インフィニット・ストラトス 火力と愛と絆と 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
学園祭の襲撃事件から二週間の時間が流れた。戦場となり、無残な姿になった第四アリーナも、現在はその姿を取り戻し、多くの生徒が訓練に明け暮れている。
また、散乱していた襲撃機ーーゴーレム十二機、大型機動兵器[クラーケン]の残骸も処理され、その残骸は企業連側の方に回された。というのも、学園側で所持した場合、各国からの重圧がかかるからとの事だ。その点、企業連は比喩抜きで世界に戦争をしかけられるほどの戦力を有しているため、どの国も手出しはできないのだ。
なお、襲撃してきたファング・クエイクとメイルシュトロームの完全撃破についてだが、どちらも搭乗者、外装、コアのすべてが蒸発していたため、アメリカとイギリスはIS学園側からの非人道的行為であると主張。だが、この事態に企業連戦闘部隊第一小隊副隊長オッツダルヴァ・テルミドールが反論。企業連側は、アメリカ及びイギリスがIS学園への不法侵入、及び攻撃してきたものとして、学園祭の真っ只中、観客や生徒を守るために武力を行使したとの見解を示した。現在も協議は続けられているが、未だに終わるめどはたっていない。
そんなこんなで、経済情勢やら国際法の適用やら言われている中、IS学園学生寮はいつも通り平和であった。
「あ、一夏、おはよう。今日も早いんだね」
「ああ、シャルか。流石に身体を鈍らすわけにはいかないからな。それに、こいつもある事だし」
「白牙の事? 確かにあの機体はブースターも補助スラスターも多いからね。速度は早いけど安定性能は低いよ」
「そうなんだよ。ちょっとスラスター点火しただけで、アリーナの端から端まで飛ぶかと思ったぜ」
「私のホワイト・グリントと比べれば遅いが」
「ジョシュア、お前と比べられるのは酷な事だと思うぞ。お前の速さは、異常だ」
「…………まだ俺は追いつけてないのか」
「れ、レギア? もう速さは求めなくてもいいんじゃない? すでに十分速いし」
「油断するな。レギアは優秀な戦士だ。オペレーターのお前が操縦者を侮ってどうする?」
「まぁ、それも言えてるよね。後方支援機だからわかるけど、何気指揮する人間って大切だからね」
「特にミサイル援護の時はレーダー以外にも頼る必要があるから。そういう点では、油断は禁物だよ」
「簪の言う事には間違いはない。フィオナ、お前はもう空気で構わん」
「おやおや、今日は皆早いようだな。珍しい、何かあったのか?」
「それよりも皆さん、そろそろ時間も時間ですので、朝食と参りましょう」
何気無い普段の一場面。この中に二週間前の戦闘の跡は残ってはいないように見える。だが、あの時見た死神の姿。その姿を誰一人として忘れたわけではない。友人の突然の変化に戸惑った者もいるだろう。普通の人なら存在を排斥するかもしれない。しかし、彼らの中に芽生えた『絆』というネットワーク。その力は、恐怖よりも友としての信頼を強くし、疑いを消すものであった。
「セシリア、朝餉にするのは一行に構わないんだが…………誰か、龍之介を見たものはいないか?」
箒のその一言によって、皆が薄々と気づいていた事が明確になる。いつもなら、誰よりも早い龍之介がこの場にいる筈なのだが、彼がいない。
するとオッツダルヴァがふと口を開いた。
「そういえば、今日だったな…………もうあの日から六年経つのか…………」
窓の外へと視線をそらすオッツダルヴァ。その瞳には、悔しさと無念が込められていた。それと同時に、僅かな怒りも。
俺は今、立ち入り禁止エリアにいる。日本政府が全力で秘匿したこの地区は、現代の日本において最も血を流した量が多いと思う。なぜなら、ここは白騎士事件でミサイルの被害を受け、800人が亡くなった場所だからな。
情報統制が取られ、この地区の詳細なデータは一般市民に伝わることはない。だが、俺はこの惨状を見てもらいたい。
破壊された建物。
抉られた道路。
人気の失せた街、その表現がここまでしっくりくるとは…………とても悲しい。
「おう、久しぶりだな」
俺は忽然と立つ石碑の前に立つ。そこには亡くなった人々、800人が記名されている。
「毎年ここにきているが…………済まない、お前達を俺たちは守る事ができなかった」
俺はこの場にくるたびに無念がこみ上げてくる。六年前の白騎士事件。あの時、俺も海上にいた。GAの強固なフレームを採用した[SUNSHINE]をベースにオートキャノンを装備した面制圧特化。確かに序盤なら大して苦労もしなかった。だが、問題はその後だ。核弾頭が混じっていたら、誰だって焦る。あの時、俺たちは核弾頭を切り離すという手段をとった。弾頭に衝撃を与えてしまえば、核が撒き散らされ、汚染が始まる。それだけは避けたかった。
結果として、核が日本に落ちる事はなかった。だが、俺のオートキャノンでも、オツダルのライフルでも、たった一発のIRBMを破壊することはできなかった。幸いにも核弾頭は搭載されてはいなかったが、代わりに高性能戦術爆薬が込められており半径六百メートル近くが吹き飛び、瓦礫の山と化してしまった。それと同時に多くの命も…………。中には産まれたばかりの子供もいたらしい。だが、その命の若芽を俺たちが枯らしてしまった。
これは、完全に俺達の落ち度だ。責められても、反論する事などできない。
罪滅ぼし、というわけでもないが、この地区にいた人間の命が成仏できるように、俺は手を合わせて祈る。決して、伝わる事のない祈り。それでも、俺は祈りをやめない。大切な命を奪った俺の贖罪が晴れる事のないように。
「…………もう時間だ。また来年、必ずくるからよ。待っていてくれ」
去り際に、石碑の前に持ってきた花束を置く。そして、後ろを振り返った時、
「え…………龍之介、さん?」
「ルカ、か…………?」
そこには俺と同じように、花束を手に持ったルカがいた。
「なぜ、ルカがここにいるんだ? ここは立ち入り禁止だ。一般人は入れない筈だぞ」
「そういう龍之介さんだって、ここにいるじゃない」
「まぁ、それはそうだが…………」
まぁ、無断と言えば無断だな、国には。てか、石碑立てたのって企業連が勝手にしたことだし。名前調べ上げるのが大変だった。でも、こうでもしないとここにいた人間の証がなくなってしまうと思って、この石碑を作ることにしたんだった。亡くなった約800人の意思をこの世に残すため、風化させないため。
「ところで龍之介さんは…………墓参り?」
「そんなところだ。そういうルカも、墓参りか…………」
「うん…………亡くなった両親の、ね」
ルカは涙を流すことはなかったが、その顔は深い悲しみに包まれていた。俺はそういう表情を見る度に、心がどんどん締め付けられていく。
だが、だからと言って俺に何かできる筈もなく、ただ歯噛みするしかできなかった。あの時、俺がもう少し早く気づいていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
「父さん、母さん、皆元気に過ごしているよ。私も、皆の面倒を見るのが大変だけど、毎日元気に過ごしているわ。疲れるだろうって? ううん、あの子達の笑顔さえあれば、私はまだまだ頑張れるよ。話したいこと沢山あるけど、それはまた今度ね」
ルカはそう言ったあと、静かに目を閉じ、合掌。短いようで長い祈りを彼女の両親に送った。
さらに胸を締め付けられる俺。罪なき人間がこうして命を落とすことに俺は、心が痛む。そして、こうして残された家族を見るのも辛い。ただ、現実から逃げているだけなのかもしれない。前に一夏に過去と向き合えと言ったけど、向き合うべきは俺だ。きっとそうだ。
「ルカ…………あの日の事を知りたくはないか?」
「あの日って?」
「この街がこんな惨状になった日のことだ」
「龍之介さん、知ってるの?」
「ああ。あの日の事は忘れられない。丁度、今日みたいに晴れていた日だったよ」
いつの間にか俺はあの日ーー白騎士事件の事を話し始めていた。
日本にミサイルが撃ち込まれた事。
白騎士が迎撃して日本には被害がなかったこと。
だが、それはあくまで表の部分だ。
あの日、企業連も日本海上空でミサイルを迎撃した事。
とにかく撃ち落としていた事。
そして、迎撃し損ねたミサイルがここに落ちた事。
あった事をすべて話きり、ルカはどこか納得したような表情になる。それもその筈だろう、国からは交通事故と伝えられ、墓参りに来てみればこの惨状。納得できないのが普通だ。
「ルカ…………俺たちを許してくれるか?」
「え…………?」
俺は自分で気がつかないうちに土下座をしていた。俺の謝罪の思いはこんな安っぽい土下座程度では足りない。
「…………あの日、ミサイルの迎撃部隊をし切っていたのは俺なんだ」
「…………」
「俺がもっと早くミサイルの存在に気づけていれば、こんなことにはならなかったはずなんだ…………」
「…………」
「すべては俺の責任だ。勿論、恨んでくれても構わない。それよりも酷い過ちを犯してしまったんだ。恨まれても当然だ」
「…………」
「許しは請わん。だが、これだけは知っていて欲しい。ミサイル迎撃部隊の人間は、全力で日本を守りたかったんだ。企業連の皆は、日本が第二の故郷。失いたい奴なんて、誰一人としていなかった事、それは心のうちにとめていてくれ」
長々とした俺の話を、ルカは黙って聞いていてくれた。何も、俺は許しを請うつもりなどない。恨まれても、それが当然。俺が刺されてもおかしくはない。
「…………いいのよ、もう」
「はい…………?」
しばらく経った後、ルカは口を開いた。そこから出て来た言葉は、俺の予想を超えていた。
「過ぎたことは悔やんでも仕方ないし、龍之介さんだって必死だったんでしょ? それに…………今の龍之介さんの顔は、見るに耐えられないから…………」
「どういう意味だ…………?」
「だって…………とても辛そうで悲しい表情をしているもの…………」
どうやら、いつの間にか顔に心のうちに隠した思いが滲み出ていたようだ。ああ、確かに辛い。あの時の爆発は未だに忘れることはできない。そして、引き裂かれた家族を作ってしまった事は、辛いし悲しい。
俺は、過去から逃げていたんだろうか? それすらもわからない。だが、それでもあの時の思いまで捨てた覚えはないはずだ。
「そうか…………出ていたのか」
「ええ。それに、私はあなたを責めるつもりはないわ。両親が死んだのはあなたのせいじゃない、ただの偶然よ」
ルカの言った何気ない一言。その一言に、かつて傷ついていた心が塞がるようにも感じた。その一言に俺はどれだけ救われたのだろうか。
「…………ありがとう」
俺はようやく探し当てた言葉を紡ぎ、深々と頭を下げた。謝罪と感謝、その二つの意味を込めて。
「いいわよ。そのかわり、また今度、あの魚料理を皆に食べさせてね」
「…………了解した。そのくらいはお安い御用だ」
というかそんなので良かったらいくらでもやったるわ。
丁度、話も献花も終わり、学園に戻ろうとした時だった。不意に通信が入った。入電先は、楯無か。
「どうした、楯無。非常事態か?」
『ええ、その通りよ。とにかく、直ぐに学園に戻ってきて‼ 企業連の皆は本部戻りで、学園の持てる最高戦力はあなたしかいないの‼ とにかく、急いで‼』
楯無からの通信はそこで切れた。声からして、相当切羽詰まっているかのように思える。こいつはまずい、本能的にそう感じ取った。
「すまん、ルカ。俺は学園に戻らなきゃならねえ。ミクやリン達によろしく言っておいてくれ」
「わかったわ…………それじゃ、またね」
ルカに別れを告げると、俺は榴雷を展開、オーバード・ブーストで学園へと戻った。
「楯無、状況は‼」
学園地下五十メートルに位置する、中央管制部。ここに、現在戦える総戦力が集められた。
と言っても、俺、箒、一夏、シャルロット、セシリア、鈴、ラウラ、簪、静寐、楯無だが。
オツダルをはじめとする企業連の主力は皆、本部戻りだ。というのも、親父からの命令だから仕方ない。
「現在、第二層まで何者かが侵入しているわ。おそらく、米中露英の合同部隊の可能性がある」
「ここまでのルートは何本ある?」
「通路が一本だけ…………そこ以外通れる場所はないわ」
「よし、わかった。だが、メインサーバーへの侵入はなかったのか?」
「ちょっと待って」
簪はディスプレイを展開すると、メインコンピューターの接続プラグに繋ぐ。そして、相変わらず目に見えない速さでキーボードを打っていく。
「やはり…………メインサーバーのログにも侵入された記録がある…………」
「そっちも駆除か…………」
「しかし、ネットワーク上の敵をどう殲滅するつもりだ? ここにハッキングができる奴は簪以外いないぞ」
ラウラがもっともな事を言う。ネットワーク上の敵には、ウイルスを感染させて潰す方法もあるが、他にも方法はある。
「ルリア、来い」
〔はいはーい〕
「学園のメインサーバーにダイブする事はできるか?」
〔そのくらい余裕だよ。擬似コア程じゃなさそうだし〕
「上等だ。それなら、ネットワーク上に入り次第、敵を殲滅しろ」
〔任せて。いけるでしょ、歩?〕
〔勿論。いつでもいけるよ〕
ルリアに呼ばれてか、一夏の肩にホログラムとして歩が出現する。ちなみに俺の肩にもルリアが出現している。
「これなら、大丈夫だろう。後は、通路だけだが、ここは俺がいく」
「どうして? 僕らにだって、拠点防衛くらいは…………」
「そうだ。それくらいは私にだってできるとと思うぞ…………」
箒とシャルロットが何か言いたげな顔をしている。おそらく、自分たちにもできると思っているんだろう。だが、お前達には決して無理だ。
「じゃあ、聞くけど、お前達は生身の人に向かってトリガーを引く事はできるか?」
「「「「「…………」」」」」
俺の一言で、場に不穏な空気が流れる。
「お前らは人を殺した経験なんてないだろう? 普通はそんな経験無くてもいいが、IS乗りは違う。有事の際の戦力だ。勿論戦場にも駆り出される可能性があるだろう。その時、お前達はトリガーを引けるか?」
「…………そういう龍之介はどうなんだよ?」
一夏が俺にそんな事を聞いてくる。
「俺は、躊躇い無く引くさ。生きるか死ぬかの状況じゃ、生きるために殺すしかない。現に俺は三百人近くの命を奪ってきた」
誰も言葉を発さない。ただ、重い空気が流れていた。
「だが、俺だって好き好んで殺しているわけじゃない。守るため、そのためにぶち壊す、それだけさ」
「…………それが聞けて、良かったぜ」
一夏はそう言ってきた。
「流石に、殺人狂になっていたらヤバそうだったけど、本音を言ってくれて良かったぜ」
「そういえば、お前は皆を守りたいんだったな…………」
「ああ。でも、流石に全員は無理だ。だから、俺は今決心した」
そう言うと、一夏は僅かに間をおいてから、再び口を開いた。
「俺は、俺の手が届く範囲の人間とシャル守る。そのためには、人を殺すのも仕方ない」
「いいのか? あれほど殺すということに嫌悪感を持っていたのにか?」
「殺しにかかってくるんだ、殺すしかないだろ…………剣は結局、武器だ。守る為に何かを斬るしかない。だったら、俺の剣は、敵を斬り、仲間を生かす活人剣にしたいんだ」
一夏はまっすぐな目で、そう言ってきた。その目に迷いはない。本心から決めたことのようだ。だったら、俺たちはその意思を尊重する義務がある。
かつて優しさの塊であった青年をここまで変えるとは、一体何があったというのだろうか。これが愛の力なのだろうか。
「…………そろそろ、敵の到達予想時刻よ」
「了解。それじゃ、お前達はここで待機。頼んだぜ」
俺はナーガを展開、唯一の通路へ向かう。
「お、おい、一人で行くのか⁉ 死ぬ気かよ‼」
「何言ってやがる、誰が死ぬって? お前らには見せたことねぇからわからんけど、ナーガの装甲はそうそうブチ抜けんよ」
「そういう問題じゃなくてだな⁉」
一夏は何か焦ったように言っているが、そんな事関係ない。俺は歩みを進める。
ちなみに榴雷を使わないのは、ルリアがコアネットワークからメインサーバーに電脳ダイブするからだ。どうも、擬似コアじゃ無理だしな。あと、重量的な問題。特殊合板の床でもぶち抜くかもしれんし。
「ナーガ、出るぞ…………お前らの手は、まだ汚れなくていいんだ」
俺はブーストを起動、通路を突っ切って行った。
「…………どこまで、一人で抱え込むつもりだ、龍之介は」
「まぁ、龍之介君らしいと言ったららしいけどね」
龍之介が抜けた後の中央管制部には、ただ静けさだけが残っていた。
〔さて、私達も仕事しますか〕
〔そうだね。それじゃ、メインサーバーへダイブするよ〕
ルリアと歩はメインサーバーへ電脳ダイブする。と言っても、ある意味ハッキングのようなものだが。
「…………でも、やはりわからない」
「何が?」
箒が小さく呟いたのを、鈴は聞き逃さなかった。
「いや、龍之介の目がいつもと違う感じがしてだな…………まるで、何かを悲しんでいるような」
「気のせいなんじゃない? 誰だってそういう事はあるわよ」
「だといいが…………」
「はいはい、お喋りはそこまで。敵は通路以外からもくるかもしれない。警戒を怠らないで」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
箒の一抹の疑問は完全に拭う事はできなかったが、鈴のいう事もあながち間違いではなさそうだし、楯無からの命令もある為、今はそっちに集中することにしたのだった。
「さて、接敵までそろそろか…………」
俺は予想接敵ポイントに到着していた。いつ接敵してもおかしくはない。念のため、両手に3500ガトリングを展開して置く。ついでに左肩のショルダーユニットも追加弾倉に変えて、装填弾数は一丁当たり6100程までに上昇した。弾切れとは完全に無縁だな。
(熱源センサーに反応あり…………距離は二十メートルか)
流石、高感度センサーだ。奴らステルス迷彩なんてものつけてるくせに、こっちには丸見えなんだから。
向かってくる兵士、その数ざっと二十人。だが、もっといるのかもしれん。
「総員、発砲用意」
どうやら、奴ら俺を撃つつもりらしい。無駄な足掻きをするもんだな。
「撃てーっ‼」
絶え間無く響く銃声。だが、それは奴らの持つ小銃ではない。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ‼」
「おぅあぁぁぁぁぁぁっ‼」
「し、死にたくね--」
俺の持つガトリングだ。M82バレットと同じ口径の弾丸を秒間二百発の速さで放つ。M82はアンチマテリアルライフル、つまり対物ライフルだ。対物と名のついているとおり、その破壊力は凄まじく、一般車両のエンジンなんて余裕でぶち抜く。人間になんて撃ったら、死体は真っ二つになって吹き飛ぶだろう。ちなみに、これ確か規則で人間には撃っていけない奴だったような気が…………
ともかく、その威力の高い弾丸を撃ち込まれ、向かってきた兵士は次々と無残な死体へと成り果てて行った。
「く、クソ‼ 奴は化け物か‼ 仕方ない、あれを出せ‼」
続いて奴らが出してきたのは、紫の装甲が目を引くISだった。
機体名、[ヴォルフ・ファング]。アメリカの第二世代型ISで、量産機でもある。標準装備ではライフルにグレネード、タクティカルナイフ。だが、ラファール・リヴァイヴに次ぐ拡張領域の多さを持つ。何を装備しているのかは、想像がつかない。
「奴の表面装甲にはリアクティブアーマーがついている。実弾系は弾かれるだろうが、光学系は別だ。レーザーライフルで片付けろ‼」
「おう、任せな、隊長さんよ‼」
そういって俺に放たれるレーザー。そして避けもせずに当たる。まぁ、仕方ないからね、機動性は悪いし。
「よし、やったか⁉」
「た、隊長…………や、奴は、奴は顕在しています‼」
「冗談だろ⁉」
そう、レーザーはTEと呼ばれ、熱量攻撃を意味する。だが、悲しきことに、レーザーは一定距離を進むと威力が減衰する。しかもナーガはTE防御型重量二脚。TE攻撃は俺にとっちゃ無意味だ。
「冗談じゃねえよ。つーことで、お返しのオートキャノンじゃ‼」
ガトリングを一時ハンガーに預け、左手ににオートキャノンを展開。速攻で構え、ろくに照準も合わせずに発砲する。秒間五百発の速度で放たれる小口径弾。ちなみに大きさはスナイパーライフルの弾丸クラス。無論、余裕でえぐれる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ‼ だ、ダメだ退避しろ‼」
「逃がすかよ、バカがぁっ‼」
そして、あいた右手にはスナイパーキャノン。大口径の砲弾を音速クラスでぶっ放す。反動がどうのこうのは知ったこっちゃねえ。強引に腕力で押さえつけりゃいいんだからよ。
スナイパーキャノンの砲弾が直撃したものは、爆散。見事に真っ赤なお花を咲かせた。
「こ、こいつっ‼ 仲間の仇だぁぁぁぁぁぁっ‼」
ヴォルフ・ファングのパイロットは激情したのか、俺に向かって突っ込んでくる。普通なら、退避するしかないだろうが…………
「うっさいんじゃ、ワレェ‼」
左膝の盾で蹴る。つまり、ブーストチャージ。重量二脚の蹴りは並大抵のものなら原型をとどめないほどのダメージを負わせられる。
「ぐほうあっ⁉」
ヴォルフ・ファングは見事に吹っ飛び、地に落ちる。そこに向かっての、両肩に搭載した大型ミサイルのラッシュ。ISが強制解除されるとともに、爆発の余波と、残っていたやつの爆発と破片で、パイロットのバイタルサインは消失した。
周りの惨状は、シャレになってない。壁や床は真っ赤に染まり、肉片が至る所に転がっている。原型をとどめているのは、せいぜい一、二体くらいだろう。てか、俺の装甲にも返り血が相当くっついているわ。
とりあえず、これでひと段落ついたと思いきや、再び対人センサーに反応。数は四十くらいか。
「ふう…………どうやら、満員御礼か」
奴らは相当なスピードでこっちに向かってきている。すでに先頭は見えた。
「全く…………ここから先はなぁ、死んでも行かせねえ‼」
俺は両手にオートキャノンをコール。躊躇い無く、全弾一斉発射を開始した。
〔ここがIS学園のメインサーバーの中枢か…………ずいぶんと広いね〕
〔そうだね。これじゃ、どこに敵がいるのか、わかりにくいかも〕
電脳ダイブをしたルリアと歩は、それぞれの機体を展開し、戦闘態勢にはいる。
歩は所々変わってはいるが、具現化していた頃に乗っていたものと似た、高機動近接機[ホワイト・ファング]を。
ルリアは龍之介が設計した蒼の装甲を持つ高機動機[アギエル]を。
二機が並び立つ様は、何やらふわりとした二人からは想像もつかない物々しい雰囲気を醸し出していた。
〔ところでさ、ルリア。前から思っていたことがあるんだけど…………〕
〔なに?〕
〔なんで右のハンガーに丸ノコを装備しているの?〕
〔え? なんでって言われても…………使い慣れているから〕
〔あり得ないよ⁉ 丸ノコを振り回す少女なんて、病んでいるのだけだからね‼〕
〔そ、それを言うなら歩だって、そんな扱いにくそうなブレードを使っているのよ⁉ 明らかに振りにくいよね⁉〕
〔使い慣れているから問題ない〕
いつの間にか、互いに自分が持つ近接武器に対する意見のぶつけ合いになっていた。これが人の持つ浪漫の行く果てである、多分。
〔とにかく、先に進もう。この先にいるのは確かだから〕
〔了解。早いとこ片付けちゃお〕
二人はブースタを起動、グライドブーストで先を急いだ。
〔ねぇ、あれって…………〕
数分後、歩は何かを見つける。それは
〔人、だよね?〕
人であった。遠巻きだからよくわからないが、銀髪を腰まで伸ばしているということだけはわかる。ラウラがその容姿に合うだろう。
〔とにかく、近づいてみよう。もし、変なそぶりを見せたら〕
ルリアは左手に持つバトルライフルをちらつかせる。
〔おっけー。それじゃ、行ってみよ〕
ルリアと歩はその人に近づいていった。
〔ちょっと、そこの人。少しお話いいかなー?〕
ルリアがそう呼びかけると、何かをしていたような少女は、その手をやめルリア達へと振り向く。しかし、その容姿にルリア達は驚愕した。
〔ら、ラウラ…………?〕
そう、ラウラにあまりにも似ていたから。細部は違うが、大まかなところはラウラと非常によく酷似している。
そのラウラに似た少女は驚愕するルリア達に対して、言葉を放った。
「いいえ、私はラウラ・ボーデヴィッヒではありません。私の名は、クロエ・クロニクル。束様の従者でもあり、そしてーー」
突然、少女の姿が光り出す。それはISを展開する時に放つ粒子の光。
その光を見たルリアと歩は咄嗟に身構える。
ーーMAIN SYSTEM COMBAT MODE
ホワイト・ファングとアギエルのジェネレーターの出力は上がり、戦闘に対応できる程のエネルギーを生み出す心臓が鼓動を打ち始める。
全火器類にFCSが接続され、ヘッドアップディスプレイにロックオンマーカーが表示される。
そして、こちらの戦闘準備が完了したと同時に、クロエの機体も展開が完了していた。
「ーーあなた方を殺す者です」
だが、展開よりも早く、紫の極太レーザーが放たれた。
〔させるかぁぁぁぁぁぁっ‼〕
ルリアは左武装をハンガーシフトする。そして、装備を持ち替えた。
ーー全属性対応シールド
ミグラントが開発した最高の防御力を持つ盾だ。KE耐性20000、CE耐性20000、TE耐性20000、AP180000というトンデモ性能だ。しかし、やはりというか、重量もトンデモ性能。それ一つでオーバードウェポン並の重量がある。
〔ルリア‼〕
〔私は大丈夫! 歩は奴を撃って‼〕
〔任せて‼〕
ルリアはシールドを構えながらライフルで牽制する。それを後ろから、歩がスナイパーライフルとバトルライフルで追撃する。固めて削られているが、クロエは未だ余裕の表情だ。
〔くそ…………なんで、効かないのよ‼〕
「束様お手製のこの機体、[アーマーリザード]にそんなやわな攻撃は通りません」
クロエは右手を構えると、そこからレーザーを放つ。一発目の特大レーザーとは違い、連射をしてくる。
〔くうっ…………いくらレーザーへの耐性があるとはいえ、これはきついよ…………‼〕
〔ルリア、領域のスナイパーキャノンを使って‼〕
〔ダメ‼ 構えたところを狙い撃ちされる‼〕
すでに手が出せない状況が続いていた。アギエルが持つ最高火力、五連スナイパーキャノン。瞬間火力は汎用のパイルバンカー『グレー・スケール』をはるかに超える。最も強固な装甲を持つ打鉄ですら大破する威力だ。だが、スナイパーキャノンはその強大な威力と引き換えに強烈な反動を有する。強引に腕力で押さえつけるということも可能だが、ルリアにも、ましてやアギエルですら耐えられない。その為、構えという姿勢を取らなければならない。その間、一切の移動は不可能、運が悪ければ的にしかならない。
〔なら、私が撹乱する‼ その隙を狙って‼〕
「させるとでも?」
クロエは右手にブレードを呼び出すと歩に斬りかかる。その振りは大きいが、速い。
〔それは、こっちの台詞‼〕
歩は特殊な近接ブレード『白牙』を振り、クロエのブレードを受け止める。
歩のブレードは非常に特殊だ。刀身が折りたたまれており、使用時には展開されるが、刃が肘側に展開されるのだ。殴るような形でなければ使いようはない。
だが、歩はそんな曲者のブレードを使って、標準のブレードを受け止めた。このことから歩はとんでもない技量を持っている、クロエはそう認識した。
「なるほど。やはり一筋縄ではいきませんか、コアナンバー001」
〔…………‼ お前、どこでそれを‼〕
「それに、あなたもでしたね、コアナンバー002」
〔‼ …………何者よ、あなた〕
「先ほども申し上げた通り、クロエ・クロニクル。強いて言えば、コアナンバー000と生体同期しています」
〔生体同期、ですって?〕
「ええ。私の命はどの道散る運命。死にかけの私を拾ってくれた束様は、私の目に力の種ーーコアを埋め込んでくれた。私は束様に恩を感じている。だからこそ、離反したあなた方を許せない。あなた方を殺すのは、束様の命でもあり、私の意思でもあります。…………お話が過ぎましたね。楽にしてください、直ぐに殺しますので」
クロエは淡々とした口調でそう答えると、ブレードを再び構える。
〔…………あんな奴に、恩を返すと思う?〕
歩は、少し声のトーンを低くして口を開いた。
〔あの女は、私の自由を奪った‼ 自分の欲望を叶える為だけに、私の自由を殺した‼ だから私はあの女の元を離れた‼ あの女の言う通りにしていたら、一夏は今頃死んでいたかもしれないんだよ‼〕
自分のパートナーに対する思い。その思いが強い歩は感情を露わにして叫ぶ。
「さぁ? 私達コアは束様の願いを叶える物、そんな事はどうでもいいのでは?」
だが、そんな思いは伝わらんと、クロエは弾く。そんな彼女に対して歩は、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
〔パートナーを大切にしない奴なんかに、わかってもらうつもりなんてないよ‼〕
歩は、ライフルとバトルライフルをクロエに向かって撃つ。だが、アーマーリザードの装甲には傷一つつかない。AP弾に、HEAT-MPですらなかなか削る事ができない。歩は焦っていた。
〔歩‼ 避けて‼〕
「遅いですね」
ルリアが歩に警告を放つも、クロエは歩に対してレーザーを零距離発射した。
〔きゃあぁぁぁぁぁぁっ‼〕
歩の機体はKE耐性こそ高いが、TE耐性は軒並み低い。下手をすれば、光学兵器特有の熱量で溶かされてしまう恐れもある。
機体の耐久値は大幅に減少、機体の展開も危ない感じになった。
「その様子ではまともに動けないようですね。では、終わりとしましょう」
未だ回復しきってない歩に対し、クロエはブレードを構え、振り下ろした。
〔やらせないよ‼〕
だが、そのブレードとそれを持つ右腕は吹き飛ばされる。ルリアが構えた五連スナイパーキャノンによって。圧倒的な貫通力のAPFSDSは関節部に潜り込み、そこから腕を切り飛ばした。
「002、よくやりますね」
〔私を、その名前で呼ぶなぁぁぁぁぁぁっ‼〕
ルリアは構えていたスナイパーキャノンを投げ捨て、ハンガーにかけていた丸ノコ型レーザーブレードを抜き放つ。月光並みの威力を有する丸ノコを、ルリアは躊躇い無く振り下ろした。
「ですが、大して装甲を抉る事はできていませんね」
だが、クロエが少し後退した事により、レーザーブレードは胸部装甲の一部を抉るだけにとどまった。しかし、その残された装甲は、レーザーブレードの熱量で赤々と光っている。
〔こいつで終わりだぁぁぁぁぁぁっ‼〕
まだ装甲を残されていて油断していたクロエは、ルリアの頭上を越えて突撃してくる影に気づけなかった。その影ーー歩は、自慢のブレードを構え、肘打ちの要領で赤熱化している胸部装甲へ突き刺した。
そして、とどめとばかりにスナイパーライフルにあるありったけの銃弾を零距離で叩き込んだ。
その数秒後、アーマーリザードからは小規模ではあるが爆発が断続的に起こるようになった。
「どうやら…………賭けは、私達…………の負け…………やはり一筋縄ではいきませんね…………あなた方は…………」
その言葉を最後に、アーマーリザードは爆発を起こし、クロエもプログラムポリゴンとしてこの世から去った。ルリアと歩はその様子をただ、じっと見ていた。
〔終わったね…………〕
〔そうだね…………〕
〔とりあえず、あっくんに報告しようか〕
〔うん。クロエ…………あんたの事、私は嫌いだったよ〕
誰も見ていないこの戦い。生き残ったルリアと歩は電脳世界から浮上、ダイブを切った。
「そいやそいやそいやそいやぁぁぁぁぁぁっ‼」
俺は未だに減る事を知らない軍団をひたすらガトリングで撃ち抜いている。残弾数は4000とちょいくらい。何分持つのやら。
ここまでISは三機を撃墜、歩兵はざっと二百は超えたかもしれない。
「チクショウ‼ ルリア達はまだなのかよ⁉」
〔呼んだ、あっくん〕
「おお‼ 呼ばれて返事をしたと言う事はーー」
〔敵は撃破。被害自体は殆どなかったよ〕
「了解。あとは、こっちに任せろ」
ルリアとの連絡を切り、レーダーに目をやる。どうやら今きている歩兵部隊が最後の増援らしい。ならば、
「まとめて吹き飛ばしてやらぁっ‼」
俺は両腕にハウザーを展開、そしてろくに狙いもつけずに、ワントリガー。爆薬満載の砲弾が片腕三発ずつ飛んで行く。だが、本当に恐ろしいのはこれからだ。
爆弾などの爆発物の威力は、面積にも関係がある。開けた場所でグレネードを撃っては爆発範囲自体広いがダメージは小さくなる。
反対に閉所空間で撃てば、その爆発範囲はその空間の大きさによるが、狭いほど威力は上がる。つまりは
「撃破、完了」
跡形もなく、歩兵部隊は全滅した。ハウザーの爆発により、外壁も少し抉れたが、歩兵部隊の残った死体は肉片一つ残っていなかった。…………我ながらとんでもない事をやらかしたな。
「楯無、聞こえるか?」
『ええ、聞こえるわ』
「歩兵部隊、サーバー内の殲滅は完了した。一応装備から所属を洗ってみたが、こいつらアメリカとイギリス、ロシアの混成部隊だ。おまけにISまで持ち出していたぜ」
『わかったわ。とりあえず帰還してちょうだい。そこにある死体の処理はこっちでするから』
「了解」
そのまま通信回線を切り、ハウザーを格納する。俺はグライドブーストを起動、サーバールームへ向かった。
「今帰ったぞ」
「お疲れ様、龍之介」
俺が戻ると、箒が紅椿・舞焔を展開しながら出迎えてくれた。どうやら、厳戒態勢でいたらしい。
「おう、こっちの方はなんとかなったわ。機体に返り血がついてるけど」
「ああ…………その様子だと、また殺してきたのか」
「そうだな…………まぁ、仕方ないさ。殺しているんだ、殺されもするさ」
「と、ところで龍之介。その機体の返り血、なんとかしようよ。ぼ、僕たちこういうのに慣れてないから、ね?」
シャルロットにそういわれて、とりあえずナーガを引っ込める。まぁ、返り血を見ていて気分のいい人はそうそういないわな。…………オールドキングとオータムを除いて。
「ちぇ、装甲まるっと洗浄か。面倒だな」
〔どの道オーバーホールの時期でしょ。ちょうどいいんじゃない? 新作パーツに取り替えたりとかしてさ〕
「利点しかないじゃないか」
まぁ、そうするか。とりあえずKE耐性を上げたい。まともなKEパーツは頭部以外ないからな。
「とにかく、みんなお疲れ様。あとは普通に部屋に戻っていいわよ」
楯無さんにそう言われ、俺たちは中央管制室を後にした。
「そういえばさ、なんで龍之介は朝いなかったんだ?」
「ああ、その事か。ちょっとな、墓参りに行ってた」
「先祖のか?」
「いや、六年前の犠牲者の跡地へ、な」
自室に戻った俺は、ベットの上に身を投げ出していた。どうにもな、疲れが取れないんだよ。流石に腕力で強引に押さえつけてスナイパーキャノンを撃ったのが響いているのかも。
ちなみに箒は現在シャワー中だ。それにしても、これで良かったのだろうか。確かに彼奴らは殺し合いを知らないし、死体を見ただけで悲鳴をあげてもおかしくはない。最悪、PTSDーー心的外傷後ストレス障害になるかもしれない。
だが、彼奴らの手を汚したくないなんてのはただの自己満足なのかもしれない。そんな事は俺が一番わかっている筈なのにな。
「ふぅ…………寝るか」
そう思い、目を閉じたその時、通信回線が繋がった。
『リュウ‼ 聞こえるか⁉』
「なんだ、オツダルか。何の用だ?」
『すぐにテレビを見ろ‼ 大変な事になり始めているぞ‼』
連絡をしてきたのはオツダルだった。その声はかなり焦っている。俺はオツダルに言われた通りテレビを付けた。
『本日、国連安全保障理事会より統合軍事企業連合へ宣戦布告ともとれる声明が米中英仏露の合意のもと出されました』
『我々、常任理事国及び非常任理事国を含む各国は統合企業連合、通称企業連へ宣戦布告をする』
なんだこれ? ドッキリかなにか? とかと脳内が混乱し始めた。まぁ、他のチャンネルは流石に違うだろうと思って別のチャンネルに回してみたが、どこも同じ物しか流していない。
「オツダル…………こいつは」
『ああ‼ こいつは間違いない、兎と国家が私達に戦争をしかける気だ‼』
「そうらしいな…………オツダル、親父にこう言っといてくれ。『揺りかごの用意を頼む』と」
俺はそう言うと、通信回線を切った。俺は、おもむろに立ち上がり、壁の前に立った。
「クソがっ‼」
俺は躊躇い無く拳を壁に叩きつけた。衝撃で壁はへこみ、一部はひび割れた。
「…………六年前の悲劇を、繰り返す気なのかよ、この世界はッ‼」