ここでは四方八方に魔法使いのための商店があり、魔法薬の調合に必要な大鍋の専門店。魔法使いのペットとなる賢い動物たち。マントやロープの店に、マグルでいう自転車のようなものの箒の専門店など、様々な物が売られ、繁盛している。
そんなダイアゴン横丁で入学用品を買うために親子が歩いていた。親はうなじまで伸びた銀の巻き髪に凛々しい顔つきだが甘いマスクをしている。その横について歩いているのは父親の髪とは異なる金色の髮をしている。クセがなくサラサラした髪に男性であってもつい惹かれる美しいものであった。欧州人では珍しく魅惑的で深い黒の瞳をしている。
客観的には三十代後半の大人と十代前半の子供が歩いているだけの光景だが、2人にはその事実を事実と思わせない類まれな容姿をしていた。街ゆく女性達は2人を見て、ヒソヒソ話をしたり、顔を隠したり、見惚れたりしていた。
父親は物心ついた頃より女性からのアプローチに困った事が無かったが、人生で愛した女性は一人だけだったため、女達が自分を求める声に不快感を持っていた。だが自分より顔の整い、将来が有望そうな息子はそうは思ってはいなかった。
少年は家柄と父親の職業の危険さから家族以外の人間とほとんど触れ合う事が無かった。
女性達からの惚れ惚れとした視線は好奇の眼差しと勘違いし、また自分と目が合うと目を逸らされることには自分のせいで相手に不快感を与えたのではないか...。と深読み。ここまで来ると親子を良い意味で噂する様子も影で悪口を囁いているようにしか思えない。
「あの父上、私の姿が何か可笑しいのでしょうか?何やら好奇な目で見られている気がします。」
その眼差しが世の男達にとっては羨ましいこと限りないことを理解している父親だが、自分で説明するのもなんだが小恥ずかしい。
「気にするな、ハウルお前は普通だ。」
当たり障りの無い回答をするが、聡明な息子は腑に落ちない表情を浮かべている。
どうせ間も無くホグワーツに通うことになる。周りの友人達の対応に自然と理解していくだろう。父親はそう考え何も彼に語らなかった。
「後はお前自身の杖だけだな。」
ハウルの入学用品は杖を除いてすべてを揃え、最後に魔法使いの右腕とも言える杖を息子に買い与えようとした。だがハウルはポケットに手を突っ込んだ。
「父上、私はもう杖は持っています。」
ハウルは自分のロープの中から少し汚れた杖を取り出し、父親に見せた。かなり使い込まれた様子の杖は彼自身の努力の結晶とも言えるものだった。凄腕の闇祓いガリム・グレンストの息子ともあれば危険な目に合う事もあるため、身を守るための術を身につけなければならない。
そのためガリムは己の権力を駆使し、魔法省の未成年特別許可証を手に入れ二人の息子に魔法を叩き込んでいた。ハウルの才能は目覚しいものであり、そこらの大人では太刀打ちできない程の力量を入学前に身につけていた
「それは私が与えた物だろう。杖は自分を従わせる魔法使いを選ぶのだ。自身に従わない杖では呪文の威力や効力が半歩劣る。だから杖にお前を選ばせるために杖の専門店へ向かうのだ。その杖は予備として持っておけ。」
ガリムはわざとハウル自身の杖を買い与えなったのだ。なぜなら枷を与えるためである。杖には忠誠心というものが存在し、ハウルを主人と認めていない。よって彼は半端な魔法しか放てない。枷を与えなければ己の魔法に溺れ、傲慢な性格になってしまうとガリムは考えた。初心に魔法とは習得困難で鍛錬を積むべきと教え込むためである。
(確か本に書いてあった。杖の忠誠心の話。でもそこまで詳しく書いて無かったな。やはり本だけでは知識のバランスが悪い...。)
グレンスト家の屋敷の図書室には数多くの魔法に関する本が多く存在し、中には古代魔法の書かれた古文書に呪いの本まで揃えてあり自由に読む事ができた。ハウルは記憶力が通常の子供より遥かに優れ、一度じっくり読んだ本は完全に暗記し己の知識とした。むろんあくまでも書籍に関する知識で興味のあるモノから読み進めるため、知識のバラツキはかなり目立っていた。
ハウルがほんの少し考えごとをしているとガリムはほんの少し目を見開いた。どうやら視線の先に知り合いらしい人物がいたようだ。
「...もしかしてハグリットか?」
一番良い杖が揃っているというオリバンダーの店に向かう途中にガリムの友人らしき人に出会った。片方はかなりの大男で側にはちょこんと立つ少年がいた。
ハグリッドと呼ばれた大男はボウボウの髪の毛にモジャモジャな荒々しいひげをしており、側にはかなり痩せ細りボロボロの服に折れてテープを巻かれて補強してある丸メガネの少年だった。
「ん?おぉ‼ ガリムか...久しぶりだな。もしかして隣におるのは息子か?」
ハグリッドは目を見開き機嫌良さげに口を開いた。そしてガリムの横に姿勢良く佇む美少年に目を向け声をかけた。
「はい。ハグリットさん、いつも父上がお世話になっています。」
名家の人間らしく礼儀良く洗練されたお辞儀をするとハグリッドは目を見開いて驚き、痩せ細った少年はハウルに育ちの良さを感じていた。
「おぉ、とても礼儀正しいな。さすがはグレンスト家の子だ。俺はハグリットと呼んでくれていい。お前さんも新入生か?」
とても低く男らしい声と荒々しい風貌に似合わず、ハウルに優しく声をかけた。ハウルが口を開こうとすると、ガリムは人に慣れない様子を隠しつつも礼儀正しく振る舞う息子を庇うようにハグリッドの質問に答えた。
「あぁ、ハウルという。もしやお前の隣にいるのはもしやハリー・ポッターか?たしかハウルと同い年のはず...。」
“生き残った男の子”ハリー・ポッターの両親を知るガリムは二人の面影を感じとり、男の子に声をかけた。
「えぇっと、ハリー・ポッターです。よろしくお願いします。」
「やっぱりそうか、私はガリム・グレンストだ。この子はハウルだ。仲良くしてやってくれ。」
ガリムはハリーと握手をしようと、手を差し伸べるがあまり慣れていないのかおどおどした様子で手を差し伸べた。
ガリムがハリーと握手を交わすと、ハウルの肩に優しく触れてのちに同級生となる息子を紹介すると同時にハウルが口を開いて握手をしようと手を差し出した。
「ハウル・グレンストだ。新入生同士だし、仲良くしてくれると嬉しい。」
二人の少年は握手を交わすとお互いにニヤッと笑った。
奇遇にもお互いに初めてできた同年代かつ同性の友達である。
この二人の幼き少年達が出会うか否か
この些細な出会いに魔法界の未来は大きく揺らぎ
選択一つで救済、破滅の道が別れる
その場に居合わせた者達は誰一人気づくことはなかった
だが確実にその時はゆっくりと歩み続け、その決断を迫られる時が必ずやってくる。
後世の歴史物語として1ページの初めに描かれるのはこの二人の出会いだった