「……榛名さん。どうかしたのです?」
俺の関節を極め、取り押さえられた状況のまま、俺を抑えている艦娘は、入ってきた奴に話しかけた。
「榛名」と呼んでいたことと、巫女服のような感じの服装から、目の前のこの艦娘が「金剛型戦艦3番艦隊、榛名」である事が分かる。
戦艦榛名。
詳しい事はあまり知らないが、金剛型で唯一生き残ったとか、第一次近代化回収を初めて実行された戦艦だということぐらいなら知ってる。
しかし、妙だ。
以前見た戦艦榛名という艦娘は、なんと言うか、大和撫子? みたいなのを具現化したような感じの奴だったはずだ。
少なくとも、今俺の目の前にいる榛名のような、虚ろな目をするような奴ではない。
俺がそんな事を呑気に考えている間に、榛名は電の言葉に反応を示さず、ふらふらと近づいて来る。
そして俺の目の前まで来、虚ろな目で俺を見下ろしながら呟いた。
「……金剛お姉様、いない」
それを聞いた途端、上の奴は俺から離れた。
「金剛さんなら、今出撃中なのです」
「……いつ、帰ってくるの?」
それを聞き、えーと……服装や、後ろ髪を特徴のあるリボンで纏めているところから見て、おそらく暁型駆逐艦の電だろう。電はほんの少し苦い表情を浮かべた。
「多分今日は帰ってこれないのです。でも、金剛さんがカレーを作っておいてくれたのです。だから、食堂で一緒に食べるのです」
それを聞き、ほんの少しだけだが寂しげな表情を浮かべる榛名。
だが、電は御構い無しに榛名の手を引っ張り、資材庫から出て行く……直前で榛名を先に出し、こちらを振り向いた。
「とりあえず、いま提督に鎮守府をうろつかれると、心底面倒なのです。執務室の掃除でもしてるのです」
それだけ言うと、電は資材庫を出て行った。
後には、よく状況を把握できていない、俺のみが取り残される。
「……とりあえず、執務室行くか」
今の俺に出来ることは、多分これ以外無いのだろう。
俺はため息を吐き、俺は資材庫を出る。
何故だろうか?
沈んでゆく太陽を見た瞬間、俺は酷く寒気を感じた。
まるで、何かが俺を監視し、嘲笑っているかのような感覚が、俺を襲う。
俺はその視線から逃れたくて、急いで執務室へと走って行った。
「……本当、何があったんだろう」
執務室へ戻って来ると、やっぱり悲惨な状況だった。
とりあえず、このままここの提督として生活していくのなら、この部屋はなんとかしないといけない。
「とりあえず、まずはガラスからか」
流石にガラスの破片を素手で片付けようとするほどバカではないので、箒を探す。
しかし、机の残骸などが散乱しているような部屋に、箒があるわけも無い。
「掃除しろって言われても、道具が無けりゃなぁ〜」
仕方ない。
ガラスの破片の掃除は諦め、とりあえずさっきから気になっていたこの血らしきものをどうにかしよう。
幸いな事に、血らしき物の付近にはガラスが飛び散ってないので、俺は未だに置くに置けていない私物のカバンから適当にタオルなんかを取り出し……
「……水が無い」
こりゃダメだな。
仮に血だとしたら、乾拭きなんかでは決して落ちない。
仕方ない。今は掃除は諦めますか。
そうだ。資材についての書類とか確認しないと。
そうして、この部屋で唯一無傷な家具。
提督机にひとまず腰掛ける。
そして、書類を探すのだが……
「……DVD?」
発見出来たのは3枚のDVDだけだった。
それぞれ、ケースには
「金剛」、「曙」、「朝潮」と書かれている。
と言うか「金剛」、「曙」、「朝潮」って……
「全部、艦娘の名前だよな。……なんだコレ?」
よく分からない。
先任は艦娘の成長記録でもつけていたのだろうか?
「まぁ、良いか」
ふと時計を見る。
どうやら時計も壊れるような事にはなっていないらしく、その時計は、現在がヒトナナ:マルマルである事を教えてくれる。
「腹減ったな……。確か間宮食堂だっけ? そんなのがあるはずだよな」
俺は暴れる腹の虫を収めるため、とりあえず執務室を出て、間宮食堂なる所へと向かった。