ゾイド短編 作:MK-Ⅲ
西方大陸のとある小国。
国家の要人同士の会談に使われるような一室で、とある話し合いがもたれていた。
片方はスーツを着こなし傍らには秘書が佇む、見た目からして官僚か政治家か、いずれにしても国家にとっての要職と呼べる役柄であるだろうそれなりに年端の行った男性。もう片方もスーツではあったが、そのそばには誰も居ない。薄く茶色がかったストレートの黒髪に、猛禽を思わせる鋭い目付きが印象的な年若いであろう女性だった。
「……それで、我々Zi-ギルドに依頼を出した、と」
「はい……。
現在、我が国においては作業用ゾイドの数もゾイド乗りの数も足りていません。さらに、復興作業に追われ皆疲れきっており、このままではいずれ問題が起きることは間違いない状況です。
そこで、どこかで息抜きが出来れば、とは常々思っていまして……」
「そのために、今回の依頼を?」
「はい。
無論、直接Zi-ギルドの皆様のお力をお借りしての復興作業を、とも考えましたが……いまだ終わりの見えない現状ではそのための資金の見積もりも難しく、民間も自分たちの事で手一杯でして……。
そこで、別な形でZi-ギルドの皆様のお力を借りられればと」
「それで、娯楽の提供、と」
「はい」
そこまで話したところで、話を聞いていたスーツ姿の女性は一回目を閉じて思考し、間もなく目を開くと答えを返していた。
「分かりました。ご依頼、承ります。
しかし内容のほうはどうしましょう? 正直なところを申しますと、私達もこのような依頼は初めての事でして……」
初めて彼女が見せた難色に、だが依頼主は大して動じる事は無かった。
隣にいた秘書と思しき女性に声をかけると、予め用意していたと思われる資料を手渡すように指示した。
「まずは、こちらをご覧ください」
促されて、彼女は資料に目を移す。
そこには、いくつかの具体案が乗っていた。
「これらの中にある案の中で、どれか出来そうな案はあるでしょうか?」
問われて、彼女はもう一度資料に目を通す。
(どれも出来そうだが……一度、メンバーを集めて日程なども加味しながらやるか。
それに、各々の得手不得手も考えて決めなければいけないし。今この場で決めるべきではないか)
彼女はしばしの間思考し結論を導く。次いで、返すべき言葉を紡いだ。
「一度、ギルドのメンバーとも話し合いをもった上で結論を出そうかと思います。
そのために、予算や設営場所、期間などの詳しい条件を確認しておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
返答を聞いても、依頼主には時に驚いた様子も何も見受けられなかった。
ただ冷静に、秘書の女性に目配せをして資料を渡すと、そのまま言葉を紡いだ。
「ええ、構いません。
条件に関してはこちらの資料に纏めてありますので、話し合いの一助にでもしてください」
「助かります」
そのまま彼女は秘書から渡された条件が纏められた書類を一度確認してから仕舞うと、一言挨拶してギルドの根拠地へと戻ろうとした。
「それでは、一度ギルドに戻り話しを煮詰めますので、少しお待ちください。
返事は一週間以内には出します」
「よろしくお願いします」
そこまで話すと、どちらからともなく立ち上がる。依頼主の秘書が既に扉を開けており、そこから彼女は帰っていった。
――――――――――――――――――――――――――――
ギルドの基地に戻っていった彼女は、再度資料をめくって内容を確認しながら招集した会議の事案になるまで待っていた。
「しかし……まさか、興行主をやる事になるとは……」
彼女―セレナ・クロワール―は西方大陸のとあるZi-ギルドの責任者を務める人物であり、同時に高い交渉能力と統率能力を持っている事から、このような大口の以来の受け取りを行う事も多々ある女性である。
だが、その彼女の経験をもってしても、興行主をやってほしい、などという依頼は一度もない。勝手がわからない部分が多い分、依頼主との事前の話し合いとすり合わせが普段よりもより重要なものになってくる。それを分かっている以上、自分たちの間で決められる事項は速いうちに確定させておきたい意図もあった。
「っと、そろそろ時間か。
さて、何人集まったか……」
もう間も無く召集した会議の始まる時刻になる事を確認した彼女は、会議室へと歩いていく。
元々は共和国軍が使っていた基地であるこの施設は、一度は破棄された後に羽陽曲折あって彼女が使用している。とは言っても、元々が急造の基地であり、さらにかつての大戦の舞台が中央大陸に移ってからは急速に重要性が薄れていったために、嘗ては共和国軍基地であったと言っても設備は(あくまで他の基地と比べてだが)そこまでではなかった。とは言え、一応は民間の組織であるZi-ギルドにとっては十分すぎるほどだが。
その基地の一角に、共和国軍が使っていたものをそのまま利用した会議室がある。セレナが目指しているのはそこであり、道中には会議内容の確認もしていた。
だが、実際人数の人員の指定をしていない以上、何人集まるかは不透明だった。最悪の場合を考えれば、集まらないという事さえあり得る。
(まぁ……そうだったらそうだったで、別な手があるからいいけど)
集まらない可能性があるといっても、彼女はそこまで気にしていなかった。
彼女が統括しているギルドのメンバーはこのような行事に少なからず興味を抱いている者は少なくはなく、そうでなくても今回は金成の大口の依頼であるために依頼金もそれなりの額に上る事は確実である。そうなれば、そちらを目的に集まってくる者が居る可能性もある。
最悪の場合として、それでも人数が集まらなければ彼女自身が手の空いていそうなメンバーに直接声をかけることも考えていた。彼女の立場ならそれが出来る。
が、その考えも杞憂に終わることになる。
「お、来た来た」
「人数が必要な依頼って何なんすか?」
彼女が会議室の扉を開けると同時、集まっていた幾人かのメンバーが声をかけてきた。さらに、黙っていたままではあるが他にも何人かがいる。
改めて数えると、二十人ほど。
「よく集まってくれた。
それでは、これから会議を始める」
ひとまず自発的に集める必要性のない人数である事を確認した彼女は、そのまま会議を始めた。
「まず、今回集めた目的だが。
ある大口の依頼が入った。依頼主はこの西方大陸のある国家の要人であり、ほぼその国家からの依頼と受け取っていいだろう」
彼女の宣言に、周囲の人間がざわつく事はなかった。
それもそのはずで、彼らにとって国家からの依頼というのは何も初めての事ではない。そして、やる事もいつもと変わらず、ただ依頼をキッチリとこなす事のみである。ゆえに、彼らにとって依頼主が誰であるかというのはそこまで重要な事ではない。
彼らにとって真に大事な事は、依頼の内容がなんであるか。そして、その依頼が自分達に達成可能かどうかである。
「で、肝心の依頼内容のほうだが・・・・・・。
単刀直入に言おう。興行主だ」
「興行主? ゾイドでサーカスでもやるんですか?」
集まったメンバーの一人が多少の呆れも含んだ声で言い放った。他のメンバーも無言ではあるが、それぞれに似たような思いを抱いている。
それもそのはずで、彼らにとってゾイドとは基本的に戦う存在であり、次点で人間だけで行うには困難な作業を共に行う存在である。その認識の強い彼らにとって、、興行主という娯楽のための存在としてのゾイドというのは想像しがたいものだった。
だが、そんなメンバーの反応もセレナにとっては予想の内だった。
「問題ない。
先方から既にいくつかの具体案を提示してもらったのだが、その中に私たちにうってつけのモノがあった」
セレナはそこまで言うと、予め用意していたデータ化した書類の一部をプロジェクターに映し出した。
そこには、広大なフィールドと観客席、そしてそれらの具体的なデータが書き込まれている。
「これは?」
集まったメンバーの内一人が疑問の声を上げる。それに対し、セレナは特に大きな反応を見せるでもなく、淡々と、だがほぼ断言する口調で言い切った。
「今回、皆にはこの場所で少々特殊な条件をつけたうえでの模擬戦を行ってもらう」
セレナのこの宣言に、集まったメンバーの表情が一斉に替わった。
その中で共通していたのは、皆が真剣に食い入るように、映し出されている地形図とその詳細を読み込んでいる事だろう。
その様子に表情にこそ出してはいないが満足を覚えながら、セレナは言葉を続けた。
「まずフィールドは見ての通り、山岳の森林地帯だ。だが、一部に地質的に柔らかい部分も存在している。まあ、地形の特出したところはその程度か。
で、次はここだ」
その言葉と同時に、彼女は地図上のいくつかの点を示した。
「ここに、観客席とモニターが置かれる。
観客として入れた人達はここから模擬戦の様子を見る事になる。一応は装甲板とかで覆って安全を図るが、当然、ここへの発砲や突撃は厳禁だ」
その言葉に、全員が少し表情を険しくして唸った。
(無理もないか……)
セレナとしては、この反応も予想していた事だった。
そもそもとして模擬戦である以上、わざわざ通常の弾丸を使いゾイドを大破させる必要は無いので模擬段を使うことになる。そのため、威力は必然的に激減する。が、それもゾイドに乗せるほどの火砲の口径となるとそもそもとして質量そのものが非常に大きくなり、万が一の事態が起きないとも限らない。それに加え、もしも観客席の付近でゾイドが何らかの要因により横転など起こした暁にはどうなるかなど、分かったものではない。
その意味で言えば、観客席付近には近寄る事もその向きへの射線を向ける事も危険となる。そうなれば、それが戦術として利用される可能性も否定できず、引いては不利に繋がりかねない。
(まあ、そこはこれから話し合うが……)
だが、セレナもそこを考えていなかったわけではない。むしろ、彼女も一人のゾイド乗りである以上は当然そこにも思考が行く。
ただ、セレナとしては集まったメンバートンそのゾイドの性能まで考慮したうえで進入禁止区域を設定しようと考えていただけである。
「そして、対戦形式は複数対複数の……所謂、チーム戦の形式となる。
これは先方から提示された事で、より迫力あるものにするためらいしい」
そこの言葉にも集まったメンバーはまた唸った。
それもそのはずで、彼らは基本的には協同するという事自体が少ない。むしろ、ほとんどの時は一人と一機で動く。だからこそ、複数での戦いには慣れていないという側面もあった。
が、それはこれからの準備期間内にでもどうとでもなる問題だと考えていたので、
「それと、この会場の敷設だがほぼ先方で行う方向で話が進んでいる。
が、一部の大型施設には工期の関係もあってこちらからも作業要員を何人か出す予定だ」
この話には、集まったメンバー全員が大した反応を見せなかった。
あるいは、予期していた答えなのかもしれない。
「現時点でほぼ確定しているのはこれくらいだ。これ以上の細かい部分はこれ以降の話し合いや刷り合わせで決めていく事になる。
この案の場合、実質的にやる事は一部のメンバーを除いてほぼ普段の模擬戦と同じだ。が、チーム戦である事、観測要員を付ける事と一般の人に見られながら試合をする、という点で大きく異なる。
この点を考慮したうえで、それでも構わないと言うのであれば参加してほしい」
ここまで話したところで、彼女は一旦言葉を切り集まったメンバーの反応を伺った。
内容を吟味している者、困惑している者、慎重になり対応を決めかねている者、様々な反応があるが、いずれからも否定的な意見は出てこない。
つまり、やる方について思案しているだけでこの依頼そのものを蹴ろうとしている者は居ないという事である。
「すまないが、質問いいか?」
「ああ、何だ?」
そう間を置かないうちに、質問が出てきた。
さらに、それを皮切りとして様々な質問や意見が出てきては、それに対して様々な議論も交わされる。
(概ね、目論見通りか)
この会議を主催したセレナとしては、思い描いていた通りの展開になっている。
その事に彼女も満足を覚えつつ、ギルドの代表者として、そして一人のゾイド乗りとして、彼女も会議へと改めて参加していった。
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「……以上が、我々の方で決まった内容と、見積もり分の金額です。
もしこれでよろしければそのまま進めてしまいますし、何か変更してほしい点等あるのでしたらお聞かせ願いたく思います」
「ふむ……」
セレナの返事を聞き、依頼主でもある要人は資料も見つつ少し考え込んだ。
が、それも少しの間の事。
「……はい、これでしたらおそらくは問題ありません。
そちらが提案された予算の見積もりに関しましても、合計金額がこれなら許容範囲内です」
さして時間を置く事も無く、依頼主の要人も返事を返した。
そして、彼女も最終確認へと移っていく。
「分かりました。では、この案の通りに進めてしまってもよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします。
我々の方としても、準備を進めますので」
最後の確認だけ済ませると、セレナは改めて準備を済ませるためにギルドへと戻っていった。
この依頼への、確かな手応えを感じながら。
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「それでは、編成を決める。
今回、五人で一チームを組んでの模擬戦とする。戦闘時間は最長で一時間。無論、これより短く終わる場合も考えられるがそこは別途手段を用意しているので気にしないでくれ。いつも通りやってもらえればそれで十分だ」
ギルドに帰ったセレナは、早速今回参加するメンバーを集めて会議を再度開いていた。
「で、チームの組み分けだが……今回、参加してもらったメンバーのゾイドの内約を見ると、ちょうど大型ゾイドが二期、残り八機が小型ゾイドとなっている。そこで、この二機には確実に別チームに入ってもらおうと思う。異存は無いか?」
議題は、チームの編成について。
今回はチーム戦だが、同時に見世物でもある以上はどちらか片方にあまりにも戦力が偏っているのは好ましいとは言えない。
だからこそ、彼女は事前にチーム編成を行い出来る限り戦力的な不均衡を無くそうとしていた。
「依存は無い」
「同じくだ」
今回参加した二機の大型ゾイドのパイロット―フォグ・シャルトウとシルド・フォックス―が返事を返し、他に反対意見も出なかったためにここまでは決まった。
「さて、では残りの八機の分け方についてだが……」
後は、残り八機の小型ゾイドをどう分けるか、である。だが、ここに関しては実のところ、セレナにも決め手とも言える様な妙案があるわけではなかった。ゆえに、どうやって決めようかと少し頭を悩ませていたのだが――
「少しいいか?
それに関して、提案があるんだが」
――意外なところから、声が上がった。
声の主は今回参加した小型ゾイドの乗り手の一人―リータル・ベア―だった。
「どんな提案だ?」
セレナとしいては少し意外な相手からの提案だったが、それでもスムーズに決まるのであればそれに越した事はない。そう考え、続きを促した。
「今回参加したゾイドの内約を見ると、大型も含めてちょうど共和国系と帝国系に分かれていると思うんだ。
性能的にもそこまで差は開いていないし、このまま揉めるか分け方を失敗するくらいだったらむしろそのようにして分けてしまってもいいのではないかと。
それに、この二系統で分けると双方の意匠の違いからどちらのチームの所属かがいくらかは分かりやすくなると思う。それは、見ている観客にとってもいい事ではないのかと考えました」
そこまで話したところで、リーダルは一度大きく息を吐いた。
その後に残ったのは、僅かな静寂。
「……いいんじゃないか?」
最初にその静寂を破ったのは、セレナだった。
確かに一定の合理性が認められる意見の上、整備やその他諸々も同じ系列のゾイドのほうがやりやすいのは事実である。厳密に言えば、一部のゾイドは様々なカスタムが施され、他も純粋なセネバス帝国系列やガイロス帝国系列のゾイドではない、それらに使用されている技術が使われている亜種とでも呼ぶようなゾイドではあるのだが、それでも大きく逸脱しているわけではない。
そして、セレナの言葉を皮切りに他の参加メンバーからも賛成の意見が多数出てくる。
この瞬間、チーム編成は決まった。
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そして、当日。
作業用のゾイドの手配やそのための諸々の準備も手抜かりなく滞りなく進み、酸化するゾイドの整備や調整についても問題なく進んでいた。
一方で、民間への宣伝も忘れては居ない。ほぼ依頼主の側で行われた事だが、観客は超満員。すでに用意した座席では足りなくなっていたため、予め入場券を購入していた人を優先して座席へと誘導し、残りの人を急遽増設した立見席へと入れていた。無論、急造の立見席とはいっても装甲版などで覆われ安全性には出来る限りの配慮がなされてはいるのだが。
「いよいよですね」
観客たちが続々と席へと入って行く様子を見ていたセレナの下へ、ある人物が来た。
今回の依頼主でもある要人である。
「はい。此方の準備は問題ありませんが、そちらは何か?」
「私のほうも、人事は尽くしました。
後は、よろしくお願いいたします」
「お任せを」
短い会話だけを交わし、彼女は自分の担当場所へと去っていった。一方、残された要人は秘書と共に自分の観客席へと移動していった。
今日の成果を、確かめるためにも。
――――――――――――――――――――――――――――
「準備は良いか?」
「はい。撮影班、問題ありません」
要人と別れたセレナは、今回自分が担当するゾイドの元へときていた。
今回彼女が登場するゾイドは、完全に非戦闘用として調製されたゾイドだった。そのゾイドの名は、《ゴルヘックス観測用仕様》。彼女が搭乗する以外にも何名かが搭乗し、さらにそれが数機用意されている。これら数機の《ゴルヘックス観測用仕様》によって広大なフィールドの目視では状況が分かりづらい部分などを中継しようという考えだった。
元々、この《ゴルヘックス観測用仕様》は惑星Ziの未開の土地の調査に用いるためのゾイドであり、中型ゾイドとしては高い積載能力を生かしてクリスタルレーダーの代わりに望遠鏡や居住スペース、パラボラ状レーダー等が装備さえている。だが、今回は目的に合わせて改修が施されており、観測用の大型カメラはほぼそのままだがその下に増設されている居住用スペースにはかなりの中継機材が積み込まれているなどの点で通常の仕様とは異なる。
「さて、しっかりと仕事を果たそうか」
「了解!」
誰に聞かせるでも無くつぶやいたセレナの言葉に、近くにいたギルドのメンバーの一人が声を上げて応じた。さらに、他のメンバーにもそれが伝播していく。
思わず苦笑が漏れかけるが、実の所も彼女はこういったのも嫌いではない。だから、彼女は号令をかけた。
「行くぞ!」