令嬢戦記 作:石和
さあ、楽しい戦争の時間であります!
皆さんごきげんよう、ユリア・バーナード少佐です。晴れて、もしくは誠に遺憾ながら、第八〇八航空魔導大隊の隊長を務めることになりました。
罪人が大隊長なんて出世、意味が分からないですね?私は最初首をかしげました。では、説明していきましょう。
第八〇八航空魔導大隊、通称ムルトナ大隊。私が率いることになったこの大隊は、魔導師のうち、空を飛べる程度の魔導規格不適合者、何らかの罪を犯した者など正規で扱えない人間48名(ただし現在欠員多数、つまり人材不足)と後方支援の数名で編成される大隊、つまるところ厄介払いを兼ねた懲罰部隊である。通称のムルトナは役に立たない廃材(正規から不必要とされた人間)の集まるゴミ箱ということを示してついたのだそうだ。そして、その筆頭だった人間が先の任務で本当に廃材になってしまったので、頭の挿げ替えパーツが私なのである。いやあ困った、困った。ちなみに死亡率は帝国軍内でトップだって!泣けるね!
まあ困っていてもしょうがないので?ちゃんと昨晩のうちに全員分のデータを読み込んで、適切な運用から何まで全部考えてきたんです。来たんですよ?なのに。
「総員傾注、………」
「大隊長!おはようございます!」
「よお、嬢ちゃん」
朝礼なのに私を含めてたった3人しかいないとはどういうことなのでしょう。
「…おはようございます、お二方。集まったのはお二人だけですか?」
「そうみたいだぞ?」
「………」
…これは、本当に。
「えっと、元気出してください大隊長…!」
ショックで言葉を失っていたが、とりあえず私が考えてきたことを口に出していくことにする。一番頼れそう、と考えていた二人がちゃんといてくれるだけ、これは僥倖…そう、僥倖なのよ…!
「ありがとうプルバー…とりあえず、あなたを副官に任命します」
「は?――――はい!」
「そしてシャン。あなたは次席指揮官…つまり、副長に任命します」
「俺か?しゃあねえなあ」
「二人ともありがとう」
もうこれだけしかいないので朝礼台の上に立つ必要も前に立つ必要もない。三人仲良く座ると会議を開く。
「とりあえず聞きたいのだけれど、この部隊は軍の規則は適用されないの?」
「いえ、されます。ですが、その…」
「はっきり言っていいです。いつでも正確な情報が欲しい」
「はい!――――ムルトナ大隊は異常な死亡率と過酷すぎる任務で祖国への忠誠心を失った人間が多いのです。任務を進めても死ぬ、任務を進めなくとも死ぬ。仮に大成功を収めても、それは私たちの戦果になりません。なので、自分たちの生き死にがかかわる任務のことも、上官が変わることも、従いたくないと考える人は多いのです」
「……でも、先の戦いで前任者が死んでいる。つまり、戦闘をしたということよね?」
「前任者は隊員に信頼されていた。それだけだ」
「…………成程」
随分と厄介な話だ。無条件で階級に従うわけではないし、帝国と帝室を守ろうという意思もあまりない。しかも。
「次の話題です。プルバー、あなた、罪状――――フレンドリーファイアは本当の話?」
「っ、仲間は殺していません!」
「では、魔導のコントロールが効かないのは真実なのね?」
「…はい」
副官プルバーを始め、この部隊にいる人間は戦闘能力に問題を抱えている。このプルバーは火薬という名前の通り、爆発の根源になりうる人間だ。膨大な魔力量、コントロールが効かず暴発する術式。昨日の初対面の時は何故煤けているのか疑問であったが、それは自分が発した攻撃術式の爆風で真っ黒になった形跡だったわけだ。
「シャンは魔力量がない。威力攻撃不可」
「そうだな。奇襲は好きだが、一撃離脱じゃないと死にそうになる」
シャンは装備が軽量化されていると記憶したが、それは行軍の長距離移動と彼のできる攻撃方法である奇襲に必要なもので、逆にそうしなければ彼は戦えないのだ。
成程。確かに彼らは画一規格を求める正規から捨てられる。プルバーの様にありもしない罪状を擦り付けて捨てられれば、祖国への忠誠心など薄っぺらい紙くず同然である。
私は偶然にも参謀本部へ拾われたが、もしもそうでなければ、私は真っ先にここへ来ていたのだ。しかし私は来なかった。シャベルで戦う術を得て、参謀本部で要求される学力と思考力を得て正規にあり続けたのだ。私にそれができたのだから、彼らにも光るものはあるはずで。
「面倒だけど磨けば宝の山か…しんどいな…」
「?」
本当に面倒くさい。しかし、ここが私の居場所となるようにするにはやるしかない。
「とりあえず、本日の指令を伝えます。この先の町にいる少人数偵察部隊を追い払えと言われています。ついでにその背後にいる敵本隊の数を減らしておけとも。後から正規軍が来ますが、準備に忙しいそうで」
「無茶です…!」
「無茶だろ」
二人に真顔で否定された。でもここ、懲罰部隊なのよね。
「さすがに初戦から処罰は嫌なので、最低条件の偵察部隊殲滅だけ私たちで成し遂げておきましょう」
「…三人で?」
「もちろん」
決まっているでしょう?
「プルバーの高威力攻撃とシャンの奇襲能力。私も敵をぶん殴ることくらいはできるから、偵察程度の人数なら我々でどうにかできるでしょう」
そう言えば、プルバーとシャンがドン引きしたが、私は気にしない。
それからしばらくして、陽が沈む前。
シャンの偵察結果から、二人に作戦を伝える。
「私たちが現在野営しているエリアは、自由共和国の影響下から外れています。帝国の影響下でもありません。陣取りの超初期段階のようですので、偵察部隊と言えどほとんど人数はいないようです。魔導師部隊も小隊規模、感知した魔導反応から判断するに一個小隊でしょう。私たちはそれを利用して、さくっと敵の目を潰します」
敵魔導師が巡回している間に地上の非魔導師の小隊を潰し、戻って来た魔導師小隊を潰す。仮に魔導師が地上にいたとしても、先にシャベルで殴れば問題はないだろう…私は。
「シャン、あなた、夜間の射撃は得意?」
「んー…プルバーよりは確実に」
「ならばプルバーと私がツーマンセルで。シャンには遊撃を命じます」
プルバーが明らかに肩を揺らす。味方と一緒に行動するのが怖い気持ちは理解できるが、副官になった以上私と行動できなければ困る。
「夜、敵魔導師部隊の離陸を見届けてから魔導・無線封鎖状態で敵陣営に近づきます。シャンは隠れて待機、私とプルバーは敵歩兵を殴って黙らせます。陸上を沈黙させた頃に敵魔導師部隊が帰還すると思いますので、シャンは鴨撃ちを。私とプルバーは空に上がります。空域はシャンの射撃が届くよう低空で設定します。相手も、敵が見えないのでは降下してくるしかないでしょうから、釣れるでしょう」
プルバーが顔を真っ青にしている。心配そうな表情でこちらを見たシャンに平気よ、と視線を送ってから、震える彼女に落ち着きなさい、と肩を叩く。
「大丈夫よ。私の防壁はラインの悪魔――――白銀も認める硬度よ。それとも、私では不満かしら」
「いえ!そんなことは!」
「なら、出会って短時間で悪いけれど、信頼して頂戴。安心なさい、現時点においてここには私以上の奇行種はいないから」
私以外の部隊員全員がライフルを保持しているのだ。ライフルどころか銃の類を一切持たない私が一番奇妙で変人なのは間違いないだろう。
そんな事情が読めていないプルバーは笑えないにしても、幾分ましな顔色になった。
行くわよ、と立ち上がって移動を開始する。
それから十数分後。
「本当にやるんですか…」
「やるわよ」
「嬢ちゃん、随分身軽だな」
「ええ。私の武装はこれだから」
腰から吊るした特化型演算宝珠付き棍棒。そして何より、メインウェポンのシャベル。久しぶりの感覚に若干心が躍るのは内緒だ。私がシャベルを手繰るのを見てギョッとしたシャンが敵勢力圏内に踏み込んだことも忘れて声を上げる。
「シャベル…お前まさかシャベル姫か?!」
「さあ、そんなことを言われたことがあったかどうか」
口元で指を立てれば、シャンが沈黙する。
作戦を最終確認。二人ともきちんと頭に叩き込んでいた。
「では、作戦開始」
シャンが音もなく消える。彼、隠密行動が上手すぎやしないだろうか。
プルバーと二人でシャベルを構えて足音もなく突き進む。真っ暗な中を魔導も使わずに進み、エンカウントした歩兵を殴り倒していく。二人で何人も殴って殴って殴って蹴り、地上の非魔導師歩兵は全滅する。
「大隊長!敵魔導師が戻ってきています!」
プルバーと同時に敵の魔導反応を認識する。彼女の報告を承認し、無線の電源を入れる。
「予定通りか。――――シャン!魔導封鎖解除!援護射撃を!」
『承知した!』
シャンの声が心なしか緊張している。そうだろう、正直本番はこれからである。
「空に上がるわ。プルバーは私の援護を。不安なら、私の傍にずっといてくれれば誤射は避けられると思う」
「はい…ついていきますね」
不安に揺れつつも唇を引き結んで覚悟を決めたらしい彼女に微笑む。
「分かった。では攻撃開始」
「は――――え?!」
ライフルを構えた彼女を置いていかんばかりの加速で空に上がる。私の手には勿論シャベル。
「大隊長!シャ、シャベルのままなのですか?!」
「私、射撃がからっきしなのよ!」
「え、ええ………?!」
プルバーは優秀だ。結構速度を出しているのだが息が上がることもなく付いてこれている。
敵影を確認する。想像通り一個小隊、大した人数ではない。練度はそれなりにありそうだが、ターニャちゃんとその仲間たちには遠く及ばない。ならば、問題はなかった。
「敵襲…?!」
「文明の利器を食らえ!」
防壁術式の上に展開した攻撃術式が敵の防壁を打ち破り、こめかみへと吸い込まれるようにぶち当てられる。詳細は伏せるが、白目をむいた敵は地面へと落下していく。シャベル姫の眼前ではよくある光景である。ライン戦線の時は毎時間のように見ていた。
寄ってくる敵を殴ったり、手持ちの術弾を打ち込んだりしながら、周囲を確認する。発生源は見えないが感知できる攻撃はシャンだろう、良い感じで敵が混乱している。プルバーは何とか引き金を引けている。射撃の腕は良いようだ。防壁も上手に…というよりは、硬くて撃ち抜かれない感じか。本当に魔力量と出力の高さはある。しかし、私近辺に撃ってこないあたり、気が引けているのがわかる。
これは、荒療治が必要だろうか。
「っ、大隊長!」
私の後ろにつけた敵が複数いる。ちょうど良かった。
「撃ちなさいプルバー!出力をミスってもいいから!攻撃術式で!」
魔力で色を変えた彼女の瞳が揺らぐ。しかし、敵は待たない。銃を構え、引き金に指をあてる。私は万一の事態に備えながら、彼女をけしかける。
「やりなさい!本当に味方殺しになりたいのか?!」
「――――っ!」
あ、来る。
最大出力で防壁を展開し、息吐く間もなく世界が揺れた。硬い防壁は見事に私を守ったが、視界は真っ黒で何も見えない。
『嬢ちゃん、敵が落ちた。最後の三人。制圧完了』
「げほっ、ごほっ………報告ありがとう」
シャンの報告で彼女の攻撃が成功したことを知る。ああ、煙たい。防壁を解き、シャベルを振り回して煙を払う。よく見れば煤だらけじゃないか…私が。
「やってみろとは言ったけど…旧式の演算宝珠で通常の攻撃術式があの威力……笑えないわ…けふっ」
しかも三人も落とすとは、私の周りにたむろしていたとはいえ攻撃術式が範囲攻撃になっていやしないか、というか爆裂術式な感じがしたんですけど。いや、これは、確かに廃材送りにしたくなるのも理解はできる………シヌカトオモッタ……ちょっとこれは、運用方法を考えなくてはならないだろう。
しかし今は。
「だ、大隊長…!」
「無事よ。無傷。ほら――――平気だったでしょう?」
不安そうに飛び寄ってくる彼女に笑顔を向ける。ついでに、肩に手を置く。
「ありがとう、プルバー。誇りなさい、あなたが私を救ったの」
「――――ありがとうございます…!」
シャンは作戦終了の言葉を聞いて、隠れていた砂地の溝から空へ上がる。
まさか本当に作戦が成功するとは思ってもみなかったが、あの大隊長の考察力、統率力、技量と度胸は確実に成功要素となっていた。出会って二日目の、まだ様子見すら終わっていない段階で援護射撃を任せる度胸は一体どこから、と思ったが、近接主体の彼女にとって防御さえできれば何の問題もないのだろう。特に文明の利器シャベルで殴って敵を撃墜するあの戦闘スタイル。間違いなく、シャベル姫――――ユリア・バーナードだった。
そんなことを考えながら二人の傍に着くや否や、状況が呑み込めない。
「うわ、今度は嬢ちゃんがプルバー泣かせてる…どんな状況?」
「私の奇行種っぷりについていけなくなった図」
いやあ確かに奇行種、と軽口を叩こうとして、
「いいえ!」
ずびっ、と鼻を啜った彼女が涙を拭いて笑顔になる。
「私が大隊長にずっとついていくって決めた図です!」
「………おお、」
シャンは正直に驚いた。彼女はいつも不安で仕方なく、空回りしそうなほどのやる気はその裏返しだったのだが、それがなくなっている。魔力に輝く瞳は涙で潤んでいるものの喜びに満ち溢れていて、ムルトナに来て以来初めての表情を見せている。
「こりゃあ、ひょっとしたら、ひょっとするかもな…」
とんでもない嬢ちゃんが来た――――シャンは一人笑った。
以上初陣でした。今日はチュートリアルです(メタい話)。
初っ端から修羅場に放り込んだりしません。ゼートゥーア閣下のお導きでしょうかね。
さて、大隊を名乗るのでせめて中隊三個くらいには仲間を増やしたいよね!
今ユリアちゃんの身内は三人しかいないんですけど………
大丈夫!君ならできる!(某元テニスプレイヤー風)
という感じで帝国軍内に規格外の集団を作り上げることにします。
大丈夫かな………