令嬢戦記   作:石和
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 お待たせしましたかね。すみません。いろいろ立て込んでました。
 本当はもう少し早く更新する努力をしていたのですがほら、switchのソフト豊作なんだもの、仕方ないよね!しかもそのソフトたちを2、3日前からようやく触れたとあればもう(ry



第16話

 私は短機関銃を構え、照準を合わせ、魔力を込めて引き金を引く。

 そうすれば彼女は防壁を展開しながらくるくると空を飛ぶ。それは一瞬のロスもなく流れるように行われ、姫の異名にふさわしいワルツを踊るような優雅さを兼ね備えた回避。

 私は再度短機関銃を構え、照準を合わせ、魔力を込めて引き金を引く。

 そうすれば彼女は瞬間で距離を詰め、複雑な工程をクリアして武器となったシャベルを振りかざして短機関銃へ打ち付け、術式の軌道を変える。

 仕方がないので蹴り飛ばそうとすれば、それはシャベルの柄で防がれたので都合が良いと反対の足で柄を蹴って移動、距離を取る。

 彼女から逃がさないと追いかけるように突き出された棒は特化型の演算宝珠を備えた試作品で、防壁を棍棒全体に展開していることから、彼女が飛行などの制御を行う97式と同時にそれを使用していることがわかる。

 

 銃を構え、照準を合わせ、魔力を込めて引き金を引く。戦場では日常茶飯事で、航空魔導士なら誰もが当たり前のように行うその行為が、彼女にはできない。銃を構え、照準を合わせても、銃弾はあらぬ方向へ飛んでいく。演算宝珠の力を借り、術式を組み上げても、術式は意図せぬ方向へ向かう。当たり前のことが出来ない彼女が後方勤務なのは当たり前の話なのかもしれない。

 だが、それは甚だ疑問である。

 彼女は、ラインにおいて誰よりも先頭で敵を倒し、多くの味方を助けていた。時にシャベルで、時に拳で殴り、または足で蹴り――――近代的とは言えぬ戦闘スタイルだったが、銃を使う人間よりも真っすぐに敵と向き合う彼女はあの泥臭い戦場において誰よりも勇敢で、高潔だったのだ。その勇敢さと高潔さから呼ばれ始めた“姫”という二つ名(そこにシャベルと付け加えたのは私だ)は、戦場でこそ輝くはずであり、決して後方勤務で使われる人材ではないはずだ。

 また、彼女の航空魔導士としての技量は飛びぬけて高い。彼女の防壁硬度や魔力操作技能に比肩する人間はほとんどいない上、机上の空論でしかない演算宝珠の二個同時使用の実現など、他の人材にはない圧倒的戦闘センスがある。

 

 彼女ほど、航空魔導士をやれる人間はいないというのに、どうして後方に配属する。

 

 彼女ほど、航空魔導士の才能に恵まれた人間が、どうして参謀将校であることを望まれる。

 

――――ああ、

 

 結局、私は羨ましいのだ。

 何故下がれたのが彼女で、私はひたすら前に居続けているのだろう。才能があり、努力もできるし、神に履かされた下駄を最大限活用して有能であり続ける天才型。

 自分に呆れるしかない。こんな、比較して変わるものでもなかろうに。それはあの現代社会の競争で嫌と言うほど理解したはずではないか。

 

 

 だから、この模擬戦は、半ば当て付けのようなものだ。

 

 

 距離を取って引き金を引く。

 防壁に銃弾がぶつかり弾ける音がする。ガキン、という音と共に黒い煙の中から術式を纏った銃弾が飛んでくるので防壁で防ぐ。あらかた、彼女が撃てないのに所持している術弾をシャベルで打ち付けて飛ばしてきたのだろうが、全くどういう術式展開をしたら高速で打ち出せるほどの推進力を与えられるのか。

 煙が晴れる照準器の向こう、オレンジに輝く瞳がこちらを捉える。諦めの色など全くない、射貫くようなその瞳はどこまでも真っすぐで。数日前、元の瞳の色をしていた時も同じような目を向けられた。

 

『それとも、それを曲げてでも渋るに足る相応の存念があるのですか?』

 

 引き金を引くと同時に言葉がフラッシュバックする。疑問を告げているはずなのに、そこにあるのは猜疑心ではなかった。ただ諭すように、信じていると言わんばかりの真っ直ぐさは、前世を含めて彼女からしか感じ取れたことが無い。

 防壁に銃弾が弾ける音が続く。彼女が術式で煙を撒き散らし、体勢が見えない中から突き出された特化型の棍棒が左頬に傷をつけた。痛みを気にする余裕も無くシャベルが次にくると踏み、防壁を両サイドに展開して失策に気づいた、彼女が身を回したことで晴れゆく煙の下から上へと振り上げられたシャベルの刃先を舌打ちと共にライフルでかろうじて防ぐ。そして再度突き出される特化型棍棒から逃れるために後退する。

 リロードしながら思う。自分の周りにいるのは競争相手ばかりのはずだ。同期にして同階級なのだから蹴落としていかねばならぬはずなのに、彼女から妨害というものを受けたことがないし、時折手助けすら寄越す。一方で、私は彼女が一緒の立場にいることを嬉しいと感じるのだ。彼女が後方勤務であることは不満だが、参謀本部に属する同じ階級の人間であることには満足する。

 

 どうして彼女は私を蹴落とさない?

 どうして私は彼女を蹴落とさない?

 

 音と煙に重点を置いて爆発術式を連射する。彼女の周りでそれは爆発し、彼女はその中心で防壁を強固に守りへ入る。その下から煙に紛れて彼女の足を掴み、地面へと投げる。

 

「………っ、」

 

 何かに驚くオレンジの瞳がこちらを捉える。息を呑んだのはどちらか、よく分からない。気に止めぬふりをして引き金を3回引き、彼女の防壁を撃ち抜く。さすがは"シャベル姫"、多重に展開した防壁で2発防ぎ、間を空けて発射した最後の一発はシャベルではねのけた。だが、彼女の顔は悔しげに歪んでいる。

 

 近づく地面、シャベルを振り切り崩した姿勢。そう、狙っていたのはこの瞬間。

 

 飛行術式でなんとか対地衝撃を和らげた彼女を地面に押し付け、首元にナイフを当てる。そうすれば瞳の色は元の青へと戻り、揺るぎない視線は一気に日常の柔らかなものに戻る。ゆらゆらと両手を上げ、敗北を受け入れられる。腹が立つのは、この勝利はあくまでも試合の話で、結局私は彼女の持ってきた作戦に従事するしかない。こうして模擬戦で勝っても、私は彼女に負けるのだ。

 

――――ああ、くそ。

 

 それに満足している自分がいるとか、認めたくない。しかし、その満足を前提に口は言葉を発していく。

 

「ドアノッカー、それは私達がこの戦線を突破する首刈り機という理解でいいのだな?」

「…うん」

「私達が成功すれば、戦争は終わるな?」

「うん―――終わらせないと」

 

 彼女の首元からナイフを離し、溜息をつく。深い海をたたえた色合いの瞳がこちらに向く。

 

「必ず成功させる」

 

 自分がどんな顔をしているのかよく分からない。ただ、彼女が笑顔を浮かべたのだから、そう悪い顔ではないのだろうよ。

 

 

 

 

 

 X-Day、ターニャ・デグレチャフ少佐と二〇三大隊選抜メンバーは衝撃と畏怖作戦を開始、V-1に搭乗して敵司令部と疑わしき目標の破壊へと向かった。彼女は何を要求するでもなく黙々と準備を進め、最後に行ってくると告げて飛んでいった。

 私はただ最大限の礼をもって彼らを見送ることしかできない。どんなに私や参謀本部の人間が策を練っても、技術者たちが整備を丁寧に行っても、すべてを決めるのは彼らの行動だ。それを、私が代わることはできない。私には、その技能が無いのだから。

 ああ、どうして私はここにいるのだろう。昨日、私は見たはずだ。模擬戦の最中に一瞬だけ垣間見た、不安に揺れる空色の瞳を。本当に、本当に珍しく、はっきりと露わになった彼女の感情は、私の適性に欠く素質を不満に思わせるには充分だった。

 だってそうだろう。いくら化物のようとはいえ、私はあんな幼子を、参謀本部でも若い部類に入る私よりも若い子を戦地へ送り出し続けているのだから。今までは良かった。ただ、あの目を見て私は、全く戦えない人間ではないのに、土と鉄と焼けた臭いの満ちたあの場所にいないことを、紙とインクと少しのホコリの匂いに満ちたこの場所にいることを咎めない心など、持ち合わせていなかった。

 

「バーナード少佐」

「何でしょう、シューゲル博士」

 

 彼の声に窓から目線を外せば、いつもと違う表情を声の主はしていた。

 

「貴官はできる事をした、最善を尽くした。あの少佐の機嫌を引き戻したのも貴官、本当にやれることは全てやっているのだ。だから、そう思いつめた顔をするな」

 

 どうやら、私の感情は表情に出ていたらしい。そのせいで珍しく、このマッドサイエンティストから人を気遣う言葉を聞いた…らしい。信じられないが、どうやら真実らしいし、そうさせる程度には私の顔は死んでいるらしい。まあ、毎日別の意味で死線をくぐった代償と言えなくはないので、結局お前のせいでもあるんだぞ――――とは言えない。

 

「ありがとうございます。――――さて、私は参謀本部に戻ります。博士には、本当にお世話になりました。どうか、お身体に気を付けてください」

「君には世話になった。……これは餞別だ、持っていきたまえ」

 

 言葉と共に渡されるのは特化型演算宝珠付き棍棒。結局開発は中止、たった一本のこの武器は廃棄される予定だったはずだが。

 

「君は使える人間なのだ。持っておいて損はないだろう」

 

 思わず目を見張る。刻印されているのは姫君を意味する言葉。

 

「君が姫と言われる所以は詳しく知らないが……誠実な姿勢を評価した人間がここでは多かった。――――また会おう」

 

 もう二度とここへは来たくないが、どこかで会った際は酒を一杯くらいおごってもいいかもしれない。

 

 

 皆さんごきげんよう、ユリア・バーナード少佐です。現在、某所での衝撃と畏怖作戦第一段階の任務を終了し、報告書を書きながら帝都への鉄道の旅を楽しんでいる最中であります。久々にリンゴジュースを飲みました。ああ、美味しすぎる。これを最初に考えた人と握手がしたいなどとくだらないことを考えつつ、しばしの休憩を楽しんでいます。

 

 列車が止まり、貨物の出し入れや人の乗り降りでしばらく停車することを告げられる。概ね予定通りに進行する帝国の鉄道網は今日も優秀です。きっと、帝都の鉄道部が頑張ってくださっているのでしょう。お土産をウーガ中佐達に買って帰ったほうがよさそうだなあ…。

 いろいろと予定を脳内で組み立てながら思考に耽って暫くの時が過ぎる。唐突なノック音に意識を戻し、返事をすれば乗務員が新聞とおまけを置いて行ってくれる。新聞はまともなことが書いていないのでスルーし(報道は信頼しがたいし)、おまけに手を伸ばす。そのおまけというのが、なんということか、軍用ライフルのパンフレット。そう言えば、ターニャちゃんが使っていた短機関銃はどこのものだろう。ASと刻印された“おしゃれな”ものだったが、果たして。

 

「はは……やっぱりオーダー品か」

 

 該当商品の写真に例の刻印はなかった。ページに書かれた国籍から、オースフィヨルドの戦果偵察を思い出す。嫌な予感がする。

 

 オーダー品――――この品に込められたものが持ち主のプライドなのか、それとも贈り物なのかはわからない。ただ、思い当たる理由のうちの一つ、“家族・友人など親しい者からの贈り物”だった場合、この銃の持ち主は相当な覚悟を持って戦っていたはずだ。そして、その覚悟の向く先は、オースフィヨルドの戦いで私が確保した敵の生き残りと同じで、私の意識からすっぽ抜けていたもので。

 

 彼らにだって護りたいものはある。それは国とか主義など、そういうものよりも重要な、彼らにとって大切なもの。

 

「たとえ命を落とすことになれど、同胞のためなら戦える。彼らが生きるためなら、国が変わっても彼らは戦う可能性が高い……帝国を潰すためなら、どこであろうとも」

 

 裏を返せば、帝国には絶対に味方しない。協商連合や共和国だけでなく、現在進行形で介入し、彼らの同胞を殺されている連合王国も同じだろう。

 

 私は、帝国は、合理性に走りすぎて、忘れてはならないものを忘れていた。

 

 頭痛がするのを無理やり意識の外へ押しやり、ペンをとる。目標は、今回の作戦が成功したときに提出すること。それを読んで、帝国がすぐに終戦に持ち込んでくれることを願って。

 

 

 






 ターニャちゃんが心を開いた()疑惑。

 ユリアちゃんが善人疑惑。


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