令嬢戦記   作:石和

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 誤字報告等ありがとうございます。スコップの件は全力で直しましたので誰か確認をお願いしたいです。知識不足が恥ずかしいです。

 ぐるぐる先生の翻訳機能は頼れますがミスがないと言い切れないのが問題ですよね。ということでぐるぐる先生よりも優秀な英語力をお持ちの方、添削をお願いします。
 …あれ?知識ほとんどないんじゃ…とか思ってないですとも(思ってます、すみません。ベヨネッタやってる場合じゃない)。では第5話です。


第5話

 先日、部下がついた。名前はユリア・フォン・バーナード。首から演算宝珠を提げた参謀将校は珍しい…というより本当ならば野戦でこき使いたいが素質上無理、と判断された故に彼女はここにいる。重たい色の長い髪を束ね、暗めの青い瞳は理知的な光を灯す。

 

「この度作戦局に配属となりました、ユリア・バーナード大尉です。ここに来るまではライン戦線にいたり、軍大学に通ったりしていました。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 作戦局の朝礼でそう挨拶した部下は、参謀本部ではかなり有名人だ。演算宝珠の件もあるが、彼女のシャベル姫という二つ名に近いそれと論文の話は皆の知るところであり、さらにターニャ・デグレチャフと普通に友人をやっているときた。

 

「ターニャ?ええ。士官学校からだいたい一緒にいましたね。初任地が違いましたが、ラインで一緒に戦っていますし、軍大学も同期です。仲良くなりたいなら美味しいコーヒーで釣れますよ。苦手なものは美味しくないものと女の子らしいふわふわな格好です」

 

 コーヒーでデグレチャフが釣れると表現したのは前にも後にも彼女だけだろう。しかし、士官学校から一緒にいたとは知らなかった。軍大学の図書館で初めて見かけたように思っていたが、記憶に残らなかっただけだろうか。

 

「だいたい射撃訓練クリアできなくて居残りです。それ以外の時間は図書館でした」

 

 なるほど。遭遇できないわけだ。本当によく卒業できたな。まあ、座学とその後の経過を見るに、卒業させて正解だったが。

 

 

 何はともあれ、この部下、非常に優秀である。

 

 

「バーナード、例の件だが」

「やっておきました。纏めたデータと報告書は少佐の席からみて左の山、上から3つ目のクリップの書類です」

「助かる」

 

 任せた仕事は確実にこなすこの部下は、仕事スピードを格段に向上させるブースターのような存在になりつつある。ルーデルドルフ閣下との会議に連れ出した際は、今まで課題として残っていた作戦上の欠陥部分を埋める提案をしてのけた。また、彼女は仕事の合間に本を読むのだが、そのジャンルは多岐にわたる。ジョーク集を読んでいるときは流石に笑った。だが、様々な本から吸収した知識を使って、敵国のデータの裏にある事情を汲み上げるのを見た時は、本気で彼女が士官学校で撥ねられなかったことに感謝した。

 あとは気が利くところか。

 

「中佐ー、胃薬ですよー」

「あっターニャ!元気?え?書類が多すぎて死にそう?副官ついてるでしょ?は、忘れてた?なら呼んであげなよ、多分暇してるよ」

「あれ、残業ですか?そうですか。――――明日、私は非番です。なので今日は徹夜しても大丈夫。手伝いますよ」

 

 確実なタイミングで水と胃薬を差し出されるのは複雑だが、コーヒーの淹れ方はうまいし、デグレチャフに遭遇しかけた際は彼女が先に声をかけ、横目で「早く行け」と逃げ道を提示してくるのは正直ありがたい。会いたくないから。時々発生する残業を手伝ってもらうと深夜までかからない。非常に優秀である。

 問題…として挙げられるのは時々深い思考に耽ることだろうか。彼女は学者肌らしい。声をかけても反応しないのはかの准将を彷彿とさせる。しかし今は仕事中だ。無理にでも思考の淵から引きずり出さねばならない。

 

「――――!あ、すみません」

「構わん。質問だが、貴官は外国語を話せるか?」

「は。英語なら会話可能かと。『Hello, Lieutenant Colonel Regen. Are you suffering from stomach pain today as well? Would you need its medicine?(こんにちは、レルゲン中佐。今日も胃痛に悩まされていますか?胃薬要りますか?)』」

「今はいらない。ふむ、ふざけた内容だが上出来だな」

「ありがとうございます」

 

 正直驚いた。流れるように喋りだした英語はある程度の慣れを感じさせた。聞けば、士官学校入学前まで通っていた仕事場には英語を話す人間がそれなりにいた珍しい環境だったらしい。孤児とはいえ偶然にも良い場所にいた彼女は、教養の深い人間にかわいがられて知識をため込む人間になったそうだ。航空魔導士を目指して士官学校に入学したのも勉強ができるからだという。それならばダキア語を勉強しておけ、という言葉にも素直に頷いて、

 

「せめて読解と聞き取りくらいはできるようになっておいたほうがいいですよね」

 

とやる気を見せる。目が輝いているあたり、仕事の時間に勉強していいという許可同然のそれに大喜びしているらしい。是、ただし仕事もせよと答えてやれば、翌日から彼女のデスクの上はダキア語の文献と彼女の筆跡の踊る紙で一杯になった。

 それから数日間、ダキアの文化、歴史、行政区画、政治、経済まであらゆる内容が散らばるデスクは大学の教授か、と言いたくなるような有様。だが、レポートとしてダキア軍の予測される戦法などを書いて寄越してくるあたりは軍人らしい。その内容は非常に問題であるが。

 

 

 統一歴1924年9月中旬、参謀本部内某会議室。

 部下は上官に囲まれてレポートの説明をしていた。それは仮想敵国の一つ、ダキア大公国についてまとめられたものであり、領土問題の件と現大公の妃が連合王国出身である件から確実に敵として近いうちに攻めてくることを主張したうえで、彼女が予測したダキア大公国軍の現状を報告するものであった。

 

「ダキアには航空戦力が無いようです。どの文献を読んでも出てきませんでした。また、それを装備するべきだと説く文献も一切見当たりません。情報部から情報を頂きましたがそれでも気になる要素は無し。ダキア語に航空魔導士の言葉もない。そうすると、越境は徒歩になるでしょう。山ですからね、機動はどうやっても遅くなるかと。それに装備は帝国に比べかなり時代遅れのようでして…というのも、あの国は歴史的に周辺国が発展してからテコ入れされないと次世代の技術を取り入れられないようなのです。現在周辺国で最先端なのは帝国ですが、そこに追いつけるだけの技術力は他国にありません。自分には直接調べる能力がないのが惜しいですが、これが真実ならば、帝国は航空部隊を送り込むだけでさくさくっと国境防衛できる可能性があります」

 

 失礼、と彼女がコーヒーを口に含む。これは余談だが、彼女の動作は軍人らしからぬ丁寧さと美しさがある。

 カップを置いた段階で、ルーデルドルフ閣下の鋭い視線が彼女に向けられる。

 

「………つまり、大尉は『実弾演習くらいにしかならないダキア戦』に対してどうしろと言いたい?」

「ターニャ・デグレチャフ少佐の部隊を査閲したいとおっしゃられましたよね?あれ、南東部で行ってそのままそこに配属すればいかがでしょう。ダキアがきな臭いのでしたら、訓練期間が足りないと嘆くターニャちゃんにそのまま実戦演習させればいいと思います。軍服がカラフルらしいので、新兵訓練にはもってこいでしょう」

 

 いかがですか、と彼女が振ったのはゼートゥーア閣下。閣下は少々考えたのち、悪くないと返答。ルーデルドルフ閣下も納得の表情を見せたあたり、彼女のプレゼンは成功したらしい。一方の自分は、デグレチャフに似通う何かを彼女に感じて、背中を冷たいものが流れ落ちていったのは気のせいだと思いたい。

 

「レルゲン、バーナード。お前たちに査閲は任せる。レルゲンは公用使として少佐に連絡、査閲式に出席せよ。バーナードはレルゲンの護衛でもしつつ、自分の主張の正誤を確認するんだな」

 

 ルーデルドルフ閣下の言葉に背を伸ばし、拝命の旨を伝える。そうして会議は解散となり、デグレチャフに会うという将来を思い浮かべて胃が痛くなった。すかさず胃薬を差し出してくる部下の出来の良さを褒めればいいのか、胃痛の要因を持ち込んだことを責めればいいのか悩ましい。

 

 

 

 会議から数日後、ランシルヴァニアへ向かうために参謀本部を出発した。駅へ到着し、チケットを取ってくるよう命じた時、珍しく返事が返ってこない。振り返っても目線をそらされる。

 

「何か問題でも?」

「あ、あのですねえ、中佐……えっと、その…」

 

 ぼそぼそ、と何かを答える声がしたのは分かった。しかし聞こえないのでは意味がない。再度言い直せと命じれば、

 

「わ、私!自分で列車乗ったこと無いんです…!だから、その、チケットの取り方も、わからない……ううっ」

 

やけくそになったのか彼女にしては大きい声で始まった返事は、彼女の顔が赤くなるのに反比例するかのように尻すぼみになって終わった。ふむ、そうか……え?

 

「自分でチケットを取って列車に乗ったことがないのか?!どこの貴族だお前!」

「だってきっ――――貴族ではなく孤児です!帝都の孤児院でしたし、帝都以外は軍で連れていかれた場所以外行ったことないんです!仕方ないじゃないですか!」

「あー…すまない。そうだったな」

 

 ついてこい、教えてやる。そう言って歩き出せば、彼女はほっとしたように安堵して、後ろを付いてくる。

 ああ、彼女が一般家庭で育っていないことをつい失念していた。そうだ、孤児だ。だがそれにしても丁寧な所作と訛りのない言葉遣い等――――いわゆる文化資本は他の孤児院出身者より突出して備わっているように思う。多分、貴族の中に放りだしても平気でやり取りできる。ドレスを着せてもまともに歩けるのではないか。

 到着した窓口でチケットの購入手順を教え、発券されたチケットを渡せば楽しそうに目を輝かせる。列車に乗り込み、寝台だと気がついた時の彼女はただの子供のようだった。

 

「すごい!ベッドついてる!」

「本当に乗ったことないのか…」

「帝都住まいだと帝都ですべて済んでしまうではないですか。――――食堂車なんてのもあるんですね!」

「前に前線派遣の時はどうやって行ったんだ」

「貨物車で行きました。あれもなかなか楽しかったですね。知らない土地行くの結構わくわくするんです」

 

 いつになく笑顔の部下。メモにこっそり旅好きと記入しておき、こき使うときはできるだけ遠路にしようと思った。

 部下が存外かわいらしいと気づいた翌日、この部下とデグレチャフのコンビネーションで胃痛が二割増しになることをレルゲンはまだ知らない。

 

 

 

 

 




 ふふ、2巻買ってねえな…買わなあかんな…
 クソアニメのステッカー二枚じゃなくて2巻買うべきだったな、と自省しておりますが後悔はしておりません。

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