それから約2時間ほど、執務室にはペンを走らせる音がずっと響いていた。
ちなみに電はと言うと……まぁ、うん。
電はそのままでいてください。
さて、そんなこんなで時刻はヒトロク:マルマル。
そろそろ夕食の準備をしないといけない。
電がしてくれたり、間宮さんとか鳳翔さんとかがいてくれたのなら楽なのだが、生憎どちらも期待出来ない。
なので俺がやらなければならない。
……本当、親から家事とか教えてもらっておいて良かった。
「電、そろそろ夕飯作るけど、食いたいのあるか?」
「別に食べれたら何でも良いのです」
うぅむ、一番困る答えを返してきやがった。
どうしようかねぇ……。
「ほれ、焼き飯」
冷蔵庫にも大したものが入ってなかったので、さっと作れる焼き飯を作った。
所詮男飯なので、そこまで自信は無いのだが。
そしてさっさと食い、片付け、再び執務室。
書類自体は殆ど片付いて居るので、特にやる事は無い。
電は『榛名』の元へ夕食を届けに行っていていない。
そう、すなわち
「……暇だな」
何もする事がない今の時間。
こんな感じの時間は好きだ。
何もせず、ただぼんやりと、窓の外の景色を眺める。
そこには何1つ、偽りや計画なんてない。
ただただ、外を……強いてゆうなら夜空を見上げる。
目に映るのは、満天の星空。
もしかしたら深海棲艦達も、この星空を見ているのかもしれない。
もし見ていたとしても、俺には何ら関係の無いのだが。
そして、俺は窓から目を離し、執務室を見渡す。
俺の目には、2週間前と"何ら変わりのない"執務室が、映る。
来客用らしき机と椅子はグチャグチャに壊れており、側には電が秘書艦用にと電が持ってきた机と椅子。
窓は外側から割れ、床には血が飛び散った後が……
「……」
何度も、何度も俺は、この執務室を片付けようと試みた。
電も、執務室を片付けるのには賛成してくれ、珍しく手伝おうともしてくれた。
だが、ダメなのだ。
どれだけ強い力を込めて床についた血を擦っても、一切汚れが落ちた様子は無い。
箒を使ってガラスの欠片を集めようとしても、まるで磁石のように床に張り付いて、箒がダメになるだけ。
机と椅子の残骸なんて、持ち上げることなんてもってのほか、扇風機などの風を使っても、チリ1つ巻き上がらない。
一切ダメだった。この執務室を片付けるのは。
何度も、何度も、何度も挑んだが、全て返り討ち。
まるで、"そこに存在し続けなければならない"と"命令"されているかのように。
そこに存在するのが、たった1つの意味だ、と言わんばかりに。
この部屋は、変わる事を拒んだ。
いや、部屋だけじゃない。
あの時の斧だってそうだ。
刃の部分についた血だって、何度洗っても落ちない。
それだけじゃない。
港、廊下、俺が壊したドア、電が割った窓。
それらも、それら以外も、何1つ片付けることが、俺たちには出来なかった。
執務室だけじゃない。この鎮守府がだ。
この鎮守府の全てが、変わる事を拒む。
俺と電は変わった。
憎む、憎まれると言う関係から、互いを利用しあう関係へと。
もしかしたら俺は……いや、"俺たち"は、今もまだ、歓迎なんてされていないのかもしれない。
むしろ、憎まれているのかもしれない。
鎮守府という、1つの大きな"存在"に。
その日、俺は夢を見た。
不吉な、そして奇妙な夢。
電が、俺が、そして未だマトモに話もした事がない榛名までもが、何かに追われ、この鎮守府から逃げ出す夢。
その追いかけてくる謎の存在は、靄が掛かってよく見えない。
ただ、真っ白な髪を持つ存在。
それ以外の何1つ、そいつに関して俺は分からなかった。