後、3章に入るにあたり時間が結構飛んでます。
飛んだ期間にあった話としては、最近思いついたネタ回をEXとでもしてそのうち投下します。
なお、1つ言うことがあるとするならば、ここからが本当の、ブラック鎮守府を再建する物語。
つまり、本編スタートです。
影、油断、または慢心。
薄暗い……どこまでも、ただただ薄暗いその場所で、カツーン、カツーンと、一定のリズムを響かせながら、それは近づいてくる。
カツーン、カツーン。
その音は、何処か楽しそうにも感じられた。
まるで、楽しみにしていた玩具をやっと手に入れることが出来、早くそれで遊びたいとそわそわしているように。
そんな、とても何かを楽しみにしているような、そんな足音に感じられた。
カツーン、カツーン、カツーン。
その音は響く。
まるで、その薄暗い場所にいる存在に、ああ、まだ続くのか……と絶望を押し付けるかのように。
ゆっくり、ゆっくりと、近づくことすらも楽しんでいるかのように、音を響かせ、近づいてくる。
それは、周りに比べると、ほんの少し明るい場所に辿り着いく。
天井には小さな電球が吊り下げられ、その場所のみ、僅かに明るくなっていた。
それの、影が伸びた。
その影は……とても奇妙な形をしている。
姿は人間だ。面影も人間だ。
だが、頭部付近、そこが……変だ。
まるで、頭が2つ有るのかと錯覚してしまうように。
その影は奇妙だった。
肩に何か細長い物を担いでいるように見え、更に頭が2つついているようにも見える。
その影だけを見るのならば、まさしくそれは怪物なのだろう。
しかし、その影は、その奇妙な部分……2つあるように見える頭の片方を、まるで髪を引きちぎろうとしているかのように、掴み、それを床に放った。
ドタッ、と音を立て、それは落ちる。
ギリギリ、本当にギリギリだが、それは僅かな明かりの範囲内に落ちた。
つまり、その落とされた存在の、影が出来る。
光あるところに影があり、影があるところに光がある、という原理だか法則だかに従って。
その影は、人の形をしていた。
ただし、それの影に比べれば、まだまだ幼子のような影だが。
それは、その影を見下ろす。
そして、何処かへとまた、カツーン、カツーンと音を立て、動いた。
それが少し離れたであろうタイミングで、その影は動こうとする。
まるで、チャンスをずっと狙っていたかのように。
しかし、その影が動こうと……強いて言うなら、立ち上がろうとしたように見える動作を行おうとした瞬間、その影は諦めたように肩を落とし、ゴロンと、再び床に寝転がる。
全てはもう遅かったのだと、諦めた様にも見えた。
その影は、再びそれが、カツーン、カツーンと音を立て、その影に近づいてゆき、再び担ぎ上げられるまで、じっと、動きもせず、もがきもせず、ただただじっと、待ち続けていた……。
それは、いつも通りの朝に起きた事だ。
いつもと同じように、マルゴウ:マルマルに、目覚まし時計が鳴り、起きなければいけないのだと、嫌々ながらも受け入れ、うるさく鳴り響き続けている時計を止める。
そして、布団から何かの脱皮の瞬間のようにモゾモゾと抜け出し、いつもの白い提督用の服をタンスから出し、代わりにパジャマを適当に放り込んで着替える。
そして、12月にもなり、寒さが厳しくなってきた廊下を、若干猫背になりながら執務室へと向かって歩く。
そして執務室へと辿り着くと、まず真っ先に暖房を入れ、その後に洗顔や歯磨きを済ませ、マルロク:マルマル丁度に、総員起こしを掛ける。
まぁ、総員と言っても、着任してニヶ月経った今でも、2人しか居ないのだが。
まぁそんな事は放っておいて大丈夫だ。
ニヶ月間、電は単艦で出撃し、稀にちょっと弾がかする程度のダメージしか負っていない。
そして、未だにこの鎮守府に任せられている海域は、鎮守府付近10kmのみだ。
つまり、2人から3人に増えようが増えまいが、やる事は変わらない。
書類なんて、一週間分の出撃に関する報告書を纏めれば、後は特にやる事は無い。
出撃に関しても、ニヶ月間も繰り返せば電も俺も、必然的に何をやるべきか、やらないべきかを理解してしまう。
その為、電に任せておけば何ら心配は無い。
この鎮守府は大本営もさほど重要視しているわけでもなく、働きアリの法則とかに照らし合わせれば、ここは怠ける場所だ。
故に深海棲艦も、こんな場所なんて狙わない。
だったらもう、ブラック鎮守府の被害にあった艦娘の保護施設みたいな方がいいんじゃないか……俺みたいな人間にも、そう思わせてしまうぐらいに、この鎮守府は平和だ。
本当に日本は戦争をしてるのか?
そんな疑いを持ってしまうほどに。
故に、執務室について提督机に座り、5分も経たないうちに俺は暇を持て余した。
そりゃそうだ。
やらなきゃいけない書類なんて、全然ない。
唯一、午後になったら電の出撃がある為、それの書類を書かなければいけないが、それも10分もあれば、コーヒーを飲み終わる時間までつけて余る。
途轍もなく暇だった。
思わず、この鎮守府は元々ブラック鎮守府だったんだという事を忘れてしまうほどに。
平和……"だった"。
だからだろうか?
今、俺のこの状況は、俺が引き起こしてしまった事だ。
つまり、俺が悪い。
俺の慢心が、油断が、この状況を引き起こした。
「なぁ電。本当に俺は何もしてないんだって」
「なら榛名さんがああなったのはどう説明するのです?」
「それがマジで分かんないんだよ……」
そこには、いつかと同じように首根っこを取り押さえられ、床に取り押さえられている俺の姿があった。
その数歩先には、いつか見たときと変わらず、相変わらずハイライトオフの榛名が、座り込んでいる。
その近くには、例の血がこびり付いて落ちない斧。
別に、俺が榛名に向かって何かをした訳では無い。
ただ、忘れていただけだ。油断していただけだ。
ここは元ブラック鎮守府。
つまり、電や榛名には、何らかの"トラウマ"が残っている……という可能性を。
……懸念していなかった、ただ、それだけだ。