どうもお久しぶりです。雪宮春夏です。
この度漸く再起動(?)しました。
ゆっくりとではありますが、この調子で更新再開していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。
序譚 早起きは三文の徳
黄色のおしゃぶりを持つ赤ん坊……「世界最強の殺し屋」と呼ばれるリボーンの近頃の朝は。
「……ったく、起きろ! バカツナ!!」
不出来な弟子を、蹴り起こす所から始まる。
「あ! ……痛っ……!!」
ドゲシッと、何とも景気の良さそうな音を放った弟子の頭は、リボーンの土踏まずに見事にフィットしていた。
その衝撃は、覚醒には十分だったようで、二、三度揺れた布団は、自発的にべしと取り除かれる。
「うぅっ……何だ。リボーンか……」
布団から出てきたのは酷い寝癖のついたボサボサの茶髪。
まだ眠気が残るのか、半開きな瞳が、シパシパと、忙しなく瞬きを繰り返している。
「何だとは何だ。この俺様に対して、随分上から目線じゃねえか?」
剣呑な雰囲気を帯びた声を発した事で漸く目の前のバカ弟子は己の失言に気づいたらしい。顔を青ざめて言い繕い始めた。
「しょうもねぇ事に時間使っている暇ねぇぞ。今が何時かまだ分かってねぇのか?」
あまりにもしつこいその弁明に焦れて、リボーンは言葉と共に彼の枕元にあった置き時計を彼の顔面にぶち当てた。
その結果は彼の悲鳴とドシンと、彼が衝撃を受けて倒れる音を聞けば自ずと分かるという物だ。
「今、は……はぁぁぁっ!!?」
置き時計をマジマジと見て……漸く己の置かれている状況がまずいことは理解したのだろう。先刻までのゆったりとした様子はどこへやら、体内にバネでも仕込んでいるのかと問いたいほどの速度で起き上がり、布団を大雑把に畳み、収納スペースである床下へ押し込み、それと取り替えるようにその中にあった着替えを取り出し、大慌てで着付けていく。
それを眺めながら、リボーンはつい数週間前から面倒を見始めたこのバカ弟子……沢田綱吉の事を思い返していた。
この少年、沢田綱吉とリボーンが出会ったのは、そもそもリボーンが個人的に懇意にしていた、とあるボスからの、
リボーンの一番有名な肩書きは、確かに「世界最強の殺し屋」だが、彼の持つ二つ名はそれだけではない。
他にも有名な物の中で「超一流の家庭教師」というものである。
元々は刺激の少ない生活の中で、刺激的な何かを得んが為に始めた副業と言っても良かったが、様々な分野の学問、多くのスキルを持つリボーンに教えられないものは無く、結果として彼に師事した者達が呼び始めたことが始まりだったように感じる。
これは、リボーン自身が大昔に教わった言葉であったが、簡潔に説明するならば、これが一番妥当であろう。
即ち「優れた殺し屋は
ありきたりな言い方であるが、真理である。
「殺し屋」として、優れるほど、その依頼内容は難易度を上げていき、出来ない、ということがそのまま己の命に直結する可能性が生まれる。
その中で生き残る為には、自然とこのような現状となると言うことである。
話を戻せば、「超一流の家庭教師」であるリボーンに依頼されたのは、「次代のボスとなる人物への教育」であった。依頼してきたのは、イタリアの中では最強と呼ばれるマフィア界の頂点に立つイタリアンマフィア、ボンゴレファミリー。その当代ボスである、ボンゴレ
既に高齢の域に有った彼は、幾人かいる後継者候補の中から、後継者を選抜しようとしていた。
しかし、この数年の間に有力視されていた後継者達は、次々と、不幸に襲われ、残ったのは当時消息不明となっていたこの沢田綱吉だけであったのだ。
沢田綱吉が消息不明となったのは、今から五、六年ばかり前。
当時母親である沢田奈々と共に並盛の一軒家で暮らしていた彼だが、母親の奈々がある事故で生死の境を彷徨い、それと共に行方が分からなくなってしまったのである。
一時期は、父親である沢田家光が生存を確認するも、その際、家光が綱吉に害をなそうとする行動を取ってしまい、恐怖心を抱かれ、逃亡。
それ以降、ボンゴレファミリーの総力を持ってしても、見つけることは出来なかった。
しかし、ボンゴレボスに代々備わる能力「ブラッド・オブ・ボンゴレ」の超直感によって、死んでいないと言うことだけは分かっていた
「姫様!
この部屋にあるただ一つの出入口、そこに準備を整えた綱吉が立って声をかけると、音も無くそこが開いた。
一も二も無く飛び込む綱吉を追いかけるように、リボーンもまた、そこを潜る。
「……時間、大丈夫?」
あまり表情が変わらない。周りからそう評される事を自覚しながらも、心配を滲ませた声に、駆け足で入ってきた子ども……自分達が守護してきた
「あんまり、無い。でもごはんは貰うよ! ありがとう、
千種、と呼ばれた声に、言葉を返さず頷く。
依代の方はそれで十分なのか、微笑を浮かべてから……己に迫る時間という危険を思いだしたのか、忙しなく食事に手を付け始める。
「いつも俺の分もすまねぇな。
依り代の傍らに立ち、用意されていた茶碗を手にするのは、依代をボスに育てるためにボンゴレから派遣された晴のアルコバレーノ。
「別に。依代の食事を用意することを考えれば。手間は同じ」
言葉はかけるものの、その返しは素っ気ない。その自覚はあるが、千種にとっては彼が「アルコバレーノ」と言うだけで、それが依代である子どもの……彼を依代としている自分達の主の助けになれないのならば、今すぐ叩きだす……最悪、殺してもいい位には思っている相手であった。
「それでも、だぞ。ありがとな」
そんなこちらの内情は分かっているだろうに、ニヒルな笑いを浮かべながら、箸を操る赤ん坊の姿は中々様になっている。
そんな彼らのやりとりに、心なしか微笑んでいた依代を、アルコバレーノは容赦なく箸でど突いた。
「何ヘラヘラ笑ってやがるバカツナ。お前にそんな余裕はあったのか?」
ど突かれた額を抑えながらも、アルコバレーノの言葉で現実を思いだしたのか、心なしかペースを上げて、依代は食事を再開する。チラリと部屋に置かれた「外」の時間に合わせた時計を見ると、いつもの時間よりも10分ばかり遅い。
「……別に遅刻しても、行かなくても、こちらは一向に構わないけどね」
暗に、だから焦る必要は無いと言葉を含めてみるも、それは伝わっていないのか、若しくは進んで行きたいと思っているのかは分からないが、フルフルと首を横に振り、依代は否定してくる。
「おめぇ等が許しても、俺は許さねぇぞ。……それに、こいつの中にいる奴だって、外に出た方が刺激がある分、活発化しやすい。違ぇか? 千種」
その一瞬、千種とリボーンの間に、不可視の火花が迸った。
それを誰よりも敏感に感じ取ったのは間にいた依代こと、沢田綱吉本人だけだっただろう。
「ご! ……ごちそうさま! 行ってきます!! リボーンっ!!」
行くぞと、彼から発せられた無言の催促。それに明確に受け取ったリボーンは、その応答に答えるかのように教え子の肩に飛び乗る。
これが、この場所の朝の風景。ザザッと、生暖かい風が吹き抜けた瞬間、沢田綱吉は目を閉ざしていた。
「お早うございます! 十代目!!」
「よっす! ツナ!!」
突如吹き付けた風が止んだ途端、見えた姿にほとんど条件反射で声をかければ、やや間を開けて同じように立っていた、自称、彼の右腕と見事なほどに被ってしまっていた。
同時に放たれた声に、否応なしにこちらの存在を自覚したのか、自称右腕……獄寺は鋭い視線をこちらに向ける。
それでツナが、話しかけると直ぐさま態度が一変するのだから、何とも可愛らしい事だ。現に今も……。
「任せて下さい! 十代目!! 不肖この獄寺隼人。十代目の御為ならばたとえどれほどの時間がかかろうがここで立ち続けてみせます!!」
まるで主人を待つ忠犬。それによく似た空気を言われた当人も感じたのか、大慌てで「早く学校へ行こう!」と言葉を濁す。
「そうだぜ? 獄寺。ツナが迷惑がってんだろ?」
歩き出す彼の傍らまで早足で歩き、何でも無い風で肩に腕を乗せる。そんな気安い態度を取れば、話題の相手が激昂すると知っていながら。
「てっめぇ! 気安く触んじゃねぇ!!」
「あっははは。やっぱ面白ぇな。獄寺は!」
「ふっ二人とも! 早く行こうってば!!」
こちらが笑えば、ガルルルルと唸りそうな形相で、こちらを睨む獄寺と。そんな自分達をオロオロと見比べながら、懸命に話題を逸らそうとする親友の姿。
それがここ最近の、俺の日常。
時間内に教室にたどり着けて、漸く十代目は一息つけたらしい。入った途端に着いた己の席で、ゆっくりと息を吐き出しておられた。
尊敬するリボーンさん曰く、十代目は「外」……十代目を庇護する者達が集う「住処」と、ここ並中以外の場所では終始気を抜くことが出来ないのだという。
ことは今から数年前、春の終わりのある夜の事から始まったのだそうだ。
リボーンさんもよくは知らないようだが、今から六年前の春の終わり頃。並盛町から離れた都内のある街に、十代目は家族で夜桜見物へ行ったらしい。
そしてその帰り道で、十代目はある妖怪の依代となったのだ。
その妖怪こそが、十代目を庇護する者達が主と慕う相手。そして、十代目の母上様をはじめ、多くの一般人を巻き込んでしまう十代目の周囲で起きる事故……それを起こし、十代目を弑そうとする、十代目を狙う妖怪達が、本来の獲物として狙っている相手でもある。
更にリボーンさんの話では、その妖怪は、マフィア界の謎にも、深く関わっている、かもしれないらしい。
そのところは、目下捜査中なのだそうで、何か分かれば連絡をくれると言うことだ。
(
しかしそれ以降、彼らへ知らされた情報は無い。
それはリボーンさんの元でとめられているのか、若しくはリボーンさんも情報を得られないのか。それは現状では分からないが。
「お早う。ツナ君!」
今までのことをつらつらと考えていた獄寺は、授業が始まる少し前の時間で、彼の十代目、沢田綱吉に近付く存在に気づいた。
「京子ちゃん!」
その直後、十代目の周りに花が咲いた。
……実際に、周囲に花が咲くわけでは無いが、そのように感じてしまうほど、十代目の表情が一変したのだ。
物憂げな表情から生来の明るい表情へ、もしこれが演技ならばかなりの化けっぷりである。
「相変わらずなのなぁ」
聞こえた声に視線を向ければいつの間にか傍らにいけ好かない野球バカがいた。
十代目は笹川京子と独特な空気を形成しているので、いくらこの男が空気が読めない野球バカでも、割って入ろうと言う気は無いらしい。
「どう見たって両思いに見えんのに、ツナは笹川の事何とも思っていないんだって?」
「あぁ。そうらしいな」
最も獄寺からすれば、その言葉は「何とも思わないようにしている」が正しいだろう。
十代目は愚かでは無い。
依代となったことで、己の身に降りかかっている他者からの悪意ある事故の数々に僅か七つで気づかれたお方だ。
それからリボーンさんが来るまでの六年あまり、住処を一歩も出ない。……そうすることで無関係な人間を傷つける事の無いようにしようという強靱な意志を持つお方でもある。
ほんの僅かな好意でも向ければ、その相手が奴らの標的にされると言うことも当然理解してしまっているのだろう。
そして、リボーンさんに死ぬ気弾を撃たれなければ、狙われた相手を守る力すら持たない己の力量も分かっている。
だからこそ……「何とも思っていない」のだ。
(全く……やんなるぜ)
それらを全て分かってしまったからこそ、獄寺はあの二人を見る度に少しだけ己の無力感に向き合ってしまう。
好いているはずの相手と共にいること。
そんな主の願い一つ叶えられないで、何のための「右腕」なのかと。
「……んな思い詰めんなよ? 獄寺」
黙り込んだ獄寺から何かを感じたのか、珍しく野球バカが、脳天気で無い声で語りかけてくる。
「余計なお世話だ」
すげなく野球バカを追っ払ったところでチャイムが鳴る。
こうして、俺達の一日が始まる。
「優れた殺し屋は……」。この一文はある漫画作品からの引用になります。
まぁ、作品知っている人から見れば有名な一文ですのでおそらく気づいていると思いますが。
基本的に日常編部分は必要最低限以外はとばすつもりです。
それでもよろしければこれからも宜しくお願いします。