令嬢戦記   作:石和

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 細かい設定って忘れますよね。酒が入っていれば尚更。前書きの時間は酒入ってないんですけど、本文の時間はだいたい酒が入ってます。そして酒飲みながら考えたことは一晩で消えゆくので細かい設定を忘れる。指摘されて初めてなにやらおかしいところに気づく辺り、作者は思考補完型のご都合主義者かもしれない。

 では、ユリアちゃんの進路決定です。



第4話

 数か月後、最終課題として軍大学の生徒から提出された山ほどの課題。その中でもひと際異質で、評価が二分したものが存在する。あまりにも評価が二分されすぎて評価できず、軍大学どころか参謀本部上層部まで持ち出されたその論文。それを手にして唸る将校と、納得の表情を見せる将校がいるあたり、参謀本部中でも優秀な頭脳を持つ人間ですら評価が二分する内容であるらしかった。

 

 

 特別に開示された執筆者の名はユリア・バーナード。題名は「戦史における帝国軍と今次戦争について」、帝国軍の戦史における特徴と行動心理を時代別に読み解き、今次戦争について帝国軍の行動に警鐘を鳴らすものであった。

 論文で彼女はこの戦争について、国の勘違いから始まっていると評する。帝国の軍事力を見誤った協商連合、協商連合などすぐに潰せると勘違いした帝国。特に帝国に関しては、周辺国すべてを仮想敵国とみなさねばならぬその不安な状況に刺激された軍が、協商連合が帝国軍より強いと勘違いした故に過剰反応を見せたに過ぎない。だが、その過剰反応は新興列強の帝国を警戒する従来の列強国には悪影響しかもたらさない。このままいけば帝国は、周辺国と本格的に戦わなくてはならなくなるだろう。

 そのような愚を犯した理由は決して、帝国軍人が無能であるからではない。帝国軍は、建国以来勝ち続けている。余裕があっても、少し無理をしてでも勝ってきた。それ故に、軍は戦って勝つことしか知らず、帝国は軍で勝つことしか知らない。その軍の生い立ち故に、帝国軍は戦ってしまう――――その分析に怒る者、困惑する者様々であったが、結論に一部を除いた将校がこの論文を嫌悪する原因がある。

 

 今次戦争は参戦国が増える前に止めるべきである。決してこれ以上我々から敵国へ攻め立ててはならないし、冬季に短期決戦を目論むなど論外なのである。勝ちたいという思考ではなく、負けないという思考でなければ、四方を囲まれた帝国に未来はない。

 

 その文章はノルデン侵攻を声高に訴えた将校にとって認めがたいものであった。自分の間違いを突きつけてくるようなその文章を受け入れるには、いささか直接的すぎる。一方、ノルデン侵攻に反対した将校には好感を持たれる内容であり、自分の麾下に置くべく彼女のポストを考え始める。彼女の頭脳明晰ぶりと近接以外の戦闘下手は有名であり、後方勤務にせざるを得ないのは誰もが知るところであったが、その座席をどこに設けるかで大きな差が発生する。帝国軍に有意に働かせるにはどこが良いか、その最善を模索し始める。

 

 そしてこの論文、実はもう1つ重要な要素がある。「規模関係なく、戦史に名を残す独裁者・カリスマの分析」が書かれているのだ。そこには分析結果から取扱説明書ばりの対応方法が記されている。その中でも注目を浴びたのは3つの項目。

 

 一つ、絶対に知られたくない内容は欠片も教えてはならない。たとえ世間話だとしても、少ない情報からその内容にたどり着く能力が高い。デスクに置きっぱなしにした書類、論外である。

 一つ、自分たちと同じ感情の物差しを持っていると思ってはいけない。良心の呵責など、一番頼れない。

 一つ、主張してくる内容の裏側を読み取るべし。案外、自己の保身に突っ走っていることがある。そこを誤解すると自分の首を絞める可能性がある。

 

 これには一部の将校――――特にゼートゥーア准将、レルゲン中佐が高評価した。彼らからしてみれば、これらの項目は誰のことを示しているか、そう考えた時にターニャ・デグレチャフが浮かぶ。そして執筆者はその隣で軍人生活を歩み続けるユリア・バーナード。悩む人間たちに、この分析は大いに参考になった。理解できない、からほんの少しでも理解したに進歩するために、大人たちは必死だったらしい。

 

 結果、ユリア・バーナードの論文は色濃く記憶に残る、強烈な論文であったことは間違いない。その論文を取り巻く感情や思惑は分かれたが、高評価ということで幕を閉じた。

 

 

 

 皆様、ごきげんよう。私はユリア・バーナードであります。晴れて軍大学を卒業し、あとは配属を待つのみとなりました。現在暇を持て余しながらターニャの部屋にいます。彼女は同期たちと同じように昨晩配属が決まり、参謀本部付の編成官となったそうです。……かなり古い時代の制度名を聞きましたが、きっとこれは何かの前触れでしょう。そうですね、きっと編成の功績やらで少佐にして、その編成された大隊を率いさせたいと参謀本部は考えているのだろうと思います。二桁にようやく差し掛かるその年齢で大隊長。いやあ、夜道を歩くの不安になっちゃう!って感じ?とにかく彼女は野戦将校への道をまっしぐらというわけです。部下を壁と考えるあたり、ターニャちゃんは有能な怠け者だから仕方ない。

 

「全く、外にも出られんよ」

「そうねえ、背後とか狙われちゃいそう」

「やめてくれ。近接においてシャベル姫には勝てない」

「死にたいようだな」

「すまなかった」

 

 何故か昨日のうちに何の音沙汰もない私は果たしてどのような場所に配属されるのやら。私お得意のシャベル片手に戦える戦場は塹壕戦くらいなので正直野戦将校には向かない。かと言って無能な怠け者にはなりたくない。無能な働き者なら軍大学には入れてもらえないままクビだったか死んでいたかだ。そうならば有能な働き者であるべきだし、そう見えるよう努めているが上から何と見られるかは分からない。ああ、どうしよう。こんなに税金を湯水のごとく注がれた環境で育てられたのに無能と言われたら心がしんどい。

 

「どうしよ、ターニャ。落ち着かない」

「先ほどから本の上下が逆さまだぞ」

「だから落ち着かないって言ってるじゃん。悟って」

「面倒な奴だな」

 

 ターニャちゃん、そういうところだよ。心の機微に疎いの、どうにかしなよ。――――かく言う私も心の機微に疎い部類ではあるので人のことは言えない。

 とにかく、昼時だ。こうなれば昼ご飯を食べてうつらうつら睡魔と闘いながら知らせを待つほかない。立ち上がり上着を着て、身支度を整える。そしてターニャを引き連れ昼食へ――――と廊下に出たのは間違いだったのかもしれない。

 

「ああいた、ユリア・バーナード」

 

 廊下に出るや否や、軍大学教官であった人、もとい上官に遭遇する。しかも呼んでいる名前は私の名前。

 

「すぐに荷物をまとめろ。昼食は現地で支給する」

「は、はい」

「支度はどれほどでできる?」

「10分もあれば」

「では15分後、下にて待つ」

 

お呼び出し、しかも配属先に言及することなく命令だけ下して去っていくって、え?

 

「ターニャ……」

「幸運を祈るぞ。――――もう遅いかもしれないがな」

「ああああああ…」

 

 ユリア・バーナード、もしかしたらこのままクビかもしれません。

 

 

 

 30分後、トランクと身一つで上官に連れられて到着したのは参謀本部食堂。わけがわからないよ…と泣きたくなる顔を何とか普通の状態に維持して、荷物はそのまま持たされている。持って入れ、とのこと。

 

「ここで昼食だ。貴様のほかに将校がいらっしゃる。無礼の無いように」

「はい。……あの、なぜと問うたら怒りますか?」

「怒りはしない。私も詳しくは知らん。だがもう少し自信を持つようにな、ユリア・フォン・バーナード」

 

 そういって踵を返していく上官。結局何も知らないし教えてくれなかった。しかもフォン…つまりまた成績優秀者扱い、勘弁してほしい。あと、こっちの名前でも貴族のお飾り付けるの面倒なので名誉とはいえお返ししたくなる。しないけど。

 一息ついて、覚悟を決める。もうどうしようもないのだから、やるしかない。

 私が落ち着くまで待ってくれていたらしい従卒に案内されて部屋に入る。席に案内され、荷物を脇に置いた私は、遅れてやってきた人物に気が付くと顔を上げ、視線を上げ、驚くことになった。

 

「久しいな」

「れ、レルゲン少佐?!」

「今は中佐だ。所属も作戦局になっている」

 

 見覚えのある顔、眼鏡。なんだか気苦労が多そうなその雰囲気。大学図書館で少し前にお会いした人物が、参謀本部の食堂で、しかも目の前にいる。まさか、まさか。いやいや、そんな。私はあなたみたいな苦労人属性ではないと思っているのですが。

 

「お久しぶりです、レルゲン中佐。昇格おめでとうございます」

「ああ。バーナード中尉、軍大学卒業おめでとう。とりあえず昼食だ」

 

 食堂の使い方をレクチャーされながら、昼食を受け取る。席へ戻り、食前の祈りを済ませて食事を開始する。

 

「さて、急に連れてきて申し訳ない。つい先ほど会議で君の処遇が決まってね」

「……私の扱いそんなに悩まれていたんですか」

「まあそうだな。論文は高評価と低評価の嵐だった。フォンを与えるか否かも割れた」

「…………」

 

 書いた論文がもめ事を引き起こす自覚はある。それ故に昨日、同期と同じタイミングで配属の話を聞けなかったことは簡単に予想できることだった。そして、レルゲン中佐は先ほど決まったと言った。つまり、この昼食の場は私の辞令が下る場と考えていい。

 

「ユリア・フォン・バーナード中尉、今日付で大尉に昇格、参謀本部作戦局に配属だ。当面は私と一緒に動いてもらう」

「は……はい、力を尽くさせていただきます」

「昇格おめでとう、歓迎する」

 

 辞令は参謀本部への配属。それは素直にうれしい。私が不必要ではないこと、野戦より参謀でこき使おうということはよく理解できた。ただ、何故いきなり作戦局なのか。スープを口に含みつつ目線を上げれば、眼鏡の奥の瞳と視線が合った。

 

「何故、という顔だな。…本当なら人事部を経由してから作戦局のほうがゼネラリストとしては有能になる。だが今は戦時、そんな猶予はない」

「成程」

「作戦局で下働きしながら、コネでも何でも積み上げてくれ」

「承知しました」

 

 会話の間に昼食を平らげる。小休止ののちレルゲン中佐のデスク付近に連れていかれた私は早速自分の仕事場を整えた。自分の支度を整えている間に、レルゲン中佐のデスクの整理整頓(決して彼が悪いわけではない、仕事が多すぎる故だろう)、濃すぎる紫煙に嫌気がしたので分煙の徹底、彼のために胃薬の備蓄の必要性を把握した。胃薬が必要とかやめてほしい。いつの日かストレス性胃痛で倒れそうな上司をどう支えればいいのかは学習していない。

 そして自室の引っ越し作業、とは言ってもトランクの開封だけだが、それを済ませて今日の業務は終了となった。

 

 





 はい、上司は胃痛のお兄さんとなりました。何も考えず部下にしちゃって申し訳ないですね。とりあえず無言で胃薬差し出す部下だからうまく使ってあげてください。ああ、かわいそうに。


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