そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

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稲刈り終わったぜ!

ということでようやくある程度時間が取れるようになりましたので、また更新を再開させていただきます。

今回(も)幕間なのに長いです。


幕間 オムニバス① 重なる気持ち

 

 大切な人が去って行く――彼が目の前から居なくなる。

 

 ……いつかこんな日が来るってことはわかってた。

 皆が言う、「自然な事だ」と。「早いか遅いかの違いだけだ」と。

 

 私だって頭では理解してる。けれど心の方が追い付いていないのだ。発作的に暴れたくなるのを、泣き出したくなるのを、奥歯を強く噛んでどうにか押さえ込む。

 

 反して彼の方はもうとっくに覚悟を決めてしまっているようだ。

 

 どうして? 私の事を世界で一番好きだと……愛してるとさえ言ってくれてたのに。

 私がどんな我儘を言っても聞いてくれたのに、どうしてこのままずっとそばにいてくれないの……。

 

 

 

 ううん、今さら言ったところで何もかも遅いのかもしれない。だって……彼がここを去るまでに残された時間は 一日を切っているのだから。

 

 

 粛々(しゅくしゅく)と現状を受け入れた彼――私とは決して結ばれることの無い初恋の相手――は、感情の読めない、どこか飄々とした顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「――小町、コーヒー飲むか?」

 

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 お兄ちゃんがこの家からいなくなる……。

 

 

 

「八幡も学生のうちに独り暮らしを経験しといた方が良いんじゃないか?」

 

「そうねぇ。社会人になると、辞令が出て2週間後には海外に引っ越しとかそんな事もあるみたいだし……東京なら……」

 

「何でだよ。ちょっと遠いっつっても家から通えるのに、わざわざ余計な金掛けてまで……」

 

「だから、そういうのも含めて社会勉強になると……」

 

 

 

 二月末、お兄ちゃんの第一志望の大学合格発表の日。

 

 さすがにこの日は両親とも仕事を早めに切り上げて帰って来て、私もお兄ちゃんが好きなメニューばかりを食卓に並べて――と、家族だけのささやかな祝賀会という雰囲気だった。

 サービスで、大きなオムライスに、ケチャップで

「合格おめでとう(はぁと)」

と書いてあげたら、お兄ちゃんはなんだか凄く感動してた。

 

 ……そういえばお兄ちゃんってトマト嫌いなくせにケチャップは結構たくさん使うんだよね。何がそんなに違うのかねー? 甘いから?

 

 とにかくそんな、わが比企谷家にとってちょっと特別な日に、言う方も言われる方も唐揚げを口に入れたままという緊張感も何もない状況で始まった、お兄ちゃんが独り暮らしをするという話。

 

 最初はほんの冗談みたいなものだと思ってたんだよ。

 なのにいつの間にか話はトントン拍子に進んで、留美ちゃんのお母様のつてでアパートも見つかって――お母さんは何でわざわざ千葉県(こっち)にしたのって呆れてたけど――気が付けばもうすっかりお兄ちゃんの引っ越しは決定事項になってて……今さら私が

「やっぱり止めない? 」

なんて言える雰囲気じゃなくなっちゃったんだ……。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

「……そういえば小町、明日手伝いに来てくれるんだっけ?」

 

 お兄ちゃんの言葉に、「もちろん行くよー」と答えようとして……言葉に詰まった。

 

「ん……?」

 

 実は先週いろはさんから、「引っ越し当日にサプライズで押しかけパーティーしたい」という相談というかお願いをされて、OKしちゃってるんだよね……。留美ちゃんはアパートを紹介してもらった関係もあって元々手伝いに来てくれる予定だったし、そうなると……引っ越し荷物も少ないし人手は余る位だろう。

 

 お兄ちゃんと二人で向こうに行って……パーティーに参加して……帰りは私一人……。

まあ帰り道は留美ちゃんやいろはさんも一緒かもだけど……それは余計に駄目だ。

 

 だって……だって私絶対泣いちゃうから。それどころか帰りたくないって駄々こねてアパートの柱にしがみついちゃうまである(お兄ちゃん風)

 

 だから……

 

「ごめんお兄ちゃん。明日中学校のときの友達から遊びに誘われちゃって……クラスで総武に入ったの小町だけだったからなかなかみんなで会う機会ないし……」

 

「そう……か。ま、しゃーない」

 

 中学の時の友達に誘われてるのは本当だけど、ほんとは今の今まで行かないつもりでいた。一応「行けたら行く」みたいな、どっちかと言えば「行かない」に近いよーな曖昧な返事にしてあるけどさ……。

 

「まあ、お兄ちゃんの相手はいつでもしてあげられる訳だし、荷物も超少ないし。……ほんとにあれだけで良かったの?」

 

 そう。お兄ちゃんの荷物は本当に少なくて……宅配便の業者さんが引っ越しプラン用に用意してる小さな小さなコンテナでも隙間が出来てしまう程度の量しか無かった。

 

「ま、ベッドとか机とかは向こう用に1人て簡単に組み立てられるやつ買って、それが明日届く予定だからデカイ物ないし。 ……お袋もこっちはこのままにしておいて良いって言ってくれてるしな」

 

「向こうは留美ちゃん来てくれるんだよね? なら小町がいなくても人手は足りそうだもんね」

 

 お兄ちゃんには言えないけど、いろは先輩も来てくれるみたいだし、きっとあの二人なら甲斐甲斐しくお兄ちゃんの世話を焼いてくれるだろう。

 

「中学生に頼るのもどうかとは思うが……確かに俺より留美のほうがしっかりしてるからなぁ」

 

 なんて、お兄ちゃんはあっさりと納得してくれた。

 

 あとは事前に「お兄ちゃんと一緒に行く予定だよ」と伝えてあった留美ちゃんといろは先輩への連絡だ。私は少しだけ考えて……、

 

『小町が手伝いに行っちゃうと妹離れの出来ないダメダメな兄が小町をお家に帰してくれなくなっちゃいそうなので、心を鬼にしてそちらには行きません。あと、サプライズという話だったのでまだいろはさんの事と引っ越しパーティー? のことはお兄ちゃんには話してません。

 まあ留美ちゃんといろは先輩になら料理とかも安心してお任せ出来るし……うちの兄がご迷惑をおかけするかもですがよろしくお願いしますねー。あと、お母様にも今回のことお礼を言っておいてね』

 

 と、そんな風な内容のLINEを送る。電話にしようかとも思ったんだけど、声で無理してるのがバレそうで……。留美ちゃんもいろは先輩も変に鋭いところがあるからなぁ……。それに比べると雪乃先輩と結衣先輩は案外ちょろ……ピュ、ピュアというか……。

 

 

 

 

 

 

 次の日、引っ越し当日の朝。お兄ちゃんは、

 

「小町は午後からか? じゃあ戸締まり頼むな」

 

 と、まるで普段と変わらない「いってきます」を言うような軽い感じで出ていってしまった。

 ……そりゃ確かにここから一時間もかかんないトコだし……でもでも、仮にも引っ越しだよ? 今日からこの家には帰って来ないんだよ? もっと何かこう……。

 

「……小町的にポイント低いよ、お兄ちゃん…………」

 

 家を出るというのにあっさりし過ぎな態度だったお兄ちゃんにはもやもやした気持ちを抱きながらも、どうにか平気なふりで彼を見送った私は……その後何もやる気が起こらず自分の部屋てベッドに寝転がり、ただぼーっと天井を眺めていた。こんなの「小町」らしくないって思っても、何かをやろうという気力が湧いてこない……。

 

 まったく、お兄ちゃんがいなくなったくらいで我ながら情けないと思うけど……でも……。

 

 家の前を通り過ぎる車の音……それから壁掛け時計の秒針の音が耳障りなほどはっきり聞こえる……。

 私以外に人の気配が無い。そんなこと、両親ともやたら忙しくしてるこの家では珍しい事でも何でもないはず。

 

 

 でも……でも今日は、なんだか……静かだ……な……ぁ……。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 どこかで微かな物音がする……。

 

「ありゃ……」

 

 ……いつの間にか眠っちゃってたみたい。

 もうお昼過ぎか~。そういえば、中学のときの友達と皆で遊ぶ予定…………いいや。元々「お兄ちゃんの引っ越しの手伝いあるから、早めに終わったら後半顔出すね」って言ってあっただけだし、なんかもういいかなぁ。

 

 起き上がるのも億劫で右に左にとゴロゴロ寝返りをうつ……と、また物音……あれ? なんか壁のすぐ向こう……お兄ちゃんの部屋からみたいだけど……。もしかして忘れ物でもしたのかな!

 もう、お兄ちゃんはしょうがないんだから~と、私は弾む足取りで廊下に飛び出し、半開きになっていた兄の部屋のドアを開いた。

 

 

 でもね、そんな簡単にお兄ちゃんが帰って来るわけ無い。いくら近いとはいえ、「引っ越しちゃつた」んだから……。

 

 お兄ちゃんの部屋で私を迎え入れてくれたのは我が家の愛猫、「カー君」ことカマクラだった。

 

 ほとんど荷物も減って無いはずなのにやけにがらんとして感じる部屋。

 

 ベッドにすり寄るような位置でぽつんと佇んでいた彼は、私の顔を見るなりちょっぴり寂しげに「みー」と一言鳴いた。

 彼も猫なりに何かを察しているのかもしれない……。それとも単に私がさみしいからそういう風に聴こえるだけなのかな。

 

 カー君を抱き上げ、私はそのままお兄ちゃんのベッドにコロンと倒れ込む。そのまま一人と一匹はくっついて丸くなった。

 

 不思議と暴れもせず大人しくされるがままになっているカー君の背中を撫でてあげると、彼は気持ちよさそうに鼻を鳴らしてゆっくりと目を閉じる。

 

 その顔を見ながら、私はカー君がこの家にやって来た頃の事を思い出していた…………。

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 私は――子供の頃家出をしたことがある。

 

 あれは小学校二年生に上がってしばらく経った頃で、きっかけは……実はお兄ちゃんが四年生になった事だったんだ。

 

 

 

 

 今でこそ子供二人をほったらかしにして忙しそうにしてる両親だけど、さすがに私が小学校に入るまではそういう訳にもいかなかったんだろう。

 母は午後は在宅勤務が出来る部署に籍を置き、保育園の送り迎え等もやってくれていた。

 

 けれどやがて私が小学校に上がると、母は五時定時の部署へと移動し、それと同時に私たち兄妹はいわゆる「鍵っ子」になったんだ。

 

 三年生のお兄ちゃんと一緒に帰宅して、留守番しながら6時頃帰宅する母を二人で仲良く待つ。そんな生活が約1年続き、当たり前だけど私は二年生に、お兄ちゃんは四年生になった。

 

 

 それまでの私にとって、お兄ちゃんはいつでも隣りにいてくれるのが当たり前の存在だった。登校も下校も一緒。お風呂も寝るのも一緒。遊ぶのも、テレビを見るのも一緒。男の子にとってはつまらないだろうおままごとも嫌な顔をせずやってくれたし、女の子向けのアニメの「プリキュア」だって一緒に見てくれて、プリキュアごっこの怪物役だってやってくれた。

 …………ま、まあプリキュアは小町が見なくなった今でも見てるみたいだけど……。

 

 そのころの私はとにかくお兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんがどこに行くときでも後をついていく兄ベッタリな妹だった。その頃はまだお兄ちゃんの目も澄んでいたし、私の髪もサラふわのセミロングで……自分で言うのもなんだけど、見目にも可愛らしくて仲の良い兄妹だったと思う。よく近所のおばちゃんに、

「小町ちゃんはお兄ちゃんのお嫁さんみたいだねー」

 なんて言われたりもしてて、それがすっごく嬉しかったのを覚えてる。

 

 白状すれば――小学校に上がる頃までは本気で「大きくなったらお兄ちゃんと結婚するんだ」って思ってた。

 それが……いつだったか、親戚の誰かから「兄妹では結婚できないんだよ」と教えられて、あまりのショックに大泣きしたのは消し去りたい黒歴史というやつだ……。

 うわ~、思い出しただけで床を転がりまわりたいくらい恥ずかしくなってきたよ。

 

 と、とにかくっ、お父さんやお母さんがどんなに忙しそうにしていても、小町にはお兄ちゃんがいてくれたの。

 

 でも……四年生以上と三年生以下では、時間割りのコマ数が違う日が週に2日ある。その上、上級生は委員会とか合唱コンクールの練習とかが始まってそれで帰りが遅くなる日もあり……結果、私が1人で帰り自分で鍵を開け、誰もいない家でお兄ちゃんやお母さんの帰りを待つという時間が一気に増えちゃったんだ。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 その日は些細な事で友達と喧嘩して、帰り道では真っ黒い大きな犬に吠えられて……と色々巡り合わせの悪い日だった。

 半分泣きそうな気持ちで家に帰り着き、鍵を開けて中に入ったものの、私を出迎えるのはシーンとして薄暗い、1人で居るにはあまりにも広く感じる家。

 

「……ただいま……」

 

 そう言ったところでもちろん返事は無い。

 お兄ちゃんもお母さんもいない……。こらえていた涙がぽろりと溢れた。

 

「……誰もいないおうちなんて……ヤだよ……」

 

 その時は寂しくって辛くって無性に悲しくなって、……今にして思えばどうしたらそんな考えにたどり着いたのか、

 

家出(いえで)しちゃおう」

 

 小学生だった小町はそう思っちゃったんだよね。

 子供なりに本気で家を出ようと思っていたのか、はたまた家族に心配してほしかっただけなのか……自分の事だというのに、その頃どんな思いで居たかなんてもう思い出せもしない。

 覚えているのは、ただただ、小町以外誰も居ない家のどうしようもない寂しさだけ。

 

 

 

 

 

 さあ、家出すると決めたは良いけどどこに行けばいいんだろう……。あんまり家の近くだとすぐ見つかってしまうし、かと言って知らない所に行くのは…………。

 

 ちょっとだけ考えて、いい場所を思い付いた。

 

 それは、小町がまだ幼稚園のころに、お母さんとお兄ちゃんと一緒に一度だけ遊びに行ったことがある隣町の大きな公園。

 あの時は母のお届け物かなにかの用事に付いて行って、そのついでにって感じで立ち寄ったんだっけ。結構遠かったような気もするけど、その時だって歩いて行ったんだし……。

 トイレも水呑み場もあるし、お兄ちゃんと秘密基地ごっこをして遊んだトンネルみたいな場所もあったはず。うん、あそこなら雨が降っても平気だ。

 

 

 

 思い立ったが吉日……というわけでもないんだろーけど、幼い私は、居間のテーブルに用意してあったお兄ちゃんと私二人分のおやつの、きっちり半分だけをお気に入りのかばんにに詰めこんで、最後に、

 

『おうちにいてもつまんないからいえでします』

 

 と書き置きを残して家をとびだした。 ……律儀にちゃんと鍵をかけて。

 

 公園への道はなんとなくだけど覚えている。広い通りを小学校に行くのと反対方向に曲がってずーっと進んで、大きな赤い屋根のおうちのとこを右に曲がって、しばらく行くと左手に鉄塔が見えてくるはずだ。そのすぐ近くに目指す公園があったということは覚えていたから、とにかく鉄塔さえ見つければ行けるだろうくらいに考えてたんだ。

 

 

 

 

 いざ出発! と勇んで歩き始め、しばらくは広い道をどこまでも進む。天気は良く、住宅街の大通りを進んでいるので迷うような場所があるわけでもない。私は鼻歌を歌いながらずんずんと快調に歩き続けた。

 

 ……どれくらいの時間歩いただろうか、目印になる赤い屋根の大きな家は思いの外簡単に見つけることが出来て、私は記憶の通りにその角を曲がった。

 幸いなことに目印の鉄塔はずいぶん遠くからでも見える高い物だったので、私はそれを目指して何度か住宅地の路地を曲がって、それほど間違えもせず塔の袂にたどり着く事ができた。

 

 例の公園は探すまでもなかった。私が目指して歩いてきた鉄塔は――なんとまさに目的地の公園の敷地の一番端に建てられていたのだ。

 思わず私は公園の中へと駆け出す。靴裏の感触が硬いアスファルトのそれから草を踏みしめる柔らかいものに変わり、ふわっと芝生のいい匂いが漂った。

 

 なんだ……簡単じゃん! 小町すごい! こんな遠くまで一人で迷わず来れちゃった。

 

 達成感と高揚感。ちょっと誇らしい気持ちになって、どうだどばかりに来た道を振り返って……一瞬血の気が引いた。

 

 ……あれ? 小町、どっちから来たっけ…………。

 

 公園の周りに広がるのは、良く言えば統一感が有って自然に馴染む――悪く言えばこれと言った特徴のないどこにでもあるような住宅街。公園に通じてる路地なんか、あの鉄塔の近くだけで五つもあって……。

 

「小町……帰らないから良いんだもん……」

 

 そうだよ、帰れないんじゃなくて帰らないんだから!

 子供の私は意地を張って、広い公園の真ん中の方……目的地へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 公園の「真ん中」にある複合型の遊具がある一角。実はその場所は大きな公園のまだ端の方だったんだけど、当時の私はここが真ん中だと思い込んじゃってたんだ。

 

 大きなメロンパンみたいな形をしたコンクリート製の小山のような遊具は、斜面の一角が幅広の滑り台になっている。

 それが正面として山の側面の三方には、子供ならちょっと屈めば立ったまま通れるくらいのトンネルの入口があり、それぞれのトンネルの先――ちょうど山の頂上の真下辺りが少し広がってドーム状の空間になっている、というなかなかに大きな物だ。(といっても今思えば大したこと無いけど)

 以前来たときは、ここを秘密基地に見立ててお兄ちゃんと遊んだのだ。

 

――そう、ここがこの日の小町の目的地。ここは、この「滑り台トンネル山?」を中心に、ブランコ・鉄棒・砂場、ベンチがいくつか、それに水飲み場があって、さらにそこからまっすぐ見える所に公衆トイレがあるという、小学二年生だった私にとっては家出するに当たってカンペキな場所だと思えたんだ。

 

 日は暮れかけていたけど、幼稚園ぐらいの子が何人か、砂場でそのお母さん達らしき女の人たちとまだ遊んでいるのが見えた。

 

 私はそこの大きな遊具のトンネルの一番奥まった所にに潜り込み、腰を下ろして一息ついた。最初のうちは鼻息も荒く、

「もうおうちには帰らないで、このままここで暮らすんだ!」

なんて……いかにも子供な、馬鹿なことを考えてた。う~ん我ながら行き当たりばったりというか、後先考えてないなあ……。

 

 

 

 

 けれど時間が経つに連れ周りは徐々に暗くなり、持ってきたおやつもあっという間に食べ終えてしまって……お腹もすいてどんどん心細くなってきた。

 不安になって一度トンネルの外に出てみたら、もう空は真っ暗で、広い公園の中、所々にあるベンチの上でポツンポツンと光っている街灯だけがやけに眩しかったのを覚えている。

 見える範囲には誰もいない。当たり前だけど、さっきまで遊んでいた子ども達やそのお母さんはとっくに帰ってしまったんだろう。公園の木々が風で揺れる音がざわざわと響き、どこかわからないけど意外と近くから犬の遠吠えのような声が聞こえてくる……。

 

 恐い……おうちに帰りたい……。その頃には「ここで暮らす」なんて威勢のいい考えはとっくに引っ込んでしまっていたけど、この暗い中一人で慣れない道を家まで帰れる自信もなくて、私は微かに街灯の光が届く土管のトンネルの入口に座り込み、声を殺すようにグシグシと泣き始めた。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

「……小町~、こまちー…………」

 

 

 一体どれくらいの時間が経ったのか……泣き疲れて頭がぼうっとしてきたころ、どこかで私を呼ぶ、しわがれたような声が聞こえてきた。

 

 最初は誰だか解らなかった。何度も……何度も私を呼んでくれたんだろうその声はもうすっかり掠れていて……。私が潜り込んでいたトンネルの入り口から外を覗くと、ちょうど声の人物が、あたりを見回しながら街灯に照らされたベンチに差し掛かるところだった。あれは……。

 

 

「お……お兄ちゃんっっ~~」

 

 私は自分が家出中の身であったことなどすっかり忘れ、土管のトンネルから転がるように飛び出し、お兄ちゃんの胸に飛び込むみたいに抱きついて――みっともなくビービーと泣き出した。

 

「小町っ! やっと見つけた~……」

 

 お兄ちゃんは私の事をしっかり抱き止めると、

 

「大丈夫か? どこも怪我して無いか?」

 

 そう言って私の顔を覗き込んだ。少し掠れた声。ちょっと落ち着いた私は顔を上げる。

 見ればお兄ちゃんは息も上がって汗だくで、どこかで転びでもしてしまったんだろう、半ズボンから伸びた足、両の膝小僧は擦りむいてうっすらと血が滲んでいる。

 

 小町のせいだ。小町が家出なんかしちゃったからお兄ちゃんはこんな……。

 

「うぇ……に……ちゃん、ごめ、ごめんなさい」

 

 お兄ちゃんは、また泣き出した小町の頭をわしわしと撫でながら、

 

「いいよ、僕は小町のお兄ちゃんだからな」

 

 そう言って笑ってくれた。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 帰り道。お兄ちゃんは私とぎゅっと手を繋いでくれて……今まで心細かった私に、手のひらから伝わってくるお兄ちゃんの体温はとっても心強かった。

 

 少し歩くと広い通りに出る。暗くて色ははっきりとはわからないけど、目の前にあるのが来る時目印にした赤い屋根のお家だろう。あとはうちの近くまで一本道で、もう迷うような所は無い。

 

 ホッとした私は、

 

「……ねえ、お兄ちゃん、小町があそこにいるってどうしてわかったの?」

 

 そうお兄ちゃんに訊いてみる。

 

「わかんなかったよ。だから全部回った」

 

「ぜんぶって……」

 

「だから、小町が行きそうで僕が知ってるとこ全部だよ。うちのすぐ近くから順番に、学校の手前の公園とか、〇〇ちゃん家とか□□くんの家とか……」

 

 お兄ちゃん……小町のことすっごく一生懸命探してくれたんだぁ…………。

 

 また申し訳無さでいっぱいになって涙が溢れそうになる。するとお兄ちゃんは握った手にぎゅうっと力を込め、

 

「小町。ほらもうすぐお家だぞ」

 

 そう言って私を安心させるように笑った。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 その後の話。

 

 時刻としては夜の9時をだいぶ過ぎていたと思う。私達が家にたどり着くと、目を真っ赤にしたお母さんが飛び出してきて痛いぐらい小町のことを抱きしめてくれた。

 お母さんはスーツ姿のまま。テーブルに転がる電話機とたくさんチェックの入ったメモ。考えつく限りの相手に電話をかけてくれていたらしい。

 

 私は泣きながらあやまって、お母さんも謝って……それからがけっこう大変そうだった。

 

 お母さんは、お父さんとか、それから警察とかに「娘が無事帰ってきました」という連絡を入れて、それからメモを見ながら、やはり何件も電話をかけてる。聞こえてくるのは「帰ってきました」とか「ご迷惑をおかけしました」とか「ありがとうございました」とかそんな言葉。

 

 しばらくして、制服姿のおまわりさんがやって来た。

 私に「誰かと一緒じゃなかったの?」「今までどこに居たの?」みたいなことを訊いてきたので、一人で家出して公園に居て、道がわからなくて帰れなくなっちゃっただけだと伝えると、おまわりさんは少し安心した様子で、

 

「もうこんなことしちゃだめだよ」

 

 と言って帰って行った。あの時は解らなかったけど、多分「誘拐じゃなかった」のを確認してたんだと思う。 ……小町、ほんと人騒がせだったよね……。

 

 それからおまわりさんと入れ違いみたいにお父さんが帰ってきて、そのまま勢い良く抱き締められる……のは良いんだけど頬に当たる髭がジョリジョリして痛い……。

 

 見ればお母さんはまだ次々と電話をかけてるところで、私を開放したお父さんもお母さんと一緒にあちこちに電話をかけ始めた…………。

 

 

 

 その日は家族みんなでカップラーメンを食べて、それからお兄ちゃんと一緒にお風呂。向かい合って湯船に入ると、目の前にお兄ちゃんの擦りむいた膝が見えた。お湯に浸かると少し痛いらしく、お兄ちゃんは顔をしかめている。

 

「お膝……ごめんね、お兄ちゃん……」

 

「いいよ。それより小町は痛いとことか無いか?」

 

「うん、痛いとこない」

 

「よし! じゃあ頭洗うぞ~」

 

 そう言ってお兄ちゃんは私を洗い場の椅子に座らせ、痛いはずの膝を着いて、後ろから膝立ちの姿勢で私の髪を洗ってくれる。

 泡に包まれた髪の間を滑るお兄ちゃんの指がとっても気持ちよくって、でも私のせいで怪我をしてるお兄ちゃんに痛いのを我慢させてるのが申し訳なくって、何も言わないお兄ちゃんの優しさが嬉しくて、でも辛くって……。

 

 …………髪、ちゃんと自分で洗えるようになろう……。

 

 もともとお兄ちゃんが大好きだった小町だけど……この時感じた気持ちは今までのそれとは違っていて…………今思い返してみると、これ、多分私の初恋だったんだよね~。

 うわ~()()お兄ちゃんが初恋の相手とか…………思い出すのも恥ずかしいやら悔しいやら……いやでも、きっと結構ある話だよね。こーゆーの……疑似恋愛とかいうんだっけ。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 それからというもの、お兄ちゃんは学校が終わるとできる限り早く帰ってきてくれるようになった。友達の誘いとかも全部断って……。お兄ちゃんが友達少なくなっちゃったのって、このころの小町のせいでもあるんだよね。言葉にしては言えなかったけど……ずっと申し訳ないなって思ってたんだ。

 そんなことを思えるのも私が成長したからで、その頃の小町は大好きなお兄ちゃんが早く帰ってきてくれるのが単純に嬉しいだけだった。 ……あの頃はほんとごめんね、お兄ちゃん。

 

 でも、今のお兄ちゃんには私以外にも、ちゃんとお兄ちゃんの良さを解ってくれる人たちがいる。 ……全員きれいな女の子ってゆーのがちょっと小町的にはもやもやポイントだけど……。

 まあそれが嬉しくもあり寂しくもありという複雑な妹心を察してね♪

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 私の家出騒ぎがあったその年の、夏休みに入ってしばらくたったとある日。偶々(たまたま)両親とも休みだったのか、それとも日頃私達をほったらかしにしてる罪滅ぼしみたいな気持ちもあってわざわざ休みを取ったのか……珍しく両親が家族四人揃っての「お出かけ」をしてくれた。

 

 といっても近場だったけどね。丁度その頃幕張メッセの一角で開催されていた『世界わんにゃんショー』というイベントを見に行き、それから食事と買物をして帰るというお手軽なもの。

 

 それでも私たち兄妹は嬉しくて大興奮だった。うちの家族――特にお兄ちゃんと私はけっこうな動物好きで、テレビでもよく動物番組を見てる。

 だから世界中の珍しくてカワイイ犬や猫を間近に見て触れることができるのは純粋に楽しかったから、両親を引っ張り回すように会場を隅から隅まで歩き回り…………

 

 そこで……私たちは出会ってしまったのだ……なんつって。

 

『わんにゃんショー』には、展示コーナー・ふれあいコーナーの他に、販売・商談のコーナーも設けられていた。

 

 そのころ特に人気だった猫――アメリカンショートヘアーの子猫のブース。ロッカーの棚のようなショーケースに一匹ずつ展示されてる可愛らしい子猫ちゃんたち。それぞれの透明なアクリルの扉には、その子猫の雌雄・誕生日と月齢・品種(アメリカンショートヘアーの中にも色とかによってさらに細かい分類があるらしい)予防接種の有無・価格などが細かく書かれたカードが貼り付けられている。

 まあ、私はそんなの全然見てなくて、只々中に入ってる手のひらサイズの猫たちの可愛さに夢中だったけど。

 

 そこに、他の子に比べてやや白っぽくてふわふわの毛並みをした子猫が、体を丸くコンパクトにまるめてうつらうつらと半分眠っているのを見つけた。

 

「お兄ちゃん、この子かわいいねぇ~」

 

「うん……」

 

 お兄ちゃんも目を細めて愛おしそうにその子を見てる。よく見ればうっすらと縞模様はあるけど……でも丸くって、お腹のところが真っ白で……胴を丸めたところがちょうどぽっかりと穴みたいに見えて……。

 

「……なんだか、かまくらみたいだね」

 

「かまくら? ああ、あの雪で作る丸い家みたいなやつか」

 

「うん!」

 

「へへ、ほんとだ……」

 

 

 目の前で騒がしく盛り上がる私たち兄妹の声が聞こえたのか、そのかまくらっぽい子猫はぱちんと可愛らしい目を開くと、人懐っこくも興味津々といった風に私たちの方に寄ってきた。ひゃぁ、薄いグリーンの瞳がちょおラブリー!

 私が仕切りのアクリルボードに指を当てて左右に動かすと、ぱしっ、ぱしっとその手を追うように可愛らしいねこパンチを繰り出してくる。透明な仕切り越しに見えるその小さな小さな肉球のかわいいことと言ったら…………。

 

 私はもうすっかりその子にメロメロで、いつまでも飽きずに夢中になって遊んでいたんだけど……ふと気がつくといつの間にか隣にお兄ちゃんがいない!

 一瞬迷子になったかと焦ったけど、後ろをふりむいたら、お兄ちゃんは少し離れたベンチに座っていた両親に何かを一生懸命話しているところだった。

 

 

 

 

 

 そして……じゃじゃーん! それから数日後、なんと我が比企谷家はこの白っぽくてふわふわの「血統書付きアメリカンショートヘアーの子猫ちゃん(♂)」をお迎えすることになったのだ。

 名前は最初の印象そのままに「カマクラ」 お父さんは「猫っぽくねえなぁ」となんだか不満そうだったけど、私が

 

「小町ね、『カマクラ』ってかわいい名前だと思うよ」

 

 と言ったらすぐにOKしてくれた。てへ♪

 

 

 

 今思えば両親にとってはかなり思い切った買い物だったと思う。子供だった私は値段なんか全然覚えてないけど……血統書付きで当時大人気のアメショ……いろんな費用を含めて多分20万円以上かかったんじゃないだろうか。

 

 後から母に聞かされたところによると、お兄ちゃんに言われた言葉が大きかったらしいんだ。

 なんでもあの時、「家に帰った時猫がいれば小町も寂しくないかもしれない。今小町と遊んでるやつは相性も良さそうだし……今年僕の誕生日のプレゼントいらないからあの猫小町に買ってやって」みたいなこと言ったんだって。

 でも両親がその値段に尻込みすると今度は、「共働きで子供ほっとく位働いてるんだからそのくらい出せるだろ」なんて啖呵を切ったんだとか。お兄ちゃんてば、生意気な小学四年生だなあ……。

 しかも「小町を家出させてしまった」という両親の負い目につけ込むような説得の仕方は、その(のち)の捻くれたお兄ちゃんの片鱗を感じさせる。そう考えるとお兄ちゃんってあの頃から……むむむ………。

 

 

 

「……でもそのおかげでカー君は小町のトコにいてくれるんだよね……」

 

 そう言うとカー君は相槌を打つように「にゃあ」と一声鳴いて鼻をひくひくさせた。

 

 

 

 

 

 それからその年の夏休み中は、新学期が始まって小町たちが学校に行っても大丈夫にするために、頑張ってカマクラのしつけ(トイレトレーニングとか爪研ぎ板の練習とかそういうやつね)をして、それ以上にカー君(愛称をつけた!)とたくさん遊んで……。

 私が髪を切って今みたいなショートにしたのはちょうどこの頃。長い髪ってきちんと纏めておかないと、猫――特に子猫と全力で遊ぶには邪魔になるんだよね。

 もちろんそれだけが理由ってわけでもなくって……丁度そのころ自立心みたいなのが芽生えてきたというのもあるんだ。

 どういうことかっていうと、それまで私は、お風呂はいつもお兄ちゃんと一緒に入って、その長い髪を洗ってもらってたの。

 でも、あの家出事件の後から、なるべく自分だけで髪を洗えるようになろうと、練習もしたし、一人でお風呂に入る回数も増やした。 ……で、いざ自分でやるとなると長い髪は洗うのも乾かすのも面倒くさい……。そんな事もあって、中途半端に短くするんじゃなく思い切ってショートにしたというわけ。

 

 

 

 

 そして――2学期が始まると、学校が終わった私はニコニコしながら走って家に帰るようになっていた。なんならお兄ちゃんと一緒に帰れる日でも「遅い」と言ってお兄ちゃんを置いて帰ってきちゃうくらい(笑)

 

 あんなにつまらないと思っていた一人ぼっちの家。だけど今はカー君が待ってる! 早くケージから出してあげなくちゃ。

 そういえば最初の頃しばらくは、家に誰もいないときはケージに入れられてて、小町が家に帰ると、「早く出して~」とみーみー鳴いたりしてたんだよね。

 

 

 

 それが今やすっかり風格を増して我が家の主のような顔をしているカー君。

 初めてお家に来た頃の幼毛でまだふわふわしてた時の面影はもう無いけど、比企谷家にとって居なくてはならない大事な家族になって……今またお兄ちゃんのいない寂しさを埋めてくれてる。

 

「カー君ありがとぉぉぉ~~」

 

 そう言って耳と首の間あたりをもふもふしたら、カー君は気持ちよさそうに首を伸ばしてゴロゴロと喉を鳴らす。ををっ、かわいいのうかわいいのう…………じゅる……。

 

 ……………………。

 ………………。

 …………ふへ……癒されるぅ……。 うん、たっぷり愛猫を堪能出来たおかげで今日のところはだいぶ心が落ち着いてきたけど……ってあわわ、お兄ちゃんのベッドにカー君の毛がたくさん……。

 ちょっとモフり過ぎたかなぁ。後でコロコロで掃除しとかなきゃね。

 

 そんな風に思いながら主の居なくなったベッドを見つめていると、またじわじわと寂しさが込み上げてくる……私、結構重症かも。今後のお兄ちゃん不足は深刻な問題だな~。

 

 ちょっとだけ考えて、私はあっさりと白旗を上げる……うん、無理はイケナイ。だから明日お兄ちゃんのところに行こう。引越荷物がきちんと片付いたか小町ちゃんがしっかりチェックしてあげなきゃね。あ、これ小町的にポイント高い!

 

 そう決めてしまえば急に心にも余裕が出てくる。

 どうせこんな風に会いに行きたくなるのなんて最初だけで、すぐ面倒くさくなって行かなくなるに決まってる。だからせめて最初のうちぐらいは様子見に行ってあげなきゃね。

 

 おし! これで問題解決っ! 小町は「お兄ちゃん不足」なんかに負けないんだからねっ。

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 5月某日日曜日、お兄ちゃんの部屋の前なう。

 

 ……で、あれからはや一ヶ月以上。もう5月にもなるというのに私は毎週のようにこの部屋に顔を出してる……。おっかしいなぁ~。二、三回様子見ればすぐに飽きて、めったにここには来なくなるだろうと思ってたのに…………。うう……小町、「お兄ちゃん不足」にはやっぱり勝てなかったよ…………。

 

 ほんとは昨日来ようかと思ってたんだけど、残念ながらお兄ちゃんに予定があったの。

 日中は元奉仕部の三人てお出かけ。夕方は留美ちゃんの家庭教師が入るかもっていう話だったから諦めたんだよね。

 

 

 

 明けて本日。日曜日のお昼前か…………お兄ちゃんならテレビ見てるかごろごろ寝ころがってスマホいじってるかだろう。

 

 まあお兄ちゃんもこの何年かは休日に女の子とお出かけしたりする事もあるようになった訳だし、さらにこの前から留美ちゃんの家庭教師始めたり、大学以外にも通うとこがあったりとなかなか忙しそうにはしてるけど、今日は特に出かける予定は無かったはず。

 

 なぜなら……私に連絡が来てないから。

 

 いや誤解しないでね? 小町は別にお兄ちゃんのスケジュールを一から十までがっちり管理してるわけじゃないよ。ただこの前……先々週かな? 小町が向こうの予定を確認しないで訪ねた日が、たまたまお兄ちゃんのお出かけの日で……しかも行き先が千葉(こっち)方面。なんだか行き違いみたいな形になっちゃったんだよね。で、それからお兄ちゃんは休日出かける予定がある時は小町に連絡をくれるようになったのでした。

 

 だからもし部屋にいなくても、せいぜい近くのコンビニに行ってるぐらいのものだろう。

 とにかくそういう事で、私はこここんっとドアをノックして、返事を待たずに家で預かってるお兄ちゃんの部屋の鍵を使って中に入る。靴もあるし、中の引き戸も閉めてあるからちゃんとうちに居たようだ。

 デリカシーのある妹として、いきなり部屋に突入したりはせず、

 

「お兄ちゃ~ん、かわいいかわいい小町ちゃんが来てあげましたよ~」

 

 そう引き戸越しに声をかけると、

 

「んぁ……おお……?」

 

 と、思いっきり寝惚けた声が……。

 

 私が引き戸をそっと開けると、お兄ちゃんはベッドの上でのっそりと体を起こしたところだった。

 

「まだ寝てたん…………ありゃ?」

 

 お兄ちゃんの目がどんよりと濁ってる。

 

 いつも通りでしょって? そうだけどそうじゃなくって……なんてゆーか、お兄ちゃんの目は確かにアレだけど、いつもは「世間を舐め腐ったような目」なんだけど、今日のはなんだかガチに病的な……。

 

「おー、小町か。 …………小町……小町? ……あれ? さっき電話してたのって……」

 

 そう言ってお兄ちゃんは何かを探すようにキョロキョロと周りを見回す。

 

「? どうしたのお兄ちゃん」

 

「どこ行った……。てか……夢、か? まあなんでもねえよ」

 

「ほーん? って、そうじゃなくってと……もしかして風邪引いた? 起きててヘーキ?」

 

 ようやく目が覚めてきたらしいお兄ちゃん。

 

「おう……朝に飲むゼリー食っていつもの薬飲んだから、今は大分楽になってる」

 

 ふむふむなるほど……。風邪薬は我が家の常備薬だろう。私も何度かお世話になった事があるけど、とにかくよく効くのは間違いない。 ただ飲んでしばらくすると頭がぼうっとするというか……とにかく眠くなるんだよね。まあ風邪には睡眠が一番だとも言うから良いんだろうけど……。

 

「ん? 朝ごはんゼリーだけならお腹空かない?」 

 

「あー……そういえば……でもなんか全部面倒くさい……」

 

 お兄ちゃんはまたぼてんと布団に倒れ込む。

 

「はぁ……とにかく熱計ってみて。 そしたら小町なんか作ったげるからそれまでもう少し寝てればいいよ」

 

「おお……小町や、いつもすまないねぇ……」

 

「よよよ……お兄ちゃん、それは言わない約束でしょう」

 

 昔から変わんないお兄ちゃんとの馬鹿なやりとり。でも、それこそが私にとって他に変わるもののない宝物なんだよね。

 

 

 

 

 

 熱は37度6分。朝、薬を飲む前に測った時は38度を超えてたって話だから、とりあえず薬は効いてるんだろう。本人も朝よりだいぶましになったって言ってるし。

 

 冷蔵庫の中をチェックしてみる。卵、牛乳、豚肉、野菜……と食材はそれなりにあるけど、お粥を作るとなると……シンプルに卵かな。でもお兄ちゃんあんまりお粥好きじゃないんだよね……。

 そこまで考えて思い付いた。お兄ちゃんでも喜んで食べるお粥がある。冷蔵庫にある材料だけじゃ作れないけど、それは多分すぐそこのコンビニでも手に入るだろう。 ……スーパーで買うよりちょっとお高く付いちゃうけど今回は非常事態だし。

 ご飯はさっき早炊きでセットしたばかりで、炊きあがるのにあと20分位はかかるだろうから、その間にぱぱっとコンビニ行ってくれば……。

 

「ねーお兄ちゃん、小町ちょっとコンビニに……」

 

 声をかけようとしたら、お兄ちゃんはまたスースーと眠ってしまっていた。なんとも無防備な寝顔が妙な庇護欲をそそる。

 

「あれま」

 

 お兄ちゃんのくせに可愛い顔しちゃって……。

 私は、『コンビニ行ってくる』と卓上メモに走り書きして、財布とケータイ、それに鍵だけをポーチに入れて部屋を出、お兄ちゃんを起こさないよう静かに引き戸を閉じた。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 三和土(たたき)で靴を履こうとしたところで……目の前のドアノブがカチャッと不自然な音を立てた。

 

 え……ドアの向こうに人の気配! 外の人物は立ち去る様子も無いうえ、信じられないことに――内鍵のサムターンがゆっくりと回り、カチッと金属音を響かせて完全に解錠されてしまった。

 

 何が起きて…………こ、これって今流行りのピッキングとかっていうやつ? どどどうすれば……。あ、ドアチェーンかけなきゃ……と思い至ったときにはもうドアノブが静かに回り始めていた。

 間に合わない……私はチェーンを諦め、すぐ横の傘立てに無造作に突っ込んであった、ちょっと壊れて少し曲がったビニール傘を引っ掴む。もともと壊れてる傘なら遠慮はいらない。私は空き巣を撃退すべく大きく上段に振りかぶった。

 

 小町はちびな女の子だし、奥で寝てるお兄ちゃんは風邪でヘロヘロ……。相手が油断してる最初の一撃が勝負だ。

 

 静かに静かにドアノブが回りきり、ゆっくりとドアが開いていく――今だっ!

 

「ど、泥棒っ!」

 

 私は気合を込めて、侵入者に向かって武器を振り下ろす。もらったぁ!

 

「きゃあっ!!」

 

「へっ!?」

 

 きゃあ? って、女の子ぉ!? えええぇ~。

 

 私はまさに最後まで振り下ろさんとしていた両手に慌てて急ブレーキをかける。

 

 ――傘は、私の目の前で目をギュッと閉じてへたりこんでいる華奢な女の子に激突する直前、数センチを残してピタッと止まる……ふう、軽いビニ傘でなかったら止められなかったかも……。

 

 頭を庇うように手を上げていた相手が、その手の隙間からこちらを伺うように目を開く。

 

「留美ちゃん!?」

「小町さん!?」

 

 私が「ピッキング犯」だと思って撃退しようとした相手は、私の良く知ってる中学生の女の子だった。

 

 

 

 鶴見留美ちゃん――小町がまだ中学生の時、奉仕部の部活に付き合って行った千葉村での林間学校ボランティアの時に知り合った、当時まだ小学生だった女の子。

 彼女がクラスでハブられていたのをお兄ちゃん達が助けて、それをきっかけに仲良くなったんだ。

 ただお兄ちゃんに言わせれば、

「あの時俺は何もかもぶっ壊す状況を作っただけだ。それを逆にはねのけて、あんなふうに解決したのは間違いなく留美自身だよ」

 ということらしい。

 

 留美ちゃんとは、特にお兄ちゃんがいろいろと交流を持つようになったんだけど……なんとこの留美ちゃん、お兄ちゃんのことを好きになってくれたんだよね。

 一昨年のバレンタインデーにはお兄ちゃんに告白。その後は……お兄ちゃんと付き合うというようなこともなく、でもすごく近くに居て、たまには二人で出かけたり……と、傍から見てると不思議な関係が続いている。それにしても…………。

 

 

 

「いや~、小町びっくりしたよ~」

 

「……それはこっちですよぉ……」

 

「うんまあ、さっきのももちろんびっくりしたんだけど……他にも色々、ね」

 

「色々?」

 

 そう、突っ込みたい所はいろいろとある。なんでここの鍵持ってるのか、なんでチャイムも鳴らさず鍵を開けたのか、手にはスーパーのレジ袋下げてるし、まるで同棲でもしてるみたい……って、まさかお兄ちゃん! とうとう中学生に手を出しちゃったの!?

 

「ええとね……その、鍵のこととか」

 

 探りを入れるようにそう言うと、

 

「あ……」

 

 ちょっと困ったような顔をした留美ちゃんは、ちら、引き戸の方に目を向ける。ふむふむ、どうやらお兄ちゃんに確認しないと言えないって感じかな。

 

「あの……八幡の具合は……」

 

 お、この台詞で同棲疑惑は晴れたね。さらに観察すれば留美ちゃんの手にあるレジ袋の中身はスポーツドリンクと……プリン?

 なるほどお見舞いというわけか。小町ちゃんの名推理――よし、謎はすべて解けた! 真実はいつも一つ!

 

 

 

「お兄ちゃんなら多分大丈夫……今は少し寝てると思うよ。小町が来た時うつらうつらしてたし。熱はさっき測って37度6分(ななどろくぶ)。朝は38度3分(はちどさんぶ)だったって言ってたから、一応薬は効いてるんだと思う」

 

「そうですか……」

 

 ホッとした様子の留美ちゃん。でもお見舞いに来たってことは……。

 

「留美ちゃんはなんでお兄ちゃんの風邪のこと知ってたの?」

 

「あ、それはさっき電話で。最初頼まれたのはスポーツドリンクだけだったんですけど、プリンも買ってきちゃいました。小町さんも八幡が風邪引いたから……?」

 

「ううん、小町は日曜だから普通に遊びに来ただけ。そしたらお兄ちゃんが風邪引いてて、じゃあお粥でも……って、あっ」

 

「?」

 

 そうだった、コンビニに買い物! すっかり忘れてた。

 

「じゃあ小町そこのコンビニ行ってくるから、お兄ちゃんのことよろしくね」

 

「あ、はい」

 

「……お兄ちゃんの寝顔、ちょっと可愛いから今のうちに見ておくといいよっ♪」

 

 改めて靴を履きながらそう言うと、

 

「な……」

 

 言葉を詰まらせた留美ちゃんの頬がサッとピンク色に染まり、ほんの僅かに口元がほころぶ。

 

 かっわいいなぁ~。普段は年の割には大人っぽく見える留美ちゃんだけど、こういう表情はやっぱり年相応に幼い。

 雪乃先輩や結衣先輩をからかっても、ツンデレっぽいかわいいとこは見せてくれるんだけど、留美ちゃんのはまたちょっと違う……素直な可愛さだ。

 くぅっ、年下の綺麗な女の子をからかって、その子が恥じらって頬を赤らめているのを見ると……こう、ぞくぞくっとする。 ……ヤバい、小町なんか変なシュミに目覚めそう…………。

 

 もっと堪能したいトコだけど、早く買い物してこないとお粥が遅くなっちゃう。

 私は引き戸に手をかけて深呼吸してる留美ちゃんを横目に、お兄ちゃんを起こさないよう静かに玄関のドアを閉じた。

 

 あ、ちなみにいろは先輩の可愛さは全て計算され尽くした可愛さなのであれはまた別物。――といってもお兄ちゃん相手にだけは素の可愛さを見せているとかいないとかいう未確認情報アリだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 コンビニで「はちみつ梅」と「冷えピタ大人用」をかごに放り込んで考える。あとは……。デザートとかもいろいろ買おうかと思ってたんだけど、留美ちゃんがすでにスポーツドリンクとプリンを買ってきてくれているし……。いい子だよね……。

 

 でも……さっきからモヤモヤしてる。留美ちゃんに。

 

 うーん、このモヤモヤは……私、留美ちゃんにヤキモチやいてるのかな。お兄ちゃんが風邪引いて熱があることを――私じゃなくて留美ちゃんが知ってたことに。

 風邪で辛いなら……どうして私に連絡くれなかったんだろう。どうして留美ちゃんが当然のように買い物して来るんだろう、って。

 

 この気持ちは、妹ポジションを(おびや)かされる事への嫉妬? それとも私まだ…………。

 いやいや無い無い! もうお兄ちゃんへの疑似恋愛(そーゆーの)はとっくに卒業したんだから。

 

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 結局目的の二品だけ買ってとんぼ返りにお兄ちゃんのアパートへ。さっき一悶着あったからもうご飯は炊きあがってる頃だろう。

 お兄ちゃんはもう起きてるかもしれないけど、一応静かにドアを開閉しそっと中に入る。買ってきた梅とかを流しのところの棚に置いて……。

 奥の部屋からは誰の声もしない。やっぱりまだ寝てるのかな……と、そうっと引き戸を引いたら――

 

 留美ちゃんがお兄ちゃんに覆いかぶさってる!!

  

 帰ってきたらまさかの場面! え、お兄ちゃんと留美ちゃんってやっぱりもうそういう関係だったの!? 

 これはいわゆる「じあんはっせー」では? いやでも留美ちゃんの方から行ってるように見えるし、この二人がそういう事するなら間違いなく同意の上だろうし…………。

 

 あ、頭の中がぐるぐるしてきたよ……。とりあえず引き戸をそっと閉じる。

 私は玄関ドアの前に戻り、

 

「たっだいまー!」

 

 と大きな声で言いながら玄関ドアを内側からバンっと開けた。

 それからすぐパタンとドアを閉め、ゆっくりと十数える。

 

 もう良いかな? 私は引き戸を開けた。

 

 

 

 留美ちゃんはベッドの横の椅子に、正しい姿勢の見本みたいな格好でまっすぐ背筋を伸ばして座ってて……何故か顔が赤くて息が浅い。そしてお兄ちゃんは半身を捻って壁の方に上半身を突っ込むような変な体勢になってる。ぷぷ、なにそれ。

 

「お? お兄ちゃん起きたんだ……って、何やってるの……」

 

「……いや、スマホ落っことしちまってな……」

 

 そう言ってお兄ちゃんはベッドと壁の間からスマホを拾い上げる。 

 

「ふーん」

 

 留美ちゃんは留美ちゃんで、私ともお兄ちゃんとも目を合わせようとしないし……。

 

 うん、二人とも挙動不審すぎる。けど、どうやらこの様子だと、さっきのあれはどうやら事故みたいなものだったらしい。よく考えれば、流石に私がすぐ帰って来るような状況でそういうことは始めないだろーし。

 

 本人たちはうまくごまかしてるつもりみたいだし……しゃーない、小町は物分りの良い妹だから騙されておいてあげよう。

 

 私は空気を変えようと、

 

「ね、留美ちゃん。こっち手伝ってくれる?」

 

 そう言いながら留美ちゃんに笑いかけたら何故かビクッとされちゃった。……あれ、小町の笑顔――怖かったかな?

 

 

 

 

「あ、その前に!」

 

 そうそうこれを忘れてた。

 

「ん?」

 

「さあお兄ちゃん、とっととおでこを出すんだよっ」

 

 私はそう小芝居風の台詞を言いながら、水色のぷるんとして冷やんとした物体をパックから取り出してに兄に迫る。

 

「おい……やめろって。子供じゃないんだから……」

 

 お兄ちゃんはそう言って嫌がるけど、

 

「大丈夫だいじょーぶ、ダイジョーブ博士だよ。ちゃんとパッケージに『大人用』って書いてあったから」

 

「ダイジョーブ博士はちっとも大丈夫じゃ無いやつだろ……」

 

「ぐだぐだ言ってないで小町にマカセナサーイ!」

 

 私は例のブツをお兄ちゃんの額に押し付けた。喰らえ、女子中学生とイチャコラした罪の報いを受けるが良い!

 

「ぎゃあああああ!! 冷てえ!!」

 

「病気ノ治療ニ犠牲ハツキモノデース」

 

「その病人を犠牲にしてどうすんだよ……」

 

 こうして冷えピタ装備のお兄ちゃんが完成。おお可愛い可愛い(笑)

 

 

 

 

 それからキッチンスペースで留美ちゃんと二人で「甘い梅干しのお粥」を作る。

 最初はなんだかオドオドしてた留美ちゃんだけど、

 

「このお粥だけは、お兄ちゃんも喜んで食べるんだよね~」

 

 という話をした途端、急に目つきが変わって真剣な表情になった。ほわー、この娘お兄ちゃんのこと好きすぎじゃない? 

 

 留美ちゃんはなかなか料理の手際が良い。並んで料理をすることは何度かあったから驚きは無いけど、でも改めてそう思う。

 

 料理が苦手って言う人は、食材を素手で触るという時点でもうおっかなびっくりなんだよね。たとえば「梅干しの実をほぐす」のにスプーンとか果物ナイフとか使おうとしたりするし……。

 反対に留美ちゃんもそうだけど、料理に慣れてる人って手をしっかり使って食材を扱うし、その分まめに何度も手を洗うという印象がある。

 今回も、留美ちゃんがきれいに洗った手で、ためらいなく丁寧にはちみつ梅の実をほぐしていく様子には、同じく料理が好きな一人として好感を覚えた。

 

 留美ちゃんは私が教える通りに実にスムーズに作業を進め……小町流「甘い梅干しのお粥」完成!

 

「んっ、いい塩梅っ。留美ちゃんって手際も良いし、料理のセンスあるよね~」 

 

「小町さんの言うとおりにやっただけだよ?」

 

 留美ちゃんはそう言って謙遜するけど、みんながみんな上手にできるわけじゃないんだよね…………。

 

 

 

「じゃあ、小町洗濯物やっつけちゃうから、留美ちゃんはこっちお願いね」

 

 今日の梅粥は、私は口を出すだけで作ったのはほぼ留美ちゃん一人だし……上手に作れたご褒美ってわけじゃないけど、お兄ちゃんの相手は留美ちゃんに任せてあげることにした。

 

「食べ終わったら薬飲むように言ってね」

 

「はーい」

 

 出来上がったばかりのお粥を小鉢によそい、いそいそとお兄ちゃんのもとに運ぶ留美ちゃん……。うん、可愛い。

 それにしてもこの娘、びっくりするくらい綺麗になったよなー。

 もともと小学生の頃から綺麗な子ではあったんだけど、さすがにあの頃はまだ幼い印象が強かった。

 だから、こんないい子がお兄ちゃんを好きになってくれたのは嬉しいけど、でも正直雪乃さんと結衣さんが恋のライバルっていうのは……いくらなんでも厳しいなって思ってたんだ。まして留美ちゃんには五歳の年の差というハンデもあるし。

 

 でも、留美ちゃんのお兄ちゃんに対する好意は真っすぐで、いくら捻くれたお兄ちゃんでも勘違いと否定することは出来なかったらしい。

 

 今、出会ってから二年足らず……でも中学生になってからシルエットも年頃の女の子らしくなって手足もスラリと伸び、すれ違う人をはっとさせるほど綺麗になった留美ちゃん。モデルまでこなすようになって、きっとさぞかしモテるだろうに、そのお兄ちゃんへの想いは変わっていないようで――

 

 気がつけば……留美ちゃんは今、お兄ちゃんの「一番近くにいる女の子」になっている。

 

 一途……だよね……。お兄ちゃんの方はどう思ってるのかなぁ……。

 

 

 ちらちらと二人の様子を横目で見れば、なんとあの伝説の「はい、ア~ン」をやってるではないか!

 ちょっとちょっと、世界の妹小町様の前でいちゃついてくれるじゃないのお二人さん……とか思ったけど、良く見れば甘い雰囲気はなく、あれは……「餌付け」だ。 最後の方なんかひょいパクひょいパクとわんこそばみたいに忙しそうで、でも楽しそうで……なんだか笑ってしまった。

 

 

 

 その後みんなで留美ちゃんが買ってきてくれたプリンをいただくことに。

 

 マンゴープリンに牛乳プリン、みかんプリンなんてのもあるんだ……。お兄ちゃんが牛乳プリンと普通のプリンで悩んだので、牛乳プリンは冷蔵庫にとっておくことにして、私は気になったみかんプリンを。

 さっそく一口……甘みと柑橘の酸味がふわっと口の中全体に広がる。みかん果汁を溶かし込まれたプリン生地に缶詰のみかんが小さい粒状になって入ってる感じかな。甘さはやや控えめだけどさっぱりして美味しい。

 留美ちゃんの、ふわとろたまごプリンと一口ずつ交換、こっちは口に入れた瞬間に蕩けてしまうくらいに柔らかかった。

 お兄ちゃんにも別なスプーンで食べてもらうと、みかんプリンが好評だった。

 それから留美ちゃんと二人、手作りでこの味を再現出来ないかという話でひとしきり盛り上がって……ふと会話が途切れた。

 

 

「でもさーお兄ちゃん、なんでこんな時期に風邪引くのよ」

 

 最近は、寒いどころか5月とは思えないほど暑い日もあったくらいで、ずっと温かい日が続いてるのに。

 

「あの……八幡が風邪引いたのって、私のせいなんです」

 

 答えたのはお兄ちゃんじゃなく留美ちゃんだった。

 

「え、そうなの」

 

「昨日、家庭教師でここ来たとき、私も八幡も雨で濡れちゃって……私だけシャワー借りちゃったから……」

 

「いやお前のせいじゃねえよ、ただ俺が最近暖かかったから油断しただけで、」

 

「でも……」

 

「…………」

 

 なるほどねー。ようやくわかってきた。留美ちゃんがお見舞いに来たのは「責任を感じて」というのもあるんだろう。

 お兄ちゃんが「小町」よりも「留美ちゃん」を頼ったというわけじゃないということが解って、何故か安心してしまう私。

 

 

 

 そのあとお互いの学校の話とか、最近会ってない絢香ちゃんの話とかしてたんだけど……。

 しばらくして気がつくと、風邪薬が効いてきたらしいお兄ちゃんは、いつの間にか静かに寝息をたてていた。

 

 う~む……この風邪薬、確かに効くんだけど……こんなに簡単に眠くなるって、何かヤバいものでも入ってるんじゃ……。大丈夫なんだろうか、この薬。

 

 

 

 さて、と。ホントなら留美ちゃんを帰らせて私が残る状況だけど……留美ちゃんがまだ居るなら早めに帰ろうかな。

 そんな風に思うのは、先に留美ちゃんを帰しちゃうのは――お兄ちゃんの周りから留美ちゃんを追い払うみたいだから。

 

 多分、留美ちゃんもお兄ちゃんもそんなこと考えもしないだろうけど、他ならぬこの私がそう思っちゃうから。

 さっきから心の端の方でずっと何かが引っかかってる。嫉妬してる。 

 

 お兄ちゃんの風邪のことを知ってた留美ちゃんに。

 お兄ちゃんが合鍵を渡した留美ちゃんに。

 お兄ちゃんのためのお粥を上手に作れた留美ちゃんに。

 お兄ちゃんと楽しそうに「あーん」とかやってた留美ちゃんに。

 お兄ちゃんと二人で遊びに行く留美ちゃんに。

 お兄ちゃんに家庭教師してもらってる留美ちゃんに。 

 

――小町よりもお兄ちゃんの近くにいる、留美ちゃんに――

 

 そんな風に思う小町は嫌だ。そんなのは小町じゃない! だから……。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 お兄ちゃんが起きたら簡単に夕食が食べられるように、具は刻みネギだけの簡単なうどんスープを作り置きする。うどんの麺の方は茹でたあと水で締め、小丼に入れて冷蔵庫へ。

 これで電子レンジでも鍋でも簡単に食べられるようになるし、もしそのまま寝てしまうようだったら明日の朝食に回しても大丈夫。

 その旨のメモも書いて、一通り部屋を見回してから、私は留美ちゃんに声を掛ける。

 

「じゃあ、家のこともあるからそろそろ小町は帰るけど……留美ちゃんは?」

 

 本当はそんな事無い。やらなきゃいけないことは家を出る前に済ませてきたから、あとはせいぜいお風呂のスイッチを入れるくらいだ。

 

「私は……もう少し居たいです」

 

 まあ、そう答えるよね。

 

「んん……それじゃ、もう少しお兄ちゃんのことよろしくね。うどんの事とかは一応メモ書いてここに置いとくから、お兄ちゃん起きなくても適当な時間に帰るんだよ?」 

 

「はい。明日は学校ですし……あんまり遅くなるとお母さん心配するし」

 

「うんうん。あと……『鍵』よろしくね!」

 

 私が含むように笑って言うと、 

 

「あの、小町さん……。鍵のことなんですけど、その……」

 

 留美ちゃんはそんな風にしどろもどろになって言い訳を探してる。

 

「あはは、いーよいーよ留美ちゃん。その話は、お兄ちゃんが元気になってから(いじ)り倒して聞く予定だから」

 

 私がそう言うと、留美ちゃんはなんとも言えない困ったような笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 私はお兄ちゃんの部屋を後にする。

 

 あの様子……留美ちゃんはきっとお兄ちゃんが起きるまで待ってるよね……そしたらあの二人っきりになるわけで……。

 まさかこのまま一気に……って流石にそれは無いかな。一応お兄ちゃん病人だし、だいたい二人きりになることなんて今までだって何回もあったんだから、お兄ちゃんがその気ならとっくに二人の関係はもっと進展してるだろう。

 

 お兄ちゃんがその気なら――か。そんな事を思うと、また少しだけ心がもやもやする。でも……なんとなくわかった。このもやもやの理由。

 

――私、寂しいんだ。お兄ちゃんが小町だけのお兄ちゃんじゃ無くなっちゃう事が。

 

 うーん、でも……お兄ちゃんの彼女(未来のお姉ちゃん候補)が出来るのは嬉しいというのも嘘じゃないんだよ? だいたいお兄ちゃんはもう大学生なわけで、そういう相手がいない方が心配になるレベルの話なんだよね。

 

 それは解ってる……けど、お兄ちゃんの一番は小町のままがいいなって思っちゃうのは……小町の我が儘かな。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 後日、比企谷家のリビングにて。

 

 明日は休日。今日はお兄ちゃんが留美ちゃんの家で家庭教師してきて、そのままこっちの家の……以前のままのお兄ちゃんの部屋に泊まることになってる。もともとの自分の部屋に泊まるって……なんだか変な感じだよね。

 

 

 

 両親はもう寝室へ下がり、私とお兄ちゃんはパジャマでコーヒーを飲みながらいつもと変わらない馬鹿話をして時間を過ごしている。

 生徒がまだ中2のこの時期、家庭教師って何を教えてるのか、とかの話題の流れから、ちょっと気になってる疑問をさり気なく訊いてみることにした。

 

「ね、お兄ちゃん。留美ちゃんって…………お兄ちゃんの何?」

 

「ごふっ……。な……な、何って。何だ小町、突然そんな」

 

 あちゃあ、失敗失敗。全然さり気なくなかったか……。いきなりのド直球すぎる質問にお兄ちゃんは盛大にむせた。

 

「だって……前から思ってたんだけどさぁ……お兄ちゃんて、留美ちゃんだけ特別にかまってあげてるよね?」

 

「う……そう見えるか……」

 

 この兄め、自覚が無いの?

 

「そりゃそーだよ。だってまさかの合鍵まで渡してるし……中学生の女の子にさ……」

 

 私はにへーっと意地悪く笑ってお兄ちゃんをイジりにいく。

 

「ぐ……あれは家庭教師の……いや……。なあ小町、俺……やっぱ変か?」

 

「うん、今までだったらお兄ちゃんって、誰かがこう……グイグイ来ると、面倒くさがって逃げようとするみたいなとこあったよね。

 ……けど留美ちゃんに対してだけは――なんていうの? こうさ、不思議に正面から向き合ってるカンジで…………」

 

 そう、変というか……らしくない?

 

「それは……」

 

「あの林間学校の()()気にしてるってのあるんだろーけど。それだけにしては……他にも何かあるのかなーって。 ……あ、言いたく無いことなら無理には……」

 

 

 

「……を……ってくれたんだ……」

 

 何かを言いよどんでいたお兄ちゃんがボソリと言う。

 

「え?」

 

「手を振ってくれたんだ」

 

「手……?」

 

お兄ちゃんは頭をガシガシ掻きながら話し始める。

 

「前に少し話したことあったろ。高二ん時の秋に……学祭とか修学旅行とか選挙とかあって……ちょっとキツい時期があったって話」

 

「うん……」

 

覚えてる。学園祭で馬鹿なことやって「学校一の嫌われ者」になったり、修学旅行と生徒会選挙の時は、お兄ちゃんなりに一生懸命だったのに……何が悪かったのか――結局雪乃先輩や結衣先輩とまですれ違っちゃって、お兄ちゃんの大切な場所だった奉仕部がバラバラになりかけて……あの頃のお兄ちゃんは小町から見ても本当に辛そうだった。

 

「ま、もとを辿(たど)れば全部俺が原因で、ただの自業自得なだけだったんだが、それでも……平気だったわけじゃない。

 そんな時に、あいつは……留美は俺を見つけると、いつも本当に嬉しそうな顔で手を振ってきてな」

 

 まだほんの1年ちょっと前の話を、お兄ちゃんはなんだかひどく懐かしそうに語る。

 

「俺も馬鹿みたいに手を振り返したりして……今思うと自分でもキモい絵面だが……。まあ、あの頃の留美は俺の状況なんて知らなかったはずだし、単に普通の挨拶みたいなもんだったんだろうけど、俺にとっては……俺があれでどれだけホッと出来たか、どれだけ――救われたか…………」

 

「お兄ちゃん……」

 

 ……確かに、辛い時に触れる無邪気な好意って……()みるよね……。

 

「それだけってわけじゃないが、まあ……だから何だ? その恩義って言ったら大袈裟かもしれんが、俺にやれることなら出来る限りやってやりたいと思ってるうちに……なんとなくこうなってるというかだな……」

 

 恩義って……もしかしたらその感情はそれとは違うんじゃ……。

 

「お兄ちゃんさ、それってもしかして……留美ちゃんのこと好……」

 

「馬っ鹿そんなんじゃねえよ。俺はただ……」

 

「でもさ、はっきり好きだって告白までしてくれた女の子を、突き放しもせずそばに置いとく訳でしょ」

 

 お兄ちゃんは、痛いところを突かれたというように一瞬顔をしかめ、

 

「置いとくって……。だいたい留美のあれは……多分、疑似恋愛ってやつ……ほらアレだ、助けられた動物が懐くみたいなもんで……」

 

 そう小声でぼそっと、だけど女の子としては絶対看過出来ないさいてーな言葉をもらしやがったのだ。

 

「お兄ちゃんの馬鹿っ! そんなんだからゴミいちゃんなんだよっ」

 

「っ……こ、小町?」

 

 いきなりキレた私にぎょっとしてビビるお兄ちゃん。おうとも、いくらでもビビりやがるがいいさぁ。

 

「女の子の真剣な気持ちを……疑似恋愛だからとか動物が懐くとか……疑似恋愛なら何? じゃあその気持ちまで嘘だって言うの? ……そんなの、馬鹿にしすぎだよ……」

 

「う……悪い、でもな……

 

「でもじゃないよ。いい? 留美ちゃんの気持ちは真剣だよ――ちゃんとお兄ちゃんのこと見ててくれてるんだよ。なんでそのくらいわかんないの。 ……あ、今の台詞小町的にポイント高い!」

 

「……せっかくシリアスだったのにポイントとか言っちゃうのはどうなんだ……」

 

「ええいだまらっしゃい! 小町が言いたいのは……」

 

「……わかってるよ」

 

 静かに、けれどよく通る声でお兄ちゃんはそう言った。

 

「ほへ?」

 

「多分、わかってる。でも今は……俺が俺自身の方をよく解って無い……んだと思う」

 

「……はっきりしないなあ……」

 

「はっきりしてたら悩まねえよ!」

 

 おおっとまさかの逆ギレですかぁ。えへへ、でも()()()()悩んでるんだね、お兄ちゃん。

 

「そう、かあ……」

 

「おう」

 

「では、存分に悩むが良い」

 

「……おう」

 

 あれ、私、留美ちゃんのことではちょっとモヤモヤしてたのに、なんだか二人のこと応援するみたいなこと言っちゃってるなぁ。

 でも小町が応援するのはあくまで「お兄ちゃん」

 

「いっぱい悩んで、お兄ちゃんにとって一番の相手って思える人を見つければ良いよ……留美ちゃんでも、他の誰かでも」

 

「だから留美は……いや、そうだな……留美は俺にとって――■■■■……だ。きっとな」

 

「……おぉう、お兄ちゃん……そこで俺今カッコイイこと言った、みたいなドヤ顔するは小町的にポイント低いよ~?」

 

 ホントいきなり何言ってんのこの兄は。(オール)小町がドン引きですよ。

 

「う……やっぱり今の無しな」

 

「いや、無しとかそういう……」

 

「とにかく、絶対誰にも言うなよ」

 

「それは大丈夫。ここまでアレだと身内の恥になるから逆に言えないって」

 

「あ、そう…………。そこまで酷くは無いんじゃ……いや言わないでくれるのは良いんだけどな……」

 

 納得いかないというようにお兄ちゃんは首を(ひね)る。

 私はそれを見てやれやれと肩を竦めながらコーヒーを啜る…………そんな風に比企谷兄妹の夜は更けてゆくのでした、まる。

 

 

 

 

 

 え、お兄ちゃんが留美ちゃんの事なんて言ったのかって?

 

 それは……ごめんなさい! この時お兄ちゃんが何を言ったかは内緒なのです。だって誰にも言うなっていわれちゃったからね~。というか小町が言いたくない。

 あ、一応言っとくけど別に好きだとか嫌いだとかってそういうはっきりした言葉だった訳じゃなくってね、ただ、中二病(高二病だっけ?)全開の恥ずかしい台詞だったってだけ。

 

 そうだなぁ……もし将来二人が付き合うような事にでもなったとしたら、お兄ちゃんの目の前で留美ちゃんに今日のことをバラしてあげよー。

 

 ふへへ、二人ともどんな顔するかなぁ…………。

 

 

 

 




 幕間or番外編、「オムニバス」です。

 どもども、いつもこのようなゆっくり更新のお話をお読みいただき本当にありがとうございます。
 お気に入り・評価など付けていただいてる方には重ねての感謝を。

 現在本編の方は、先を見据えてプロットをあーでもないこーでもないといじっているところです。
 書く内容はほぼ決まっているんですが、あとは何をどの順番で出して行くかに悩んでましてですね……。

 さて、仮にも「オムニバス」と言うからには、1話の中に小編を何本か入れる予定だったんですが、小町編が予定より遥かに長くなってしまって他の話が入らないという。26000字近いとか通常の三話分あるし……どうしてこうなった?

 という事で次回もオムニバスです。次回こそオムニバスらしく複数話に……なる予定です。

 今回の注:過去話――小町の家出とカマクラがらみの話は、公式の要素を取り入れつつも、あくまでオリジナルなので原作とは異なっていますがどうぞ悪しからず。
 ちなみにカマクラの品種は、公式絵などから勝手に推定して「アメリカンショートヘアー(シルバーダビー&ホワイト)」ではないかというつもりで書いています。

 また、小町モノローグの一人称が「私」「小町」と安定してないのは、小町自身が普段からTPOに合わせて両方の一人称を使っているハイブリッド設定だからです。脳内テンションによって一人称が「私」「小町」でころころ変わるイメージですかね。
 作中小町はもう高校生ですから、八幡や親しい人に対しては「小町は」みたいな話し方をしているとしても、さすがに他の人(例えば先生とか)にはそういう言い方はしないんじゃないかと……。
 1話の中での視点変更は無いので大きな混乱はないとは思うのですが、書いた本人が「これは有りなのか?」と迷う表現なので、「読みにくい」「分かりにくい」というご指摘が多いようでしたらまた見直したいと思っております。

 ご意見・ご感想お待ちしてます。
 一言感想、過去話への感想等も大歓迎です。





 米農家豆知識のコーナー:話と関係ない上に長いので興味ない方はスルー推奨。

 コシヒカリの「米選機下(べいせんきした)」が多かったという話。

 そもそも米選機下とは何か。
 玄米は通常、出荷用の袋に詰める前に、米選機(ライスグレーダー)というふるいのような役目の機械を通します。これによって粒が小さかったり細かったり割れていたりするもの等がハジかれ、きれいに粒の揃った玄米になって出荷されて行くわけです。
 で、ここでハジかれた物が「米選機下」です。米選機の大きさ基準を下回るお米という訳ですね。
 この米選機下、ご飯として食べるには粒が小さいし揃っていないので、通常のお米とは分けて出荷します。
 その先で「粒は小さかったり割れたりしてるけどお米」と「それ以外(未熟米や混ざり込んだ雑穀)などに分けられ、その米の多くは米粉などに加工されてお煎餅などの材料になったりするのです。(残りは家畜の餌・肥料など)

 ……ぶっちゃけこの米選機下、売っても値段が安いので農家にとってはあまり嬉しくないモノなのですが、通常でも総量の5%前後は出てしまいます。
 家で作っている早稲品種は今年もそんな感じだったのですが、コシヒカリはなんと約15%、通常の三倍も出てしまいました。
 理由は実の成熟時の高温、水分不足など色々と考えられるのですが、暑さで成長が早まったため一発肥料の効く時期がずれたのかもしれないという話もありました。

 結論、今年の夏暑過ぎて半端ないって(ただの愚痴)

 まあうちは台風被害などが少なかった(一部の田んぼで稲が寝てしまった程度)ので、この程度で愚痴を言ったら大きな被害を受けた農家さんに申し訳ないですが……。

 このお話を読んでくださってる方の中にも米農家さんがいらっしゃるようですが、皆さんの所はどうだったんですかねー?

 ではでは~


9月20日 誤字修正 clpさん報告ありがとうございます。
9月21日 漢字⇔かな・仕切りなど微修正。



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