インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
夏も真っ盛りの八月。俺はある住宅街に来ていた。というか、結構来た覚えがあるようなないような。
「にしても、なんで俺を連れて来たんだ、一夏」
「ああ、ちょっとな。お前に合わせたい人達がいるんだ。丁度お前と入れ違いに隣に引っ越してきた、お隣さん」
ふーん、と軽く流して歩く。今回は一夏の案内でこっちに来ている。それにしても街中は暑い。企業連は北海道だからここよりはまだ少し涼しいはずだ。
そして、なにより暑くしている原因は
「なんで、こんなに有澤みかん必要なんだよ」
俺が今持っている有澤みかんが入った箱。有澤みかんは実の大きさがOGOTOのグレネードサイズ(直径15cm)という桁外れ。だが、味はものすごく甘く、それでいて果物特有の爽快感がその甘さを消す、という果物なのだ。ただ、皮が少々硬い。
それを丸々段ボール二個分くれと一夏が、この間の企業連見学会の時に言ってきたんだ。親父に話したら、二箱どころか四箱に増やされてしまった。
両腕で持とうにも前が見えないため、義手に負担がかかるが、箱は四箱纏めて左腕で持っている。
そりゃ、俺だって榴雷の中に量子変換していれてやろうと思ったけどさ、思い出してみれば炸薬火薬爆薬コジマ満載の拡張領域にいれるとした時よりはマシだろうなって考えたんだよ。なに? アイテムボックスを使えって? その手があったか…………
「まあまあ、それだけあるとあいつらも喜ぶと思うからさ。あ、俺も一個持つよ」
「お、そうか。それじゃ、頼むわ」
俺は箱を一個おろして一夏に持たせた。一夏は持った瞬間、「これがみかんの重さなのか⁉ あり得ねえ、あり得ねえよ‼」とか「なんだよこのみかん…………重さが半端じゃねえよ」とかと、ネタにまみれたセリフを言っていた。
「つーか、そのお隣さん家まだかよ。自分で言うのもなんだが、下駄の音がうるさくてかなわん」
〔いや、どう考えてもあっくんの自業自得…………〕
「ちょ〜っと黙ろうかい、ルリアちゃ〜ん?」
〔はい…………〕
俺の愚痴に反応したルリアを封殺する。頼む、みかんの箱を運ぶのかなり集中してるから。というか、ルリアと会話したにもかかわらず、一夏は全く気づいていない。鈍感というより、アホなようだ。
「着いたぞ。ここがそうだ」
一夏が止まったところにあったのは、ごく一般の家庭。普通の家だった。
「へぇー、ここか。なんか俺の想像とちょっと違ったな」
「へ? どういう事だよ?」
「なんか、神社兼道場とか中華料理店とか定食屋とかそんな感じの類だと思っていた」
「…………俺の幼馴染達の実家かよ」
「まぁ、その事はいいか。早いとこ上がらせてもらおうぜ。みかんが腐るかもしれん」
「そいつはまずいな。ちょっと呼び出して見るよ」
そう言うなり一夏はインターホンを鳴らす。すると中から出てきたのは
「はーい、どちら様ーーって、一夏だ‼」
「よっ、久しぶりだなミク」
青緑色のツインテール少女が出迎えてくれた。って、もろに見覚えがあるぞ、おい。
「あれ? その後ろの方は誰なの?」
「俺か? 俺は有澤龍之介。一夏とは古くからの付き合いだ。ついでに、知ってると思うがIS操縦者な」
「僕は初音ミクって言います。一夏とは八年くらい前に知り合っています。龍之介さんの事はテレビで見ましたよ、少し」
八年前ねぇ…………嫌な思い出しかねえな。血と鉄と肉片のスプラッタ地獄が…………
「? 龍之介、どうした? 頭抱えて」
「いや…………血に濡れた記憶が逆流してきた」
まぁ、そんな事は放っておいていいんだ。今はこっちだ、現実。目の前にいる少女の名は初音ミク。青緑色のツインテール。服装は何処かの制服。
…………なんでだか知らんが、俺の前世にあったもんを持ってこようとしてんじゃねえよ、あの神‼ 未だに企業連でレギア・フィオナ夫妻と遊んでいるホワイトグリン子にせよ、この間一夏の肩に乗っていたホログラムの七瀬歩とか、榴雷のコア人格の霧島ルリアとか俺の前世の記憶情報満載じゃねえかよ。
いや待て。前世の記憶が正けりゃ、初音ミクの他にも何人かいる…………よな?
「とにかく、一夏と龍之介さんも上がっていって。あまりいいおもてなしはできないけど」
「おう、そうか。んじゃ、お言葉に甘えて、と」
俺はミクに言われた通りに、上がらせてもらった。てか、みかんどうしようか。
「これって、どうしたらいいんだ?」
俺はミクに聞いて見た。するとミクは段ボールの山を見て、驚いていた。
「え、えーと、その辺でいいですよ? 気になさらないでください、龍之介さん」
うーむ、やはり初対面だから緊張しちゃってるか。俺としてはもっとフレンドリーにいっても構わないんだが。何処か余所余所しいんだよ。
「そうか。あとさん付も丁寧語もやめ。もっと、こう砕けた感じにいってもいいんだぜ」
「そ、そうですか?」
「おう。人間、自由に生きて、自分を出していくのも大切だからな」
「それじゃ、僕も自然にいくね」
ミクはそう言うと少しはにかんだ。結構、いい笑顔を出せるんだなこいつ、とかと思った。
「おーい、ルカ姉達はどうした?」
「ルカ姉? それならさっきレンとリンを連れて買い物に行ったよ」
ん? 待て待て待て。今の会話の中にいろいろ引っかかるものがあったぞ。ルカにレンにリン? どう考えても思い当たる節が一つしかねえ。
「というか、ものがあんまりねえな。何が一体?」
素朴な疑問だ。俺がこの家にお邪魔してから少し経つが、あまり家具を見かけない。テレビとかタンスとか生活の必需品はあるんだが、その他のインテリアがあんまり見受けられん。何故だ?
「そ、それはね…………」
それを聞いたミクが言い淀んでる。つまりは
「おっと、すまない。この話題はタブーのようだな。おい、一夏」
「どうした?」
「左腕の付け根付近のロックボルトが少し緩み始めたから、締めてくれねえ? ドライバーあるからさー」
「おう。ってか、ここでやるのかよ? 下手したら、ミクが失神するんじゃね?」
「それもそうだな。んじゃ、あとで頼むわ」
タブーの話題から一気に話題をそらす。無理やりロックボルトのネタを持ち出して、ミクの気を引かせた。これでお通夜ムードは回避だぜ。まぁ、実際緩み始めているしな。
「ボルト…………?」
ミクが何やらこちらの方に興味を持ってくれたので話題をそらす事はできた。てか、人の体の話をしてボルトなんぞネタに出てこないからな。
「まぁ、龍之介の体は少し特殊だからな」
そう言って、一夏は俺の隣に座った。おいコラ、人を人間じゃないような言い方をしてんじゃねえ。
「ただいまー」
「お、ルカ姉達帰ってきたみたいじゃないか?」
「そうみたい。ちょっと迎えに行ってくるね」
ミクはそう言って玄関へと向かった。あと一夏、お前に俺の心の内がどんなに焦り始めているか知らないもんな。だから、そんな感じに余裕こいていられるんだ。俺は前世の記憶とリンクしたら発狂するかもしれねえ。その時は頼むぜ。
「お帰り、ルカ姉。あとレンとリンも」
「やっぱり生き返るわ〜。外は何なの? 天然サウナ?」
「ちょ、ミク姉⁉ 俺たちはおまけ扱い⁉」
「あれ、誰か来ているの?」
おーまいがー。明らかに聞いた覚えのある声です。はい、リンクしましたね、わかります。
しばらくして俺の視界に、ピンク色の髪の女性に金髪の双子が入った。
「お、誰かと思ったら一兄と…………誰?」
若干ツンツンヘアー(?)の双子の片割れが俺たちを指して言う。一夏は古くから付き合いもあるし、ニュースでも流れているからそりゃわかるだろうよ。でも、俺だって一応ニュースで流れたぜ、五月くらいに。そこまで知名度ないのかよ、と思いながらうな垂れた。
「とりあえず、ルカ姉達もこっちに座って。紹介するから」
ミクがルカ姉と呼ばれた人をソファに座らせる。
「あの、一夏の隣に座っている人は龍之介。一夏と同じ男性操縦者だよ」
「何処かで見たと思ったら、なるほど。あ、私は巡音ルカ。ルカと呼んでくれて構わない。この家の大黒柱? みたいなものだよ」
「え、えーと、俺は鏡音レン、です。呼び方はレンでいいです。そんでもって、こっちが」
「鏡音リンです。リンと呼んでくださいね、龍之介さん」
「さっきミクに紹介された有澤龍之介だ。まぁ、気軽に接してくれるとありがたい」
軽く一礼する。人との交流に礼儀は大切だ、と親父が言っていたからな。この辺は守り通している習慣だ。
「あ、龍之介。あの段ボール持って来て」
「何箱?」
「一箱で充分だ」
三十秒後…………
「持ってきたぞ」
雷電マークの描かれた段ボールを一つ担いできた。あ、やばい。義手のボルトがピンピン言い出した。
「おう、サンキュ。まぁ、手土産みたいなもんだ。ぜひ受け取ってくれよ」
「え? 中は何なの、一兄?」
リンが一夏に言う。目を子供のように光らせて(実質、子供なんだが)いるあたり、相当気になっているようだ。
「まぁ落ち着けって。ほら、開けてみな」
その言葉を聞いてすぐにリンは箱を開ける。
「わぁ、みかんたくさん‼」
「どうだ? 嬉しいか?」
「うん‼」
大量のみかんにリンは喜んだようだ。その無垢な笑顔に、持ってきて良かったなと自然に思わせられる。
「え、ちょ、マジ⁉ こ、これって、有澤みかん⁉」
「ええ⁉ あの高級みかんのあれ⁉」
「な、なんでこんなにいっぱいあるの⁉ 一夏、無茶してないよね⁉」
そりゃ驚くよな。有澤みかん、一個あたり千円弱するときもある代物だからな。それが段ボール満載、さらに三箱ある。
「いやぁ、俺の知り合いにみかん農家の人がいるからさ。俺はどのみち食わんし、持ってきたんだ」
「言っておくけど、龍之介、あと三箱おまけで持ってきたからな」
「「「「えぇぇぇぇぇ⁉」」」」
音家、大絶叫。びっくりしすぎだろって。
「確か、有澤みかんって栄養価高いよね? だったら今月の食費、浮くんじゃない?」
「おお‼ それ名案‼」
ルカの一言にミクが納得する。いやいや、有澤みかんビタミン豊富だけどタンパク質とかないからな。
「ねえ、折角一兄と龍之介さんがきてくれた事なんだから、IS学園の事聞いてみない?」
手にみかんを持ったリンがそう言ってきた。何故か知らんが、テンションが高いのか頭につけたリボンがピンと立っている。
「それいいな。一兄に聞きたい事あったし」
「何だ、言ってみろよレン」
一夏は余裕の表情で出されていたお茶を口に含む。
「一兄さぁ、彼女とかできた?」
「ぶふぅぉっ‼」
「あぶねー、いきなり吹く奴がどこにいるアホ」
レンの爆弾発言による、ガチの爆撃で一夏が吹いた。しかも俺に向かって。間一髪で榴雷の左腕ごとシールドを展開したから無事だったがな。
「れ、レン⁉ おまっ、いきなりなに言い出すんだよ⁉」
「あ、私も気になる」
「私も知りたいな」
「僕も聞きたいよ」
「リン⁉ それにルカ姉とミクまで…………」
「一夏、腹くくって言ったらいいんじゃね?」
「龍之介、お前もか…………仕方ねえ。そうだよ、俺、彼女できたよ」
「「「「マジでぇぇぇぇぇ⁉」」」」
再び音家、大絶叫。すごいな一夏、お前に彼女できたと言っただけで、音響兵器が作れるぞ。
「…………世紀末だよ」
「何だか楽しくて短い人生だった」
「…………俺、絶対一兄だけには彼女できないと思っていたのに」
「核融合炉に飛び込んだら、真っ青な光に包まれて消えるかな?」
「「「リン、それはやめろ」」」
うわぁ、どこでも色恋沙汰に関して一夏は唐変木野郎だったのな。改めて知ったぜ。
「そ、それで、相手は?」
「ん? フランスの代表候補生。シャルって言うんだ」
「アウトぉぉぉぉぉ‼」
レンのシャウトは榴雷の絶対防御が発動しかけるもののレベルだった。
「それでさ、シャルって結構世話焼きなんだよ。この間もーー」
「一兄、ストーップ‼ この話題やめ‼」
レンがそう叫んだのにも意味がある。女性陣たちは皆一様に砂糖を吹き出しかけている。一夏、お前の惚気は文で表せないレベルまで進んだのか。
ちなみに、このカオスは十分程続いた。
カオスから立ち直った皆さん。何とか生きているようだ。
「よし、じゃあ気を取り直して、龍之介さん」
「なんだ?」
「専用機って、見せてもらえますか?」
「なんだ、そんな事か。いいぞ」
「ですよねー、やっぱ無理…………って、いいんですか⁉」
「ああ。左腕だけだがな。ほらよ」
俺は左腕だけ榴雷を展開する。無論重火器の類は一切持ち出していない。と言う事で問題ない。しっかし、相変わらず黒光りする装甲だ。コーティングなんてした事ねえぞ。
「おお‼ すげえ、かっけえ‼」
レン、大はしゃぎ。そんなにはしゃぎたくなるもんなのか?
「それは、最近のISってなんかロマンがないじゃないですか」
レン、お前有澤重工に勤めろ。向いていそうな企業だ。
「そうなのかねえ」
すぐに榴雷を解除する。
「それじゃ俺からも質問するぜ」
「あ、どうぞ」
「みんな、どこの学校に通っているんだ?」
「
「紡歌露衣戸音楽学校って、音楽スキルのすごいあの私立校か?」
「多分、すごいんじゃね? 俺はギターしかやらないからよくわからないけど」
「でも、歌はみんな得意だよね」
「確かに」
あれ? なんか途中でいろいろ引っかかったぞ。まず、運営財団がクリプトンの時点で引っかかる。その次、学校名にボーカロイドと入ってる。そして、ラスト。みんなの年齢がおよそ設定通り。簡潔にまとめると、
(本当に予測が不可能だな、この世界は‼)
となる。その後、雑談をいろいろと楽しんだ。どんな音楽が好きだとか、どんな職業に就きたいとか、夢とか現実とかいろいろネタはあった。
楽しい時間は颯爽と過ぎ去り、今は夕暮れ。念のため外泊届けを出してきたがここまでになるとは想像していなかった。
「ねえ一夏、龍之介さん。今日の夜ご飯一緒に食べていかない?」
ルカがそんな事を言い出した。
「いやいや、別にいいですよ。突然お邪魔したのに、そんな」
「いいの、いいの。こうやって出会ったのにも何か縁があると思うし」
むぅ…………そう言われると弱い。人情熱い有澤の血がその言葉に反応する。
「る、ルカ姉⁉ 一兄達と飯食うのはいいけどさ、さっき缶詰しか買ってこなかったぞ⁉」
「あ…………忘れてた」
…………ド天然家族か、おい。しゃあない、材料くらいなら手配してやるか。俺はケータイからある奴を呼び出した。
「おい、ベルリオーズ。通じてるか?」
『ああ、聞こえるぜ。どうした?』
「お前今どこにいる?」
『マーシャル諸島近海だ。丁度カジキが七匹あがったぜ』
「ちなみに種類は?」
『
「よし、メカジキを丸ごと持ってこい。今すぐ」
『お安い御用。それで、配送先は?』
「この座標にメカジキをアイテムボックスに入れて落としてくれ。頼むぞ」
『任せろ。五分以内に届けてやるよ』
まずは一件。次は
「おう、オツダル? 聞こえるか?」
『ああ。どうした、いきなり』
「俺の料理用アイテムボックスを持ってきてくれ。すぐだ、今すぐ」
『別に構わない。落下予定地点の座標を教えろ』
「ここだ。マーカーを出しておいたからな」
『了解。ステイシス、オッツダルヴァ、配達する‼』
これで全件完了。マーシャル諸島近海からでも新鮮な魚を届ける、それがベルリオーズクオリティ。てか、あいつ暇つぶしがてらにカジキ釣りに更けていたか。釣り好きだよな、あいつ。
てかオツダルもオツダルだわ。何のためらいもなく取り出して来たし。あいつ、今日なにしていたんだ? 朝、姿を見かけていなかったが。
「あれ? 龍之介、どこに電話していたんだ?」
「ん? 食材の配達を頼んだ。そのうちくるんじゃね?」
「いや、それどこの企業?」
五分後ーー
「お、上物だな、このメカジキ」
小型アイテムボックスに入って、俺の注文の品が届いた。ん? なんか貼ってある。『請求金額、五千円』…………金取るんかい‼ ベルリオーズ、ちゃっかりして来たなぁ。
「うーす、みんな食材なら問題ないぜ。ほら見てみ」
俺はメカジキを手に持って見せる。てか小ぶりな奴(全長1.2m)送ってきたなあいつ。ケチりやがって。どうせ大物は静寐にでも見せんだろ、きっと。まあ、小ぶりな方が捌きやすいからいいか。
「「「「え?」」」」
「あぁ、ベルリオーズが釣ってきたんだ」
「流石に慣れたか、一夏よ」
「お前と生活してりゃ、危機感とか驚きが無くなるぜ」
一夏以外は、目を見開いて驚いていた。まぁ、そうだよな。普通カジキをこんな形で見えねし。
「んじゃ、ルカさん。ちょっと手伝ってもらえます?」
「あ、は、はい‼」
ルカにちょっと手伝いを頼む。そりゃ、一人で調理すんの大変だし。
「それじゃ、まずこの土鍋に水張ってて下さい」
「あ、はい」
おもむろにアイテムボックスより土鍋を取り出す。無論カセットコンロもな。あとは、出刃包丁と野菜を適当に出せばよし。
「次に、野菜を切っといてください。なるべく一口くらいに」
ネギ、白菜、大根…………ものの見事に冬野菜じゃねーか。ま、ええわ。
俺は俺で、できる限り血が飛び散らないように、アイテムボックスのフィールドを張って捌いている。それにしても、やりづれえ…………。
「にしても、なんかすいません。ご両親が帰ってくる前には、お暇します」
「いいわよ、別に。どうせ、両親いないから」
俺の何気無い一言が起爆剤となり、ルカの口から重い言葉が出てきた。
「少し重くなるけど、話、聞いてくれる?」
「え、ええ。どうぞ」
「ありがと。本当はさ、もともといたんだけど、六年前に失踪しちゃって。その後で聞いたら、今立ち入り禁止になっているところに出かけていたときに、事故死しちったらしいの。それからはずっと四人で力を合わせて生きてきたんだけど、どうしてもお金がね…………」
ルカは何とか笑おうとしているが、俺は反対に遣る瀬無さを感じている。六年前、俺はミサイルの迎撃をした。だが、白騎士事件ではたった一発のIRBMを撃ち漏らしてしまった。それも、民家区域に。そのとき、ルカ達の両親も死んでしまった。そう思わずにはいられなかった。
「龍之介さん?」
ルカが怪訝そうに顔を覗き込んでくる。おっと、まずいまずい。時化たツラ見せてしまったようだ。
「何でもないっすよ。それよりも、定額給付金制度受けて見ます?」
「え? それって、国の援助の?」
「企業です、俺の知り合いが始めたらしいんで、その一号に」
これ真っ赤な嘘。知り合いじゃねーし、俺の親父だし。突然、『金が余ったから、苦しい生活の人々に給付しようぜ』といい出したからな。
「でも、悪いわ。そんな」
「だいじょーぶ、大丈夫。むしろ、いなくてイライラしてる感じらしいんで。金は天下の回りものですから」
俺はそう言って営業スマイル(恐ろしく自信がない)をする。すると、少し硬かったように感じられたルカの表情が柔らかくなったような感じがした。
「そこまで言うんなら、受けてみようかな…………生活の足しにはなると思うし」
受ける方に決断を下した。やはり、大切な家族のためになんだろうな。
「わかりました。じゃ、後で電話するように頼んでおきますので」
「はい。よろしくお願いします」
そうこう話をしているうちに、鍋が出来上がった。海鮮系の出汁をベースに醤油味に仕立てた『カジキの寄せ鍋』だ。ん? 季節感ガン無視だなって? いいか、夏の夜って意外と冷えるんだぜ。
「おらおら、飯ができたぜ。口に合うといいがな」
「「「いただきまーす」」」
鍋を出した瞬間、一斉に箸でつつき始めた。…………そんなに楽しみだったのか?
「うめえ‼ この魚が特にうまい‼」
「野菜も、味が染みてて美味しい‼」
「風味がいいよね、風味が」
ミク達はとても気に入ってくれたようだ。ちょっと不安があったけど、こうして喜んでもらえると、こっちも嬉しくなってくる。
「ルカ、一夏、鍋の方は頼んだぜ」
「龍之介はどうすんだ?」
「もう一品作ってくるぜ」
俺はキッチンの方へ戻り、アイテムボックスより酢飯を取り出す。あとは、昆布で軽くカジキの切り身をしめる。程よくしめたら刺身にしていく。後は酢飯と握って…………はい、完成。メカジキの昆布締め鮨だ。流石に鍋物だけで腹一杯になるかわからんからな。一応六十貫作ったが…………
「ほーい、鮨だ。カジキしかないけどな」
「「「「すごっ‼」」」」
「龍之介、お前料理人に転職しろ」
はっはー、一夏それだけは無理だ。俺、有澤重工の後継者らしいから。
「それにしても、なんかありがとうございます」
ルカが唐突にそう言い出した。
「ん? 何が?」
「いや、この夜ご飯の材料の手配してくれたんでしょ? その上、料理までさせてしまってーー」
「いいの、いいの。俺がしたくてしただけなんだから、寧ろ頼みを聞き入れてくれただけで十分です。礼はこっちが言いたいですよ」
「それでも、私達の家族にこんな賑やかさを持ってきてくれた事に感謝したいですよ」
ルカの視線の先。そこには無邪気に料理を楽しんでいるミク達とそれを盛り上げようとしている一夏の姿があった。だが、これでいいのか? ミク達は楽しんでいるが、ルカはどうなんだろう? そう思った俺は、
「とりあえず、ルカも食ってくれ。新鮮なうちにな」
皿に鮨を二貫ほどとってあげた。ルカはそれを口へ運ぶ。
「美味しい‼ もっと食べてもいいかな?」
「もちろんさ」
満面の笑みと共に、この家族が持つ最高の笑顔、それが見れたと思う。
こうして、俺と一夏は夜八時くらいまで居させてもらった。
「それじゃ、俺らはこれにてお暇しますわ」
「また、来てくださいね、一夏に龍之介さん」
かなり楽しかったもんな今日は。その分、別れのときは辛いんだよな。リンに至っては、頭のリボンがしおれている。あれ、どういう仕組みなんだろ? 箒のポニーテールみたいな奴?
そんな事を考えていたら、急に何かに抱きつかれた。よく見りゃ、視界にリボン。理解した。
「リン…………」
「龍之介さん…………次はいつ会える?」
寂しいんだろうか。まあ、会いにくる事なんて何時でもできるもんな、その気になりゃ。
「何時になるかはわかんねえけど、また会えるさ。今度遊びに来たとき、歌聴かせてくれよ?」
「うん‼」
「龍之介、そろそろやべえ。千冬姉の折檻食らうぞ‼」
「マジか‼ それじゃ、そのうち来ますんで」
「ルカ姉達も元気でな」
そうとだけ言って足早に走り、学園を目指した。現在時刻は八時十五分。モノレールの最終便まで30分ーー
結果としては間に合わなかったんで、榴雷と白牙を展開して飛んで行ったら、千冬さんに口頭注意されたのは不幸中の幸いだろう、きっと。
数日後ーー
「あ、どうも。わが有澤重工の生活保護を受けてくれて感謝します」
『あれ? その声、龍之介さん?』
「あり、もうばれたんかい‼ 早かったなー」
『って、何で龍之介さんが有澤重工なんてところにいるんですか⁉』
「え? だって、俺の実家だし。あれだけみかん送れるの、会社内部の人間だけだし」
『う、うそ⁉ え、次期社長⁉ こ、この間は、無礼を失礼しました‼』
「はーい、パニックにならない。って事で、金送っとくから」
まぁ、もう送ったんだけどな。諭吉が厚さ二センチ。親父曰く、これからも増やしていくそうだ。
しっかし、ルカめちゃくちゃ驚いていたな。あまりのテンパりぶりに笑ってしまいそうだったわ。でも、これで少しは生活の足しにはなると思う。別に罪滅ぼしなんざ、考えていねえ。ただ、救えなかった命の代わり、その家族にはその人の分まで幸せになってもらいたいからな。
そのまた後日、一枚のCDが送られ来た。送り主は、初音ミク。俺はその中にあったデータを榴雷に転送した。こいつで、少しは模擬戦に面白みが追加されるかな?