インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第二十八話 祭りという物は何が起こるかわからない

八月の中旬。俺は懐かしい場所にきていた。

 

篠ノ之神社。

 

ここにくるのは八年ぶりーー御所河原組惨殺事件以来だ。本当に久しぶり、脳裏には汗水流して剣道に打ち込む一夏、箒、千冬さん。片方では薙刀を振るう俺。今思えばとてもいい思い出だ。この神社兼道場は俺にとっていい思い出をくれた、大切な場所だ。

そして、何故俺がここにいるかと言うと

 

「龍ちゃーん、そこの道具持ってきて」

「いーす、雪子叔母さん」

 

今日は篠ノ之神社の夏祭り。その準備として箒に連れてこられた訳だ。この神社を管理しているのは、雪子叔母さん。八年前から変わらぬ美しさを保っているのが凄い。お袋が見たらさぞ羨むだろうな。同い年らしいから…………。

 

「悪いな、坊主。この櫓を組み立てるのを手伝わせちまってな」

「別にいいっすよ、ここは俺にとっても懐かしい場所ですんで」

 

この祭りの準備には地元の人が総出で行う。櫓を組み立てているのは、剣道場を開いているお巡りさんやし、露店なんかもこの辺りの人がしている。

 

「しっかし、この鋼材大丈夫なのか? 有澤鉄鋼を使った方がいいんじゃ…………」

「ここで企業連の商売をするな、龍之介」

 

俺のどうでもいい呟きに、ちょうど外へ出てきた箒が反応した。箒の私服は、黒系の色が中心だ。だがな、そのニーソとスカートの間にある、いわゆる絶対領域とやらから見える白い健康的な肌が目立って、目にいいのか悪いのか…………悩む。

 

「いやだってさ、企業連施設の鉄筋は全部有澤重工の有澤鉄鋼だし、普通の鉄って脆くね?」

「脆くないからな⁉ 有澤重工の方が硬すぎるだけだぞ⁉」

「一応、不安だから取り寄せるか?」

「しなくていい‼」

 

左腕に鋼材を担ぎながら不毛なやり取りを続ける。多分、この義手があるから呼ばれたのだろうか? それだと俺、派遣部隊みたいじゃん…………。

 

「とりあえず、俺は仕事に戻るからな」

 

そう言ってヘルメットをかぶり直す。ちなみにボディには安全ベストといい、中に有澤装甲が入ったやつを着ている。うん、安全第一こそ俺のモットー…………嘘だ、すまない。

 

「今日は、流石に晴れるよな?」

 

俺は、ギラギラと照りつける太陽を見てそう呟く。願わくは、雨だけが降らない事を祈る。

 

 

 

 

 

「流石に、今日は降るはずねえか。天気予報、外れてくれて嬉しいなんて思ったのいつ振りだ?」

 

夕刻、雨など降る気配もなく、祭りは始まった。地元の人なのか、多くの人が集まり大盛況といった感じだ。さて、そろそろなんでしょうかね、時間としては。

今日は、箒が神楽舞を踊るらしい。俺はそれを見逃すわけにはいかない。昔も踊っていたらしいが、俺はそれを見た事がない。だから余計に見たくなってしまったのだ。

 

(確か、神楽舞は六時からだったよな…………あと三分か。よし、移動しよう)

 

俺は神楽舞を踊る櫓の元へ向った。

 

 

時刻は六時。神楽舞が始まった。

その時の箒の姿は巫女服で、こうなんと言うか神々しく、俺には見えた。厳かな雰囲気のもと、鈴の音がシャン、と鳴り響き、誰もが彼女の姿に魅了されていった。

 

「うわぁ…………箒、綺麗だね」

「懐かしいな。昔は箒、刀が重くて鈴だけだったんだよな」

 

む、何だか何処かで聞いた事がある声がするぞ。そう思い、あたりを見回すと、それはあっさりと見つかった。って、それもそうか。黒髪の中に金髪は目立つもんな。

 

「おう、一夏にシャルロット。お前らもきていたのか?」

「あ、龍之介。まあな、そう言えばここの祭りが近いなって思ってさ」

「一度、日本の夏祭りってのも体験して見たかったしね」

 

ちなみに一夏は普通の私服だが、シャルロットは何処で仕入れて来たのか知らんが、浴衣を着ている。所々に向日葵の花が描かれている、彼女らしい浴衣だ。

 

「あれ、でも龍之介はなんでここに?」

「俺の嫁さんの晴れ舞台に来て悪いのかよ。というか、ここの手伝いだ。後は、箒と花火見るため」

「あ、なるほど」

 

シャルロットは合点がいったのか、左の手のひらを右手の握りこぶしでポンと叩いて納得したとアピールする。何処でそんなの覚えたんだ、一体? もしかして民放のあの番組を見て覚えたのか?

とりあえず、今はどうでもいいか。俺は再び箒の方を向く。ちょうど刀を一息で抜刀したところだった。毎回思うんだが、箒って剣を握っている時、輝いて見える。水を得た魚、みたいな表現に、刀を得た箒、という表現も追加できそうだ。意味はどっちも同じだがな。

そんなこんなで、神楽舞は終わり、とりあえず一つのイベントは終わった。残るは、八時からある花火大会だけだ。今のところ雨雲は出ていないし、このままの天気が続けば問題ない。

どれ、箒のところを迎えに行くか。いや、まだ待ち合わせまで少し早いか。という事で少しぶらつく事にした。その時、何故か懐かしい顔を見た。俺はその人に視線が動いていた。人混みに紛れ込んだその中、初老の男性が見える。間違いない、あの人はーー

 

「やはり、来ていたんですか」

「‼ その声は…………龍之介君?」

 

その男性は俺の方を向いてきた。だろうな、突然呼び止められたらこんな反応をするだろう。

 

「お久しぶりです、柳韻さん」

 

篠ノ之道場師範、篠ノ之柳韻その人であった。

 

 

「久しぶりだな、龍之介君。急にいなくなったけど、何かあったのかい?」

 

柳韻さんと再会した俺は、神社の近くにあるベンチに腰掛けて話をしていた。よく、鍛錬の後はここにすわっていたっけ。懐かしいな。

 

「まあ、いろいろっすよ、いろいろ。実家の方に帰ったりしていたんでね」

「そうかい。その眼帯と何か関係はありそうだけどね」

 

ぐ、痛いとこ突かれてきたな。柳韻さんは昔からそういうところに気づきやすい。だから、門下生の弱点を見つけては治せるように丁寧に教えていたっけ。そんな、懐かしいのも十年近く前の遺物なんだろうな。

 

「まあ、そっすね。…………もう、右眼と左腕、無いんですよ」

「っ‼ 一体、何が‼」

「詳しくは言えませんけど、これだけは言えます。俺の右眼と左腕は、箒を助けるために犠牲になりました」

 

俺は柳韻さんに八年前の事を打ち明けた。箒がその口調の所為でいじめられていた事、それを一夏が助けようとした事、そこから先の事は機密事項になっているため言えないが。ってか、言ってたまるものか。左腕をグラインドブレードで吹き飛ばし、右眼をRPG-7の破片で貫きましたなんて言えるか、普通。俺だったら言えないぞ。血に濡れた過去だからな、いろんな意味で。

 

「そうか…………ところで、隆文は元気か?」

「親父? ああ、親父ならぎっくり腰にもならず、元気に暮らしてますよ。この間も天ぷら揚げてましたし」

「⁇ 隆文って料亭の料理長だったか? 炸薬一門の奴だと思うが…………」

「そうなんすけどね…………暇潰しに揚げ物やっていたら思いのほかはまっちゃって」

「趣味多いな…………」

 

親父の趣味の多さに苦笑いをする柳韻さん。そりゃ、苦笑いもするだろうね。炸薬大好き有澤重工の代表取締役が、昼間の食堂で唐揚げとか天ぷら揚げていたらな。ちなみに、その揚げ物は全部、衣がサクサクに揚がっていて美味い。お袋は…………食堂でOIGAMI起爆させたとしか思えない、爆発を唐揚げ作ってる時にやらかしたしな…………。親父、なんでお袋と結婚したんだ?

こうして、懐かしい人と話をしていたら、待ち合わせの時間になっていた。やべ…………怒られる。

 

「んじゃ、俺はこれで失礼します。待ち合わせの時間なんで」

「そうか。それは済まない事をしたな。私も失礼させてもらうよ、病院へ行かなければならないからね」

「病院? 調子、優れないんすか?」

 

柳韻さんは一瞬言葉をつまらせた。だが、すぐに口を開いて答えてくれた。

 

「妻がーー桜花が癌なんだ。もう、手の施しようがない。所謂末期なんだ。せめて、最期まで私だけでもそばにいてやれたらと、な」

 

その言葉に俺は何も言えなくなった。桜花さんが末期癌だとは…………多分、要人保護プログラムによるストレスが原因かもしれない。だが、末期癌にもなると手の施しようがないのは確かだ。だが、俺には一つ最高の医療機関があった。

 

「なら、この住所のところに来てみてください。多分、その癌を治せます」

「この、住所は…………北海道かい?」

 

北海道にある最高の医療機関ーーもといアスピナの医療チーム。技術としては世界最高峰のレベルだ。癌程度ならなんとかなるだろう、きっと。

 

「はい。手配しておきますんで、試しに行ってみて下さい」

「…………信じてもいいのかい?」

 

その言葉に、「ええ」と答える。柳韻さんは、少し希望を見出せたためか、ちょっとだけ元気そうに見えた。

 

「それじゃ、その内また会いましょう」

 

そう言い残して、俺はその場を立ち去った。癌なんて企業連の荒ぶるコジマの前では無に帰すだろう、そう考えながら俺は待ち合わせ場所まで急いだ。

 

 

 

 

 

「遅い‼」

「すみませんでした‼」

 

どうやら待たせてしまったらしく、現在説教されてる。箒さん、頼む、頼むからその今すぐにでも真剣を抜き放つようなオーラを引っ込めてくれ。無茶苦茶怖いっす。

 

「それで、なんで遅れたんだ?」

「いや、懐かしい人と会ったものだからな。つい、話し込んじまったみたいだ」

「な、なんだ、そういう事だったのか。久々の再会なら仕方ないな、うん」

 

どうやら、納得はしてくれたようだ。

箒の今の姿は、もちろん浴衣。淡い水色の生地に、金魚が泳いでいる模様。しかし、金魚は決して目立とうとせず、周りの模様と一体化して、見事に調和している。一言で言ったら

 

「綺麗だな。浴衣、似合ってるぞ」

「にゃっ⁉」

〔はい、出たー。あっくんの天然殺し文句ー〕

 

いつの間にか、ルリアが俺の肩に出ていた。って、なんだよ天然殺し文句って。別に箒を殺してはないーーあ、頭から湯気が出てる。もしかして、平常心を殺したか⁉

 

「お、おい。大丈夫か?」

「ふにゃっ⁉ だ、大丈夫だ‼ うん、大丈夫だぞ⁉」

「何故、最後が疑問系なんだよ…………」

「よ、よし。そ、それでは参るとしようか」

 

箒は右手を右足を同時に出して歩き始める。その姿はまるで、調整を失敗したUNACのよう…………ダメじゃね?

 

〔箒ちゃん、バグったみたいだけど…………〕

「気にしたら負けだ。ああ、気にしたら負けだぞ」

 

先に進んだ箒を追いかけるように俺も駆け出した。

 

 

「それで、先に何処から回るんだ。これだけいっぱいあるとどこに行ったらいいか迷っちまうぜ」

「そうだな。適当にぶらついて行ってみるとしよう」

 

人混みがどんどん増して行く中、それをかき分けて祭りを楽しむ俺達。時刻は七時を回ろうとしていた。

ふと、射的屋が目に入った。

 

「箒、射的やってみるか?」

「やってみるとしよう。せっかくだし、勝負して見ないか。負けた方が、何か驕りで」

「いいぜ、やってやろうじゃん」

 

まずは射的屋に向かう事にした。しかも、勝負というものまでついて。

だが、先にその射的屋には先客がいたようだ。金が二つに青緑とピンクが一つずつ…………あるぇ? 俺、あの人達に見覚えがあるぞ。

 

「弾切れ。ガハハハ、残念だったな、お嬢ちゃん」

「うぅぅぇぇぇ…………ルカ姉、ミク姉、レン〜‼」

「残念だったね、リン。もう、諦めようか」

「うぅぅ…………欲しかったな」

 

ルカにミクにレンにリンかよ‼ あいつらも来てたのか。

すると、ミクのやつがこっちに気づいたようだ。

 

「あれって龍之介さんじゃない?」

 

すると周りにいたルカ達も気づいたようだ。流石にここまできて他人面は出来ないからな。少し顔出しくらいはして行くか。

 

「よう、久しぶりだなルカにミクにレンにリン。元気にしてたか?」

「あ、はい。それと、この間はどうもありがとうございます。おかげで、生活が楽になりました」

「龍兄、隣にいる女の人って誰?」

 

ルカに礼を言われた。そうか、生活が楽になったんだ。よかったぜ。

レンが俺に聞いてきた。おそらく箒の事だろう。紹介してなかったしな。

 

「ああ、そういや紹介してなかったな。こいつは箒。俺の幼馴染であり、まあ彼女だ」

「篠ノ之箒だ。一応、私も龍之介と同じ有澤重工にいる人間だが、普通に接してくれると有難い。あと、この口調は生まれつきなものだから気にしないでくれ」

「よろしくね、篠ノ之さん。私は巡音ルカよ。そして、こっちが」

「僕は初音ミク」

「俺は鏡音レンです」

「私は鏡音リンだよ」

「その…………できれば篠ノ之、じゃなくて箒と呼んでくれ。よろしく、ルカさんにミクさんにレンとリン」

「「俺(私)だけ呼び捨て⁉」」

 

本当仲いいよな、レンとリンって。双子だからなのか?

 

「あれ、お前ら射的してたのか?」

「うん、そうだよ。でも、やってたのはリン一人だけ」

「ほう。それで、リンは何が欲しかったんだ?」

 

俺はリンに何が欲しかったのか聞いてみた。って、よく見りゃリボンがしおれてる。しかも、涙目。これ、かなりきてるパターン?

 

「龍兄〜‼ あれ、あれとって‼」

 

そう言ってリンが指差した物は、でかいペンギンのぬいぐるみ。その大きさから抱き枕もしても使えそうだ。やっぱり、女の子ってそういう物欲しがるんだ。俺の身近な人間には、真剣とかショットガンを欲しがる人がいるもんだから、俺の感覚がずれてきてんだ。ちなみに、箒とかアンジェとかシャミアとか。

 

「ペンギンのぬいぐるみでいいのか?」

「うん‼ あれが欲しいの」

「よし、分かった。箒、聞いたな?」

「ああ、勿論だ。玉とライフルは用意してあるぞ」

「サンキュ。んじゃ、ミッションプランを勝負から変更、ペンギンの取得だ‼」

 

早速、一発を込めてコッキングレバーを引く。スナイパーライフルはあまり得意ではないが、やってやろうじゃん。

 

「そこっ‼」

 

撃ち出された玉はペンギンに当たったが、ちょっと揺れただけで落ちない。まじで?

二発目をリロード。次も当ててみるが、落ちる気配は全くない。

 

「くっそー。なんで落ちないんだよ‼」

「おやっさん、重りでもしかけているのか?」

「そ、そんな訳ないだろ」

 

そう言って明らかに露骨に目を逸らす店主。こいつ、仕掛けているな。

こうなると俺も方法を取らねばならん。先ほどまで使っていたライフルを一旦置き、ある物を取り出す。

 

「てれれてっててー、180mmキャノン」

「「「「「「マジかよ⁉」」」」」」

 

180mmキャノンのマガジンを一回外して、炸薬を圧縮空気に変える。弾薬は超軟性ゴムボール。

この手持ちキャノンさえあればなんとか落とせるだろ、きっと。ん? ルール違反じゃないかって? 金払ったから問題ないんじゃない?

 

「つーことで、ファイア‼」

 

ズドムッ、とエアガンではならない音がなり、ペンギンがポトッと落ちる。その裏にはネオジム磁石がくっついていた。

 

「おやっさ〜ん、ちょっといいかな〜?」

「ひっ、ははははーーアァーッ‼」

 

嫁さんによる説教が始まった。あれ、長いから精神的処刑になるんだよね。

何はともあれ、ペンギンのぬいぐるみを180mmキャノンを使って手に入れた俺は、それをリンに手渡す。

 

「ほら、リン。ペンギンのぬいぐるみとってきたぞ」

「わぁ〜、ありがとう、龍兄」

「どういたしまして」

 

リンは満面の笑みを浮かべてぬいぐるみを受け取る。しおれていたリボンも、今はピンと立っている。

 

「龍兄、俺からもお礼言わせてくれ。ありがとう」

「お前も言うようになったな、このこの」

「わ、ちょ、くすぐったいよ、龍兄‼」

 

ちょっと生意気になったレンの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

 

「レン〜? 家に帰ったら、O☆HA☆NA☆SHIしようね〜?」

「へ⁉ な、なんでそうなるのさ、ミク姉⁉」

 

レン、お前の事は一生忘れないぜ。

 

「それじゃ、私達はこの辺で」

「あ、はーい。じゃあな、皆」

「じゃあね、龍之介さん」

「龍兄、またねー」

 

ルカの後をついて行くミクと、それに引きずられている何故か死にかけのレン、ぬいぐるみを大事そうに抱えながらこちらに手を振ってるリン。彼らの姿が人混みに消えるまで見ていた。てか、リンって中学生だよな。どうも、子供っぽいんだよね、仕草とかが。

 

「箒ー、腹減ったから何か食いに行こうぜー」

「わかった。すぐ、そっちに行く」

 

説教の方が終わったようなので、再び屋台の方をめぐる事にした。腹減ったなぁ…………焼きそば食いてえ…………。

 

 

「それで、焼きそば五パックも完食したわけか。すごいな、その胃袋」

「そうか? もう腹一杯だぜ」

 

腹拵えをして、気分も上々。時間帯もそろそろ花火なようなので、俺達は秘密の場所へと向かっていた。

 

「そういや、此処ってまだ俺達以外知らないのか?」

「ああ。私とお前と一夏、千冬さんと兎だけだ」

 

箒が篠ノ之束を兎と言うあたり、相当嫌っているようだ。ま、俺も嫌いだけどな。

俺達が今向かっているのは、広葉樹の林を抜けた先にある、秘密の展望台。簡易的な小屋を立てて星とか花火とか見れるようにしたんだ。街の景色も一望できる。

 

「なぁ、空模様が怪しくないか?」

「やめろ、自滅フラグを立てるんじゃない」

 

確かに、空は曇り始めている。こんなんで花火が上がるのか? 雨さえ降らなければ上がると思うんだがな。

そんな時だった。少しずつだが、雨粒が落ちてきた。そう考えているうちに段々と強くなって行って

 

「こんな状態ってわけだよ、チクショー」

 

大雨となってしまった。傘なんて用意しているはずがなく、榴雷を左腕のみ展開、大型シールドを傘代わりにしている。

 

「花火は見れないのだな…………」

「この状態じゃどうしようもないだろ。とりあえず、小屋が見えた。あそこで雨宿りをしよう」

 

一先ず小屋が見えたので、そこで雨宿りする事にした。小屋は割と大きめに作ったからか、余裕持って二人が入れた。だが、花火を見れないのが残念なのか、箒のテンションが下がりっぱなしだ。みるに耐えられねえ。雨雲さえなんとかできりゃなぁ…………お、いい事思いついた。

 

「箒、ちょっとここで待っててくれ。俺、一仕事してくるからさ」

「お、おい。何処へ位行く⁉」

 

俺は小屋を抜け、近くの山まで飛んで行った、オーバード・ブーストで。どんなに暗いところでも、翡翠色の煌めきは衰える事は無かった。

 

 

「ルリア、雨雲の高度を教えてくれ」

〔そこは流石にわからない。信管を遠隔で作動させるよ〕

 

俺は山の中腹あたりにアンカーを突き立てていた。理由は簡単だ。160cm滑腔砲[ドーラ・ドルヒ]を背部に展開しているからだ。ただ構えるだけでも、相当負荷がかかっている。反動なんてきたら、アンカーが折れるんじゃないだろうか。

 

「砲身射角を85度に設定。弾薬を高濃度圧縮SK-01弾頭に変更。炸薬の量を四倍に増やしてくれ」

〔了解。スタンバイ完了。いつでも撃てるよ〕

 

弾頭がチェンパーの中に入り、固定される音が聞こえた。砲身はほぼ真上を向いている。爆風で全て飛ばせればいいんだがな。

 

「あいよ。発射まで、三、二、一…………ファイア‼」

 

激しい反動が俺を襲う。絶対防御を通り越して俺に伝わる衝撃が背骨を軋ませる。周りの土も舞い上がり、木々が激しく揺れた。

撃ち出された弾頭は、ものすごいスピードで雲へ突き進む。

 

〔到達まであと五秒、四、三、二、一…………信管作動‼〕

 

そのセリフと共に、夜空には大きい翡翠色の花が咲いた。爆風で雲は細切れになり、そして消滅した。雨は止み、満天の星空が見える。よし、計画は成功っと。

ドーラ・ドルヒを格納し、再び小屋の方へ戻る。だが、花火師達はもうすでに帰ってしまっただろう。どうしようかと考えながら、俺はオーバード・ブーストを起動させた。

 

 

「ただいまー。雨雲は消してきたぞ」

「お前には不可能な事がないのか⁉」

 

雨雲を細切れにして消してきた俺は、小屋に戻ってきた。結局何も案は思いつかなかった。

 

「不可能なことだってあるさ。花火、やっぱ見れそうにない。おそらく、花火師達は帰ったかもしれん」

「そうなのか…………だが、星空が見えるだけよしとしようではないか」

 

箒はそうやって、俺に笑いかけてくる。自分が一番楽しみにしていたはずなのにな。

その時だった。突然、夜空に一輪の花が咲いた。

 

「り、龍之介‼ 花火が上がったぞ‼」

「んな、アホな⁉ 花火師達は帰ったはずじゃ…………」

 

また一発、夜空に花が開く。一体誰が、上げているんだ…………⁉

 

「龍之介」

「ん? どうした?」

 

突然箒は俺の腕に抱きついてきた。

 

「少しの間、こうさせてくれ」

「ああ、わかった」

 

俺は誰が花火を打ち上げているのか考えるのをやめた。今はこうして、見て楽しむことだけを考えよう。花火が打ち終わるまでの三十分、俺と箒は夜空を彩る大輪の花を見つめていた。

 

 

 

 

 

「あと、何発あるんだ? まあ、一夏君とシャルロットちゃんの頼みだ。打ち続けよう」

 

一夏とシャルロットに頼まれた隆文が、雷電のグレネードキャノンで花火を打ち上げていた事を、龍之介と箒は知らない。

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