いや、言い訳はもうできませんので、ただただ謝らせていただきます。
ごめんなさいm(_ _)m
波紋を抜けた先に居たのは、どこ何でもいそうな凡庸な少年だった。赤茶色の髪は質の問題なのか、所々おかしな方向に跳ね上がり、大きく見開いた同色の瞳は、こぼれ落ちんばかりになっている。
そんな耳を劈くような悲鳴を上げた彼が、酷く怯えていることは明白で。
現状の把握をするにせよ、敵対者では無いと思われる為には、先ずこの子供を落ち着かせる事が第一。そう決断したリボーンは、身を縮込ませて怯える子供をこれ以上刺激しないように、慎重に距離を取りながら話しかける。
「驚かせて悪かったな。目の前に人がいるなんて思いもしなかったんだ。……俺の名前はリボーン。ただのしがない赤ん坊だ。お前はなんて名前なんだ?」
なるべく柔らかい雰囲気を作るようにしながらも、リボーンの目は目の前で怯える子供の一挙手一投足を見逃さないように観察していた。
怯えそのものは嘘ではないだろうが、裏社会では追い詰められたものほど、とんでもない牙を隠し持っているものだから、油断などできない。
ちらりと見渡したところ、今居るこの家……いや、これは木で造られた一室だろうか。その広さは二人以上の居住は難しいように見える。何故神社からこのような場所に通じる道があったのか、それ以前に、何故あの時おしゃぶりが、反応したのか、分からないことだらけだが、ここを切り抜けなければ始まらないだろう。
どうやら自分でも予期したよりも遙かに動転していることを自覚して、リボーンは、己を落ち着かせるべく深く息を吐いた。
よくよく考えれば、単なる赤ん坊はここまで流暢にしゃべりはしないし、しがないなどとは使わない。
(これは……警戒させたかもしれねぇな)
ほんの数分前までの己の言動を恥じていたリボーンだが、子供は気にもならないというように口を開いた。
「あの……言葉、しゃべれるんですか?」
恐る恐る尋ねる子供の目に映るのは、ただ……驚愕。
その反応に疑問は抱くものの、コクンと頷くと、子供はジッとリボーンを見つめる。
もしや、赤ん坊の自分が喋れることに驚いているのか。
そこに疑心がないのは喜ばしいことだが、こちらにジッと視線を注ぐ子供の目がどうも気になった。
この子供、当初は十にも満たない程幼いのかと思っていたが、よくよく見ればその背丈は、もう程よい所まで成長している。
小学校高学年。いや、中学生と言っても通じるだろう。
しかしそれに最初気づかなかったのは、偏にその目があったからだ。
ただ無心にリボーンを見つめるそれには、成熟した人間なら持っていて当然の、疑いの眼差しがまるで含まれていないのである。
まるで生まれたままのような。そう喩えても良いと思えるほどに、無垢な清らかさを持つ瞳だった。
(こいつは一体……何なんだ?)
得体の知れない、そのあまりのアンバランスさに、リボーンは、慎重に言葉を選ぶ。
「ここで暮らしてんのはお前一人か? いつからこんな所に住んでんだ?」
発した言葉につられるように、リボーンを見た子供は……そこで何事かに気づいたように大きく目を見開いた。気のせいか、顔も幾分青ざめている。
(……ん? 青ざめている?)
そこにリボーンは疑問を抱いた。
普通ならば、青ざめる原因は恐怖だろう。
しかし、こう言っては何だが、現在のリボーンはそこまであからさまに殺気の類は出してはいない。
(じゃあ一体……こいつは何を恐れてんだ?)
浮かんだ疑問に答えたのは、青ざめ、後退った子ども自身だった。
「ひ……姫さま……!」
ジリリッと、焼けるような殺気を背中に感じて、リボーンは、僅かに息をのんだ。
予想はしていた筈である。赤茶色の髪と瞳。中学生ぐらいの少年。そんな奴が何人も、ほいほいと行方不明になっているはずはない。
だが、同時に厄介だとも思う。
考えてみれば分かることである。
無事であることと、自由であることはイコールにはなり得ない。なにが目的かは知らないが、こんな所に閉じ込められている時点で、ここには、この子供以外で明確に、リボーンに敵意を持つ相手がいても、何らおかしいことはないのだ。
「ネズミがチョロチョロと……! このような所にまで入り込んでおるとはのぅ……!!」
怒りに満ちたその声は、以外と若い。
(いや……若い以上に幼ぇ?)
その事実に、遅まきながらも違和感を覚えて、リボーンはマジマジと、その存在を視認するために、腰を落ち着かせようとする……が。
「ひ……姫様っ! ちょっ……待って……っ!!」
切羽詰まった少年の声を合図に……木製の小屋。後に、社だったと判明するそれは、突風によりバラバラに崩れ落ちた。
「……子ども?」
思わずそう零してしまったが、いざ冷静になれば、何ともシュールな展開だろう。
赤ん坊と幼女。
一般的にはどちらも弱者とされるが、その二人の纏う気配は明らかに常人の物ではなかった。
「貴様は……!」
鋭くこちらを睨むのは、菫色の混じった紫色の髪を垂らす、平安時代の姫のような十二単の少女だった。
年はおそらく十には満たないだろう。
(五つ……いや、もっと下の可能性は有るな)
しかし、どのような姿でも、戦うとなれば手心を加えてやるつもりはない……それをやれば、死ぬのは己となるだろう。
「そのおしゃぶり……
しかしそんな覚悟も、その言葉で一気に揺らいだ。それほどの……衝撃だった。
「何……!?」
何故、というのが最初にわき上がった疑問だった。
アルコバレーノ。それがどのような存在であるか、知っているのがマフィア関係者なのだとしたら、ここまでの混乱は起きない。
だが、この少女の見た目は明らかにそれにはそぐわないものだった。人を見かけで判断することの危険性は承知だ。それでもリボーンには、彼の少女が単なるマフィア関係者で片付けるのは危険だという意識が働いた。
己を欺きかけるほどの術の使い手。今も痛みさえ感じるほどの鋭い殺気。
「やる気か……」
僅かな隙をも見逃さないように、注意深く少女を観察しながらの声に少女は一声で応じた。
「……殺すっ!」
少女が動くのと、リボーンが動くのと……それよりも早く。
「待つびょー! ……ギャフン!!」
2人の間に何かが、奇声をあげながら落ちてきた。
「
離れた所から2人の様子をハラハラとしながら見ていた子どもの歓声が響く。
しかし
「待って。
次いで2人の間に割って入ったのは制止の声。
その声を聞いた途端、舌打ちと共に夜薙は殺気を収めて、その存在を睨めつけた。
「妾を阻むとは、随分偉くなったものじゃのう……
それに対して、割って入った存在はその睨みに動じることなく言葉を放つ。
「種族名での呼び方……好きじゃ無い。僕には
「え? ……夜薙姫って、姫様の本名じゃ無いんですか?」
何故かここで呆けた声で割って入ったのは、後方で傍観を貫いていた子どもである。さっきまでは青ざめていたにも関わらず、よほど現れた彼らに信頼を寄せているのか、その早変わりは見ていてこちらが感心する程だ。リボーンの方は彼らを観察しつつも、ジッと聞く姿勢を貫いていた。
「阿呆か主は。妾は並盛の土地神。元の名は「並盛姫」に決まっておろうが!」
(じゃあなんで与えられた方の名前を堂々と名乗っているんだろう?)
そんな子どもの胸中の疑問は解明される事無く、彼ら三人(その内一人は参加不可)の話し合いは進んでいく。
「何しに来たのじゃ?」
「依り代の
「緊急?」
ピクリと眉をひそめる夜薙に構うことなく、千種は続けた。
「イタリアにいた後継者候補は全滅。残っているのは依り代だけ。数日以内にボンゴレは何らかの行動を起こす」
黙って彼らの会話を聞いていたリボーンは、そのあまりの情報の筒抜け具合に苦虫をかみ潰したような表情となっていた。
彼らが何者かと言うことは分からないが少年……柿本千種の言葉は正確なこちらの情報に相違ない。つまり。
(ボンゴレの情報が外部に漏れているって訳か……!)
対するリボーンから見て、彼らは未だ敵か味方かは定かでは無いが、少なくともあの夜薙と呼ばれた少女は、こと自分に強い敵意を抱いているのは確かだろう。
(いや……俺にか? それとも……アルコバレーノ?)
「そんでどーするびょん。見事に社壊しやがって。このドブス。修理するこっちの身にもなれびょん」
「嫌ならばしなければ良いでは無いか。こちらとしては一向に構わんぞ」
「……依り代の状態を損なうわけには行かない。依り代の変調が『
言い争う三者の様子を見ながら、子どもは何をすることも無く座り込んでいる。
依り代と呼ばれる子どもに音を立てずに近付いて、リボーンは語りかけていた。
「止めねぇのか?」
語りかけられた少年の方はその内容に目を丸くした。
(止める? 俺が? ……三人を!?)
「無理」
子どもはそう迷うこと無く言い放った。
断言した子どもの僅かな舌足らずな言葉に、リボーンは舌打ちしたくなった。
内容では無くその発声に対してだ。
(所々差違があって気づくのが遅れたが気のせいじゃねえ……こいつ、年の割に発達が遅れてんだ)
その原因はおそらく、明確なコミュニケーション不足だろう。敢えて名前はまだ尋ねていないが、リボーンとしてはこの子どもの正体は察しがついてにいた。
おそらくは己の探し人。最後のボンゴレ十代目候補、沢田綱吉である。
彼を匿う者達の目的は依然不明だが、言葉の端々から彼らはボンゴレの情報に聡いことも分かっている。
おそらく社で匿う夜薙、現在その彼女と言い争いをしている犬と千種の三人の上に立つ、
「……っ! ならばどこなりとも好きに行くが良い!! 妾は止めぬわっ!!」
考え込んでいたリボーンは、咄嗟に吹いた風に対応出来ずに体が浮き……。
「どうなってんだ。こりゃあ……」
気づけば数十分前に訪れていた、神社の敷地内に出ていた。
「ムキィィィ! あの女、臍曲げやがったびょん!!」
地団駄を踏みながら怒りを吐き散らす声に改めて辺りを見回すと、この場所にいるのはこの社の主と言っていた彼女と争っていた、二人の少年と、おそらく沢田綱吉と思われる子ども。……つまり。
「あの女以外の全員をはじき出してやがんのか……」
しかし庇護する存在まで纏めて出すとは……ほんの少しだけ彼女の危機管理能力に疑問を持ったリボーンであった。
「……とりあえず寝床確保。あの様子じゃあ、朝まで時間を空けてから宥めた方がまだ成功率は上がる」
地団駄を踏む連れとは対照的に、さして慌てる様子も無く、現状を分析する少年……千種の方は、明らかに慣れている感じがする。
「あぁいう臍の曲げ方はよくすんのか?」
答えるなら良し、答えずとも何らかの反応は見られるだろうと、リボーンは予測したものの、結果は完全な無表情だった。
「うっせぇ! ボンゴレの犬が! テメェにゃあ関係ねぇびょん!!」
彼とは逆に、ガラリと表情を変えてきたのはさっきまで地団駄を踏んでいた連れの方だ。
「……犬。うるさい」
犬と呼ばれた少年はその声にピタリと口答えを止める。しかしその眼はどこまでもこちらに対して苦々しいものだ。嫌われていることは間違いないだろう。
(その対象は、俺個人というよりも、アルコバレーノ全体って事なのが引っかかるが?)
可能性として思い当たるのが、同胞の誰かが、彼らと若しくは彼らの後ろにいる者と悶着を起こしているというもの。それの巻き添えで始めから印象が底辺とは、何とも幸先が悪いスタートではあるが。
「無礼は詫びる。悪気は少ない」
そこでないと言い切らない辺り正直なのか喧嘩を売っているのか、何ともわからない言い方をする相手に、リボーンはやりにくさを感じていた。
いやそれも彼らの手の内なのだろうが。
(気に入らねぇな。この現状は……)
明らかにあちら側に主導権がある。
沢田綱吉と思われる子どもを匿っている以上、向こう側に分がある事は勿論だが、それ以上にこちらの内情を熟知しているのである。
(……まさか、こいつら)
熟考の中で、リボーンが行き着いたのは何とも嫌な可能性だ。しかしあり得ない事では無い。彼らの後ろにいるのが個人ではなく、組織であれば尚更。
(もし奴らの最終目的が沢田綱吉を傀儡としてボンゴレ十代目を継がせるってものなら、イタリアにいる候補者達の死因も奴らが関わっている可能性も有る)
そう、リボーンが行き着いた考えとは、この状況に陥る原因、全てが。
(……奴らの企てたもの、という可能性も……!!)
沢田奈々の事故。ボンゴレ十代目候補者の殺害。そして……。
(出来ないほどじゃなかったら? 現に考えてみても、ここまでボンゴレの情報に聡い組織の心当たりさえ、俺にはねぇ……)
彼らの上にいる人物、鬼罹なるものがボスなのか、はたまた幹部の一人かさえ。
(鬼罹……
ふとそこで、リボーンは、違和感を覚えた。
(偶然、か?)
「敵と思われるのは……本意じゃない」
まるで読心術でも使ったかのようなタイミングで割りこんできた声に、リボーンは、視線を向けた。
見ると、沢田綱吉(予測)と、犬という男は、いつ見つけたのか、俺の放置していたコーヒーのセットを降ろして、何故か荷物の中身を物色していた。
「柿ピー。ダメびょん! こいつ、飲みもんしか入れてねぇ! コーヒーと、紅茶しか入ってねぇびょん!」
「そう……緑茶が良かったんだけど、仕方ないね」
しかも会話の内容を聞く限り、明らかに飲む気満々である。
「テメェら何やってんだ?」
しかし、さっきまでの緊迫した空気からのあまりの変容ぶりに、思わずリボーンは突っ込んでいた。
「……何って、腹ごしらえらけど?」
見て分かんねぇのかと、犬が睨みをきかせる中、綱吉(予測)も、勝手知ったるとばかりに、リボーンの鞄の中身を漁っている。
「やっぱり無いですよ。犬さん……あれ? 手紙だ」
かさりと、綱吉(予測)が手に取ったのは、九代目からの死炎状。
「おい!」
僅かな殺気を帯びた声で、制止をかけると、綱吉(予測)だけで無く、犬とやらもピタリと動きを止めた。
「……話が進まない」
そう溜息をつく彼は、良くも悪くもここでは長の役割を担うのだろう。
彼らの上下関係を大まかに把握できたリボーンのよそに、少年は二人を呼んでいた。
「犬。依り代。下まで行って食べ物買って来て」
「千種さん!?」
「えぇっ! こいつと!?」
暗にここから離れていろと指示を下した少年……千種に対して、二人の反応は悪い。
「ちょっと待って下さい! 町って……大丈夫なんですか!?
しかしあからさまな嫌悪の表情を浮かべた犬とは異なり、綱吉(予測)の表情には不安の色は色濃く浮かんでいた。
リボーンにはその理由は分からなかったが、千種の方はわかっているのだろう。
言い聞かせるように続ける。
「心配要らない。奴らは大概昼には動かないし、それで動くような小物程度なら、犬一人で十分払える弱さ」
その言葉を目敏く聞きつけて、すぐさま犬は牙を剥く。
「待てっつの柿ピー! どういう意味ら?!」
「そのまま」
素っ気なく受け流す千種に、唸りながらも犬はそれ以上は噛みつきはしない。一方まだ不安の色は濃いが、彼らの言葉で安堵はできたのか、子どもも力なく頷いた。
「それにこれからのことを考えれば……外には慣れた方が良い」
囁くように続けた千種が意味ありげに見たのはリボーンで。
「ちっ! 追い出せば良いんら! そんな奴!!」
けっと、気にくわない様子も隠しもしない犬に、顔を顰めながらも、千種は首を振っていた。
「そう言うわけには行かない。ボンゴレに何かあったら、こっちも困る」
階段を降りていく二人を並んで見送るという、何とも現状の関係ではおかしな行動をしたリボーンと、千種は一先ず一息いれようと、リボーンが所持していたコーヒーを入れていた。
「テメェらは敵じゃねぇのか」
間怠っこしい事を不得手とするリボーンが、最初に口を開く。
そろそろ主導権を取り戻したいという狙いもあった。
「違う」
簡潔に言葉を放った千種は、やや間を置いてから、言葉を補った。
「少なくとも、ボンゴレに
「呪い?」
何とも非現実的な言い回しに、千種は平然と頷いた。
「
淀みなく出て来る言葉から、おそらく調べさせたのは随分前なのではないかと思われる。
少なくとも、ほんの数日では、ここまでの情報は出ないだろう。
「テメェら……そこまでわかっていて、何故本部に何も報告しねぇ……同盟関係にあるんじゃねぇのか!?」
「同盟?」
リボーンの微かな毒づきに対して、僅かに眉を寄せただけで、千種の言葉は素っ気ない。
「違うよ。そんなものを結ぶ利益もない。敵じゃないという言葉だけで、味方と決めつけるのは早計じゃない? 黄のアルコバレーノ」
「…………」
挑発混じりの言葉の入ったそれにリボーンは、沈黙で答える。色まで当てられたことには驚きは見せない。
アルコバレーノという言葉を知っている時点で、彼らはマフィア関係者。そう出なくても、それに近しいものとはわかっていたし、夜薙姫とやらが、あそこまで怒りを見せる程、同胞の誰かが怨みを買っている可能性がある。その当人に詳しい事情を聞いた可能性はゼロではなかった。
(しかし、現地にいる奴か……思った以上に数がいる可能性があるな)
ここにいる、三人だけではないと思っていたが、連絡を受けてこの国の外で活動できる諜報部隊……しかもボンゴレとは、非同盟関係に有るということは、場所の特定以前に、三人の後継者候補の特定についても単独で調べた可能性が出てくる。
(どんだけ規模のでけぇ組織なんだ……)
それほどの存在でありながら、こちらの情報には一切かかっていないのだ。不気味としか言いようがない。
「じゃあテメェらは、なんで沢田綱吉を匿っている? ボンゴレに対する何かを企てているんじゃねぇのか……?」
気を取り直して鎌をかけるも、千種が動じる様子はない。どころか、呆れたように溜息をつく仕草までする始末である。
「先走りにも程がある。依り代がボンゴレの血縁だったのはこちらも予想外だった。……最初にこれを知った幹部達は皆、あまりの人選に呆れていたけど」
(幹部……たち……!)
更に投下された爆弾に、リボーンは、分の悪さを感じざるを得ない。
複数の幹部。有象無象のものではないとは思ったが、明らかに小規模な組織ではないだろう。
(ここからイタリアにまで幅をきかせて……しかも尻尾はまるで掴ませねぇ……存在さえも感じさせねぇとは)
「テメェらは……一体何もんだ……!」
会話だけを追えば、随分と飛躍した問いかけだっただろう。しかし千種は動じることもなく、薄笑いさえ浮かべていた。
あたかも、リボーンの心中は全て知っているというように。
圧倒的に向こうが有利であるのを自覚しつつ、リボーンは、その答を待つ。千種も湯気を発する薬缶から目を離し、口を開こうとしたとき。
《ワンワン! キャンキャン! ワオーン!》
犬の鳴き声が、響いた。
「犬? こんな所にか?」
リボーンは疑念を抱いて辺りを見回す。確かにここは人里に近いが、それでも山の中腹である。
散歩コースにするには少しばかり不釣り合いだが……。
「なに?」
そこで千種が平然と取り出したのはスマホだった。どうやらあれは着信音だったらしい。
(待て……犬? まさか相手は……)
「一大事びょん! 千種っ!! 依り代がやられた!!」
その声がスマホから流れたとき、リボーンはらしくもなく混乱した。
次々と湧き出てくる彼らへの疑惑と合わさり、まともな判断が出来なりなりつつあることに危機感を感じ得ない。
「落ち着いて、犬。誰にやられたの?」
淡々と言葉を紡ぐ千種の様子に、全てが仕組まれているのではないか。そう疑念を膨らませたとき。
「人混みに! やられたびょん!! 目眩がするって! 倒れ込んだびょん!!」
「「…………」」
何とも言えな脱力感を覚えながら、リボーンは、腰を抜かしていた。
それは千種も同様だったのだろう。さっきまで、緊迫した空気の中に身を置いていたからこそ、余計にである。
「……知らない。頑張って」
結果として、彼が選んだのは助けを求めた同胞を見殺しにする行為以外の何物でもなかった。
通話を切り、そのままスマホの電源をおとしたのである。
「良いのか?」
完全に着信を拒絶する、その加減のない仕打ちに、思わず問いかけるも、千種の答はにべもない。
「こうしないと何度でもかけてくるから」
めんどうと、最後に声が漏れる。
「……とりあえず入れるぞ」
そう言ってリボーンは、すっかり沸騰しきった薬缶を火の元から降ろした。
「改めて、名乗った方が良いな」
向かい合ってコーヒーを飲んでいたリボーンは、己がまだ、綱吉であろう子ども以外の前ではまともに名乗っていなかったことに漸く気づいた。
しかしあの様子ではあの子どもの方も、己の言葉をしっかりと覚えているかは期待できないだろうが。
「俺はヒットマンのリボーン。ボンゴレ九代目から依頼を受けて、沢田綱吉を立派なボンゴレ十代目にするためにきた」
「……予想は出来てる」
返された言葉に、リボーンも驚きはない。
情報戦においては完全に後手に回っている。それは肯定せざるをえなかった。
「僕は柿本千種。それ以上は、今は言えない」
その言葉も、予想はしていたが、内心溜息を零したくなる。情報を開示させるだけの信頼はない。それは、分かっているが、これではこちらの依頼にも支障は出るだろう。確実に。
「一日、時間が欲しい」
一朝一夕には解決できる問題ではないと思っていたからこそ、その言葉に瞠目した。
千種は眼鏡を弄りながら続ける。
「夜のうちに、鬼罹に指示を仰ぐ。
「
再び出てきた言葉に、リボーンは聞き返した。それに対しては、独断で話しても良いものなのか、千種は微かな笑みを浮かべて続けた。
「
それっきり、彼は口を閉ざす。
後に残るのは、鳥の鳴き声一つ無い、静寂だけだった。
さてさて、いくつか投げ込みましたが、色々な伏線の回収は早めにしたいなぁとは思います。あくまで願望で。
次は早めに上げたいとは思いますが、どうなるかはまだ未定です。
それではここまで読了ありがとうございました。