しかし、この小説では都合のいい時になるまで秋刀魚漁は続きます。
ご了承ください。
そして、そろそろ一章が終わります。
一撃で、仕留めるつもりだった。
一撃で仕留め、この鎮守府の平穏を取り戻す筈だった。
……筈だったのに。
「なんで、言うことを聞かないのですか! この右手は!」
ダメだった。
主砲を構え、確実に狙いを定め、撃った筈なのに、直前で狂い、結果外してしまった。
このザマだ。
結局自分は、誰も救えない。何も守れない。
ただただ命じられる通りに動き、やがて壊れるだけの"玩具"でしかない。
そんな、存在でしかないのだ。
この、"暁型四番艦「電」"という物は。
「もう、どうでも良いのです。さっさと解体するのです。……提督!!」
そして電は、自分をじっと見下ろしている提督に叫ぶ。
提督は何も反応せず、ただただ見下ろし続けた。
右手に、おそらくドアを破壊する為に使ったのであろう斧を握って。
そのまま、電と提督はじっと、睨み合う。
いや、正確には電車が一方的に睨み、それを提督がじっと見つめると言う状態なのだが。
「……もう、終わりなのか」
唐突に、提督は電に語りかける。
問い詰める……ではなく、問いかけるように。
「……何がです?」
「もう、お前の提督に対する"八つ当たり"は終わりなのか?」
「……」
八つ当たり?
八つ当たりといったのか?今、こいつは。
「……けんな……」
「ふざけるな!!」
電は叫び、右手の主砲を提督に向けて突き出す。
12cm単装砲という、艦娘の装備の中ではかなり貧弱な分類に値するが、それでも、人間の息の根を止めるには、十分な威力を持っている。
しかし、提督は避けるような動作を一切せず、ただじっと待ち受ける。
そして、提督の顎に主砲がぶち当たる……直前で、主砲は止まった。
提督は一切手を出していない。
ただ、電の腕の長さが足りなかった訳でもない。
ただ、殴れなかったのだ。
電には。
正確には、提督の"視線"に、電は耐えられなかった。
ただ、それだけだ。
電は膝から崩れ落ちる。
そして項垂れ、何も喋ろうとはしない。
ただ、下を見続ける。
「……そうか」
そして提督は、電の目線に合わせるように屈み、ポンと、頭に手を置いた。
「なら、それで良い。そのままでいろ」
「そのまま、生き続けろ」
電は何も反応を起こさない。
ただ、項垂れ続ける。
「……落ち着いてからで良い。俺は昨日に続いて釣りをするから、落ち着いたら来い」
そう言い残し、提督は去って行く。
そこには、項垂れ続ける電が、残された。
「……」
ただただ俺は、海の上で揺れる竿の先を見つめていた。
あれから、小一時間ほどが経過している。
やはりと言うべきか、秋刀魚は釣れず、ただただ時間が経過していく。
ふと、後ろを振り向く。
電が、立っていた。
何も言わず、静かに俺の横に座り、俺と同じように、釣糸を海に垂らす。
「……」
「……」
そのまま、静かな時間が流れる。
どちらもただ、自分の竿の先を見つめ続ける。
そこに、先程までの殺気は無かった。
あるのは、ただただ流れてゆく、時間だけ。
まるで、自分以外何1つ無い世界に迷い込んだかのように。
時間はゆったりと、しかし、先程のような気配は一切なく、流れてゆく。
「なぁ、電」
「……なんです?」
「お前はさ、何で提督が嫌いなんだ?」
唐突に、俺は電に問いかける。
そこには相手を重んじる素振りは無い。
ただ、自身の欲求の為に、俺は足を突っ込んだ。
「……憎いから。憎くて憎くて仕方ないから、じゃダメなのです?」
「別にダメとか、そういうのじゃねぇよ。ただ、理由を聞いてるだけだ」
「なら、今言った通りなのです。ただただ憎い。憎くて仕方ない。それだけです」
「……そうか」
俺は迷った。
今からしようとしている事を。
コレを言えば、俺はこいつとどうにかやっていくしかなくなる。
それは提督として着任したから当然だと言われるかもしれない。
だが、"上辺でかかわる"と、"自分から関わる"とでは訳が違う。
それでも俺は……
「なぁ、電」
「お前さ……
俺の"道具"として、生きてくれないか?」
自分から、関わって行こう。