インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第三十二話 首輪外レシ者

突然、機体が変化し始めた榴雷。その禍々しい機体の変化に一夏もシャルロットもオッツダルヴァも簪も、ベルリオーズも静寐もジョシュアもラウラも、レギアもフィオナもジョシュアも、レギアもフィオナもジェラルドもセシリアも、そして箒も目が離せなくなっていた。

 

「な、なんなんだ、あれは…………」

「装甲が、開いている…………?」

 

各部の装甲が開き、中からはコジマ粒子と同じヒスイ色をしたフレームが露出する。そこから漏れ出すのは翡翠の煌めきを持つコジマ粒子。

頭部はフェイスガードとバイザーが格納され、代わりに大型のバイザーパーツと赤黒く光り輝くデュアルアイがその姿をのぞかせた。翡翠のカーテンから覗かせる赤黒いデュアルアイ。そのせいなのか、今の榴雷は砲撃兵ではなく、死神として皆は認識し始めた。

 

「『アア…………オ前ガ、オ前ガァァァァァァァァァッ‼』」

 

龍之介がぶっ壊れた口調でそう叫んだ。その瞬間、彼のありとあらゆる所から圧倒的な量のコジマ粒子が噴出した。腕、脚、胴体、露出している翡翠のフレームから噴き出たコジマ粒子は、瞬く間に辺りを覆い始めた。

 

「『殺シテヤル…………殺シテヤルゾ‼ 貴様ァァァァァァァァァッ‼』」

 

その咆哮と共に、榴雷の両腕と両肩部、両背部に武装が展開された。その兵装は、企業連のーーレイレナードのメンバーであるベルリオーズとその武装を使ったことがあるジョシュアにははっきりとわかった。

 

「お、おい、あのガトリングとコジマキャノンは…………もしや00-ARETHAなのか‼」

「それにあのブレード…………002-Bの()()()ブレードじゃないか‼」

 

00-ARETHAと002-B。レイレナードが開発したネクスト。片や搭乗者の命を喰らい潰し戦場を蹂躙する魔物、片や搭乗者なしでコジマを撒き散らす獣。

もし、この二機が持つ兵装、コジマアサルトライフルとコジマブレード、五連装ガトリングとコジマキャノン。その両方が合わさり、なおかつ00-ARETHAのクイック・ブーストが合わさったとしたらどうなるだろうか。

 

「『貴様カラダ、ナ‼』」

 

瞬間的に榴雷が消えた。

 

「お、おい‼ どこに行ったんだ⁉」

 

一夏が周りを見渡すが、見つからない。

突如鳴ったロックオンアラート。

 

「一夏‼ 後ろ、避けて‼」

「うおっ‼ って、避けらねえ‼」

 

無人機ーーゴーレムは一夏の真後ろに張り付いていた。そして、その手に持つ大型の実体ブレードを振り下ろそうとしてーー

 

「『手ヲ出シテンジャネエゾ、スクラップ風情ガ‼』」

 

榴雷に胴体を斬られた。翡翠の刀身に切り裂かれたゴーレムは実体ブレードを振り下ろすことなく、爆散した。だが、一夏はそれよりも榴雷が何故ここにいるのかが気になった。一夏達が知っている榴雷とは、重機動、重装甲、高火力という、まるで装甲ガチガチ戦車のようなものだ。たとえ内蔵されているブースターなどを見る機会があったとしても、その風貌からは素早く動くというのは想像し難い。

だが、目の前の機体はなんなのだろうか。明らかに榴雷だ。その装甲が証拠である。だが、一つ違うところと言ったら、普段隠れている片側八基のサイド・ブースターが露出していることだ。

 

「『次ハ、オ前ダァァァァァァァァァッ‼』」

 

そして、その八基のサイド・ブースターはすべて00-ARETHA仕様の化物。00-ARETHAのクイック・ブーストは文字通り、視界から消える。もしそれが先ほど榴雷がした物と同じだったら…………納得がいくに違いない。

 

「は、速い‼ あれが、榴雷の動きとでも言うのか⁉」

「そ、そんな‼ あのゾウガメ並に遅い榴雷が⁉」

「音速域⁉ あ、あんな速度、高機動パッケージでも無い限りあり得ませんわ‼」

「何かとぶっ飛んでるわよ、あの機体‼ どうなるのよ、もう‼」

「というか、有澤君は大丈夫なの⁉ 明らかに危険な叫びをしているんだけど⁉」

 

模擬戦をしたこと後ある仲間からは、あまりの変わりように驚きの声が上がった。だが、それよりも心配なのは龍之介だ。いくらISであろうとも、あの速度で動いていればパイロットに多大な負担がかかる。それこそ、命を失う事もあり得る。だが、龍之介は声こそ壊れ始めているが、それでも安定して榴雷を使っている。問題は無いのかもしれない。

 

「『堕チロォォォォォォォォッ‼』」

 

濃縮されたコジマ粒子の塊が二つ、両背部より放たれた。膨大な破壊の光はゴーレムへと突き進む。たとえ、進路上に瓦礫があったとしても、抉りながら獲物を目指す。高濃度圧縮コジマ粒子砲弾をゴーレムはプログラムの果てに避けようと判断したが、それでも左腕と胴体の一部を抉り取られた。もし、これに人間が搭乗しているのであれば、出血多量と多大なダメージによってショック死しているだろう。だが、相手は機械だ。痛みなど感じる事はない。ゴーレムは破損部位からオイルをだらだらと垂れ流すも、残された右腕に内蔵されたレーザー砲と両肩のパルスキャノンを榴雷に放つ。榴雷にとってレーザーなどのEN兵器は天敵である。装甲材質の相性もあるが、何よりプライマルアーマーが貫通属性には大した防御力を示さないからだ。放たれているのは密度の高いハイレーザー。貫通するのは目に見えてわかる、()()()()()

 

キンッ

 

「『オウ、マダ生キテイタカ…………安心シロ、スグニ鉄屑ニシテヤルカラヨ』」

 

榴雷が展開していたプライマルアーマー。その色は、()。通常、コジマ粒子は翡翠色をしている。だが、超高密度状態にて安定環流させる事により、強固な紅のプライマルアーマーを形成できるのだ。それも、厚さ380mmの防壁を。

つまりどうなったかというと、ゴーレムが放ったレーザーは消滅した。榴雷のプライマルアーマーに触れた瞬間にかき消されたのだ。

 

「ーーーー‼」

「『オイオイ、逃ゲンジャネエヨ。大人シクシテロッテノ』」

 

ゴーレムは何か危険を感じ取り後ずさりするが、それを龍之介は許さなかった。一旦、コジマアサルトライフルとコジマブレードを両肩のハンガーに預け、そのハンガーに装備されていた兵装に持ち替える。

 

ーー100mm五連装ガトリング

 

第三世代主力戦車の主砲となんら変わりない口径のガトリングガンが五本束ねられた悪魔の武器。戦艦の装甲すら蜂の巣にしたてあげてしまう破壊力と引き換えに、強烈な反動が機体と搭乗者に襲いかかる代物。もとより00-ARETHAでの使用を前提としたそれを、龍之介は両手にそれぞれ一つずつ持つ。

 

「『アハハハハハハッ‼ ザマアネエナア、オ前サンヨォ‼』」

 

そして、躊躇いなくトリガーを引いた。刹那、響き渡る轟音と地の底から揺れるような振動。そして、飛び散るゴーレムの破片。僅か二秒足らずで、ゴーレムであった物が生産されてしまった。原型はとどめてない。コアに至っては、欠片が一つ残っていただけだ。

 

「リュウ…………お前、もしかしてCODE[G.O.D]を使ったのか?」

 

その凄まじい戦闘を目の当たりにしたオッツダルヴァはふと漏らす。その言葉は、決して大きくはなかったが、はっきりと皆の耳に入った。

 

「…………CODE[G.O.D]だと…………ならば、紅いプライマルアーマーもあの戦闘力も頷ける」

「オッツダルヴァ、その…………CODE[G.O.D]って、なんなんだ?」

 

オッツダルヴァの一言にレギアが頷き、箒が問う。ここにいる企業連のメンバーは知っているが、箒達やIS学園側の一夏達はその詳細を知らない。

 

「CODE[G.O.D]ーー正確には死神(God Of Death)システムとでも呼ぶべき物だな。榴雷にのみ搭載されたあのシステムは、発動後ジェネレーターとコジマドライヴの出力を一時的にリミッター解除時まで引き上げる事が可能だ。あのクイック・ブーストが普通の状態で使えなかったのは、単にエネルギー容量の関係上使えなかっただけだ。そして、このシステム発動時のみプライマルアーマーが紅く染まる。何故だかわかるか?」

「い、いや、さっぱりわからないんだが…………」

「簡単な事だ。あれは、リュウの怒りだ。それも、とても激しい怒りだ。私達はそれを、暴走と呼んでいる」

「で、でも、何がリュウの逆鱗に触れたって言うのよ⁉ いつも、冷徹に無人機どもをスクラップにしてた、あいつがキレる要因なんてあった⁉」

「ああ、あったさ。それも重大なやつが。そいつは、一夏、鈴音、そして箒にも関係があるやつだ。リュウは暴走する直前、戦線を離脱しただろう。あの時、瓦礫の下に観客が埋まっていた。そいつを助けに行ったあと、リュウは激しい怒りをあらわにし、暴走した。リュウは、自分と親しい人が傷つくと激しく怒る癖がある。これで、わかったか?」

「…………その観客の名前は?」

 

箒が恐ろしげに聞く。

 

「ーー鏡音リンだ」

 

その言葉に、一夏と鈴、箒が気を失いそうになった。

 

「な、なぁ、リンは生きてるのか⁉ 生きているんだろうなぁっ⁉」

 

一夏は半狂乱になったかのように、リンの安否を問う。無理もない、長い間バカやったりした仲間なのだ、安否は気になる。

 

「ああ、リュウが救出した。多分今は」

〔学園の医療施設にいる。現在、治療中。あっくんが投与したナノマシンのおかげで傷もふさがり始めてるよ〕

 

突然現れた丸ノコをもった四本脚の機体を見て、セシリアなどをはじめとする専用機持ちはビビったが、その聞き覚えのある声に箒は反応した。

 

「ルリアさん…………?」

 

榴雷のコア人格である、ルリアだ。だが、なぜ四脚の機体を使っている事に疑問を持っていた。

 

〔リンちゃんは無事、だから心配しないでいいよ〕

「そ、そうか…………」

 

一夏はどこか気が抜けたように、ホッと胸を撫で下ろした。

 

〔でも、あっくんがあそこまでキレるのは当然。でも、その怒りはいくらゴーレムを叩き潰したところで消える事はないと思うよ〕

 

その一言を皮切りに、誰も言葉を話さなくなってしまった。ただただ、龍之介の戦いが終わるのを待っていた。

 

 

その龍之介はというと、

 

「『潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ‼』」

 

立て続けにコジマアサルトライフルを三連射、一機のゴーレムをコアと頭部と右腕を破壊し、背部のコジマキャノンでもう一機のゴーレムの上半身を消し飛ばしていた。

 

「『ブッ壊レタ人形ゴトキガァァァァァァァァァッ‼ オ前ラナンカニ、誰カヲ傷ツケテイイ権利ナンザネエンダヨ‼』」

 

残った一機のゴーレムに、躊躇いなく五連装ガトリングを浴びせ、すれ違いざまに一閃、その胴を斬り裂いた。残ったのは、先ほどからちまちまと榴雷に攻撃を仕掛けてきているクラーケンだけだ。

榴雷はスラスターを吹かし、その重厚な機体を宙に浮かせる。それもかなりの速度で。気がつけば、榴雷はクラーケンの上に乗っかっていた。

 

「『ドウヤラ貴様デ最後ノヨウダナ』」

 

榴雷はコジマブレードを起動、高密度コジマ粒子の刀身を展開する。そして、それでクラーケンの上面装甲へ突き刺した。しかし、それだけではダメージが伝播しないのか、クラーケンは落ちる気配が無い。榴雷はコジマブレードを量子化すると、背部のコジマキャノンを手に取り、それを先ほど開けた穴にぶっ刺した。

 

「『恐レルナ、死ヌ時間ガキタダケダ』」

 

放たれるのは高濃度コジマ粒子。それは、縦一直線にクラーケンのジェネレーターとコアを貫いた。動力を失ったクラーケンは、地に落ち、そして、盛大に爆ぜた。それに遅れて榴雷も降りてくるのかと思いきや、

 

「『チィッ‼ ソコニイタノカヨ、屑ガ‼』」

 

何故か上空へと飛び上がった。その行動に皆は一様に首を傾げたが、レーダー範囲がどの機体よりも広い簪にはその理由がわかった。

 

「もう二機…………アリーナの上空にいる‼」

 

上空60メートルへと飛び上がった榴雷は、その機体を直ぐに見つけた。

片方はアメリカ第二世代IS[ファング・ハウンド]。主兵装にアサルトライフルとサブマシンガン、副兵装にコンバットナイフを装備した近距離白兵戦機。

もう片方はイギリス第二世代IS[メイルシュトローム]。主兵装に大型の実弾スナイパーライフル、副兵装にナイフを装備した遠距離狙撃機。

どちらも榴雷にロックオンを合わせている。

 

「クソッ、無人機はお釈迦になっちまったのかよ‼」

「それでも、この損害はいいんじゃないんです? いい成果だと思いますわよ」

「『フザケテンノカ、オ前ラ?』」

 

搭乗者である女達の会話を聞いて、龍之介の怒りがまた溜まった。

 

「ふざけてなんていませんわよ。どうせ、中にいる人間は金もない価値なき人間ですもの」

 

女がいったその言葉は、龍之介の逆鱗に触れてしまう結果となった。

 

(価値がないだと…………‼ ふざけんじゃねえよ‼)

「『人ノ価値ヲ決メルノハ金ノ差ジャナイ、ソノ人ノ器ノ差ダ‼』」

 

龍之介がそう叫んだ時、榴雷の中心にプライマルアーマーが収縮された。女達は何が起こるのかさっぱり想像できていなかったが、地上にいるベルリオーズはわかった。

 

「あれは…………まずい‼ 退避しろ‼ この辺り一帯が消し飛ぶぞ‼」

 

ベルリオーズが必死な声で叫ぶ。

 

「どう言う事だ⁉」

「ただのアサルトアーマーじゃないの⁉」

「違う…………‼ あれは企業連が生み出した中で最狂最凶の戦術兵器だ‼ すぐにここから、退避しろ‼」

 

その言葉を皮切りに皆一斉に逃げ出す。シェルターの中にいた人間も、ここから戦いがどうなるかわからず、すでに別の場所へと退避していた。そして次の瞬間、

 

ーー眩い翡翠色の閃光が辺りを埋め尽くし、光が収まった頃にはアリーナの約半分が消し飛んでいた。

 

「お、おい、マジかよ…………夢なら覚めてくれ」

「こ、これが…………榴雷のアサルトアーマー」

「な、なんなのこれ…………ふざけてるの?」

 

その惨状を目の当たりにした彼等は言葉を失った。たった一撃でここまで損壊したのだ、何も言えなくなるのは普通の事なのだろう。ベルリオーズが言った事は強ち間違いではなかったと、彼等は認識した。

そして上空でも変化はあった。

 

「そ、そんな…………嘘よ‼ あ、ISが、跡形もなく蒸発するなんて‼」

 

メイルシュトロームは狙撃のため距離をとっていたからいいものの、近中距離戦を意識していたファング・ハウンドの方はアサルトアーマーが直撃。いくら絶対防御があろうとも、その威力に耐えることはできずに、コアと装甲もろともコジマの光と共に消えていった。先ほどまで仲間だったやつが突然消え、圧倒的な恐怖を見せつけられた彼女は、身体が動かなくなっていた。

 

「ひ…………ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ‼」

 

そして、かろうじて反応したブースターによって離脱したが、それも運の尽きだった。

 

「『逃ガスワケネエダロ‼ クタバレ‼』」

 

ーー武装選択

ーーOVERED WEAPON012、起動

ーーCODE[HUGE BLADE]、承認

ーー各部異常なし、OW012起動します

 

榴雷の背部に展開されたトゲトゲの物体。その中より取り出されたのは、巨大なバーナー。そこから噴出されるのは高密度のレーザー。それを逃げる女めがけて、龍之介は躊躇いなく振り下ろした。

 

「いやぁ…………やめ、死にたくなーー」

 

最後まで言わせてもらうことも叶わず、その高密度レーザーによって女は蒸発した。

ヒュージブレード。

一キロを超える刀身を持つ、破格のレーザーブレード。たとえスナイパーであっても逃げる事のかなわない、オーバードウェポン。龍之介はその兵装を格納すると、地上へと降り立った。

 

ーSUB SYSTEM 01[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 02[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 03[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 04[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 05[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 06[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 07[LINK OUT]

ーSUB SYSTEM 08[LINK OUT]

ーMAIN SYSTEM NOMAL MODE

 

そんなマシンボイスが聞こえたのち、榴雷は解除された。それは、死神の宴の終わりを告げる一つの鐘でもあった。

 

 

 

 

 

「がふぁっ‼」

 

榴雷が解除された俺は、猛烈な吐き気と眩暈に襲われた。きっとこれは死神システムの影響だ。一時的にリミッターと各部の安全装置すら解除してまで、破壊を続ける魔のシステム。万が一と備えて搭載してみたものの、ここまで反動がくるとはな…………。

 

「龍之介‼」

 

俺が倒れた時に、箒が全速力でこっちに向かってきた。だが、目が少し紅い。多分、AMSを通じて脳へと流れ込んだ情報を処理できずに脳の血管がイカれたのかもしれない。というか、逆流寸前だった。案外、あの占い、当たるんだな…………。

 

「龍之介‼ しっかりしろ‼」

「…………あ、箒…………無事か…………?」

「ああ、みんな無事だ‼」

「…………そ、うか…………それな、らい、いんだ…………ぐぁぺっ‼」

 

やべっ、内臓やっちまったかも。血を吐いてしまった。

 

「しっかりしろ‼」

「…………なーに、俺は大丈夫だ…………」

「お、おい‼ 大丈夫じゃないだろ⁉」

「…………やっぱ、重装機で…………あの機動は、無理だわな…………ははは」

 

あー、もうなに泣きそうな顔してんだよ。俺は紅の霞がかった目で箒の頭の位置を確認しながら、撫でてやる。

それからどれくらいたっただろうか。俺の意識は、完全にブラックアウトした。

 

 

 

 

 

第四アリーナから約四キロ離れたところに位置する医療施設。そこに龍之介は運ばれた。

 

「龍之介‼ 気をしっかりもてよ‼ 死んだら、お前を水底に沈めてやるからな‼」

「リュウ‼ お前自分の作ったシステムで死ぬんじゃないぞ‼ 死んだら、お前を嘲笑い続けるからな‼」

 

すでに医療用ナノマシンが注射器五本分打ち込まれている。また、その他の回復薬と呼ばれる注射も打たれている。だが、まだ回復する兆候は見せていない。

 

「そこ、どいてくれ‼」

「わっ‼ って、今のは…………龍兄⁉」

 

丁度負傷のため入院する羽目になっていたリンも今は回復して歩けるようになっているわけだが、廊下を歩いている途中に龍之介が乗ったストレッチャーとすれ違った。

 

(え…………でも、なんで龍兄が…………私を助けてくれた時は、まだ元気だったのに…………)

「あ、リン‼」

 

その時入口付近から走ってくる影が二つ。元々学園祭できていたミクと、後から呼ばれてきたレンだ。

 

「リン、怪我の方はもういいのか?」

「うん、龍兄が打ってくれた注射でよくなったよ。でも…………」

「どうしたの?」

「今、龍兄が運ばれて行ってーー」

『ダメです‼ 心臓のパルスがどんどん弱っています‼』

『なら、あれだ‼ グレネードを飲ませてやれ‼ リュウならそれで生き返るはずだ‼』

『できません‼ そんな事できるはずない‼ もう一度心臓マッサージだ‼ 急げーー』

 

突然、聞こえてきた慌ただしい声に、リンは振り返った。そこには、光っている『EMARGENCY』の文字が。

 

『心拍数0…………心臓が停止しました…………』

「う、そ…………だよね?」

『どけ‼ 私が心臓マッサージをする‼ 頼む…………生きてくれ、リュウ‼』

『龍之介‼ 逝くな‼ 私を…………私をおいていかないでくれ‼』

「そ、そんな…………龍兄、龍兄ぃぃぃぃぃぃぃぃっ‼」

 

リンの悲しい叫び声は、医療施設の廊下にこだました。彼女は溢れる涙を抑える事ができず地面に座り込んでしまった。その時だった、点滅していたランプが消えたのは。

 

 

 

 

 

(う…………うん? 何処だ、ここは?)

 

俺は辺りを確認しようと目を開けるが、まだぼんやりとしか見えない。なんだろう、何かが乗っているのはわかるが、わからん。あ、義眼に眼帯がつけられているな。感触でわかる。

 

「箒…………リン…………」

 

はっきりと目が見えるようになって、俺に乗っているのを確認した。どうやら俺は医療施設に寝かせられているらしい。どのくらい寝ていたのだろうか。多分、相当寝ていたのかもしれない、外暗いし。多分、箒は俺の意識がブラックアウトした時からいるし、リンはどのタイミングできたのかわからんが、きっと長い間いるに違いない。ルリアが入院させたからな、まぁ、脚に巻かれた包帯は取れてないようだが。

 

「ん…………うん…………龍之介ぇ…………置いていかないでぇ…………」

「うぅん…………龍兄ぃ…………行っちゃダメぇ…………」

 

全く…………無防備に寝やがって。俺がもし野獣だったらどうするんだよ。いや、襲いませんけどね。第一、襲ったら襲ったでセクハラ扱いか、箒に斬られるか、リンの蹴りが顔面にめり込むかのどれかだろきっと。

 

「心配かけたな…………お前ら。何処にもいかんよ、俺は」

 

スヤスヤと眠る二人の頭を起こさないように優しく撫でてやる。だが、すでに起きかけていたのか、感づいたのか、二人は起きてしまった。

 

「…………」

「…………」

「よ、起きたかい、眠り姫達」

 

一瞬の間の後

 

「えぇぇぇぇぇぇぇっ⁉ り、龍之介⁉ お、起きていたのか⁉」

「り、龍兄⁉ い、いつから起きていたの⁉」

「いや、さっき起きた。でも、お前ら寝ていたからな、起こすのもなんだからそのままにしていたんだ。頭撫でちゃったけど」

「…………ぷしゅー」

「り、リン⁉ お前、顔が紅くなっているぞ‼」

「多分恥ずかしかったんじゃないのか? 兄と慕っているお前に撫でられたから」

「そういうもんか?」

「そういうものだろう」

 

とりあえず、話題を戻そうか。

 

「ところでさ、学園祭ってどうなった?」

「中止になった。あれだけのことが起きたんだ、中止になるのも当然だろう」

 

だよなー。死神システムの発動中にも、俺アサルトアーマー使った記憶あるし…………アリーナ吹き飛ばしちゃったからなあ。損害賠償払わせられんだろうか。

 

「まぁ、こんな事いうのもなんだけど無事に終わって良かった。お前らも大した怪我してないようだし」

「よくないよ‼」

 

突然リンが声を張り上げて言う。何が良くなかったのだろうか。いいじゃん、リンも怪我したけど重傷ではなさそうだし、一番怪我したの俺だけなんだからさ。それに俺、カニさん並に再生速度早いし。

 

「確かに私達は龍兄ほどの怪我をしてないから、龍兄にとっては良かったのかもしれない。でも‼ 私達にとってはそれが一番苦しいの‼ ここから帰ろうとした時、龍兄の心臓が止まったなんて聞いた時なんて…………本当に、嫌だったんだからね‼ 龍兄が私達の前からいなくなるのがさ…………うぅぅぅぅぅっ」

 

リンは次第に涙を流し始め、その涙を両手で拭う。

 

「龍之介、お前が私達を守ってくれるのは嬉しい。だが、私はそこまで弱くなったつもりはない。私が力を得たのは、お前に貰った恩を少しずつ返していきたいんだ。確かに私達は弱いかもしれない。でも、少しは手助けだってできる。だから、全部一人で解決しようとするな」

「…………誰からそれを聞いた?」

「オッツダルヴァだ」

「…………あとでしめとこ」

 

オツダルをあとでしめる事は確定だな。浮き輪で島流しさせてやろ。

 

「とにかくだ、お前は一人じゃない。お前は正面から突っ走る奴だから、絶対何処かの壁にぶつかるだろう。一人だったら越えられない壁でも、あと二人いたら越えられるだろ。それと同じ事だ」

 

そう言って、箒はにっこりと微笑む。全くもって、俺にはもったいないくらいいい嫁さんだ。

それにリンもリンで、俺の事を心配してくれていた。本当の妹みたいに思えてきた。

 

〔二人だけじゃないよ〕

 

俺の胸にあるドッグタグからホログラムでルリアが現れる。

 

〔私はデジタルデータとマシンとしてしか生きられないけど、あっくんの事は全力で支えるよ。それが、今の私ができる最高の恩返しだから〕

 

ルリアの言葉に俺は逆流する何かを感じた。でもこれは不快じゃない、むしろ暖かい。

 

〔あっくん…………泣いてるの?〕

「龍之介? 泣いてるのか?」

「龍兄? なんで、泣いてるの?」

「え…………」

 

気がつけば、俺の右眼と左眼、そのどちらもから涙が流れ出ていた。嘘だろ、俺の右眼はもう機械の筈だ。涙腺なんてとっくの昔に失っているのに、何故か止まらない。

俺は二人を抱き寄せる。突然の事に驚かせてしまったようだが、俺に抱きついてくる始末だ。

 

「俺には、死神だの鴉だの山猫だの、そんなの関係ねえ‼ 俺はその頂点に立つ龍だ‼ 俺の盾と火力はお前等を守るためにある。俺はお前等を守る‼ だから、お前等、俺の背中は預けたぞ…………‼」

「ああ‼ 確かに承ったぞ‼ 心配するな、お前の背中を預けられるのは私しかいないだろう? 私の背中も頼んだぞ…………‼」

「私は一番、何も力ないけど…………二人に元気をあげられるような歌を作るから‼ だから、私にも力をわけて…………‼」

〔私の盾と火力はみんなだけ守るんじゃない。あっくんも含めたこのメンバーの事だよ。私はこの場所を守る。だから、みんなも力を貸して…………‼〕

「ああ…………わかったぜ‼ その思い、確かに伝わった‼」

 

俺はより一層、強く抱きしめる。それに応えて、二人も力ををいれてくる。ここにいる全員の思い、俺にはしっかりと届いた。盾の枚数は変わらないが、矛の本数は増えたかな。少なくとも新しく一本は。でも、俺の身体はもう化け物レベルだ。薬物の過剰投与に義眼と義手の接続手術、そしてAMS。この時点でもう人間やめてね? でも、こんな俺でも、人並みの意思はあるからな。まだまだいけるぜ、箒、リン、ルリア。

 

「そういやさ、今日は夜にしてみりゃ、やけに明るいんだが?」

「今日は満月か…………明るいのも無理はない」

「そうか。そうだリン、お前ちょっとこっちにこい」

「なに、龍兄?」

「そこからじゃ月が見えないだろ。俺の膝の上にでも座れ。綺麗なもんだぞ」

「そ、そう? じゃお言葉に甘えて」

 

俺はリンを俺の膝の上に座らせる。この方が月とかは見やすいだろう。まぁ、こうやって触れ合っているわけだが、俺は決してロリコンではない。リンはあくまで妹扱いしているだけだ、その事を忘れんなよ。

 

「わぁ…………綺麗…………」

「そうだろう?」

「うん!」

 

リンも喜んでくれたようで何よりだ。偶然、窓ガラスに映った俺と箒とリンの姿を見て、俺は呟いた。

 

「…………これじゃ、まるで美女と野獣だな」

「それは違うな」

 

俺のふとした呟きに箒が反応する。彼女は、俺の隣に座った。

 

「お前は野獣なんかじゃない。リンのよき兄貴分で、ルリアさんのパートナー、そして私の婿だ」

 

そう言って、箒は俺に寄りかかってくる。俺は、言葉として返す事はしなかったが、なんとなく、言いたい事の意味はわかった。

少し強いくらいの月明かり、その光は面会ギリギリまでいた箒とリン、そしてホログラムとして現れたルリアと俺を優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

「…………い、一兄、なんかすげえ入り辛いんだけど、この空気」

「…………言うな。見舞いにきてみりゃ、なんだこれは。ブラックコーヒー必要じゃねえか」

 

なお、見舞いにきていた一夏とレンが三人+一の醸し出している空気により、病室に入れなかった。もちろん、龍之介はその事を知らない。

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