〜ホグワーツ・大広間〜
今日は収穫祭であるハロウィンパーティがあり朝食時から随分と騒がしかった。いつものように荷物を運ぶフクロウ達は普段より遥かに多くプレゼントなどを運んでいた。
スリザリンの席ではいつものように家から多くの菓子が届くドラコは普段より多い事に満足している。それに対してハウルにフクロウ便など一度も来たことはなかったのでいつも通り自分には関係ないとばかりにメインディッシュのポークビーンズを食べていた。
するとハウルの目の前にフクロウが止まり、何か長方形の形のモノが入っている大きな封筒をコトンと置いた。
ハウルは意外そうな顔をして届け物を見るとフクロウに自分宛の荷物かと尋ねるとフクロウはホーと鳴いた。
「ありがとな。」
ハウルは軽く微笑みスプーンで豆を掬うとフクロウに食べさせる。フクロウは長旅の疲れで腹の減っていたのか満足そうに啄む。すると主人を取られた気がしたのか少し嫉妬したのかアリアが袖から出て来て口を開いた。
《あら、私にはくれないの?》
アリアはジト目で主人を見つめフクロウに対して謎の対抗心を見せた。
ハウルはそれを軽く見抜いて己のペットを愛おしく思うと顎の下を優しく撫り機嫌をとりながら返事をした。
《いつも沼からカエルとってきてるだろ?》
ハウルがアリアと会話をしているとスリザリン生が尊敬の眼差しで彼を見つめる。
蛇と会話をする事のできる特殊能力の“パーセルマウス”の事はどうせバレることであるためドラコだけでなくダフネ達にも教えていた。
そしてアリアとの会話を見た生徒達が噂が流したためホグワーツの全校生徒のほとんどに知られていた。
当初は『パーセルマウス=闇の魔法使い』という迷信のせいで周囲はハウルを警戒したが彼に限ってないだろうと一部のグリフィンドール生を除き反応は変わらなかった。
ハウルは人の感情を見抜くのは本来得意であり弁えてある。ただ唯一色恋に関しては盲目なのだ。
なぜならそれを彼にそれらを教える人達が誰一人いなかったからであり、彼自身が自分は浮世離れしていると勘違いし更に周囲が指摘しなかったからである。
ハウルの父親は凄腕の闇祓いとしてイギリスだけでなく世界を巡り、それに対して母親はフランスで教師をしている。つまり彼の保護者は屋敷しもべ妖精のようなものである。そして彼らは恋愛ごとには疎かった。
空腹を満たしたフクロウはお礼を言う様に鳴き飛んでいくと、ハウルは封筒の宛名を見た。そこには“マリア・グレンスト”とハウルの母親の名前が書いてあった。
ハウルが封筒を開くと中に一通の手紙と高級レストランのメニュー表の様な黒い紙が入ってる。それを取り出して眺めているとドラコがこちらを見て呟いた。
「なんだこれは?」
ハウルはドラコの言葉を軽く流し手紙を読み始めた。
***
ハッピーハロウィン!本当は入学祝いに渡すつもりだったんだけど、忙しくて間に合わなかったの。学生時代に先輩たちが作った地図を参考にして作ったわ。時間はかけたから性能に自信あるわよ。教師に見られたら没収されちゃうかもしれないから、使い方をわかりづらくしたわ。
まずはあなたの杖を開いた紙に置いて“覚えろ”っていうの。覚えさせた杖を開いた紙の前で振ると便利な地図が浮きでるわ。消し方は無言呪文で“消えよ”っていえばただの黒紙に戻るの。それと覚えさせた杖、更にその人の忠誠心が無い限り地図は浮かばないわ。つまり杖の持ち主以外が振っても何も変わらないし、紛失したり没収されても移動キーにしてあるから“ハウス”ってハウルが言えば一瞬で戻ってくるわ。隠し部屋や合言葉は全て載せてあるはずだから
P.S. 申し訳ないけどクリスマスは家に誰もいないの。帰ってくるかどうかは任せるわ。
***
ハウルは母親の手紙を読み終えるとドラコに渡して読ませる。そして素早く黒い紙を封筒の中へ直した。読み終えたドラコは半信半疑な表情をして厚みのある封筒を見つめた。
「ハウルの母君が作ったものか、僕としてはかなり興味があるよ。」
「母上の言う通りなら先生に没収されるであろう代物だ。談話室で確かめよう。」
「そうだな、楽しみだ。」
***
数十分後
〜ハウル・ドラコの部屋〜
ハウルのベットに靴を脱いで乗って二人は黒い紙を広げた。そしてハウルの漆黒の杖をそれに置き手紙に書いてあった通りに呪文を唱える。
「“覚えろ”。」
ハウルが呪文を唱え終わるが黒紙に特に変わった様子は無い。黒紙が彼の杖を覚えたのかはわからないが確かめる術がないため、もう一度杖を振ると黒い紙の縁を除き表面が茶色の味のある地図に変化した。ハウルはこれがなんの地図で母親の意図を察するとドラコがハッと気づいて声をあげる。
「これはホグワーツの地図だ!」
ハウルはホグワーツの地図をじっくりと観察する。すると生徒や講師の名前だけで無く、管理人のフィルチ、そして彼のペットのミセス・ノリスさえも載っている。
また手紙通りに合言葉らしきワードが扉の部分に明記されており、四つの寮から校長室に至るまで載っている。全ての合言葉が正しいかはわからぬが少なくとも今のスリザリンの合言葉はあっている。
それだけじゃなく人物名をタッチすると会話の言葉が常に更新されていくように表示されていく。
知り合いの名前を次々とタッチしていくと無言であるのか更新されない場合や他愛のない世間話、授業の課題などの会話をしている様だった。ちなみにロンの名前をタッチすると近くにいるシェーマス・フィネガンという者と一緒にハウルの悪口を言っていた。
「母上は実に素晴らしいモノを送ってくれたな。これで遠慮なくロンとフィネガンって奴を叩きのめせる。」
ロンの会話が恐ろしい具合でハウルの悪口が更新されていく様子を蔑んだ目で見据えるとドラコが何か名案が浮かんだとばかりに目が輝き口を開いた。
「あぁ確かに、なぁ今度貸してもらってもいいか?それを上手く使えばポッターやウィーズリー達を完璧に貶めるのも簡単そうだ。」
「ドラコ。ロンを貶めるためなら幾らでも貸してやるが、ハリーはダメだ。」
ハウルはロンとその周辺のグリフィンドール生との仲を除けば大半の生徒といい関係を築いていると言っても過言ではない。
彼の友人であるハリーはロンから何かとスリザリンとハウルの悪口を吹き込まれているようだが、彼との関係が悪化した事など一度たりともない。
なぜならハリーにとってはハウルが初めてできた友人であり、環境さえ同じであれば彼はロンを見捨ててハウルを選ぶであろう。
幾ら現在、学園生活で一番多くの時間をロンと過ごしたとしても所詮は二番目の友人であり、ロンの突く悪態にハウルが当てはまるとは到底思えない。
だがハリーにとってはどちらも親しい友人であるため仲良くして欲しいがどうしていいか分からず、苦々しい立場で二人がバッタリ出くわさぬ様に尽力している。
当初ハリーは悪態を突くロンを制止できなかった事からハウルに対して大きな罪悪感を持っており自分は友人を名乗る資格がないと思い悩み彼を避ける様にしていた。
それをすぐに察したハウルは避けるハリーを一人の時に捕まえ誰もいない沼地へ無理やり連れて行き話し合った。ハリーは罪悪感から泣き出しそうになりながらも何とか自分の想いを告白して許して欲しいと懇願した。
ハウルは『交友関係は相性だからしょうがない。ハリーがロンとの関係を壊してまで矯正する程の事じゃない。ハリーが俺をロンの言う通りのヤツだと思ってない事はすぐにわかった。だって友達だろ?』と笑って許した。
その正直な言葉にハリーは涙を堪えきれず声をあげて泣いた。生まれながら不遇な環境で育ち、人付き合いの経験が乏しすぎる彼にとってどれ程ありがたい言葉だったかは計り知れない。
ハウルとロンはどちらも同じ友人であり大切な存在である。幾らロンが間違っているということをわかっていたとしても何も言えなかった。
勇敢なグリフィンドールの自分がいかに姑息で狡猾だったか
姑息で狡猾なスリザリンと呼ばれるハウルがいかに勇敢であったか
その事を深く反省しロンの悪態を見過ごさないと決意したハリーはハウルにどう償えばいいかと尋ねると、ハウルは微笑みながら一つの罰則を与えた。
“今日から宿題を図書館で自分達と一緒にすること”
かなりキョトンとしたハリーはそれを笑顔で受け入れ、二度目の握手を交わした。
そして元々図書館で宿題をする仲であるハーマイオニーに事情を説明すると彼女は快くハリーを迎え入れた。まだぎこちなかったが少しずつ二人の関係は良くなっていった。
だがまもなくその事をロンが知ると狡猾なグレンストと更に毛嫌いし、ハリーがどれ程彼を説得しようとも頑なに考えを曲げなかった。
そして二人の関係は修正不可能な程の亀裂が走った
その経緯を知らぬドラコだがハウルがハリーと仲が良いと言う事を知っているドラコは素直に従った。ドラコ自身もハウルと友人として嫌われたくはなかったからである。
「分かったよ。害を加えるのはウィーズリーだけにしておくよ。」
「あぁ、徹底的にやってくれよ。」
「まさか君が公認するとはねぇ。」
ドラコとハウルは軽口を叩き合い笑いあう。そして落ち着いた時にハウルは無言呪文を唱えて地図をただの黒い紙へ戻した。
だが先ほどの地図には消えたはずの史上最悪にして史上最強の闇の魔法使いの名前があったことに二人は全く気がつかなかった。
“トム・マールヴォロ・リドル”という名前に