ゾイド短編 作:MK-Ⅲ
東方大陸のとある土地。
ある大規模プロジェクトのために確保されたその土地の上空に、その小型ゾイドは飛んでいた。
「付近にブロックス、通常ゾイドの反応共に無し……」
外部に取り付けられたセンサーとレーダーを駆使し、他のゾイドの反応を探す。特に、ブロックスの反応には入念だった。
「……今日も元気だな。
これで誰も手を付けようとしなければいいんだが……」
自身のゾイドに追加装備されている高感度望遠カメラで眼下を見下ろしながら、男は無事を祈るように言った。
『ウィル、今日の様子はどう?
問題ないかしら?』
「ああ、問題ないよ。セレン」
小型ゾイドに乗っているゾイド乗り―ウィル・ヘインズ―は、自分の妻であり即席のオペレーターであり、プロジェクトチームの一翼を担う科学者の一人である「セレン・ヘインズ」へと通信を返していた。
『そう、よかった。
このプロジェクトもまだまだ始まったばかりだし、色々と気を付けないとね』
「ああ、そうだね」
彼と彼女が話している最中、その眼下には大量の野生ゾイドが走り回っている。
「
『でしょう?
私も最初は馬鹿馬鹿しいと思った……けど、どうしようもなく惹かれちゃったのよ』
《再野生化計画》。
その地に、絶滅に近い状態にまで陥り奇跡的に生き残りが発見された複数種の野生ゾイドを放ち、生命力や闘争本能と言った部分を出来る限り落とさずに再度の繁殖を遂げる。それが、再野生化計画だった。
この計画には、前例と呼べるものがある。レイノス野生体とマッドサンダー野生体である。だが、この二例では人の管理下の保護政策によって個体数を増やすことには成功しているもののその生命力や闘争本能が以前よりも低下するといった事例が確認されていた。また、他にオーガノイドシステムの応用で個体数を増やした事例もある。ウオディック野生体やデスザウラー野生体がその事例に当てはまるが、この場合だとゾイド自体に凶暴化などの悪影響を与える事が確認されていた。
これらの問題を解決するため、《再野生化計画》ではオーガノイドシステムによる個体数の増加は行われず、保護政策によるものになった。また、その中での生命力や闘争本能の低下を補うための手段として、複数の種の野生ゾイドを放ち、かつての野生環境そのものを復活させようというのがこの計画である。
単種のみを優遇するのではなく、複数の種を放ち生存競争を促す事で凶暴化などの副作用無く本来の姿のまま再度繁殖させる。無論、この過程において再度絶滅しかけている種が確認されれば一時的にその種が優遇されることになるかもしれないが。
「さて、今日は誰もいない……と、良かったんだがな」
彼はカメラとセンサーを駆使して眼科に見つけたそれへと、進路を変えた。
『何が見つかったの?』
「……《レオブレイズ》に、《モサスレッジ》。《ウネンラギア》と《ナイトワイズ》もいるな。
それに、この反応は……厄介な機体を……ッ!」
『ちょっと、どうしたの!?』
「《カノンフォート》だ……」
『なんですって!?』
ウィルの絞り出すような声で告げられた事実に、セレンも思わず声を荒げた。
《カノンフォート》。ヘリック共和国軍が開発したバッファロー型の中型突撃戦用ゾイドである。名実共に小型ディバイソンとも言うべきそのゾイドは、高い走破性と機動性、加えて火力まであるという中型としては性能が高いゾイドだ。
だが《カノンフォート》もまた、
そんな中でわざわざ来るとなれば、それが誰であるのかを推測するのは容易い。
「ヘリック共和国軍の……過激派か!」
ヘリック共和国過激派。
ヘリック共和国は現在、軍のほとんどを自国領土内の治安維持に割いている。第二次中央大陸戦争が終結して以来、国内で様々な問題が表出したヘリック共和国にとってそれは自明の理だった。しかも、ネオゼネバス帝国の資産も本をただせばヘリック共和国のものである事も多く、決して十分な戦後賠償ではなかった。むしろ、戦争によって発生した難民や戦災孤児、野良ゾイド、暴走キメラブロックスなどの問題が大きすぎ、さらに中央大陸の全ての人々がヘリック共和国派という事は無く、むしろネオゼネバス帝国を支持しているものも少なくないのが現状である。
さすがにこのような現状で戦争を続けられるはずも無く、ネオゼネバス帝国には戦争中に捕虜としたネオゼネバス皇帝「ヴォルフ・ムーロア」を交渉材料にヘリック共和国有利の和平条約を早々に結んだ。ネオゼネバス帝国としても、民衆を相手に大々的に一度は中央大陸を統一した英雄「ヘリック・ムーロア」の子孫である事を喧伝した手前、見捨てて新しい皇帝を擁立し戦争を継続する選択肢を取る事は難しかった。なにより、どこから情報が漏れるかも分からなかったのである。
そして、もう一国のガイロス帝国に関しては、軍部に関しては対ネオゼネバス戦において一度は共同戦線を張り、同国の《セイスモサウルス》に対しての切り札となった《凱龍輝》の素体となったティラノサウルス型野生体の提供などもあって軍部に限り関係は良好。また、一般民は今現在復興に力を入れている段階であり、他国の事に気が回らないといった事情もある。
だが、それを良しとしなかった者も数多く居る。ヘリック共和国もそれは例外ではなく、戦争継続を望む声があった。特に軍内部においてこのような思想を持つ者たちは上層部の決定に反発し、最悪の場合はゾイドを奪って脱走するという事例さえあった。これが過激派と呼ばれる集団である。
「セレン、待機しているプロジェクトの警備部隊に連絡して何機か集めてくれ。さすがに、コイツ一機じゃ無理だ」
『安心して、もう集めているわ。といっても、移動込みだと少し時間が……』
「大丈夫だ。時間稼ぎだけならなんとかしてみる。
幸い、怖いのは《カノンフォート》だけだ。それ以外に居るのはブロックスだけ……《シケイダー》なら、ブロックスに負けはしないさ」
ウィルはそれだけ言うと、自身の搭乗している蝉型小型ゾイド《シケイダー》の向きを変えた。
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「……あれか」
ウィルは眼下にそれらしいゾイドの一団を見つけていた。
同時に、彼は《シケイダー》のある装備を準備していた。蝉が元来持つ生物としての特性を色濃く反映した、とある装備を。
ガオォォォォン!
だが、ウィルと《シケイダー》が近づく直前。《カノンフォート》はその背に持つ二門の重撃砲を撃ち放っていた。轟音が鳴り渡り、二発の砲弾が《シケイダー》へと迫っていく。
「いきなりか!」
だが、ウィルと《シケイダー》は素晴らしい反応を見せた。《シケイダー》の背面に搭載されているマグネッサーウイングを使い、軽快な動きで砲弾の軌道から離脱していく。
「警告する暇すらないとは……な!」
すれ違いざまに《シケイダー》の機銃を放つが、《カノンフォート》を相手にしてはそれは余りにも非力に過ぎた。装甲に多少の傷こそついたが、それだけに終わっている。
『そこのゾイド!
通せ! 我らには力が必要なのだ! 再びヘリック共和国の旗の元に大陸を統一し、かの帝国を撃ち滅ぼすために!!』
「悪いが此方にも此方の事情というものがある。
そちらの事情だけが押し通るとは思うな!」
かなり一方的な叫び声だけを上げると、再度の攻撃態勢に入った《カノンフォート》。ウィルの言葉など聞いてはいないだろう。
さらに、四機のブロックスゾイドもチェンジマイズに入ってる。その形態は四機合体によって構成させる形態である《マトリクスドラゴン》だった。恐らくは、ウィルの駆る《シケイダー》が様々な性能で劣る小型ゾイドとみて増援が来る前に叩き潰そうという算段だろう。
だがチェンジマイズの間、あえてウィルは何もしなかった。その顔に不敵な笑顔が浮かべ、ただただ見ていた。
「――キアアァァァアアァア!」
数瞬としない内にチェンジマイズが終了し、《マトリクスドラゴン》が現れる。
人工ゾイドコア同士の共鳴による膨大な出力に支えられた圧倒的な戦闘力を持つ形態であり、通常の小型ゾイド単機で対抗するには無謀とさえいえる形態である。
だが、やはりウィルに焦った様子はない。ただ、冷静に《マトリクスドラゴン》の挙動を見つめていた。
「キアアアァァァ!」
《マトリクスドラゴン》がその右腕に装備したテイルソーで切りかかってきていた。そして、その後ろで《カノンフォート》も背面の手法を放つ準備をしている。
「鳴け、《シケイダー》」
だが、やはりウィルは焦ることは無く、むしろ微笑すら浮かべていた。
その手を、蝉型ゾイドである《シケイダー》のゾイドコアに由来する、ある装備の引き金にかけながら。
「A・Z・I・C、発射!」
瞬間、ウィルの《シケイダー》が鳴いた。
「――! —―――!! ―――! ―――――!!!」
直後、聞こえてきたのは異形の叫び声だった。間違っても蝉の鳴き声ではない。
だが、それも人間が聞く分にはただの異音であり、雑音でしかない。不愉快にはなるが、それ以上の効果は無い。
――そう、
「――キ、アアァ! ――ァァ、アアァ。アアァァァ…………」
《シケイダー》の鳴き声を聞いた瞬間だった。突然、《マトリクスドラゴン》の動きが鈍った。
そして、《マトリクスドラゴン》がそのまま動きが停止し、その瞳から輝きが失われ、ついに機体そのものが停止した。
さらに、もう一機の《カノンフォート》ですら、その動きがどこかぎこちない物となっている。
『な……何があった!?
いったいどうしたと言うのだ!?』
『わ、分かりません!』
『と、突然制御が……』
『しゅ、出力が全然上がりません! コアの活動が弱まっています!』
『ゾイドコアが、共鳴していない……!?』
「……うまく、行ったか」
操縦席の中、ウィルは一人息を深くついていた。
ウィルが《シケイダー》から放った装備は、同機の最大火力にして切り札。『A・Z・I・C』と呼ばれる装備である。
正式名称『
蝉型ゾイドコアが元来持っていた能力の延長線上にある能力であり、蝉型ゾイドが本能的に敵ゾイドに合わせて音波を微調整する習性を持っていたがために実現した装備である。
だが、この装備も万能というわけではない。音であるため周辺の環境にも影響されやすく、仮に敵ゾイドがティラノサウルス型などの獰猛なタイプであった場合、十分な出力を確保できないと活動レベルを引き下げるどころかかえって刺激して凶暴化を促してしまう事もあり、扱いには注意が必要な装備でもある。
だが、この装備の真価は別なところにあった。設計当時は想定もされていなかったためその効果の発見も遅れたのだが。その真価とは、チェンジマイズしたブロックスゾイドのコア同士の共鳴を阻害し、ほぼ無力化する事であった。
ブロックスゾイドのゾイドコアブロックはチェンジマイズして合体した際、互いに共鳴し合う事によって通常よりもはるかに高い出力を得、それによって戦闘能力を支えている。だが、原因はいまだ不明だが、《シケイダー》の『A・Z・I・C』はその共鳴を外部から阻害し断ち切るため、ほぼ強制的にチェンジマイズしたブロックスゾイドを行動不能に陥らせることができる。
また、これは通常のゾイドコアとブロックスゾイドのゾイドコアを共鳴させる場合にも同様の事が言える。ブロックス同士のチェンジマイズとは違い、通常のゾイドコアのほうは活動レベルが落ちるだけだが、ブロックス側が最悪活動停止に陥る以上、戦力の激減は避けられない。
そして、今この場でも『A・Z・I・C』は確かな戦果を挙げていた。
中型ゾイドである《カノンフォート》はすでに行動することもままならず、もう一機の《マトリクスドラゴン》は動きを止めている。
だが、このままでは終わるはずも無かった。
『まだだ……まだ、終わらせん!
もう一度、ヘリックの旗の元に大陸を統一するために!』
《カノンフォート》が再度、息を吹き返し始めていた。
それは最早、精神リンクによって強引に立たせているに過ぎない。が、それでも二門の重撃砲の狙いが定められ、《カノンフォート》の眼前にいる《シケイダー》へと照準が合わせられる。
いかにゾイドコアの活動レベルが落ちているといえど、それが直接の攻撃能力に影響するのは格闘装備かエネルギー装備のみであり、実弾装備に限っては撃てさえすれば関係ない。つまり放たれた砲弾が直撃すれば、小型ゾイドであり装甲の薄い《シケイダー》の撃墜は避けられない。
この状況の中で、ウィルの判断は迅速だった。すぐさま背面のマグネッサーウイングを起動し回避行動に入る。
だが、《カノンフォート》のパイロットもこの状況を黙って見逃すはずもない。無理やりにでも照準を合わせ、トリガーを押し込もうとした。
ガオォォォォン!
炸裂した発射音。だが、撃ち抜かれたのは《シケイダー》ではなかった。
崩れ落ちたのは《カノンフォート》。その四肢の内、右前脚の関節部分を二ヶ所同時に撃ち抜かれ、破壊されていた。
「……増援が間に合ってくれたか」
《カノンフォート》の脚部を打ち抜いたのは、ウィルが乗っているのとは別な《シケイダー》だった。その背には小型ゾイドとしては大口径の部類に入る二門の実弾砲を備え、その衝撃を吸収し支えるために三対の足それぞれにクローとショック吸収スキッドがセットとなった追加装甲を備えている。飛行能力を捨てた代わりに砲撃能力を高めた、砲撃戦仕様の《シケイダー》である。
さらに、他にも数機の《シケイダー》が現れている。飛行能力がより高められた輸送仕様や、センサーやカメラなどの索敵能力を高めた電子戦仕様等々。
ここまで来れば、もはやまともに動くこともままならない《カノンフォート》と《マトリクスドラゴン》は脅威足り得ない。
間もなく、事態は収束することとなった。
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『お疲れ様、ウィル』
「そちらもな。セレン」
襲撃してきたゾイドの処理も終わり、ウィルが通常の哨戒飛行に戻ったころ。
セレンから入ってきた労いの通信の答えつつ、ウィルは眼下を見下ろしていた。
数多の野生ゾイド達が走り抜けている、その大地を。
「……再野生化計画、成功させような」
『ええ。
そのために、互いにできる全力を尽くしましょう』
「ああ」
今日も、彼は眼下の野生ゾイド達を見守りながら飛んでいた。