それでは第7話、どうぞ( ゚д゚)ノ
「うわぁ……『簡単に』とは言ったけど、いくらなんでもこれは無いでしょ……」
仁さんと別れた後、地図を見てみると矢印しか書かれていなかった。
仁さんらしい書き方だ。
でも主要な道ぐらい書いてくれれば良いのに。
「他の人に聞くしかないよな」
ため息をついて地図をズボンのポケットにしまった。
今自分がいる場所は大通りなので人も見つけやすい。
(誰か近くにいる人で話がしやすそうなのは……あそこの青い帽子の人で良いや)
「すいません、寺子屋までの道をお訊きしても良いですか?」
「ん?ああ、大丈夫だ。ここから北に行って3つ目の角を右に曲がってくれ。そこからまっすぐ進むと左に見える少し大きい建物が寺子屋だ」
「ありがとうございます。実は先ほど別の人に地図を書いてもらったのですが、全く分からなくて……」
「私にそれを見せてもらっても良いだろうか?」
「ええ、もちろん良いですよ」
さっきの仁さんの地図を青い帽子の人に渡した。
ところでその小さい帽子、頭にちょこんと置いているだけの様に見えるのだが、身体を傾けたときに落ちたりはしないのだろうか?
「……もしかして仁に描いてもらったのか?」
「ええ、仁さんに頼みました。それより仁さんを知ってるんですか?」
「仁の子供を知っているからな。私は寺子屋で教師をしているんだ」
え?この人教師なの?
じゃあ僕が探してる人ってこの人?
「あなたが上白沢さんですか?」
「そういえば名前を言ってなかったな。私は『
この青い帽子の人が慧音さんだったらしい。
まさか道を訊いた相手が目的の人だとは思わなかった。
このまま本題を言ってしまおう。
「僕は碧想手といいます。実は上白沢さんに頼みたいことがありまして。僕を寺子屋で教師として雇ってもらう事は出来ますか?」
「これはまた急なお願いだな。何故寺子屋で雇ってもらいたいのか、その理由を訊いても良いか?」
そりゃあ見ず知らずの人間をすぐに雇うわけが無いよね。こうなったら正直に自分の事を話した方が良いよな。
「僕は実は幻想郷の外から昨日来たばかりなんです。帰らずに幻想郷に残ることにしたのですが、生活費を稼ぐために出来そうなことが教師しか思い付かなくて」
「そうだったのか。私としては雇っても良いが、君は何を教えられるんだ?」
あ、やっべ。何にも考えてなかった。
というか、何の教科が教えられるんだろう?
少なくとも絵は無理でしょ?音楽も無理でしょ?地理も歴史も無理でしょ?英語なんて幻想郷じゃ需要ないし……
あれ?僕に出来ることってある?(´・ω・`)
……ちょっと待て幾つか出来ることがあった。
「国語と算数、それに理科を教えられると思います」
「国語と算数は私が教えているから大丈夫だ。じゃあ君に理科をお願いしても良いか?」
「本当に雇ってもらえるんですか?」
「ああ、本当だ。じゃあ明日から…いや、やはり明後日から来ると良い」
「僕は明日からでも大丈夫ですよ」
「明日は最初の授業で何をするか考えてくれ。先生は最初の授業で印象が決まるからな。その泥だらけの服じゃ先生としての威厳もないだろう。ともかく明日は明後日に向けて準備をしてくれ。それじゃあ期待してるぞ」
慧音さんはそう言って去っていった。
確かに授業で何をするか決める必要がある。
子供達に興味を持ってもらうにはどうすれば良いのか、それを考えるには時間が必要だろう。
慧音さんの言う通りにする方が良さそうだ。
……それに紫さんのせいで泥だらけになった服を洗わないといけない。
まさか幻想郷に全自動洗濯機なんて存在しないだろう。
必要な洗濯板と石鹸はイメージで作り出せそうだが、自分で上手く出来るだろうか?
明後日までにすべき事の多さに気が滅入りそうになる。
だが今は職を得られたことを喜ぼう。
さて、仁さんにこの事を報告しに行こう。
きっと仁さんも喜んでくれるだろう。
……と、そこまで考えたところで大事な事に気が付き、顔に浮かべていた笑みが凍りついた。
自分の生活拠点。つまりは寝泊まりする家が無い。
恐らくは、仁さんに頼めば……いや、さすがに仁さんでも無理と言うだろう。
「頼むだけでもしてみるか……」
喜びから一転、暗い気持ちで来た道を戻り始めた。
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さっきの場所に戻ると仁さんが同じ場所で待っていた。
「おお、もう戻ってきたのか!意外と早かったな!」
「実は途中で慧音さんと会いまして」
「なるほど、通りで早かったのか!」
仁さんはまた「がはは」と笑って、大きな手で僕の肩をばしばし叩いた。
だから仁さんにされると痛いんだってこれ。
「で、どうだった。先生になれたのか?」
「はい、すぐに雇ってもらえました。慧音さんが良い人で助かりましたよ」
「良かったじゃねえか!これで想手も大人の仲間入りだな!で、働くのは明日からか?」
「いえ、明後日からです。明日は最初の授業に向けて準備をするつもりです」
「そうか!なら今日はゆっくり休んで、明日の準備に備えないと行けないな!」
仁さんはまた僕の肩をばしばし叩いた。
めちゃくちゃ痛い……
でも仁さんが心から祝福してくれているので、笑みが溢れてくる。
しかし次の瞬間、
「想手!後でお祝いの酒とかを持っていくから、家を教えてくれ!」
この言葉で笑みが凍りついた。
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今日だけでも泊まらせてもらえないか、仁さんに頼まなければ行けない。
しかし、さすがに仁さんでも首を縦に振ってはくれないだろう。
「想手、どうかしたのか?」
よほど不安が顔に出ていたのか、仁さんが怪訝そうにそう言った。
今、ここで言わないと機会を失ってしまうだろう。
僕は心を決め、「仁さん」と言った。
「仁さん、お願いしたいことがあります」
「なんだ?急に改まってどうしたんだ?」
「実は自分の家が無いんです。ですから、今夜だけでも仁さんの家に泊まらせてくれませんか?」
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「なんだ、そんなことか。もちろん良いぞ」
「え?良いんですか?」
仁さんの即答に思わず聞き返してしまった。
「当たり前だ!人が困っていて、助けられずには居られるか!」
「確かにそうですけど……本当に?」
「ああ、本当だ。そもそも想手だって、俺がこういう性格だから俺に頼んだ。そうだろ?」
仁さんは笑いながらそう言った。
「仁さん!ありがとうございます!」
「なぁに、人助けは俺の生き甲斐だ!良いってことよ!」
仁さんはまた肩を叩いた。
涙で視界がぼやけてきたのは、仁さんへの感謝の念で胸がいっぱいになったからだ。
「おいおい、泣くんじゃねぇよ」
「すいません。でも嬉しくて……」
次から次へと涙が溢れてくる。
仁さんから見えないように、体の後ろでこっそりと能力でハンカチを出して涙を拭いた。
感情が昂ってイメージが定まらなかったのか、ごわごわしたハンカチになってしまった。
「もういいか?俺についてきてくれ」
僕は慌ててハンカチをしまって、仁さんを追いかけた。