ワーレンのグルニア派遣軍の将軍であるカナリスは一人優雅にワインを飲んでいた。
目の前の大テーブルには様々な異国の料理が用意されている。
「カミュ将軍、ようこそおいで下さいました」
カナリスがカミュ将軍とよぶその男は促されるままテーブルの近くの椅子に腰をかける。
その将軍は美麗としか表現しようがない容姿をしていた。金色の髪、青い瞳、非の打ち所がない容貌。
女性とも見間違える外見のその男がグルニア、ひいてはアカネイア一の戦士の一人である事は広く知られている。
「カナリス、盛大な歓迎ご苦労」
カミュは自分の近くにいる護衛の騎士達にもテーブルにつくように促す。少し戸惑いながらテーブルに付く護衛の騎士達。
「カミュ将軍」
カナリスは食事に手をつける前に姿勢を正し、カミュに向かってそう言った。
「どうか、ワーレンへの総攻撃は見送って頂きたい」
カミュはワインに口を付けながら無言でいる。
「私はこのワーレンが戦禍に包まれるが我慢できないのです」
カナリスはそう言い、目の前にある料理を口に入れる。
「国王陛下からの命令である、なんとしてもアリティア軍をここで殲滅せよと」
カミュはそう言い自分も料理に手をつけ始める、護衛の騎士達にも食事を促す。おずおずと料理に手をつけ始める護衛達。
「このワーレンはまさにこのアカネイア大陸と世界を繋ぐ街、ここにいると自分達がいかにアカネイア大陸という小さな所にいると気づかされます」
カナリスは肉料理を口に入れながらカミュにそう言った。
「ほう、我々の住んでいるこの大陸、ひいてはグルニアが小さいとはな」
カミュは苦笑しながら料理を口に運ぶ。
その料理が麻婆豆腐とかいう料理であることをカミュはつい先日知った。
「たしかに我々が世界の全てだと思っているこの大陸は、本当の意味の世界からすると小さいだろうな」
カミュはそう言い、口の中をすすぐため、茶に手をのばす。護衛の騎士達も思い思いに料理に手を伸ばしている。護衛の騎士の一人がある料理を口にして「うっ」と呻き声を上げる。
「ベオフ、お前にはその料理は口に合わぬか」
カミュがその騎士をからかう。ベオフと呼ばれた騎士はこう答える。
「これは腐った豆ではございませんか、このような物を有難がって食べる人間が理解出来ませんな」
ベオフはそう言い、口をワインを流し込む。カミュはそれを見ながらカナリスに軽い調子で話す
「たしかにこのような珍しい料理はアカネイア大陸にいるだけでは食べれないな」
カミュはそう言い「ライデン、お前も食え」と料理を勧める、白い穀物に生魚が乗っかっている料理だ。ライデンと呼ばれた騎士はそれを口に頬ぼる。
「カミュ様、これはなかなかの珍味です」
喜んで食べているその騎士に微笑みながら、カミュはカナリスに向かってこう言う。
「しかし、カナリス」
カミュは水を口にしながら話を続ける。
「先程も言ったが、陛下の命令である。あくまでもアリティア軍がワーレンに籠城するならば、我々はワーレンを焼き払わねばならない」
カミュは食事の手を止め、カナリスにそう告げる。それに対してカナリスはある秘策があるという。
「グルニア軍の主力をこの館から遠く離れた場所に布陣させます、さすればアリティアはこの館を目指し奇襲を仕掛けて来るはず、そうして私が討たれれば、ワーレンを戦いに巻き込む事はなくなる」
カナリスはその自分の言葉の意味が解っているのかどうか、白ワインをグイッと口に流し込み。遠くバレンシア大陸という所から輸入された極上品だ。
「カナリス様、貴方はこのワーレンで死のうと考えているのですか? なにを貴方がそうさせているのですか?」
騎士の一人がそうカナリスに問い詰める。
「いつから貴方はグルニアの騎士ではなく、ワーレンの人間になったのですか?」
騎士は不審げな眼差しをカナリスに向ける、その騎士に対して「ロベルト、控えろ」とカミュがたしなめる。
その言葉に対してカナリスは姿勢を正してこう答える。
「私はこの街を愛しているのですよ。この世界との玄関口であるこの街をね、この街にいると自分がいかに小さな所にしがみついているか解るのですよ。私はこの街の良さをアカネイア中の人々に知ってもらいたい。アカネイアの人々が自分達の大陸の他にも、いろいろな国があり、いろいろな人がいることを知れば、このような小さな大陸で争う事がなくなってしまうかも知れません」
カナリスは一気にそう言うと、一気に白ワインを飲み干した。
「他の広い世界か……」
カミュはそう言い、先日カナリスから受け取った三本の槍の事を思い出した。太陽だか流星だかそんな名前がついたこの槍は遠くバレンシア大陸の物だという。アカネイアには無い作りの槍、そして素晴らしい作りの槍だ。カミュはこの槍の内、一本を国王に献上し、もう一本を自分の武器に、そしてもう一本をこの護衛の騎士達の一人に譲った。
「別の大陸か…… 行ってみたいものだな……」
カミュはデザートの杏仁豆腐という物を食べながら、そう他の大陸に想いを馳せた――
「シーザ、アリティア軍に参加するって本当」
簡素な革鎧を付けた少年が隣にいる青年にそう声をかける。チェインメイルにバスタードソードという傭兵風の出で立ちをしたその青年は少年に答える。
「そうだよラディ、俺はこのワーレンの警護の仕事を街から頼まれた、その仕事が終わったらアリティア軍に自分を売り込むつもりだ」
シーザと呼ばれた青年は革鎧の少年に対してそう答える。
「シーザは軍隊が嫌いではなかったんじゃないのか?」
ラディと呼ばれた少年はそうシーザに尋ねる。その顔はやや不満そうだ。
「アリティア軍には勢いがある、うまくいけば、莫大な恩賞が手に入る、それに指揮官のマルス王子は優秀だがお人好しな所があると言う、うまく取り入る事が出来るかもしれない」
シーザはそう言い、遠くワーレンの海を見つめる。彼はラディに向き直ってこう話す。
「ラディ、お前は無理してついて来る必要はない。ドルーア帝国は強敵だ、俺もアリティア軍と心中するつもりはない」
その言葉にラディは静かに首を振ってこう答える。
「俺はシーザについていくよ、あの子の為にも、どこまでもね」
シーザは無言で頷いた、その彼の目にはうっすらと涙のような物が浮かんでいた。だが彼はその事をラディに悟らされず、強い語調でこう言った。
「さあ、アリティア軍が来たぞ。まずは丁寧なご挨拶からだな、一応、相手は王子様だからな」
シーザは遠くに見えるアリティアの軍旗を掲げた軍隊に向かって早足で歩きだした。
「ここ数日、礼儀の練習をしてきた成果をみせるときだね、シーザ」
ラディは笑いながらそのシーザのあとを追いかけていった――