インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
そこは、あたりに鉄の匂いが舞う、赤黒く汚れた大地だった。
周りには、薬莢と弾痕。
肉片と血痕。
そして、原型をとどめてない死体。
それが周りにある。
母子が泣き叫び、半狂乱となって逃げ惑う人々。
その真ん中に立ち、装甲を纏う俺。
視界には、一人の女性。
俺は、その人に手を伸ばす。
俺の手にはヒビが入っていた。
胸にも、脚にも、頭にも。
だが、それでも伸ばす。その手に、彼女を取るため。
しかし、彼女は突然霧散する。
代わりにあったのは、突き刺さる榴弾。撒き散らされる、肉片と血液。
それに、悲しみを感じ、俺は叫ぶ。
その時感じたのは、悲しみとやるせなさ。
そして、胸を深々と貫かれる感覚だった。
俺は、地たまりとなった大地に崩れる。
「ーー龍之介、おい、龍之介‼」
「…………んあ…………」
俺は、目が覚めた。視界には俺を心配そうな目で見つめてくる、箒がいた。
「大丈夫か? ひどくうなされていたようだが…………」
どうやら、俺は寝ていたらしい。現在俺らは臨海学校へと向かうバスの中にいる。俺の隣は箒が、オツダルの隣には簪が、ベルリオーズの隣には静寐が、ジェラルドの隣にはセシリアが、ジョシュアの隣にはラウラが、レギアの隣にはフィオナが。そして、我が一組の唐変木大魔王・一夏の隣にはシャルロットがそれぞれ座っている。まぁ、あんまどうでもいいんだけどな。
しかし、うなされていたとはな。周りに迷惑がかかったかもしれん。
「…………ああ、心配いらんよ。もう大丈夫だ」
ああ、あの夢の内容は最悪だった。思い出したくすらない。
戦争。
いつ始まってもおかしくない、その事に俺は少し悪寒を感じた。あの地獄絵図が本当だったら、俺は誰を失うのだろうか。いや、
「そうか…………それならいいんだ」
箒はそう言うと、少しホッとした表情で微笑む。俺は、思う。この笑顔を消してはいけない、失わせてはいけない。それが、俺のできる事であり、俺の役目だ。
消そうとする者を焼き尽くす、理不尽な火力。それが、俺という男だ。
「まぁ、海が見えてなりよりだな。台風がきているらしかったから、心配だったが」
「結果、晴れて良かったではないか。なにか文句あるのか?」
「いや、ねえよ。…………それよりも、俺みちゃいけないものを見たような気がする」
そう、俺の視線の先には、なぜかランドクラブが一隻あった。しかし、装備は全て外されている。絶対企業連絡みだから、放っておこう。面倒は嫌いだ。
「到着まであと十分だ。各自、準備を怠るなよ」
千冬さんの一言で、騒がしかった車内も静かになる。さて、俺も準備するとしますかな。
「ここが、諸君らがお世話になる花月荘だ。くれぐれも迷惑をかけて、従業員の迷惑を増やすような真似だけはするなよ」
「「「はーい‼」」」
返事だけはいいんだよな、女子達は。なにかしら問題を起こす気はあるだろうな、活発な連中のことだから。
「特に男子と、その周りの女子達。お前らは特に注意しろよ」
「お、俺ら⁉ 冤罪ですか、冤罪‼」
「企業連というだけで、十分問題だ」
「「「…………ああ、納得」」」
男子(特に企業連チーム)は注意された。問題は起こさないよ、俺らは。だが、俺は見た。ここにくるまでにランドクラブを一隻見かけたことを。来てるのは、ジャックか、ゲドか、それともフランパパ⁉ さらに、RDもか⁉ 妙にあいつら仲いいし、可能性はなくも無い。
あ、このタイミングでメールがきた。送り主は、企業連カラードのミグラント主任、ガルシアからだ。
『へ〜い、主任。ちょーっと、いいかな? いや〜、ジャックとRDとロザリィ、それとフランとハンスが休暇欲しいって言うから、
「あんの野郎か‼ こんチクショウ‼」
「ど、どうした龍之介⁉ てか、鼓膜破れる‼」
ガルシアのふざけたメールにブチ切れた俺の声をほぼ至近距離で聞いた一夏が驚きの声をあげた。いや、そこまで声でかかったか?
そして、再びメールが俺のデバイスに送られてくる。送り主は…………変わらずガルシアだった。
『あ、さっきの内容に追加。俺とキャロりんも休暇に入るよ〜。ミグラントの仕事は他に任せたから〜』
すげえ、気の抜けたメールに俺は脳の血管の一、二本ほどきれてもおかしくないほど、血圧が上がった。だが、それもすぐにおさまり、制裁をしたくなった。
「…………ベルリオーズ、MARVEある? あ、実戦用の本物な」
「何に使う気だ⁉ 戦争か⁉」
「いや、
「アサルトライフルの用途じゃないよな、それ⁉」
(((実際に突き刺したお前が言うか、ベルリオーズ)))
俺はすげえ頭を抱えた。全く…………なんで、こんな時に限って休暇に入るんだよ。ランドクラブ見られたらやばいだろ。いつも、企業連メガフロートの格納庫に隠してある代物なんだからよ。
「あらあら、どうも賑やかな」
「これはどうも。すいません、今年は男子がいるせいで浴場分けが大変になってしまい」
「いいですよ。温泉はいくらでもありますから、
あれ? 千冬さんと話しているあの人、俺どこかで見たような気がするな。どこで見たんだっけ? てか、なんで有澤重工の名が出てきた?
「あれ? そこにいるのは…………龍ちゃん⁉」
思い出した‼ 俺の事をこう呼ぶ人は一人しかいねえ。てか、去年もきてんじゃねえか、ここ。
「おお‼ 誰かと思えば、久しぶりっすね、景子さん」
清洲景子。有澤重工が掘った温泉を保有する温泉グループ『楽園の湯』、その中の頂点に立つ女将がこの人なのだ。まぁ、温泉グループは軍事専門の企業連とは切れてるから、ほとんどの人は関係性を見出せない。まぁ、有澤重工が保有する温泉掘削機[アルマジロ]を貸しただけだがな。
「景子さん、今温泉何個あります? それによって、男子の対応が…………」
「問題ないわよ。いざとなれば、
さらりとやばい事を言い出す、景子さん。困ったぜ、温泉足りなかったら、深さ500メートルの温泉井戸を掘らないといけない。アルマジロの掘削スピードが一時間に250メートルだから、二時間はかかるな。
「やっぱ、風呂は諦めますよ…………」
「ふふっ、龍ちゃんは引っかかりやすいんだから。冗談よ、冗談。温泉は男子と女子に分けても十分な広さと個数があるわ」
全く…………景子さんは人をからかうのが得意なんだからさ。完全に引っ掛けられていたな。
「また、引っかかっちまったすね。あ、そういや、親父がそのうちくるみたいなこと言っていたんで、はい」
「わかりました。その時は最高のおもてなしをさせていただきますわね」
「あの〜、我々は一体どうすれば…………」
おっと、千冬さんが空気とかしていたな。いけね、今後にいろいろ支障が。
「あ、はい。それでは皆さんこちらへ。お部屋へと御案内します。別館の方から海へとすぐ行けますので、海へ行く方はそちらを利用してくださいまし」
俺たちは、景子さんの後をついて行き、部屋へと案内してもらった。
えーと、俺の部屋の事情なんですが、非常にすごいことになっている。貼り紙に『有澤・篠ノ之』と書かれたドアがあるんだ。もしかしてかもしれんが、これリア充組全員なのか?
『織斑、有澤、テルミドール、ベルリオーズ、オルフェス、ジェンドリン、オブライエン、それにデュノア、篠ノ之、更識、鷹月、イェルネフェルト、オルコット、ボーデヴィッヒ。お前らには特別室を用意してやった。手間がかかったんだ、文句は言うなよ』
そう言って渡された鍵の番号が書かれた部屋に来たら、こうなったというわけだ。
「千冬さん…………私達に素晴らしい事をしてくれたようだ」
「ああ。てか、よく取れたよな、こんなに二人部屋をさ」
まぁ、細かい事は気にしたら負けだ。俺は、中に入る。すると、柔らかい檜の香りが漂ってきた。窓からは、海が一望できる。さらには、風呂はセパレート式、簡易キッチンまである。さすが、企業連直轄の宿だな。
俺たちは早々と荷物を置く。
「箒、どうする。もう海に行ってしまうか? 俺はもう行くけど」
「そうだな。せっかくお前に選んでもらった水着だ。着てみようと思う」
「よしじゃ、早いとこ行っちまうか‼」
俺は、持ってきたトランクケース(ガワは有澤装甲)から、水着と釣竿、銛、あとその他いろいろをアイテムボックスに移して、更衣室へ向かう。
「海か…………少しトラウマが…………」
「いい加減克服しろよ、オツダル。もう、三年もこれかよ」
「う、うるさい‼ これだけは私でも無理なんだ‼」
浜辺にでて、早速オツダルのトラウマに耐える様子を見つつ、砂浜を歩く。
「それにしても久しぶりだな、こうして泳ぎにくるのは」
俺は、正直娯楽目的で海に来た事が無い。てか、炸薬が湿気るからあまり好まない。でも、こうして海にくるのは悪くはない。
そうもの思いにふけているときだった。沖の方になにか背びれのようなものが見えた。すかさず眼帯を軽く外す。これが長く続くと俺が暴走するらしいのでな。
(あれは…………サメか⁉ しかもこっちに来てるし‼)
周りをみると、すでに海に入って遊んでいる奴が一杯いる。ここにサメが来たらシャレにならん。
俺は、アイテムボックスより銛を取り出す。あと、水中ゴーグル。これで準備はよし。
(さっさと取って来て、レギアにフカヒレスープ作ってもらうか)
そう思って海へ飛び込む。海はとても透き通っており、先が余裕で見渡せるほどであった。
(お、いたいた)
しばらく泳ぐと例のサメと思わしき奴が見えた。俺は、手に持つ銛を引き絞る。姿からしてメジロザメの可能性が高い。
サメがこちらに気づいたのか、急に速度を上げてきた。その速度はとても早い。
(よし、いいぞ。そのまま来い‼)
サメとの距離がすでに十メートルを切った。それでもサメは突っ込んでくる。先ほどよりも速度は上がっている。俺は、銛を持つ手を引く。
サメとの距離が五メートルを切り、ほぼ目と鼻の先になった時、銛を突き出す。それは見事サメの脳天に刺さり、サメはそれっきり動かなくなった。
(よし、回収完了。あとは浜に戻るか‼)
サメが突き刺さった銛を持ち、浜を目指す。あ、女子達ビビんないかな…………不安だ。
「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ‼、さ、サメ〜‼」」」
案の定、すげえビビった。てか、逆にその悲鳴で俺がビビったわ。女子、怖いわ〜。
「…………龍之介、そのサメどうした?」
「お、レギア。丁度この近くを泳いでいたもんだから、危ねえと思って獲ってきた」
「…………わかった。フカヒレスープが飲みたいんだろ?」
「お前、よくわかったな‼ ってことでーー」
「…………フカヒレは乾燥する手間がいる。スープはまた今度な。サメは向こうでさばいてくる。フィオナ、手伝ってくれ」
「べ、別にいいけど。咬まないよね?」
「絶命してるから問題ねえだろ」
先ほど獲ってきたサメを、レギアとフィオナに預け、俺はそこら辺をぶらつく。
「龍之介、どこに行っていたんだ。探したぞ」
水着に着替えた箒とあった。どうやら、俺を探していたようだ。なんか待たせてしまった感があるな。
「な、なぁ、龍之介。そ、その、なんだ、み、水着、似合っているか?」
箒は少し上目遣いで俺に問う。ちなみに箒の水着は、普段の箒(武士モード)からは想像がつかない、ビキニである。それも、結構な露出のあるやつ。白地に淵を黒のラインが走っている。また、胸のとこのつなぎ目にある小さなリボンもアクセントとなっている。うん、似合ってないなんて言ったら、確実に泣くなこれ。めちゃめちゃ似合ってますもん。
「おう、似合っているぜ。いつもより可愛く見えるな」
「そ、そうか? だが…………あんまり、見ないで欲しい。その…………恥ずかしい」
箒がしおらしくそう言う。まぁ、そりゃそうだよな。男のロマンが随分と強調されているしな。これに、反応しないやつはいねえだろ。まぁ、不埒な目で箒を見た野郎は、OIGAMIでぶっ飛ばすけどな。
「まぁ、なんだ。人目を気にしたら負けだ‼」
そう言ったら、ハリセンの打撃をいただいた。あれ? 俺まずいことでも言ったか?
「おう、龍之介、箒。随分と楽しそうだな」
俺と箒がボケとツッコミのやり取りをしているところに、一夏とシャルロットがきた。
「お、一夏か。んで、お前ら付き合ったのか?」
「それは、私も気になるな」
「お、おい‼ 龍之介、突然何を言うんだ、お前は⁉」
「ふぇっ⁉ ぼ、僕と一夏はまだだよ…………」
ふーん、まだ付き合ってないのね。シャルロットが一夏の腕に抱きついていたもんだから、てっきり付き合っているのかと思った。
「それにしても、シャルロットはすごく嬉しそうな顔をしているのだが」
「え? うん、この間一夏と買い物に行った時、これを貰ったんだ」
えへへ、とにこやかに笑ってシャルロットは、俺たちにその手にしていたブレスレットを見せる。おい、一夏。お前ってやつは、付き合ってないとか言ってるけど、お前のやっていることはカップルがするようなことだぞ、おい。
「へぇ〜、やるじゃん一夏。あの超弩級唐変木一夏がここまでに進化するとはな」
「さりげなく俺をバカにしているよな、龍之介⁉」
まーまー、一夏、怒るなって。俺は、お前の進化に喜びたいくらいなんだよ。
「そういや、龍之介。この間はありがとな」
「あり? 俺なんか礼を言われるようなことしたっけ?」
うーむ、記憶にねえや。何したっけ、俺。
そう思い出している時、一夏が小声で俺に言ってきた。
「ほら、シャルの事だよ。後で聞いたんだけどさ、イジメにあっていたらしいな。それを支えてやってくれたんだろ? 俺が助けてやれなかったのは凄く悔しいけど、シャルを助けてやってくれてありがとう」
こいつ、自分のした事を忘れているな。あの連中をのしたのはこいつじゃねえかよ。
「全く。一夏、お前だってシャルロットをイジメていた連中を潰したんじゃねえか。それで、十分じゃねえのか?」
「それでもさ。結局、最初の段階で気づけていなかった俺も悪いんだからな」
一夏はそう言ってくる。本当、お人好しって言うのか、なんて言うか。甘いよな、こいつはさ。
「ねぇ一夏。ちょっと泳ぎに行こうよ」
「わかった、わかった。だから腕を引っ張るなよ。って事で、また後でな」
一夏とシャルロットは海の方へ向かう。なんか、シャルロットにも笑顔が戻った途端、一夏もよく笑っているようになったもんな。あの二人はいいコンビだよ。
「なぁ、私達はどうする?」
「そうだな。このまま、ここで少し休んでから泳ぐか。さっきサメ獲ってきたばっかだから、休みたい」
俺はそう言うと、アイテムボックスからサングラスを取り出す。丁度日陰になっているここは温度的にも休める。
無論、その後の自由時間もとても楽しんだ。周りでは、オツダルが使っている浮き輪に簪が掴まって海を漂っていたり、ベルリオーズが海の底からカニをとって静寐に見せていたり、レギアとフィオナが仲良く浜を散策していたり、セシリアはジェラルドにサンオイルを塗っていて貰ったり、ラウラはジョシュアとビーチバレーをしていたり、一夏とシャルロットは二人とも高校生と思えないほどはしゃいでいる。まぁ、俺と箒は岩の上から釣り糸を垂らしていたんだけどな。あと、鈴が一人遠泳中に足をつったようで、溺れかけているところをRDが助けてやったりと、いろいろあった。って、RD⁉ お前はなんで、学園エリアにきてんの⁉
「おい、龍之介‼ 糸が引いてるぞ‼」
「おっし‼ ひとまずRDの事はスルーだ‼ こいつ釣り上げてやるぜ‼」
夕方までの自由時間、そのすべてを全力で楽しんだ俺たちだった。
夕食の時間が終わり、生徒達はそれぞれの部屋でその時間を楽しんでいた。勉強をする者たち、十代特有の会話をする者たち、ベクトルの違う会話をする者たちと様々だ。
だが、それは一部の者たちを除いてだ。そう、その一部ーー専用機持ちとその他一名は、千冬の部屋へと集められていた。
「ちょっと‼ その他一名ってひどくないですか⁉」
「…………何に対して叫んだの、フィオナ?」
「なんでもないです…………ぐすっ」
フィオナは何を感じ取ったのか、叫ぶ。だが、誰一人として、何に対して叫んだのかわからないようだ。それが悲しいのか、地の文での扱いが酷いのか、彼女は涙目になっていた。
「まぁ、いい。さて、お前達を呼んだのは、ほかでもない。とりあえず、飲め」
そう言うと千冬は、部屋に備え付けの冷蔵庫から飲み物を人数分取り出す。
「はぁ…………それじゃ、いただきます」
全員が千冬から、箒はラムネ、セシリアは紅茶、鈴は烏龍茶、シャルロットはオレンジジュース、ラウラはコーヒー、簪はスポーツ飲料、静寐は麦茶、フィオナは緑茶をそれぞれ受け取った。
(あ、あれ? 僕、真っ先にオレンジジュース選んじゃったけど、子供っぽいって思われてないかなぁ…………なんか不安だなぁ)
シャルロットはそんな事を脳内スパイラルで考えていたが、千冬はそんな事を御構い無しに話を進める。
「全員、受け取ったな?」
千冬が意味深そうに言うと
「な、な、何ですか、いきなり⁉」
「ま、まさか、毒でも入ってますの⁉」
「も、もしや、○薬がなかに⁉」
「「「鈴、それは無い」」」
「馬鹿者、ちょっとした口止め料だ」
冷蔵庫から缶を取り出す。それには、キラリと輝く大きな星マークが描かれていた。ビールである。それを開けて、少し煽る。
「ふーっ、やはり酒はいいものだな。一夏に一品ーーいや、そこの嫁候補に任せるか」
「お、織斑先生⁉ い、いきなり何を言っているんですか⁉」
千冬の言葉にシャルロットが反応した。
「なんだ、違うのか? 私が直々に一夏に認めてやろうと思ったのだが」
その言葉はつまり、シャルロットを一夏の嫁として迎えても良いという事を意味するものであった。
「ま、まだ、正式に付き合ってないので早いですよ‼」
「付き合えばいいだろうが…………自分から告白してこい」
「そ、そんな勇気、僕にありませんよ〜‼」
シャルロット、意外なところでヘタレであった。うむ、惜しい。両想いなのに、なかなか言い出せないとは。十代乙女の恋は極めてデリケートで、S-11戦術弾頭並みに取り扱いが危険な代物なのである。
「まぁ、その事は追い追い決めるとしよう。ああ、今は職務時間じゃないから、私の事は自由に呼んで構わん。だからお前達も話せ、それぞれの恋の事をさ」
「「「「「「「ぶうぅぅぅぅ‼」」」」」」」
「あれ? これあたし参加しなくていいパターン?」
いきなりのカミングアウトであった。千冬の言った事を理解できなかった者は皆、盛大にいろんな虹を描いた。
「げほっ…………ち、千冬さん、一体何をーー」
「まずは篠ノ之、お前からだ。有澤との出会いからなにかしら全て言え」
命令形で言う、千冬。箒はそれに戸惑うが、意を決したのか話す事にした。
「ええ、私と龍之介の出会いは、小学校一年の時です。あの頃、クラスにうまく馴染めていなくて、ほかの子達が遊んでいる中、私は一人ぼっちでした」
「そんな時でした、龍之介と出会ったのは。そして、出会ってすぐ『友達になってやる』と言ってきたんです。その時私はとても喜びました。そして、心になにかときめいた物を感じたんです」
「その一年後、龍之介は姿を消しました。それ以降は、要人保護プログラムと政府の命令で日本中を移動する毎日。無論、友達なんてできる余裕もなく、私はイジメを何処の学校でも受けていました」
「ある日、私に『バレットドラゴン』と言う名の傭兵が護衛で付きました。その彼は右目に眼帯、左腕は義手という姿でした」
「箒、そいつはーー」
「ああ、その通りだラウラ。傷付いて、それでも戦う龍之介だったんです。後は、この学園で起こった事の通りです」
「そうか…………複雑な上、よく有澤の事を諦めなかったな。よし、いいぞ。次は、オルコットか」
千冬はセシリアへ振る。
「わたくしとジェラルドさんは、昔から家と会社でのつながりの中で会いましたわ。結構、昔はお転婆でして、ジェラルドさんにはよく一緒に遊んでいましたわ」
「でも八年前、私達はその楽しい日々を突然壊されました。ローゼンタール社の株が暴落。オルコット財閥も投資をやめ、ジェラルドさんとは会えないものだと思っていました」
「その頃からでしょうか。心の何処かで、ジェラルドさんに会いたい、会って二度と離れたくない、そう思っていました。そして、両親が他界。この学園に来て、彼と悲願の再会を果たしたわけですわ」
「企業と財閥、貴族ならではの恋か。よし、次ボーデヴィッヒ」
セシリアから、ラウラへ皆の視線は集まる。
「私か? 私はだな、そうだ、ドイツの部隊で訓練していた頃だ、嫁と出会ったのは。あいつは臨時教官として来たんだ」
「臨時教官ですの? まぁ、ISがあるのでおかしくはないとーー」
「いや、あいつが使っていたのはISではない。
「しかしやつは無傷で私に勝った。機動性でも、装甲と火力でも劣るMAで。そして、私の心に熱い何かができた。そして私は思った、これが恋と言うものなのだとな。さらに、自分が好きな人間の事を嫁と呼ぶらしいから、私はあいつの事を嫁と呼んでいる」
「いかにも兵士同士、戦いの中でできた恋なのか。次、更識」
簪へと視線が集中するが、人数が多くなると消極的な性格に変わってしまう彼女の性質上、すこし萎縮してしまった。まぁ、ほとんど口調とかに変化はないが。
「そ、その…………なんていうか、オッツダルヴァとの出会いは、不思議なものでした。私は、箒の数少ない友達の一人。引っ越す時に別れの挨拶をしに行きました」
「その時、話しかけて来た人がいたんです。それがオッツダルヴァとベルリオーズだったんです。あ、龍之介はなんか高官の人と話していました」
「その後、彼と接点はなかったんですが、すこしときめいてしまったんです、彼に。この学園で会った時、あの鼻につく口調で喋るのが欠点ですが、本当は根の優しい人なんです。だから、私は彼の事が好きなんです」
「すこし、辛いものが欲しいな…………次、鷹月」
千冬の口からまさかの弱音がでて来たが静寐へとリレーは続く。
「私とルークの出会いは、簪とオッツダルヴァの出会いとよく似ています。というか、ほぼ同じ」
「ルークはどこか大人びた性格で、自然とそこに惹かれていたんだと思います。…………怒ると、アサルトライフルを取り出しますけど」
「それから時がたって、学園で再会した時、私は、彼のそばにいたい、そう思っていました」
「すまん鷹月…………そこで、切り上げろ。イェルネフェルト、次はお前だ」
千冬はどうやら、あまりの甘さに耐えきれなかったようで、静寐の話を切り上げた。
「私とレギアは、オーストラリアにあるアナトリア地区で出会ったのが初めてです。アナトリアは田舎でしたけど、のどかなところでした」
「しかし、そんな日々に終止符が撃たれました。所属不明機が300発のナパーム弾で焼き払ったんです、住民ごとアナトリアを。私も、父さんと避難をしていました。その途中で、レギアを見つけたんです」
「その時のレギアは、重度の火傷を全身に負い、死んでもおかしくない状態でしたが、父さんのお陰で一命は取り留めました。それからでしょうか、レギアが私に対してよくいろんな事をしてくれるようになったんです」
「そんな彼の姿をみると、一緒に頑張りたいなとらおもえるようになり、行くアテを探していた時にラインアークへ流れ着いたんです。そして、先々月、正式に交際することになったんです」
「すまん…………あまりにも壮絶な過去すぎて、何と言ったらいいかわからん。最後、デュノア、お前だぞ」
フィオナの過去を聞いた千冬は、手に持っていたビールをテーブルにおき、ハンカチで目尻を拭っていた。そして、最後に呼ばれたシャルロットは少し硬直していた。
「ぼ、僕ですか。僕と一夏の出会いは、みんなと比べたら凄く短いです。ほんの一ヶ月前に出会ったのがきっかけです」
「今だから言えるんですけど、僕は実家からの命令で、白式のデータを持ち帰る事が目的だったんです。だから、男装をしていたわけです」
「でも、それも一夏が突然シャワールームに入って来て、瞬時にパァ。僕は、強制送還され極刑にかけられる運命をただ待っていました」
「でも、一夏はそれを認めず、僕に『ここにいろ‼』って言ってくれたんです。こんな僕のために。その優しさに惹かれたんです。いや、それだけじゃない。どこまでも真っ直ぐな姿に魅せられたんだと思います」
「そこまで一夏に惹かれたんなら、やっても構わんな」
シャルロットの話を聞いた千冬は、さらっとすごいことを言った。そして、二本目のビールに口をつけた時、唐突に言い出した。
「なぁ、お前ら。ローディーって男を知っているか?」
「いえ、わたくしは知りませんわ」
「私も同じです」
「ドイツにいた頃でも聞かない名前でした」
千冬が言ったローディーという人間は、IS学園サイドには知られていないようだ。
しかし、反対に企業連サイドは
「あ、あの、ローディー先生をご存知⁉」
「あの、頼れる兄貴分の⁉」
「GAの最高戦力の先生を⁉」
「ギターが上手いあの方を⁉」
「それでも、日々鍛錬しているあの伝説を⁉」
相当なパニックになっていた。箒にはローディー先生と呼ばれ、シャルロットには頼れる兄貴分と言われ、簪にはGA最高戦力と謳われ、静寐にはギターが上手いと称賛され、フィオナには伝説までと崇められている。
千冬はさらに言葉を紡ぐ。
「いや…………たいしたことではないんだがな、その、一度、前にローディー・シュナイダーと手合わせしたことがあったんだ。私は暮桜、奴は自分用のパワードスーツ[フィードバック]とやらでな」
「無論、奴との闘いは激しさを増す闘いだった。もう、他とかモンド・グロッソの決勝の比でない、そんな勝負だった」
「だが、私は奴に負けた。それが初めて感じた敗北感だった。勝つことしかなかった私に来た敗北というものは重かった」
「しかし、奴は私にこう言って来た。『負けた悲しみがあるのなら、まだ成長できる。さらに強くなったお前と手合わせ願うぞ』とな。その時、私の頭から奴が離れなくなったんだ」
千冬はその事を語る。どうやら、ローディーに惹かれているようだ。
「千冬さん…………もしや、ローディー先生の事が好きーーいたたたたたた‼」
箒が何かを言おうとした瞬間、彼女の頭に千冬のヘッドロックが決まった。すでに、頭蓋骨からはなってはいけない音がなっており、箒以外が若干引き気味になっていた。
「いいか、この事は誰にも話すなよ、いいか。まぁ、お前達も愛の巣を作れるよう頑張って行くんだな」
こうして、女だけの雑談会は閉じたのだった。
その頃、温泉では
「ふぅ〜、やっぱ露天風呂が一番だわ」
俺がのんびりとその湯を堪能していた。すでに、ほかは上がっており、海が見える絶景を独り占めしていた。まぁ、あたりが暗くて良くは見えないだろうがな。
「それにしても、明日か…………」
俺は一人ぽつりと呟く。
「あの兎がどう行動を取るんだろな。まぁ、世界がやばい方向に傾く危険性は否定できないか」
まぁ、あの天災のことだ。何らかのアプローチがあるだろう。はぁ、結局、俺っていうのはつくづく行事をまともに楽しめる事はなさそうだ。
それでも、愛する人の笑顔さえ守れりゃいい。それが、漢っていうものだからな。
「まぁ、榴雷があれば何とかなるだろな」
改造に改造し、さらに改造した榴雷。すでに、昔は無理だった飛行が可能になった。空中要塞と化した愛機に問題はないだろう。
そう思い、再び湯に浸かり、疲れを癒す。
あたりに響く微かな波の音が、周りで鳴く鈴虫の声と共に、俺の耳へと響いた。
だが、龍之介はこの時気づいていなかった。ここを中止とした半径30キロ範囲内に、コジマ粒子とは全く違う別の粒子が散布されている事を。
そして、その粒子はアメリカ・ハワイ島基地ででも確認されていた事を。
そしてそれが何を意味しているのか、現時点で気づいたものは誰一人としていなかった。