はその寮のメンバーは姑息で狡猾だと語っていたが、ハウルなら別だと思っていた。
だがロンはすぐにその考えを一変させる事となった。なぜなら自分を侮辱したドラコと友人になったからである。
裏切られ、騙されたと感じたロンは一方的にハウルを嫌い始め、避けるようになった。
「でもスネイプの時は僕をかばってくれた。ハグリッドにもその話をしたらいい奴だって言ってたし、悪い人には思えないよ。」
だがスリザリンに入りマルフォイと友人になろうとも、ハリーにとってはハウルは生まれて初めての友人である事には変わりなかった。
時折彼と出くわした時もハウルの態度は一切以前と変わりなく、何かと突っかかってくるマルフォイを諌めるようとし彼もそう応じていた。
「そうよ。彼はそんな人じゃないわ。初めての魔法薬学もスリザリンなのに身の危険を冒してまで庇ってくれたじゃない。」
ハリーがロンの言葉を否定的に受け取ると、横から現れたハーマイオニーがハウルはロンの言うような悪人ではないと攻め立てた。
二人に否定されたロンはバツの悪そうな表情を浮かべるが、すぐに不快そうな表情でハーマイオニーをジッと見ると口を開いた
「だいたい君がここにいるんだよ。関係ないだろ!」
「あるわよ、彼は友達だもの。」
ロンは強めにハーマイオニーに言い放つが、彼女はひるまなかった。常日頃から彼女の事をでしゃばりだとよく思ってなかったロンは少し強めに皮肉を発した。
「きっと向こうはそう思ってないだろうね。スリザリンは純血主義者の集まりだ。どうせマグル生まれの君なんて影でこそこそ言われてるに決まってるよ。」
ハウルの悪口をベラベラと大声でしゃべる事に夢中のロンは本人に聞かれていることや千年続く寮の壁を超えたハウル護衛派の女子たちから睨まれている事に全く気付かない。
流石に不快に思ったのかハウルは少し冷たい目で口を開いた。自分の事を悪く言うのは構わない。だが友人であるハーマイオニーの事までも悪く言うのは許せなったのだ。
「ずいぶんと下手な陰口だな。そういうのは本人がいないところでするものだ。ロン。」
ロンはハッとして後ろを振り返るとハウルがいる事に気付き、更に周囲にいるほとんどの女子たちからの冷たい目線に驚いた。だがここまで来ておいて退くなど彼のプライドが許さなかった。
「なんだよグレンスト!卑怯なスリザリンにしては随分と勇気があるじゃないか!!!」
ロンがハウルに食ってかかるが、彼はスリザリン生だけでなくスネイプ反逆事件から他の三寮からも一目置かれている。スリザリン、グリフィンドールの中には毛嫌いする者もいたがごく少数だった。
そんなハウルに噛み付いたロンの勝ち目は薄かった。それだけでなく天才的な頭脳と人格者を兼ねそろえたハウルに負ける要素など微塵もなかった。
「そういうロンこそ。騎士道を重んじるグリフィンドールにしては陰口なんて随分と卑怯だと思わないのか?お前のいう卑怯なスリザリンなんて存在しないが、もし存在するのならお前にとって一番相応しい寮だろうな。」
スリザリン生から大きな笑い声が響き渡る。それだけでなくグリフィンドール生もまた堪えきれずに吹き出している者もいた。
ハウルに図星の事を言われ更に皆から爆笑されたロンは恥ずかしさから顔が赤くなった。その様子に拍車をかけるようにニヤッと笑いドラコが口を開く。
「おいハウル!卑怯な赤毛の乞食野郎なんかほっといて、こっちでクディッチの話でもしようじゃないか。」
「そうよ。模範生の陰口しか言えない卑怯者なんて相手にするもんじゃないわ。」
ドラコはいつもの様に得意な悪態をロンへぶつけ、いつもはハウルとドラコの暴走を抑える役のダフネも真顔でロンをバカにした。
ダフネ同様ハウルもまた十分にロンへ怒りを覚えていた。珍しく表立ち、彼も悪態をつく
「その通りだな。実際目も当てられないしな。そもそも卑怯なグリフィンドールに価値はあるのか?劣等生の集合体と呼ばれるハッフルパフでさえ受け付けられないだろう。」
ハウルの一言でグリフィンドールの反スリザリン過激派を含めた全員が声をあげて笑い出した。ハウルがロンに背中を向けてドラコ達の元へ歩いていこうとすると、ロンは涙目になりながら大声で叫んだ。
「このやろう!!!!」
ロンがハウルに飛びかかった。だがクラッブとゴイルがハウルの背後で立ちふさがり、クラッブがロンの肩を突き飛ばす。ロンは尻餅をついて悔しさに目をにじませている様子をドラコが挑発して嘲笑おうしたが、何かに気づいたのか無表情になった。
「これは一体何の騒ぎです。」
ドラコの目線の先には飛行訓練の講師のマダム・フーチがおり、不機嫌な様子で尻餅をついているロンに立ちふさがるクラッブとゴイルを見比べる様に見ていた。
ハウルはクラッブがロンを突き飛ばした瞬間を見られたと察して、素早く前へ出て弁明を開始した。
「すみません、フーチ先生。僕がロン達とクディッチのチームの話をしていたら、話が合わなくて僕がつい汚い事を言ってしまって...。そのせいで熱くなったロンをクラップがかばってくれたんです...。生まれて始めての飛行訓練だから舞い上がっていました。」
あたかもそれらしい嘘をついてクラッブにもロンも責任をとらせないハウルの対応を周りの生徒たちが尊敬の眼差しで見つめる。
ハウルが一度も噛まずに淡々の反省の意と謝罪をフーチにすると、彼女は状況の様子とハウルの態度から真実だと納得する。
「まぁ舞い上がってしまうのも致し方ないでしょう。正直に答えたので見逃しておきます。次はありませんよ。」
ドラコが正直にという言葉を聞いて笑いそうになるが、何とか堪えた。フーチに背を向けたハウルが悪戯っぽくニヤッと笑うとクスクス笑う者が現れた。そして自分を庇ってくれたクラッブとゴイルに軽く耳打ちをした。
「悪かったな、クラッブ、ゴイル。後で魔法史の宿題見せてやるから。」
「「気にするな。」」
ハウルはクラッブとゴイルにお礼を言い、彼らの苦手でやる気のない魔法史の宿題を見せてくれるというハウルの申し出に素早く反応した。
「え〜私達にも見せてよ。さっき貴方を援護したわ。」
ダフネが可愛らしくハウルにウインクをすると、ハウルはクスッと笑い口を開いた
「しょうがないな。パンジー以外は見せてやるよ。」
「何でよ‼ 」
絶妙な間でパグ犬姫ことパンジーが叫ぶ。彼女はハウルにイジられたと感じたのだ。だがそれをレイナが訂正してやる。
「バカね。後でドラコに見せてもらうのよ。」
レイナがハウルの本意を察すると、すぐさま行動に移した。
彼女にとってチャンスである事は言うまでもなかったが、ハウルの多少も悪意も込められており無謀だった。
「ねぇドラコ〜、私まだ魔法史のレポート終わってなくて〜。」
「ハウル。やっぱり僕にはレポート見せなくていい!」
ロンとの交流でシラフに戻ったドラコの叫びに彼と仲の悪いハリーでさえも同情した。