遅刻したようで、いつも通りかなと最近思っています。毎月最低一話をモットーに、ほのりんです。
最近楽器を演奏し始めました。まだお遊びレベルです。というかお遊びです。そのうちコンサートに出る予定みたいですが。
それはさておき、前回のあらすじ。
少し落ち込み気味の魔理沙。西行寺家の亡霊姫と戦います。
神社にいる榛奈さんは、藍と戦っていたらいつの間にか橙を看病していました。その後西行妖の妖力を感じてそれぞれ行動に。
今回は榛奈さん視点からの魔理沙視点です。
今回もゆっくりしていってね!
飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。
何よりも速く。風よりも。音よりも!光よりも速く!
実際にはそんな速度は出せない。魔理沙姉の最高速度より遅いかもしれない。当たり前のようだが鴉天狗にすら追いつかない遅さだって分かってる。自覚してるし、人間である以上、限界なんて妖怪のものより早くぶち当たるのも理解しているつもりだし、そこまで強くなるには私が今まで生きてきた時間の倍以上の年月がいることも分かってる。
でも今だけはそれがどうしてももどかしかった。
もっと早く、速く、はやく!
早くしないと、魔理沙姉達が...取り返しのつかないことになっちゃう。
そんなの嫌なんだ。何よりも耐え難いんだ。そんなことになるなら、代わりに自分がって......
――自分が代わりに、なんて、君の周りが許さないんじゃない?――
...分かってるさ。
でも、そんなこと考えてしまうくらい、今の私には余裕がないんだよ。
魔理沙姉達が今、危機に陥ってるかもしれないんだ。
西行妖に殺されるかもしれない、そうやってずっと考えてしまうんだよ!
――そう考える余裕があったら、その余裕を西行妖をどう封印するか考えるのに回したら?――
...そうだな。
でも、さっきお前この異変で力の片鱗を見せるって言ってたな。
ならお前が倒すんじゃないのか?
――あくまでその体の主は君だよ。私も表に出てやる時は来るだろうけど、それまでは君が動くんだ。それに“倒す”んじゃなくて“封印”。私は実際に西行妖の満開状態を見たことは無いけど、聞いた話だと私が倒すことは到底不可能だね。あくまで封印しかできないよ――
そうか。
...指示くらいはくれよ?
――最低限のね――
それで十分だ。
目の前には見えにくいが、空に穴が開いているようなものがある。
おそらくあれが冥界への入口であり、きっと霊夢辺りが結界を破った跡なんだろう。近づいてくるにつれ濃厚になっていく妖力の気配も、あそこから漏れ出ているようだ。
あの穴を抜ければ、魔理沙姉達の下まで後少し。
はやる気持ちと心臓を抑え、私は地上を飛んでいた速度でその穴へ勢いよく飛び込んだ。
はて、穴に飛び込むのは二回目かな。
半年ぐらい前、山の仙人の攻撃で突き落とされた(という形で飛び込んだ)のが一回目のはず。それ以外は記憶にないからね。そんな状況も訪れなかったはずだし。
まあ今回は前回と違って上に飛び込むんだけどね。
で、なんでこんなことを呑気に考えているかって言うと。
ゴンッ!
「ぃったあぁっ!」
何故か飛び込んで早々天井にぶつかったからなんだけどね。
そのまま落ちるか、と思ったけど、いつまでたっても体が天井に張り付いて落ちない。
というかあれ?これ張り付いてるというか、寝っ転がってる?
もしかしてこれ、天井じゃなくて床か?重力が反対になってるのか?
――冥界もまた幻想の一つ。重力なんていう現実は関係ないからね――
それもそっか。そもそも空中に空間が存在すること自体幻想郷ならではだったね。
「くっそぉ......!」
思いっきりぶつかった頭がまだヒリヒリ痛むけど、そんなのに構ってる余裕はない。早く早くと気持ちが身体を急かす。それでも帽子は忘れずに。
再び箒に飛び乗り真っ暗な中、石畳や階段が明るく見えるのでそれに沿って飛ぶ。
少しすると石に何かがぶつかったような痕跡がちらほら見えてきて、やがて木製の和風の門が見えてきた。その門の前も酷い有様で、抉れた地面には、一人の女の子が倒れていた。
こんな時ではあるが、見捨てることもできず女の子に寄ってみる。
白髪に黒いリボン。緑の服に長さが違う刀が二刀。そして私に気付き、女の子を守ろうとしているのか私と女の子を遮るように浮く少しばかり大きい白い霊魂。
どことなく見たことある容姿だなぁ...なんて。
――いやそれ明らかに
だよねー
「あー、もしもし?起きてる?」
「.........」
駄目だこれ早くなんとかしないとマジで。
このまま放っておいても別にいいんだろうけど、気絶した女の子を放っておくってのも心痛いし......だからってここでうだうだやってられないし......
――なら君の力で回復させて、戦力に加えたら?――
戦力?
――彼女は半人半霊。半分死んでるってのと同然だから、死の気配や力に強いはずだよ。君もお世話になったあのお爺さんはこの子の祖父兼師匠なわけだし。それにこの状況にしたのは彼女のせいでもあるわけだからね。尻拭いぐらいさせないと――
それもそっか。なら早速......
「悪いけど、少しどいててね。その子をちゃっちゃと回復させちゃうから」
そう言うと、半霊は私の言葉を理解したのか、退けてくれた。
だから遠慮なく横たわる彼女に近づき、回復魔法をかける。
少し説明すると、この魔法は龍のやつが教えてくれた今まで使ってたのとは比べ物にならないぐらいの効力を持った上位回復魔法だ。(というか今まで使えた回復魔法が雑魚だった)死にかけの状態でさえ死んでいないのなら回復できる。これを修行開始当初に習得させられたおかげで、今私が生きていられる、って言えるぐらい凄い魔法なのだ。...誰でも出来るってわけでもなく、才能や適性が必要みたいだけど。
だからこそ、恐らくは弾幕によるダメージ程度しか負っていない彼女程度なら回復させるなんて容易いことだ。
「――っ...ぅぅ......」
「あっ、気がついた?」
「え...?...敵っっぅ!」
「動いちゃダメだよ。まだ回復できてないんだから」
私を敵だと認識した女の子は動こうとするが、身体が痛むようですぐにまた横たわった。
「...違う人...?」
「ん?あぁ、もしかして魔理沙姉...多分ここを通った金髪の魔法使いだとでも思った?残念、私は榛奈。その魔法使いの妹だよ、魂魄妖夢さん」
「な、なんで私の名前を......」
「知り合いから貴女のことを聞いてたんだよ。貴女の容姿と名前をね。それで聞いてた容姿と同じだったからそうだと思ったんだけど...違ってた?」
「い、いえ、あってます」
「ならよし。ほら、もう動いて良いよ」
私が少し離れると、彼女はゆっくり上半身を起こし、体の状態を見ていた。
大丈夫なはずだ。あの魔法は私自身が自分にかけまくって実証している。かけまくったせいで他の魔法より得意になってしまったけど、それはそれで良いことなので気にしない。
「...ありがとうございます。助けていただいて」
「どういたしまして」
素直にお礼を言う彼女に返事をしながら、私はある方向を向いた。
死の気配が強い方。つまりは西行妖があると思われる方向だ。
こうして妖夢の相手をしている間にも気配はどんどん強くなっている。これほど強いと、通常の人間ならば即気絶するんじゃないか?
ともかく妖夢が起きた以上、ここでうだうだやってる必要はもうない。
「さて妖夢。貴女は周りに漂う死に気付いてる?」
「“死”......ぇ、なんですかこの妖力!?」
「気付いてなかったのか。まあいいや。とにかく動けるようになったのなら付いて来て。元凶をぶちのめしに行くよ。私にとっては家族や友人を助けるために。貴女にとっては貴女の主を助けにね」
「幽々子様が...?その話はどういうことですか?」
「貴女が気絶してる間に色々あったみたいなの。私も人伝えで聞いただけだけどさ。詳しくは道中話すから」
そう言って私が浮かび上がれば彼女もまた浮かぶ。
それを確認して、私達は一直線に西行妖の下へ飛んだ。
「な...なんなんだよこれ......」
目の前に広がるとてつもなく大きな桜。
『春の欠片』を与えられていたからか妖力を纏っていたその桜は、先ほどまではそれだけの印象だった。
しかし今はそんな印象を吹き飛ばすような光景が今私の目の前に広がっていた。
先ほどまであったあののんびりな奴の弾幕は無くなっていて、代わりに先ほどよりも多くの花びらが舞っていた。
「枝が...うねっている?」
「というより意思を持って動いているわね」
「どういう冗談だぜ?まさかあの桜に意識があるとでもいうのか?」
「魔理沙のその発言。あながち間違ってないんじゃない?」
「おいおい、まじか......」
霊夢の肯定に私は密かに冷や汗を掻いた。
いつの間にか消えている異変の犯人といい、あの妖怪桜といい、一体全体何がどうなってるんだぜ......
「死気が強くなっている...このままじゃまずいわね」
「どうまずいのよ、霊夢」
「さっきあの亡霊が言ってたでしょ。あの桜は何かを封印してるって。もしそれが復活したら...これだけ死気を放ってるのよ。幻想郷が破滅しかねないわ」
「じょ、冗談だよな?それ......」
「こんな時に冗談なんて言うわけないじゃない!」
「...くそっ」
霊夢の言う通りだ。私がその事実を受け入れたくなかっただけだった。
しかしあの亡霊でさえ苦戦してたってのに、今の私があれを倒せるのか?
――無理だ。そんなの。あんなの勝てっこな――
「――っ!?」
なんだ...いまの......
一瞬思考が消極的になった。
でも、なんでだ?こんなの、勝てるに決まって......!
――勝てるわけがない。霊夢でさえ焦ってる感じが伝わってくるのに、霊夢より弱い私が倒せるわけが――
そんなわけないだろ!
――私には無理なんだ。倒せるわけない。勝てるわけない。殺されるぐらいしかできない――
――無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ――
「ぁ...ぁぁ......」
「...魔理沙?魔理沙、どうしたの?」
「ぅ...ぅぁ......ぁぅ......」
「ちょっと!どうしたっていうのよ!魔理沙っ!」
誰かが身体を揺さぶってくる感覚がするが、そんな感覚が遠く感じるぐらい、私の意識は何かに呑まれかけていた。
――今更私に何ができる?死ぬしかないだろ。勝てないなら死ぬしかない。これは
「魔理沙!魔理沙!」
「何が起こってるっていうの?まさか魔理沙が怖気づくなんて思えないけど......」
「何が起きてるなんてこっちが聞きたいわよ!――チィッ!」
身体が揺れる。無理矢理引っ張られるような感覚。
何かが横を通って行ったように感じた。
「...何が起こってるか分からないけど、この馬鹿を放っておくわけにはいかないわ。どこか安全な場所に連れていかないと」
「なら私に任せて霊夢はこの妖怪の方を」
「ええ。頼むわよ咲夜」
「任せて」
不意に身体が浮いたかと思ったらすぐに誰かが私を掴んで、気づいたら地面に降ろされたような感じがした。
「魔理沙、貴女はここで待ってなさい。貴女に死なれると、妹様やあの子が悲しむもの」
「.........」
...あれ、私何してるんだ......?
ここは何処だ?どうして私が此処にいるんだ?
上の方では凄い音が聞こえていて、上を見れば大きな桜の木がゆらゆらと枝を振り回していた。その間を紅白の巫女服の誰かと、メイド服を着た誰かが飛び回っている。
あれは...霊夢と咲夜か?
どうしてアイツ等が......
...そうだ。私は異変を解決しようとして...それで......
...霊夢達は怖くないのか......?
あんなの、勝てるわけないのに......
怖い...嫌だ...死にたくない......
『大丈夫だよっ!』
「...ぇ......?」
『舞理沙は大丈夫。こんなところで死ぬわけないよ!!』
怖がって、ただ震えてただけの私に聞こえてきた声。
心が落ち着くような、安心できるような、優しい声。
その声は何故か私の耳に馴染んでいて......
『だって―――』
「――りさ!逃げてっ!」
「えっ?...ぁ」
急に叫ぶような声が聞こえて、その言葉を理解できないままに声の方を見れば、目で追うのがやっとなぐらいの速度で迫ってくる一本の枝。
先端が尖っているのと、真っすぐ私めがけて伸びているのでわかる。
確実に私を殺そうとしてるんだ。
死が迫って来てるからか、周りの時間が急に遅くなったように見えた。
遠くで霊夢が私に手を伸ばそうとしている。そんなことをしても私に手が届くわけじゃないのに。
咲夜はポケットから懐中時計を取り出そうとしてる。でも能力を使う頃には私の体を枝が貫いてるだろう。
あぁそっか。私ここで死ぬんだ。
こんなとこで、私、終わっちゃうんだ。
そんなの、嫌だよ......
助けて...榛奈っ!!」
「了解っ!」
「――っ!?」
その場には聞こえないはずの声。
その声が聞こえた時には私の目の前に、私と同じぐらいの女の子の背中があった。
金色の髪を靡かせて、真っ白でふんわりした服を着て、大きく頼もしく見えるその背中。
本当なら私がその姿を見せていないといけないのに、霧に包まれたような私の心を、穏やかな風で晴らしてくれる、安心してしまうその姿に私は情けなく声を漏らしてしまって......
「――ぁあ...ああ......」
「お待たせ魔理沙姉。助けに来たよっ!」
――
後書き~
もう少しカッコいい返事をさせたかったと思ってます。
それはともかく、前書きで『毎月最低一話』と言っておきながら言います。
しばらく変守録の方はお休みさせていただきます。
ここに書くと長くなってしまいますので、詳細は活動報告にて。
執筆活動をお休みするわけではありませんので、ご安心ください。
それでは次回予告。
次回、まだ書いてないけど多分榛奈さん本気モード出すんじゃないかな。魔理沙、落ち込まないでねっ!
そして謎の声の正体が明らかに......なるかもしれません。
それでは次回もゆっくりしていってね!