提督、着任。
大本営から、高速道路でバスに揺られること約6時間半。
ようやく、俺が提督としてデビューする鎮守府に到着した。
時刻はヒトゴウ:マルマル。
俺はバスから降り、強張った筋肉を解す。
士官学校では6時間ぶっ続けでの座学なんてザラだったので、そこまで疲労は溜まっていないが、やはり強張った筋肉がポキポキと言いながら柔らかくなっていくのは、何かから解放されたような感覚に俺をしてくれる。
「さて、長時間の運転。お疲れ様でした」
「いえいえ、これが仕事ですので。提督殿のお荷物は既に鎮守府に運び込まれています。後、元帥様からこのような物を預かっております」
そう言って、バスの運転手さんは俺にA4サイズくらいの封筒を差し出した。
「ありがとうございます。後で確認しておきますので」
俺はそう言い、運転手さんに頭を下げてから、鎮守府へと向かった。
「……にしても、やっぱりデカイなぁ〜」
鎮守府の壮大な外観に、少し気圧されてしまう。
だが、今日からはここで艦隊を運用しなくてはならない。
シャキッとしないと。
俺は覚悟を決め、門に手をかける。
ギギギィっと音を立て、ゆっくりと門が開いていく。
俺はスルッと中に入り、門を閉め、とりあえず執務室へと向かった……のだが、なんだろう?
何か違和感を感じる。
「なんか、誰もいる気配が無いんだが……」
先ほどから、ネズミの子1匹の気配すら感じない。
おかしい。
俺が配属された鎮守府は、元々別の先任が部署異動の為に空になり、そこに俺が送り込まれた感じだ。
そして、先任は既に1年ほど、この鎮守府で提督として過ごしている。
ならば、普通は艦娘たちの気配が少しはするはずなんだが……さっきから本当に何も感じない。
俺は、バスに乗る前に渡された、この鎮守府に着任している艦娘の一覧表を取り出した。
「この表を見る限り、80艦程はいるはずだな。仮に出撃していたとしても、大型作戦でも無い限り、一度に出撃出来るのは6艦だけだし、遠征を入れたとしても、50くらいの数はいるはずだ」
なのに、この静けさはなんだ?
なんにせよ、とりあえず執務室に向かおう。
「……なんじゃこりゃ」
執務室へついた俺だが、中は凄まじい事になっていた。
大人数が座れる大きな机はグチャグチャに破壊されているし、そもそもドアが無い。窓ガラスは外側から割れているし、何より不思議なのは、床一面に広がるこの赤いシミ。
俺は手を伸ばし、シミに触れてみる。
「……コレ、まさかとは思うが血か!?」
いや、間違いなく血だった。
俺は困惑しながら、とりあえずこの部屋で唯一無事な提督が座る机に手荷物を置いた。
「とりあえず、どうしようか?」
マニュアル通りなら、既に大淀という艦娘が俺に提督としての色々なことを教えてくれている筈なのだが……どうにも姿が見えない。
まぁ、いいか。
「さて……資材でも確認しておくか」
艦娘を運用するに当たって、真っ先に必要なのが資材だ。
これが無いと出撃も出来ない。
て訳で、資材庫行きますか。
「……え?」
これは何かのまぼろしなのだろうか?
俺の持っている書類には、各資材は10万以上、弾薬に至っては15万近くあると示されている。
だが、今俺の目の前に広がる光景は……悲惨だ。
「……10万どころか、合計100も無いんじゃないか、これ」
そう、全く数が無いのだ。
試しに数えてみると、燃料29、弾薬35、鋼材22、ボーキサイトに至っては7しか無い。
「……」
ヤバイ、人って本当に呆然とすると、声が一切出ないんだな。
そんな事を呑気に考えながら俺は、目の前の状況を理解しようと、必死に頭を巡らせていた。