ちょっとしたナザリックのハロウィン。

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ちょっと切ないハロウィンです。


Sentimental Halloween

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロウィン……ですか?」

 

 アインズの執務室に参集した守護者たちの中にあって、まず、最初に疑義を唱えた女悪魔の首を傾げた姿に、骸骨姿の主人は鷹揚に頷いてみせた。

 

「うむ。もともとは収穫祭というものが変化したらしいイベントだが、ふと思い出してな」

 

 ハロウィン限定ボイスの収録という話を、現役売れっ子声優であるぶくぶく茶釜や、そういった宗教関連の知識に富んだタブラ・スマラグディナが話していたのを、深い記憶の底より掘り出したアインズ。

 

「こちらの世界にも収穫祭というものが存在すると、エンリやンフィーレアから話では聞いていたのだが」

 

 彼らが語る村での収穫祭というのは、よく言えば村をあげての「立食パーティー」、悪い言い方になると「乱痴気騒ぎ」といったものになるのが大半で、その日だけは、普段よりも格別に上質な飲食を楽しみ、秋に収穫できた作物の恵みに感謝をささげ、訪れる冬を越すための栄養を十分に蓄えるという一挙両得とも言うべき「お祭り」を執り行うことが、各地の習わしとして根付いているという。

 

「アインズ様、浅学な身をお許しいただきたいのでありんすが、その、“はろうぃん”というイベントというのは、具体的にはどのようなことをするイベントなのでありんしょうかえ?」

「うむ。私も詳しくは知らないのだが、何でもおばけや幽霊、クリーチャーやモンスター、さらには普段の自分とは違う人物や姿形をとって、家々を回ってお菓子や何やらを譲ってもらう……だったか?」

 

 随分と昔に一度、聞いたきりの祝祭のことを、アインズは詳しくは覚えていない。

 無論、ユグドラシルにも、時期イベントとして“ハロウィンモード”なる衣装や道具、家具や内装も実装されており、果てはそのイベント限定のレイドボス――カボチャ頭の彷徨う魂:ジャック・オー・ランターン――などをギルメンたちと狩りに行ったこともある。

 おまけに、期間中は人間種限定の入場が認められているフィールドエリアの入場も解禁されるため、異形種プレイヤーは異形種に仮装した人間や亜人のアバターを持つプレイヤーたちと、肩を並べて、通りを練り歩くこともできたことは、何とも新鮮だった。

 だが、その祝祭の根幹にあるはずの、本来の古代ケルト人の文化を端緒とする宗教的な意味合い「悪霊の姿になって悪霊を追い払う」などや、そうする理由などは、一般企業に働く小卒のアインズの知識が及ぶレベルではない。ヨーロッパの風習であるのは違いないが、キリスト教のイベントと……クリスマスなどと混同して考える一般人もいたくらいなのだから、アインズの無知はむしろ一般的な反応だともいえるだろう。

 とりあえず、不思議な格好で騒ぐイベント――幼い子ども姿のNPCにお菓子(ユグドラシル金貨で購入するもの)をあげなきゃ、問答無用でPKの対象にされるという、常識からはかなり逸脱したような、しかし、異形種でもかなり楽しめるイベント――であったと、アインズは個人的に思っている。

 

「異形種が楽しめるイベントなら、せっかくなので、我が魔導国でも実施したらどうなるかと……そう思ったのだが」

「とても素晴らしいアイディアです!」

 

 アルベドの一声が室内を満たした。

 集まった各守護者たちも同意の首肯と笑みを主に送り続けている。

 

「おもしろそうでありんすえ!」

「マサニ、我等ナザリック地下大墳墓デ行ワレルベキ祭リニ違イアリマセン!」

「当~然! あたしも賛成です!」

「ぼ、僕も、あの、賛成、です!」

「催事によっての人心掌握と種族融和、さらには商業流通の活性化による経済発展……反対する理由など、ありえません!」

 

 シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスの五人にも異論はないらしい。

 なんだか、軽いノリで呟いたことが大事になっている気配を感じるアインズであったが、とりあえず、試験的に導入してから成否の判断を下そうと、魔導王は考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 導入場所として、白羽の矢が立ったのは、アインズが戦争に勝利し勝ち取った人間の都市、エ・ランテルと相成った。

 近場であればカルネ村も候補に加えるべきだと考えられるが、村の住人はゴブリンやオーガ、土木建築作業のゴーレムやサラマンダーの鍛冶師などとの邂逅で、そういった異なる造形への畏怖や動揺は少なく、はっきり言えば免疫ができていた。今さら村の中を異形が闊歩したところで「ゴウン様が何かしてるんだな」ぐらいの認識でスルーすることは明白。さすがに霜竜(フロストドラゴン)の姿には度肝を抜かれていたが、やはり実験用地としては、あまり効果は期待できない。住民の理解や協力はすぐに取り付けられるだろうが、それだとデミウルゴスが目指す経済への直接干渉の度合いも小規模なものに収まってしまうだろうと見做され、あえなく却下された。

 その点、エ・ランテルはアインズの敷いた融和政策が功を奏し、セバスやツアレなどのシモベたちの働きもあって、異形種が闊歩する下地は十分。おまけに祭りによる経済効果を測る尺度としては十分な規模の人口と商業が息づいており、獲得当初は途絶えてしまっていた各都市との貿易――商人などの流入も、今や以前のごとく盛んになりつつある。

 ここを使わない手はないだろうと、ナザリックの智者として双璧を成す二人からのプレゼンに、アインズは無論、ゴーサインを出すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいねぇ、ンフィー」

「そう、だね……エンリ」

 

 カルネ村の族長として、アインズからエ・ランテルで行われる祭りへの訪問と参加を請われ願われていた少女は、恋人と共に、その都市の変わりっぷりに、仲良く目を丸くしてしまった。

 

「すっごーい!」

 

 幌付きの荷馬車に座っていたネムは、旅の疲れで寝こけていた眼を見開き、御者台から都市の光景に見入る姉と将来の義兄(あに)に挟まれる形で、その光景を二人と共有した。護衛として同乗し、御者役を務めていたゴブリンの親衛隊たちも、ほぼ同じ反応である。

 都市を行き交う大量のアンデッド。

 死の騎士(デス・ナイト)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)魂喰らい(ソウルイーター)

 それらは別に、エンリたちの驚嘆するような対象にはなりえない。エンリたちは村ごと魔導国に編入される際に、一度この都市を訪れている上、アインズの正体も、その折に明かされ聞かされ納得していた。

 それらが都市を練り歩くこと自体は、別段不思議ではないくらいに彼女たちは慣らされている。

 しかし、

 

「アンデッドが、子どもたちにお菓子を、配ってる?」

 

 騎士は子供を肩に乗せ戯れやすいように腰を屈め、魔法使いは枯れた細い指で飴や砂糖菓子の包みを子供らに配り、お菓子を満載した荷馬車を伝説級のアンデッドが牽引して運び込んでいる。

 アンデッドだけ、というわけではない。

 通りの道に落ちた食べカスをスライムが通り過ぎる途中に摂取することで清掃が行われ、

 ゾンビたちが広場で信じられないほどに軽快かつリズミカルなダンスを踊って興行をし、

 竜や死鳥が空を舞った後には文字通り色々な彩と模様と造形を凝らした菓子が降り注ぐ。

 さらに、エンリたちが乗る馬車が、アインズが待つ屋敷へのルートに差し掛かろうという時に、それは現れた。

 

「なに、あれ?」

 

 都市でも最も巨大な通りは、普段よりも数倍するほどの人ごみでごった返していた。

 人ごみ……というと、語弊があるかもしれない。

 それは異形の群れだ。

 骸骨が、死体が、幽霊が、悪魔が、天使が、吸血鬼が、妖精が、蜥蜴が、蟲が、獣が、魚が、鳥が、竜が、植物が、金属が、人形が、巨人が、粘体が、触手が、火が、水が、風が、土が、光が、闇が、影が、道化が、魔女が、魔法使いが――他にも意味不明、理解不能な形状と存在、衣装や宝飾で飾られ構築されたものたちで、通りの中央は埋め尽くされ占拠されている。

 そんなものらの行列が、アインズの屋敷へと続く都市の大通りを、延々と続いている様は、まさに圧巻の一言。

 エンリたちは街の見物人たちと同様に、その異種混交といった大行列を観覧しながら、アインズの待つ屋敷を目指す。

 

 

 

 

 

 屋敷へと通されたエンリたちは、それぞれがアインズの用意した思い思いの仮装――エンリは緑色の軍服にベレー帽という姿、ンフィーは顔にツギハギのある闇医者(モグリ)、ネムはピンク色の奇怪な胚子じみた天使のコスプレ――に扮し、魔導王の目を愉しませた。

 

「ははっ。意外と似合うじゃないか、三人とも!」

 

 死の超越者(オーバーロード)であるアインズは、普段の漆黒に濡れるローブ姿から一転、巨大な布のおばけを想起する――には豪奢すぎる、純白と金糸に彩られた最高級のローブに身を包みながら、三人の仮装に喝采を送る。

 と同時に、自分の背後のやり取りを、気づかれないように覗き見する。

 

「あら、その服も割と似合うじゃない? 確か伯爵だったかしら?」

 

 AOGのロゴ入りパラソルを広げるレースクイーン姿のアルベド、

 

「黙っていてくんなまし……失礼、『黙っていたまえ』大口ゴリラ」

 

 男装の麗人として黒マント姿の少年吸血鬼を演じるシャルティア、

 

「何故……何故、私ハ変化ナシナノダ?」

 

 全――然、いつも通りそのままの姿のコキュートス、

 

「ええ~? 私は普段の格好の方が羨ましいけど~?」

 

 貴族の令嬢のような可憐でハイソなドレス姿のアウラ、

 

「お、お姉ちゃん。コキュートスさんは、その、事情があって」

 

 姉に付き従う執事のような燕尾服女中のごときメイド服に身を包んだマーレ、

 

「そう僻む必要はないんじゃないかな、コキュートス? 私もあまり変わり映えしないですし」

 

 半悪魔形態の蛙頭でいるデミウルゴス、といった具合に、各々もまた仮装を楽しんでいる。

 

「……ふふ」

 

 ハロウィンモードに各自着飾った守護者たちにも、同様に感嘆の息をもらしてしまう。

 その様子に感じ入り、守護者たちがめいめいに用意し着飾った姿を見て、あまりにも懐かしいものを――かつての仲間たちと共に、イベントに向かった時と同じ思いを、アインズは自らの内に、生じさせてしまっていた。

 

「やはり、イベントはこうでなくてな……」

 

 他にも、奇妙な海賊に扮したセバスや、その人質(?)役のツアレ、フランケンシュタインじみた化粧の一般メイド、眠る姫の物語に出てくる小人じみた格好のゴブリン親衛隊と共に、都市の練り歩きに参加したエンリたちとアインズ、そして守護者たち。

 エンリたちはその褒美――というか、お礼――として、村の子どもたちにも十分行き渡るほどの菓子を下賜されることになる。

 

 

 

 

 

 三日間限定で営まれたイベントは、割と大きな混乱や惑動もなく、万事つつがなく終了した。今回の祭り……興行で得られた経済的効果は存外に大きく、またエ・ランテルの市民も、さらに異形種たちへの抵抗が薄れていくことになり、アンデッド以外の異形種が都市を闊歩するようになっても、割と早く順応してしまう。

 アインズがその後、ハロウィンという祭典を、魔導国の国事行為にまで組み込んだかどうか、

 それは魔導国の民のみが知るところである。

 

 

 

 

 

【Happy Halloween!!】

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくれたあなたに、感謝の極み。

何とかハロウィン中に投稿できました。
というか、こんな一発ネタですいません。製作時間もあまりなくて。
内容としては、ゲーム時代にあった時期イベントを、アインズ様が懐古するものです。
ユグドラシルでハロウィンイベントがあったかどうかは判りませんが、クリスマスイブにINしてるだけで嫉妬マスクを贈りつける運営なら、これぐらいのイベントがあってもいい気がしたもので。
はてさて、アインズ様の抱く憂いは、晴れる日が来るのでしょうか?

それでは、また次回。     By空想病

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