インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第十九話 本当に予想外な事は予測が無理

「なぁ、龍之介、箒、鈴」

 

唐突に一夏が聞いてきた。

ちなみに今は昼飯の時間だ。久々に屋上で購買にて買ったヒレカツパンを食い終わって、コーヒーを飲んでいる時だった。

 

「ん? 何だ? 裏生徒会向けの依頼なら後でな」

「いや、そっちじゃないぞ」

「てか、裏生徒会って何なのよ…………危険な匂いがするわね」

「それなら、どういう要件なのだ?」

「そ、それは」

 

そして、次に一夏の口から出てきた言葉は、意外や意外を通り越し、予想の斜め43°をいく話だった。

 

「…………好きな女子の気を引くにはどうしたらいいかって事だよ」

「「「ぶうぅぅぅぅぅっ‼」」」

 

コーヒー、緑茶、烏龍茶。様々な飲み物が吹き出され、汚い虹を作った。って、今なんて言ったこいつ?

 

「い、今なんて言った、お前?」

「いや、だから好きな女子の気を引くにはどうしたらいいのかなーって」

「「えぇぇぇぇぇぇ⁉」」

 

原作崩壊が本気でヤバイ方向へと走り出している、過去の記憶を振り返った俺はそう思った。

って、この唐変木で朴念仁のフラグブレイカー野郎が、自分でフラグを建てただと⁉

 

「な、なぁ、鈴、お前は信じられるか、今の話」

「い、いや、これは幻聴よ」

「…………ああ、俺の人生もなかなか短いものだったな」

「龍之介‼」

「箒‼」

「やめんか、お前ら‼」

「…………あれ、一夏ってツッコミキャラだっけ?」

 

まさかの一夏が突っ込んできた。その手にはハリセン(IS学園モデル)が装備されている。

でもな、こいつボケの方があってるような気がするんだよね。ツッコミよりはボケの方がしっくりとくる。

 

「なぁ、お前らそんなに俺が女子を好きになるのが、やばいのか?」

「「「ああ、この世界の終わりと同じくらい」」」

「お前ら酷くね⁉」

「だってそうでしょうが‼ 中学の時、何人をアンタは振ったのか覚えている⁉ 47人よ、47人‼」

「赤穂浪士か⁉ どんだけ吉良(一夏)の事をとろうとしていたんだよ⁉ てか、モテ過ぎだろ‼」

「…………私の中学の時は、国と政府に追われるか、イジメの対象になるかのどっちかだったもんな」

「ISTD‼(いかん、その話に手を出したらいかん‼)」

 

カオスだ、カオスになったぞ(リリアナのメンバー風に)。

てか、一夏。俺のいない間にどれだけの女子を地獄へ叩き落としたんだよ。どうせあの唐変木のことだ、『付き合ってください』と言われて『どこのスーパーへ行くんだ?』と答えたに違いない、きっとそうだ。

 

「それで、相手は誰なんだ? ライクじゃないだろうな?」

「シャルロットだよ。無論ラブの方」

「…………選んだ理由は何よ。この学園にはいろんな女子がたくさんいるのよ。あ、あたしは省いてね」

「そうだな…………なんて言うか、支えてやりたい。あいつ、結構自分で抱え込んじゃう性格だろ。だからさ、そういう問題から抜けられるように助けてやりたい、そう思ったんだ」

「それで、なにかプランはあるのか。考えもなしに突っ込む気じゃないだろうな?」

「…………そこをどうしたらいいか聞いてるんだよ」

 

ふう、どうするかねぇ。確かにこいつは、年齢=女持ってない歴だもんな。こいつに考えろと言ってもわかるはずはない。俺としては、せっかく幼馴染の唐変木が解除されたから、手伝ってやるしかないと思うがな。

 

「まぁ、しばらく様子をみたらいいんじゃないか? 向こうも結構気はあるようだからな」

「そ、そうなのか?」

「ああ。というか、お前がペアの組み合わせをシャルロットに選んだ時、あいつの頬が赤くなっていたぞ」

「なんか、自信が出てきた…………」

「なら、どうする? 想いをぶつけるしかないようね‼ そうとなったら、あたしが教えてあげるわ」

「ちょ、鈴、首つかむなーーぐえっ」

 

一夏は鈴に首を掴まれて何処かへと連れていかれた。おーい、どこまで行く気なんだよ。

 

「なぁ、箒。一夏の奴、ここにきてから変わったんじゃないか?」

「ああ。少なくとも私達とであった頃とは違うな。あいつに乙女心などわかるはずがないと思っていたが、こうなるとはな…………」

「そこまで言うか?」

 

まぁ、箒の言ってる事もあながち間違っちゃいねえな。ちなみに、中学の時の一夏は乙女心ブレイカーと呼ばれていたらしい。

 

「昼休みも終わりか。龍之介、先に戻っているぞ」

「あいよ。俺はもう少ししたらいくわ」

 

箒は、先に教室へ戻った。俺は少しフェンスにもたれかかる。そして、空を見上げた。そこにはいつもと変わらない空があった。

 

「一夏、必ず叶えて見せろよ、お前の恋をさ」

 

俺の呟きは吹いた風によって消えて行った。

 

 

 

 

 

その夜

 

『こちらは国際IS委員会、ーーーだ。聞こえているのだろう、私のかわいい隠し玉達よ。お前達に一つ任務をこなしてもらいたい。先日、フランスの代表候補生が転入してきたらしいが、どうやらそいつは織斑一夏にハニートラップを仕掛けたらしい。私も詳しいところまでは知らん。だが、そのデータが他へ流出すると、織斑一夏の身の安全が不安だ。悪いが彼女には退場してもらう他ない。どんな方法でも構わん、彼女に制裁を下してくれ』

 

ある寮の一室、壮年の男性がモニター越しに四人の女子と話をしていた。その様子を見る限り、本国との連絡をとっているように見える。

だが、壮年の男性はそんな生易しい事を言ってない。『制裁』『ハニートラップ』、これだけで十分危険な匂いがしている。

 

「へぇ〜、要するにはそいつを再起不能にすればいい訳ね? 結構簡単そうじゃん、王大人(ワンターレン)からの依頼にしては」

「私は、その依頼受けさせてもらうわ。受けた依頼は確実にこなすわよ」

「私達も同意させて貰うわ。そうじゃなきゃ、王大人の隠し玉(…………)の意味が無いもの。そうよね、鈴?」

「…………あたしはその依頼、蹴らせて貰うわ。流石に、派手にやってしまうのは色々とまずいんでしょ?」

『そうだな。まぁ、受けるかどうかは自由だ。お前の好きなようにすればいいさ』

「わかったわ。それじゃ、あたしはここで」

 

そう言って彼女ーー凰鈴音は、その部屋を後にした。

確かに、単刀直入で真っ直ぐ突っ込んで行き、派手に荒れる彼女はこの依頼にお誂え向きではないだろう。だが、彼女がこの依頼を蹴った理由はもう一つある。

 

(それに…………あの子を傷付けたら、それこそ一夏が悲しむだろうしね)

 

その理由は、幼馴染だからこそ理解できるものであった。

できるのであれば、あいつらを押さえ込んで、二人には平穏に過ごしてもらいたい。それが今、鈴の心の内で渦巻いている願いだ。

その事を考えるたびに、鈴の胸は締め付けられる。彼女の良心はまだ生きていた。

 

「…………全く、中国も腐ってきたわねぇ」

 

彼女の呟きは自然と消えて行った。

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜っ」

 

(シャルロット)は、割と早く目が覚めた。現在、六時。いつもならもう少し遅いけど、今日はなぜか早起きできたようだ。

ふと、僕は隣のベッドに目をやった。そこに同室の子はいなかった。というか、使った形跡すらない。まぁ、どうせいつも言っている"嫁"のところに行っているのだろう、そう思った。

 

「いいよね、ラウラは。僕だって、一夏にーー」

 

そこまで言って、僕はハッとした。いやいや、何考えているんだろうね。べ、別に一夏が嫌いとか言っている訳じゃないんだよ‼ むしろ、好きーーって、もう本当に何を言っているんだろうね、僕は‼

 

「っ〜〜〜〜‼」

 

急に顔が熱くなってくる。自分でも、頬が火照っているのがわかる。

そして、僕は枕に顔を埋めた。できれば、今の顔は一夏に見られたくない。すっごく恥ずかしいから…………

 

 

結局、完全に起きたのは、いつもとほとんど変わらない時間だった。枕に二十分近く顔を埋めていたけど、あんまり熱が引いてく事はなかった。ただ時間を浪費しただけ。でも、食堂に行った時、一夏と会う事ができたから、良しとしようかな?

そう思いながら、学園へ登校する。と言っても、寮から50メートルちょっとしか離れてないから、直ぐに着く。

 

「よう、シャルロット。おはようさん」

「おはよう、シャルロット」

 

その途中、何故か額に汗をかいている龍之介と箒と会った。

 

「ねぇ、二人ともなんでそんなに汗かいてるの? そこまで暑くないでしょ?」

「い、いや、これには深〜い訳があるんだよ」

「そ、そうなのだ。詮索するのは勧めないぞ」

 

なんだろう、凄く気になる。

 

「おい、龍之介‼ てめえ待てこの野郎‼」

 

すると、怒声を放ちながら一夏が走ってきた。額に青筋を浮かべ、木刀を構えている。

 

「やっべ‼ 箒、逃げるぞ‼」

「お、おう‼ シャルロット、また後でな」

「あ、うん」

 

一夏を見つけた二人はすごい勢いで走り出した。あの二人、何したんだろう?

 

「はぁっ、はぁっ。あいつら、許さねえ‼」

「い、一夏⁉ 顔を何かで殴られたようになっているけど⁉」

「ああ、シャル。この痣の事か?」

「そう、それ‼」

 

僕は、どうやったらこんな痣ができるんだろうかと思う。ドアとかで殴ったらこんな感じになるとは思うけど。

ちなみに一夏は、僕の事を『シャルロット』じゃなくて『シャル』って呼んでくれる。理由は『シャルロットだとちょっと長いから』。少し別な期待を持っていた僕は、少しガクッとしてしまった。でも、そう呼んでくれるのは嬉しい。なんか、僕が一夏にとって特別な存在かもしれない気がして。

 

「…………実はな、ドアにトラップが仕掛けてあってさ。なんか、光ったと思ったら突然ドアが爆発して」

「ちょ、ちょっと待って‼ ドアが爆発⁉」

「そうなんだよ。そしたら、ドアノブが見事に当たったというわけ」

「なるほど…………でも、龍之介が犯人ってわけじゃないでしょ?」

「いいや、あいつが犯人だ。俺を見た瞬間逃げ出すし、彼奴以外火薬を取り扱えるのはそうそういない。それに」

「それに?」

「あいつが度を超えたドSだからな‼」

 

…………納得。たしかに、龍之介は度を超えたドSだよ。普通にガトリングとかアサルトライフル撃つしーーって、もうSというより、鬼畜なのかな。

 

「チクショー‼ 龍之介、覚えておけよ‼」

「まあまあ、落ち着いて。多分きっと死なない程度まで抑えられているから」

「多分じゃ、不安だぞ⁉」

 

僕は未だに怒り心頭な一夏を放っておく事にした。え? 何でって? それは…………なんか面白そうだったから。

昇降口で履いてきた靴を脱いで内履きに履き替える。これも、日本の文化だったよね(IS学園は、日本の文化を基本とした国際学園であるため、外国人であっても校舎内で外履きを履く事は原則禁止になっている)。教室の方は少し賑やかそうだった。多分、再来週の臨海学校の事で盛り上がっているんだと思う。僕も混ざってこようかな。そう思い、教室に入った。

 

「おはよう‼」

 

今日も、僕の一日が始まる。

 

 

 

 

 

「どうやら、やるみたいっすね、総長」

「そう呼ばれるのも懐かしいな。まぁ、王大人の誘いを受けて中国に鞍替えしたんだ。これくらいはやるしかないだろ?」

「まぁ、最初はじわじわとやって行きますか‼ そして、最後は派手に締めて終了‼」

 

何故か二組の一角ではそんな会話があったとか。これから何が起こるのか、最先不透明である。

 

「どうなっても知らないわよ…………」

 

ただ一人、鈴を除いては、誰もその会話に隠れている意味知る事はできなかった。

 

 

 

 

 

夕方。今日も一日の授業をこなした僕は寮の自室へ戻る準備をしていた。

 

(宿題は出てないし、忘れ物もないよね)

 

先ほどから念入りに忘れ物が無いかチェックしているところに

 

「おう、シャル。まだいたんだ」

「い、一夏⁉ さ、先に帰ったんじゃないの⁉」

 

先に教室を出て行った一夏がいた。もう、びっくりしたよ。というか、まだ帰ってなかったの。

 

「いやー、千冬姉にドアがふっ飛んだ事について聞かれていたからな…………」

 

ああ、その事ね。確か、龍之介の言い訳は『有澤炸薬とS-11を混ぜて濃縮した奴をくしゃみで吹っ飛ばしたところに、何故か生じた静電気で引火した』だったような。てか、S-11って何なんだろう? 前に企業連がとんでもない爆発物を開発したとか言っていたけど…………。

 

「まぁ、説教の事は放って置いて。シャル、一緒に帰らねえか?」

 

ふぇ⁉ い、一緒に帰るって…………突然すぎるよ‼ そんな、帰る準備すら終わってないんだよ‼

 

「ま、待って。も、もうすぐで準備が終わるから」

「お、おう。わかった」

 

な、何なんだろう。この非常にギクシャクとした空気は。何というか、付き合い始めたカップルーーって、カップル⁉ という事は僕は一夏の彼女⁉ そう考えただけでなんだか顔が熱くなってきたよ…………。

 

「お、おい、シャル。顔赤いけど大丈夫か?」

「ふぇっ⁉ だ、大丈夫だよ。ゆ、夕日のせいだよ、夕日」

 

うぅぅぅぅぅっ‼ 僕のバカ、僕のバカ‼ 今最高のシチュエーションだったのに、それを棒に振るなんて‼

とりあえず、準備を終えてカバンに荷物を纏める。今日は、少し重いかな。

 

「どれ、そっちは支度が終わったようだし、帰るか」

「う、うん‼」

 

二人並んだまま、夕日が照らす廊下を歩く。ちょっと横目で一夏の顔をみると、夕日のせいなのか少し赤かった。

一方の僕は、心臓が早鐘をうっている。聞こえてないよね、僕の心音は。激しいし、速いし、もう心臓が破れてしまいそうだよ‼

そんなこんな考えていて、何も話さないまま昇降口に着いた。寮までの道の間に一夏になにか話しかけようかな、と考えながら自分の靴箱を開けたとき、さっきまであった興奮とかが一瞬にして失せていった。

 

朝に履いてきたはずの僕の靴が片方無かった。

 

(え…………嘘、でしょ)

 

一度蓋を閉めてから、もう一度開けて見る。やはり片方だけしか入ってなかった。僕は一瞬頭の中が真っ白になってしまった。

 

「おい、シャル。どうしたんだ?」

「…………一夏、やっぱ先に帰っててくれないかな? 僕、忘れ物してきたみたいだから」

「お、おいーー」

「ごめんなさい…………」

 

僕は、呼び止める一夏をおいて教室へ戻った。一夏に迷惑をかけてしまいそうな気がしたから…………。その時、聞いた一夏の声には戸惑いがあった。絶対、おかしな奴って思われたよね。

気がつけば教室に着いていた。

 

「うぅっ…………」

 

急に涙が溢れてきた。止めようと思っても止まらない。僕に溢れる涙を抑える術はなかった。

 

 

 

 

 

「箒、事態がまずい方向へ走り出したぞ‼」

『龍之介、何があった⁉』

「やばいったらありゃしねえ‼ いい感じのところを見たのはいいが、昇降口で問題が発生‼ ちょっときてくれ‼」

 

俺は、一夏とシャルロットがいい感じに廊下を歩いているところを目撃した。だから、ばれないようにGA社のダンボールをかぶり、追尾していた。そうしたらだ、突然シャルロットが教室の方へ戻り出したんだよ。一体何があったというんだ⁉

 

「龍之介、きたぞ‼」

 

さっき連絡をいれた箒が到着した。

 

「すまん、突然呼び出したりして」

「別に構わん。今日は部活が休みだったからな」

「そうか。とりあえず、調べてみるぞ‼」

 

とにかく、何でシャルロットが教室に戻ったのか、その手がかりがあると思い、昇降口を調べて見ることにした。何か、あるといいんだがな。いや、かえって無い方がいいかもしれん。

 

「…………龍之介、箒、何してんの?」

「のわっ⁉」

「一夏⁉ お前はもう帰ったはずなんじゃねえのか⁉」

 

よし、調べようとした時に一夏が現れた。あれ、何で残っているんだ? 帰った筈なんじゃ…………

 

「いや、さっきシャルが教室の方へ走って行ったから、忘れ物をしたんじゃないのかなーって。シャルには、先に帰っててって言われたんだけど待っているんだよ」

 

やばいな、こいつがいたら何かとやばい予感がプンプンする。こいつを何とかしないと。

 

「一夏、シャルロットがそう言ってたのなら、そうした方がいい。というか、そうしろ」

「まさかの命令形⁉」

「早く帰らねえと、お前のシリアナに大っきくて太くて長いヒュージキャノンをぶっ刺すぞ」

「わかった、わかったから‼ だから、その危険な匂いのする兵器を取り出そうとするな‼」

 

一夏はそう言うと寮へ向かって一人50メーター走をした。

よし、これで障害は消えたな。

 

「よし、手始めに下駄箱の中を見てみるか」

「何故にそこを選ぶ、箒さん⁉」

「何と無くだ(キリッ」

 

箒はそう言うと、問題ない的な表情をしてサムズアップしてきた。いや、そういう問題じゃないからな。普通にやらんだろ、おい。

とかと、心の中で思っている俺を放置し、箒はシャルロットの下駄箱を開けた。

 

「これは、まずいな…………」

「何があった?」

「シャルロットの靴が片方しか入ってないぞ」

「マジかよ⁉ それ、もうーー」

「ああ、イジメだな、確実に」

 

箒はそう言うと、立ち上がり

 

「ちょっと寮まで行ってくる。お前はシャルロットのところに行っててくれ」

「お、わかったぜ」

 

寮へ向かって駆け出した。何かを取りに行ったんだろうな。まあ、とりあえず言われた通りにしますか。

俺は履いている下駄の音を誰もいない廊下に響かせながら、シャルロットがいるであろう教室へ向かった。

 

 

 

 

 

僕は教室で一人うずくまっていた。

 

「うぅっ…………ひぐっ…………」

 

涙は溢れるし、嗚咽は止まらない。もう、どうしたらいいのかわからないよ。やっぱり僕はいていけないのかな? 一夏の隣にいてはいけないのかな? そんな風にすら思えてきた。

 

「ここにいたのか」

 

不意に声がした。少し低い声質、龍之介だ。

でも、僕は顔を向けたくはなかった。こんな顔を見られたら、龍之介にまで心配をかけてしまいそうで、ずっと俯いたままだった。

 

「まぁ、顔を上げたくなきゃ上げなくてもいいから、俺の話を聞いてくれるか?」

 

それを聞いた僕は少し頷く。

 

「結構昔のことなんだけどな、俺の知り合いに毎日イジメられていたやつがいたんだよ」

「そいつはな、ずっと転校することになっててな、転校する度にそこで物を隠されたり、暴力を受けたりしていたんだ」

「でも、そいつは決して壊れることはなかった。辛さに耐えていたんだよ。何でだかわかるか?」

 

…………そんなこと、僕にわかるわけないよ。

 

「わからないか。なら教えてやるよ。そいつは『次の日』に幸せを探していたんだよ、きっと。今日が辛くても明日はいい事があるってな」

「…………明日?」

「そうさ。きっとそうだ、明日はいい事があるかもしれねえ。ならどうする? ここにいても何もかわんねえぞ」

 

そうだよね…………やはり、僕が立ち直らないとダメだよね。

その話を聞いた僕は顔を上げた。

 

「おいおい…………どんだけ泣いてたんだよ。つーかこの役目、一夏の担当だろうが」

 

そんなに目が赤いのかな。でも、龍之介がくるまでずっと泣いていたもんね、僕。

そんな、僕は龍之介に頭を撫でられる。完全に子供扱いされているよ…………

 

「悪いな、こんな事しかできなくて。後は、一夏のところにでも行って来い。やつなら、癒してくれるんじゃないか?」

「そんな事したら、一夏に迷惑をかけてーー」

「彼奴はそんな事思っちゃいねえ。それくらいだったら、受け入れてくれるさ」

 

本当、龍之介って不思議だ。さっきまで悲しみにあった僕の心を一気に立ち直らせてくれた。これが、本当の龍之介なのかもしれない。

すると、箒がやってきた。

 

「龍之介、そっちはどうだ?」

「ああ、こっちは何とか立ち直らせたぜ、仮だけどな。そっちこそ、何か取りに行ったんだろ?」

「やはり気づいていたか。シャルロット、これを受け取れ」

 

そう言って、箒は僕に何かを投げ渡してきた。僕はそれを落とすまいとキャッチする。投げられた物は袋だった。中を開けると、一足のローファーが入っていた。

 

「まぁ、私の制服の中にあったものだから合うかどうかはわからん。だが、使えるかもしれないと思ってな」

 

箒はそう言って笑みを送ってきた。その笑顔が凄く綺麗に見えた。

 

「…………ありがとう」

「なに、大した事はしていない。同じ目にあった人を見過ごす事はできないからな」

 

え…………箒、今なんて言ったの?

その時の箒の目は真っ直ぐに僕を見据えていた。

 

「シャルロット、またこんな目にあったら私にも一言相談しろ。力になれるかもしれないからな」

「うん、わかったよ」

 

きっと、龍之介が話していた昔の知り合いって箒の事なのかもしれない。僕はそう思っている。

 

「うお⁉ やべえ、完全下校時間まであと三分だぞ‼」

「なに⁉ そんなになったのか⁉ シャルロット、私達は先に帰るからな」

「うん。じゃ、この靴はあとで返しにいくよ」

 

龍之介と箒は走って寮へ向かっていった。僕もそろそろいかないとね。

昇降口で靴箱を開ける。中には片方だけの僕の靴。それを取り出して、内履きをしまう。

そして、箒から借りたローファーに履き替える。片方だけの靴は仕方ないから、鞄の中に仕舞った。

正直、悲しい事もあったけど、友達の暖かさに触れられて良かったかな。そう思える日だったと思うな。

 

 

 

 

 

その夜、ある一室では

 

「やったっすね、総長‼ またイジメの対象ができましたよ‼」

「はしゃぎすぎだろ。まぁ、これだけじゃ終わらないよな、王大人からの依頼ならよ」

「次はもう少し派手に行きますか‼」

 

なにを話しているのだろうか、恐ろしく危険な匂いがしてやまない。一体彼女らはなにをしたのだろうか、それを知る人間はまだ存在していなかった。

 

「もう見ていられないわね…………」

 

ただし、鈴を除いては。彼女は押し寄せる罪悪感から耐えるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

僕がイジメの対象になってから早くも三日が経とうとしていた。初めて靴がなくなったあとも、教科書とか体操服とか内履きとかがなくなったりした。また、靴箱の中に手紙が入ってた時もあった。その中身は…………今でも思い出したくない。

でも、僕はまだ大丈夫。箒も龍之介もが相談相手になってくれるから、負担が軽くなったような気がする。まぁ、箒には内履きの予備を借りたりしたからかな。精神的な苦痛はほとんど感じなかった。

そして、今日は金曜日。今日も訓練のために第三アリーナへも向う。混んでないといいな。

僕はふと青空を見上げる。蒼天に漂う雲。あんな感じに自由になりたいな、と思ったのは僕だけじゃないといいな。

 

「今日はいい事があるといいな」

 

その言葉は、青空へ吸い込まれるように消えて行った。

 

 

第三アリーナへついた僕は、カタパルトで愛機のリヴァイヴを展開する。

 

「おいで、リヴァイヴ」

 

一瞬、眩い光に包まれるとオレンジ色の装甲が僕を包む。

今日の訓練は、いつものターゲットを撃つのでいいや。

アリーナのシステムにそうセットし、アリーナの中へ降りる。そこには三人ほど先客がいた。でも、端の方を使えば大丈夫かなと思って、アリーナの端っこへ移動した時だった。

 

「あんた、シャルロット・デュノアだよな?」

 

突然、三人の内の一人に話しかけられた。三人が使っている機体は、中国の第二世代量産型[殲撃(ジャンジ)]。高い機動性と、重い強烈な近接攻撃力を持った機体だ。

 

「は、はい。そうですけど…………」

「なら丁度いい。模擬戦を頼めるか?」

 

いきなり模擬戦を申し込まれた。それも丁寧に頭を下げてだ。これを断ったらなんか申し訳ないと思う。

 

「え、ええ。いいですけど…………」

「感謝する。それでは相手を頼もうーー私達全員を」

 

その次の瞬間、僕の前に三つの銃口が突きつけられた。そしてーー

 

 

 

 

 

「今日も依頼はなしか…………暇だな〜」

「そう言うな。厄介な仕事がないだけ平和でいいんじゃないのか?」

「それは確かに言えている」

「でも、なにもないっていうのもねえ」

 

俺は裏生徒会室の席に座って、踏ん反り返っていた。箒は竹刀を振って素振りをし、簪はパソコンを起動させてシステムのチェックしているし、静寐は裏生徒会室の隠れガレージにあるミグラントACの点検をしている。

ちなみに置いているミグラントACは[テスタメント中量二脚型]三機。ライフルとバトルライフル、ガトリング、レーザーブレード、肩にロケットを装備した汎用型。俺のナーガと比べて装甲は薄いがそこそこの機動性がある。ちなみに三機ともカスタマイズしてあり、箒の機体はレーザーブレード二本、簪はプラズマライフル、静寐はスナイパーライフルをそれぞれ追加してある。

 

「まぁ、今日は解散という事ーー」

 

そう言いかけた時、全アリーナにセットした使用状況確認センサーに反応があった。場所は、第三アリーナか。

 

「ほう、模擬戦をやっているようだ…………な?」

「箒、どうしたの?」

「おかしい、普通模擬戦なら一対一でやるはずだ。なのに、なぜ光点が三つ一機に集まっているんだ⁉」

「おい、ちょっとデータ回せ‼」

 

箒は俺に言われたとおり使用状況のデータを俺に回してきた。

 

「この機体反応は、殲撃と…………ラファール・リヴァイヴ⁉」

「龍之介、システムに裏からアクセス完了。殲撃は全機機体ダメージ21%だけど、ラファールは機体ダメージ87%‼ 搭乗者保護にも異常が‼」

「ちくしょうが‼ 箒、テスタメント持ってこい、第三アリーナへ行くぞ‼」

「了解した‼ テスタメント01起動するぞ‼」

 

箒はテスタメントを起動させ、裏生徒会室に備わっている、隠しカタパルトから出る。

それと同時に俺もナーガを起動、両手にガトリングを呼び出し、第三アリーナへ向かう。って、

 

「箒、テスタメントを引っ込めろ‼ 鬼がくるぞ‼」

「ち、千冬さんがか⁉ わかった」

 

くそ‼ なんで、擬似コア埋めたんだよ俺‼ 許可なく展開すると国際法に引っかかるというのによ‼

俺と箒はひたすら走る。とにかく走る。真面目に嫌な予感がする。

走っている途中、一夏とすれ違った。

 

「お、龍之介、お前なにを急いでーー」

「一夏‼ シャルロットは今日何かするとか言っていたか⁉」

「ぐえっ‼ 龍之介、首掴むな…………」

「いいから言え‼」

「し、シャルは第三アリーナで訓練するとかーー」

「最悪の事態だ…………」

「ど、どうしたんだよ」

「第三アリーナで稼働中のラファール・リヴァイヴの機体ダメージが機体負荷限界(レッドゾーン)に達しているんだ」

「…………」

「すまんが先を急ぐ。情報ありがとう、一夏」

 

俺と箒は、呆然とした一夏を置き去りにし、第三アリーナを目指す。その時だった。後方から、白亜の機体が俺らを抜かした。

 

「白式、大出力瞬時加速(オーバード・イグニッション・ブースト)‼」

「「一夏⁉」」

 

一夏は、白式のウイングスラスターを全開にし、アリーナへも飛翔して行った。

 

 

 

 

 

『機体限界まであと少しです。回避してください』

(わかってるよ…………‼ そんな事‼)

 

僕は三人と模擬戦をしていた。いや、模擬戦というかもう一方的な戦いだ。そこら辺には、断ち切られたアサルトライフルやショットガン、リヴァイヴの装甲の破片が転がっている。シールド残量も81。

そんな状態の僕に、さらに三人は追撃してくる。

 

「くっ…………‼」

 

僕は一旦距離を取ろうとして、後ろに下がる。

 

「甘いっ‼」

「きゃあっ‼」

 

だが、後ろに下がった途端、背中に回し蹴りを喰らい、地面へ叩きつけられる。その衝撃が、体のあちこちに痛みを走らせる。あまりの痛みに声が出ない。立ち上がろうにも立てない。

 

「へっ、弱いな」

「ああぁぁぁぁぁ‼」

 

立てない僕に、一人が青龍刀を突き立ててきた。操縦者保護機能もまともに機能してない。堪え難い痛みが、僕の横腹にくる。

 

「この、女狐が‼」

「がはっ‼」

 

今度は頭を蹴られた。僕の体は跳ね上がり、再び地面へ叩きつけられた。

僕の意識はどんどん遠のいて行く。その中でも、相手が青龍刀を振り下ろすのがわかった。それがひどく遅く見えた。

 

「…………助け、て…………い、ちか…………」

 

僕はそう声を出すのが精一杯だった。

その時だった。僕の前に影が躍り出た。

 

「すまん、シャル。待たせたな」

 

その影の主は一夏だった。朦朧としていた僕の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

(一夏)は、気を失ったシャルを抱き上げ、ひとまず安全そうな場所へ移してやる。カタパルトデッキなら安全だろう。問題はここからだ。おそらく、シャルをあんな目に合わせた犯人は、あの三人だろう。

 

「お前らか、シャルをあんな目に合わせたのは?」

「ああ、そうさ。だが、そのなにが悪いんだ? あんな女狐ぐらい」

 

イマ、ナンテイッタ、コイツハ?

 

「ふざけんなよ…………‼」

 

俺はふつふつと湧き上がる怒りを抑えることはできなかった。

なんでシャルなんだよ、なんでシャルがこんな目にあわなきゃなんないんだよ‼

 

「ぶっ飛ばしてやる‼」

 

俺は雪片を構え、一人に斬りかかった。相手は、青龍刀を構えて受けるが、俺はそのがら空きの腹に、最大チャージされたレーザーライフルを撃ち込む。

 

「きゃあっ‼ 男の分際で‼」

「うるせえ‼」

 

さらにのけぞったところにガトリングを撃ち込み、雪片で袈裟斬りにする。これで、一人は終わった。

 

「よくも、やりやがったっすね‼」

 

もう一人がライフルを構えて突っ込んでくるが

 

「てめえらに言われたくは無えよ‼」

 

顔面に回し蹴りを叩き込む。もろに受けた相手はそのまま体勢を崩す。そして、そこへ零落白夜の一撃。二人目‼

 

「残ったのは私だけか…………こい、男子。私が相手だ‼」

 

最後に残った一人、何と無くだがさっき落とした二人より強い気がする。相手は、青龍刀を構えて斬りかかってきた。と思いきや

 

「バカがぁっ‼」

 

目の前が一瞬眩く光った。くそ、閃光弾かよ‼ 保護機能により、視界がシャットされる。だが、

 

「チェイサー‼」

「ぐっ‼」

 

青龍刀が振られた。それをかろうじて雪片で受けるが、力でこちらが負けている。

俺は一度距離を取り、レーザーライフルとガトリングを乱射する。だが、あの機体は追加ブースターがついているらしく、当たらない。

 

「くそがぁぁぁぁぁ‼」

 

俺は、相手の背中めがけてありったけのガトリングを撃ち放つ。無数の弾丸がシールドをガリガリと削って行く。そして、何発かは追加ブースターに着弾した。

 

「追加ブースターに被弾⁉ ダメだ、出力が足りん‼ やむを得ん、パージする‼」

 

相手は誘爆する危険のある追加ブースターを切り離す。すると、見て取れるほど速度が低下した。これを好機に見た俺は、一気に瞬時加速を使用、がら空きの背中に雪片を突き刺した。

 

「くっ‼ この野郎が‼」

「のわっ‼」

 

だが、ただ乗っているだけの俺は、あっけなく振り落とされ、先に倒した二人もワイヤーアンカーで縛られ、逃げられてしまった。

まぁ、とにかくシャルを保健室へ連れて行くのが先決だ。俺は、カタパルトデッキに寝かせて置いたシャルを抱き上げ、保健室へと連れて行った。

 

 

 

 

 

「…………うん…………」

 

僕が目を覚ました時、真っ先に映ったのはアリーナから見える空じゃなくて、見知らぬ天井だった。少し薬品の匂いがするという事は、保健室に寝かされているらしい。暫くしてドアが開いた。誰が来たんだろう?

 

「シャル、気がついたのか⁉」

「ん…………いち、か?」

 

僕が目を覚ました事に、入ってきた一夏が気づいたらしい。僕は体を起こそうとするが

 

「痛っ…………‼」

 

体に走る痛みのせいで僕の体は再びベットへ戻された。

 

「お、おい。無理に動かそうとするなよ。全身打撲らしいから」

 

そりゃ、そうだよね。普通、あんな人数に囲まれてリンチされたら全身打撲だもんね。

 

「でも、良かったぜ。シャルが大怪我しなくてさ」

 

いやいや、全身打撲でも十分な大怪我ですけど。ま、骨にヒビが入ってなくて良かったかな。

でも、一夏に迷惑をかけてしまったのは確かだ。僕はその事しか考えていなかった。

 

「…………ねぇ、一夏。一つ聞いてもいい?」

「なんだよ、いきなりーー」

「僕って、一夏の迷惑になっているのかな? 正直に答えて」

 

一夏にそう単刀直入に聞いた。絶対一夏だってそう思っているはずだ。結局、僕のような人は報われる事がないんだよ。

 

「はぁ…………なんで、お前はそんな事を聞くんだよ」

「だ、だって、一夏に心配かけちゃうし、僕だって自分勝手に行動して一夏が被害を被ったりしてるんだよ。そんな僕が、迷惑をかけてないはずがないんだよ…………」

 

自分でも何が言いたいのかよくわからない。急に目尻のあたりから何かが流れ始めた。一夏、お願いだから、素直に答えて…………

 

「はぁ…………なんて事を考えてんだよ。俺は、お前の事で迷惑なんて思った事、一回もねえぞ」

 

だが、一夏の答えは僕の予想を裏切った。そのまま、一夏はさらに言葉を続ける。

 

「なあ、シャル。一つ、俺の大事な人の話をしよう。まぁ、そいつと知り合ったのは一ヶ月くらい前なんだけどな」

「そいつはさ、誰にも頼らず自分で何とかして、誰にも迷惑をかけたがらないやつだったんだ。その分、誰かに甘えるという事を知らなかった」

「どうも、俺の性格ってのはすげえお人好しらしくて、俺はそいつの助けになりたいって思ってたんだ。だから、俺はそいつの面倒ごとには首をよく突っ込んでいた」

「今のそいつは、支えてやらないといつか折れてしまいそうだ。だからこっちから少しずつ手を差し伸べてやりたい、そう思っているんだ」

 

一夏の言う大事な人って誰なんだろう。でも、その事を話す一夏は、すごく感情的だった。いつもとは違う、そんな気がした。

僕は思う。そこまで一夏に思われていた人は、きっと一夏の事も大事に思っているんだろうって。僕も一夏に親友として思われているんだろうけど、その人はそれ以上に思われていると思う。

 

「なあ、シャル。日曜日、もしお前の怪我が良くなっていたらでいいんだけど、買い物に行かないか?」

 

一夏は突然話題を変えてきた。って、突然すぎないかな、その変化は⁉

 

「僕は別にいいけど…………一夏は、その大事な人といった方がいいんじゃないの?」

 

僕は少し皮肉っぽく言って見た。

 

「…………その大事な人が目の前にいるってのに…………」

「?」

「い、いや、何でもないぞ? と、とりあえず大丈夫だな。あ、そろそろ門限だから、俺は帰るから」

 

一夏はそう言うと少し小走りで寮に帰って行った。僕はそれを少し眺めてから、さっきの事を思い出していた。

一夏はきっと聞こえないようにボソッと小声で言ったつもりだっと思うけど、僕にははっきりと聞こえた。

 

(い、一夏が話していた大事な人って、僕の事なの⁉ え、という事は、両思い⁉)

 

そう、一夏が言った言葉が頭から離れていなかった。それに、僕の事も迷惑じゃない、そう言ってくれた。その事がとても嬉しかった。

暫くして、また誰かが来た。

 

「シャルロット、怪我の具合はどうなんだ?」

 

箒がきた。どうやら、見舞いに来てくれたみたいだ。

 

「まぁ、その表情を見る限り問題なさそうだな」

「え?」

「今のお前、いい笑みをしているからな」

「そうかな? 普通だと思うけど」

「いいや、とても嬉しそうに笑っているな。なにかいい事があったんだろう?」

 

箒には隠せそうにないね。

 

「一夏に買い物に誘われたんだ。でも、怪我が治っていたらの話だけどね」

 

そう、僕が言うと

 

「ならちょうど良かったか、こいつを持ってきて」

 

箒は何かを取り出し、僕の前に置いた。それは、カプセル薬のようなものだった。

 

「企業連の全員に支給されている治療用ナノマシンカプセルだ。龍之介曰く、一晩で傷を治して消滅する優れものだそうだ。使うといい」

「箒、なんでここまでーー」

「悪いな。これから用事があるんだ。ナノマシンカプセル、必ず使うんだぞ。一夏との約束なのだろう?」

 

箒はそう言って、保健室を後にした。残った僕は、一度息を吸って

 

「みんなの優しさって、ずるいよね。ふふっ」

 

少し笑った。心から嬉しかった。

僕は目の前にあるナノマシンカプセルを飲み込む。箒からの優しさを無化にすることはできないからね。

本当に今日はいろいろあった。嫌なこともあったし、リヴァイヴも二日は使えない。でも、その先にあったのは、僕でも想像がつかない、いい事があった。僕はきっと優しさをくれたみんなに、こう心から言える。

 

「ありがとう」

 

もちろん、一夏との買い物は言うまでもなく、楽しかったよ。

 

 

 

 

 

「鈴、こいつらがそうなんだな」

「ええ、そうよ。王紅龍(ワン・ホンロン)の隠し玉達よ。私もその一人だけど、これには関与してないわ」

 

(龍之介)は、鈴が拘束してきた三人を裏生徒会室に拘留している。あと、鈴からの事情聴取。

 

「こいつらは、俺が強制送還するとして、どうだそっちは王小龍(ワン・シャオロン)?」

『何時でも。ストリクス・クアドロは調子がいいな』

「そりゃ、結構。頼むぞ」

『なに、リリウムも使う。私の計画に狂いはないさ』

「それは良かった」

 

この件に関しては、企業連の方でも対処することとなった。まぁ、そりゃそうだろう。企業連の中では最もまともで、皆からも愛されているシャルロットがいじめられていたなんて知った時は

 

『お前ら、ガトリング持て‼ 奴らを灰燼にしろ‼』←GAの皆さん

『ハイレーザーライフルのチャージ急げ‼ 目標は、中国だ‼』←インテリオルユニオンの皆さん

『俺の娘に手を出した罰、高くつくぞ、クソ野郎ども‼』←アルクロイドのおっさん

 

と、真面目に戦争が始まってしまいそうだった。そんなことになったら、中国が無くなる(物理的に)から、BFFから王小龍とリリウムを出撃させることとなった。まぁ、遠距離スナイパーだから問題なかろう。

 

「リュウ、本当にゴメン‼ あたし、ここまでになるとは思っていなかったから…………」

「別いいわ。お前は関与してないんだろ? それだけでも十分だ」

 

鈴は申し訳なさそうに頭を下げてくる。別にいいんだけどな。まぁ、これで中国の政府高官を正当な理由で処理できる。俺、あいつら嫌いなんだよね。自分のことばっか正当化してな、他を間違いとかそういうので見下すからよ。

 

「よし、この話題はここで打ち切りな。よし、部屋に帰った、帰った」

 

そう言って鈴を自室に返し、俺も自分の部屋へ戻る。時刻は六時半。門限にはかなりギリギリな時間だった。寮までひたすら走ったが、玄関前でカウントを始めた千冬さんの横を上手く通り、お咎めはなしだった。

 

 

 

 

 

翌日、中国国際IS委員会常任理事事務、王紅龍が職務室で死んでいるのを発見された。遺体は頭部が最も損傷が激しく、潰れたイチジクのような状態であった。また、後ろの窓ガラスが粉砕されているため、狙撃されたと警察当局は話している。

なお、王紅龍は代表候補生でもない少女をIS学園にいれ、またその少女達に他国の代表候補生に障害を加えるよう命じた事が明らかとなった。少女達三名は現在事情聴取中である。

 

 

一部では、この事件に企業連が関与しているとの噂もあるが、その真偽はわからない。




投稿が遅れて申し訳ありません。
そろそろ受験が迫ってきてるので、さらに遅れる可能性が大きいですね。
出来るだけ遅れないよう努力します。
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