ある日世界に蔓延した病、虚蝉病(うつせみびょう)。
これはそれに感染した青年の、狂った物語の始まりの1ページ。



※連載予定だったが個人的に欝過ぎて書けなくなったもの……の短編版。
※つまりは出来損ないを投稿しただけである。

1 / 1
空虚な瞳に写るモノ

虚蝉病。この世界では三年前から感染が拡大し始めた病だ。

感染すると数年の潜伏期間を経て身体のどこかにカウンターが現れる。

その数字は必ず7から始まり、AM0:00を越えるごとに減っていき、カウンターが0になると死ぬ。最悪の病だ。

しかしこれには1つだけメリットがあった。

虚蝉病患者は、カウンターが現れて以降人間を超越した力を振るうことができる。

一瞬の使用で大規模な火災を起こせる発火能力、ひとたび使えば都市昨日を麻痺させる発電能力、周囲一帯の全てを完全に凍てつかせる冷凍能力、触れるもの全てを腐らせる腐敗能力など、どれもこれも凄まじい、まさに超越者のごとき力である。

 

……だが、その力に気付く者は案外少ない。

政府が情報を隠蔽しているのだ。

知ったものはたとえ誰であっても殺し、能力の存在を気付かせない。

虚蝉病患者たちがもしそれを知ってしまえば、どうなるかが分かっているからだ。

残りの寿命は短いのだからと、悪事に手を染め混乱を起こす者、少しでも道連れにしようと殺戮する者、やりたかった事全てを力付くでなそうとする者……そんな者たちが大量に現れ、なおかつその者たちは皆人類を超越した力を持っている。

そんな状況になってしまえば、待っているのは破滅だけである。

患者たちによる破壊、患者同士の争いの余波、それを止めようとする大国のミサイル攻撃……たちまち国土は崩壊し、地図上から消滅するだろう。

だから政府は隠すのだ。患者たちの能力を。人間には過ぎた力を。

 

 

 

……さて、所変わって、ここは東京都A区N井町。

ここに今、新たな患者が生まれていた。

彼の名は斎藤和也。まだ先も長い、18の高校生である。

しかしそんな彼に訪れたのは、人生が残り7日であることを示すサイン。

現れたのはとても確認が容易な左手の甲であり、見逃すはずはなかった。

「マジかよ……俺の人生は、あと7日だってのか?」

 

彼は、自室に閉じ籠り、ベッドの上で頭を抱えていた。

それもそうだろう。昨日まであったはずの未来が、突然消滅したのだから。

まるで元々無かったかのように。

しかも昨日まで仲が良かったはずの友人たちも、自分が虚蝉病に感染するのを恐れてか避けるようになった。

「ふざけんなよ……クソがぁぁぁぁぁ!!!」

 

不意に今日学校で言われた一言を思い出し、和也は激昂する。

『近付くんじゃねぇよ、汚物』

これを言った男は、元々口が悪いクラスメイトではあったが今日の物は酷かった。

暴力沙汰だけは起こさないようにしてきた和也も抑えきれなくなり、近くの椅子で殴りかかるほどの乱闘となった。

二人が、怪我をして病院に運ばれた。

しかし和也はどうせ1週間で死んでしまうのだからと解放され、家に返された。

だが……彼の中には、その怒りがまだ燻っていたのだ。

 

突然手のひらを返したような友人たちに、7日で死ぬという自分の運命に、自分を殺す病気そのものに。

彼は怒りのままに、部屋の壁を殴り付ける。

しかし頑丈な現代建築はびくともせず、ただ和也の拳を痛めつけた。

しかしそれでも殴るのをやめない。

拳の感覚が麻痺しているかのようだ。

行き場のない怒りを、ただ壁を殴ることで発散しようとする。緊急避難的な行動だろう。

しかしその怒りは収まらない。むしろ次第に増すばかりであり、それどころか更なる感情に変質してすらいた。

 

怒りから、憎しみへ。

憎しみから、狂気へ。

単純な怒りは死んでなお残りそうなほどの濃密な憎悪へ、憎悪は自らの心すら蝕み、狂気へ包んでいく。

次第に和也の壁を殴る拳は威力を増していく。

それはまだ一向に傷を付けることすら出来ていないが、彼はそれでも構わないとばかりに殴り続ける。

まるでこの世の全てが、目に写る何もかもが憎いかのように。

殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

いつしか彼の拳は、壁に深い傷を付けていた。

そして、威力もすでに人間の繰り出せるそれとはとうにかけ離れていた。

しかしそれでも殴るのをやめない。

怒りは、憎しみは収まらない。

「クソが!クソが!クソがぁぁぁ!!!」

 

壁を殴りながら罵声を浴びせる姿はさながら狂人のよう。

否、すでに彼は狂っている。どうしようもないほどの怒りが、彼を狂わせている。

そして、彼が怒りのままに殴り続けた壁が崩壊した。

 

……刹那、和也の部屋から響く音が気になってやって来ていた野次馬たちが、一斉に死んだ。

彼の能力が発現したのだ。

それは、彼の憎しみを現すかの如くその瞳に写る全てを殺す力。

誰であっても関係ない。ただ写っただけで死ぬ。そういう力だ。

「あ……?……あぁ、そうか」

 

彼は、砕けた壁の前に立ち、息絶えた野次馬たちを見てある事に気付いた。

自分の目に写った生物が死んでいるということに。

「アハハハハハハ!こりゃ良い!最高だ!みんな殺せるもんな!アハハハハハハ!」

 

彼は、狂ったように笑い出す。

 

憎くて堪らない、元友人たちの顔を思い浮かべながら。







いつもはコメディやってるけど、時にはこういうシリアスも書きたくなった。だから書いた。後悔はしていない。

しかし元々が連載だったもののプロローグなんで、実は設定とかもある……
つーわけでテキトーに公開。気になる奴とか多分居ないだろうけども。
以下がその予定していたストーリー……の、メモのコピーと付け加えた注釈+何か。

プロローグ後。主人公による殺戮開始。クラスメイトたちが次々と死んでいく(なお、能力はONOFF可、かつ直接見ないと殺せない設定)。

殺戮後、ある病院に一人だけ生き残ったクラスメイトが居ると知り、殺害へ。(完全に憎しみに支配される)

しかし病院で同じ患者の少女に出会い、僅かに理性を取り戻す。

主人公、その少女の寿命である3日間を幸せな物にするべく動く。
(2日間、二人は幸せに過ごす)
国家権力、主人公殺害のため動き出し、狙撃……が、少女が能力(瞬間移動的なものを予定していた)で庇い、生存。

だが再び憎しみに呑まれ、今度は全ての人間を殺すため動き出す主人公。能力の強化により建物を見た場合その建物そのものを殺せる(つまりは急速な老朽化による崩壊を起こせる)ように。

殺戮。これにより日本の総人口の八割が死亡。そして能力で脅すことで飛行機に乗り、アメリカへ。

アメリカにて更なる殺戮の後、NASAに押し入ってスペースシャトルを乗っ取り、宇宙へ(Gに対する訓練などを積んでいないがそこら辺は病気による強化ってことで)。

国際宇宙ステーションから地球を視界に入れ、じっくりと全ての人類を殺そうとする……が、時間切れとなり、主人公死亡。誰も救われない。

おまけで、個人的に欝過ぎて書けなくなったENDのネタ(実は決まっていなかった)は以下。
1.主人公が死亡後、ステーション内に新型かつ、感染力も高く潜伏期間の短い虚蝉病ウィルスが発生、そして隠れていて生き残ったクルーが地球に帰ると同時に地球へ持ち込まれ、瞬く間に感染爆発……人類滅亡。

2.主人公死亡後、ある村で子供が二人産まれる。名前は……

3.主人公は死んだものの、これまで能力の存在を知らなかった患者たちが、自分たちの力を存在すら知らぬまま死ぬところだったと激怒、そして患者たちVS世界の最終戦争へ……(ボツ)



まぁ、まとめてしまえば完全に趣味とどこかで見たような話をメチャクチャに配合した結果ですね。
そして、無駄に長いあとがきにお付き合いいただき、ありがとうございました!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。