インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
臨海学校二日目。
今日は自由時間なんぞ全くなく、各自ISの追加装備の試験運用である。と言っても、打鉄用砲戦パッケージ[撃鉄]と、ラファール・リヴァイヴ用高機動戦パッケージ(名前は知らん。てか、読めんかった)の適用しかないけどな。
そんで持って、専用機持ち達も大変なわけなんだよ。この臨海学校、部外者は一切参加できない。だから、揚陸艦で装備一式をどんっ、と持って来て後は帰るっているパターンなんです。ちなみに、イギリス、中国、ドイツはすでに近海に待機しているらしい。
そして、その専用機持ち達というと
「よし、全員いるな? これより各自パッケージの検査に入れ」
一般生徒達とは離れた位置にて、パッケージの検査とインストールを行っていた。
その時だった。
『こちら企業連海上輸送部隊だ。主任、いろいろ試作兵装とか持ってきたぞ』
堂々と乱入してきやがったよ、
そう思って、俺は視線を海に向ける。すると視線の先には
「げっ、ギガベース…………」
必要最低限の武装を施し、代わりに積荷を積載したギガベースがこちらへと向かっていた。うわ、よくここまでこれたよな。つーか、周りにGA艦隊もついてんじゃねーかよ、戦争する気か?
「おい、龍之介、なんかこっちにでかいものが近づいてきているぞ?」
「い、一夏‼ あれを見るんじゃない、見るんじゃないぞ‼」
俺はギガベースへと意識が飛びかかっていた一夏をこちらへ戻す。ダメだ、あんな機密の塊であるアームズフォートを使うとか、企業連は何処かのネジが吹っ飛んでいる。
「龍之介、憂さ晴らしに叢正を起動してもいいか?切りたい奴がいるんだ」
「私もエクスタミネーションミサイルの起動許可を」
「それなら私もツインヒュージミサイルを使いたいです」
我らが企業連の女子は全員、ただ一人の男を殺すつもりでいた。その男は
「私の父が悪かった‼ だから、オーバードウェポンの舞だけは勘弁‼」
以前も言ったオツダルの親父、マクシミリアンのおっさん。俺の親父は多分、雷電かグレートウォールでしか来ない…………はず。
そうこう考えている間にギガベースが揚陸した。電磁推進システムから、無限軌道による移動へ変え、ある程度進んだところでハッチを開いた。そこからは、四機の無人MA(機種はサレオス)がコンテナを運び出した。うわ、何持ってきたんだよ、明らかにコンテナが多いだろって。
数分後、コンテナを運び出しきった輸送用ギガベースは、もときた道を引き返し、GA艦隊とともに企業連へ帰って行った。
「おい、有澤。部外者の参加は原則禁ーー」
「ちぃぃぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‼」
千冬さんが原則禁止と言おうとした時、突然の大声によってそれが遮られた。その声がした方向を専用機持ち全員が見る。
「…………ッチ。有澤、構わん、撃て。ロケット弾か対戦車ミサイルを勧める」
「り、了解‼」
俺は手に最も信用できる火器を手にする。スウェーデンにて開発され、GAによってさらに改造された無反動砲。その名も、カールグスタフM5。その薬室にハイスピード榴弾をセットする。
「俺の後ろに立つなよ‼ 髪が一瞬でアフロ確定だ‼ って事で、発射‼」
躊躇いなくトリガーを引く。砲口から決して遅くない砲弾が、猛スピードて走ってくる奴に当たる…………はずだった。奴さん、空中で二段ジャンプをかましよった。
「あり得ねえ‼ あんな榴弾避けられるはずねーよ‼」
その光景を見たベルリオーズは驚きの声を上げた。つーか、俺も空いた口が塞がんねえ。いやいや、生身で五メートル近く飛ぶって、人間の域じゃねえ、人外だ。
ターゲットを失った榴弾は近くの崖に着弾。見事岩壁に大穴をあけた。さすが有澤炸薬。
「…………束」
「…………姉さん」
「やあやあ、ちーちゃん、会いたかったよぉ‼ さぁ、束さんとの愛を確かーーふべっ‼」
わぉ、兎に千冬さんがアイアンクローをしているぜ。見事に指が食い込んで、モザイクかけないといけないレベルの物が生産されようとしていた。
「…………なぁ、リュウ。あの巫山戯た女は誰だ?」
「…………兎って言えばわかるか。企業連の変態より、変態じゃない天災」
そう言ってオツダルに解説する。そして件の兎は、千冬さんのアイアンクローより抜け出していた。よくやるな、兎も。
「やあ‼」
「…………ど、どうも」
「久しぶりだねぇ、大きくなったねえ。特におっぱいが」
がごんっ
「斬りますよ」
箒は、見事にキレ、サムライソードを鞘付きで展開し、それでぶん殴った。ちなみに、
ジャキッ
兎に全員がお得意の武器を突き付けた。オツダルがER-O750、ベルリオーズが04-MARVE、レギアが051ANNR、簪がFLUORITE、静寐がHLR01-CANOPUS、俺がNUKABIRAだ。無論、セーフティなんぞはずしている。
「何なんだよ、お前達は。誰に向かってそんなおもちゃを向けているんだい?」
兎の口調が先程と全く異なる。やはりな、こいつは身近な奴の事しか考えていねえ、人間失格者だ。
「フン、貴様が我々の方に手を出さなければいいだけだ」
オツダルの言葉を皮切りに、全員が武装を格納する。まぁいいか、こっちも武装のチェックに移るとしよう。その前に
「箒、ヴァイスハイトを俺に渡せ。厄介事が起きる前にな」
「あ、ああ。わかった」
箒からヴァイスハイトを預かる。これだけはまずいんだ。万が一もあるが、ネクストISは機密の塊だ。ネジ一本たりと、流すわけにはいかない。箒もそれを理解したようで、戸惑ってはいたが素直を待機形態のブレスレットを渡してくれた。
まぁ、仕事は増えるが、パーツのインストールくらいはしておくか。箒の望みの品もきているようだし。
「さあさあ、箒ちゃん。大空をご覧あれ‼」
そう兎が高らかに叫ぶと、突然地面が揺れた。というか、何か大質量の物体が着弾した時のような感じだ。その音がした方向を向くと
「これが箒ちゃんの専用機、[紅椿]‼ 現行ISを上回る性能の、束さんお手製だよ‼」
そう、そのまさかだ。純正ISコア搭載型第四世代機、[紅椿]が鎮座していた。その紅の装甲は太陽光を反射して光っており、その存在感をより一層強めている。
だが、箒はそれを喜ばしく思ってない。そのように見える。それでも、自分がなにかする事で他人に迷惑をかけないなら、そう思っているようで、紅椿に乗ろうとしていた。
俺はとても悔しい。たった一個人に企業連が手も出せないとは。それも、自分の愛する人を助けられないとなると、自分が一層無力に感じる。俺は自然と拳を強く握りしめていた。
「…………龍之介、血が出てるぞ」
「…………ああ、わかった」
「お前の気持ちはわかるが、自分を責めても何にもならないぞ」
「すまねえな、ベルリオーズ。まぁ、とりあえずインストール済ませちまおうぜ」
レギアとベルリオーズに心配をかけたらしい。本当、俺ってなんなんだろうな。まぁ、その事はあとで考えよう。
どうやら、試験運用で紅椿が飛んだようだ。
「遅いな。私ならすでに抜いているぞ」
「お前と比べられるのは酷だと思うぞ、ジョシュア」
「そうだな、せめてフラジールと比べてやれよ」
「龍之介さん、それもっとひどい…………」
まぁ、見積もってでも紅椿の巡航速度は840キロ。フラジールは最近ブースターを強化したらしく、2750キロとかなんとか。比べる対象がおかしいか。まぁ、白式の瞬時加速が500キロだから、第四世代機としては妥当なスピード…………なのか?
ーーインストールが完了しました
お、どうやら武装のインストールが終わったようだ。それでもコンテナ(ガワは何があろうとぶっ壊れる事はない)はまだまだある。何が入っているんだ、一体?
ちなみに今回俺に試験的に渡された武装は、HW04グレイヴアームズ。コンセプトは『万能化した汎用武装』。そのコンセプトに恥ぬよう、近接のパイルバンカーモード(アルゼブラとキサラギとデュノア)、射撃のキャノンモード(インテリオルユニオンとミグラント)、防御のシールドモード(GAと有澤重工)、後はサブアームがついている。無論、結構前にインストールして以来全く使ったことがねえ、ウエポンアセンブルシステムにも対応している。かなり、高性能だな。
「それにしても、あの機体、エネルギーがカツカツになりそうな気がするんだが」
「メインブースターがイカれたわけでもなく、ただのエネルギー切れで水没か?」
紅椿の飛行をみていたベルリオーズとオツダルはそう声を漏らす。まぁ、あながち間違ってはいないと思うぜ、ベルリオーズの言っていることは。オリジナルのコアはエネルギー殆どないからな。逆に俺らの魔改造コアと現行の第二世代擬似コアは、オリジナルの数段は上だ。そこにコジマドライヴを追加するしな…………全くもって、企業連の機体はチートだな
あとオツダル、縁起でもないことを言うな。それは普通に泣けてくる。
そんな事をしている時だった。企業連からメールが来た。差出人は…………GA、ジョージか。
『すまん、アメリカから緊急の依頼だ。
作戦内容は、アメリカ・イスラエルが共同開発したIS[
ああ、それと機体の詳細データはそっちに送ってある。確認しといてくれ。
完全に悪い話だが、国家からの依頼だ。少しは儲かると思うぜ。次期代表、頼んだぞ』
「お、織斑先生〜〜〜‼」
ちょうど、メールの内容を確認しきった時だった。真耶さんが、デバイスを持ちこちらへと何時もより二割増しで慌てて来たのは。
「お前達には、ハワイ沖で起動試験中だったIS[シルバリオ・ゴスペル]、以後福音を撃破してもらいたい」
突然専用機持ちに招集がかかり、俺たちは広間へと集められた。広間にはモニターやら空中投影ディスプレイやらが配置されており、そのどれもに福音のデータや現在位置が表示されている。
「教師部隊は訓練機を用いて海上の封鎖を行う。よって本作戦の要は専用機持ちに任せる事となる。…………すまない、お前達。本来、大人がすべきはずの事をお前達に預けてしまって…………」
千冬さんはそう言うと、頭を俺たちに下げて来た。やはり、一般人、それも学生にさせる事にやるせない思いを感じているようだ。
「織斑先生、頭をあげてください。とにかく、今は福音の撃破を考えよう。プランは何かあるか?」
ベルリオーズが言い出しとなり、会議が始まった。
「先生、目標の詳細データを開示してください。そのくらいは可能でしょう」
「それが、データはこちらへ送られて来ていない。どうやら、軍の老害共は、よほどデータを流したくないらしい」
「なら、俺が受け取ったデータを使ってくれ。企業連からの同封だ」
俺はデバイスを空中投影ディスプレイに繋ぐ。そこには福音の詳細なスペックデータが開示されていた。
「広域殲滅型…………私のブルー・ティアーズと同じオールレンジ攻撃が可能…………」
「範囲攻撃を主とした高機動特殊射撃型…………甲龍とは相性が悪いわね」
「それに、この特殊装備が厄介だね…………僕のリヴァイヴのシールドでもどれだけ耐えられるか…………」
「
「このステータスだけでは、格闘性能が未知数だ。他にデータはないのか、
ラウラが俺にそう言って来たその時だった。今度はオーメルのアディからメールだ。
『先程GAのジョージがアメリカ側のデータを送ったようですが、イスラエル側のデータを我が社はお持ちしました。
ただでさえ悪い状況に、悪条件がつきました。ですが、対策はないわけではありません。作戦の成功を期待しています』
その内容を見たとき、俺は冗談かと思った。俺の装甲とプライマルアーマーを持ってでも防げるかどうかわからないとなると、福音は起爆時に消滅、搭乗者も悪くて死ぬだろう。
俺は、何も言わずにデータを表示した。すると一同は唖然とする。
「小型の気化爆弾だと⁉ ふざけるな‼ 人命をなんだと思っているんだよ⁉」
「開発陣営にイスラム過激派が混じっていたらしく、特攻の考えを反映したようだ」
「こんなの…………正気の沙汰とは思えない‼」
「龍之介‼ なんとかならないのか⁉」
箒が俺に詰め寄って聞いてくるが、俺はどう答えたらいいかわからない。核の対処はした事があるが、気化爆弾なんてどうしたらいいのかわからない。いやまて、気化爆弾の起爆条件は何だ? 明らかに任意のセットだよな? だとしたら一つだけ方法はある。
「…………山田先生、福音はここから何キロ先を通過するんですか?」
「算出結果では、およそ四十分後ですが…………福音は現在超音速飛行をしています。早く準備をしないと…………」
「確証はないが、一つだけ方法がある。無論気化爆弾も爆発しない方法が」
俺の言葉を聞いた全員が面を食ったような表情になる。
「一夏の零落白夜による、一撃必殺。それしか方法はない。企業連メンバーが行ってもいいんだが、それだと気化爆弾が起爆する恐れがある。流石にそれはまずい。それに比べて、零落白夜はシールドエネルギーのみを喰らい潰す、ISキラーだ。だから、この作戦が一番危険性がない。それでいいですね、織斑先生」
俺は千冬さんの方へ目を向ける。
「…………それが最善の策なら、そうしよう。織斑、お前はどうだ? 流石に今回は拒否しても構わん、誰も咎めはしない」
そして全員の視線が一夏へと集まる。
「…………やるぜ、千冬姉。確かに、零落白夜ならなんとかできるさ。それが、零落白夜を持つ俺が、俺がなすべき事なら尚更だ」
一夏は覚悟を決めたようだ。その目には、恐怖も緊張も表れている。でも、それでも、感じる戦士としての思いを、その目は語っていた。
「よし、なら決まったな。それでは本作戦は、織斑の零落白夜による一撃必殺とする。…………重荷を背負わせてしまってすまない、一夏」
「千冬姉は気にする事ないって。それよりも、この作戦が完了したら、俺少しは英雄視されるかもな」
一夏は、千冬さんを元気付けようと、冗談をかます。それが、良かったのか場の空気が少しほぐれる。
「それなら、一夏を運ぶ方法を考えないとね。エネルギーは全て攻撃に回した方がいいから」
「そうだな。現在、この中で最高速度が出せる者はいるか?」
千冬さんがそう言うと手が上がる。セシリア、オツダル、ベルリオーズ、レギア、ジョシュア、ジェラルド、俺。普通のISはどうだか知らないが、ネクストISは速いぞ。プライマルアーマーによる空気抵抗の減衰が一番の要因だ。
だが、ジョシュアとオツダルは手を下げた。
「おい、忠告しておく。万が一に備えて、装甲の薄いやつは降りた方がいいかもしれん」
そう言ったのはジョシュア。確かにな、気化爆弾が万が一起爆したら、耐えられる機体は俺ぐらいかもしれん。最悪、俺も無理かもしれない。
「参考までに聞くが有澤、お前の機体は飛べるのか?」
「問題ないっす。装甲を少し別なやつに変えると飛行可能っす。それに、
「最高速度と、高機動戦の経験は?」
「
親父の雷電(原寸大ネクストACな)ですら、時速約7000キロを出したモンスター級の代物だからな。それに、思い出してみれば俺の機体って空飛べるわ、無限軌道ユニットをアウトリガーに変えれば。
それにVOBで強襲してからの砲撃で殲滅っていう事も結構やったしな、シミュレータでだけど。
「それなら、適任ーー」
「待った、待った〜‼ ストップ、ストップ‼ タンマだよ、タンマ‼」
千冬さんがそう言おうとした瞬間、天井から兎が涌いて来た。来るなし。
「有澤、撃て」
「ラジャー」
そして取り出すは、アメリカが誇る拳銃を改造したGAのロマン、GANE01-SL-WHリボルバー。それを躊躇いなく撃つ。だが、シールドを張っているのか、弾が弾かれる。うそーん、小型のAPFSDSを撃っているのに。
「ちーちゃん、ちーちゃん。束さんの頭にすっごくいい考えがなうぷりんていんぐ‼」
「…………出ていくか、さっさと死ね」
「ここはあんな変態なブースターじゃなくて、断然紅椿の出番なんだよ‼」
その時、アクアビットとトーラスがピーンと来たとかなんとか。
「何?」
「実はね〜、ここをちょちょーっといじるだけで、ホラ‼ 簡単に音速を突破できるんだよ‼」
すでに空中投影ディスプレイには紅椿の性能が表示されており、品評会のような感じになっていた。第四世代機の特徴、展開装甲か…………燃費悪いな。道理で白式も燃費が悪いはずだ。雪片に展開装甲が使用されていればな。確かに、高性能だ。
だが、これを好ましく思っているものは誰一人としていない。兎は所詮、バカだったんだな。
「…………有澤、そのVOBの装着にどのくらい時間がかかる?」
「三分あれば接続が完了する」
「ちなみに紅椿は二分もあれば調整できるよーん」
「…………黙れよ、人間失格者」
俺は、こんな非常事態でもおちゃらける兎への怒りが限界まで溜まってきた。いつ吹き出してもおかしくない。手を握る力が一層強くなった。その拳に手が添えられる。
「龍之介、そう怒るな。私なら大丈夫だ。ふふっ、お前のおかげなのかもな、あんな機体に乗っても慢心してない自分が作れたのは」
「箒…………すまん。俺の力不足だった」
「気にするな、私は気にしてないぞ」
箒はそう言うと、俺に笑顔を向ける。…………ああ、綺麗なもんだよ。いつ見ても見とれてしまうな。俺の心に溜まっていたものすら消してしまう、そんな力を箒は持っているんだ。
「ねぇ、龍之介。お願いがあるんだけど…………」
箒の隣に座っているシャルロットが俺に頼み込んできた。
「僕も、作戦メンバーにいれてくれないかな? 僕の予想なんだけど、篠ノ之博士が作った機体、かなり燃費が悪そうなんだ。VOBも片道だけのブースター。なら、僕も行って、万が一撤退する時、みんなの支援にまわりたいんだ」
「んで、実際の本音は?」
「一夏を守りたい。もう、僕だって守られるだけの関係は嫌なんだ。一夏が僕に背中を安心して預けてもらえるようになりたいんだ」
「…………[ガーデン・カーテン]が届いていたはずだ。アクアビットの外部インストーラーを使っていれておけ」
「ありがとう」
全く…………人っていうのは凄いよ。愛の力があればなんでもやろうとするんだから。
「今作戦の要員は、織斑、有澤、篠ノ之とーー」
「シャルロットも連れて行く。万が一の保険として随伴許可を」
「分かった。作戦要員は以上の四名だ。なお、その他は各自待機、今後に備えておけ」
千冬さんの言葉に全員が頷く。俺たちは、戦闘用意を始める。作戦開始まで残り30分。
ブリーフィングが終わり、浜でオツダルやベルリオーズにVOBの接続を手伝ってもらっている時だった。
「…………なんでこんなところにいるんだよ、
兎が明らかな不機嫌さを持って、俺たちに話しかけてきた。
「逆にこっちこそ聞きたいね。なんでてめえがここにいるんだよ、人間失格者」
売られた喧嘩は買うしかない。俺はそう吐き捨てる。
「そう言えば、君が箒ちゃんの恋人なんだって?」
「それが、どうした?」
「ーー箒ちゃんに、手出してんじゃねえよ、ゴミ虫風情が。お前には、死がお似合いだよ」
「へっ、箒が自分で決めた事をお前が拒否するとな? 愚図だな、あの
「…………黙れよ、お前らなんか、また地の底に落としてやるからな」
そう言って、兎は何処かへ行った。とうとう、自白しやがったな。八年前、有澤重工以外の企業を経済の底辺へと陥れた事をな。
「リュウ…………」
「すまん、VOBを引き続き頼む」
いつか、報復してやんよ。たくさんの恨みを込めてな‼
時刻は11:30。作戦開始時刻となった。海岸にはそれぞれの機体を展開した作戦メンバーが集まっている。
「箒、こいつを。いざとなったら、強制展開しろ」
「ああ、確かに受け取った」
出撃前に箒へヴァイスハイトを返す。これなら、何が起きても問題はねえだろ。
『皆さん、聞こえますか』
「おう」
「もちろんだ」
「音声良好」
「聞こえるよ」
『今回の作戦のオペレーターは、私フィオナ・イェルネフェルトが務めます。それでは、まず白式と紅椿が先行してください』
「「了解」」
紅椿の肩に掴まり、出撃する白式。どうやらこれで斬るか、失敗したら増援を出すというプランになった。確かに搭乗者の保護が優先されればそうなるわな。
『白式、初撃を外しました。プランBへ移行、榴雷及びリヴァイヴは出撃してください』
「アンカーに捕まったな?」
「うん。いつでも行けるよ」
「よし、それじゃーーVOB、起動」
シャルロットをVOBの背に乗せ、榴雷は時速3000を突破する。ちなみにこのVOB、シャルロットが片道だけと言ったが量子変換すりゃ問題ねえんだよ。
「あと二十秒で福音と接敵するぞ‼ 離脱タイミングを見誤るなよ‼」
「わかった‼」
よし、福音が見えてきたぞ。そろそろだな。
「シャルロット、離脱だ‼」
「了解‼」
VOBを量子変換、そのまま背部装甲の中に格納されていた、メインブースターが顔を出す。レイレナードのブースターだから、信頼性は高い。両腕と両肩にシールドを展開、そのまま福音へと突っ込む。
「くっ、速いぞ、こいつ‼ なかなか斬れねえ‼」
「一夏、私が抑えるから、その隙に斬れ‼」
福音と一夏と箒は、すでに交戦していたが、有効打は与えられていない。両機のエネルギー残量はともに60%。あまり長くはしていられない。こちらも支援砲撃をしたいが、弾道がそれて気化爆弾に当たるかもしれない。支援できた俺もシャルロットも手の出し用がなかった。
福音はその翼を開く。そこから覗くは、全三十六もの砲門。そして、放たれる光弾の雨。それによって、一夏がなかなか突撃できていない。箒も箒で頑張っているが、この光弾の雨を掻い潜って行くのは難しそうだ。最も、俺に至ってはプライマルアーマーで耐えるしかない。
ーープライマルアーマー、117mmまで低下。
さらに相性の悪いEN兵器に減衰性能型ーー突き刺さってから爆発とは、徹甲榴弾としか言いようがない。
「龍之介、僕達はどうすれば…………‼」
「どうしょうもねえよ‼ 俺は、補給用のエネルギーパックを持ってきたから、補給艦がわりになるだろうが、お前は一夏の盾になるしかないようだな」
そんな感じで、焦燥感に駆り立てられていた時だった。
『龍之介さん‼ 非常事態です‼ き、気化爆弾が起爆シークエンスに入りました‼』
「フィオナ、冗談はよせ」
『冗談抜きです‼ 起爆までの時間は後三分ですが、余裕はありません‼ 至急、除去してください‼』
「畜生‼」
最悪の事態だ。爆弾が起爆シークエンスに入っただと⁉ なんでだよ、搭乗者の意思はないはずだ。なのに、なんで起爆信号が送られたんだよ⁉
「龍之介、今のは本当なのか⁉」
「一夏、一旦福音から距離を取れ。それとシャルロットの裏へ行け、勿論箒もな」
俺はそう言うと、左手にシザーアンカーランチャーを展開、福音へ撃ち込む。リニアレールにより音速を越えたアンカーが、福音へと迫る。福音はそれを回避しようとしたが、ネクストのようなQBがあるわけでもなく、左脚に食らいついた。アンカーのワイヤーを巻き取りながら、俺は福音へ接敵する。
「暴れんじゃねえよ‼ 少しじっとしてろ‼」
だが、俺が取り付こうとすると福音は、腕を振ったり、体を大きく捻るなどして、俺を振りほどこうとする。くそっ、あと少しで気化爆弾に手が伸びるのに‼
ーー気化爆弾、起爆まで二分
福音を拘束しようとしている間に一分経っちまったぞ‼
アンカーランチャーをパージ、空いた左手で、福音の首を締めるように押さえつける。すると福音は、少しだが動きが止まった。
(今しかねえ‼ すぐ外してやるからな‼)
右手を無理矢理、爆弾と本体の接続部にねじ込む。そして、機体のパワー任せで、引きちぎった。
ーー起爆まで一分三十秒
「どぉうりゃぁぁぁぁぁぁぁ‼」
起爆まで時間のある爆弾を思いっきりぶん投げる。爆弾は放物線を描いて、海面へと落ちる。勢い良く落ちてしまったそれは、
ーー強烈な爆風と、膨大な熱量をそこら中一体に撒き散らした。
海面は爆発の衝撃で激しく波打ち、熱によって水蒸気と化す。勿論、俺たちにも爆風と熱量は行き届いていた。幸いにも、シャルロットのガーデン・カーテンによって、一夏と箒は事な気を得た。シャルロットは、ガーデン・カーテンの物理シールドが一枚溶解しかけただけですんだ。
だが、俺の損失は酷い。福音が俺を無理矢理振りほどいたため、爆心地の近くまで吹き飛ばされ、爆風と熱量をもろに受けてしまった。プライマルアーマーは完全消滅、シールド残量は5400から1200まで一気に低下、装甲の表面も溶解、もしくは亀裂がはしった。シールドエネルギーがここまで減ったのは、熱から俺を守るために絶対防御が発動したからだろう。現に俺自身に怪我は一つも無い。
「箒、一夏と共に福音へ肉薄しろ‼ シャルロットはその援護‼ 俺もすぐに合流する‼」
俺がそう怒鳴り散らすと、あいつらはすぐに行動を開始する。さて、俺も援護に回るとするか。
両手にガトリングを展開、そして一夏達の元へ向かった。
「援護するぞ、一夏‼」
一夏から離れようとしていた福音へガトリングを垂れ流す。弾切れなんぞ考えねえ。
「うおぉぉぉぉ‼」
一夏が福音へと斬りかかるが、紙一重で回避される。そこへ、箒が二振りの刀で斬り抑える。さらに、シャルロットのアサルトカノン、俺のガトリングで迫撃される。
だが、福音も黙っている訳がなく、範囲攻撃を何度も繰り返す。少しずつだが、確実に俺たちにはダメージが蓄積されて行く。俺は箒の盾になっているから、さらにダメージは大きい。プライマルアーマーも再展開できていない。シールドは確実に削られている。
「龍之介‼ 無理だ、もうやめろ‼ お前が持たないぞ‼」
「それだけは無理だ。悪いけど、ここをよけたらダメージがお前に通るからな」
一夏が何度目になるかわからない突撃をした時だった。シャルロットが海面へと向かった。何があったんだよ⁉
シャルロットが向かった先、そこには一隻の漁船。国籍は日本。多分教師部隊が海上封鎖する前にこの海域に入ったものと見える。どうやら、難破したようだ。シャルロットは、エネルギーシールドと残った物理シールドを展開し、漁船へと向かっていた光弾を防ぐ。
「シャル‼」
「僕は大丈夫‼ だから、一夏は福音を‼」
「…………わかった」
福音は、その手にドラムマガジンと短いバルカンが組み合わさった兵装を取り出す。[M134L]レーザーガトリング。それを、一夏へと撃つが、一夏は躱す。
だが、それがまずかった。一夏が避けた射線上にはシャルロットと漁船がいた。シャルロットは回避しようとせず、無数のレーザーをシールドで受ける。
「きゃあぁぁぁっ‼」
俺のステータスには、リヴァイヴのガーデン・カーテンの耐久値が低下しているのがわかった。もう、機体諸共耐えられるかどうか。
『範囲攻撃、最大火力で実行。[
やばい‼ そう直感で感じた俺は、シャルロットの前へ行くためにオーバード・ブーストを起動する。僅かに展開されていたプライマルアーマーのお陰でできたが、距離が遠すぎた。
「シャルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‼」
そして、光弾が放たれる直前、一夏がシャルロットの前へせり出た。そして、彼女を優しく抱きしめる。
「一夏、今すぐそこから離脱しろ‼」
だが、俺の言葉通りに一夏が動いたその瞬間、一夏の背中に光弾が降り注いだ。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
響き渡る断末魔、俺は光弾が放たれて少し経った時、一夏達の前に立ち塞がったが、時すでに遅し。白式のアーマーは大破。一夏も重傷を負っているバイタルサインが送られてきた。…………畜生、仲間を俺は、守る事ができなかった。
すぐさま二人と福音の間に入り、両腕に榴雷専用の実体シールドを展開、構えた。
「箒‼ 今すぐ二人を連れて離脱しろ‼ ヴァイスハイトを使え‼ すぐに戻れるはずだ‼」
「し、しかし、龍之介がーー」
「俺の事はいい‼ それよりも二人を頼む‼ 俺は後で必ず戻るからな‼」
「…………」
箒にそう言うと、黙り込んだ。そして俺にこう言った。
「…………約束だからな、破るなよ」
「ーーわかった」
そう言い残して、箒はヴァイスハイトを強制展開。二人を抱えて旅館の方へ戻った。それでいいんだ、それで。
一方俺のシールドも限界がきたようだ。所々が欠け、穴が空き、亀裂がはしっている。そこから何発かが着弾し、シールドは砕け散った。シールドが無くなり、視界が広がった先にはーー天使がいた。
だが、それは天使と呼ぶにはいささか禍々しく、そして暴力的な、『堕天使』であった。
羽が四枚に増え、彼方此方に黒いラインが引かれた福音。その翼をゆっくりと広げーー光弾を放った。その光弾はまさに銀。視界が埋め尽くされ、装甲が破壊されて行く。
頭部、胸部、肩部、腕部、脚部。ありとあらゆるところの弱り切った装甲から破壊されていった。シールドエネルギーはすでに200を切っている。肉体の方へもダメージが通り始めた。
それでも、福音の攻撃が止む様子は無い。弾幕の嵐の中、左腕と右脚が吹き飛ぶ感覚がやってきたが、それ以外も悲鳴をあげ始めた。
そんな時だった、不意に弾幕の嵐が止んだ。そして、目を開けた時、俺は息を飲んだ。目の前に福音が至近距離でいたなら、尚更だ。
『ーーーー』
無機質なバイザーからは何も伝わってこない。その時間が何秒と何分と、長く感じられた。そして
腹部に突き刺さるような感覚を感じた。
「か、っ、あがっ、はぅ、っ…………⁉」
意を決して、衝撃のきた部分を見る。そこには、俺の腹ーー多分、肝臓のあたりーーに突き刺さる福音の手があった。
福音はその手を抜き取る。それと共に俺の体に入っていた力が抜け、海面へと落ちて行く。そんな中でも福音を俺は見ていた、ーー銀の装甲に黒いラインが引かれていく様子を。
海面へと落ちた衝撃と、止まらない出血のせいなのかはわからないが、気がどんどん遠くなって行く。そして、何か地面に落ちた感覚を感じた。
『箒、約束無理だったみたいだ』
そう、