令嬢戦記 作:石和
お久しぶりです…もう4年も経ってしまっていますね…
ちゃんと事情は説明するので、とりあえず新作をどうぞ…
「何なのよ…!何なのよこれっ!」
ユリア・バーナードは激怒した。
「記録を残すな?報告だけは上げろ?私たちの軍事行動は闇に葬られる?――――ふざけるんじゃないわよ!」
必ず、かの邪智暴虐の制度を除かなければならぬと決意した。ユリアには隠蔽の理由がわからぬ。
ユリアは、表向きは軍人である。策を練り、帝国の敵を殴り倒して暮らして来た。けれども不正と敗北に対しては、人一倍に敏感であった。
「私の部下は、少なくとも2人は優秀なんだぞふっざけるなこんくそやろーーーーーー!!!!」
繰り返そう、ユリア・バーナードは激怒した。
時は少し遡る。ユリア・バーナードは大隊長として任務の結果を報告するため、書類をきっちり作成した。任務は無事成され、敵の目を潰したと。それを送付しようとしたところで送付先が分からず、辞令に書かれていた連絡先に連絡をとったところ、電話の先に現れたのは言葉の発音だけは帝都仕様でやたら綺麗な、
「ふん、お前がかのシャベル姫か。優秀かと思いきや、ゴミ箱に堕ちる程度の人間だったとは」
何となく無能そうな声音の中佐であった。ユリアは無意識のうちに目を細め、知らぬうちに右手に持っていたペンを折った。替えのペンを引き出しから取り出す。
「まあいい、精々働いて私の昇格に貢献してくれたまえよ。お前達がどんなにあがいたところで何も変わらぬが、私は優秀だという記録は残るからな」
「………あなたが優秀な記録は残る?では、私たちの記録は残らないというのですか?」
「これから説明しようとしたことを言うのではない」
「言う前からネタバレしたのはあなたです。元とは言え参謀将校相手に隠し事をするなら発言に気を付けられてはいかがですか?」
「うるさいな…とんでもないじゃじゃ馬が来た…ちっ…」
ちっ、と舌打ちをしたいのはユリアも同じであった。とんでもないクソヤロウが上官になったものである。
「とにかくだ。私はお前たちのようなゴミクズを指揮して華麗に任務を遂行する。私が優秀だということは上に知られるが、お前たちの記録は一切残らない。素晴らしい仕組みだろう?」
意味が分からないよ…とつぶやきたくなるのを抑えて沈黙する。沈黙は金雄弁は銀とはよく言ったものである。
「ほれ、今回の任務報告をせよ」
「書類にまとめてありますが如何いたしましょう」
「書類なぞ要らぬ、口頭で伝えよ」
「……は?」
ポカン、と口を開けて固まる。自分が間抜けな表情をさらしている自覚はあったが、動かないのだから仕方ない。というか、そんなことがどうでもいいくらいには思考が停止する。
「言ったであろう、お前たちは記録には残らぬ」
「…………まさか、勤務記録も残らないと?」
「戦闘記録がないのだからな」
記録が残らない。隊員たちのやる気のなさ。信頼でしか動かない現状。それはもしかして、
「私含め隊員たちは全員、無給だというのですか…?」
「何を当然のこと。戦闘もしていないのに食料その他兵站を整えているだけ高待遇にも程があるだろうよ。全く、何の役にも立たない廃材如きが」
「……………報告します」
ユリアは淡々と報告をし、会話を終わらせる。電話をガシャコンと乱雑に切る。
そして――――
「だーっ!何なのよ!何だってのよ!」
噴火した。そして冒頭に戻る。
「どうしたー、嬢ちゃ――――」
「なんだってんだよこんちくしょー!!!!」
隊長執務室へと立ち入ったシャンは荒れ狂う彼女を見て一瞬動きを止める。そしてそれが現実だと知ったとき、彼女がこの部隊の事情を知ったのではないかと思い至る。
「まー落ち着けや、キレたって変わらねえ」
「労働対価が無い?ふざけるな!無料ほど信頼のおけないものはないと知らないのか帝国軍は!」
「そこぉ…?」
突っ込みどころはあれど、彼女が知ったらしい事実に、シャン達が慣れきった事実にため息を吐きつつ、どうどうと彼女を落ち着かせんとする。
「まあまあ、俺たちは慣れたもんだから」
「これに?!慣れる?!だめよそんなの!あっていいはずないわ!」
噴火の度合いが深刻化する。しかし、シャンにとっても深刻な現実はあった。
「だが、どうしようもないだろ」
「っ……」
「俺たちは誰が苦しもうが死のうが戦うしかねえ。命令に従わなければそれこそ全滅だ」
逃れようのない現実。ムルトナ大隊最古参の男が長らく苦しまされたそれに、最新参の女は唇を尖らせる。
「…………認めないわ。絶対あなたたちの待遇を良くしてみせるんだから」
「嬢ちゃん、そこなのか…?嬢ちゃんだって上に戻りたいとかないのか?」
「もうどうだっていいわ戦争の止め方も知らないクソッタレどもなど」
「おお……」
想像以上のこき下ろしっぷりにシャンは思わず呆れる。彼女にじゃない。上にだ。
「私はここに来た。書類から存在も抹消されている。それはもう変わらないもの。でも、私にはあなたたち部下がいる。それは書類に書かれていなくたって目に見えてわかる事実。部下を守るのが上司の務めなら、私は部下たちの権利を何としても守る」
深い青色に闇をたたえた瞳。それに射抜かれ、シャンは何も言えなくなる。しかし次の瞬間には打って代わり、爛々と輝き始める。
「目下、給金と労働環境改善かしらね」
「……普通、そんなこと考えませんって」
「あら知らないの?私は“シャベル姫”よ?――――普通のことなんてできないの」
爽やかに笑う彼女に先程の闇はみられない。
あーもー、女って怖い、すぐコロコロ変わる。さっきまであんなだったのに爽やかな笑顔だぞ?怖い以外の何があるんだよ?もうちょっと情緒安定した方がよくない?
世界の女を敵に回せそうなことをさらっと考えていたが、パタパタと駆け込んできた金髪碧眼の女、プルバーの姿に思考は霧散する。
「大隊長!次の任務です!」
ユリア――――嬢ちゃんはプルバーに対しご苦労、と告げると書類を受け取り、中をざっと読んでいく。参謀将校として培った書類裁きのスピードを侮るなかれと言わんばかりの早さで内容を把握して吟味したらしく、ため息をついては立ち上がった。
「嬢ちゃん?」
「ちょっと散歩」
ついてくるなよ、と怒気に満ちた笑顔を向けられたのでおとなしく待機を選択。ついていこうとしたプルバーの襟をつかんで座らせ、仕事を始めさせる。
――――あの様子じゃあ絶対隊舎エリアに殴り込みだな…
未だに引っ込んで出てこない仲間たちに内心合掌すると、シャンも仕事を裁き始めた。
皆さんごきげんよう。ユリア・バーナードです。
私は今、一人で隊舎となっているエリアへと移動したところです。野営地なのでテントだらけ。…隊長室周辺とは違い、ここは人の気配がうじゃうじゃする。皆、ここに固まって待機しているらしいわね?
「こーんにーちはー」
ここは私の隊。なので問答無用で突撃。知らぬ声に振り向き、私を認識した瞬間蜘蛛の子を散らさんばかりの速さで逃亡していく隊員たち。
「…そう、逃げるのね」
私は機嫌が悪い。すこぶる悪い。
今なら元上司の"胃痛さん"を殴ることも吝かではない程度には機嫌が悪い。
転がっていたシャベルを握る。瞳がオレンジ色に輝く。
彼を殴る気は全く無いし、物理的に距離が離れすぎて不可能だが、ちょうどいい的がたくさんあるではないか。
「なら、私も追いかけていいわよね」
容赦なんてしてやらないわよ?
『煌めく眼でロックオーン!』
『えっ待っ――――ぎゃあああああ!!!』
『敵襲?!』
『逃げゴフッ』
『シャベルでやることじゃねえだろ?!』
『お許しを!!!慈悲を!!!』
『今生に救いをもたらしてやると思ったの?』
『きゃあああああ!!』
『速い、速すぎる!』
『メカール!罠は?!』
『なんか壊れた、だから降伏』
『嘘だろおおおお?!』
『僕も降伏でお願いします』
『俺は逃げねえ――――ぐふっ』
「シャン、なんか外騒がしいよね?」
「あー…気にするな。気にしちゃいけねえ。いいな、プルバー?」
『逃げろ!』
『とにかく距離を!』
『射撃してこないからへい、きじゃなかったぁ…』
『ゴム弾?!どうやって?!』
『嘘だろ…シャベルで叩きつけてんぞ…』
『あんなの正気じゃ――――』
「正気じゃなくて悪かったわね」
シャベルで男性兵士をまた一人叩いて伸す。ユリアにとって、知覚できる中で通路にいる人間は全員伸したことになる。
さてあとはここだけ、と一番広い部屋があるテントの裏側から接近すると入り口側を覗きこむ。
「あら~?ご飯食べる~?」
タープ張りの日陰、調理器具が並んだ中心で鍋を火にかけて微笑む女性。その側にはご飯にがっつくおそらく最年少の女の子、白旗をあげつつご飯を食べる手を止めない男、もう見向きもせずにご飯を食べ続ける男。
「美味しそうなポトフね。是非いただくわ」
さんざん暴れまわったユリアもちゃっかり加わる。
シャベルを放り投げ、手を洗って着席すれば、息吐く間もなく食事が並べられる。優秀だ。
食前の祈りを済ませる。スプーンに食べ物を乗せ、口に運んで――――
「!!!!!」
もう何も考えられなくなった。
下品にならない程度に上昇する食事スピード、先ほどまでの不機嫌が霧散し跳ねあがるテンション。
先に食事していた三人が驚いた顔をしてこちらを見ているがそんなことはどうでもよかった。きっちり平らげるや否やお代わりを要求した。
「いい食べっぷりね~、おばさん嬉しいわ~」
間髪入れずに二杯目。それも完食し、食後の祈りをする。
跳ねあがったテンションのまま、口を開く。
「とてもお料理がお上手なのですね!もしかして、食堂でもやっていらした?」
こんなにおいしい食事は久々だ。参謀本部の食堂はこの世の終わりの味がするし、別荘では好きではない味付けの料理が出たし、とにかく胃袋が満足する食事はなかなか味わえなかった。それがどうだ。このおばさまの料理の美味しさよ!
「そんなこと無いのよ~、軍の食事って不味いじゃない?だから自分で作っちゃったの~」
「素材の味だけでなくきちんとスープの味がしみ込んだジャガイモの美味しさよ…!」
あまりの美味しさに涙がでる。もしかして、これが本当の家庭の味、ひいてはライヒの味…!
思わず感涙していると、心配そうな声音で白旗男に声をかけられる。
「今まで何を食ってきたんだ…?」
「戦場常在のゲテモノ飯」
うわあ、と悲鳴が上がる。そうだろう、こんなにおいしいご飯を食べて暮らしてきた懲罰部隊組の君らには耐えがたい食事を私は消化してきたんだ………ちょっと深呼吸しよう。あまりにもおいしい食事は私のキャラを崩壊させる。良くない。……こんなにおいしい食事なら懲罰部隊も捨てたものじゃないなあ。
「お姉様、お名前は?」
「パウラ・トットです~。担当は兵站管理なの。補給したいときはぜひ相談してね~…あ、魔導師じゃないから出撃はさせないでね?」
「パウラお姉様…!」
いや、こいつ元戦車乗りだし見た目は若いけど結構古参のおばs…等とほざいた白旗男をパウラお姉様の投げたフォークが黙らせる。白旗男は防壁術式で見事跳ね返したとはいえ、顔が真っ青である――――恐怖ではなさそうだ。
「構築スピードは悪くないけれど、調子が悪そうね」
「あー…俺、魔導展開すると気持ち悪くなっちゃうんすよ…」
「むう…宝珠は旧式か。これはどう?」
97式を手渡してみる。もっと顔色が悪くなったので流石に謝罪した。
ついでだと言わんばかりに特化型棍棒の方も試させると、こちらは顔が明るくなる。
「何だこれ、めっちゃいいじゃん!へえ、防壁しか出ないんだ!」
「自分で式を展開すると気持ち悪くなっちゃうのね…不思議」
「え、俺これ欲しいな!」
「じゃあ私の指揮下に入ってくれる?」
図らぬところで釣りみたくなってしまった。なお、獲物はエサに目を輝かせて食いついているあたり、完全にヒットだ。
「入る入る!俺は
「で、あなたは魔力を使い果たすまでそれを研究するつもりだ?」
「うわ、バレてる」
「複製改造はお願いしたいけど研究は駄目。でも全部を封じると可哀そうだから、調査分析くらいはしてもいいわ――――あなたの魔力が8割以上残るのを条件にね」
「分かった!」
「ただしメカールって人が私の配下になるまでは待機」
水を得た魚だったフォーシャーが沈黙する。早くやりたければ、同業を連れてきやがれって話ですのよ?
そんなこんなしているうちにシャベルで吹き飛ばされた意識を回復した隊員たちが地面から起き上がってはこちらへ集まってくる。隊列こそ整ってはいないが今度こそ彼らは私をきちんと見ている気がする――――のだが、初回がアレだったので座ったまま彼らを眺め、煽る。
「一番階級がある人間をガン無視な上たかがシャベルで意識を刈り取られる弱すぎへっぽこ兵士の皆さん。改めて自己紹介するわね。私はユリア・バーナード。元は参謀本部作戦局にいました。階級は少佐」
え、バーナードってシャベル姫じゃない?!などと聞き覚えのあるフレーズがここでも飛び交い始める。おかしい、煽ったはずなのに私の
「どうして任務に参加しないのか聞いてもいいかしら」
現実はいつだって厳しい。半泣きになる感情をそっとしまって笑顔で問いかけてやれば、彼らの機嫌は急降下した。
「逆に聞くが、何で任務に参加するんだ?お前だって、何かやらかしてこんなところに来たんだろう?帝室への忠誠なんてあるのか?」
「そうね。帝室への忠誠も、守るべき家族もないけれど、任務放棄で強制的に殺されるのは嫌なのよ。自分の死に様くらいは自分で決めたいわ」
「戦地でなら死ねるのか?」
「戦争を終わらせて平和になった世界で幸せな余生を送り、ベッドの上で穏やかに死にたい。コーヒーの香りに包まれながら」
「おおう…思ったよりも理想高い…」
そのくらいはないと生き延びられない、当たり前だろう。
ひそひそと話し合う彼らを見て、部隊の中での人間関係を把握していく。二人組、三人組、誰とも意見を交わさない人、様子を伺う人、伺われる人…うん、良く分かった。
「納得するものはあったけれど、でも参加したくないなぁ………だって、プルバーさんいるんでしょう…?」
その発言をした男を見る。どう見ても支給品ではない防護具が身体に装着されている。
「彼女の誤射を食らったことがあるの?」
「一度食らいましたが死ぬかと思ったんですよ!!ノーコン強火力すぎて怖いじゃないですか!」
「あなたあれ食らって生きてたの、さぞかし防壁の運用が上手なのね」
「うっ…!………まあ、だって、敵怖いですし…」
「私もあれ食らったけれど、そこそこ魔力を持っていかれたわ。本当、すごい威力よね」
「え?」
「まあ私は食らっても行動に支障がでないから、常に私の側で行動させるようにするわ。そうしたら、誤射しても私がカバーできるからあなた達には被害がなくて済む」
「嘘でしょ…?何で無傷…?」
「物理で殴ってレベルをあげたら物理防御も上がったのよ」
なんだこいつ、とドン引きの目をされたが気にしない。もう今さらだ。それでもダメージを受けて心の涙をこらえているとパウラお姉様が飴をくれた。もう大好きついていく。
その様子を見てか、もしくは思考の結果か、一人の男が手を挙げた。階級章は少尉、装備品は偵察兵のような軽装備。
「……分かった。じゃあ、とりあえず次の作戦は参加。それで判断ってことで」
舐めた口ぶり、茶髪のボブカットからワイトマンと呼ばれる男であることを把握する。彼の気質は『強いものに従う』。
「うん。よろしく」
にこりと笑って頷く。
面倒なことになりそうだった。
改めまして、皆様お久しぶりです。
まずは長い間お待たせして申し訳ありませんでした…!
事情を説明しますと、ちょうど最後の更新をしたあたりで体調を崩しまして。それが結構大病であれやこれやという間に医者の世話になりまくることになったんですよね。
で、酒が禁止になり、本が読めなくなり、ゲームも楽しめなくなり、という状態が続いて、虚無虚無シーズン到来。そこから回復するのにしばらくかかり、やっとゲームができるようになり、軽い本を読めるようになり、しかし重い本こと幼女戦記が読めるようになるまでうんたら年かかりました。最近です。娑婆への復帰より時間かかりました。
そしてやっとメモ帳でゴミゴミしていたこれをちょちょいっと書き直すところまで体調が戻ってきたので!とりあえず過去の私が書いた部分は救い出してやるぜ!というやる気をやっと現実に引き出せるようになりました…めっちゃ時間かかったね…(やる気自体は結構前からあったものの、行動ができなかったんですよね…虚無…)。
そんな感じで以前と比べて大分HPもMPも下がってしまったので、次回更新がひどい有様になってしまいそうです。過去の遺産は残っているので早めに書けたらいいなあとは思いますが…申し訳ない。もしもタイミングが合いましたら読んでいただけると幸いです。
まあ、私の代わりにワインでも飲んで待っててください。
自分も、楽しく書ける範囲で書いていきます。まあもともとこれを書くのに無理はしてないんですけれども、ね!
ということで、運が良ければまたお会いしましょう。
あ、幼女戦記の新刊は買いました。ちまちま読めたらいいな(既刊は何度か周回しているお陰でまだ読みやすいですが、新刊はあまり自信が無いです…)。
ちょっと昔の話
12巻発売前の自分「メロスにしたろwwww」
12巻読了後の自分「なんでメロスにしたんや同志よ…(ガチ困惑)」