母からの手紙   作:しがみの

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1話 母が死んだ

「母が死んだ。」受話器の向こうから父の声が聞こえた。私、佐竹(さたけ)千秋(ちあき)が聞いたその声はいつもの様な元気のある声ではなく、悲しそうな声だった。

 

 

この知らせが入ったのは、1時過ぎから始まった5時間目の授業の時であった。5時間目は体育の授業で、体育館でバスケットボールをしている時、体育館に担任が飛び込んで来たのだ。その時、ちょうど試合の最中で、スリーポイントシュートを3回決め終わり、4回目を入れようとした時だった。職員室に向かい、受話器を教師から受け取り、何事かと思った時、父から母が死んだ知らせを聞いたのだ。私はその後、高校を早退し、姉の美穂(みほ)と共に横須賀市内の病院に向かった。市内の病院の霊安室に入ると、そこには、白い正方形の布が被せられ、今朝、出勤する時の姿とは違った身体が冷たくなっていた母、香苗(かなえ)の姿があった。父の和樹(かずき)や姉、そして見知らぬ人4人は母の遺体にむせび泣きながら抱きついていたが、私は涙一滴すら流さなかった。

 

 

私は母についてよく知らない。そして、私は母が余り好きではない。母についてよく知らない事。それは母の兄弟姉妹、仕事についてもだ。母は身体は強いが、何度も何度も理解不能な入院を繰り返していた。え?何でこれについて知ってるかって?私は見たからだ。母の仕事が休みの日、母が夕食の準備をしていた時の事だった。母が魚を捌いている時に間違えて包丁で指を切ってしまったのだ。「痛・・・。」母は落ち着いた様子でそう言うと、ティッシュで指についた血を拭き取った。すると、さっきまで切れていた指がくっついていて、さらに血まで止血していた。とても不思議な光景だった。それを見たのは私が保育園生、いや確か、5歳か6歳の頃だったが、今でも脳裏に焼き付いている。

 

 

そして、私は母が余り好きではないと言った訳。それは、母は私よりも仕事を優先し、一緒に遊ぶ事も、小学校や中学校の授業参観や運動会、体育祭に来ることも、指で数えるくらいしか無かった。例え、一緒に遊ぶ事が出来ても、途中で仕事場から電話がかかってきて、母は直ぐに仕事場に向かってしまう。そのため、私の心の中では〝母は私よりも仕事を優先する人〟と、勝手に決めつけていた。今朝も私が起きた時も、階段から降りてきた私とすれ違い、「おはよう」しか言わず、母は直ぐに出勤して行った。その母が今ここに居るのだ。冷たくなって。

 

私は好奇心があったのか分からないが、母の身体を覆っていた白い布を捲ってしまった。白い布を捲ると、そこには左腕と右足が無く、身体はアザだらけ、顔はススだらけになっていた母の姿があった。母は薄い紫色のショートヘアで、赤っぽい目をしていたが、亡くなった母の両目は閉じており、髪の毛はところどころ焦げていた。姉はその姿をみて驚いていたが、父はその姿を見ても泣いたままだった。私はその時確信した。「父は何か知っている」と・・・。しかし、父に訪ねてみても父はただただ泣いているばかりであった。

 

ふと私は気づいた。父がいつもの服装では無かった事を。父はいつも出勤する時はスーツであったが、今の父は警察官みたいな服装だった。左胸部分には訳の分からない長方形のワッペンの様な物がついていて、袖には黄色で中くらいの線と同じ色でかなり太い線がそれぞれ1本ずつ引かれていた。父からは警察官ではないと聞いていたので、私は不思議がりながら父の服装を見つめていた。

 

 

 

1時間程して、母は父の車であるシルバーのワンボックスカーに載せられた。私は父の後ろをついて行っている姉の車に乗っていた。多分、母の実家に向かっているのだろう。母の実家は横須賀市の北東部に位置する逗子市にある。私はそこに向かうまでの車の中で何もすることがないので、窓からずっい雲が立ち込めてきた海だけをずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉の運転する車に揺られ、30分程が経ったのか分からないが、隣接都市である逗子市にある母の実家に着いた。父の実家は関西の伊丹付近にあるため、父の実家に行ったのは数える程の回数しかないが、母の実家は数えられないほど来た事があった。それは、まだ私と姉が幼い時、母が仕事で私の面倒を見れなかった時などに私と姉を実家に預けていたからだ。中学の時を最後に実家に預けるのは無くなったが、それより後も2ヶ月に1回ほどは行くことはあったが、高校生になってからはめっきりと無くなった。高校生になってから始めて来る母の実家は私は車から降り立つと、広い敷地の中心に佇む家の中に入って行った。

 

家の中で1番広い和室に向かうと、中央に真っ白な棺桶が置かれていた。和室に入ると直ぐに明日お通夜をすると、父が話してくれたが、周りにいる4人は一体誰なんだろう。全員喪服を着ている。1人目は栗毛色の髪をしてなんかバネのようなアホ毛がてっぺんについているよく分からない女性。2人目は、ロングの黒髪を三つ編みにして右肩から垂らしている女性。3人目、茶髪でセミロングの女性。4人目を見た時、アレはないと思った。中二病?なのか、眼帯をしている緑と黒の中間の髪をしている女性だった。百歩譲って髪の色は許そう。私の髪だって母の遺伝子で薄い紫色だからだ。しかし、あの眼帯は無い。「こんな場で眼帯なんて気が狂ってるんじゃないのかな?通常、眼帯は目の病気なの時につけるが、アレは・・・、趣味かキャラ作りだ・・・。何故かって?病院で眼帯取っていたからだ。しかも、あの女性達に「眼帯くらいとりなよー。」とか言われてるし・・・。やっぱりあの眼帯はキャラ作りか・・・。でもそしたら喪服なんて着ないぞ?じゃあこの家の子孫かな?」そう思いながらその人達の横を通ると

 

「あ、君。もしかして、多m・・・、香苗の娘の千秋ちゃんクマ?」

 

と、〝クマ〟という語尾がついた声が背後から聞こえた。「語尾が〝クマ〟とか・・・。キ〇ガイか、それともキャラ作りか・・・。」そう思いながら私が振り返ると、母と私の名前を呼んだのはさっき、「キチ〇イじゃないのか?」と、こっそりと考えていた4人のうちの1人である栗毛色の髪をしてなんかバネのようなアホ毛がてっぺんについているよく分からない女性だった。

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