令嬢戦記   作:石和

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 もっと早く投稿しようと思っていたんです。ベヨネッタに時間を食われたんです。原因は簡単です、作者にアクションゲームの素質が全くない故であります。イージーに苦慮するほどの実力の無さであります。しかし、どうしてもベヨネッタさんじゅうななさいを操作したかったんです。美人は好きです。



 はい、すみませんでした。
 第3話はアナスタシアお嬢様のターンです。題名の通り令嬢ですよ、多分。



第3話

 洗いっぱなしの質素なワンピース、ショートブーツといった格好にトランクを持って町を歩く。普段より髪は丁寧に梳かれ束ねられてあったが、その目は死んでいる。

 

 皆さんご機嫌麗しゅう。私はアナスタシア・フォン・プルシアでございます。久方ぶりに家から呼び出しがかかり、士官学校で家を出て以来何の沙汰もなかったくせに、いったい何用かと出向いております。

 昼過ぎに到着した、久方ぶりのプルシア家は相変わらずギスギスした雰囲気。カフェイン不足ですかね。私は令嬢の恰好をしていないという理由で裏口から家へと入ります。

 

「ただいま戻りました。――――まあ誰も反応しないからいいか」

 

 慌ただしく働く使用人たちに礼儀程度のあいさつはする。しかし、誰もこちらに気づかないのは雇い主の命令だからだろうか。まあ、なんだっていい。私はここにおいて、昔からそのような扱いであるから今更。

 廊下を歩き、扉を開けて自室へ入る。扉を意図的に少し開けておき、トランクをベッドに放る。窓を開け、ほこりの積もった自室の掃除をするべく、トランクから雑巾と三角巾、マスク、エプロンを取り出す。身支度をして自室備え付けの洗面所――――祖父母は私に一人で暮らすだけの用意はしてくれた、ただし屋敷内での一人暮らしである――――で雑巾を濡らし、広くない室内を全力で磨き始める。正直な話ベッドとデスク、棚一つしかないため掃除するところはほとんどが床である。軍人としては当たり前の、令嬢としては信じがたい掃除スキルで床を磨き上げると、ベッドのシーツ類もトランクから取り出し、ずっと放置されていたかび臭いシーツ類を片っ端からごみとして燃やす。もちろん空中で。術式は便利である。

 嬉々としてごみを燃やしていき、埃っぽくなった身体は風呂でさっぱりさせた。部屋着に着替え、きれいになった自室でくつろぐころには夜になっていた。呼び出しの手紙に書かれていた集合時刻?のようなものは翌日の9時。7時ごろに人を寄越すと書いてあるあたり、今晩祖父母に私を呼び出す用件はないはずだ。私はトランクから固形食料を取り出し、それだけ食べるとさっさと眠りについた。

 

 

「――――、――――様、お嬢様!アナスタシアお嬢様!」

「っ、」

 

 大声と頬を叩く何か――――多分、手。それらに驚いて目を開けると、見覚えのある婦人の困り顔。プルシア家の使用人にして唯一私を世話していた人、かつこの家で唯一私に最低限よりも多くやり取りをしてくれる人。

 

「……エリカさん」

「お久しぶりでございます、アナスタシア様。いつお戻りになられたのですか?」

 

 彼女から目をそらし、窓の外を見やる。朝だ。つまり日付が変わっている。

 

「あー…昨日の午後に裏口から戻りました」

「なぜ床で寝ているかお聞きしても?」

「寝相が悪いからです」

「旦那様と奥様に挨拶は、」

「どちらもいいえ。――――誰も気づかないのであれば問題はありません」

 

 何てことはない、と言わんばかりにあっさりと告げれば、彼女は記憶と同じように悲しそうな顔をする。そんな必要はない、私はこの家で必要とされないのだから。普段から閉めっぱなしの部屋のドアが開いていれば普通気づくだろうに、誰も気づかないこの存在感の無さは、全く正常とは言い難い。それに、あなただって気づかなかったのだから…とは言わない。

 

「とりあえず、湯浴みでしょうか。それと食事を」

「…湯だけ張って。朝食は自分でとるから」

「ですが、」

「本当なら自分ですることよ。それに、どうせこの家に私の食器はないわ」

 

 かしこまりました、と暗い声音の彼女を無視して硬い床から起き上がる。体中が悲鳴を上げるが、何事もなかったように立ち上がる。壁掛けの時計は7時を示していた。私は水道からコップに水を入れて飲み干し、案の定トランクから固形食料を取り出して口に含む。ああ、こんなくだらない用事がなければ私は今頃、おいしいご飯にありつけていたはずなのに。ターニャは元気かな。…まあ元気だろうな。うん。

 

「お嬢様、湯が沸きました」

「ありがとうございます」

 

 タオルを受け取り、浴室へ向かう。着替えはどうせこれから家の指示するものを着ることになるので必要ない。さっさと入浴を済ませ、髪は魔法でさくさく乾燥させる。一つ諦念のため息をついて浴室から出れば、案の定祖母好みの堅苦しい服装が待っている。胸元にフレアのついた白い立て襟のシャツはボタンを袖含めすべて止めてかっちりと着る。次にひざ下まである長めのスカートを履き、パニエでふくらませる。スペンサータイプのジャケットを羽織り、ボタンを留める。ジャケットとスカートの色はボルドー。私の髪色には悪くはなくとも、正直もう少し明るい色味にしてほしい。なんというか老けている。もしも金髪であれば、その色味は"お人形"のように当てはまるのだろうけれど。あとは白い手袋を着け、黒いタイツ、焦げ茶色の革でできたレースアップのハーフブーツを履けば服装については完成である。

 

「では、失礼いたします」

 

 私はエリカさんに有無を言わせず座らされると、髪をガッと掴まれて一気に結い上げられる。ああ、重たい。そしてボルドーの帽子を被らされ、アナスタシア・フォン・プルシアという芸術品が完成した。どう間違ってもこれは私ではない。ため息をついて壁掛けの時計を見ればもう9時。

 

「時間ですので、旦那様の元へご案内いたします」

 

 先導のエリカさんに続いて部屋を出る。ちゃっかり荷物をまとめて持ってきたのは万一の時の保険だ。廊下を歩けば皆が目をそらす。小さいころから当然のように受けてきたその態度はもう慣れたもので、私は軍にいるときと同じように胸を張って歩く。トランクを預かる、と言ってきた人間には丁重に断りを入れた。信頼できない家で、信頼できない人の配下に荷物を手渡すような教育は受けてない。隣室のドアの前で立ち止まると、エリカさんが扉を叩く。

 

「旦那様、アナスタシア様をお連れしました」

「入れ」

 

 部屋に入ると不快な視線が身体を貫く。久々の感覚、子供時代には毎日だったその視線は私の頭に注がれる。そして、お決まりの文句。 

 

「やはり忌々しい。何故お前は我が家の金色ではないのだ」

 

 この一言で旦那様、私の血縁上の祖父が何を考えているかお分かりになるだろう。祖父は、軽やかな金髪どころか黒髪に近い、私の重たい色をした髪が嫌いだ。そしてこの髪色は父親のものらしい。つまり、祖父が望んだ婿とは違う男の娘である私が嫌いなのだ。

 いい加減あきらめてほしい。曲がりなりにもプルシア家の血を継いでいるというだけで家に迎えたのは祖父であるし、金髪でないから気に入らないというならそれこそ捨てておけばよかったのだ。むしろ変なプライドに邪魔されて嫌々家で生活させたり、そのくせ令嬢たるものが何かを仕込みに来ては誰かと結婚させようとしたり、その相手は必ず金髪であったり、私の自己実現を邪魔するべく全力を尽くすのは疲れるだろう。

 

「だが、お前にプルシア家で功績を積ませてやろう。うまくいけば、お前を認めてやる」

 

 そして何よりその家の名前が素晴らしいと思い込むそれ。言っておくが、軍ではその名前は全く知られていないからな…とは口が裂けても言わない。仕打ちを受けるだけで利益がない。素直に従うこともできないが。

 

「そんなものに興味はありません」

「黙らんかね!お前にそのような権利などない!――――女性は、価値ある血統の血を増殖させるために多産する、控えめで、従順で、献身的な主婦であるべきだ。よって、お前に縁談だ」

「……お言葉ですが、私は軍人です。それも、軍大学に進学させてもらえるほど、軍から期待を背負った人間です。そんな人間を、結婚で家に閉じ込めるなど、帝国に不利益であるとはお考えにならないのですか」

「重用される?お前が?――――誰かから獲物を横取りできるよう媚を売ったにすぎぬだろう」

 

 下らない。上官に媚を売るだけで上に上がれるような軍隊はこの帝国にはない。本当に目の前の男は帝国の貴族なのか怪しいと思う。フォンという肩書がただの紙っぺらだ。名はあっても実体がないのではどうしようもない。

 

「何も言えないだろう?お前など所詮そんなものだ」

「いえ、言っても理解できない人間に説明する口は持っていません。時間と酸素と体力の無駄です」

「お前というやつは!!!」

 

 ああ、そうだ。すぐブチ切れるのも祖父の癖だった。投げつけられる文鎮を防壁で弾き落とす。ちょっと仕返しにペンを折ってやろうと、デスク右側に向けて攻撃術式を組んで射出した。しかし左側へ向かった術式はデスクランプを壊した。なんという致命的エラー。突如発生した見えない壁と見えない攻撃に、祖父が怯えを得たのがよく分かる。この人はきっと軍にこれより優秀な航空魔導士がうようよいるのを知らないのだろう。

 本当に、井の中の蛙。どうしようもない。

 

「嫌なものは嫌です。私は軍人として帝国に尽くす覚悟をとうの昔に決めています。プルシア家に尽くしたいわけでも、あなた方に認められたいわけでもない」

 

 もういいだろう。会わなかった祖母は縁談相手をもてなしているのだろうが、そんなことはどうでもいい。せいぜい謝罪に精を尽くせ。トランクを掴んで適当な窓を開けると、そこから飛び出す。男の怒号と、女の悲鳴を後ろで聞いた気がした。お構いなしに宝珠で干渉し、着地を丁寧に決めると、私は昔と同じように走って屋敷を逃げ出す。

 

「ああくそ…!やはりあの家は碌なことがない!いったい、いつまで時代遅れな!」

 

 自分で切れる縁なら、今すぐにでもぶった切って自由になりたい。だが、そううまくいかないのも人生。昔のように逃げ先である図書館へ駆け込むと、すぐさまトイレへ向かう。個室に入るや否や、やけくそになりながら白い手袋で口紅を拭いとる。美味しくない上に不快感しか与えないそれはべったりと手袋についたが、どうせすぐに捨てるので問題はない。さっさとあの家で支給されたものを捨てるべく着替えを敢行。洗いざらしのワンピースは支給された高級品よりも肌や私の髪色に馴染んだ。髪も解き、いつもの自分へ戻ると落ち着いた。図書館を出て洋服類を路地裏のごみ箱へ容赦なく突っ込んで、帰路をたどる。そして軍用地へ踏み入れば、先ほどまでの不快な気持ちは薄れる。私の居場所はここにある。明日には死んでいる身であったとしても、私はこちら側に生きていたい。そう思わせる何かが、職場に存在するのだから私は幸せなのだろう。

 

「今日はやけくそだ。ストックしておいたとっておきのコーヒーを飲んでやる」

 

 宿舎自室の棚の上、ターニャから見えないところに置いた箱の中身。それは前線にも肌身離さず持ち歩いた、初任給をつぎ込んで買った高級豆。それを挽いて淹れるコーヒーは、私にとって格別の味なのだ。ふふ、と緩んだ口からご機嫌な笑みが漏れる。そうしてささやかな宝物は、彼女の足取りを浮足立つ軽やかなものに変えた。

 

 皆さまごきげんよう。私は帝国陸軍中尉、ユリア・バーナードである。

 

 

 







 作者はAC等フロムちゃんのゲームとか、少し違いますがメタルギアとか、いろいろやりたいゲームはあってもそれを操作する能力に恵まれなかったので、簡単に操作できるストラテジーにしか手を出せないでいます。ストラテジーだとルナティックハードもクリアできるのにアクションはイージーにすら詰む有様。
 まああれです、きっと誰にでも無いものねだりしたいことはあるはず…だと思う。皆が何でも出来たら、世界はきっと平和。うん。



 とりあえずアナスタシア嬢の面倒なおうち事情はこれくらいにして、次からはユリアちゃんのウキウキわくわく進路決定(誰の副官にしよう)


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