インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
キャノンボール・ファストを終え、ひと段落ついた俺たちは一組の教室で軽くお茶会をしていた。というのも、今入り口には開店準備中の札がかけてある。これならまぁ、客が間違って入ってくることはまずない。そういうことだから、お茶会ができるわけだ。といっても、軽くコーヒーを飲む程度。そんなに派手にやるつもりはない。
「いやー、それにしても相当な額を稼げたな。賭けの方も随分と上手く流れたし、販売も十分だ」
ちなみに売りさばいていた物だが、あの有名(?)な有澤食堂の名物の握り飯(中に色々なかやくがはいってる)とお茶だ。丁度昼休みの辺りで開催し販売した物だから、儲かる儲かる。ちなみに握り飯は一パック二個入りで二百円だ。お茶はペットボトルのやつだが、有澤茶葉園の茶葉を使用しているため、500mlで百六十円と少し高めだ。こちらは箒の担当だ。そこ他にも、BFFのベーグルサンドと紅茶も販売した。これはそれぞれ二百二十円と百八十円だ。簪と静寐が担当。
という事で、二百食近く売れたので、五万円近く儲かった。だが、想定では二百五十食は売れると思っていたのだ。つまり、余った。残りは一組の面々に配って消費した。
「これでなんとか採算は取れたようだな」
「ああ。それにキャノンボール・ファストの方も盛況だったようだ」
「しかし、問題はーー」
「…………」
そのキャノンボール・ファストで一つの問題が生じた。というのも、唯一勝つ事ができなかったジェラルドのみデートチケットがもらえなかったことだ。まあ、仕方ねえよな、一応勝負の結果なんだし。
「…………解決は不可能。自分の勝負運の無さを恨め」
「ぐほっ‼」
「れ、レギア⁉ 特大弾頭を投下したよね⁉」
アカン、日増しにレギアがドSになり始めている。何があったんだよ、真面目に。
「と、とりあえず、さっき渡したデートチケットだが、これから好きな時間に使用できるぜ。ただし、使用したペアが戻ってくるまで次の奴は使用できないからな」
俺がそういった瞬間、チケット持ちの面々は同時に互いを見合う。そして一呼吸した後、
「「「「そいやっ‼」」」」
じゃんけんかい‼ オツダル、ベルリオーズ、ジョシュアが出したのは圧倒的破壊力の砲弾を意味するグー。反対に、レギアが出したのは、全ての攻撃を打ち消す悪魔の防御、アサルトアーマー。つまり、パー。
「…………勝った」
誇らしげな笑みを浮かべながら、レギアはフィオナの手を取り、学園祭デートへといった。
「…………楽しかった」
「それは良かった。おいベルリオーズ、次お前の番だぞ」
レギア達は学園祭を上手く楽しんでこれたようだ。それも、相当楽しかったようだ。なんでわかるかって? フィオナがさっきからにやけっぱなしなんだから、わかるに決まっている。
「そうか。それじゃ静寐、行こうか」
「行き先はルークに任せるからね」
こうしてまた二人主力が抜けて行った。
現在午後の営業時間。客足は午前中の人の入りと遜色ないほど、多い。てか、午後の方が何かと人が多いような気がする。
「しかし、オッツダルヴァの指名が多いな。まだそんなに時間が立ってないけど、もう二千円近く稼いでいるぞ」
「オツダルやべえな、さすがランク1」
一夏がぼやくとおり、オツダルの指名はとても多い。今も上級生と思わしき人物に接客業務をしている。本人は面倒くさそうにやっているが、それがいいのか客受けはとてもよろしい。
ちなみに指名すると追加料金が発生するシステムだから、がっぽがっぽ儲かってる。どうでもいいことだが、俺とレギアの指名だけ全くない。何故だ、何故なんだ?
「有澤君、⑨テーブルに指名はいったよ」
「了解。だが、なんで九番テーブルの言い方がそれなんだよ。危ねえ匂いがするわ」
どうやら俺も接客業務が入ったようで、その九番テーブルに向かった。九番テーブルは教室の窓側の席である。つまり日当たりがよくて、気持ちいいらしい。その席に座っていたのは、
「やっほー、龍兄」
「お前か⁉ お前が指名したのか、リン⁉」
制服を身に纏ったリンであった。マジで?え、誰招待した奴?
「いやぁ、一兄が招待状くれたからこれたんだよ」
「ああ、納得。あれ、ルカとミクにレンは一緒じゃないのか?」
「ミク姉なら鈴ちゃんのとこにいるよ。本当はルカ姉達も来たかったらしいんだけど、ルカ姉は風邪でダウンしたし…………」
「レンは? あいつが風邪でダウンするようには思わないが…………」
「レンはテストの追試。赤点とったらしいから」
「乙です、レン」
まあ、いいか。ルカとレンには今度、ラインアークの菓子を何か贈っとこう。詫びの品みたいな感じで。
「すまん、注文はどうするんだ?」
会話に耽っていたら注文取るの忘れていたぜ。というか周りの視線が辛い。まじまじと見られているのがわかる。
「…………ねぇ、あの子今有澤君の事を『龍兄』って呼んだわよね?…………」
「…………しかもなんか親しいし、妹?…………」
「…………でも、有澤君、一人っ子のはずよ…………」
「…………じゃあ、ロリコン?…………」
…………なんだろう、根も葉もない噂がどんどんできているような気がする。俺、社会的に立場削られてるのか?
「それじゃ、逆流王子ミルフィーユを一つ」
「了解」
注文を受け取った俺はすぐにレギアの元へと向かう。とにかく逃げたかった、あの視線から。てか、あの視線に動じてないリンは大物だ。
ちなみに指名があった時のみ、口調を自由にしていいという決まりがある。それのおかげで助かった。
「レギア、逆流一個」
「…………ほい」
「あいよ」
レギアから逆流王子ミルフィーユを受け取り、リンの元へ急ぐ。逆流王子ミルフィーユとは、まあ簡単にいうと全身が板でできているようなフラジールを参考にしてできた、ビターチョコ生地のミルフィーユだ。多分、四連チェインガンがモデルだと思う。命名の理由は言うまでもない。言っておくが、食べてもAMSから光が逆流する事はないので心配無用。
「逆流王子ミルフィーユだ」
俺はリンの前に逆流王子ミルフィーユを差し出す。リンは「いただきます」と言ってから食べ始めた。それも、とてもうまそうに。
「龍兄、これすごく美味しいよ」
「そいつは良かった」
俺はリンの真向かいに位置する椅子に座る。というのも指名解除まで、こうしていなければならないのがルールなのだ。
「それにしても、すごい人気だね。入るのに三十分近くならんだよ」
「まぁ、そりゃあ、なぁ。いろいろあるからな、そのくらい並ぶだろ」
「いろいろって?」
「ここ女子高。男子俺らだけ」
「あー…………納得」
本当、ここの女子って男子に飢えているよな。一種のカオスになるかもしれん。
「ご馳走様でした。それじゃ、龍兄、またね」
リンは時間が来たのだろうか、帰って行った。帰り際に見せたあの年相応の笑顔を見て、可愛いなと思ってしまったのは仕方ないはずだ。その証拠に、何人かは鼻から愛が噴き出している。…………ここをリンに見られなくて良かったと俺は切実に思う。
「あれ? 一夏はどこに行った?」
「織斑君達なら、生徒会長に何処かへ連れていかれたよ」
「え? て事は、俺だけ置き去り?」
「そう見たいだね」
おーまいがー‼ というか、箒‼ お前まで俺を見捨てたな‼
「…………よし、首洗って待っていやがれ、楯無ぃぃぃぃぃぃぃっ‼」
俺は無意識のうちに人間グライドブーストができるようになった。よし、このまま一直線に突っ込んで行きゃいい‼
『おぉっと、ここで隣国が開発した
「うるせえんじゃ、ボケ無ぃぃぃぃぃぃぃっ‼」
いつの間にかナーガを展開していた俺は、手に持つバトルライフルを放っていた。
『いやー、めんごめんご。なんか龍之介君とお客さんがいい感じだったからさ、おねーさん誘えなかったのよ』
「今更謝られたって、許さねえぞ、楯無! 俺だけ置き去りにしやがって」
『という事でさ、ちょっとおねーさん達の出し物に協力して?』
「頭に鉛玉叩き込むぞ?」
『劇、
「人の話を聞きやがれ!」
以後、楯無のプライベート・チャネルが開く事はなかった。くそっ、嵌められたのかよ! まぁいい、俺も乗ってやろうか。
「チクショー、こうなったらヤケだ。沈め、てめえ等‼」
迷い無くゴム榴弾を放つハウザーをぶっ放した。ついでにボイスチェンジャーも起動させて、と。
「お、おい、龍之介⁉ お前、俺を殺す気か⁉」
「アア、一夏カ。ドウシタ? 生キテイタノカ」
「喋り方がおかしいぞ、リュウ‼」
「細カイ事ハ気ニスルナ。俺ハイタッテ普通ダ」
俺は続いて両手にBD-0 MURAKUMOを展開する。何、皆王子の格好をしているからな、剣で相手してやろう。
「…………ねぇ、箒。あれ、何?」
「…………龍之介だが、もしかしてマジギレしている?」
「…………なんでマジギレ?」
「…………多分、私達が置き去りにしたからじゃないか?」
ヒャッハー、楽しいわー。楯無がうまい感じにナレーションしているぜ。
「イイゾ、オマエラノ感情ガミエル」
『黒い鳥、何もかもを焼き尽くす、死を告げる鳥。彼がその末裔よ。さぁ、王子達達よ、今こそ戦う時!』
「そう言われてもなぁ…………」
「生身で勝つ方法など…………」
「ないだろうな…………」
「ココガ、コノ戦場ガ俺ノ魂ノ場所ダ‼」
俺はブレードを振りながら、逃げ出そうとしている一夏達へと接敵する。勿論、本気じゃない、軽く遊んでいるだけだ。本気でやったら、気絶くらいするわ。
「ば、馬鹿野郎‼ 殺す気か⁉」
ヒュイン
「む、無理だ‼ 死んでしまう‼」
ヒュイン
「離脱だ‼ 離脱する‼」
ヒュイン
「イージャン、盛リ上ガッテキタネエ‼」
「あ、龍之介、悪ノリしてるな」
「わかるんですの⁉」
「普通なら、ハイブーストしてからのブレード切りをするからな」
「…………さっき一夏の首を掠めたけど?」
「…………偶然だろう、きっと」
会場の盛り上がりも凄い事になってきた。すげえ、俺はただナーガで暴れているだけなんだけどな。
劇もそろそろ終盤、盛り上がりの方も最高潮に達した、その時だった。
ーー会場になっている第四アリーナに禍々しい光が穿たれた。
「危ねえ‼」
俺はナーガを強制解除、榴雷を展開し、対TEシールドを展開する。こいつはシールド自体に
「お前ら、機体を展開しろ‼ 死ぬぞ‼ 楯無、さっさと観客をシェルターに避難させろ‼」
俺の叫びに反応したのか、一夏をはじめとする専用機持ちは自機を展開、戦闘態勢にはいる。楯無もいつの間にか召集していた更識暗部のメンバーと協力しながら、観客をシェルターに誘導している。だが、観客はざっと三百人はいる。避難させるまで、どれだけかかるのか…………見当もつかない。
「龍之介、一体何が…………何が起きたんだよ⁉」
「いつもの事だ‼ この学園、呪われてんじゃねえの⁉」
〔そんな事より、敵は無人機[ゴーレム]12機‼ あとはーーそ、そんな‼〕
「どうした、ルリア‼」
突然、データを読み上げていたルリアが言い淀んだ。何が起きたんだよ、おい‼
〔ーーAOxx/131α[クラーケン]…………なんて事を…………あんな物まで…………〕
AOxx/131α[クラーケン]。確か、アメリカとドイツが開発していた大型飛行兵器だったはずだ。主兵装120mm滑腔砲、副兵装四連垂直ミサイルランチャー二基、30mmチェーンガン。まるで、空飛ぶ要塞だ。だが、ISの登場により開発は頓挫したあの機体が何故…………?
〔クラーケンの内部にコア反応⁉ もしかしてーー〕
「ーー積載量と飛行能力の確保に使ったのか‼ クソッ‼」
こうして毒づく間にも、チェーンガンで施設が破壊されている。そして、無人機も黙っていることなく、俺たちに襲いかかってきた。
「くっ…………兎の奴…………‼ 罪の無い人間まで殺すつもりなのかよ‼」
俺に向かってきたのは、右手にガトリングガンを内蔵、左手にシールドを懸架、両肩にミサイルユニットを装備した奴だ。格闘兵装はない模様。俺はそいつにめがけて、HW01ストロングライフル・アサルトモードを放つ。高威力のAPFSDSが叩き込まれるが、奴が手に持つシールドに弾かれる。削ってはいるんだろうが、何発撃ち込めばシールドが砕けるのかわからない。HEAT弾やグレネードを使えば楽に破壊できるだろうが、周りには避難してない人間もいる。ましてや、俺のいるエリアは一番観客席に近い。ルリアの診断では、衝撃によりアリーナのシールド展開システムに異常が出ており、防護壁が作動してない。つまり、俺の持つ最高火力が使えない上に、意地でも完全防御しなければならない。
「ふざけてんじゃねえぞ、このガラクタが‼」
俺はストロングライフルを一時引っ込め、代わりの兵器を出す。
ー武装選択
ーOVERED WEAPON02、起動
ーCODE[MASS BLADE]、承認
ー各部異常なし、OW02起動します
「重火器が使えないなら…………重鈍器でぶっ壊してやらぁ‼」
俺が振るうのはもう、剣ではない。ただ破壊と質量を求め行き着いた答え、それがこのマスブレード。一見、ただの建築資材のようにも見えるが、こいつには六基のブースターが取り付けられている。加速と質量による破壊力。それは単純な物であるが、計り知れない力を持っている。
「そうらよぉぉぉぉぉぉぉっ‼」
俺はそれを腕力の限り振るう。ブースターの加速もあり、全備重量がとんでもないことになっているにもかかわらず、フルスイングできた。しかし、無人機はそれを横に避けることで回避する。
だが、それは機械の判断だ。
「人間を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
「ーーーーーー‼」
行きすぎたマスブレードを力任せに強引に振り回し、無人機へとぶち当てる。ミサイルが放たれるが構うもんか。そんなもん、マスブレードで打ち返してやる。
無人機は何かを感じ取ったようだが、その前にこっちが破壊した。マスブレードが直撃した無人機は、四肢を飛び散らせながら爆散した。後方に被害が出ないように実体シールドを展開しながら、俺は次の目標に狙いを定めた。次の狙いは、比較的近くにいる、箒と切り結んでいるブレードとチェーンガン持ちの近接格闘機だ。
ー武装選択
ーNW GAN-AMR-82 アンチマテリアルライフル
単純に装甲をブチ抜くのであれば、ストロングライフルよりもこのアンチマテリアルライフルの方が適している。というのも、こっちはバズーカ級の炸薬で撃ち出している。それに、ある程度の連射もきく。GAのタフなフレームだからできたことだ。
「そこだっ‼」
照準を合わせ、コアが埋め込まれていると思わしき部分に一マガジン全て叩き込む。数発はそれてしまったが、それでも残りがシールドを突破、コアをブチ抜き、機能を停止させた。
『龍之介、無事か⁉』
「俺は無事だがな、他のただの専用機持ちにはきつい相手だ。援護を頼む」
『了解‼』
実際、まともにやりあったのは俺とオツダルにベルリオーズ、レギアとジョシュアにジェラルドくらいだ。箒や簪、静寐はネクストISのバカみたいに高い出力を使って力任せに破壊しているようなもんだ。勿論、一夏にも同じことが言える。だが、それ以外のISには言えない。コアの出力が低いため、破壊するまでに時間がかかる。もはやMTレベル。
「排除、開始ーー」
「うるせえんだよ、ぶっ壊れた人形如きが‼」
俺は後ろから迫ってきていた無人機の胸にアンチマテリアルライフルを突き刺す。そして、零距離トリガー。圧倒的な破壊力の弾丸がコアを穿ち砕く。また、鉄屑が増えた。
『龍之介、こっちは撃破したぞ‼』
『リュウ、こちらも三機撃破した。残りはそうそう残ってないはず。あとはそのデカブツだけだ』
一夏とオツダルの報告も含めれば残りは五機。オツダル達に任せていても十分かもしれない。というか、余裕そうだ。
俺がクラーケンに鉄槌を振り下ろそうとした時だった。
ーー爆発音がアリーナを揺らした。
「な、なんだーー」
爆発音の方向を見れば、そこには一番恐れていた光景があった。
観客席に着弾していた。クラーケンの放った榴弾が、まだ避難しきってないであろう位置を破壊していた。アリーナの外壁は崩れ瓦礫の山と化し、観客席は見るも無残な姿になっている。…………俺が言える立場じゃないことは、俺が一番理解している。だが
「こんな事しやがって…………巫山戯んじゃねえぞ、イカレ野郎が‼」
俺の怒りが爆発寸前だ。見知らぬ人がいようがなんだろうが、人の命の重さに変わりはない。殺される覚悟のある兵士や傭兵は違うが、そんな物を少しも持ち合わせていない民間人はどうなんだよ。理不尽に命を落とす理由はねえんだよ。
「ーーーーしてーーーー」
突然そんな声が、瓦礫と変わり果てた観客席から聞こえた。恐らく生き残った人だろう。俺達企業連は戦闘行為よりも人命救助が優先だ。親父がそう決めた、あの白騎士事件の時の辛さを誰よりも一番深く考えた人だから。
クラーケンにブーストチャージを食らわせ、蹴り飛ばす。砕けた装甲の破片を散らしながら、体勢を立て直すが簪による飽和攻撃に晒される。その隙に、要救助者のいる場所へと向かった。
「リン、リン‼ しっかりして‼」
「…………み、ミク姉…………私の事はいいから…………早く、逃げて…………」
視界に映ったのは、忘れるはずがない二人、ミクとリンだ。ミクちは目立った外傷は見られない。だが、リンは
〔瓦礫に埋まっている…………〕
身動き一つ取れない状況だ。俺はクイック・ブーストで一気に近づく。
「ミク‼ リン‼」
「り、龍之介さん‼ リンを…………リンを助けて‼」
「そいつは百も承知だ‼ だが、お前は逃げろ‼」
「なんで⁉ リンがこんなに苦しんでるのに、なんで⁉」
「馬鹿野郎‼ ここで死んだら、悲しむ奴が出ちまうだろうが‼」
「っ‼ わかった。リン、必ず生きて帰ってきて」
ミクはそう言い残して、シェルターに逃げ込む。
「ミク姉ったら…………自分が非力なのに無茶しちゃって…………っ‼」
「しゃべるなよ。今出してやるからな‼」
俺はデカイ瓦礫に手をかける。だが、アリーナの鋼材だ。頑丈な分、非常に重い。だが、これしきの事で、負けられねえんだよ‼
力を込め、全力で掴む。鋼材に指が食い込み、力が入れやすくなった。
「どぉうらぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
マスブレード級の残骸をどけ、その中からリンを救出する。幸いにも、デカブツはそれ一個のみだったため、傷がつかないように優しく抱き上げる。
「…………くうっ…………‼」
「どこか痛むのか? どの辺りだ?」
「…………あ、足…………左足が…………あぁっ‼」
リンの左足を見ると、血が滲んでいるようにも見える。だがここにまともな医療をできる設備など存在しない。第四アリーナは学園から最も遠い位置のアリーナ。医療関連施設までの距離は約四キロ。無理だ、間に合うはずがない。
俺は格納領域から注射器を取り出す。中に入っているのは、医療用ナノマシンと鎮痛剤。その前に打ち込む場所を確認しなければならない。俺は両手のみ解除、左足の靴と靴下を脱がせる。
「あぁぅっ…………‼」
痛みが走ったのか、リンはうめき声をあげる。できる限り優しくしたつもりなのだが、力加減を間違えたかもしれん。だが、そうでなければ、骨折の線も疑わなければならない。
傷口が見えた。そこまでひどくはないようだが、打撲の痕が見れる。
「…………すまん、我慢してくれ」
俺は注射器を傷口に最も近い血管へ打ち込んだ。
ナノマシンが体内にはいる時は痛みが伴う。リンは痛みに顔をしかめ涙目になるが、声をあげることはなかった。
しかし、それもつかの間。鎮痛剤が効いたのか、先ほどまで荒かった呼吸も正常になっている。
「…………龍兄」
「どうした? まだ痛むのか?」
「…………ありがとう」
リンはそう言って目を閉じた。一瞬、不安になってしまったが寝息をたてている事を確認したので、鎮痛剤の副作用だろう、そう結論づけた。
(しかし、どう運べばいい? ここから四キロ先といっても、ネクストなら近い。だが、怪我人がいるとなるとーー)
〔運ぶのなら私に任せて〕
突然、ルリアが回線に入ってきたとおもいきや、俺の目の前には一機のACが。特徴的な丸ノコ型レーザーブレードを持った四脚AC[テスタメント]だ。
〔私がリンを医療施設まで運ぶから、あっくんはあいつらを‼〕
テスタメントはレーザーブレードを両方ともハンガーにかける。つまり運ぶとの事だ。クラーケンは復活した。迷っている暇などない。
「…………任せたぞ」
〔了解〕
ルリアに優しくリンを受け渡し、四脚のACは少し遅めのグライドブーストで医療施設までの道のりを駆け抜けた。
それを見届けてからだろうか。今まで抑えていた怒りが膨れ上がってきた。自分でも押さえつけるのが無理だと、本能的に言い出している。
何故、リンは死にかけなければならなかったのか。おかしいだろ、あいつには罪もなんもない。ただ、誰でも笑顔をする事ができる力があった、それだけだ。下手すると…………もう、リンには会えないのか? 俺は一人っ子だが、まるで妹のように接していた。箒も同じことを言っていたし、また会いたいとも言っていた。その願いは叶わないのか?
『龍兄』
その純真さがある笑顔、その笑顔を振りまいているリンの姿しか思い浮かばなくなってしまった。
だが、それも今は見る事はできない。あの優しい少女が傷つくいわれなどなかった。
「…………てめえが」
パキンッ、と軽い音ともに何かが砕け散った。
ー眼帯、
今まで右眼を覆っていた眼帯が外れ、量子化される。脳へ流れ込む情報量は飛躍的に上がる。圧倒的な情報量を脳もAMSも処理しきれず血管が切れ、視界に赤いラインが入ってくるがどうってことはない。あの鉄屑さえスクラップにできればいいんだから。
「…………てめえさえ」
心の内に渦巻く黒い殺意。それが意味する物は、ただの破壊。
「…………てめえさえいなけりゃ」
俺の怒りがピークに達した。ダメダ、今スグニデモ壊シタイ。ヤツラハリンヲ殺ソウトシタ。ソレダケデ、十分ダ。
「…………もういい、話すだけ無意味か。てめえには、手痛い罰を食らってもらうとしよう」
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「『サア、覚悟ハデキタンダロウナ?』」
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「『デキタンナラ…………死ネ』」
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