いつも読んでくださってる方、まとめ読みしてくださった方、本当にありがとうございます。気がつけば、お気に入りを付けてくださった方が1300人を超えていました!
こういう地味なお話を飽きずに読んでいただけるというのはうれしいですね~。
相変わらずのゆっくり更新ですいません。ただ今回は言い訳もありまして……。
実はお話を書くのに使っていたノートパソコンがおかしくなりました。
液晶が機能せず外部モニタに繋がないと何もできなくなったり、いつも使ってるエディタで日本語変換が使えなくなったり……。
元々調子が悪かったので、これを機に新しいPCを購入し、エディタやらデータやらの移動をして……というのに少々時間がかかってしまいました。
その間も「メモ帳」とかでちまちま書き溜めてはいましたので、今回は二話同時の更新です。本当はまとめて一話にしようと思ってたんですが。二話目が思いの外長くなってしまったので……。
では、二話同時更新の「幕間」一話目です。
『……うん、良かったじゃん。ちゃんと陽乃さんに話せて、さ』
「話をした、というだけよ。実際、それだけで何が変わるというわけでもないわ」
『それでも、だよ。…………ゆきのん、頑張ったね』
「それは……」
そう、かもしれない。ただ姉さんにほんの少し自分の気持ちを話しただけ。けれど、その少しのことがこの何年も出来ないでいたのだから。
もし今日、結衣さんと……彼の、比企谷くんの後押しがなければ、私はまたきっと言い訳して――逃げていただろう。
「そう、ね。 ……その、色々とありがとう、結衣さん」
『どういたしまして、だよ』
電話の向こう側、彼女の笑顏を思い浮かべ、私も思わず顔が綻ぶ。
ちら、とリビングの壁に掛かっている時計を見れば、間もなく日付が変わろうという時刻。
「……随分遅くなってしまったわね。こんな時間までごめんなさい」
『そんなのいいよ。あたし、もっと遅くまで優美子たちとLINEしたりしてる時あるし!』
「……それはあまり威張って言うようなことでは無いと思うのだけれど……まあいいわ。それじゃ――」
『あの!……』
通話を終わらせようとしていた私の話を、結衣さんが割り込むようにして遮る。
『あのさ、 ゆきのん……』
「結衣さん……?」
『あの、さ……今からヒッキーに電話してあげて』
「…………」
彼女の思いがけない言葉に一瞬息が詰まる。
『ヒッキー、あの後ゆきのんの事すっごく心配してた。きっと今も心配してる』
「でも……こんな遅くに……」
『大丈夫だよ。この時間ならヒッキーまだ起きてる。もし寝てても……ゆきのんからの電話ならヒッキーは必ず出るよ』
「……そうかしら?」
『うん、きっと』
変に確信じみた彼女の声が耳に残る。
『だけどヒッキーからはゆきのんにかけてこないよ? ……だって、ヒッキー、前に言ってたじゃん。 ……アドレス教えてもらって調子に乗ってすぐメールしたら迷惑がられた、みたいな話』
確かに彼は中学時代の話としてそんな事を言っていた。いつも通りの、少し自虐的なあの顔で。
『……黒歴史だとか言って笑ってたけど、ヒッキーほんとは……、だから……』
彼女は一度言葉を切り、改めて言い直すようにして言葉を紡ぐ。
『だから、ゆきのんから電話してあげてほしいの。 ……せっかく……ううん、やっと連絡先交換したんだし――友達に、なったんだし』
**********
「――雪ノ下の問題は、雪ノ下自身で解決すべきだ」
と比企谷くんは言った。
「けどな、今焦って何でもかんでもを決めちまう必要も無いだろ。母親やら姉やらに脅かすみたいにプレッシャーかけられて……その状態のお前は冷静か? いつも通りの雪ノ下雪乃か?」
「……っ、それは……」
私が言葉に詰まり俯いていると、
「――何かを決めなければならないとしたら……、それを決めるのはあくまでも
「ヒッキー……」
そして、彼は一度逡巡するような様子を見せた後、ゆっくりと言葉を続ける。
「俺も……由比ヶ浜も協力するっつーか、その……だからまずアレだ……」
「比企谷くん……?」
目をそらして下を向き、どこか照れたようなもどかしそうな表情。私にこんな表情を向ける彼は珍しい……けれど初めてでは無い。彼のこの表情を見たのは奉仕部に入部したばかりの頃、それに文化祭の後だったか――あの時は確か……
「なあ雪ノ下、俺と……その…………
「いいわ比企谷くん。 ……私たち、友達になりましょう」
「ちょ、また最後まで言わせずに断るとか…………って、え?」
彼のポカンとした表情に思わず頬が緩む。
「あら、違ったかしら?」
「いや……違わない……けど。 ……良いのかよ。俺と友達とか本気か?」
「……自分から言ってきておいてひどい言い草ね。……まあ、『三度目の正直』という言葉もあるし……」
「いや、お前今言わせなかっただろ……。それに……それなら三度目、もっと早くに言っときゃ良かったかもな」
「『二度あることは三度ある』とも言うわよね……」
「お前な……」
「冗談よ。 ……その、改めてこれからもよろしくね、比企谷くん」
そして私は彼の――珍しく濁りの少ない目と視線を交わす。
「ふふ……」
「はは……」
「……ねえねえゆきのん! それにヒッキーも! あたしも居るんだよ!? 置いてきぼりにしないで~」
そう言って結衣さんが私にぎゅうっと抱きついてくる。相変わらずの……その、圧力と熱。たまに息苦しく、それなのに離れてしまうと寂しく感じる彼女の体温が――今日はただただ心地よかった。
こうして私と彼はようやく友達になり、結衣さんの勧めで連絡先を交換することになった。
と言っても、彼がかつて結衣さんにそうしたのと同じように、無防備にも彼のスマートフォンを私にひょいと預けただけだったのだが。
私は彼の電話のアドレス帳を開き、私の電話番号とメールアドレスを登録。 ……そのまま私のスマホに発信し、その着信履歴から比企谷くんの番号とメールアドレスを登録する
振り――そう、実は私の電話には比企谷くんの番号もアドレスもとっくに登録済みになっているのだ。
クリスマスイベントの……演劇の準備に追われて慌ただしかった頃、ある日私の家に泊まった結衣さんが、
「急に連絡が必要になることもあるかもしれないから」
と彼の連絡先をメモしてくれたのだ。
他人の番号やアドレスを本人の許可なく第三者に教えるという行為の問題については、本来なら結衣さんに対する指導が色々必要になることなのだろうけれど……。
それでも私は、「急に必要になるかもしれない」というそれを言い訳にするように自分のスマホにこれを登録し……イベントが終わった今も消すことなく大切に残したままにしてきたのだ。
**********
一度もかけたことのない彼の電話番号……。
常夜灯だけに明かりを落とした自室。手の中で光る液晶画面にぼうっと映し出されたその番号をしばし眺め……私は画面の中の「発信」ボタンにそっと触れた。
コール音は一回半。
『……もしもし……?』
「こんばんは、比企谷くん」
『おう……。念のため聞くが間違い電話でしたってオチじゃ……無いよな?』
ふふ、相変わらず疑り深いのね。
「今日の着信履歴から発信しているのだし、間違えるわけもないわ」
『いやそういう意味じゃなくて……』
もちろんホントは彼が何がいいたいのかはわかっている。だから……。
「私は
『雪ノ下、そのセリフがすでに友達に対するものとは思えないんですが』
「友達の定義なんて人それぞれだと思うの。表面だけ取り繕うような関係の友達なら……いらないわ」
『……全く、お前も俺とは違う意味でぼっち体質だよな……。まあいい、で、どした?』
彼の声のトーンが優しくなる。きっと私が柄にもなく緊張して、ごまかすように悪態をついていたのを察してくれているのだろう。彼の気遣いに感謝しつつ私は本題に入る。
「あ……その、一応報告、というか……」
『報告?』
「あのこと……姉さんに話してみたわ」
『……そうか。……で、雪ノ下さん――陽乃さんはなんて』
「相変わらず人を茶化しながらだけど……でも話はちゃんと聴いてくれたわ。……一応協力はしてくれるみたいね。……あんまり当てにはできないけど」
『でも……話せたんだな。逃げずに』
「ええ……。貴方と結衣さんのおかげね」
『俺は……何かしたわけじゃねえよ……』
「でも……ありがとう」
『おう……』
**********
2日ぶりに姉さんの待つ家に帰った私は、彼女に、今日まで言えずにいた私の気持ちをほんの少しだけ――でもようやく言葉にして伝えることができた。
――父のように、政治の道に進みたい。
かつて己の身に降り掛かった理不尽。正しいはずの者が、努力している者が何故か生きにくいこの世の中。大きなところでは国家単位の差別や迫害から、果ては小学校のいじめ問題まで、この世界はそんな理不尽で満ち溢れている。
そして、そういう問題を解消していくには……結局は政治の力によるしか無いのだ。たとえそれがどれほど困難な道であったとしても。
私は別に性善説だの性悪説だのに囚われたりはしていない。私を含め、人間は弱くて不安定だ。ゆえに、その置かれた状況によって、正しくないとわかっていてもそちらに流されてしまうことも多いということも理解している。
『鋳型に入れたような悪人など居ない。普段は普通の人間がいざという間際に急に悪人に変わるから恐ろしいのだ』
そう漱石が「こゝろ」の中で著しているように、これが人間の本質だろうと私も思う。だからこそ、正しい者が……正しい行いをする者が少しでも生きやすくなるような、普通の人間が悪人にならずに済むような、そんな社会へと変えていきたいと思うのだ。
私は将来、政治の道を目指したい。自分が表舞台に立たなくても……例えば父の秘書、あるいは、もし姉がその道へと進むつもりならそのサポートからでも構わない。
――けれど、母は決してそれを許そうとはしないだろう。なぜなら彼女のすでに定めている将来設計図の中に
それが解っていてもまともに母と対峙できずにいる自分。
そして比企谷くんや結衣さんの存在に縋り、明確な自分の意志というものを保てていない自分。
このままでいいとはとても思えないけれど、今の私にとってはそもそもどんな自分を目指すべきなのかさえ朧げにしか見えていない。
だったら、私は…………。
**********
『……雪ノ下?』
比企谷くんの声にハッと我に返る。
「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてしまって」
少し考え込んでしまったらしい。
『いや、良いけど……。なんか、珍しいな』
「そう……ね。これからの事を色々と考えてしまって」
『これから……』
「そう、これから。 ……私の事も……私たちの事も」
『……おう』
彼の声がほんの僅か熱を帯びたような気がした。
それっきり二人共押し黙り……かすかな息遣いだけが電話越しに伝わってくる。
そして私はふと、ずっと気になっていたことを話そうという気になった。些細なこと……けれど、こういう機会でも無ければきっと言えないこと。……そう、今なら言える。
「そう言えば比企谷くん」
『ん?』
「その、去年のクリスマスの頃から、私……由比ヶ浜さんのことを『結衣さん』一色さんのことを『いろはさん』と呼ぶようになったでしょう。その時、比企谷くんのことも考えたのよ」
『考えたって……何を?』
「その、貴方の呼び方も変えたほうがいいのかしらって……」
『いやそれは……』
あからさまに戸惑うような彼の声。
「でも、結局変えられなかったわ。流石に『八幡くん』と呼ぶのは恥ず……抵抗があったし……。親しみを込めて、『ヒキタニくん』とか『ゾンビ企谷くん』とか呼ぼうかとも思ったのだけれど……」
『おいちょっとそこ、むしろ親しみが後退してるだろ。それを親しみを込めてとか言ったら親しみさんに失礼だろうが」
「……ふふ、冗談よ」
そう言って私は笑う。 ……彼と話していると私は……そう、楽しい。楽しいのだ。
他の誰と話すのとも違う感情。やはり比企谷くんは私にとって特別な存在なのだろう。実際、彼を求める気持ちは私の心の中に確かに存在する。けれどこの、彼に対する気持ちがはたして単なる恋愛的な気持ちなのかと問われれば――正直自分でも良くわからない。
「ただ……呼び方は変わらないけれど……私は前よりずっと貴方を近しく思っている、ということを……ちゃんと伝えておきたかったのよ」
そう、私が彼を特別に思っているということを、彼自身にも知っていて貰いたいのだ。
『…………おま……いや……おう』
ふふ、彼が電話の向こうで照れているのが伝わってくる。今夜の私は饒舌だ。きっと今日彼と結衣さんの三人で出かけたこと、それに久しぶりに姉さんと正面から向き合って話したことも重なって色々とテンションがおかしくなっているのかもしれない。
『その……アレだ。正直今更お前から違う呼び方されても違和感しかねえよ……多分』
「そういうものかしら」
『あー、例えば俺がお前を、『雪乃』とか『ゆきのん』とかって呼んだらどうだよ……』
…………不意打ちで彼から『雪乃』と呼ばれ思わず頬が熱くなる。……本当、顔の見えない電話で良かった。
「確かにそれは気持ちわ……照れるわね」
『今お前気持ち悪いって言おうとしなかったか? 親しみさんは何処に出かけちゃったの?』
「何のことかしら?」
『こいつ……』
楽しい……。今日の私達は何かを先送りにしてしまったのかもしれないけれど、それが間違いだとは思いたくない。いえ、もしかしたら両方間違っていて……両方正しいのかもしれない。
「だからその、改めて言うのは変かもしれないけれど……これからもよろしくね、『比企谷くん』」
『おう。……まあなんだ、よろしくな、『雪ノ下』』
そして私は、少しだけ名残惜しく思いながらも終話ボタンに触れる。
姉さんから見ると私たちの関係はいびつだと言う。
私が、
「比企谷くんや結衣さんに依存していると言いたいのでしょう? その自覚はちゃんとあるから今はほうっておいて」
と言った時、姉さんは、
「依存……ねぇ。そんな単純で生易しいものじゃ無いと思うけど……雪乃ちゃんにはわかんないかなー」
と、どこか独り言のように言い、探るように私の目を覗き込んできた。
確かに姉さんの言うように私たちの関係はどこか歪んでいるのかもしれない。いずれは私も彼もそのことに正面から向き合わなければならない時が来るのだろう。
結衣さん、いろはさんとの関係。そして……比企谷くんがどの程度自覚しているかはわからないけれど留美さんとの事も……。
鶴見留美さん……。私と彼女はどこか似ている……いえ、似ていた。
彼女もやはりかつての私と同じような理不尽に晒され、けれど彼女は私のようになってしまう前に比企谷くんと出会い、彼に救われた。
もし、小学生の時の私が、今の比企谷くんのような人と出会うことができていたなら……なんて、それは意味のない仮定ね。
それからの彼女は、特に隠す様子もなく彼に想いを寄せているように見える。その瞳は誰よりも真っ直ぐで……その素直さが正直羨ましくさえある。
だからこそ比企谷くんにとっても彼女は大きな存在になりつつあるのだろう。それはきっと……留美さんが彼を慕ってもおかしくないと彼自身納得できるだけの経緯があるから。
人からの好意を信じることに臆病な彼は、間違いなく自分に好意を持って接していると信じられる相手に特別な価値を見出すのだろう。
小町さんや……彼女のように。
いつか私もあんな風に誰かとまっすぐ向き合える日が来るんだろうか。
それでも……比企谷くんという名前を知ってから二年。知り合ってからほぼ一年。
入学式の日の事故から、奉仕部の仲間としての関係を経て、今日――もう日付が変わってしまったから――昨日、ようやく私たちは友達になれたのだ。
それを素直に「嬉しい」と思える自分がいる。だから……今はそれでいい。
カーテンを開くと、窓の外の雪はすっかり止んでいた。いつの間にか晴れてきた夜空の雲間から、白く静かに輝く月が顔を覗かせ白銀の世界を照らしている。
私は窓ガラスに息を吹きかけて白く曇らせ、指で猫の足跡みたいなマークをつけた。子供の頃姉さんとよくやった遊び……。私は足跡を3つ作って満足し、そっとカーテンを閉じた。
ふふ、なんだか今夜はゆっくりと眠れそう。
――翌朝、珍しく寝過ごした私は、
『――ゆきのん、ゆきのん! ヒッキーのお家で留美ちゃんのパジャマがおそろいで、いろはちゃんが大変なの!』
……という、結衣さんからのさっぱり要領を得ない電話で叩き起こされることになるのだけれど。
このお話初、原作キャラ視点でお送りしました。以前から大体の話は作ってあったのですが。12巻に合わせる形で一部を書き直しています。
続いて同時更新二話目があります。
11月1日 「」『』間違い修正。
11月2日 誤字修正。いつも報告ありがとうございます。
5月4日 誤字修正。 不死蓬莱さんありがとうございます。