そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

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田植え終わったー。

ありがとう平成、よろしく令和。ということで平成最後の更新になります。


鶴見留美が守りたいもの② 彼女がドレスに着替えたら 続

 

 

「おし、全問正解だな。……少し休憩にするか」

 

「うん、私お茶淹れるね」

 

 恒例、家庭教師の日。今日の会場は八幡のアパートのほう。

 

 私は開いていたノートと問題集をそのまま二つ重ね、真ん中にシャーペンを挟んでまとめて閉じた。それを床に置いておいたスクールバッグの上にぽすんと載せてテーブルの上を空け、そのまま立ち上がって勝手知ったるキッチンへと向かう。

 

 最初の頃八幡は、「お客さんにやらせるのもな……」と言って自分で飲み物を出してくれることも多かったんだけど、いつも私が「私がやりたくてやってるの」と言ってお茶当番?をやる事が多くなったんだ。

 そのうちになんとなくお茶やコーヒーの時は私が淹れ、その間に、もしなにかつまむ物が有ればそれを八幡が用意する、という風に定着してしまっている。(「もし」とは言ったけど、こっちが会場の時、彼は必ず何か甘いものを用意してくれてるみたい)

 

 こぽこぽという音と共に日本茶特有の爽やかな香りが拡がる。八幡のパンさん柄の湯呑みと私用にこの部屋に用意してある淡い藤色の湯呑みとを急須で何度か往復させ、金緑色の玉露を最後の一滴まで注いでいく。

「お茶はね、最後の最後の一滴が一番美味しいのよ」

と教えてくれたのはお祖母ちゃんだったっけ。

 玉露はちょっぴりお値段お高めだけど香りが良いし、それに他のお茶より使うお湯の適温が低めだから、猫舌の八幡とは相性が良いんだよね。

 

「ふふ、いい香り……」

 

 この……八幡という一人暮らしの男の人の部屋で、()()買い置きしてるお茶を()()彼に淹れてあげる、というシチュエーションがすごく嬉しいんだ。こうね、彼氏彼女みたいな感じというか、その……お、奥さんの気分……みたいなその……はぅ。

 

 なんて、急須の注ぎ口からぽたん、ぽたんと落ちていくお茶の滴を眺めながら、かなり脳内お花畑な事を考えてた私に、八幡がポツリと言う。

 

「なあ、やっぱり俺行かなくても良いか?」

 

「えぇー、けーちゃんには八幡も行くからって約束したのに……」

 

 彼が言っているのは例の雑誌の撮影の付き添い。

 

「いや、この前は顔つなぎみたいなもんだから俺も行ったが、今度も川崎がついていくし、俺が居てもしょうがないだろ? けーちゃんもすっかり塔ノ原さんと馴染んでたし」

 

 八幡が渋るのも解らなくはないんだ。だってあそこは女の人ばかりの現場で、八幡からしたらきっと相当居心地が悪いんだろう……。

 実際、打ち合わせのときは、けーちゃんや沙希さんの相手をするという手前ついてきてくれはしたけど、終始なんだか落ち着かない風だった。

 あの雰囲気以上に騒々しいであろう撮影当日に、また来てもらうのには申し訳なさも感じないでは無いけれど、でも。

 

「それは……。じゃあ、けーちゃんが、じゃなくて……私がどうしても八幡に来てほしいってお願いしたら……?」

 

 私は少し上目遣いになって、甘えたような声を出して八幡に不満を言う。

 こういう態度を()()()やるというのはどちらかというと苦手なんだけどな。だから正直こんなことして八幡に鬱陶しがられたりするんじゃないかと思って内心はドキドキだ。

 それでもあえてこんな事をする理由は……。

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

「……だからその、もしかしたら、だけど……八幡、私の事少しは女の子として――恋愛対象としても見てくれてるのかなぁって……」

 

 この前、風邪を引いた八幡のお見舞いに行った時、帰り際に彼は、「私が帰ることを寂しがってくれてる」そんな風に感じて思った事。

 

 聞く相手によっては自意識過剰とも思われかねない私の言葉に対する親友の反応は、

 

「は?」

 

 覚めた目で私を睨み、一言で切り捨てるという、私が想定していたより遥かに辛辣なものだった。

 う……そんなに夢見すぎな発言だったかなぁ。でもでも、あの時の八幡は確かに……。

 

「……留美……」

 

 絢香は何故か「ジト目」の見本みたいな目で私を睨む。

 

「は、はい?」

 

「ようやく!? 今さら!? ……比企谷さんはずっと前から……特にここ最近は明らかに留美の事意識してんの見え見えでしょーが」

 

「え!」

 

 どうやら絢香の呆れたポイントは私が思っていたそれとは違うようだ。

 

「そりゃ、あの態度だけであんたに惚れてるとか……そこまで確信出来るとか言うつもりは無いけどさぁ、明らかに留美の事他の女子とは違う扱いしてくれてるってこと位分かるでしょ!」

 

「でも、だってそれは雪乃さんや結衣さんにだって、いろはさ……」

 

「それでも!……それでも留美が一番……に見えるよ。あたしには……」

 

 呆れながら言う絢香の声は、どこか切なげでさえあった。私ってそんなにがっかりされるくらいこういう事に疎いんだろうか。

 

 

「あたしは留美を贔屓目に見てるから、そう感じるってこともあるかもだけど……少なくとも留美が比企谷さんにとって結衣さんや雪乃さん、いろはさんより下に見られてるってことは無いと思う」

 

 そう断言するように言った絢香の言葉を受けるように、それまで黙って話を聞いていた泉ちゃんも続ける。

 

「わたしはさ、絢ちゃんほど雪ノ下さんとか由比ヶ浜さんの事知らないから簡単には言えないよ。けど、留美ちゃんが比企谷さんにとって特別なんだってゆーのは間違いないと思うよー」

 

「そう……かなぁ……」

 

 今までならすぐに否定してしまうくらい自信が無かったこと。

でも、八幡が私を特別に思ってくれていることを今さら疑ったりはしない。要はそれがどんな意味での特別かって事で……。

 

「そう! まさにそう、それよ。あんたがいつも言ってる()()――留美はよーするに比企谷さんの恋愛的な「特別」なのは『雪乃さん・結衣さん・いろはさん』だと思ってるって事でおーけー?」

 

「うん……」

 

「で、あんたは今現在自分がその恋愛的な意味でもあの三人よりリードしてる、とまで言わなくてもさ……えーと、少なくとも同列には並んでるって位の自覚さえも無い、と?」

 

「自覚って言ったって……」

 

 そんなものあったらこんな風に悩んだりしないよ……。

 

「はぁ……るーちゃんは相変わらずでちゅねー」

 

 絢香が私を馬鹿にしたように上から目線で言うのに少しムッとして

 

「絢香だって、いつも端から見てるだけで大した恋愛経験も無いくせに」

 

 わざと嫌味に聞こえるような言い方でそう返すと、

 

「oh……ふむふむ確かにそう言われちゃうとなー……。あたしに言わせて貰えば、横から見てるからこそよく分かるってこともあるんだけどねー。……あーでも、恋愛経験、ねぇ……」

 

 絢香は、きっとすぐに何か言い返して来るだろうと思って構えていた私に肩透かしを喰らわせるかのように、意外にも神妙な顔をして、しばしおでこに指を当ててぶつぶつ言いながら考え込む様子を見せていた。

そして……。

 

「あ、なら……」

 

 彼女はパチッと目を開けてそう明るい声を発すると、イタズラを思い付いた子供のようにその目を輝かせた。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 翌日の放課後、美術部室。

 

 

「……と、いうわけで本日のゲスト。恋愛の大先輩、中原陶子先生をお呼びしております」

 

「ちょっと絢、話が見えないんだケド? というわけってどういうわけよ?」

 

 絢香に連れてこられて、長机を挟んで私と泉ちゃんに向き合うように座らされていた陶子ちゃん。

 どうやら理由も聞かされないままだったらしい彼女はさすがに目を白黒させている。

 

 

「えー、それでは、彼氏との交際もはや4年目、今もらぶらぶな陶子先生にお話を伺ってみましょう。相変わらず交際は順調なようですが、その秘訣は何でしょうか?」

 

 絢香は呆れ気味の陶子ちゃんに構わず、テレビの中の芸能レポーターがするみたいに、彼女に向かってマイクを差し出すような仕草をする。

 

「あのね絢……はぁ、まあいいか」

 

 何かを諦めたように、一つため息をついた彼女は、意外にも絢香のノリに付き合って、「インタビュー」に応じてくれる。

 

「秘訣って……。わかんないわよそんなの。一緒にいるのが普通、だし?」

 

「たまにケンカもするようですが、すぐに仲直りしちゃいますよね」

 

「だって、好き……だし、ずっと気まずいのはヤダなって――じゃない!何言わせてんのよ!」

 

 いつもはクールな印象のある陶子ちゃんが耳まで真っ赤にして絢香のことをベシベシと叩く。

 

「ちょ、痛、マジ痛いってば。自分で言ったくせに~」

 

 絢香は恋愛がらみの話になると変に暴走するというか、テンションがおかしくなることがあるんだよね……それが()()()()()()()()()ってのが彼女らしいとこだけど。

 

「陶子ちゃん、なんかごめん……」

 

「あ!ううん、るーは何も悪くないって。悪いのはみんなコイツ」

 

「陶子ひどッ。幼稚園の頃からの親友を裏切るのねッ」

 

 絢香が芝居がかった声で泣き崩れるような演技をするが、陶子ちゃんは慣れた様子で完全スルー。

 彼女は、話の流れや私の態度から何か気付いたみたいで、今まで一言も話題に上がっていない人物の名を当たり前のように口にする。

 

「るー、もしかして比企谷さんがどうかしたの?」

 

 おお、こういうトコはさすがに「恋愛の先輩」だなぁ。言ったら怒られそうだから口には出さないけど。

 

「あのね、実は…………」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「なるほどねー。……でもさ、アドバイスとか言ったって、私は比企谷さんのことなんて絢から聞き噛ったくらいの事しか知らないし……」

 

「だからー、陶子には一般論っていうか、こうね、相手の気持ちを確かめるテクニックみたいなものを教えて欲しいわけよ。あいつとも付き合い長いんだし、なんかあるでしょ?そーゆーの」

 

 絢香はさっきの事なんかにめげた様子もなく陶子ちゃんに無茶振りする。

 

「ちょっと絢香! テクニックだなんてそんな言い方……」

 

 真剣に恋してる人にその言い方は流石に失礼過ぎると思って口を挟む。

 

「いいよ、るー。絢は前からこういうヤツだし」

 

 陶子ちゃんは「もうとっくに諦めてるよ」みたいな顔で話を続けた。

 

「うーん……テクニックって訳じゃ無いけどさ、『我が儘(わがまま)を言ってみる』のは……あるかな」

 

「我が儘?」

 

「うん、一緒に居ても、たまに不安になるときがあってさ。そういう時、何でもいいから我が儘――あいつが困りそうなこと言ってみるの」

 

「え、でも……そんな事して嫌われちゃったりしないの?」

 

「あ、無茶なのとか強引なのとかは駄目だよ? 例えば……男の子が行きにくいスイーツ食べ放題のお店にお出かけしたい、とか、頼めばもしかしたら聞いてくれそうな事を……そのさ、か、可愛くお願いする感じで」

 

「ほほう! 可愛く、とは具体的に?」

 

 絢香がぐぐっと前に乗り出す。

 

「それは……『日曜日一緒に行こうよ。……だめ……?』みたいな感じかなぁ」

 

 上目遣いに、甘えを含む声……。

 

「中原さん……可愛い……」

 

 泉ちゃんが目をキラキラさせて言う。

 

「かわ……恥ずかしいなぁもう」

 

 でも、今の陶子ちゃんは確かに可愛いかった。

 

「ナルホド、これが必殺乙女の顔ってやつね。この顔で甘え倒して何でも言うことをきかせてやろう、と……」

 

「絢うるさい! そんなんじゃなくて……別にお願いした通りにしてくれなくても良いんだ。だめならだめですぐ、我が儘言ってゴメンって言って諦めるし」

 

「そうなの?」

 

「うん。その……りゅ……あいつが私の事を一生懸命考えてくれるのを見て、それだけで安心する……満足しちゃう、みたいな? はは、何言ってんだろね私……」

 

 そう言って照れたように笑う陶子ちゃんの表情は、女の子の私がドキッとするほど魅力的だった。

 普段私たちと話をしている時は、どちらかと言えばサバサバした態度の、あまり女の子女の子したところを感じさせない彼女が見せてくれた意外な一面。

 

 まだ中学生だけど小学生の頃からずっと同じ男の子と付き合ってて……。自称恋愛ウォッチャーの絢香をして、

「あいつら多分本気で(ガチで)結婚まで行くんじゃない?」

 とまで言わしめる陶子ちゃんの姿を見て、私も内心期するものがあった。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

「……私は八幡に来て欲しい」

 

 改めて上目遣いで、声もなるべく甘くして彼に我が儘を言う私。……これって陶子ちゃんが見せてくれたお手本のまんまだよね。

 我ながら芸の無い話だとは思うけど、八幡のこと試すみたいなつもりで我が儘言うなんて初めての事だから、自分なりのやり方なんて無いし……。

 

 八幡は困った顔で少し考え込んでる。

 二人の間に静かに張りつめる変な緊張感……うう、もしこんな事して嫌われちゃったらやだなぁ。今からでも謝って無かったことにしてもらおうか――と、今正に口を開こうかとした時。

 

「な……留美、そんな顔するなって」

 

 不安な気持ちが顔に出てしまったのかもしれない。私の様子を見た八幡が少し慌てたように言う。

 

「ごめんね八幡。私――」

 

「分かったら。行くからそんな顔するな」

 

 八幡はそう言って右手てぽすんと私の頭を撫でてくれる。

 彼の体温がじんわりと染み込んで来て、条件反射のように頬が緩む。

 

「でも……いいの?」

 

 面映ゆい想いをごまかすように尋ねる。そんな私の様子を見て八幡はほっとしたように微笑った。

 

「まあアレだ。確かに一度は行くってけーちゃんたちにも言っちまった訳だしな、うん……」

 

 八幡が自分の行動にいちいち言い訳するみたいな理由をつけるのは何時もの事。

 

 う~ん、どうやら、自信が無かった事がかえって効を奏したらしい。

 彼の気持ちを探りたいがためにわざと我が儘言うなんて、実験するみたいにそんなひどい事しちゃって、八幡を困らせて……

 

 申し訳ない気持ちがいっぱい湧いてくる……けど、けど!?

 

 ――なんだろうこの気持ち。

 

 私の言葉に、態度に、一喜一憂するように向き合ってくれる八幡の顔を見てると……こう、心の奥がくすぐったくって……ゾクゾクする。

 

 ――心が甘く痺れるような――これは?

 

 そうか……嬉しいんだ、私。八幡が私のため()()に困ったり、ほっとして笑ったりしてくれる事が。他の誰でもない、()()八幡を振り回してる今の状況が。

 

 ああ……これかぁ、陶子ちゃんが言ってた「私の事を一生懸命考えてくれるだけで安心する、満足する」っていうのは。

 

 好きな人を困らせて、それで嬉しいなんて……ひどい女の子だなぁ、私って。でも……ふふ、悪女とか、小悪魔って呼ばれる女の子ってこんな気持ちになるのかな? なんだか変な快感に目覚めちゃいそう、なんてね。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 そして撮影&取材当日――。

 

 

 

 私たちモデル担当の四人は、最初の撮影で着るお揃いの青のドレスに着替えを終え、メイクや髪のセットをやってもらっているところ。

 普通ならバタバタする時間帯なんだけど、スタジオの方の照明の準備にまだもうしばらくかかりそうとのことで、私たちの間には少し弛緩した空気が流れている。

 

 

「おけしょうってはじめてだったのー」

 

 けーちゃんがメイクさんに撮影直前のメイク直しをしてもらいながら、鏡に映った自分の顔を見てとっても嬉しそうにニコニコしてる。

 でも……元々目鼻立ちがはっきりした子だとは思ってたけど……この子凄い化粧映えする……。

 

 可愛い子を例えるのによく、「お人形さんみたい」という言い方をすることがあるけどそんなレベルじゃない……。

 これはそう――絵本の中の妖精みたいだ。

 側に控えて様子を見守っていた沙希さんが妹のあまりの可愛さに感動して目をうるうるさせている。こういう所ばかり見ていると、初対面の頃は沙希さんを怖いと思ってたのが信じられないなぁ。

 

 けーちゃんは。どこか非現実感さえ感じる綺麗な可愛らしい顔で、

 

「今日はかっぷやきそばたべたい。この前とくばいで買ったやつ」

 

 沙希さんにそう言って満面の笑みを浮かべる。

 

「けーちゃん……」

 

 沙希さんが今日もまた恥ずかしそうに俯く。川崎姉妹は通常営業中みたいね……。

 

 

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

「……比企谷くーん。キミ、ヒマそうだね?」

 

 スタジオの一番隅っこ、数個並べて置かれているパイプ椅子に独りでぽつんと腰掛けていた八幡に、ユキ先生が何やら声をかけている。

 さっきまでは彼の隣に沙希さんが座ってたんだけど、今説明したように、彼女は今けーちゃんの所に付いている。

 

「ただの付き添いですから。邪魔にならないように大人しくしてるだけです」

 

「邪魔なんてとんでもなーい。けど、そうね……何もしてないのも居心地が悪そうだからいっちょ仕事して貰おっかなー」

 

 ユキ先生が悪い笑みを浮かべる。どうやら彼女は八幡を弄りたくて仕方ないらしい。

 

「いや、仕事とかいいです」

 

 迷惑そうな顔で、「出来れば一生仕事したくないまであります」とかぶつくさ言ってる八幡を、

 

「まあまあせっかく来たんだしー。ちょっと荷物出して欲しいんだよねー。男の子でしょ、お願いっ」

 

 とか言いくるめて隣に引っ張って行こうとする。

 

 八幡が連れていかれてしまう。撮影の時までには戻って来られるのかな?

彼には今日の私を見ていて欲しかったのに……。

 思わず立ち上がって声を挙げようとした瞬間、ユキ先生はくるんと私のほうを振り向くと、にいっと笑ってぱちんとウインク。

 

 え?何?どういう事……?

 

 それで気勢を削がれた私は声をかけるタイミングを失い、二人はそのまま(バックヤード)に入って行ってしまった。

 

 

 

 ――今日の私を見て欲しい――

 

 それが私が八幡に「我が儘言ってでも」来て欲しかった最大の理由。

 

 私がユキ先生のところでモデル活動を始めてから一年余り。

 

 もちろん今までも、八幡にその時々に撮影された写真とか、カタログそのものを見てもらう事はあったけど、実際に撮影の時の「私自身」を披露する機会は無かった。

 

 まあ、今までの撮影で私が着てきたのは、いわゆる豪奢な「ロリータドレス」が多い。メイクだってそれに合わせたものだから、アイラインやチークもしっかり入っていて……正直「凄く綺麗にしてもらえてはいるけど、なんだか私じゃ無いみたい」というのが私が自分で感じていた印象だった。

 

 でも今回の取材では、もっと日常的に幅広く、ちょっとしたお洒落着として使えるドレスを何枚か着ることになっている。

 

 つまり――本格的なメイクアップの資格を持つスタッフさんにナチュラルなメイクをしてもらい、ユキ先生自信作の可愛いドレスを着た、そんな私を八幡に見てもらえる、ということだ。

 

 プロのメイクさんの技術は本当に凄い。

 あーやさんを始めとする、これまで撮影をご一緒したモデルさんたちが、元々凄く綺麗なのにさらに輝きが増す表情を引き出されるのを何度も見ているし、ついでに言えば鏡に映る私自身の姿にさえ視線を奪われたことも少なくない。

 

 こういう事には大分慣れてきてるはずの私でさえ未だにドキッとするくらいなのだから、八幡だってきっと……。

 んん?どこかから八幡の声が聞こえてくるような……。

 

 

「クソ、騙された……。……一体いつの間に……」

 

「この前打ち合わせ来た時、るー子に練習させたでしょ」

 

「あん時か……でもあの時いちいちメモとかしてましたっけ?……」

 

「甘いわね~。標準プラスマイナスでチェックすれば数値八つくらいまとめて五秒で書けるわよー」

 

「だからって……」

 

「この期に及んで往生際が悪いわね、とっとと諦めて楽になりなさい?」

 

「塔之原さん、それ悪役のセリフ……」

 

「いいから、ほら!」

 

 ユキ先生の掛け声のような声に押し出されるように八幡がスタジオに入って来た。

 

 

 

 

 …………格好いい…………。

 

 はっ、違う!いや違わないけど。

 

 頭が混乱してるみたい。だって――

 

――八幡がスーツ着てる!!

 

 それもすっごくお洒落なやつ。艶のある黒の生地に、銀糸で細かいストライプ状の刺繍が施されたジャケットに、白い飾り入りのシャツ。そして私たちのドレスと同じ青色のタイには艶消し金の糸でレリーフのようにFairlywingのロゴが意匠されている。

 それが彼のやや細身の体躯にしっくりとまるであつらえたように馴染んでいて……。

 

「八幡!どうしたの、それ?」

 

 思わず立ち上がり、彼に駆け寄った私が興奮ぎみに疑問を口にすると、八幡はなんとも渋い顔をして、

 

「ああいや……塔之原さんが、『記者さんやカメラマンさんの手前、比企谷くんはアルバイトスタッフってことになってるから』ってな」

 

「で『うちのスタッフとしてそれなりのカッコしてもらわないとねー』そんな感じでこの服押し付けられて……」

 

「それ……さすがに着替えてる途中で変だって気付かない……?」

 

「言うなって……。いや俺もおかしいなとは思ったんだか、なんというか……塔之原さんの妙な迫力に押されてな、折角キミに合わせて作ったんだからとかなんとか……」

 

 八幡は両手を肩の高さくらいに軽く上げて、自らの服装を見下ろすように眺めて嘆息する。

 

 八幡に合わせて作った……。そう言えばこの前ユキ先生のとこでけーちゃんの採寸をした時、

 

『るー子、男物の服の採寸の仕方って知ってる? ちょうどいいマネキンが居るんだから練習しときなさいよ。基本的に、襟周り・肩幅・身幅・袖丈・ウエスト・ヒップ・股上・股下がきちんと採れれば、よっぽど変わった体型でもない限り体にあった服が作れるし……それに既成品を選ぶときにもサイズが分かってると便利よ』

 

 なんて言われてその気になって、八幡で採寸の練習させてもらったんだっけ。それにしても……。

 

「ふふ……。でも八幡、それ似合ってるよ」

 

「そうかぁ?」

 

「うん。あのね、すごく格好いい……よ。本当に」

 

 私が素直に言ってるのが――茶化して言ってる訳じゃ無いということが――伝わったのだろう。

 

「……その、あんがとな」

 

 頭をがしかしと掻きながらぼしょぼしょっと小さな声で応える八幡。

 私が微笑うと彼も安心したような笑顔を見せてくれた。

 そして、少し柔らかくなった八幡の視線が私の頭のてっぺんから爪先までゆっくりと移動して行き……

 

 彼は僅かな間息遣いを止め――ふと何かを思い出したように口を開く。

 

「あ、何だその……留美も、綺麗だな。ドレスも良く似合ってる」

 

「え!あ……」

 

 八幡の思いがけない言葉に、思わず彼を見上げる私。

 

 ドクン、ドクン、という自分の鼓動がはっきり聞こえて、他の全ての音が遠ざかっていくような錯覚。

 顔が熱い。火照って真っ赤になっているのが自分でも分かる……。

 恥ずかしいのに……それでも彼から視線を逸らせない……。

 

 私たち二人の間にピンと張りつめる空気。きりきりと心を締め付ける――けれど不快ではない、そんな甘い緊張感。

 

 ずっと続いて欲しいような、逃げ出したいような……。

 頭が回らないまま彼に向かってふらふらと左手を伸ばすと、八幡はその手を外から包み込むように、右手で柔らかく、私の人差し指と中指、甲の辺りを握ってくれる…………。

 

「……なんか、似合わないセリフ言っちまったな……」

 

 先に緊張に耐えられなくなったのは彼のほう。ぎこちない笑顔を作ってまたそんな事を言う。

 でも不思議、ガヤガヤと騒がしいスタジオの喧騒は、ラジオのボリュームを絞ったみたいに遠くぼんやりとしてるのに、八幡の声だけがやけにはっきりと聞こえる……。

 

「ううん……」

 

 私が首を左右に振っても、

 

「いや、な。この前小町から『お兄ちゃんももう大学生になるんだから、ドレスアップした女性を素直に誉める位の事は出来て貰わないと将来が不安になる』と言われたのを思い出して……」

 

「……お~い比企谷くん」

 

 遠慮がちなユキ先生の声に、二人とも我に帰る。いつの間にか私たちはこの部屋にいる全員の注目を集めていた。

 慌てて握っていた手を離し一歩後退あとずさる八幡。

 

 うわぁー……今の、みんな見てたのか……恥ずかしいなぁ。

 はっ?さっきから部屋が静かに感じられてたのって……もしかしてこのせいなの?

 

「いやこれは……」

 

「それは良いんだってば。むしろもっとやってよし!……それより、折角いい雰囲気だったのに、つまんないネタバレみたいなのはどうかと思うよぉー。男の子なら最後までビシッと決めなきゃ」

 

 言い訳?しようとする八幡に変なお説教をするユキ先生。

 

 でもネタバレって……そうか、冷静に考えると、「八幡がドレスアップした女性を誉めるような機会」があったって事だよね……相手はやっぱり……。

 たったこの程度の事を考えてしまうだけで心がもやもやする。……嫉妬深いのかなぁ、私。

 

 それから、悪目立ちしてしまった私たち二人は皆の視線から逃げるように部屋の端、さっきまで八幡が座ってた場所に引っ込んだ。

 幸い非難するような視線は少なく、みんな、よく言われる「生暖かい目」とかそんな感じだったけど、あーやさんと沙希さんだけは冷めた目をしてたのがちょっぴり怖い……。

 

 

 

 もうしばし撮影の準備が終わるのを待つ事となった私たち。

 

 一息ついたところで、気になっていた事を我慢出来ずに尋ねてしまった。

 

「そういえば、さっきの……小町さんに言われたのって……」

 

「小町?」

 

「その、『ドレスアップしてたら褒めてあげなさい』みたいな事言われたって」

 

「ああ、前に言わなかったか? 卒業式の後にプロムってのがあって、そん時にも似たような格好させられて……まあ、色々と……な」

 

 八幡は、僅か数ヶ月前の事をひどく懐かしそうに――目を細め、眩しいものを見るような表情で語る。

 

 プロム――プロムナード。海外ドラマなんかで出てくる、皆が正装で(ドレスアップして)参加する卒業ダンスパーティーの様なもの。

 八幡達のプロムについて私は殆んど知らないんだ。彼は、

「俺にダンスとか……。とにかく大変だった」

 としか言ってなかったし。

 

 八幡とは、今でこそ当たり前のように毎週会ってて、話をする機会もたくさんある。でもそれは彼に家庭教師をお願いするようになってからのごく最近のことで、その頃はたまにしか会えなかったしなぁ。

 

 話を戻せば……八幡が褒めた(褒めさせられた?)のは、やっぱり雪乃さんと結衣さんと……いろはさんはどうだったんだろう。ドレスを着たのは卒業生だけ?

 三人とも華やかなドレスが似合いそうだし……。

 

 あの三人と比べて今日の私は彼の目にどう映っているんだろう。大人っぽさでは敵わなくても、今の私はプロのメイクさんの力を借りてパワーアップしてる。

 何より――八幡が「綺麗だ」と褒めてくれた。……小町さんによる教育の賜物かもしれないけど、それでもあれが嘘や社交辞令だけで言ってくれた言葉じゃ無い事くらい判る。

 

 あれ?「服が似合ってる」とか「大人っぽい」とかはあったけど、「綺麗だ」って言ってくれたのは初めて……だよね!?

 

 綺麗……きれい、かぁ。

 

 今までだって八幡は私のことを沢山褒めてくれてる。

 クリスマスの演劇で上手に出来たこと。勉強頑張ったこと。鶏肉の揚げ焼きを、バレンタインのチョコを、誕生日のケーキを美味しいって言ってくれたこと。

 中学生になって大人っぽくなったこと。ちゃんと友達が出来たこと。普段と髪型変えてみた時、似合ってて可愛いって言ってくれたことだってある。

 

 でも――綺麗――それは、なんだか今までの誉め言葉とは違う特別な響きで私の心を震わせてくる。

 

 また私の鼓動が少し速くなる。

 

 隣に座った八幡にチラチラと目を遣りながらそんな風に想いを巡らせていると、

 

「お待たせしましたー。機材のほうオーケーですので、テストからお願いしまーす!」

 

 撮影スタッフさんの声がして、場の空気が一気に張りつめた。

 

「じゃ、メイク崩れる前に一人ずつのアップから行くよー」

 

「「「はいっ」」」「は~い」

 

「先生、最初は……?」

 

「じゃ、るー子から行こうか」

 

 カメラマンさんの問いかけにユキ先生が答える。全員準備は出来てる様子だけど、彼女の指名は私。まあこれは仕方がない。一応はここの「専属モデル」だしね。

 最初の一人には、撮影前にもう一度照明のチェック等の手間が入るから、「お客さん」(外部のモデルさん)にこれをお任せするのは申し訳ない、みたいな暗黙の了解があるのだ。

 

 私はカメラマンさんを始めとするスタッフさん達に、

 

「よろしくお願いします」

 

 と頭を下げ、一度八幡のほうを振り向いてからゆっくりとステージに上がった。

 

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 私たち4人全員が青いドレスのソロと、それから全員での集合写真のようなショットを撮り終えたところで、

 

「さて、比企谷くん? 勘の良いキミの事だから、その衣装、ただ着せられてる訳じゃ無いってこと位……理解してるよね?」

 

 八幡のほうを振り向いてそう言ったユキ先生がふふんと笑う。

 まあ……それはそうだろう。スタッフとしての体裁だけのためにするような服装じゃないもんね。

 

「嫌な予感はしてましたけど……でも俺はそういうのは――

 

「顔は掲載しないし、バイト代はもちろん払うわよ。……お金、要るって聞いてるけど、どう?」

 

 ユキ先生がまた悪い笑みを浮かべる。

 

「げ……一体どこからそういう情報が……」

 

 あはは……犯人はうちのお母さん辺りかな……。若干引き気味の顔で、それでも幾ばくかの間逡巡した八幡は、

 

「主役はこの子たちとドレス。キミの扱いは撮影小物とか描き割りみたいなもんだから、気楽に、ね」

 

 そんなユキ先生の言葉に止めを刺され、

 

「もう好きにしてくれ……」

 

 そう言って、もう降参ですとばかりに両手を上げた。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 その後八幡は、ユキ先生の言った通り「撮影小物」として大活躍させられた。

 

 シャンパングラスを傾けて乾杯のポーズを取ったり、

 エスコート役として私たちと腕を組んだり、ダンス(をしてるふり)をしたり、

 それからけーちゃんは八幡にお姫様抱っこしてもらってVサインなんてシーンも撮ってもらったりしてて、……実はちょっと羨ましかったり……。

 

 それに八幡! あーやさんやさやかさんとツーショット撮ってる時に鼻の下伸ばして嬉しそうにしてたのはポイント低いよっ。

 

 ……まあでも、ドレスアップした私を見てもらうだけでなく、格好いいスーツを着た八幡と一緒に写真を撮ってもらえたのは嬉しかったなぁ。

 それに……さっきの私と八幡のやり取りを見てたカメラマンさんが、こっそり、

「後で二人の写真をプレゼントするね」

 って耳打ちしてくれたの!

 

 

 

 そして、散々使い倒された八幡がお役御免になり、ぐったりした彼が解放された後は、私たちそれぞれ違うドレスを何着か着替えての撮影。

 これが今回の取材のメインになる。

 私たち4人かそれぞれ3着ずつ、合計12着の()()()()ドレスを着るんだけど、実はその全ての型紙たるベースデザインはたったひとつなのだ。

 にも関わらず、それぞれのドレスが見せる表情は多彩で……。きっとこの記事は、ユキ先生の作品が、今まで以上に広く評価されるようになる大きなステップになるだろう。

 

 メインの撮影が終わり、その後最後に着た衣装のままでインタビューを受けながらの撮影へ。

 インタビュアーさんからの質問に、私は何度も答えに詰まったりして、ご迷惑掛けちゃうんじゃないかと心配したんだけど、

 

「あ、テレビとかじゃ無いんで全然気にしなくて良いですよ、こっちで字数に合うようにまとめますから」

 

 と、全く問題にしてなかったようなのでほっとした。

 

 

 

  * * * * *

 

 

 

 すべてが終わり、八幡と私二人並んでの帰り道……と言っても途中、ついさっきまでは電車で沙希さんとけーちゃんも一緒だったけど。

 

 八幡は自分の最寄り駅を通り過ぎ、私を家まで送ってくれる。

 そんなの悪いからって断ったんだけど、元々今日は実家に泊まる予定だったから遠慮するなと言われ、何時ものごとく八幡の好意に甘える事にしたのだ。

 

 本音を言えば、八幡と少しでも長く一緒に居られることが、その時間を彼が作ってくれたことが、ただ素直に嬉しい。

 だから私は、駅から僅か一キロにも満たない道のりを、一歩一歩を惜しむようにゆっくりと進む。

 

 歩道を反対側から来た人とすれ違おうとした時、ふと二人の肘の辺りが触れ、一瞬、彼と目が合った。

 私はさらにもう半歩身を寄せるようにして八幡の手を握る。

 今までの――昨日までの私よりちょっとだけ大胆で積極的な行動。彼は、瞬間戸惑った様子を見せたものの、繋いだ手をそのままにさせてくれた。

 

 歩くペースはさらに緩み、ほんのりとした緊張感。私は少しの間心地良い無言の時間を楽しむ。そして、

 

「今日は来てくれてありがとう。大変だったでしょ?」

 

「……全くだな。まさか俺まで…………」

 

「…………でもちゃんと似合って………」

 

 一言二言話し始めれば、もう何時もの私たち。

 ユキ先生が強引過ぎるとか、けーちゃんが全然物怖じしなくて凄かったとか、撮られる側だと照明ってあんなに眩しいんだな、とか――次から次へと話が出てくる。

 ふふ、まるで今日の反省会みたい。

 

 そんな中、八幡が溜め息を洩らしながら言う。

 

「そういえば……なあ……俺、A-YA(あーや)さんになんか失礼なことしたっけか?」

 

「え、どうかしたの?」

 

「いや、彼女撮影の時、顔は完璧に笑ってんのにその笑顔のままで強烈な敵意――殺意?――さすがにそんな訳ないか……とにかくそんな感じのプレッシャーを受けた気がして……気のせい……だと思いたいんだが」

 

 え? 気が付かなかった。だって八幡と並んで撮影されてる時のあーやさんは終始笑顔のままで……ここだけの話、少し嫉妬してしまう位だったのに……。

 

「俺はどうも大事な何かを見落として失敗する癖があるらしくてな……。いい加減こういうとこは変えていかなきゃとは思ってるんだが、なかなかなぁ」

 

 小首を傾げる八幡。

 

「全然わかんなかったけどなぁ……。あ!もしかして…………」

 

「ん? 心当たりあんのか?」

 

「多分……。うん、きっと八幡が千葉のお兄ちゃんだからじゃないかな?」

 

 私が笑うと、八幡は、

 

「『千葉のお兄ちゃんだから』って……さっぱり解らん」

 

「良いんだよ、解らなくって。八幡は八幡なんだから、さ」

 

 私はそう言いながら、彼と繋いだ手を、小さな子供がするように前後に大きくぶんぶんと振る。

 

「おわっ……と。ますますわかんねーよ。八幡って形容詞か何かなの……?」

 

 納得いかない様子の八幡。

 

「昔、私に言ってくれたことあったでしょ、『無理して変わらなくて良い』って。それと同じだよ」

 

「同じ……ねえ」

 

「きっとね、『変えよう』なんて思わなくても――自然にゆっくり変わって行くんだと思う。私も……そうだったし。だから……」

 

「だから……?」

 

「変わっても変わらなくも、私はそのまんまの八幡が良いってこと!」

 

 そう言って、彼の手を握る指先に力を込めると、

 

「やっぱり解らん……けど、留美がそう言ってくれんなら――まあ、それで良いか」

 

 八幡は空を仰いで独り言のように言い、私の手をぎゅっと握り返してくれた。

 そっぽを向いたままなのは……ふふ、もしかして照れてるのかなぁ。

 

 だったら……嬉しい。

 

 私の中に棲む小悪魔心がまたちょっぴり顔を出す。

 これ、あんまりやりすぎると、八幡がいろはさんに言ってるみたいに「あざとい」とか言われちゃうのかな。とは言え、実はそういう()()()()()も嫌いじゃなさそうなのが八幡のめんどくさくて難しいところ。

 

 

 

 もう午後七時を過ぎているのに、ふと見上げた空はまだかなり明るい。半円の月が空の高いところで薄く輝いているのが見えた。

 

「あ、お月様……」

 

「ん……」

 

 八幡と並んで月を見上げる。あの半月はこれから満月に向かって大きくなるのかな、それとも細くなって三日月みたいになるんだろうか、そんな事も知らない私。

 ただ間違いなく言えるのは、このまま変わらないことは決して無く、日々少しずつ、けれど確かに変わり続けていくということだ。

 

 八幡と私も――

 

 ううん、今はこれ以上先のこと考えても仕方がない。変わっていくからこそ、今を大切にしなきゃね。

 まあとにかく、

 

 今日は本当にありがとね、八幡。おつかれさま。

 

 

 




 
劇的な何かがあるわけじゃない。それでも少しずつ近付いていく二人。


どもども、相変わらずの超ゆっくり更新で申し訳ないです。
更新はカレンダーの赤い日の朝にすることが多いのですが(理由は、重大なミスが有った時すぐ直せるからです。仕事中は私用のPCとかスマホを使えないので……)どうにか平成最後の「赤い日」に間に合いました!

改めて、ここまでお付き合い頂いてありがとうございます。「令和」になってもよろしくお願いしますね。


「俺ガイル14巻」また未定になってしまいましたね……。もしかするとよくある「アニメ三期に合わせて発売」という形になるのかもしれません。

ご意見・ご感想お待ちしています。

4月30日 誤字修正。 リョウ0様ありがとうございます。
 

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