令嬢戦記   作:石和

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※魔導関連でオリジナル要素が強いです、お気をつけを






第15話

 

 皆さんごきげんよう、ユリア・バーナード少佐です。春はいいものです。色鮮やかな花は風景に彩りを与え、厳しく冷え込む冬の辛さを耐え忍んだ帝国の民の心をほぐしてくれます。私もその一人であり、上空から眺める花畑の美しさは私に癒しを与えてくれます。これで、火薬と煙の臭いがしなければ最高なのですが。

 

 春になり、「ルーデルドルフ閣下肝煎り、協賛ゼートゥーア閣下のライン戦線に梃入れ大作戦」――――本当の名を「衝撃と畏怖」という作戦が実行される運びになりました。私としてはとても嬉しいです。自分が頑張ってお仕事した事が生きるのですからね。ただ、内容が内容なので参謀本部は大荒れになりました。

 

 ええ、そりゃもう荒れた。

 

 賛否の嵐が吹き荒れる参謀本部はあらゆる場所が議場(リング)になり、無法地帯と言わんばかりの危険を認識する程度の状況になっていました。一度、目の前で話し合い(言い争い)が発生したときは防壁術式を展開して止めに入りましたが、何故か討論会(殴り合い)に発展し、止めにかかった私に牙が向いたので両サイドとも殴り倒して止めました。飛行術式を使えば重力ガン無視でさくっと拳を避けて距離を詰めて気絶させて解決。私の中で飛行術式の万能度が高すぎる。流石はHirnmuskel(脳筋)、シャベル姫だとギャラリーにコールされた記憶は封印封印!だがゼートゥーア閣下とかルーデルドルフ閣下、レルゲン中佐、ウーガ少佐などギャラリーに徹した人間の顔は忘れないからな。なおレルゲン中佐にだけは仕返しのようなものとして大量の書類を回して軽く胃痛になってもらった。でも私も始末書で胃痛になった、解せなかった。

 

 現在、V-1のテストが終わって、ターニャちゃんがここに来るのを待っているところです。“てんさい”シューゲル主任技師の開発したロケットはテスト用の短距離とはいえ、無事全行程を遂行し、私を安全に運送してくれました。報告書に「安全な運用が見込める」と一筆入れてサインをしたので、これでターニャちゃんは嫌でも乗ってくれることでしょう。あくまでも見込めるだけで、安全という保障にはなってないのは内緒です。

 

「ユリア!!!ユリアは居るか?!」

 

 そんなに叫ばなくたって、連絡将校は逃げませんよ小さい同期。地上に軍服姿の同期と大隊隊員達の存在を認め、彼らの元へ降りる。

 

「お久しぶりです、二〇三大隊の皆様。とりあえず荷物の整理から始めていただいてよろしいですか?」

「おい、ユリア・バーナード」

「そんなに怒らずとも、質問にはすべてお答えしますよターニャ・デグレチャフ少佐。と言うわけで、皆さんは荷物の方を」

 

 落ち着け噴火だ!早く逃げろ!と視線を送れば、理解したらしい副隊長以下隊員達が脱兎のごとく退散していく。よく訓練されてるなあと現実逃避するが、濃密で刺激的すぎる殺気にそれは一瞬で霧散する。

 

「お前!本当にこれをやらせる気か?!我々はすでに半損しているのだぞ!?」

 

 うわあターニャちゃん凄い顔してるよ、中佐が見たら倒れちゃいそう。脇道に逸れたがる思考を何とか戻し、連絡将校兼説得要員兼ガス抜き要員として彼女に話しかける。

 

「ええ勿論。それを知っていてなお、参謀本部は二〇三大隊にこの作戦の肝を任せます。一番成功率が高いと思われるのはあなた方なので。――――良かったねターニャちゃん、すごい認められてるじゃない」

「いや、だからと言って実機演習もなしにそんな無茶な作戦をやるのか?!」

 

 秘匿ものだからね、仕方ないじゃん?と言っても納得してもらえそうにはない。しかし、彼女がどうあがいたところで状況は変わらない。私はターニャ・デグレチャフ少佐をV-1に搭乗させる任務があるのだから。

 

「大丈夫大丈夫、私がちゃんと最終テストに立ち会ったから問題ないって。これから作戦内容もやり方も全部仕込んであげるから心配しないで?」

「あのV-1とかいう武装が“てんさい”によって作られたヒドラジンを積みまくったブースト兵器どころか爆弾なのは知っている!あれが不確定要素で爆発してみろ!死ぬぞ?!」

「確かにターニャちゃんの95式は不確定要素ありそうだけど、今回のは私が生きて帰ってるから確定要素率上がってると思うよ」

「お前は運がいいだろう!」

「そんなこと初めて言われたけど、それは白銀のターニャちゃんの方が運良いと思うの」

「だが――――」

 

 グダグダと続く無意味な会話。どうも、疲労といつにない損耗が彼女から冷静を奪っているように見える。ラインの悪魔とはいえ、ライン殿軍任務はかなり消耗するものだったらしい。………ならば私がやるべきは冷や水を浴びせることか。

 

「『常に彼を導き、常に彼を見捨てず、常に道なき道を往き、常に屈さず、常に戦場にある。全ては、勝利のために。求む魔導師、至難の戦場、わずかな報酬、剣林弾雨の暗い日々、耐えざる危険、生還の保証なし。生還の暁には名誉と賞賛を得る』――――ですよね、デグレチャフ少佐」

「………」

「それとも、それを曲げてでも渋るに足る相応の存念があるのですか?」

「…いや、だが………」

 

 思ったよりも冷たく冷えきった声が出た。怯えが見える、少し申し訳ない。だが鋭く突いた質問に、珍しくターニャは疑問の表情を浮かべる。そこに作戦への疑義はあっても、逃亡の意思はなさそうだ。なら、その疑義を取っ払う材料さえ与えれば、彼女は勝手に作戦を成功させるだろう。

 

「同期のユリア・バーナードから、同期のターニャ・デグレチャフに1つだけ伝えるわ」

 

 ラインでの殿を見事に果たし、手放すことに成功した地域はどこかしら?そこを手放すとどうなるか予測はつくでしょう?言わずとも、そこは理解してもらわねばなるまい。

 

「あなたはドアノッカーなのよ。――――支度なさい。すぐに任務の説明を開始しますから」

 

 彼女に背を向けて歩き出す。さて、X-Dayが来るまでにまともな状況になっていれば良いが。

 

 

 

 それから数日。二〇三大隊に私や技術者たちからの秘匿兵器取り扱いに関するブリーフィングを受けさせながら敵地に関する講習で戦闘任務概要を叩き込み続ける日々を過ごす。その合間に二〇三大隊から作戦メンバーを選抜したり、報告書を書いて送ったり、技術者たちの依頼で試作兵器のテスターをしたりしながら、参謀本部からのゴーサインを待つ。なお初日からずーっとターニャちゃんからはどことなく距離を取られている。ちょっと胃が痛いし後が怖い。

 

 そんなことを気にしていても仕事はあるので、今日も今日とて参謀将校としてのお仕事を済ませる。そして、選抜から漏れた重傷患者以外の二〇三大隊のメンバーと一緒に、技術者たちからよろしくと手渡された試作兵器を手にテスターをする。もちろんただでテスターをするわけではなく、訓練と同時並行だ。彼らの大隊長のデグレチャフ少佐は選抜メンバーとして休憩に入っているため、自動的に私が訓練担当になる。

 

 ターニャちゃんにできて私にできないことは山ほどあるが、ターニャちゃんにできなくて私にできることは限りなく少ない。その少ない中でターニャちゃんに褒められた、私の魔力コントロールを伝授してほしいと隊員たちから依頼されたため、私の目の前にいる精鋭部隊の航空魔導士たちは皆揃いも揃ってシャベルを持っている。――――そう、シャベルを。

 

「防壁術式をシャベルの刃全体に展開したら、その上に攻撃術式を乗せるように展開します。そうすれば、シャベルで打撃を与えた時、敵に攻撃術式を叩き込みつつ、自分のシャベルは破損させずに済みます」

 

 訓練初日、その話をしたときは訳が分からないという顔をされた。正確には、あの緊張状態Maxの戦場でそんなことをしながら戦うとはどういう神経しているんだ、という顔。

 

「バーナード少佐!質問があります!」

「許可します」

「もしや少佐は旧式の演算宝珠で飛行、酸素など航行中に必要な術式を展開した上でこの操作を行いつつ、大隊長と同じような戦場を駆け巡っていたんですか?」

「はい。銃弾を当てられませんからね、仕方ないです」

 

 当たり前だろう、と答えたときに見えた相手方の表情を見るに、どうもこれは簡単な話ではないようだ。彼ら曰く、出力一定、位置固定(どちらも多少の変動あり)ならば無意識でもできるが、常に出力、位置を細やかに気にしながら展開する私の戦闘スタイルは維持できないらしい。確かに、銃弾は撃つ一瞬に必要量を操作すればあとは魔導適合の高い銃がどうにかしてくれる。だがシャベルは魔導適合がないし、自分でシャベルの刃に沿わせて展開しないといけないため頭を使う。また、防壁と攻撃のバランスが崩れればシャベルがおじゃんになる。あんまり深く考えたことが無かったが、一般的にこれは難易度が高いという。

 まさか、と思いながら、私が握っていた試作兵器――――特化型演算宝珠付き棍棒を試しに渡してみる。これは棒全体に防壁術式を展開するだけの機能を持った特化型という新開発の演算宝珠がついた、防壁が破れない限りは絶対に折れない伸縮機構付き金属製棍棒である。私は宙を舞いながらこれを展開し、攻撃術式だけを考えればいいから楽な剣だなあなんて思ったものである。しかし、二〇三大隊のメンバーに渡せば面白いように墜落者が発生した。何でも、演算宝珠二つを同時展開など出来ないらしい。そう言えば、私がこれを展開しながら九七式で宙に舞い上がったときは技術者たちも信じられないものを見る目をしていた気がする。

 

「やっぱりシャベル姫の名は伊達じゃねえんだな…」

「シャベル姫の技量、絶対カンストしてると思う」

「姫ってつくから大隊長より普通だと思ったんだけどなぁ」

 

 狂った方の姫だったか、と目前でひそひそ会話されて正直悲しい。だが、これが彼らなりのガス抜き、ストレス発散、メンテ作業なら不問に付すよ…だって参謀本部はあなた方にいいパフォーマンスしてもらわないと困るからね!

 そんな初日から数日経ったが、相変わらず97式と特化型の同時使用者は現れない。しかし、特化型を使えば防壁術式の上に攻撃術式を展開する感覚は掴めたようで、実戦では使えずともそのノウハウを何かに生かす状況は作り上げられた。いやあ、良かったよ。実はさっき連絡があってね、作戦実行日が明日になったから、面倒見れるの今日までだったのよ。あーほんと、役目を果たせて何より。

 

「コツは掴めましたかね?皆さんの実戦に役立つようでしたら幸いです」

「ありがとうございました!」

「はーい、では解散………ん?」

 

 二〇三大隊の皆はいい戦闘狂だなあ…としみじみしながら敬礼を受けていたとき、突如演習場に現れた魔力反応。敵…なわけはない。しかし味方にしては殺意が有り余りすぎてて、こんな奴はもう一人しかいない。あーこまったなあ、明日作戦だって従卒に伝えにいかせたけどもしかして潰しちゃったとかそんなことしてないよなあ、とそちらを振り返り、分かっていたけれども絶望する。

 金色に輝く瞳、神(もしくは悪魔)の恩寵賜りし膨大な魔力、それを収める小さな身体。

 

「ユリア、模擬戦を申し込む」

 

 どうしよう、目がガチだ。







 とりあえず前回の予告はちゃんと回収したつもりです。

 ユリアちゃんは多分怒らせたらまずい子だと思うの。でも、ターニャちゃんはもっとまずいと思う。



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