令嬢戦記   作:石和

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 第9話です。気付けば小説情報のところが以前より黒くなっている気がしました。何か数字が増えたりゲージが増えたりしていて見るのをやめたんだぜうわあまじかよ。皆様ありがとうございます、誰か胃薬をくれ。





第9話

 皆さんごきげんよう。ユリア・バーナード少佐です。

 ついに、この日が来てしまいました。

 

「デグレチャフ少佐、ただいま着任いたしました」

「ようこそ、ノルデンへ。いや、お帰りというべきかな。歓迎しよう、デグレチャフ少佐」

 

 これでもう二度と皆さんに挨拶できないのだと思うと非常に残念です。小官、結構このくだりが好きだったんですよ。なのに今日限りで私はターニャ・デグレチャフによって息の根を止められ、もう二度とお目にかかれない可能性が高いことはすでに決められた道筋として私の目前に広がっています。

 

「前線の押し上げという事でありましょうか?いえ、ご命令とあれば即座に取り掛かりたいと思いますが」

「申し出はありがたいが、入念な準備が入り用だろう。しばらくは、訓練に専念してもらいたい。必要とあらば、バーナード魔導少佐を駆り出して構わない」

「ありがとうございます!」

 

 ターニャちゃんの凶悪な眼光が私を貫くのがよく分かります。隠し切れない殺意が滲み出ています。嬉しいんでしょうけど、私にはそう見えます。一方私はといえば、睨まれたウサギのごとくじっとしているほかありません。上官に『訓練手伝ってやれ』と遠回しに命令されたのですから、逃げ出しては命令違反です。でも、正直逃げ出したいしもう泣きそう。

 

「ユリア」

「何、ターニャ」

「ちょっと付き合え。支給はシャベルと宝珠でいいな?」

「……あの、もう前線離れて久しい、」

「ダキアで言ったこと、忘れてないだろ?」

「すみませんでしたぁ!」

「謝罪は模擬戦の後にいくらでも言わせてやる!」

「いや私仕事がまだ……そうですよね、ルーデルドルフ閣下」

「貴官も一応魔導少佐だ、たまには訓練してこい」

「というわけでやるぞ」

 

 ユリア・バーナード、死亡フラグが立ちました。

 おお、主よ。……私をお救いくださいませ。

 

 

 久々に航空服を身に着けるなあ、と思う。通信機器を巻き付け、いつものように無造作に束ねた髪を航空服の背中に押し込む。普段の軍服より重たくなった身体から戦場を思い出し、背筋が伸びる。装備品を確認し、シャベルを手にする。首には旧式だがずっと持ち歩いてきた宝珠を提げてある。

 コンコン、とドアを叩く音が響く。どうぞ、と自室への入室を許可すれば、見覚えのある軍人――――セレブリャコーフ少尉の姿。お迎えに来てくれたらしい。

 

「バーナード少佐、お久しぶりです。とは言っても、ダキアで会いましたけれど」

「…話すのは久しぶりね、ヴィーシャ。前回のは忘れて」

「いいえ、忘れません。――――あんなに機能停止したバーナード少佐、めったに見れませんので」

「見なかったことにして」

「戦闘中にシャベルの柄が折れた時も動揺しないのに、デグレチャフ少佐にはたじたじになってしまうのは新しい発見でした!」

「もうやだ…」

 

 随分とたくましくなった彼女に涙が出る。いや、良い事。良い事なの。でも、ターニャちゃんについていけるほどの逞しさ、絶対何か捨てて手に入れていると思う。

 演習場へ連れ出され、太陽光を浴びる。最近はずっと室内にこもりっぱなしだったので久々な感じがする。ああ、お部屋のデスクと書類が恋しいとこれほど思うなんて、ついさっきまで母国語がゲシュタルト崩壊していた人間とは思えないほどの社畜っぷりではないのか。否、単に現実逃避しているだけである。だって目の前には第二〇三の精鋭たちがずらりと並んで、私の横にはターニャちゃんが立っている。

 

「えー…参謀本部作戦局所属のユリア・バーナード少佐です。ターニャとは士官学校・軍大学の同期でした。苦手なものは狙いを定めないといけない武器全般、好きなものは狙わなくても当たる武器です。よろしくお願いします」

「さて諸君、彼女の射撃能力は致命的だ。誰も真似しないように。ただ、戦い方は参考にできるところもあるだろう。よく観察し、良い所は真似ろ。戦場ではなかなかお目にかかれないタイプだからな、この機会を大事にしたまえ」

 

 ああ、そんなにハードルを上げないでほしい。逃げ出したいと思ったのを察知されたのか、ガシッと嫌な効果音をつけそうな勢いで手を握られる。

 

「まずは私とユリアで模擬戦でもするとしよう。そうそう、諸君、くれぐれも油断しないように。――――彼女から目を離すと、痛い目を見るぞ」

 

 この上なく凶暴な目をしている。嫌な予感が背中を走り、反射的に宝珠に魔力を流し込むと同時にターニャの瞳の色が明るくなる。

 

「それでは訓練開始だ!」

 

 手が離される。最大出力で防壁を組み上げたのと、ターニャの一撃が入るのは同時だった。反動で後ろへ流れる体を飛行することにより倒れることだけは免れた。ぐるぐる回る視界と久々の浮遊感、そして煙の中から飛んでくる術式。

 

「ああもう、だから前線離れて久しいって言ったじゃない!」

 

 シャベルの刃に防壁を展開、自分に危害を加えそうな術式を叩き落とす。地上で悲鳴が聞こえた気がするが、それはきっと気のせいだ。自分に直接当たりそうにないものはスルーして、目にもとまらぬ速さで飛び込んできたターニャに対し、シャベルに付与した防壁に重ねるよう展開した攻撃用術式を振りかぶる。

 

「ほう、お前、前線離れて久しいは嘘ではなかったんだな。昔だったら回避していただろう」

「避ける暇も無かったよ…!」

 

 戦の相手ではないためターニャも私も出力は抑えている。それでも普通なら防壁破壊できるだけの術式を難なく受け止めたターニャの進化ぶりが化物だ。そんなターニャはそうだ、と思い出したかのように私に何かを差し出す。

 

「ユリア、これ使ってみろ」

「エレニウム工廠の97式か、パンフレット読んだ覚えはある。…ほう、結構扱いに癖があるね」

「お前も一応練度が高い部類だから扱えるだろう」

「まあ、慣れれば。だからって高度八〇〇〇で戦いたくない、無理」

「安心しろ、このまま一〇〇〇だ。流れ弾に当たるような部下はいないし、出力も抑えるから問題ない」

 

 スパルタだねターニャちゃん!てか、さっき悲鳴が聞こえた気がしたんだけど?

 

「そんな奴は後で扱く」

「うわあえげつねえ」

 

 首に提げる宝珠を旧式から97式に交換する。ターニャに少し練習するために模擬戦の休止を申し出れば、当然のように是とされた。良かったよターニャ、君にはまだ慈悲があったらしい。

 くるくると空を舞う。防壁を展開してそのスピードと性能の向上に驚く。どうも、魔力の流れが旧式より格段にいい。慣れるまではむしろ暴走しないようにコントロールが必要そうだが、悪くない。

 

「いつ見てもお前の目は不思議だな。オレンジに光る人間はなかなかいないと思うが」

「それ言ったらターニャだって95式の時は光り輝く金色じゃない、神々しい」

「その喩え止めろ、撃ち抜くぞ」

「はい」

 

 シャベルに防壁術式を展開し、ターニャが放ってくれたゴミを刃先で地上へ向けて叩き落としてみる。ついでにシャベルと接触した瞬間にゴミへ爆裂術式をかければ、ゴミは地面に接触したと同時に爆発した。ほう、これはなかなか。

 

「旧式より複数展開しやすい」

「そりゃあ性能が段違いだ。……お前は相変わらず変にコントロールがいい。そんな人間は戦場にあまりいない。射撃能力があればなお良かったのだが」

「私の取柄はそれくらいってね。それより部下が数名伸びてるけど平気?あと信じられないものを見る目で私を見てるんだけど」

「はあ…――――『目を離した馬鹿者を起こせ。これから本番だ、よく見ておけ』」

「え」

「もう十分練習しただろう」

 

 そう言って術式を組み上げてくるターニャちゃんは鬼だと思うの。防壁展開と同時にぶち当たる頭上からの攻撃術式。高度を下げつつもやり過ごし、煙を挟んで落下しながらデコイを作成、水平移動で距離をとるよう動かしていく。第二幕は体勢を立て直したので防壁展開したシャベルで必要な分だけ弾き、不足分は防壁で受ける。適当なところで上昇するべく加速して、あまりの性能の良さに少々振り回される。想像よりも早くターニャちゃんの背中が見えたが、私のデコイを追いかけるデコイだったので無視して上昇する。そして煙を抜けた先で、

 

「ごきげんよう、小さな同期」

「?!」

 

 下から容赦なく足を掴み、腕を伸ばしてシャベルの刃先を彼女の顎下へと突きつける――――が、足を掴んだはずの手が空を切る。

 

「っ…!」

「それも外れだ!!!」

 

 容赦のない攻撃が側面から飛んでくる。防壁を張るが間に合わず、衝撃を緩和する余裕もなく地面へと落ちた。かろうじて受け身はとったが、全身が軋む。肺から空気が押し出される感覚を味わう。ぶつけたところが痛い。

 大丈夫ですか?!と駆け寄ってくるセレブリャコーフ少尉に抱え起こされ、大丈夫と言おうとして咳き込む。存外に身体は悲鳴を上げているらしい。口の中は砂まみれだし、衝撃で胃が揺れたのか若干気持ち悪い。まあ、吐く物は胃の中にないので問題ない…そう頭が回るあたり、多分私は大丈夫。水を受け取り、口をゆすいでから乾いた喉を潤して、ようやく声が出た。礼を言って立ち上がると、ターニャがとことこ寄ってくる。――――ああ、落ちた私の周りに全員集合しているのか。そりゃあ降りてくるし寄ってもくるか。

 

「大丈夫か?」

「問題ないよ。で、どういうことだったかな」

 

 自分の敗因はデコイと本物を見分けられなかったことに尽きるが、一応聞いておきたい。これは素質の差か?練度の差か?

 

「ユリア、私は等身大の自分のデコイを2つ出せる」

 

 ターニャが浮かべるのは晴れやかなどや顔。ああ、素質かな…。

 

「そんなの聞いてないって…」

「やっぱりお前に前線は不向きだな。射撃がなければ始まらん」

「だから参謀将校…ああ、身体痛い…」

 

 そういえばなんかぐらぐらするし地面が揺れている気がする。いや、揺れているのは私か。

 慌てた顔をしたターニャを最後に、私の視界は真っ暗になった。

 

 

 数時間後、無事に目を覚ました私が見たものは、申し訳なさそうな顔をして手持ちのチョコレートとコーヒー豆を差し出してくるターニャちゃんだった。どうやら主はちゃんと私を救ってくれたらしい。翌朝にはその代償と言わんばかりに大量の書類がデスクに山積していたが、これからは母国語のゲシュタルト崩壊にも耐えられそうな気がした。

 だって、ターニャちゃんの訓練に付き合わされるよりも遥かにましなのだから。






 うーん戦闘は苦手ですね。もうできれば書きたくない。多分、自分が運動苦手だから体を動かすイメージがいまいち持てないのだろうと分析します。それゆえに、もしも次の作品を書くことがあったら戦闘なんて全くないものにするべきでしょう。

 …だが本棚に戦闘が一切ない作品はほとんどなくてな?ゲームもなんか戦ってばっかでな?今一番楽しみに待っているのはFE新作だとも。FEシリーズはいいぞ。

 とりあえず当分ユリアちゃんにはおとなしくデスクワークをしてもらいたいところです、ええ。 

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