そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

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3話目/同時3話更新です。最新話リンクからいらっしゃった方は2つ前の話からお読み下さい。
 



幕間 オムニバス④ いつか本物の恋に

 

 

 

「先生いらっしゃい。今日も留美のことよろしくお願いしますね」

 

 玄関を上がってもらったところで私がそう声をかけると、目の前に立つ、この春大学生になったばかりの男の子は苦笑いのような表情を浮かべ、

 

「その、先生って言われるのは慣れないですね……」

 

 そう返してくる彼。

 

「でも、今日は先生として来てくれてるんだし……良いじゃない、堂々と先生って呼ばれときなさいよ」

 

「そうだよ八幡()()()

 

 留美はあえてわざとらしくそう言うと、さり気ない風を装って彼――八幡くんの手を引いて自分の部屋へと誘導する。

 

「留美……お前普段はそんな呼び方しないくせに……」

 

「いいからこっちっ」

 

 そうつっけんどんに言ってはいるけれど、留美が彼の手をとる瞬間ほんの少しひるんで……それから覚悟を決めたみたいに思い切って手を握る――そんな姿を見て、その初々しさと微笑ましさに、我が娘のことながら思わず頬がゆるむ。

 

「お母さん? 何にやにやしてんの?」

 

「ん? にやにやなんてしてたかしら?」

 

 あらあら、留美に睨まれちゃったわ。ふふふ、そんな頬を染めた恥ずかしそうな顔で睨まれてもちっとも怖く無いわよ。

 まあ娘が八幡くんの事となるとムキになったり急にしおらしくなったりとおかしくなるのはいつもの事なので驚いたりはしない。

 

 むしろ意外と言えば意外なのが、彼が娘に手を引かれても平気そうにしていること。

 確か去年会ったときは留美が彼にベタベタしようとするのをあからさまに避けて……嫌がってる感じじゃなくて、こう……留美の親である私の目の前では気まずいとかそんな感じだったと思う。

 これは、八幡くんがうちの家族に身内意識を持ってくれたという事なのか、それとも私が親として八幡くんを信頼しているというのを彼が感じ取ってくれたのか……両方かな。

 まあ単に大学生になった余裕、かもしれないけれど。

 

 もっとも留美の方は、親の目の前で好きな人(はっきり聞いたわけじゃないけどバレバレ)と二人というシチュエーションはさすがに居心地が悪そうだ。あまりジロジロ見てても二人に悪いし、勉強にも集中できないだろうと思い私はリビングに退散することにした。

 ただし、留美の部屋のドアは開けっ放しにしておくのが一応のルール。八幡くんのことを信頼してないわけじゃないし、そもそも八幡くんのアパートで二人で勉強させてる時点で今更ではあるんだけど……。そこは「親としてちゃんと留美のことを考えている」というのを自己満足的に示しているだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 娘と彼との出会いは二年近く前の、留美が小学六年生のときの林間学校に遡る。

 

 最初に私が留美から聞かされたのは、ボランティアで林間学校に参加してくれた総武高生と仲良くなって、その中に「はちまん」という男の子もいた、という話。

 彼を始めとするその高校生たちにはとてもお世話になった……らしい。「らしい」というのは、その頃の留美が詳しい話をしてくれなかったから。

ただ、その夏休み辺りから、それまで留美と仲が良く、家へも時々遊びにも来ていた仁美ちゃん達が全く訪ねて来なくなり、娘との話題にも上がらなくなった。

 これは……と、いくら鈍い私でもさすがに「何かあったな」と感づいてはいた。

 ただ、林間学校から帰った後の留美は……相変わらず仁美ちゃんたちと遊びに出かけたりすることは無いものの、留美自身妙にさっぱりした――何か吹っ切れたような様子で居たので、その後はそれほど心配することは無くなった。

 

 結局……大まかに何があったのかを留美が話してくれたのは二学期に入ってからで、そのときになってようやく、「はちまんくん」達がが留美にとってどれほど大きな助けになってくれたかを知ることが出来たのだった。いつかちゃんとお礼を言わなくちゃいけないわねーーそんな風に思った事を覚えている。

 

 

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 私が実際に彼、「はちまん」君に会ってお礼を言えたのはその年の12月だった。

 

 娘がボランティアで参加したお年寄りと保育園児向けのクリスマスイベント。

 驚いたことに、このイベントで留美は、なんと総武高校主宰の劇の主役をつとめる事になったというのだ。

 

 留美がボランティアに通い始めた最初の頃、

「ボランティアって、具体的には何してるの?」

 と訊いた時には、会場とか大きなクリスマスツリー用の飾りを作っているという話だったはず。

 だからイベントの主体はあくまでも高校生たちで、小学生はあくまでもお手伝いなのだろうと思っていた。

 途中留美がなんだか嬉しそうな顔ではちまん君に差し入れを作ったり、ちょっと機嫌が悪かったりという事があったり……と、そんなある日留美が突然、「賢者の贈り物」という劇の主役をやることになったと言ったのだ。

 

 イベントのメインになるような催しは、最初に大枠が決まってから一斉に動き始めるのが一般的だと思うのだけど……日程も半分以上過ぎたこの時期にそんな事が急に決まるなんて一体何があったのかしら? と不思議ではあった。

 それでも娘の表情は明るく、「大変だー」「疲れたー」と言いながらも、嫌がる様子は全く無く、学校から帰ればすぐ嬉々としてイベントの練習に出かけて行く。家でその話題になれば、開口一番出てくるのは「はちまん」の話ばかり。

 

 と、ここまでくれば、娘を持つ母親なら誰だってピンとくる。

 

 ――留美は「はちまん」くんに恋をしてるのだ。

 

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 そしてクリスマスイベント当日。

 

 期待半分、不安半分で見に行った劇「賢者の贈り物」は――本当に素晴らしかった。

 

 留美たち出演者の演技も堂々としていたし、髪を切る場面の見せ方とか、劇終了後のサプライズから蝋燭の炎を使った演出への流れとか、高校生が企画し、小学生が演じているとは思えないくらい見事だったのだ。

 私は、その素晴らしい劇の主役がわが娘であったことをとても誇らしく思いながら、この劇に関わった全ての子供たちに惜しみない拍手を送り続けた。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 舞台が()けて、劇の出演者や裏方さん達が一度控え室に下がった時、ホールの舞台寄りの角……クリスマスツリーのたもと辺りに目当ての高校生たちが固まっているのを見つけて私は席を立った。

 どうやら彼ら三人は何かの打ち合わせをしている様子。

 

 直接の面識は無いけれど、留美には何度も写真を見せてもらっているし、彼ら――特に女の子二人は一度見たら見違えようも無いくらいに綺麗な可愛らしい娘たちなので、私は人違いを心配する必要なく彼らに声をかけることが出来た。

 

「こんにちは」

 

 声をかけると、三人は揃って私に目を向けた。

 彼らの中で一瞬の目配せがあり、黒髪の少女「雪ノ下さん」が皆を代表するようにして応対してくれる。

 

「こんにちは。……あの、何かありましたでしょうか?」

 

 少し首を傾げる彼女。写真で見知ってはいたが、実際に顔を合わせた彼女は写真より遥かに――同性の私でも背筋がゾクッとするほどの美少女だった。

 内から輝くような白い肌に、はっとするほど整った容貌、意思の強そうな瞳に艶やかな黒髪。仕事柄モデルさん達と話す機会も多い私だけれど、この雪ノ下さんほど素直に「美しい」と感じる娘には会ったことが無い。

 

「いえ、そうではなくて……」

 

「……?」

 

「初めまして。私、鶴見留美の母です。皆さんには娘が大変お世話になっております。この機会にお礼を言わせて頂きたくて……」

 

 私が頭を下げると、

 

「いえ、こちらこそ娘さんには大役を引き受けていただいて本当に感謝しています。鶴見さんたちのおかげでこのイベントもこうして大成功を納める事が出来ました」

 

 そこで彼女は改めて居住まいを正し、自己紹介を始めた。

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は実行委員の一人を務めております雪ノ下と申します。こちらは……」

 

「存じ上げていますよ。娘からたくさん話を聞いてますから。……雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、それにはちまんさん」

 

 私は彼女たち三人の顔を順番に見るように言ったのだが、私が「はちまんさん」と言った途端、彼らは僅かにぎょっとした表情を見せた。

 

「あら……間違えちゃったかしら?」

 

 私がそう言うと、

 

「あはは……間違ってる訳じゃ無いんですけど……」

 

 由比ヶ浜さん(で合ってるはず)が苦笑いしながらはちまんくんの方をチラチラと見る。

 彼は戸惑ったような表情で

 

「あ、その……ひきがやはちまんです。比べるに企画の企、山と谷の谷で比企谷、はちまんは八幡宮の八幡と書きます」

 

 そう丁寧に名乗って頭を下げてくれた。

 

「まあ……ごめんなさい! 留美が『はちまん』としか言わないものだから、てっきりあだ名のようなものだとばかり思っていて……本当にすいません。もう、お世話になっている方を呼び捨てにするなんて……」

 

「いえ、それは別にいいです。元々まともに呼ばれることのほうが少ない名前なんで」

 

 彼は諦観を含んだ言い方をして微笑う。なるほど、こういうところかな…………。

 

 留美が言っていたのだ。

 

『はちまんは――八幡は、目はなんか眠そうにどよんとしてるし、いっつも捻くれた言い方ばかりするけど……でもね、本当はすごく優しくてあったかいの』

 

 そう思って見れば、確かに彼は常に何か不安げな――拗ねたような、あるいは受け取る人間によっては見透かされているように感じる目をしている。それを不快に感じる人もいるのだろうし、もしかしたらそのせいで彼自身苦労したりつらい思いをしたことがあったかもしれない。

 

 でも、私は知っている。外見の印象で人を判断することの愚かさを。優しくて情の深い人が、外見のせいでその内面まで否定された時どれほど傷ついているのかということを。

 なぜなら私自身がかつて、本当は優しい誰かを傷つけた加害者だったから。

 

 今でこそその相手とはすっかり和解して良好な関係を築くことが出来ているけれど、当時の彼を傷つけた事実は、今でも強い後悔として私の心の深いところに棘のように刺さったままだ。

 だから、留美が外見に惑わされることなくこの「八幡くん」の優しさに気づくことが出来たというなら――それはとても素敵なことで、母親として誇らしいことなのだ。

 私は彼にまっすぐ向き合い、

 

「娘のことを助けていただいて、ありがとうございました」

 

 私がそう言って頭を下げると、しかし彼は、「自分たちが作れたのはきっかけだけだ」「最後に問題を打ち破ったのは留美自身で、自分たちはなにも出来なかった」と、「だからお礼を言われるなんて申し訳ない」そう言うのだ。

 雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは何か言いたそうにはしていたものの、どうやらここで口を挟むつもりはなさそうだ。

 

 ふふふ、聞いていたとおり頑なだなぁ……。まあそれが留美が言っていた「はちまんらしさ」なのかもしれないけれど。そう考えて、大人としてここは一歩引いて、

 

「では、その事はひとまず置きますけど、留美は比企谷くんたちのことをとても信頼して……大事に思っているようです。娘の一方的な思い込みだとしたらご迷惑かもしれませんが、出来ればこれからも留美と仲良くしてはいただけないでしょうか」

 

 そうお願いしてみる。

 

 比企谷くんは一瞬口を開きかけたが、なんと言って良いのかわからないといった表情。

 そこで雪ノ下さんが話を引き継ぐようにすっと言葉を紡ぐ。

 

「もちろんです。鶴見さん――留美さんは一緒にイベントを成功させた仲間ですし、夏からのご縁もあります。今後も仲良くさせていただけるなら私達も嬉しいです」

 

 言い終えた彼女が由比ヶ浜さんと比企谷くんに視線を送る。

 

「あ、あたしもです。留美ちゃんとはもう友達ですからっ」

 

 由比ヶ浜さんが勢いよく応じ、

 

「……まあ、よろしくおねがいします……」

 

 比企谷くんがボソッと答える。

 それを見た女子二人が可笑しそうにクスクス微笑っているのが印象的だった。きっと彼女たちもまた()()()()()()()を理解できる娘たちなのだろう。

 

 

 

 それから由比ヶ浜さんが、「留美たちがエレベーターを降りたところの控室にいるはずだから顔を出してみたら」と勧めてくれたので行ってみることにした。

 お暇する時にもう一度お礼を言うと、比企谷くんは神妙な顔で

 

「留美には今回本当に助けてもらったんです。だから……もう一つ。あと一つをなんとかできるように……頑張ってみます」

 

 そう言ったのだ。

 

 もう一つ……なんの事かは分からなかったけれど、きっと留美に関することなのだろう。私は少し考えて、

 

「お願いします」

 

 それだけ言ってもう一度頭を下げた。きっと彼なら信頼しても大丈夫、そんな気がするのだ。

 

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「ほんと、かっこよかったわよ。留美」

 

「ふふ、ありがとうお母さん」

 

 

 コミュニティーセンターの控室にやってきた私は、留美や相手役の綾瀬絢香ちゃんや中原陶子ちゃん、それにそれぞれのご家族とも話をすることが出来た。

 まあ、お互いお疲れ様でしたとか、劇が本当に素晴らしかったですねとかそんな話ばかりだけれど。

 本当はもっと色々と深い話もしてみたかったんだけど、この絢香ちゃんと陶子ちゃんは留美とは小学校が違うのよね。PTAで知り合ってる同じ小学校の親御さんと話をするのとはわけが違う。……初対面同士で話をする場合、大人には色々とあるのだ。

 

 

 

「あの、髪を切ったところってどういうふうにやったの?」

 

劇を見ていてその変化にびっくりしたシーンの事を留美たちに聞いてみる。

 

「それはね、まずロングのウィッグはピン二本だけで留めてあるの。で、幕が降りた瞬間に絢香がダッシュでショートの方を持ってきてくれて、中原さんと絢香の二人がかりでこんなふうに……」

 

 彼女たちは身ぶり手振りを交えて教えてくれる。

 ああ、ロングの髪と言われてふと雪ノ下さんの事を思い出した。

 

「あ、そういえば、さっき八幡くんたちに挨拶してきたわよ」

 

 私がさらりとそう言うと、娘は目を見開いて、椅子から落っこちそうになりながら慌てて立ち上がって私に詰め寄る。

 

「なっ……。何してんのっ? 変なこと言ってない?」

 

「大丈夫よぉ~。ただ、留美がお世話になってますってだけ」

 

 えーと、嘘は言ってない……わよね? 余計なことは言ったかもしれないけれど。でも親として変な事は言ってない……うん、大丈夫。

 ということで私はしれっと笑う。

 

「そう……なら、いいけどさ」

 

 いいと言いつつ納得してない様子の留美。まあ、母親なんてこんなもの。これも子を思う親心と思って諦めなさいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 昔のことを思い出してぼんやりしていたらしい。いつの間にか留美の部屋から聞こえてきていた話し声が静かになっていたので、ダイニングの椅子をめいいっぱいずらして、留美の部屋がギリギリ見えるところに座り直して、彼女の部屋をそうっと覗いてみる。

 今勉強しているのは数学だろうか。留美が黙々と自力で問題を解き、八幡くんはルーズリーフらしいファイルを開いて持ちながら留美の手元を見ている。

 留美は一問解き終わるごとにちらっと上目遣いで八幡くんを見上げる。彼がこくんとうなずくと、留美はほっと息をついてまた次の問題へと向かう。

 たまに八幡くんがストップを掛け、二言三言なにか言うと、留美がノートに消しゴムをかけてもう一度その問題を解き直す――そんな事の繰り返し。

 

 なるほど、八幡くんは、留美が間違えたり答えに詰まったりしない限りは特に何も言わず、自力では引っ掛かるような問題の時だけ重点的に教えてくれているらしい。

 これがいつもの二人のペースなのだろう、やり取りされている言葉数こそ少ないものの、二人の息は合っている。戸惑った様子もなく淡々と勉強は進んでいるようで、親としては一安心といったところ。

 

 でも……こうして見ていると、二人が一緒にいる姿はとても自然だ。

 

 恋人同士のような甘い緊張感は無い。では兄妹のように見えるかと言えばやっぱり違う。

 上手い表現が見つからないけれど……無理をしていない感じ、とでも言えばピッタリくるかしらね。

 

 

 

 

 

 八幡くんと最初に顔を合わせてからもう一年以上が経つ。

 最初――あのクリスマスの時は、娘を助けてくれたお礼を言いながら、留美の「初恋の相手」の顔を拝んでおこうかな、くらいの心持ちだった。

 実際に会った彼はとても良い子だったけれど、流石に留美の恋の相手としては大人過ぎるように思えたの。

 それに、八幡くんの近くには彼を憎からず想っている魅力的なお嬢さんもいるようだったし……留美にとっては厳しいかな、「初恋は実らないもの」とも言うし――なんて、勝手に留美は失恋するんだろうと思ってしまっていた。

 それが……彼は今でも留美のこんなに近くに居てくれる。

 

 今だけを切り取って見たなら、二人は仲の良い兄妹みたいにしか見えないのかもしれない。でも……この一年、八幡くんとは何度も顔を合わせてるけれど、その間ゆっくりとだけれど彼の留美に向ける視線が、声が、時を追う毎に優しくなっていくのを見てきた私からすると、「これは脈があるんじゃないかしら」なんて希望的観測も含めてそう思えてしまうのだ。

 もちろん憶測だし、留美にも八幡くんにもうかつに言えないけど……でも。

 

 ふふふ、もしこのまま二人の気持ちが本物の恋に育ってくれたら……その時は八幡くん、留美のことをもらってくれないかしら。それかお婿さんに来てくれるとか。

 ……私、結構本気よ。これまでの付き合いで、彼は誤解されやすいところもあるけど本当にいい子なのは十分分かっているし、経歴だって総武高校からK大に進学とじつに将来有望そうだ。

 こんなふうに学歴なんかを気にするのは俗っぽいとかいやらしいとか思われるかもしれないけれど、母親として娘の交際相手・結婚相手(気が早いか)として見るなら、そりゃあそういう部分も気になるというものですよ。だって娘には幸せになってもらいたいですし。

 それにね、八幡くん――色々と心境の変化があったせいなのか、イケメン度がちょっぴりアップしたのよ。元々顔立ちは良かったところに前より目つきが柔らかくなったというか……。この変化には、留美という存在も大きな要因の一つじゃないのかなぁと私は勝手に思ってるんだけどね。

 

 

 ちなみに、留美と八幡くんのことはまだ夫には話していないの。別に良いわよね? 彼氏として紹介された訳でも無ければ、そもそも今のところは留美の片思い以上の段階には進んでいないようだし。

 一応、留美に家庭教師を付けたという話だけはしてあるけど……父親にとって娘の恋愛話なんか聞きたくないでしょうし……う~ん。

 いざ話をしたとしたら……どうなんだろう、娘を持つ父親の多くの例に習って交際とか結婚に猛反対とかするんだろうか。娘には弱い彼のことだから案外留美に押し切られてしまいそうだけど。

 

 でもね、そんなには心配してない。私には確信があるの。きっと夫と八幡くんは気が合うはずだって。

 ふと、あの人と八幡くんが一緒にお酒を酌み交わす未来の姿なんてものを想像していたら――

 

「お母さん?」

 

 と、非難めいた娘の声。

 気がつくと留美がちょっぴり眉を吊り上げ、腕を組んで私の目の前に立っていた。

 

「あら」

 

「『あら』じゃないわよもー。またにやにやしてる!」

 

「だから別ににやにやなんか――」

 

 していたかもしれない……。八幡くんにも見られちゃったかしらね? 何を想像して笑ってたか話したら思いっきり引かれそうだけど。

 

「お母さんっ!」

 

「あのね、お茶にしましょって声かけようと思ったんだけど……集中してるみたいだったから声かけにくくて。待っていたらぼうっとしちゃっただけよ」

 

「本当?」

 

「ほんとほんと。ね、折角だから休憩しましょう。あやせ屋さんの変なケーキ買ってあるのよ」

 

「変なって……」

 

 まだぷりぷりしている娘に呆れられながら、私はキッチンの奥へと向かい、生ショートケーキそっくりの和菓子を冷やしてある冷蔵庫のドアを開けたのでした。

 

 

 

 ふふふ。本当、八幡くんに恋するようになってからのわが娘は、もうずっと見てても飽きないわねぇ。

 

 

 

 

 




3/3
娘の恋を生暖かく見守る母。父親の立場だったら心配過ぎてこうはいかないでしょうね……。 

以上、ようやくオムニバス終了です。
前回のと合わせて、留美と八幡を傍から見たらどう見えてるのかな、という話の詰め合わせでした――そう、詰め合わせて1話にするはずだったんです。
結局それぞれの話がそこそこ長くなってしまいバラにしてしまいましたがww(4話合わせて5万字超え!)


改めて、更新が遅くなり本当に申し訳ありませんでした。

実は昨年後半、家族がちょっと入院したり、本人が交通事故ったりしてました。
いずれも大したことはなく、家族はとっくに退院して週一程度の通院になっていますし、事故の方も物損で済んでいます。

ですからそのために全く時間が無かったというわけではなく、色々あってモチベーションが上がらなかったというのが本当のところですね。

ゆっくり更新は変わらないとは思いますが、本編もちまちま続きを書いてはおりますので、よろしければまたお付き合い下さいね。


ご意見・ご感想お待ちしています。
バラの話の感想でも、全部まとめての感想でも、最新話以外の感想でも、一言感想でも長文感想でもおーけーです。

ではでは、今年もよろしくお願いいたします。


1月9日 誤字修正。clpさんありがとうございます。

5月18日 文章のミスを修正。紫苑01さんありがとうございます。

9月21日 誤字修正 reiraさんありがとうございます。

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