インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
八月の中旬。俺は懐かしい場所にきていた。
篠ノ之神社。
ここにくるのは八年ぶりーー御所河原組惨殺事件以来だ。本当に久しぶり、脳裏には汗水流して剣道に打ち込む一夏、箒、千冬さん。片方では薙刀を振るう俺。今思えばとてもいい思い出だ。この神社兼道場は俺にとっていい思い出をくれた、大切な場所だ。
そして、何故俺がここにいるかと言うと
「龍ちゃーん、そこの道具持ってきて」
「いーす、雪子叔母さん」
今日は篠ノ之神社の夏祭り。その準備として箒に連れてこられた訳だ。この神社を管理しているのは、雪子叔母さん。八年前から変わらぬ美しさを保っているのが凄い。お袋が見たらさぞ羨むだろうな。同い年らしいから…………。
「悪いな、坊主。この櫓を組み立てるのを手伝わせちまってな」
「別にいいっすよ、ここは俺にとっても懐かしい場所ですんで」
この祭りの準備には地元の人が総出で行う。櫓を組み立てているのは、剣道場を開いているお巡りさんやし、露店なんかもこの辺りの人がしている。
「しっかし、この鋼材大丈夫なのか? 有澤鉄鋼を使った方がいいんじゃ…………」
「ここで企業連の商売をするな、龍之介」
俺のどうでもいい呟きに、ちょうど外へ出てきた箒が反応した。箒の私服は、黒系の色が中心だ。だがな、そのニーソとスカートの間にある、いわゆる絶対領域とやらから見える白い健康的な肌が目立って、目にいいのか悪いのか…………悩む。
「いやだってさ、企業連施設の鉄筋は全部有澤重工の有澤鉄鋼だし、普通の鉄って脆くね?」
「脆くないからな⁉ 有澤重工の方が硬すぎるだけだぞ⁉」
「一応、不安だから取り寄せるか?」
「しなくていい‼」
左腕に鋼材を担ぎながら不毛なやり取りを続ける。多分、この義手があるから呼ばれたのだろうか? それだと俺、派遣部隊みたいじゃん…………。
「とりあえず、俺は仕事に戻るからな」
そう言ってヘルメットをかぶり直す。ちなみにボディには安全ベストといい、中に有澤装甲が入ったやつを着ている。うん、安全第一こそ俺のモットー…………嘘だ、すまない。
「今日は、流石に晴れるよな?」
俺は、ギラギラと照りつける太陽を見てそう呟く。願わくは、雨だけが降らない事を祈る。
「流石に、今日は降るはずねえか。天気予報、外れてくれて嬉しいなんて思ったのいつ振りだ?」
夕刻、雨など降る気配もなく、祭りは始まった。地元の人なのか、多くの人が集まり大盛況といった感じだ。さて、そろそろなんでしょうかね、時間としては。
今日は、箒が神楽舞を踊るらしい。俺はそれを見逃すわけにはいかない。昔も踊っていたらしいが、俺はそれを見た事がない。だから余計に見たくなってしまったのだ。
(確か、神楽舞は六時からだったよな…………あと三分か。よし、移動しよう)
俺は神楽舞を踊る櫓の元へ向った。
時刻は六時。神楽舞が始まった。
その時の箒の姿は巫女服で、こうなんと言うか神々しく、俺には見えた。厳かな雰囲気のもと、鈴の音がシャン、と鳴り響き、誰もが彼女の姿に魅了されていった。
「うわぁ…………箒、綺麗だね」
「懐かしいな。昔は箒、刀が重くて鈴だけだったんだよな」
む、何だか何処かで聞いた事がある声がするぞ。そう思い、あたりを見回すと、それはあっさりと見つかった。って、それもそうか。黒髪の中に金髪は目立つもんな。
「おう、一夏にシャルロット。お前らもきていたのか?」
「あ、龍之介。まあな、そう言えばここの祭りが近いなって思ってさ」
「一度、日本の夏祭りってのも体験して見たかったしね」
ちなみに一夏は普通の私服だが、シャルロットは何処で仕入れて来たのか知らんが、浴衣を着ている。所々に向日葵の花が描かれている、彼女らしい浴衣だ。
「あれ、でも龍之介はなんでここに?」
「俺の嫁さんの晴れ舞台に来て悪いのかよ。というか、ここの手伝いだ。後は、箒と花火見るため」
「あ、なるほど」
シャルロットは合点がいったのか、左の手のひらを右手の握りこぶしでポンと叩いて納得したとアピールする。何処でそんなの覚えたんだ、一体? もしかして民放のあの番組を見て覚えたのか?
とりあえず、今はどうでもいいか。俺は再び箒の方を向く。ちょうど刀を一息で抜刀したところだった。毎回思うんだが、箒って剣を握っている時、輝いて見える。水を得た魚、みたいな表現に、刀を得た箒、という表現も追加できそうだ。意味はどっちも同じだがな。
そんなこんなで、神楽舞は終わり、とりあえず一つのイベントは終わった。残るは、八時からある花火大会だけだ。今のところ雨雲は出ていないし、このままの天気が続けば問題ない。
どれ、箒のところを迎えに行くか。いや、まだ待ち合わせまで少し早いか。という事で少しぶらつく事にした。その時、何故か懐かしい顔を見た。俺はその人に視線が動いていた。人混みに紛れ込んだその中、初老の男性が見える。間違いない、あの人はーー
「やはり、来ていたんですか」
「‼ その声は…………龍之介君?」
その男性は俺の方を向いてきた。だろうな、突然呼び止められたらこんな反応をするだろう。
「お久しぶりです、柳韻さん」
篠ノ之道場師範、篠ノ之柳韻その人であった。
「久しぶりだな、龍之介君。急にいなくなったけど、何かあったのかい?」
柳韻さんと再会した俺は、神社の近くにあるベンチに腰掛けて話をしていた。よく、鍛錬の後はここにすわっていたっけ。懐かしいな。
「まあ、いろいろっすよ、いろいろ。実家の方に帰ったりしていたんでね」
「そうかい。その眼帯と何か関係はありそうだけどね」
ぐ、痛いとこ突かれてきたな。柳韻さんは昔からそういうところに気づきやすい。だから、門下生の弱点を見つけては治せるように丁寧に教えていたっけ。そんな、懐かしいのも十年近く前の遺物なんだろうな。
「まあ、そっすね。…………もう、右眼と左腕、無いんですよ」
「っ‼ 一体、何が‼」
「詳しくは言えませんけど、これだけは言えます。俺の右眼と左腕は、箒を助けるために犠牲になりました」
俺は柳韻さんに八年前の事を打ち明けた。箒がその口調の所為でいじめられていた事、それを一夏が助けようとした事、そこから先の事は機密事項になっているため言えないが。ってか、言ってたまるものか。左腕をグラインドブレードで吹き飛ばし、右眼をRPG-7の破片で貫きましたなんて言えるか、普通。俺だったら言えないぞ。血に濡れた過去だからな、いろんな意味で。
「そうか…………ところで、隆文は元気か?」
「親父? ああ、親父ならぎっくり腰にもならず、元気に暮らしてますよ。この間も天ぷら揚げてましたし」
「⁇ 隆文って料亭の料理長だったか? 炸薬一門の奴だと思うが…………」
「そうなんすけどね…………暇潰しに揚げ物やっていたら思いのほかはまっちゃって」
「趣味多いな…………」
親父の趣味の多さに苦笑いをする柳韻さん。そりゃ、苦笑いもするだろうね。炸薬大好き有澤重工の代表取締役が、昼間の食堂で唐揚げとか天ぷら揚げていたらな。ちなみに、その揚げ物は全部、衣がサクサクに揚がっていて美味い。お袋は…………食堂でOIGAMI起爆させたとしか思えない、爆発を唐揚げ作ってる時にやらかしたしな…………。親父、なんでお袋と結婚したんだ?
こうして、懐かしい人と話をしていたら、待ち合わせの時間になっていた。やべ…………怒られる。
「んじゃ、俺はこれで失礼します。待ち合わせの時間なんで」
「そうか。それは済まない事をしたな。私も失礼させてもらうよ、病院へ行かなければならないからね」
「病院? 調子、優れないんすか?」
柳韻さんは一瞬言葉をつまらせた。だが、すぐに口を開いて答えてくれた。
「妻がーー桜花が癌なんだ。もう、手の施しようがない。所謂末期なんだ。せめて、最期まで私だけでもそばにいてやれたらと、な」
その言葉に俺は何も言えなくなった。桜花さんが末期癌だとは…………多分、要人保護プログラムによるストレスが原因かもしれない。だが、末期癌にもなると手の施しようがないのは確かだ。だが、俺には一つ最高の医療機関があった。
「なら、この住所のところに来てみてください。多分、その癌を治せます」
「この、住所は…………北海道かい?」
北海道にある最高の医療機関ーーもといアスピナの医療チーム。技術としては世界最高峰のレベルだ。癌程度ならなんとかなるだろう、きっと。
「はい。手配しておきますんで、試しに行ってみて下さい」
「…………信じてもいいのかい?」
その言葉に、「ええ」と答える。柳韻さんは、少し希望を見出せたためか、ちょっとだけ元気そうに見えた。
「それじゃ、その内また会いましょう」
そう言い残して、俺はその場を立ち去った。癌なんて企業連の荒ぶるコジマの前では無に帰すだろう、そう考えながら俺は待ち合わせ場所まで急いだ。
「遅い‼」
「すみませんでした‼」
どうやら待たせてしまったらしく、現在説教されてる。箒さん、頼む、頼むからその今すぐにでも真剣を抜き放つようなオーラを引っ込めてくれ。無茶苦茶怖いっす。
「それで、なんで遅れたんだ?」
「いや、懐かしい人と会ったものだからな。つい、話し込んじまったみたいだ」
「な、なんだ、そういう事だったのか。久々の再会なら仕方ないな、うん」
どうやら、納得はしてくれたようだ。
箒の今の姿は、もちろん浴衣。淡い水色の生地に、金魚が泳いでいる模様。しかし、金魚は決して目立とうとせず、周りの模様と一体化して、見事に調和している。一言で言ったら
「綺麗だな。浴衣、似合ってるぞ」
「にゃっ⁉」
〔はい、出たー。あっくんの天然殺し文句ー〕
いつの間にか、ルリアが俺の肩に出ていた。って、なんだよ天然殺し文句って。別に箒を殺してはないーーあ、頭から湯気が出てる。もしかして、平常心を殺したか⁉
「お、おい。大丈夫か?」
「ふにゃっ⁉ だ、大丈夫だ‼ うん、大丈夫だぞ⁉」
「何故、最後が疑問系なんだよ…………」
「よ、よし。そ、それでは参るとしようか」
箒は右手を右足を同時に出して歩き始める。その姿はまるで、調整を失敗したUNACのよう…………ダメじゃね?
〔箒ちゃん、バグったみたいだけど…………〕
「気にしたら負けだ。ああ、気にしたら負けだぞ」
先に進んだ箒を追いかけるように俺も駆け出した。
「それで、先に何処から回るんだ。これだけいっぱいあるとどこに行ったらいいか迷っちまうぜ」
「そうだな。適当にぶらついて行ってみるとしよう」
人混みがどんどん増して行く中、それをかき分けて祭りを楽しむ俺達。時刻は七時を回ろうとしていた。
ふと、射的屋が目に入った。
「箒、射的やってみるか?」
「やってみるとしよう。せっかくだし、勝負して見ないか。負けた方が、何か驕りで」
「いいぜ、やってやろうじゃん」
まずは射的屋に向かう事にした。しかも、勝負というものまでついて。
だが、先にその射的屋には先客がいたようだ。金が二つに青緑とピンクが一つずつ…………あるぇ? 俺、あの人達に見覚えがあるぞ。
「弾切れ。ガハハハ、残念だったな、お嬢ちゃん」
「うぅぅぇぇぇ…………ルカ姉、ミク姉、レン〜‼」
「残念だったね、リン。もう、諦めようか」
「うぅぅ…………欲しかったな」
ルカにミクにレンにリンかよ‼ あいつらも来てたのか。
すると、ミクのやつがこっちに気づいたようだ。
「あれって龍之介さんじゃない?」
すると周りにいたルカ達も気づいたようだ。流石にここまできて他人面は出来ないからな。少し顔出しくらいはして行くか。
「よう、久しぶりだなルカにミクにレンにリン。元気にしてたか?」
「あ、はい。それと、この間はどうもありがとうございます。おかげで、生活が楽になりました」
「龍兄、隣にいる女の人って誰?」
ルカに礼を言われた。そうか、生活が楽になったんだ。よかったぜ。
レンが俺に聞いてきた。おそらく箒の事だろう。紹介してなかったしな。
「ああ、そういや紹介してなかったな。こいつは箒。俺の幼馴染であり、まあ彼女だ」
「篠ノ之箒だ。一応、私も龍之介と同じ有澤重工にいる人間だが、普通に接してくれると有難い。あと、この口調は生まれつきなものだから気にしないでくれ」
「よろしくね、篠ノ之さん。私は巡音ルカよ。そして、こっちが」
「僕は初音ミク」
「俺は鏡音レンです」
「私は鏡音リンだよ」
「その…………できれば篠ノ之、じゃなくて箒と呼んでくれ。よろしく、ルカさんにミクさんにレンとリン」
「「俺(私)だけ呼び捨て⁉」」
本当仲いいよな、レンとリンって。双子だからなのか?
「あれ、お前ら射的してたのか?」
「うん、そうだよ。でも、やってたのはリン一人だけ」
「ほう。それで、リンは何が欲しかったんだ?」
俺はリンに何が欲しかったのか聞いてみた。って、よく見りゃリボンがしおれてる。しかも、涙目。これ、かなりきてるパターン?
「龍兄〜‼ あれ、あれとって‼」
そう言ってリンが指差した物は、でかいペンギンのぬいぐるみ。その大きさから抱き枕もしても使えそうだ。やっぱり、女の子ってそういう物欲しがるんだ。俺の身近な人間には、真剣とかショットガンを欲しがる人がいるもんだから、俺の感覚がずれてきてんだ。ちなみに、箒とかアンジェとかシャミアとか。
「ペンギンのぬいぐるみでいいのか?」
「うん‼ あれが欲しいの」
「よし、分かった。箒、聞いたな?」
「ああ、勿論だ。玉とライフルは用意してあるぞ」
「サンキュ。んじゃ、ミッションプランを勝負から変更、ペンギンの取得だ‼」
早速、一発を込めてコッキングレバーを引く。スナイパーライフルはあまり得意ではないが、やってやろうじゃん。
「そこっ‼」
撃ち出された玉はペンギンに当たったが、ちょっと揺れただけで落ちない。まじで?
二発目をリロード。次も当ててみるが、落ちる気配は全くない。
「くっそー。なんで落ちないんだよ‼」
「おやっさん、重りでもしかけているのか?」
「そ、そんな訳ないだろ」
そう言って明らかに露骨に目を逸らす店主。こいつ、仕掛けているな。
こうなると俺も方法を取らねばならん。先ほどまで使っていたライフルを一旦置き、ある物を取り出す。
「てれれてっててー、180mmキャノン」
「「「「「「マジかよ⁉」」」」」」
180mmキャノンのマガジンを一回外して、炸薬を圧縮空気に変える。弾薬は超軟性ゴムボール。
この手持ちキャノンさえあればなんとか落とせるだろ、きっと。ん? ルール違反じゃないかって? 金払ったから問題ないんじゃない?
「つーことで、ファイア‼」
ズドムッ、とエアガンではならない音がなり、ペンギンがポトッと落ちる。その裏にはネオジム磁石がくっついていた。
「おやっさ〜ん、ちょっといいかな〜?」
「ひっ、ははははーーアァーッ‼」
嫁さんによる説教が始まった。あれ、長いから精神的処刑になるんだよね。
何はともあれ、ペンギンのぬいぐるみを180mmキャノンを使って手に入れた俺は、それをリンに手渡す。
「ほら、リン。ペンギンのぬいぐるみとってきたぞ」
「わぁ〜、ありがとう、龍兄」
「どういたしまして」
リンは満面の笑みを浮かべてぬいぐるみを受け取る。しおれていたリボンも、今はピンと立っている。
「龍兄、俺からもお礼言わせてくれ。ありがとう」
「お前も言うようになったな、このこの」
「わ、ちょ、くすぐったいよ、龍兄‼」
ちょっと生意気になったレンの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「レン〜? 家に帰ったら、O☆HA☆NA☆SHIしようね〜?」
「へ⁉ な、なんでそうなるのさ、ミク姉⁉」
レン、お前の事は一生忘れないぜ。
「それじゃ、私達はこの辺で」
「あ、はーい。じゃあな、皆」
「じゃあね、龍之介さん」
「龍兄、またねー」
ルカの後をついて行くミクと、それに引きずられている何故か死にかけのレン、ぬいぐるみを大事そうに抱えながらこちらに手を振ってるリン。彼らの姿が人混みに消えるまで見ていた。てか、リンって中学生だよな。どうも、子供っぽいんだよね、仕草とかが。
「箒ー、腹減ったから何か食いに行こうぜー」
「わかった。すぐ、そっちに行く」
説教の方が終わったようなので、再び屋台の方をめぐる事にした。腹減ったなぁ…………焼きそば食いてえ…………。
「それで、焼きそば五パックも完食したわけか。すごいな、その胃袋」
「そうか? もう腹一杯だぜ」
腹拵えをして、気分も上々。時間帯もそろそろ花火なようなので、俺達は秘密の場所へと向かっていた。
「そういや、此処ってまだ俺達以外知らないのか?」
「ああ。私とお前と一夏、千冬さんと兎だけだ」
箒が篠ノ之束を兎と言うあたり、相当嫌っているようだ。ま、俺も嫌いだけどな。
俺達が今向かっているのは、広葉樹の林を抜けた先にある、秘密の展望台。簡易的な小屋を立てて星とか花火とか見れるようにしたんだ。街の景色も一望できる。
「なぁ、空模様が怪しくないか?」
「やめろ、自滅フラグを立てるんじゃない」
確かに、空は曇り始めている。こんなんで花火が上がるのか? 雨さえ降らなければ上がると思うんだがな。
そんな時だった。少しずつだが、雨粒が落ちてきた。そう考えているうちに段々と強くなって行って
「こんな状態ってわけだよ、チクショー」
大雨となってしまった。傘なんて用意しているはずがなく、榴雷を左腕のみ展開、大型シールドを傘代わりにしている。
「花火は見れないのだな…………」
「この状態じゃどうしようもないだろ。とりあえず、小屋が見えた。あそこで雨宿りをしよう」
一先ず小屋が見えたので、そこで雨宿りする事にした。小屋は割と大きめに作ったからか、余裕持って二人が入れた。だが、花火を見れないのが残念なのか、箒のテンションが下がりっぱなしだ。みるに耐えられねえ。雨雲さえなんとかできりゃなぁ…………お、いい事思いついた。
「箒、ちょっとここで待っててくれ。俺、一仕事してくるからさ」
「お、おい。何処へ位行く⁉」
俺は小屋を抜け、近くの山まで飛んで行った、オーバード・ブーストで。どんなに暗いところでも、翡翠色の煌めきは衰える事は無かった。
「ルリア、雨雲の高度を教えてくれ」
〔そこは流石にわからない。信管を遠隔で作動させるよ〕
俺は山の中腹あたりにアンカーを突き立てていた。理由は簡単だ。160cm滑腔砲[ドーラ・ドルヒ]を背部に展開しているからだ。ただ構えるだけでも、相当負荷がかかっている。反動なんてきたら、アンカーが折れるんじゃないだろうか。
「砲身射角を85度に設定。弾薬を高濃度圧縮SK-01弾頭に変更。炸薬の量を四倍に増やしてくれ」
〔了解。スタンバイ完了。いつでも撃てるよ〕
弾頭がチェンパーの中に入り、固定される音が聞こえた。砲身はほぼ真上を向いている。爆風で全て飛ばせればいいんだがな。
「あいよ。発射まで、三、二、一…………ファイア‼」
激しい反動が俺を襲う。絶対防御を通り越して俺に伝わる衝撃が背骨を軋ませる。周りの土も舞い上がり、木々が激しく揺れた。
撃ち出された弾頭は、ものすごいスピードで雲へ突き進む。
〔到達まであと五秒、四、三、二、一…………信管作動‼〕
そのセリフと共に、夜空には大きい翡翠色の花が咲いた。爆風で雲は細切れになり、そして消滅した。雨は止み、満天の星空が見える。よし、計画は成功っと。
ドーラ・ドルヒを格納し、再び小屋の方へ戻る。だが、花火師達はもうすでに帰ってしまっただろう。どうしようかと考えながら、俺はオーバード・ブーストを起動させた。
「ただいまー。雨雲は消してきたぞ」
「お前には不可能な事がないのか⁉」
雨雲を細切れにして消してきた俺は、小屋に戻ってきた。結局何も案は思いつかなかった。
「不可能なことだってあるさ。花火、やっぱ見れそうにない。おそらく、花火師達は帰ったかもしれん」
「そうなのか…………だが、星空が見えるだけよしとしようではないか」
箒はそうやって、俺に笑いかけてくる。自分が一番楽しみにしていたはずなのにな。
その時だった。突然、夜空に一輪の花が咲いた。
「り、龍之介‼ 花火が上がったぞ‼」
「んな、アホな⁉ 花火師達は帰ったはずじゃ…………」
また一発、夜空に花が開く。一体誰が、上げているんだ…………⁉
「龍之介」
「ん? どうした?」
突然箒は俺の腕に抱きついてきた。
「少しの間、こうさせてくれ」
「ああ、わかった」
俺は誰が花火を打ち上げているのか考えるのをやめた。今はこうして、見て楽しむことだけを考えよう。花火が打ち終わるまでの三十分、俺と箒は夜空を彩る大輪の花を見つめていた。
「あと、何発あるんだ? まあ、一夏君とシャルロットちゃんの頼みだ。打ち続けよう」
一夏とシャルロットに頼まれた隆文が、雷電のグレネードキャノンで花火を打ち上げていた事を、龍之介と箒は知らない。