東方変守録   作:ほのりん

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前書き~

よし、間に合いました
今月は無しかなぁって思ってたら意外とかけるものですね。1万文字になりましたけど
さて、今回は榛奈さん。人里の中でフランと魔理沙を探します。無事見つけられるでしょうか......
...一波乱の予感......

それでは今回もゆっくりしていってね!


第34話『人里の中です。泥棒は駄目ですよ』

[人里]

 

 

 門を潜った先にある表通りをある程度歩いてみて分かった事がある。人里が昔より活気づいているのだ

 それはもしかしたら昔より人口が増えたからなのか、はたまたさっきからちょくちょく見かける妖怪のおかげなのか

 おそらくどちらもなのだろう。人の数も多いし、妖怪達はそれぞれ人里を堪能している

 ある者は店で買い物。ある者は新聞を配り、ある者は何故か働いている

 一昔の幻想郷では有り得なかったと思われる光景だ

 といっても私が人里を離れてから4、5年しか経ってないからそんなに言えないけどな

 

――これはこれは、昔を知ってたら驚くね、この光景は。人里の外を出れば昔のままかもしれないけど人里内では両者が上手く共存出来てる。本当に、あの子にも見せてあげたかった......――

 

 “あの子”?

 あの子って誰のことだ?

 

――...なんでもないよ――

 

 ...そうか

 

――訊かないんだね――

 

 なんでもないならなんでもないんだろ。そういうのは深く踏み込まないようにしてるんだ

 深く踏み込みすぎると昔みたいに死にかけるからな

 

――ふふっ、君は昔から変わらないね――

 

 お前の指してる“昔”ってのが分からないからそう言われてもピンとこないな

 

――そう。それより周りに耳を傾けてみたら?――

 

 周り?フードで聞こえづらいから聞こえるか......?

 

 そう言われ近くでコソコソと話していた女性2人の話に耳を傾ける

 何故彼女達はあんなコソコソ話してるんだ?そんな周りに聞かれたくない話をするならもっと別の場所があるだろうに......

 

 

 

「ねえ、聴きまして?さきほど人里に見かけない妖怪が来たんだとか......」

 

「まあ、どのようなお姿だったのですか?」

 

「なんでも金色の髪を右に束ねていて、血のような赤い目。木の枝に宝石をぶら下げたような気色悪い羽を持っていて、口には牙のようなものがある小さな女の子の妖怪だそうですわ」

 

「まあ、なんて恐ろしいお姿をしていらしているのでしょう。どのような種族なのでしょうか......」

 

「先程言った特徴に加え、陽の当たるところでは日傘を差していたとのことから先日異変を起こされた吸血鬼なのかもしれませんわね。もしそうなら恐ろしいですわ......」

 

「本当に...... 人を襲わなければ良いのですが......」

 

 

 

 ......

 これってフラン様だよな。特徴がバッチリ同じだし

 にしても......

 

榛「(何が気色悪い羽だよ!全然気色悪くないよ!むしろ美しくて綺麗な翼だよ!それと恐ろしい?んなわけないだろ!可愛らしいの間違いなんじゃないか!?いや妖怪としてなら恐ろしいんだけどさ!)」

 

 これはもう怒れるね。というか既に小声で怒鳴ってるし

 幸いフードで遮られてるおかげで相手には聞こえてないけど

 

――まあまあ落ち着いて。君にとってはとても大切で可愛くて愛らしい主でも、ただの人間にとっては恐ろしい妖怪なんだから。それもつい最近異変を起こした吸血鬼なら尚更恐がるのも無理ないよ――

 

 そうだけど......

 まあ、フラン様の魅力は私や館の皆さんがよく分かってるからいいのかな

 

――いいんだよ。それより探そうか。悪魔の妹がいるのは間違いないみたいだからね――

 

 そうだな

 早いとこ見つけて話をしよう

 そのためにここまで来たんだから

 

 

 

〜少女捜索中〜

 

 

 

榛「駄目だ。情報が少なすぎる。どこにいるんだよフランさまぁ......」

 

 かれこれ一刻ほど歩いてみたが、見つけられずにいた

 いやまだ一刻しか経ってないけどね

 もう少し情報が欲しいところだ。こう、何処どこにいたとかそういった情報が......

 

 

 

村人「おい見たか?この人里に吸血鬼が来てるぞ」

 

村人「今時妖怪なんて人里にいてもおかしくないだろ」

 

村人「いやそうじゃなくてな。その吸血鬼、これがまた凄く可愛いんだ」

 

村人「へぇ。どれぐらいだ?」

 

村人「ほら、たまに人形劇をしに来る女がいるだろ?あの人形というかなんというか...... 西洋の人形並の可愛さなんだ」

 

村人「ほう。そんなに可愛いのか。一目見てみたいな」

 

村人「さっき中央広場に向かうのを見たんだ。もしかしたらそこにいるかと思うから行ってみようぜ」

 

村人「あぁそうだな!行ってみよう!」

 

 

 

 は?西洋の人形並?

 そんなもんじゃねぇだろ!

 もっとだよ!もっと!

 悪魔なのに天使ってくらいに可愛いんだよ!

 コアじゃないけどたまに見せる小悪魔みたいな可愛さもまたいいんだよ!

 それはもう全幻想郷に広めたいくらい可愛いんだよ!

 だがまあ可愛いと思っているなら良しとしよう

 さて、フラン様はどこだー?

 

――いやさっき男性が言ってたでしょ!中央広場だよ!広場!悪魔の妹の可愛さとかどれぐらいだとかに気を取られすぎてないの!――

 

 あ、あはは。すまんすまん

 とりあえず確証はないけど広場に行ってみるか

 

 

 

〜少女移動中〜

 

 

 

 大通りを抜け、辿りついたのは中央広場

 その名の通り人里の中央にある広場で、イベントなどの出し物のほとんどがここで行われる

 他にも中心には龍神像が祀ってあり、毎日里の住人の誰かしらが参拝しに来る。生きている者であれば誰であろうと龍神に感謝しているものだ

 私も昔、お母さんがまだ生きてた頃に何度も来て参拝していった。あの頃はまだ幼かったからなんで石像なんかにお辞儀しないといけないの?と思いつつ、お母さんの動きを見よう見まねでやっていたが、今なら理由が分かっているから参拝しに来る人たちの姿がおかしいとは思わなくなった

 それに龍神像には一つの大きな宝玉が飾られている。これはなんでも今後の天気を教えてくれる玉なんだとか

 言わば幻想郷の天気予報だな。それも結構正確な予報だ

 それを目当てに来る人も多い

 これはこれで龍神には感謝だね。明日の天気がわかるって結構良いよ。洗濯物を干す時とかにね

 いやぁ、感謝感謝。家に1台は欲しいかな

 でも私は雲の種類や空気の匂いでなんとなく分かるから別にいらないか

 

 なんて考えながら辺りを見渡してみた

 人が多いな......

 流石に夏祭りの時とかのように人で溢れかえっている訳では無いが、そこそこ人口率が高い

 特にイベントが無くても人が多い中見つけられるかな?

 

――彼女達は混じりっけなしの金髪なんだから、日本人の黒髪が多い中なら分かると思うよ。人間で金髪なのは君と白黒の魔法使いぐらいしか私は知らないからね。妖怪には様々な髪色をした者が多いから見つけにくいかもしれないけど......――

 

 それもそうか。此処は幻想郷とはいえ先祖は日本人で、その血が流れてるもんな

 黒髪が多い中なら分かりやすいだろう

 それこそ大豆の中から小豆を見つけるようなものだ

 

――その喩えは初めて聞いたけど......――

 

 そりゃそうだ。私が今つけたんだから

 

――そ、そう。まあその表現はあながち間違ってないからいいか――

 

 そゆこと。さ、どんどん雲行きが怪しくなってきたし、早いとこ見つけるか

 金髪紅白黒七色の宝石の翼を探せー!

 さっきの男性の話じゃ中央広場にいるって言ってたけど......

 

 

 

 

 

 適当に歩いていると、人混みの中から人と同じくらいか少し上くらいの高さに日傘を差す少女を見つけ出した

 傘で頭がよく見えないが、特徴的な翼に紅を基調とした服を着た少女。そして隣には白黒の服ととんがり帽子を被り、箒を担ぐ人間

 間違いない。フラン様に魔理沙姉だ!

 

榛「見つけたっ!フランさ――」

 

 

 

女「――きゃああ!泥棒!!」

 

?「どけ!邪魔だ!」

 

フ「え?キャッ!」

 

 

 

 私が大声でフラン様の名前を呼ぼうとすると、女の叫び声が聞こえた

 そう認識していると声の聞こえた方向から物凄い勢いで走っている男性がフラン様にぶつかりながら此方に向かって走ってくる

 フラン様は男性にぶつかった衝撃から倒れてしまい日に当たりそうになったが、魔理沙姉が急いで日傘を差したおかげで大丈夫そうだ

 そして此方に向かってくる男は右手に小刀が、反対の左手には盗んだ物が入っていると思われる袋を持っている

 

男「どけっ!さもなくば刺すぞ!」

 

 男はそう言いながら小刀片手に私に突進してきた

 なるほど、そうやって脅して道を譲らせ、里から逃げる。もしくは隠れようとしていたのか

 へぇ。普通の人間相手なら素直に道を譲ってただろうね

 ましてや私はあまり問題を起こしたくない。だから少し前までなら道を譲ってた

 でもね。フラン様を傷つけ、剣を手にしたこの男。ちょっと見逃せないかなぁ......

 男が物凄いスピードで近づいてる

 あと数メートル......

 

男「どけと言っているだろうッ!!」

 

 男が小刀を構え振り下ろそうとした

 ...はぁ、むり。少し暴れるわ

 

 ――プチンっ......

 

 

 

 

 

榛「......」

 

男「んなッ!?」

 

 私は左手で小刀を受け止め――

 

男「なにッ?!?!」

 

 そのまま男の腕をつかみ、手元に引き寄せながら身体を後ろに向け――

 

男「なッ......!?!?」

 

 ――前にぶん投げた

 所謂背負い投げというものだ

 

男「ガハッ......!」

 

 男は背中を地面に打ち付けられた衝撃で呼吸が出来ないようで、口を開いたままピクピクとしか動かなくなった

 

榛「......」

 

 私はそれを見ながら男の右手首を踏みつけ、小刀を奪い取る

 そしてその小刀を男の目に勢いよく振り下ろした

 

男「うわあああァァ!!」

 

村人「きゃあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし私はそれを寸でで止めた

 

男「...ぅあ......ああっ...あっ......」

 

榛「どうした?怖いのか?」

 

男「...あっ......あぁ......」

 

榛「...チッ」

 

男「ヒッ......!」

 

 恐怖とさっきの衝撃でまともに話せなさそうだな

 ただの舌打ちだけで怯むってどれだけだよ

 全く、こちとらお前を殺さないよう心を制御してるってのに......

 

榛「おい。何故人に刃物を向けた?」

 

男「そ、そんなの脅しに決まって......!」

 

榛「脅しで剣を手に取っただと?ふざけるなッ!」

 

男「ヒィィ......」

 

榛「確かに脅しは刃物を用いる理由としては十分だろう...... しかしお前のやろうとしていたことはなんだッ!そんなことのために剣を手に取るなど......ましてや人に向けるなど愚の骨頂ッ!死んで詫びても許されぬものだッ!恥を知れッ!」

 

男「そ、そんなこと言ってもなぁ!お、俺にはもう生きる手立てがねぇんだよ!!僅かに残った物の中に小刀があった、だから俺はそれを使って生きようとしたッ!そんな俺のどこが間違っているというんだッ!!」

 

榛「確かにお前は剣があったからそれで生きようとしただけ。それは別に否定はしない。しかしッ!そのやり方は誰がどう言おうが間違っているッ!何故人のものを奪おうとする!?もし仮にその奪ったものが価値あるもので、売れば一生遊んで暮らせるものだったとしよう。お前はそれでいいのかもしれない。しかしそれを奪われてしまった人の気持ちはどうなるッ!?「あぁ盗まれてしまった。仕方ない、諦めるか」なんてなるとでも思うかッ!?それは断じて否ッ!物によってはそれで終わるだろう。しかしそれはあくまで物によるッ!もしそれが大切なものだったら、命にかえても守りたいものだったら...... その持ち主はどれだけの悲しみを背負って生きていくのか......どれだけの憎しみを背負って生きていくのか、お前はそれ考えないのかッ!?」

 

男「うるせぇ!そんなん俺の知ったことじゃねえよッ!だいたい盗まれる方も盗まれる方だッ!そんなに大事なら鍵でもした箱の中にでも入れておけッ!きちんと守らねえから奪われるんだろうがッ!」

 

榛「......ッッ!... そんな大切なものを守りたくても守れない。貴様はそんな人々がいることも分からないのかッ!!」

 

男「それこそ知らねえよッ!守れないならそれこそ盗まれたって仕方ねえよなぁッ!」

 

榛「ッ貴様はッッ!!――」

 

 

 

 

?「そこまでだっ!」

 

 

 

 

 

 私がもう少しで本気で刀を目に突き立てそうになっているところに制止の声がかかった

 チッ、まだ言いたいところがあったのに......

 

――落ち着いて。いつもの君らしくないよ。それにこんなことしに来たわけじゃないでしょ?――

 

 ...あぁそうだな。私としたことが頭に血が上ってたようだ

 

男「クソっ、よりにもよって慧音せんせーかよ......」

 

 そう男は声のした方向を見て悔しそうに呟いた

 ってえ?“慧音せんせー”......?

 男の言葉を聞いて思わず私も声のした方向を見るとそこには昔は見慣れていた顔がいた

 

慧「お前達、一体そこで何をしている!今すぐ両者とも離れろ!」

 

 あちゃぁ、慧音先生かぁ......

 流石に慧音先生の言うことは従わないといけない。じゃなきゃまたあのお仕置きが......

 あれはもう味わいたくないぜ...... 本気で天国の扉が見えそうになったんだから

 私が渋々男の上から退くと、慧音先生は堂々とした足取りでこちらに近づいてきた

 

男「くっそぉ...... こんなところで諦めてたまるかッ!!」

 

 男はそう叫び最初男が来た方向に向かって走って――

 

フ「きゃあ!」

 

男「ハッ!刀はひとつじゃねえんだよ!!」

 

慧「なっ!?お前何を!」

 

魔「お、おい!フランを離せ!」

 

 男はあろう事か事の成り行きを見ていたフラン様を捕まえ、懐に隠し持ってたのかもう一刀の小刀を首に構えた

 それに思わず魔理沙姉は男との距離を空け、身構えた

 幸いフラン様は日陰にいたおかげで捕まった拍子に日傘が落ちて日に当たるということはなかったが捕まってしまったことには変わりない

 

慧「何を馬鹿なことをやっている!その子は関係ないだろう!」

 

魔「そうだ!巫山戯たことしないでフランを離せ!」

 

男「馬鹿だと?巫山戯たことだと?なんとでもいえッ!こちとら命かかってんだよ!いいから道を開けろ!」

 

 男は怒鳴りながら小刀を首に近づける。恐怖のあまり手が小刻みに震えているのが見える。これでは手違いがあったらフラン様の大切な首に傷がついてしまうではないか。まあ吸血鬼だからすぐに治るんだろうけど

 ま、このまま見てるのは無理だな。主に私の精神状態的に

 仕方ない、やるか

 

榛「道を開ける必要は無い。慧音、魔理沙」

 

魔「はぁ!?お前なんで私たちの名を...... じゃなくて開ける必要は無いってどういうことだ!?」

 

慧「このままでは彼女が傷ついてしまうんだぞ!?」

 

榛「別にフラン様は傷つかないし、傷つかせない。本当なら指一本でも触れさせたくないんだがな」

 

 そういいながらゆっくりと男に近づく

 男は震えながらも声を張り上げた

 

男「お、おい!それ以上近づくな!この子供がどうなってもいいのか!?」

 

榛「とりあえず言うと、そのお方は子供ではなく立派な女性だし、どうなってもよくないから近づくんだけどな。まあこれは最初で最後の忠告だ。フラン様を離せ。さもなくば貴様の命は保証できかねん」

 

男「ハッ!この状態でお前に何が出来るってんだ!」

 

榛「そうだな...... 言ってもわからなそうだから実演してやろう。......フラン様、出来る限り動かないでくださいね」

 

フ「え?う、うん......」

 

男「な、何をするって言うん――」

 

榛「可愛らしいフラン様をその汚ねえ手でずっと触ってんじゃねえぞ溝鼠野郎がッ!!」

 

 その瞬間、私は全力で男との距離を縮めた

 そして男がそのことに戸惑ってる間に男の右手首を左手で叩き小刀を落とさせた

 

榛「フラン様ッ!しゃがんでッ!」

 

フ「う、うんっ!」

 

男「な、なにを!?」

 

 フラン様が素直にしゃがみ込んでくれた隙に懇親の一撃をッッ!

 

榛「ぶっ...飛べぇッ!」

 

男「グハッ!」

 

 男が大きく隙を見せたおかげで私の拳は男の顔面にクリーンヒット。そのまま数メートルくらい吹き飛ばされていった。

 よかった、他の人にはぶつかってないな。てかおいおい、私そんなに力入れたのか?まあフラン様を傷つけようとしてたんだからこのぐらい当然か。あぁでも咲夜さんに怒られそうだなぁ。従者ともあろう者が主を危険な目に合わせてしまったんだから。後で報告するのが怖いぜ...... ま、それはともかく......

 

榛「フラン様、お怪我はございませんか?」

 

フ「う、うん。大丈夫だよ」

 

榛「それなら良かったです。すみません、危険な目に合わせてしまって」

 

フ「...別に榛奈が謝る必要はないんだよ?」

 

榛「いえ、私の軽率な行動で彼の興奮を高め、フラン様を人質に取るという行動をさせてしまったのですから――ってえ?()()?」

 

 思わず普段通りに答えてしまったが、確かに今フラン様は私を“榛奈”だと言ったよな?

 あれ?なんでフラン様は私を榛奈だと見抜いたんだ?私ちゃんと変装してたよな?

 

フ「ふふっ。フード、脱げてるよ」

 

榛「え?あっ......」

 

 そう言われ頭に触れてみると、普段は帽子に隠されてるリボンで結ばれた二つの髪束が見えてることに気づいた。きっとさっきの一気に距離を詰めた時に脱げたのだろう。でも幸いなのかお面は外れてないから私だと分かる人は少ないはず...... とにかく被り直さないと

 そう思い被り直してる間に、完全に伸びている男を自警団と思われる男共がせっせと運んでいた。どこへ連れていくのか分からないが、とりあえずあの顔は暫く見たくない。そして忘れたい。だって覚えてるうちに見たら殴ると思う。確実に

 

魔「いやぁ、見事な拳だったな。凄いな、お前」

 

慧「本当に見事だったぞ。お前さんのおかげで被害が少なく済んだ。感謝する」

 

榛「え?あ、あはは......」

 

 あれ?もしかして気づいてるのフラン様だけ?

 魔理沙姉は私に対して“お前”だなんて何故か使わないし、慧音先生も“お前さん”って言ってるし......うん。バレたくない相手にバレてないならそれでいい。後はこの場を離脱出来れば......

 

――悪魔の妹に用があることも忘れないでよ?――

 

 あ、そうだった。さっきの怒りで忘れてたよ。フラン様に用があってここまで来たっていうのにこのまま別れたら水の泡じゃないか。危うい危うい......

 

魔「そういやお前は誰だ?私たちのことを知ってるみたいだし、フランのことを様付けで呼んでたが......」

 

慧「是非とも名前を聞かせてくれないか?」

 

榛「え!?え、えーと......」

 

 何で!?どうしてこうなった!?

 そして今更だけどいつの間にか変声魔法切れてるよ!普段通りの声だったよ!

 だからまあ今更男だと取り繕っても無駄なわけで......

 

フ「あれ?魔理沙、もしかして気づいてないの?この人ははる――」

 

榛「おーとフラン様。少しこちらに来てくださいますか?」

 

 思わずフラン様の口を手で塞いでしまったが、まあ許してください。じゃなきゃ死にます

 そして私はそのままフラン様を二人から離れたところに連れていった

 事情を説明しなければならないからね

 

フ「むごむご......」

 

榛「ん?あっとすみません」

 

 フラン様の口が動いたのを感じてすぐに手を離した

 

フ「ふぅ...全く、いきなり何するの!」

 

榛「えっと、少し耳を貸して頂けますか?」

 

フ「え?うん。いいけど......」

 

 フラン様が顔を寄せてくる。その時香ってきた紅茶の香りと可愛い顔にこんな状況ながらドキッとなるけど、そのことは顔に出しませんでした。ナイス、私の顔

 さて、ここからは小声だ

 

榛「(その、実はですね。私が榛奈だってことを言わないでほしいんですよ)」

 

フ「(え?なんで?)」

 

 私が小声になったことでフラン様も小声で話す

 

榛「(フラン様にはこうしてバレてしまいましたが、出来ればこの里の人間には私が榛奈だってこと......私が生きてるんだってことは知られたくないんです。特に里に顔が知れ渡ってる慧音先生とかには......)」

 

 慧音先生にバレたらなんて想像がつく。霧雨の家に連れてかされてお父さんに会うってのはやっぱ当然だろう。他にも知り合いとかに報告して、大騒ぎとかになるんだ。それはつまり昔の私を知ってる人たちと今の私が出会うってことであって、拒絶される可能性もないわけではないわけで......

 

フ「(それは分かったけど、“生きていることを知られたくない”ってどういうこと?)」

 

榛「(私って昔は何の力もない、そこらの子供と同じだと思われてたんです。そんな私が人里を出てから行方知れず。喰われて死んだと思われてもおかしくないんです。妖怪にとって人間の子供など格好の餌ですから。実際喰われるとは違いますが、美鈴に拾ってもらわなければそこら辺で野垂れ死んでたんですから)」

 

フ「(そうだったんだ......)」

 

榛「(ですから里では私は死んだと思われてて、もし生きてたってなると大騒ぎになると思うんです。それは嫌なので、私が榛奈だということは秘密にしておいてくださいね)」

 

フ「(分かった。でも魔理沙も口封じしないと生きてるのはバレちゃうよ?)」

 

榛「(まあその辺はまた後で。とりあえず私は一旦この場所を離れます。フラン様も魔理沙姉を連れてこの場所を離れてください。そして裏のうどん屋で待ち合わせしましょう)」

 

フ「(私そのうどん屋さんの場所知らないよ?)」

 

榛「(魔理沙姉に“ばあちゃんちのうどん屋”って言えば分かります。...そう言えばフラン様、この後予定はございますか?)」

 

フ「(うーん、人里を見て回る以外はないよ)」

 

榛「(でしたらそろそろお昼ですし、そこで昼食を取りながら話をしましょう。少し今回の件とは違う話が私からあるので)」

 

フ「(分かった。ところで今はどうやって抜けるの?)」

 

榛「(とりあえず「用事がある」と言えば解放してくれると思いますので試してみます)」

 

魔「おい、どうしたんだ?そんな隅でコソコソと......」

 

榛「あ、なんでもないぞ。ただちょっとな......」

 

魔「ふうん。まあいいか」

 

榛「それより私はこの後ちょっと用事があるんだ。だからこの辺で失礼するよ」

 

慧「あぁそれは済まなかったな。引き留めてしまって」

 

榛「いやいいさ。それじゃ私はこれで」

 

慧「今回は本当にありがとうな」

 

魔「私からも礼を言うぜ。フランを助けてくれてありがとう」

 

榛「おう。じゃあな」

 

 あー、ある意味じゃフラン様を助けたのって従者とか家族だとかの感情があったから礼を言われるとなんというか、こう...... 複雑な気持ちになるな......

 それはともかく私はここから逃げるんだぜ〜!

 そんなこんなで私は表向きはクールに、しかし心の中ではいつも通りな私のままその場を去った

 さて、すぐにフラン様と待ち合わせたあの場所に向かうか、少し寄り道するか...... どうしような

 

――なるべく寄り道せずに行ったら?君の実家?はここから近いけど......――

 

 いや、実家はまた今度機会があったらで。さっき慧音先生の前でバレてないか冷や冷やしたからもう十分だ

 

――そう、なら早めに待ち合わせ場所に向かおうよ――

 

 おう!そうだな!

 ここでまた問題起こしたら今度こそバレるかもしれないし、何も無いうちに先生や里の住人から離れたいしな

 よし、そうと決まればいざ!あの方が経営している裏にあるうどん屋へレッツゴー!

 

 

 

――...うどん......シンプルなかけうどん......卵の乗った月見うどん......辛いけどその辛さが美味しいカレーうどん......――

 

 や、やめて!そう言われると物凄く食べたくなるから!フラン様たちが来る前に我慢出来ずに食べてしまいそうになるから!

 

――......私も食べたい......――

 

 また今度!今度体を入れ替えて食べさせてあげるから私を誘惑しないでぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慧「...行ってしまわれたか...... 名前だけでも聞いておきたかったのだがな......」

 

魔「また今度聞けばいいじゃないか。幻想郷広しといえど人里はここにしかないからな。人里に居たってことは偶に人里へ来る人だろうし、また会えると思うぜ」

 

慧「それもそうだな。では私もこれで失礼するよ。先程の男をどうするか決めないといけないからな」

 

魔「そうか、慧音も大変だな」

 

慧「ははっ、これも人里の守護者としての仕事だからな。それにもう慣れたさ」

 

フ「お仕事頑張ってね!」

 

慧「ああ、ありがとう。そういえば君の名は......?」

 

フ「フランだよ。フランドール・スカーレット」

 

慧「フランだな。今回は里の揉め事に巻き込んでしまってすまなかった。里の代表として私から謝らせてもらう」

 

フ「ううん、大丈夫だよ。はる――じゃなくてあのフードの人に助けてもらったから」

 

慧「そう言ってくれると助かるよ。それと魔理沙、くれぐれも不健康な生活はするなよ。何か困ったらいつでも寺子屋に来ていいんだからな。それと親父さんのことも少しは気にかけて――」

 

魔「はいはいわかったわかった。私は大丈夫だから心配しなくてもいいぜ。それとあのジジイは私がいなくても平気だろ。むしろ私がいないほうがいいんじゃないか?」

 

慧「何を馬鹿なことを言う。あの人もあの人なりにな――」

 

魔「はいはい説教は勘弁だぜ。それじゃ私達も人里観光の続きをするからまたな。フラン、行くぞ」

 

フ「え?う、うん......」

 

慧「全く...... ああそうだフラン。フランもいつでも寺子屋に来てもいいからな」

 

フ「うん!また今度行くよ!それじゃあね!」

 

慧「ああ、またな」

 

 

 

 

 

慧「しかし“スカーレット”か...... どこかで聞いたことある名だな......確か天狗の新聞に載ってたような......っもしかして紅魔館の吸血鬼かっ!?」

 

 

 

 

 

魔「さて、問題はあったが広場はあらかた見たな。フラン、次はどこを見てみたいんだ?」

 

フ「あ、その前に魔理沙。少しいいかな?」

 

魔「どうしたんだ?」

 

フ「“ばあちゃんちのうどん屋”って分かる?」

 

魔「......どういう意味だ?」

 

フ「えっと、さっきの人が魔理沙にそう言えば裏にあるうどん屋さんの場所がわかるって」

 

魔「裏にあるばあちゃん家のうどん屋といえば私と榛奈がよく行ってたところしか知らないが......」

 

フ「あ、うん!そこだよ!そこで待ち合わせたの!だから行こ!」

 

魔「...しかしさっきのやつは何で私達の名前を知ってたり、あの店を私が知ってると知ってるんだ......?」

 

フ「そ、その辺も会えば分かるよ!だから行こう!」

 

魔「あ、ああ。何をそんなに焦ってるのか分からんがとりあえず行ってみるか」

 

フ「うん!」




後書き〜

皆さん。どんなことがあっても泥棒ダメ、絶対
魔理沙?榛奈さんのとこの魔理沙は泥棒はしてません。借りてるだけ借りてるだけ
まあ死んだら返すって泥棒と同じような気もしますがね。気にしない気にしない

さて、最近急激に寒くなりましたね。皆さん体調にはお気をつけて。昼間が暑くても夜は寒いですからね。上着を忘れずに
そのまま次回予告。榛奈さん、うどん屋にてフラン達と合流。その時また一波乱が......?
次回もゆっくりしていってね!

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