申し訳ございませんでした。
「や、やっと終わった……」
たった今、山の様に積もりに積もっていた書類の山をようやく全て片付け、大きく伸びをする。
時刻はマルゴウ:マルマル。
実に8時間近くずっと書類と格闘していた事になる。
「ったく、なんで俺に関係無いような書類まであるかねぇ〜」
書類は酷かった。
俺がこの鎮守府に着任して1日も経っていないのに、まだ出してもいない出撃の報告書などが大量にあり、それに出くわすたびにどう処理していいか悩んでいたのだ。
「先任さんは何をやっていたんだよ……」
まぁ、どうせろくな事はしてなかったのだろう。
電の、提督という存在へ対する殺意を見れば、嫌でも分かる。
恐らく、ここは元ブラック鎮守府だ。
そうと考えれば、色々と辻褄が合う。
資材に関する書類だって、先任か黙って持ち出したと思えばしっくり来るし、何故電が提督を恨んでいるかもハッキリする。
考えたく無いのは榛名に関してだが……まぁ、ここで提督としてやっていくのなら、いつかは通るんだ。
今は、ゆっくりと前に進もう。
「しかしマルゴウ:マルマルか。提督はこの時間には執務室にて待機していないといけないんだよな、確か」
毎日決まった時刻になると、デイリー任務というのが、提督には発生する。
まぁ簡単に言えば、兵器の開発をしろだとか、艦娘を建造しろとか、そんな感じのだ。
そして、それを達成すればする程、次の週の月曜日に支給される資材の数が増えてゆく。
提督はそうやって、貴重な資材を確保していかないといけないのだ。
「しっかしなぁ〜。ボーキサイト10すら無いから開発すら出来ないし……」
ちなみに、兵器の開発に必要な最低資材は、all10だ。
艦娘の場合はall30。
いずれにせよ、今のうちの状態では不可能だ。
「はぁ、どうするかねぇ」
例えデイリー任務が達成できたとしても、その報酬が届くのは来週の月曜日。
今日は土曜日なので、最低でも後2日は、この状態で耐え抜かないといけない。
「とりあえず、まずは朝飯を食おう。食いながら、どうするか考えよう」
そうして俺は、間宮食堂(書類を見て確認したのだが、この鎮守府に間宮さんはいないので、間宮食堂と言っていいのか疑問だが)へと向かった。
そうして、もう案の定と言うか、やはりパンの耳を3分で食う高速朝食を片付け、俺は釣竿を持ち、鎮守府の端っこ……俗に言う、「バケツ先輩」のある場所までやって来た。
さっきスマホで色々調べていて知ったのだが、何故かこの時期になると、全国の鎮守府の近海では秋刀魚が取れるらしい。
それは此処でも例外ではないようで、時折海の上でぽちゃんと、魚が飛び上がる音が聞こえる。
俺は早速釣竿を準備し、竿を投げ入れた。
そして待つこと数分。
早速ヒットし、少し小ぶりだが、秋刀魚の一本釣りに成功する。
「よし、とりあえず目標8匹!」
実はこの秋刀魚釣り、"もしかしたらここでの食事、全てパンの耳かもしれない"問題や、資材不足の問題を解決してくれるのだ。
実を言うと、先ほどのデイリー任務の中に、「秋刀魚を3匹集めろ」という物があったのだ。
それを達成するに従い、各資材400ずつ、達成した際支給される。
このチャンスを逃す程、俺は愚かでは無い。
という訳で、秋刀魚一本釣り続行……
していたのだが。
「ヤベェ、さっきの1匹から1つも当たりが来ない……」
もしかしたら、先程の1匹を見て、皆沖の方に逃走してしまったのだろうか。
いや、それでも釣るしか無い。
それしか、今の所先の問題を解決する方法など無いのだから!
今日は……いや、違う。
今日から、私の1日は変わる。
願ってもいない方向へ。
今、奴は鎮守府の端っこで何かをしている。
私はそれを確認すると、久しぶりに……約一ヶ月ぶりくらいになるのだろうか? 駆逐艦、軽巡が寝泊まりする寮へと向かった。
ここしばらく、私は榛名さんの部屋に泊まっていた。
と言うのも、榛名さんが泣きそうな(と言うか実際泣いていた)顔で私に頼み込み、私が了承していたという形でだが。
しかし、この鎮守府にも"提督"が着任したとなれば、私にはやらなくてはいけないことが増えてゆく。
「絶対に……絶対に今度こそ、守って見せるのです」
脳内に、みんなの笑顔が浮かび上がってきた。
それは、懐かしい記憶。
何度も取り戻したいと願い、そして自ら"破壊"してきた笑顔。
その笑顔を思い浮かべ、電は寮の廊下を走る。
今度こそ。今度こそ、守るため。守り抜くため。
走る。
走る。
走る。
その部屋は、変に薄暗かった。
カーテンは締め切られており、室内の至る所に、写真が飾られている。
その写真の全てに、1人の少女……艦娘が写っていた。
その写真の彼女は、笑顔だった。
まるで、太陽の日差しを浴びて、喜びの声をあげる植物たちの様に。
大好きな食べ物を食べ、満面の笑顔を浮かべる子供のように。
爽やかな、賑やかな、楽しそうな、笑顔だった。